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 > かたゆき さんの口コミ一覧
かたゆきさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1922
性別 男性
年齢 48歳
自己紹介 自分なりの評価の基準は、
10・超大好きな作品。完璧。映画として傑作であるばかりでなく、自分の好みと見事に合致している。
9・大好きな作品。完璧に近い完成度。手放しに歴史に残る傑作といっていい。
8・好きな作品。本当に面白い。欠点があるかもしれないが、それも含めて好き。
7・少し好きな作品。普通に面白い。欠点もあるかもしれないが、そんなに気にならない。
6・普通の作品。可も無く不可も無く。最後までストレスなく観られる。面白いけど、心に残るものはあまりない。
5・少しつまらない作品。最後まで観るのにちょっとストレスを感じた。面白い部分も多少はあった。
4・つまらない作品。最後まで観るのが苦痛だった。ほとんど面白いところが感じられなかった。
3・かなりつまらない作品。最後まで観た自分を褒めてあげたい。観終えた後に、怒りのあまりDVDを割りそうになった。
2・超つまらない作品。時間と金を返せ。観終えた後に、怒りのあまり製作者全員を殴りに行きたくなった。
1・絶望的につまらない作品。最低。観終えた後に、怒りを通り越して死にたくなった。
0・死霊の盆踊り。

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【製作国 : アイルランド 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
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1.  ブレッドウィナー 《ネタバレ》 
ここは、まだイスラム原理主義政権タリバンが支配するアフガニスタン。女性は常に全身を覆うブルカを着用することが義務付けられ、教育や仕事も禁止、しかも親族の男性が付き添わなければ外出もできないような不自由な生活を強いられていた。そんな中、戦争で片足を失った父と露天商を営む少女パヴァーナは、貧しいながらも慎ましく暮らしていた。だが、ある日突然、父親が些細な理由によりタリバンに逮捕され、そのまま遠く離れた強制収容所へと連行されてしまうのだった。幼い弟や病弱な母のためになんとか生活を立て直そうとするパヴァーナだったが、自分一人では買い物に行くことすらままならない。仕方なく彼女がとった方法。それは、過去に突然居なくなってしまった兄の服を着て、〝男の子〟として外出することだった――。当初は恐る恐る出歩いていたパヴァーナだったが、変装は予想以上にうまくいき、彼女と同じく男装して出歩いていた幼馴染の少女とも出会い、次第に大胆な行動を取ってゆく。だが、そうして手に入れたパヴァーナの自由な日々も戦乱の予感に搔き消されていく……。2000年代、アメリカ侵攻直前の政情不安に揺れるアフガニスタンを舞台に、過酷な運命に翻弄される少女をファンタスティックな映像とともに描くアニメーション。アカデミー賞ノミネートということで何の予備知識もないままに今回鑑賞してみました。まるでディズニーの『アラジン』のようなタッチで描かれるのは、非常に重い過酷な現実。長年続いた内戦により荒廃してしまったこの地で、理不尽な現実に押しつぶされそうになっているのは常に社会の中で弱い立場にいる人々。それでも必死に自分らしく生きる主人公がすこぶる魅力的で、そんな彼女が男の子となって手に入れた自由に胸躍らせる姿には思わず切なくなってしまいます。僕たちはこの国で普通に外出して普通にコンビニで食べ物を買い、普通に暖かい布団で眠ることが出来ているのに、どうして何の罪もない彼女がこんな過酷な日々を過ごさねばならないのか。理不尽な現実に悲しくなるばかりなのですが、彼女の語る空想の世界の物語と世界観が非常に魅力的でそれに救われます。これこそアニメという表現を最大限に活かした素晴らしい演出でしょう。主人公以外にも、同じく男装していた少女や字の読めないおじさんなど脇を固めるキャラもみな魅力的で素晴らしい。最後が幾分か腰砕けちゃったのが残念だったけど、男たちの暴力に立ち向かうにはいつの世も優れた物語が必要なのだということを改めて思い起こさせてくれる良作でありました。と、これを観ている現在、アフガニスタンではまたタリバンが実権を握ってしまいました。この先、また彼女たちのようなかわいそうな少女が沢山うまれるのかと思うと胸が締め付けられます。この現実を変えるためには、やはり本作のような優れた物語が必要なのだと僕は信じたい。彼女たちのためにも。
[インターネット(字幕)] 9点(2021-11-23 04:09:57)
2.  ビバリウム 《ネタバレ》 
