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《ネタバレ》 凝った映像設計で知られるクリストファー・ノーランにしては、オッペンハイマー=キリアン・マーフィを軸にしたまるで対話劇の様な作劇だったのは意外でした。ほんとに、この映画はすべてのカットにキリアン・マーフィが映っていたんじゃないかと思うぐらいです。原爆開発の理論や技術的な面はほとんどスルーしていたような印象もあり、ひたすら政治劇を見せられていた感があります。ノーランお得意の時系列をシャッフルするストーリーテリングも、本作ではいたずらに物語を判りにくしてしまったんじゃないかな。単純に言っちゃうと、この映画はオッペンハイマーに対するルイス・ストローズ=ロバート・ダウニー・Jrの確執と陰謀に収斂されるストーリーだったかとも思いました。実は自分はキリアン・マーフィの爬虫類顔が前から苦手だったのですが、今回は自分たちが成し遂げたことの罪深さに慄くようになってゆく何を考えているのか判りにくいキャラの人物を演じるには最適の面構えだったのかもしれません。対するロバート・ダウニー・Jrは、ちょっと見には彼とは気づかない完璧な老けメイク、彼の持ち味である演技力を存分に見せつけた好演です。 この作品が「原爆の被害がまったく描かれていない」という抗議が日本であったことは耳に新しいところです。でも実際に鑑賞してみると、ノーランはあえてそれを見せない作劇をチョイスしたんじゃないかと私には思えて、これはこれで正解なんだと思いました。疑問に思ったのはその抗議を叫んだ団体などは、作品自体を日本で観られない時期に声を上げていたふだん映画には縁が無さそうな面々で、観てない映画を批判するのはNGなんじゃないですかね。歴史的な出来事には色々な視点があることは許容されなければならないし、それを認めないとなれば単なる言論弾圧になりますよ。実際に自分が不快極まりなかったのは原爆投下を喜ぶロスアラモス研究所の科学者たちの姿で、オッペンハイマー自身も「私たちは原爆開発を研究しただけで、どう使うのかは政治の話だ」とその時点では言っています。でもそうなると、この科学者たちはナチの命ずるままに職務に励んだ絶滅収容所の所長や看守となんら変わりがないんじゃないかと思えてしまうんですけど…
【S&S】さん [CS・衛星(字幕)] 8点(2025-01-13 22:44:03)
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