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デビッド・リンチの映画ってちらっと映像を観ただけで誰が作ったかすぐにわかってしまう。なんともいえない暗鬱さと、艶っぽさ。それこそブルーベルベットの色彩に似ているかもしれない。悪趣味と高級さの中間にある、光沢のある紫色。昼間の映像でもどこか夜の暗闇を孕んでいるかのような不穏さがある。 幕開けの庭で水撒きをしている男が倒れる場面から、上手いなあと唸らさせられた。飼い主の異常な状態に気づかずにホースから水を飲み続ける犬、とてとてと歩いてくる何もわからない赤ん坊、突然どアップになる虫たちと、その蠢く音。嫌な感じだ。ただ人が倒れるだけの場面で、ここまで嫌な気持ちにさせることができるのはリンチくらいだ。 脚本はわかりやすいという声も多いが、それは監督がリンチである割には、という意味であって、これが普通の監督だったら「なにあれ?」という場面がいくつもある。題材とされる犯罪はたいして複雑なものではなく、ミステリー的な驚きはほとんどない。にもかかわらず、裏で行われている犯罪が示唆されるだけで普通に画面上で進行せず、観客には隠されている。麻薬関係のいざこざは現場がちらりと映るだけ、フランクという男の不可解な言動には一切の説明なし。車を走らせた先には傷だらけの裸の女が唐突に立っているし、アパートのドアを開けると立ったまま死んでいる男がいる。何が起きたか、は想像するしかない。事情はなんとなく想像がつかないわけでもないが、かといってわかりやすく見せてくれるわけでもない。このじらし方、触るか触らないかの微妙な手つきで肌を撫ぜられているような気持ちの悪さ。嫌な感じがするのは確かなのに、半端に隠されているために観客もつい「なになに?」と覗きたくなってしまうのだ。好奇心で危険に顔を突っ込んでしまう主人公のように。 地味な話だが、観る者を引き込む異様な空気の作り方にはやっぱりすごいものがある。ごく普通の風景ですら、リンチの手にかかればかすかに死の香りが漂っている。
【no one】さん [DVD(字幕)] 6点(2005-11-29 03:24:38)
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