そこは一度迷い込むと二度と出てこれない新興住宅地――。トマとジェムは、結婚を間近に控えた若いカップル。まだ収入も安定していないし子供も居ないが、それでもこれから幸せいっぱいの生活が待っているはずだった。将来を見越し、新居を購入しようと彼らは街の不動産屋へと足を運ぶことに。対応してくれた何処か風変わりな営業マンの案内で彼らは郊外の新興住宅地「ヨンダー」へとやってくる。そこは、同じような緑の家が何処までも立ち並ぶ生活感の一切感じられない謎めいた町だった。無事に内見を終え、すぐに帰ろうとするトマとジェムだったが、いつの間にか営業マンの姿が消えていた。不審に思いながらも自らの車で帰途に就いた二人。だが、いつまで経っても元の街並みへと抜け出すことが出来ず、気付いたら紹介された9番地の家へと舞い戻っていた。戸惑いながらもその9番地の家で夜を明かした二人に、更なる異常事態が襲う。なんと家の前に置かれた段ボールに、誰の子か分からない男の赤ん坊がいれられていたのだ。しかもそこには「無事にこの子を育て上げたら開放する」との謎のメッセージが。果たしてここは何処なのか?突然の不条理な事態に二人の精神は次第に崩壊してゆく……。カッコウが他の鳥の巣に自らの卵を産み育てさせるといういわゆる托卵という習性をモチーフに、突然異常な状況へと陥った若いカップルを描いたシュルレアリスム劇。そんな期待せずに今回鑑賞してみたのですが、いやいや、これがなかなかエッジの効いた演出の力が光る不条理劇の逸品に仕上がっておりました。とにかく映像のセンスが抜群に良い!どこまでも続く生活感を微塵も感じさせない緑色の住宅、マグリッドの絵を髣髴とさせる作り物感が半端ない雲、まったく美味しそうに見えない食事…。どれもが不気味で生理的嫌悪感がいい意味で凄いです。特に、二人が育てることになる男の子。言っちゃ悪いですけど、よくここまで可愛くない子供を見つけてきたもんですね。この子がずっと自分たちの物まねをしたり、思い通りにいかないことがあると金切り声をあげたり、意味の分からないテレビの映像に延々と見入っていたりともはや殺意を覚えるくらい可愛くない(笑)。極めつけは、途中でカエルやある種の鳥のように喉を膨らませて雄叫びをあげるシーン。こんなに気持ち悪い映像、久しぶりに見ましたわ。肝心の内容は典型的ないわゆる不条理劇なんですけど、そこに何処か乾いたユーモアがあるところはカフカよりも安部公房に近いのかな。後半、物語はまさにこの訳の分からなさをどんどんと加速させ、徐々に崩壊してゆきます。文字通りぐちゃぐちゃに空間が捻じれてしまった家の中での主人公と子供の追いかけっこなんてセンス抜群!いやー、面白かったですね、これ。まあ悪趣味全開ですけど(笑)。今から将来が楽しみな新たな才能に出会えたような気がします。
[DVD(字幕)] 8点(2021-08-21 01:31:14)
3.  博士と狂人 《ネタバレ》 
制作に約70年もの月日を費やして完成された世界最高峰とも呼ばれる辞書「オックスフォード英語辞典」。その完成の裏には、博士号を持たない異端の言語学者と精神を病んでしまい妄想から人を殺めてしまったアメリカの元軍医という二人の存在があった。実話を基に、世界最大の辞書を編纂したそんな二人の天才の友情と交流を描いた歴史ドラマ。ベテラン俳優ショーン・ペンとメル・ギブソンがそんな博士と狂人を演じたということで今回鑑賞してみました。率直に言って、題材は凄く良かったとは思うんですよ、これ。世界でも有名な辞書完成の裏に隠された秘話、しかもそこには統合失調症を患った精神病患者の尽力があったなんてとても興味が惹かれるテーマじゃないですか。なのに、最後まで付き纏うこの微妙な空気感。きっと話を詰め込み過ぎたんじゃないですかね。いろんなエピソードが展開されるんですけど、どれもこれも踏み込みが非常に甘い。特に、狂人博士の方に殺された男の奥さん。この人が最初は当然、この夫を殺しながら病のせいで罪に問われず精神病院への処置入院で済んだ男へと物凄い憎悪を募らせるんです。でも、お金を貰って何度か優しくされると簡単に許しちゃう。いやいやそんな訳ないでしょ。もし事実がそうだとしても、そこに至る過程にもっと鋭く切り込んでもらわないと。これでは深みに欠けると言わざるを得ません。また、同じようにこの狂人とはぐれ者の言語学者との交流も一面的でなんとも浅い。題材は良かっただけに、もう少し脚本を練って欲しかった。イカれた孤高の天才を熱演したショーン・ペンの迫力に+1点!
[DVD(字幕)] 5点(2021-08-09 06:00:44)
4.  CURED キュアード 《ネタバレ》 
人間を狂暴化させる新型ウィルスが爆発的に蔓延し、大混乱へと陥ってしまったヨーロッパ。感染した者たちは見境なく人々を襲い、そしてその肉を喰らうという常軌を逸した行動へと走るようになるのだった。自らの親や子供、友人たちを容赦なく襲う感染者たち。世の中がそんな地獄絵図へと化す中、ここ、アイルランドも例外ではなく、社会は壊滅的な打撃を受けてしまう――。だが、人々はその後、治療法を開発し、感染者の七割以上が無事に回復するまでになっていた。残りの回復しない感染者をどうするのかという問題に直面するなか、回復した元感染者たちの社会復帰が開始される。ここでもう一つの問題が浮き彫りとなる。回復した元感染者たちは皆、狂暴化していたときの記憶を何一つ失ってはいなかったのだ。無事に日常生活へと戻ってきた元感染者であるセナンもまた、狂暴化していた時期の自らの記憶により、心に深い傷を負っていて……。パンデミック後の混乱した社会に生きる人々の苦悩を、とある一人の男の姿を通して描いたサバイバル・スリラー。