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街中を歩く主人公たちの後景では、様々な人々が往来している。実写でいうところのパン・フォーカスであり、そこでは物語とは直接的に関わることのない市井の一人一人が驚くべき細かさで描き分けられている。予算上・技術上・手間の問題から最も省略されがちなこうした「その他大勢の生物たち」のアクションにこの映画はひたすら拘りぬく。そうした手間をかけた動画だからこそ、映画最初期の「リュミエール工場の出口」の1ショットが捉えたような、世界を構成する豊かな要素(煙、風、雲、光、影、仕草)に気付かせてくれる。テレビアニメの功罪によって本来最も肝要であるべき動画の豊かさが軽視されてきた流れの中でこれほど徹底して人間の基本動作を高度にアニメートした作品は稀だ。劇中で「歩く」ことの大切さが語られるが、この映画は終始、様々な人々の様々な歩行・登行のアニメーションにもこだわりを見せる。それも一般的に枚数節約のために用いるリピート動画ではなく、その一歩一歩をこの映画は手抜き無く描く。終盤で、生きている大切な火を移動させるためにバランスを取りながら階段を慎重に下りるヒロインの動き、重い材木を懸命に運ぶ動きなどは絶品の職人技だ。「活き活きと人が歩く」それだけで映画が感動的足り得ることを最初期の映画やヌーヴェルバーグの映画群と共に宮崎映画は証明する。宮崎駿は「ストーリー・テーマ最重視、動画最軽視」が主流の業界の中でのあくまで「アンチ」として位置する。前作「千と千尋~」にも連なる明快なメッセージは、不可解なもの・異質なものに対して「わからない」と拒絶し他人に責任を押し付けることなく、その世界を受け入れ、順応し、積極性を発揮していくヒロイン像に打ち出されているはずである。
【ユーカラ】さん [映画館(邦画)] 9点(2008-07-23 22:49:50)
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