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《ネタバレ》 殺人という任務に疲れきったイスラエル諜報部の主人公と、彼らの国による暴虐のために生まれた美しい女テロリスト、そしてベトナムで精神を病んで母国に裏切られたかつての英雄。この影のある正義の味方と人間味のある悪役たちの造形が、わかりやすい娯楽作と一線を画す深みを与えている。犯罪者側に肩入れしてしまうという点では『ジャッカルの日』以上で、作戦に失敗の兆しが見えると思わず歯噛みをしてしまったくらいだ。
トマス・ハリスは荒唐無稽にならないぎりぎりのリアルに踏みとどまるのが上手な作家だが、その長所は本作でも最大限に発揮されている。とくにあのダーツを利用した究極兵器は奇妙だが、なさそうでありそうな不思議な現実味を持って観るものの記憶に刻みつけられる。 ベキム・フェーミュ演じるテロリストたちのボスとの銃撃戦は本筋とは直接関係していないのだが、この場面が本作を傑作たらしめているのだと思う。カットしても本筋には影響のないエピソードが入ることで世界観に奥行きが出ているし、圧倒的に不利な状況に置かれても不屈の意志と天才的な技術で捜査側に壊滅的なダメージを与えるテロリストの存在感は強烈だ。捜査側の不手際と敵側の有能さが対照的に描かれ、ここでもまた単純なヒーロー対テロリストの図式を微妙に崩している。この点、現在のハリウッド映画の幼稚なアメリカンヒーローとは別物だ。 唯一惜しいのはクライマックスで、急激に動的になる映像に興奮できればよかったのだが、現在ではありがちなアクションに感じてしまった(たぶん公開当時であれば楽しめただろう)。おまけに爽快なラストシーンがそれまでの展開とはちょっと不釣合いで、なぜこんなふうに料理したのかと疑問が残った。結末にもう少し苦味があれば(たとえばテロリストたちの生き様を偲ばせる場面を入れるとか…)『ジャッカルの日』にも負けない大傑作になっていたと思う。 【no one】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2006-03-03 13:28:18)(良:1票)
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