という内容を聞いて、もっとエンタメ寄りの作品だと思って今回鑑賞してみたのですが、意外にもこれって社会派寄りのシリアスなドラマだったのですね。だとしたら、いまいち深みが足らないように僕は感じてしまいました。貧富の格差や移民問題、それによって拡がる社会の分断のメタファーとしてゾンビを扱うというアイデア自体は悪くないんです。異物を排除しようとする社会的多数派と暴力によって自らの主張を認めさせようとする社会的マイノリティ、そしていつまで経っても反社会性を失わない者どもを密かに抹殺しようという権力の暴走……。911から続くそんな深刻な社会状況をゾンビという分かりやすい要素で捉えようというのは非常に興味深い試みだったとは思うんですよ。更生したテロリストたちの社会復帰という問題もメタファーとしてよく効いている。ただ残念ながら彼らの思想的対立がいつまで経っても深まっていかず、ただ淡々と物語が進んでゆくので僕は正直中盤から退屈に感じてしまいました。エンタメ映画として観るには圧倒的に娯楽性に欠けるし、社会派映画として観るにはいかんせん深みに欠けるという、なんとも中途半端な作品でございました。
[DVD(字幕)] 5点(2021-07-23 05:06:49)
5.  ソング・オブ・ザ・シー 海のうた 《ネタバレ》 
母親が謎の失踪を遂げ、以来父と幼い妹とともに小さな島で暮らす少年、ベン。家族以外誰も住んでいない辺境の地で古い灯台を管理しながら質素に暮らしていた彼だったが、都会に住むお婆ちゃんの強引な助言もあり、生まれて初めて都会で暮らすことに。母親の失踪の影響か、生まれて以来ずっと口を利いたことのない妹シアーシャと二人で、ベンはお婆ちゃんの家へと越してくるのだった。だが、新生活を始めたものの、偏屈な性格から何かというと嫌みを言うお婆ちゃんにベンの気持ちは沈み込んでゆくばかり。我が儘放題のシアーシャも彼の不満をますます増幅させるだけ。「もう嫌だ。元の家へと帰りたい!」――。そんな思いを強くしたベンは、ある日、お婆ちゃんの家を飛び出すのだった。ところが知らぬ間に妹のシアーシャも彼の後を付いてきていた。戸惑う彼を不思議な現象が襲う。なんと老人の顔をした小さな妖精たちが、妹をさらってしまったのだ。果たして妹は何者なのか?妖精たちの真の目的とは?そして、海へと帰っていった母親が彼らに遺した歌に込めた想いとは?アイルランドの伝承を基に、妖精にさらわれた妹を求めて異世界を彷徨う兄をファンタジックに描いた幻想譚。昔懐かしのアニメ「日本昔話」ならぬ「アイルランド昔話」とも呼ぶべき本作、特徴的なのはやはりその独特の画のタッチでしょう。まるで絵本の世界をそのまま映画にしたような独自の雰囲気に最初は戸惑ったものの、それもすぐに慣れ、最後はどっぷりと浸っている自分がいました。いや、なかなか良かったですよ、これ。可愛さとグロテスクさの絶妙の間を突くこの監督のセンスは自分には完全にツボでした。特にあのお爺さんの顔をした妖精たちのキモ可愛いフォルムとかナイス!すべての記憶が髪の毛に刻み込まれた妖精なんてなんともユーモラスで最高でした。悪役となるフクロウ魔女もけっこうキャラが立ってましたし。まあお話としては至極単純ですけど、それもこれくらいの尺ならぎりぎり大丈夫。主役となるお兄ちゃんが妹に見せる屈折した愛憎も僕には魅力的に感じました。まるで絵本のような独自の世界観を持つアニメーション、うん、なかなか面白かったです。7点!
[DVD(字幕)] 7点(2021-05-03 18:00:12)
6.  永遠の門 ゴッホの見た未来 《ネタバレ》 
情熱の画家、ゴッホの波乱万丈の生涯を終始淡々と見つめた伝記映画。そんな不世出の画家を演じたのはまさに嵌まり役というしかないウィレム・デフォーで、本作でアカデミー主演男優賞にノミネートされております。確かにもう本人としか思えないほど役になり切った彼の演技は素晴らしく、何度も自画像で見てきたあの人が南仏の雄大な大自然を背景にキャンバスに絵筆を動かしている〝画〟は感動的ですらありました。ただ、お話的には正直微妙。こんなに有名でありながら未だミステリアスで神秘的な魅力を放っている人物を扱っているのに、どうしてここまで退屈なお話に仕上げてしまったんでしょう。今でこそ何億もの値が付くというのに生前自らの絵は三枚しか売れなかったという不遇の境遇、日本の浮世絵との運命的な出会い、社会的に成功した弟テオとの関係、そして画家ゴーギャンとの確執とあの有名な「耳切り」事件……。彼の生涯の重要なトピックとなるであろうそういったエピソードが、ことごとくスルーされてしまっているのはそういう狙いなんですかね。特にあの耳切り事件に至る過程など、画面が切り替わったらもうあっさり切っちゃってましたというのは、さすがに端折り過ぎっしょ!一観客としてはそこが一番知りたかったところなんですけどね。そうかといって彼の名画の数々――ひまわりや幾つもの自画像、そして晩年の傑作とされる星月夜の創作過程に迫るのかと思えば、それも気づいたら描き終わってましたって、いくらなんでもクローズアップするポイントがおかし過ぎます。ただひたすら観念的な芸術論が最後まで延々続き、もうほんと退屈。こんなに魅力的な題材を扱い、しかも役者陣の演技も素晴らしいのになんとも勿体ない。映像の美しさとウィレム・デフォーの熱演に+1点!
