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《ネタバレ》 妻投稿■クルマンジャンは夫がコーカンドの内紛で処刑されたあと、部族長を失ったキルギス人たちを奮い立たせて崖の上からの待ち伏せ作戦でコーカンドの敵を追い返します。その後別のハン国の仲介で当地を収める領主「ダトカ」に任じられたクルマンジャンはその後ロシア帝国との戦いに臨みながらも、敵の圧倒的軍事力の前にキルギス人が壊滅することを恐れ、ロシアと交渉を図り、ロシア勢力の下で民族の文化的自由を守ろうと努力します。その時息子がロシア兵によって戦死したり冤罪で処刑されたりしますが、息子の復讐や奪還を望む部下を抑え、自分の個人的事情で民族を危険に晒させるわけにはいかないと、彼女は息子の処刑を見届けます。その時の女優さんの演技は圧倒的なものを感じました。彼女は1906年まで生きており(96歳で死去)、ラストシーンではフィンランドの英雄マンネルヘイムと会います(当時は中央アジアブームで、マンネルヘイムや本願寺の大谷光瑞率いる日本探検隊も中央アジアに出ていた時代)。女性が夫の所有物のように扱われる時代に抵抗し、民族を体を張って守るも、その為に大切な息子を母として守ることができないという悲劇的な女王の叙事詩が、キルギスの山と草原を舞台に展開されます。■まずキルギス政府が支援し現職の政治家がプロデューサーをやっている為、かなりお金をかけており映像も綺麗で戦闘シーンや時代考証もかなり本格的です。さらに女性が製作陣の重要ポストにいて、単にキルギスの英雄叙事詩、民族文化の全肯定ではなく、自国の文化の残虐さ、ロシアや欧州の文化を含めて、異なる文明が経緯を払い合う大切さも描いています。少なくとも「どうせ欧米はHIVと同性愛しか広めないんだから俺たちの文化に口出しするな。誘拐婚ヒャッハー」っていうスタンスを徹底的に批判しています。だからこそ、民族文化の誇り、独立への願いが説得力を持って描写されているんだと思います。この映画を見て思い出したのは天皇陛下の生前退位に関するお言葉。伝統を大切にしつつも伝統に依存せず、常に新しい時代における自己のあり方を模索する姿が、文化、伝統、民族の独立を意味のあるものにするんだと、この映画は中央アジアという見慣れぬ世界から教えてくれます。
【はち-ご=】さん [試写会(字幕)] 8点(2016-10-13 01:09:35)
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