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《ネタバレ》 スランプに落ち入っていた芸術家が生涯の大作を完成させるまでの過程を、カメラが観察し続けていく。それはさながら、氷結していた河がゆっくりと解け出して再び怒涛の流れを起こすまでを、ずっと見守っているような興奮に似たものがある。動きそのものよりも、作動するときの時間のうねりにこそ感動があるらしいのだ。冒頭で画家が落ち入っているスランプは、それなりに安定した生活でもある。芸術家としての焦りさえなければ、安定した夫婦の関係と重なっていて、普通の夫婦ならこれが理想の生活なのである。しかしその穏やかさからは芸術が生まれてこない。そこで若い娘マリアンヌがモデルとして入り込んでくる。安定していたこの家の空気が、創作のほうへ傾き出す。妻としては夫の仕事の再開を喜ばなければならない。しかし、自分を通して完成されなかった絵が、若い娘の裸を通して完成されていくのを、アトリエの外で待っていなければならないとき、妻のほうでも、夫の創作に並行した心理のドラマが動き出す。そっとアトリエを覗いて見ると、以前描きかけだった自分の顔がマリアンヌのお尻の絵に塗り潰されてたりして。この二人に加え、さらにマリアンヌの時間もある。画家との間に生まれてくる緊張のドラマだ。最初はデッサン、ポーズもただ椅子に座っているもの。それから普通のヌード。背中。だんだんと外界の田園風景と隔絶した造形の奥へ、芸術の創造という魔の領域へ入り込んでいく。最初は丁寧に口で指示していたポーズも、ついには画家みずからの手でぐいぐいとマリアンヌをねじ曲げていくようになる。格闘と言ってもいい。人形のように解体されていくことへの抵抗と、心のどこかで感じている妻への勝利感が、マリアンヌのドラマを動かし出す。この三つの流れが絵の完成へ向けて合流し大河となっていくところ、安定の対極にある充実、芸術の完成という死の瞬間に向けられた沸騰、それをこの映画は描き尽くした。そのとき出来上がった絵などは、映画にとってもうどうでもいいのである。
【なんのかんの】さん [映画館(字幕)] 8点(2009-09-15 12:14:31)(良:2票)
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