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《ネタバレ》 デヴィッド・リンチに『ぼくは怖くない』の舞台を与えたらこんな映画を撮るんじゃないだろうか。一面の小麦畑に囲まれた風景は美しいが、『ぼくは…』のように陽光を受けた穂がきらきらと光るような爽快感は一片もなく、むしろ逃げ場のない孤絶した雰囲気、寂しく陰鬱な光景にしか見えない。
大人たちはみんなどこか歪んでいて、主人公のセスもまた彼らの影響を受けてか否応なく間違っていく。神経質でヒステリックな母親、気弱な負け犬の父親、夫の死に正気を失っている近所の中年女。一番まともなのは主人公の大好きな兄だが、彼もまた核実験の後遺症を抱えている。 状況はすでに絶望的なのだが、主人公の幼い愚かさがやがて悪夢のような結末を招く。最後の最後になって自分の妄想を悟った少年の心は、決定的に壊れてしまう。幼さゆえに犯した罪には、本当は致し方ない部分もあるはずなのだが、彼がそれを一生背負っていくことは間違いない。そしてその重みに耐えられないであろうことも。 暗鬱な物語だった。最初から希望らしい希望も与えられず、登場人物たちの転落は必然的、運命的であったように思える。格調高い音楽と映像は宗教的ですらあり、人間の抱える醜さや愚かしさ、大げさな言い方をすれば原罪とでもいうべきものを突きつけるようでもあった。 意味不明でシュールな味付けはなくてもよかったんじゃないかと思ったが、それを差し引いても充分傑作であると思う。 【no one】さん [ビデオ(字幕)] 8点(2006-03-17 16:34:04)
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