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《ネタバレ》 主人公があの場を去る際に、一瞬振り返って「thank you」という言葉を口にする。そこに残した身体の一部に対して言ったようにも聞こえるが、私はその数日間に起こった出来事すべてに対しての感慨だと感じました。卒業式を終えて校門を出る際に、校舎を振り返って覚える感慨に似ている。実話がベースになっているようですが、自分の腕を切り離した直後に本当に「thank you」と言えたのかどうかは分かりません。でも、その気持ちは分かる。彼が過ごした葛藤の時間があまりに濃密だから。死の恐怖に直面しながら自己との対話を続けることで明らかになる自分自身。彼の人生の中で、最も切迫して、最も正直に、最も真摯に自身と向き合った時間だったと思います。だから、あの脱出は単純な生還とは違った意味を持つ。ひとつの出来事が価値観や人生観を変える。その究極版が本作だと思います。身動きできない状況の描写の中で、手を変え品を変えて演出される主人公の心象描写が素晴らしい。ダニー・ボイルさん、見直しましたね。私の中では彼の最高作です。でも、本作が私の人生の益になったかと訊かれるとちょっと違う。徹底した一人称視点のストーリーには痛みや渇きを感じるほどに共感するが、仮に自分があの状況に陥ったら違う感慨を持つと思うから。また、あの事故が結果的に彼を良い方向へ導いたとしても、自分で経験したいとはこれっぽっちも思わないから。私だったらどのように決断するかも考えたくない。考えるだけで痛い。そういう意味で、実はSF映画ほど距離のある映画。その距離感と感情移入のギャップが異彩を放つ作品でした。
【アンドレ・タカシ】さん [映画館(字幕)] 9点(2011-07-12 21:37:25)(良:2票)
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