[DVD(字幕)] 5点(2021-03-23 23:42:07)
7.  ローズの秘密の頁(ページ) 《ネタバレ》 
アイルランドにある、取り壊しが決まった古い精神科病院。身寄りのない収容者は新たに精神科医の再鑑定を受け、新たな施設へと移送されることに。過去に精神に異常をきたし我が子を殺したとして、40年以上も収監されてきた年老いた女性ローズもその中の一人だ。彼女を再診することになったグリーン医師は、さっそくローズと面談して幾つか質問をしてみる。「私の夫はマイケル・マクナルティ。私は子供を殺してなんかいない」。何を訊いてもそう言い張るローズは、その証拠として半世紀も前から聖書に書き記してきた自らの日記を彼に託すのだった――。そこに記されていたのは、第二次大戦中、英国空軍のパイロットとしてナチスドイツと戦った若きアイルランド人との秘密の恋の記録だった…。果たしてローズは本当に子供を殺したのか?マクナルティと彼女の情熱的な恋の結末は?そして、ローズが長年大切にしてきた聖書の中に隠された本当の秘密とは?アイルランドの激動の時代に人生を翻弄された、そんなある一人の女性の悲しい過去を哀切に描いたラブストーリー。監督はアイルランドを代表するベテラン、ジム・シェリダン。長年精神科病棟に収監されてきた老婆の若かりし日を、今を時めく人気女優ルーニー・マーラが演じております。現代と過去を行きつ戻りつしながら描かれるこの一組の男女の切ない恋物語、監督の丁寧な演出のおかげでなかなか見応えのあるドラマになっていたと思います。閉鎖的な村の中で一途に彼のことを思い続けるローズの物語は、多少メロドラマに寄り過ぎな部分もなきにしもあらずですが、かなり不幸な境遇に居る彼女の現在の姿を織り交ぜることで全体的にメリハリがつき観やすかったですね。もし、これが本当ならばこんな悲劇ってない。なんとも切ない想いにさせられる悲しいお話でありました。ただ、残念なのはラストに明かされる衝撃の真相。彼女の○○が実は○○だったというのですが、正直僕は「え、そんな偶然さすがにあり得へんやろ」と急速に冷めちゃいました。だって、40年前のあの出来事からこの現代にそうなる可能性って、もう天文学的にあり得ない数字になるんじゃないですかね。それこそ、0.0000001%とか?このラストにもう少し説得力を持たせてほしかった。あと、全体的にちょっと暗いのもあまり好みではありませんでした。
[DVD(字幕)] 6点(2019-08-16 23:31:59)
8.  女王陛下のお気に入り 《ネタバレ》 
18世紀、フランスとの泥沼の戦争を続けていたイングランド。当時この国を治めていたのは、横柄で気まぐれな人格的にかなり問題を抱えていたアン王女だった。そんな彼女に長年側近として仕え、宮廷内で絶大な権力を誇っていたレディ・サラの元に、従妹にあたる没落貴族の娘アビゲイルがやって来るところから物語は始まる。その時その時の感情の赴くままに行動し、国民を翻弄するアン王女。彼女を陰で支配し、自らの思い通りの宮廷を築き上げてきた冷酷無比なサラ。人生このままでは終われないと、なんとかしてのし上がろうともがくアビゲイル。女王陛下の“お気に入り”となって何もかもを手に入れようとする女たちの醜い戦いが、いま幕を上げる――。絢爛豪華な女王陛下の宮殿内で繰り広げられる、そんな魑魅魍魎の女たちの駆け引きを濃密に描いた醜悪な宮廷絵巻。監督は、独自の作風で世界から今最も注目を浴びるギリシャの鬼才、ヨルゴス・ランティモス。彼のこれまでの気持ち悪い変態路線が今回はハリウッド資本の影響か良い感じで薄まって、なかなかバランスのいい作品に仕上がってましたね、これ。オリヴィア・コールマン、レイチェル・ワイズ、エマ・ストーンという三世代の実力派女優が繰り広げる情念の応酬とも言うべき演技合戦はなかなかの迫力。もう女の嫌らしい醜い戦いが終始どろどろに繰り広げられ、見応えばっちりでした。何食わぬ顔で可愛いウサギを踏みつぶそうとするエマ・ストーンの性格の悪さったらないし、プライドだけは膨大に膨らんだレイチェル・ワイズの自業自得の凋落ぶりもなかなか良かった。でもやっぱり一番素晴らしかったのは、もはや性欲だけが心の慰めの醜いオバはんをいやらしーく演じたオリヴィア・コールマンの鬼気迫る表情!いやー、こんな世界には一生関わりたくないですね(笑)。それに周りを固める男たちもみな自分のことしか考えていないバカばっかりで、こんな貴族のために戦場で命を懸けて戦っている兵士たちのことを思うと不憫としか言いようがありませんわ。うん、なかなか面白かったです。まぁ女性に多大な幻想を抱いているであろう童貞男子諸君は観ない方が賢明だろうけど(笑)。
[DVD(字幕)] 7点(2019-08-06 23:52:41)
9.  聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア 《ネタバレ》 
優秀な心臓外科医として忙しい毎日を過ごすスティーブンは、美しい妻と育ちざかりの二人の子供とともに充実した日々を送っていた。そんなある日、彼はマーティンという名の謎めいた少年と出会う。かつて自分が担当したものの救えなかった患者の息子だというマーティンに、罪悪感から彼は何かと目をかけてやるのだった。高価な時計をプレゼントしたり、一緒にランチを食べたり、家族との夕食の席に招待したり…。だが、その頃からスティーブンの家族に不可解な出来事が起こり始める。突然息子の下半身が動かなくなり、しかも一切ものを食べなくなったのだ。何度検査しても原因は皆目摑めず、スティーブンは途方に暮れるばかり。しばらくすると、長女も同じような症状を発症するのだった。突如として巻き起こった家族の危機になすすべのないスティーブン。そんな彼に、マーティンは衝撃の事実を告げる――。謎めいた少年によって崩壊の危機へと追い込まれてしまったとある家族の葛藤を、独特の映像と不穏な世界観の中に描き出すサスペンス・ドラマ。追い詰められる夫婦役に、人気俳優コリン・ファレルとニコール・キッドマン。