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《ネタバレ》 スピルバーグが『リンカーン』で奴隷制を廃止する憲法修正13条を成立させるまでのドラマを濃厚な政治描写で描いたけれど、今回は差別を禁止する1964年公民権法を制定するまでのジョンソン大統領の苦闘を描くとして、政治ドラマ的な期待をもってみたら、まったくもっての外れでした。序盤から、CNNの追悼ドキュメンタリーあたりで使われそうな、いい話風のBGMがやたら流れていて嫌な予感はしていたのですが、政治劇というよりは、ドラマの大半はケネディ暗殺前後に絞られ、「日陰」にいたジョンソンがいかに大統領としてケネディの遺志を継いだのかという部分に絞られています。だいたい97分という、政治もの、歴史ものとしては極端に短い尺からしても、本来なら複雑な政治劇にしようとしたところ、小難しくなるのを嫌ったスタジオの圧力で単純化させられたんだろうなあというのは容易に想像できる。それでも、ケネディ兄弟と南部実力者のあいだの「中間管理職」的な政治家というポジションとして、ジョンソンを描いたのは、さすがはベテラン監督のロブ・ライナーらしい「落としどころ」でした。とくに、南部の重鎮議員のラッセルとの関係と確執は本作でももっとも緊張感にあふれた名シーンの連続でした。ただ、その緊張感ある構図もケネディ暗殺までしか持たず、その後は、ジョンソンのちょっといい演説で法案成立というのは、ある意味、それまでのジョンソンの政治キャリアを否定するような描写だったと思う。彼の真骨頂は、ケネディのような若々しさや印象深い演説ではなく、議会であの手この手で賛同者を増やし、票を積み重ねるプロセスにあったはずで、そっちをすっとばして演説一発、あとはナレーションで解決、というのは法案成立の歴史的過程とも本作のテーマともあってなかったと思うし、何より政治家としてジョンソンにフォーカスを当てた意味がまるでなくなってしまった。
【ころりさん】さん [CS・衛星(字幕なし「原語」)] 5点(2020-04-26 10:51:51)
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