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小林正樹の代表作リストを眺めていると、最初松竹の監督だったとはとても思えないんだけど、ちゃんとこういうホームドラマも作っているのだ。シナリオは木下恵介の妹の楠田芳子。川崎の酒屋。かわいい嫁さんが似合う久我美子。高峰秀子は松竹の明るい木下系の役でなく、東宝成瀬系の陰気を引きずっている。ここらへん監督が後年東宝でいくつか映画を撮ることになる予感か。まさか。商店街と土手が一緒にある場所を日本映画はとくに好んだ。戦災で脚を傷めた高峰がしばしば訪れる。とても絵になる。商店街という人間関係の濃密な場と、土手というそこからの息抜きの逃げ場があることで、ダイアローグ的な展開とモノローグ的な展開とを整理しやすいのかも知れない。ホームドラマのテーマは、「一人一人はいい人なんだけど、うまくいかないのよね家庭って」ってところに集約され、それがやがて時の流れとともに溶け合っていくのを肯定的に捉えるのが定番、もひとつ掘り下げがないのがもどかしい。二階では若夫婦がラ・クンパルシータを踊り、階下では陰気に姑と妹、それぞれにお菓子の缶がある、なんて描写。脚の悪い高峰が、手の指のなくなった男の縁談が来て傷つくところなんかは、ハッとさせる。後年の小林監督の社会性も、ちゃんとこうした庶民生活のささやかな残酷のスケッチという基礎があるからしっかりしていたのだ(なのになぜか場内で笑いが起こったのが分からない)。またこの映画、かつての酒屋の店先というものの記録にもなっている。屋根の上の物干し場とか。当時の多摩川のボート場も記録されている。
【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 6点(2009-07-04 12:08:14)
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