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多少古びた感はあるにしても、やはり非常に見ごたえがある作品だった。暗殺者をあぶりだすために数百人の人質が取られ、もくろみが失敗すれば関係者全員が銃殺されることを前提に物語が進む。政治がらみとはいえ、ここまで酷薄で重厚な雰囲気のサスペンス映画も珍しい。
味方であるはずのチェコ人たちには、敵役のナチスほどではないにせよ空恐ろしさを感じた。密告屋らしい人物がいるとわかるとたちまち集まってきて、しまいにはリンチに発展しそうになる場面は生々しい。一人の暗殺者を守るために四百人の人質を死なせるという決断にほぼ全員がためらわずに賛成するのにも驚いた。 誇りを失うくらいなら命をも捨てる彼らに、戦時中に一億総玉砕を叫んだ日本人の姿が重なって見える。このような価値観を一概に否定すべきではないのかもしれないが、もし自分が暗殺者だったら自首したであろうことは確かだ。彼らの不屈の意志をテーマにした歌には完全に引いてしまった。 大戦直後のドイツを舞台とした小説で、ユダヤ人の子供たちが徒党を組んでドイツ人の子供を蛆虫と歌う場面があったのを思い出した。感情的になった集団はどんな行為をも正当化する。フリッツ・ラング監督がドイツ人であることを差し引いても、彼の群集心理に対する洞察力は否定できないと思う。 そして何より、小難しいことを言わなくても、単純に娯楽作として優れているというのが素晴らしい。もっとも、クライマックスもまた形を変えたリンチなのだが…… 【no one】さん [ビデオ(字幕)] 7点(2006-02-28 09:50:22)(良:1票)
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