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レイが愛人に平然と子供の中絶を要求した時点ですでに薄ら寒い思いがしていたのだが、直後に怒り出した愛人に刺激を受けて新曲を発想、「その怒りを忘れないで」とそのまま歌わせたのには心底ぞっとした。観客を怖がらせようとする演出ではなかったが、あきらかにまともな人間の発想ではない。胎児の命には何の執着もなく、傷ついて怒りを露にする愛人の気持ちを察するよりもまず、音楽をとる。あの修羅場で平気で鍵盤を叩き出す神経には空恐ろしいものを感じた。奥さんがレイを説得する場面は感動すべきところなのだろうが、このときも何気なく「家族よりも音楽を愛している」という真実が語られている。どの分野でも天才と呼ばれる人々は、才能と引き換えに大きな犠牲を払っている。普通の人にはないものを持ち、普通の人にはあるものが欠けている。空高く飛べる分、地上を歩くのは下手糞だ。トラウマを絡めてヒューマンドラマに仕立てようとしたのは却って蛇足だったかもしれない(回復の場面は陳腐だ)。"音楽の神様"が"神様"たるためにいかに"人間"を犠牲にしていたのかということを知った。
【no one】さん [DVD(字幕)] 7点(2005-12-21 17:30:44)(良:1票)
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