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例の銅版画風タッチはやや控え目ながら、すっとぼけた語り口の妙には、やはり乗せられてしまう。一つの都市ごと彗星の引力に引っ張られて移ってしまうという設定からして、そうとうオカシイ。バラバラになって吸い上げられた建物が、また順番に積み上がっていくのが傑作。そのまま日常生活が何となく続いてしまうのがオオラカでよろしい。なんでも原作では女性を巡る二人の男の争いが話の中心になっているらしいが、それが映画では国家の争いに拡大され、そのぶん人間の演じる愚行に対するおかしみは倍化された。植民地支配を正当化したがる者に向けられた、東欧の視点。進化して後ろ足で歩いている魚がやがてイノシシになっていく。火星が近づいて世界の終わりになるというときに、一時的にユートピアが訪れるというあたりの風刺。海蛇の胴体がうねうねと続いているシーンの静かな美しさは、彗星に吸い上げられるシーンの激しい美しさと好対照。この人の奥行きのない世界は、影絵の世界に近いのではないか。崖から主人公が落ちるとことか、城壁からロープでヒロインを下ろしていくシーンなんか、影絵の雰囲気。一枚の絵葉書にすべてが還元していく締めくくりで、変なところもすべて納得してしまう。
【なんのかんの】さん [映画館(字幕)] 7点(2010-05-19 11:59:50)
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