監督は最近独自の作風で注目を集めるギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス。最後まで不快指数マックスのいや~~~なお話でしたね、これ。少年のかけた呪い?によって家族がいろいろと理不尽な目に遭うんですけど、この少年がとにかく不気味で気持ち悪いんですよ。スパゲッティを食べてるだけなのに、どうしてあんなに気持ち悪くなれるんでしょーか(笑)。独特のカメラワークや不穏な音楽もいちいち観客の神経を逆なでするし、細かいエピソードにいたるまでいちいち気持ち悪い。あの酔っ払った父親の性器をしごいて射精させた話を自分の息子にするシーンっていります?やたら娘に初潮が来たことを自慢げに話す父親もどーなんですかね?前作でも思ったことだけど、この監督って、やぱかなりの変人で変態ですよね。好きか嫌いかで訊かれたら、正直僕は嫌いです。でも、才能は充分ある。最後の家族ロシアンルーレットなんて、かなりブラックで悪趣味全開!でも、悲惨なのになんか滑稽で、こんなシーンを撮れる監督なんて世界に彼一人なんじゃないですかね。とまあ個人的には嫌いですけど、一度は触れてみて各々で判断しちゃってください。
[DVD(字幕)] 6点(2019-05-25 01:41:24)
10.  しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス 《ネタバレ》 
わたしたちって、履き古した一足の古い靴下みたいね――。カナダの田舎町で親戚の家に暮らす中年女性モードは、幼いころからリウマチを患い手足が若干不自由なため、ずっと親族の間でたらい回しされていた。「住み込みで働ける家政婦、急募」。自身の境遇を少しでも変えたい彼女は、そんな町の雑貨店に貼られていた広告を見て一大決心をする。自分の力で生きてみたい。チラシに書かれた住所を訪ねてみると、そこは町外れで長年独り暮らしをしているエベレットという男の古びた一軒家だった。粗野で偏屈、何かというと物にあたる彼に戸惑いつつも、行く先のなかったモードはそこで働き始める。給料はろくに支払われず、寝る場所もエベレットと同じ部屋で雑魚寝、何かあれば自分は犬以下だと絶えずなじられるような過酷な生活の中でのモードの唯一の慰めは、ただ絵を描くことだった。家の壁や窓、ポストカードや木の板に彼女の絵筆と想像力は、自由で素朴な生き物たちの姿を描き出す。すると彼女の絵は評判を呼ぶようになり、やがてテレビの取材まで訪れることに。数年後、夫婦となった二人の元にニクソン大統領から彼女の絵を買いたいとの知らせが…。障害を持つ孤独な女性と孤児院育ちの偏屈な男、社会のはみ出し者同士のそんな一組の夫婦のとある愛の形を実話を元に描いた大人のラブ・ストーリー。主演を務めるのは最近アカデミー賞に何度かノミネートされた実力派俳優のサリー・ホーキンスとイーサン・ホーク。とにかくこのベテラン二人の熟達の演技の掛け合いが見応え充分でした。社会のどこにも居場所のなかった二人が偶然一緒に暮らすようになり、やがて夫婦となって、最後はお互いの存在をかけがえのないものとして認めあうまでをとても自然に情感を込めて演じていて、観ていてもう切なくて堪らなかったですね。のどかな田舎の風景をバックに、手押し車に乗せられた妻をほんの少し笑顔を見せながら押していく夫。夫婦の深い愛情が伝わってきて思わず涙が出そうになりました。今にも潰れそうな二人のお家のあちこちに描かれたモードの絵も、二人の生活にほのぼのとした輝きを与えてくれている。そりゃみんな彼女の絵を買いたくなりますわ~。内容的にはあまりにも王道過ぎて若干物足りなく感じる部分もありますが、社会の片隅に人知れず咲いた一輪の花のような、そんな味わい深いラブストーリーの秀作でありました。
[DVD(字幕)] 7点(2019-05-14 22:19:45)(良:2票)
11.  ルーム 《ネタバレ》 
舞台は、何処にあるか分からない、薄汚れた小さな〝部屋〟。狭苦しいその部屋には常に鍵が掛けられ、自由に外と出入りすることは出来ない。四方の壁に窓はなく、唯一あるのは天井に穿たれた小さな天窓のみ。キッチンやバスルーム、小さなトイレや古びたテレビがあり、一応はこの部屋だけで生活が完結するようになっている。週に一度、正体不明の中年男が必要最低限の生活物資をこの〝部屋〟へと届けてくれる。住民は、2人。1人はジョイという名の若い女性。なんと彼女は7年前に誘拐されこの部屋へと監禁されてから一度も外部と接触したことがない。そして、もう1人は今年で5歳になるジャック。5年前、ジョイが誰の助けも借りずたった一人で産み落とした男の子だ。そう、ジャックは生まれてからこの小さな部屋の中だけで過ごし、一度も外の世界へ出たこともなければ一度も外の世界の人と会ったこともないのだった――。彼女たちはこの特異な状況をどのように生き延びてきたのか?どうしてこんな境遇へと陥ってしまったのか?そして、彼ら親子はこの部屋を抜け出し無事に外の世界へと帰ることが出来るのか?本作は小さな納屋に何年にもわたって監禁されてきたそんな母子の過酷な運命と、だからこそ培われてきた強い絆を真正面から見つめたヒューマン・ドラマだ。物語の中盤まで舞台はこの小汚い一部屋のみ、登場人物もこの母親と息子である男の子のみというなかなか特異な設定なのだが、この外部と一切接触したことのない純粋培養された少年を語り部とすることで非常に見応えのあるドラマを構築することに成功している。情報の出し方も巧く、この少年の父親が誰なのかをぎりぎりまでぼかして描いているため、観客はそれが誰なのかはほぼ分かっていながらそれでも違っていてほしいと思わせる不安感の煽り方も抜群にいい。と、途中までこれは傑作になるかもとワクワクしながら観ていたのだが、まだ一時間を過ぎない辺りで少年が外の世界に脱出してしまってから僕は急速に冷めてしまった。自分の好みの問題なのかもしれないがちょっと脱出が早すぎたように思う。誘拐犯に監禁されていたこの親子が決死の脱出を図る前半部分がサスペンスとしてすこぶるよく出来ていただけに、後半のシリアスな展開とのチグハグ感が何とも勿体ない。誤解を恐れずに言えば、エンタメとして前半部分と自らの人生を破壊した憎むべき男の息子を宿してしまった女性の葛藤を描く後半部分がうまく繋がっていないような印象を持ってしまったのだ。本来2時間だったものを1時間に短縮した別々の映画を連続で見せられたような、そんな居心地の悪い印象を受けてしまった。2人の脱出劇をメインにして重くシリアスな後日談は問題提起をする程度で留める。そうすれば、はるかに人の心に残る良質の作品になったように思う。サスペンスフルな前半部と親子の絆を真正面から描いた後半部がそれぞれによく出来ていただけに、惜しい。
