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《ネタバレ》 本作は巨匠ロバート・アルトマンの商業映画の実質初監督作となりますが、あのアルトマンの処女作がハードSFだったとは驚きです。 60年代米ソの宇宙開発競争がたけなわの時分、人類初の有人月面着陸がソ連に先越されそうな情勢になってきました。アメリカはアポロ計画が始まったばかりで月・地球を往復できる機材が完成にはほど遠い状態。そこでアメリカはトンデモない計画でソ連を出し抜こうとします。それはジェミニ計画の有人カプセルで月面に着陸し、直前に送り込んだシェルターにアポロ計画が進行して迎えに行けるまで宇宙飛行士を籠らせるという特攻隊みたいな無茶なプランです。実際にはその機材が完成するまで半年なのか一年以上かかるのかは未知数で、それまで定期的に酸素や食料といったサバイバルの必須物資をロケットで送り込んでシェルター内の飛行士に耐えてもらうという寸法。そして反軍風潮が強い世情を考慮して、一人しか乗れないカプセルには訓練された軍人ではなく民間人を乗せるとなり、選ばれたのが退役軍人で今は民間人のチームの一員ジェームズ・カーンでした。 実はこのトンデモ計画はアポロ計画が躓いたときのいわば“プランB”の一つとして検討されたものだそうで、もちろん具体化しませんでした。“もしこのプランが実行されたら…”というifを映像化したわけで、これはなかなかユニークな視点のSFだと思います。前半は選ばれたジェームズ・カーンの訓練が主体、本来予定されていたロバート・デュバルがサポに回されてカーンを徹底的に虐めます。なんで民間人にこだわるのかのロジックはイマイチ理解不明でしたがね。打ち上げなどは実際のジェミニ計画の映像が使われ、宇宙空間ではカプセル内のカーンの視点だけで表現、低予算ながらいろいろ工夫がされています。音楽担当がレナード・ローゼンマンで、妙にどっかで聞いたことある劇伴だと思ったら、この人『コンバット』の音楽担当でアルトマンもこの映画を撮るまで『コンバット』のディレクターをしていたという繋がりがあったわけです。 実は打ち上げの六時間前にソ連が月着陸船を打ちあげてており、アメリカが先を越されてしまった可能性が出てきて、そのプレッシャーが月面着陸でのカーンの判断ミスを誘います。そこに至るまでもトラブル続きで、シェルターを見つけられないカーンの酸素残量が尽きようとするし地球との通信も途切れてしまいます。そして月面を彷徨う彼が見つけたものとは… ラストも感動的に持ってゆくのを避けた、いかにもアルトマンらしい幕の閉め方でした。緊迫感に満ちたハードなストーリーテリングで初監督作としては上出来だと思いますけど、例によってアルトマンは本作をなかったことにして欲しかったみたいです。実は編集段階でアルトマンはワーナーから出禁状態にされ、ラストはアルトマンを排除して撮り直されたものなんだそうです。オリジナルは、もっと悲劇的なんだそうです。町山智浩氏いわく“巨匠の黒歴史シリーズ”の一編でした。
【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 7点(2020-11-01 21:41:41)
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