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《ネタバレ》 これはいま観ると、正社員の職を得た者と派遣労働者の話に重なって実に生々しい。ほんのちょっとした運命の違いで生じた格差が、段上の命じる者と庭で腹を切る者とにまで広がっていったことが、怖く迫ってくる。立場が逆転していてもおかしくなかった。そういう苛烈な武士の社会と似たようなものが、現在でもあるんだろう。これのとりわけ前半はシナリオの名品であり、二人の切腹志願者の物語が反復しつつ並行し、千々岩のうちひしがれぶりと津雲の不敵さが対照され、後者がどんどん謎として膨らんでくる興味。追い詰める側が追い詰められていく展開の妙味。シナリオの力でこれだけグイグイ引っ張っていく映画は、あんまりない。後半ちょっと説明的で弱くなるが、しかしあそこらへんをちゃんとやっておかないと、千々岩が「武士として有るまじきさもしい行為」に及んだことを十分説得させられず、話の骨が崩れてしまう。津雲が語っている庭はゆっくりと陽が傾き、やがて風も吹き出す。あんなに武士の哀しさを語った津雲も、やはり刀でしか決着をつけられないところが痛ましい。竹光を嘲った井伊家が、最後には「武士の魂」の刀ではなく「卑怯な」飛び道具を持ち出してくる。儀式としての切腹は限りなくグロテスクだが、鉄砲で撃たれる前の腹切りは、美しくはないがグロテスクではない。あれはあくまで乱戦の延長であって意地の発露だった。でも井伊家の下級侍にとっては、秋葉原事件のようなとばっちりだったなあ。
【なんのかんの】さん [CS・衛星(邦画)] 8点(2011-12-07 10:44:17)(良:1票)
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