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戦時中はなぜか芸道ものはよく作られていて、これが当局にとってどう国威発揚とつながっていたのか分からないが、後世の映画ファンにとってはありがたいことだ。脚色が久保田万太郎である。芸道ものの典型である「慢心によるしくじり」のドラマ、より完璧な境地を目指す者のトラブル。新内流しに落ちて門付けして回るあたりのわびしさ、それほど芸道ものが得意という監督ではないかも知れないが、こういう“わびしさ”を描くとなると一級である。彼と対になるように仕舞いをする芸者を置いて、彼女も芸に関していわば「しくじって」おり、そのしくじり同士が、松林の木洩れ陽の中で稽古をするわけだ。このシーンの美しさ。おっとその前に、そのお袖の消息を初めて喜多八が耳にする舟着き場のシーンがある。なんでもない舟待ちの人々のカットなんだけど、いいんだ。風。ドラマの中では、人と人が芸を媒介にして行動する。あるいは自殺に追いやられ、あるいは再会し、そしてすべてがラストで一部屋に集められるのも“芸”ゆえのこと。父が呼んだ芸者が仕舞いをし、その中に息子の署名を見、この鼓の音を喜多八が聞きつけアンマの幻から逃れてくる。その中心で舞うお袖の仕舞いが無表情ってのが、シマるんだなあ。観つつ、舞台となった明治と製作された昭和18年の双方に思いがいって、胸が詰まった。
【なんのかんの】さん [映画館(邦画)] 7点(2009-12-31 12:14:56)
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