[DVD(字幕)] 6点(2017-08-25 00:10:47)
12.  イレブン・ミニッツ 《ネタバレ》 
とある高級ホテルを舞台に、そこに集う様々な人々の11分間のドラマをモザイク状にして描く複雑な群像劇。この監督の前々作『アンナと過ごした四日間』がけっこう好きだったので今回鑑賞してみました。率直に言うと、さっぱり面白くなかったです。映画って監督の創作スタイルによって主に二種類に大別されると僕は思うのです。それは娯楽性に重きを置いたものと芸術性を重視したもの。前者の場合、作品にもっとも必要なのは徹底的な分かりやすさと有無を言わさぬ面白さ、一方後者に必要なのは多くの観客を置き去りにするくらいの難解さや独創性を有しながらそれでも一部あるいは多くの人の心に残る深いテーマ性です。本作は、恐らく後者。その場合でも映画として物語の中に必要最低限の因果律が働いていなければ駄目だと僕は思うのです。本作には、その因果律を働かせるための必要最低限な情報量が足りていない。たくさんのキャラクターが登場しそれぞれにドラマがあることは分かるのですが、全てにおいて具体性が欠落しているため一向に物語が入ってこない。わざと分かりやすさを排除したというのであれば、それを補うための例えば詩情溢れる豊かな映像美だとか知的好奇心を刺激する独創性などがあってしかるべき。ですが、本作にはそれが一切ない。大して面白くもないお話がだらだらだらだら垂れ流され、最後まで何のメッセージ性も残さずに終わってしまいました。残念ながら、これでは監督の独り善がりというほかありません。正直、芸術性以前の問題です。
[DVD(字幕)] 4点(2017-08-20 00:06:32)
13.  ブルックリン 《ネタバレ》 
1950年代のアイルランド。長年にわたる不況により碌な仕事も見つからないこの国で、年老いた母と事務員として働く姉とともに暮らす若い女性エイリシュ。閉塞感漂うこの国に嫌気が差した彼女は、心機一転、アメリカへと移り住みことを決意する。母と姉に別れを告げ、単身アメリカ行きの船へと乗り込んだエイリシュは多くのアイルランド系移民が暮らすブルックリンへとやってくるのだった。支援してくれる神父の助けもあってデパート店員という職も得た彼女、夜は簿記の資格を取るために大学へも通うことに。そんな忙しい毎日を過ごすエイリシュはある日、心優しいイタリア系移民の青年と恋に落ちる。だが、そんな充実した日々を送る彼女の元に、故郷から悲しい知らせが届くのだった――。夢を抱いて単身アメリカへとやって来た若い女性の青春の日々を瑞々しい映像で描き出すヒューマン・ドラマ。オーソドックスな題材ながら全体に漂う上品な雰囲気や美しい音楽、そして何よりシアーシャ・ローナンをはじめとする役者陣の自然な演技によってなかなか品のいい佳品に仕上がっていたと思います。主人公が身を寄せることになる寮の住人達もみな魅力的だし、世間慣れしていない彼女の不器用な恋の顛末も見ていて微笑ましい。船の中で受け取った助言を最後、成長した主人公が後輩へと受け継ぐという流れも自然でうまい。まあ連続テレビ小説みたいではあるけれど、これはこれでいいかもと見ていたのですが…。やっぱり引っかかるのは、主人公が故郷へと帰ってからの展開でしょう。すぐに帰るからとアメリカの恋人に誓ったのに、彼女は故郷で再会したかつての友人にも惹かれてゆくのです。彼への手紙も返さず友達カップルと一緒にダブルデートしたりするエイリシュ、でもアメリカに恋人がいることはひた隠しにします。え、ちょっと待ってください、これって完全に二股ですよね?なのに最後、嫌みなおばはんにそのことがバレると「忘れてたわ。ここはそういう街だった」とアメリカへ帰ることを決意するって…。いやいや、そんなんアメリカで散々待ちぼうけを食らってたあの彼氏からしたら、「俺への愛情を取り戻したから帰ってきたんちゃうんかい!!」と腹立ってしゃーないと思うんですけど(笑)。少なくとも僕ならそう思います。前半の展開は良かったけれど、後半の主人公の自己チューっぷりが気になって僕はどうもダメでした。5点。
[DVD(字幕)] 5点(2017-06-05 01:53:47)(良:1票)
14.  ロブスター 《ネタバレ》 
奇妙な物語である。舞台は深い森に囲まれた一軒の豪華なホテル。見るからに冴えない中年太りした男がこのホテルへとやって来たことから物語は始まる。男の手にはリードに繋がれた一匹の犬、彼の説明によるとこの犬はかつて人間でどうやら自分の兄であったという。一見頭のおかしな男なのかと思いきや、彼を迎え入れたホテルの女性支配人から驚くべき事実が告げられる。このホテルにはパートナーの居ない独身の男女が多数集められており、45日以内に相手のパートナーを見つけ相思相愛にならなければいけないらしい。しかも、もし見つけられず独り身のまま期限を迎えてしまうと、その人物は動物にされてしまうというのだ。そう、彼の兄もかつてこのホテルへとパートナー探しに訪れたものの失敗し犬に変えられてしまったのだ。戸惑いつつも男は一匹の犬と幾多の独身男女と共に共同生活を始める。ホテルを取り囲む森には愛を否定する反体制派が跋扈し、男を含む収容者たちは毎日猟銃で反逆者狩りを続けながら来る日も来る日もパートナー探しにいそしむのだった。