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《ネタバレ》 1話の「狐の嫁入り」と4話の「トンネル」が好き。傑作だと思う。しずしずとした行列とキッと振り向く顔の動きのコントラストは、ほとんどすぐれたミュージカルの気合いになっている。あるいは黒澤の能の趣味と関係があるのか。能と言えば「トンネル」の構造はまったく能そのもので、主人公が迷いを残した亡者に出会う形式を取っている。主人公がとうとうと語る弁明と、無表情な兵士たちの沈黙の切り返し。この無表情の沈黙が重い。主人公の弁明をそのまま受け取ったとも思えず、それならいっそ激して言い募ってくれればいいのに、彼らは無表情の帝国陸軍兵士のままトンネルの奥に消えていく。しかし代わって犬が牙を剥いて吠えついてくる。兵士たちの無念さの塊りが、この犬に凝縮されているよう。この映画は異界のものたち=自然界との接触が一つのテーマだ(だからほとんどが屋外の話。ついでに言っとくと、ここのところ三作品『影武者』『乱』とこれは、すべて大きな門から外へ追放される場面が共通する)。その異界の威嚇と異界への謝罪と。狐であり桃の木であり、そして死者の代理をする犬。かつて三船敏郎が演じ続けたような強い意志を持つ人物の登場しないこの映画では、ひ弱な主人公が異界の自然界に恐れを抱きながら遍歴し、ひそやかな嫁入り行列からにぎやかな葬列に至る。たしかに後半は意見表明が剥き出しになっていて映画としては弱いのだが、根っからの映画人であった黒澤さんをここまで切迫させたものに思いを馳せたい。
【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 8点(2010-07-09 12:04:08)(良:1票)
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