ただ無気力に日々をやり過ごす男の唯一の希望は、自分がもしパートナーを見つけられなければ一匹のロブスターに変えてもらいたいというものだった――。特異な状況に置かれた男女の葛藤の日々を乾いたユーモアを交えて描いたシュルレアリスム劇。コリン・ファレルやレイチェル・ワイズ、ジョン・C・ライリーという豪華な役者陣共演ということで今回鑑賞してみました。この作品のポイントは、この独特のシュールな世界観を独創的と捉えるか、それとも監督の単なる独り善がりと捉えるかによって大きく評価が分かれるだろうというところでしょうね。僕はぎりぎり後者です。ユーモアとシュールさ、そして意地の悪いシニカルさでもって観客を煙に巻くこの監督の絶妙な匙加減は嵌まる人にはたまらないと思います。が、僕のような嵌まらなかった人間にとっては苦痛以外の何者でもありませんでした。ひたすら退屈。とにかく頑張って最後まで観ましたが、後に残ったのは極度の疲労感のみ。この分かったような分からないような大人のための寓話、興味のある人はまあ一度観てやってください。僕はもういいです(笑)。
[DVD(字幕)] 4点(2017-04-08 22:06:23)
15.  虹蛇と眠る女 《ネタバレ》 
オーストラリア郊外にある荒廃した砂漠の街を舞台に、突然失踪した二人の幼い子供を巡って次第に追い詰められていくとある夫婦を描いたネイティブ・ミステリー。ニコール・キッドマン主演ということで今回鑑賞してみたんですが、とにかくこれが驚くほど演出が稚拙でびっくりいたしました。もうほとんど素人レベルと言っても過言ではありません。ただ小汚いだけで一切センスを感じさせない映像が延々と続き、場面場面の繋がりもいちいち悪いし、あってなきが如しの退屈なストーリー等々、最後まで観るのが苦痛で苦痛で仕方なかったです。ところどころで差し挟まれる、さして意味のない砂漠の空撮映像がますます睡魔を誘発させ、最後まで観た自分を誉めてあげたいくらい(笑)。原題とは全く関係ない邦題の〝虹蛇〟も配給会社が客を呼ぶために無理やりひねり出した感が半端なく、後味が悪いだけで何も解決しないラストなどもはや目も当てられません。美熟女ニコール・キッドマンのフルヌード露出プレイに+1点。
[DVD(字幕)] 3点(2017-01-30 02:15:17)
16.  マッド・ガンズ 《ネタバレ》 
僕は緑の大地を見たことがない――。世界的な環境破壊と異常気象により、大干魃に見舞われた近未来。何処までも拡がる砂漠の真ん中で、いつか緑の大地が戻ってくることを信じて暮らしているホルム一家。家族の長である寡黙な父親アーネストは、僅かに湧き上がる井戸水を頼りに少量の農作物を育てて生きていた。美しく成長した長女のメアリーは、そんな頑固な父親に反発しながらも家事全般を担当している。まだ思春期を迎えたばかりの末っ子ジェロームは、過酷な世界に絶望を感じながらそれでも必死に生きていこうと父親の手伝いをしている。彼らの母親は、過去のとある出来事が原因で家から離れた病院で長い入院生活を余儀なくされている。滅びゆく世界で希望を捨てずに生きてゆこうとするそんなホルム一家だったが、メアリーの彼氏である荒くれ者のフレムという男がやって来たことで深い亀裂が入っていくのだった…。荒れ果てた近未来を舞台に、親子二代に渡るとある家族の物語を乾いたタッチで綴るバイオレンス・ドラマ。正直言って、舞台設定は凡庸という他ない。『マッドマックス』が製作されて以来、これまで幾百も創られてきた終末世界を舞台にしたアクション映画を踏襲しただけで、新しい部分は一切ないと言っていい。そこで繰り広げられる物語も、よくある親子の葛藤&復讐劇で大して面白いものではない。見所は、そんな凡庸な家族のドラマを終末世界というミスマッチな舞台で非常に丁寧に創り込んでいるところだろうか。ストーリーの重要な鍵となる荷物運搬用ロボットの造形も見ているうちに愛着が湧いてくるから不思議なものだ。家族を演じたそれぞれの役者陣のナチュラルな演技も見応えがあり、特に絶望的な世界でそれでも愛する男の子供を産もうとする長女メアリーを演じたエル・ファニングの可憐さはとても印象深いものがあった。と、そこらへんは素直に面白かったと言っていいだろう。問題は、先に述べたように舞台設定に一切新しい部分がなく、ずっと砂漠の映像ばかりが続くために途中で飽きてしまうところだ。もう少し新しい部分で勝負してほしかった。時折、はっと目を見張るほどいいシーンがあっただけに残念というほかない。
[DVD(字幕)] 5点(2016-08-26 22:56:46)
17.  ビザンチウム 《ネタバレ》 
娼婦として自由奔放な生活を送る母クララとともに、まるで世間の目から隠れるかのようにひっそりと暮らす美しい少女エレノア。200年前に起きたとある悲劇をきっかけに、彼女たちは誰にも言えない暗い秘密を隠し持っていた。そう、エレノアとその母クララは永遠に歳を取らない呪われたヴァンパイアだったのだ――。ある日、200年前からそんな彼女たちを追う謎の集団に見つかってしまった母子。すんでのところで逃げ延びたエレノアたちは、一人の孤独な男が支配人を務める寂れた元ホテル〝ビザンチウム〟へと転がり込むのだった。そこで新たに娼婦たちを集め娼館を開業しようとするクララ、永遠に続くかのようなそんな母親との鬱屈した日常からいつか逃げ出したいと願う娘エレノア、そして淫靡な秘密を抱えた彼女たち親子に振り回される周りの孤独な男たち……。果たして彼女たちの運命は?かつて、トム・クルーズ&ブラット・ピットという豪華なキャストで製作された『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』を世界中で大ヒットさせたニール・ジョーダン監督がふたたび挑んだのは、そんな妖艶な雰囲気が濃厚に漂うゴシック・ホラー作品でした。確かに、これまでのキャリアに裏打ちされたであろう全編に横溢するグロテスクでありながらどこか怪しげな美しさに満ちた世界観は秀逸だと思う。ただ、個人的に昔からこの監督とは微妙にセンスが合わないんですよね~。『インタビュー~』ももちろん観たし、この監督のそれ以外の代表作も何作か観てきたのだけど、いつもなんだか作りが優等生に過ぎていまいち僕の心には響かないのです。もう少し登場人物の人間味を感じられるような下世話な部分や、他の映画にはないこの監督ならではという観る者の心に深く突き刺さるような突出した演出とかがあれば良かったと思うのだけど…。でも、これはもう完全に好みの問題ですね。繊細でスタイリッシュな映像の中に、200年にわたって生き続ける母娘の確執を濃厚に描いたゴシックホラー作品としてなかなか良く出来ていたと思います。ただ、僕の好みとは合わなかっただけで。
[DVD(字幕)] 6点(2014-07-24 22:11:07)
18.  モスダイアリー 《ネタバレ》 
「9月5日、今日から私は毎日日記を書くことに決めたの。将来、16歳の自分に起きた出来事を全て思い出せるようにね」――。全寮制の女子高へと入学したレベッカは、そこで出会ったルーシーとなんでも話せる大の親友同士となっていた。学校に行く時も昼休みにご飯を食べる時もいつも一緒。レベッカはそんな大親友ルーシーとの充実した日々をいつでも思い出せるよう日記を書くようになる。ところがある日、向かいの部屋に転入生の少女エネッサがやって来たことから2人の関係に微妙な罅が入るのだった。どこか影のあるエネッサの魅力に次第に惹かれてゆくルーシー。焦ったレベッカはなんとか元の関係に戻ろうとエネッサの悪口をクラスメイトに言い触らしたりするのだが、もちろんそれが功を奏するわけもなく、2人の関係には決定的な亀裂が入ってしまう。でも、誰も知らない。実はエネッサには誰も知らない暗い秘密が隠されていることを。夜な夜な裸足で庭を歩き廻るエネッサ、彼女の部屋に乱れ飛ぶ蛾の大群、そしてまるで養分を吸い取られるようにルーシーはどんどんと痩せ細ってゆく……。全編にわたってそんな怪しげな雰囲気が濃厚に漂うゴシックホラー作品。なんだけど、いやー、何もかもがとにかく稚拙。まだまだ人に見せるレベルに達していない、かなり退屈な作品でありました。いちいち繋がりの悪い編集に、とっちらかったエピソードの数々(唐突に出てきてストーリーに最後まで絡んでこないルーシーのロストバージンシーンとか怪しい男性教師とのキスシーンとかいったい何の意味があったの?)や、欠片もセンスを感じさせないちっとも怖くないホラーシーン……。実質80分の作品なのに最後まで観るのがホント苦痛でした。だいいち、タイトルでもある〝蛾〟や〝日記〟という、魅せ方によってはいくらでも面白くなりそうなアイテムを全然巧く使いこなせてないとこなんか、もう苦笑するしかなかったです。まぁ簡単に言うと、駄作です、はい。
[DVD(字幕)] 2点(2014-07-21 11:25:55)
19.  アルバート氏の人生 《ネタバレ》 
19世紀、アイルランド。長年、ホテルの給仕として働いているアルバート・ノッブス氏には、とある秘密があった。それは、14歳のときに起きた悲惨な出来事をきっかけに女であることをひたすら隠し、ずっと男として生きてきたという悲しい過去だった。初老の域に差し掛かり、誰にもそんな事実を知られることなく、これから先も男として孤独に生きていこうとするアルバート氏。そんなある日、偶然にも同じような境遇で生きる男装の女性と出合い、彼女の幸せな生活に触れたことをきっかけに、アルバート氏は自分の孤独な生活を少しでも変えたいと願うのだったが…。数奇な運命を生きてきたある一人の女性の人生の晩秋を、淡々と描いた哀切な人間ドラマ。うん、地味ですけどなかなか良かったですね、これ。最初は多少の違和感が拭えなかったグレン・クローズの男装姿が、ストーリーが進むうちにどんどんと馴染んできてもう男にしか見えなくなってしまうのは彼女の熟練の演技力がなせる技なのでしょう(逆に中盤で見せる女もののドレスを着た姿の方が違和感ありまくりだったし笑)。そんな彼(女)が、ささやかな幸せを夢見て、騙されていることに薄々気付きながらそれでも必死で同僚をデートに誘おうとする姿は見ていて本当に切ないです。最後に、あの太った医者が思わず発する「アルバート、どうしてかくも哀れな人生を選んだのか…」という言葉に全てが収斂される、一人の女性の悲しい人生には深く胸打たれました。欲を言えば、もう少し彼女の悲愴感をドラマティックに描いてくれても良かったかなーとも思うけども、アカデミー主演女優賞候補も納得なグレン・クローズの抑えた演技が光るなかなかの良作だと僕は思います。アルバート、あなたの人生は決して哀れではなかったよ!
[DVD(字幕)] 7点(2014-04-10 19:01:39)
20.  シャドー・ダンサー 《ネタバレ》 
IRAの工作員として、兄弟と共にテロ活動に勤しむコレット。任務中、英国情報部員マックに捕まってしまった彼女は、息子の安寧と引き換えに内部密告者として働くことに。しかし、事前に計画していたテロ活動が当局の待ち伏せにより失敗に終わってしまった仲間たちは、次第に彼女とその兄弟たちに疑いの目を向け始める。追い詰められ、最後の望みとしてマックに縋りつくコレットだったが、マックもまた隠されていたとある真実により情報部内で孤立を深めていくのだった。確かに、あまりにも淡々と描かれた前半部分は少々退屈という側面は否めないけど、中盤以降のコレットとテロリストのリーダーとの息詰まるような遣り取りは充分に見応えがありました。まあ、マックとコレットが急にキスして愛情が燃え上がるシーンは、ちょっと唐突過ぎてびっくりしましたけど(笑)。もっと二人の関係を丁寧に描写してほしかったなー。でも、そこにさえ目を瞑れば普通に楽しめると思います。クライブ・オーウェンの抑えたシブい演技もなかなか光ってました。
[DVD(字幕)] 6点(2013-11-25 00:26:02)
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