1001. 12人の優しい日本人
《ネタバレ》 まさかオリジナルより面白いとは思いませんでした。とにかく、12人の陪審員がいちいち「いるいるこんな奴」という人たちばかりで、ずれまくる論点やかみ合わない会話を聞いているだけで笑いが止まりません(何人か、人格を強調しすぎで浮いている人もいますが)。また、オリジナルの弱点であった証拠関係の細かさについても改善されています。衝突寸前の2人の立ち位置とか、かなり無理がある論証もありますが、被害者の酔った度合いとか、移動のルートや経過時間の意味とか、目撃者の位置関係など、実際にも重要である要素にもきちんと言及されています。ただし、製作者が自分の想い(祈り)を正面から具現化したオリジナルに比べ、こちらの方は技巧に走りすぎているというイメージは拭えず、その点ではオリジナルの方が上ですね。あと、1人ずつ出て行きながらそれに合わせて字幕を出していくラストの長回しは良かったです。 [DVD(邦画)] 7点(2007-08-30 00:27:30) |
1002. 雨鱒の川
《ネタバレ》 少年時代の部分は、子役の演技力のなさに目をつぶれば、まあまあ見られる範囲内なのです。ところが、肝心の現在部分が、「なぜそこで君はそうするか?」「え?この関連はここで終わり?」の連発で、見るに堪えません。クライマックスであるはずの川辺の部分なんて、ほとんど崩壊しかかっています(しかもそこで閉幕とは・・・)。都会でめぐりあう同級生も、一体何のために出てきたのか分かりませんでした。いつの間にかお祖母ちゃん役をやるようになってしまった(!)星由里子に3点。在りし日の荒木道子のような雰囲気でした。 [DVD(邦画)] 3点(2007-08-26 21:29:14) |
1003. 涙そうそう
《ネタバレ》 何がまずいかって、至る箇所で頻出する説明台詞・説明描写の数々。それと、兄妹関係についての、味付けも何もない陳腐な描写。再会の夜に会話を求めて隣で寝るとか、兄の彼女にちょっと妬いてみながらも友好的に接してみせるとか、それがただちにいかんというのではないけど、それをストレートに画面上に出すだけしか能がないのはダメです。中盤以降の適当な展開については何をか言わんやです。大体、大学には当初は家から通学することも考えていたのだから、大学近くに別居したといってもそれほど遠い距離ではないはずなのだが、入学後1年以上も何も互いに音沙汰なしで、ある日突然再会に向けて盛り上がるって何なのよ。こういった基本的設定すら疎かにされると、醒めます。森下愛子に2点。 [DVD(邦画)] 2点(2007-08-26 19:22:27) |
1004. 手紙(2006)
《ネタバレ》 主人公は最初は誠実に受刑者の兄に接し、途中からは疎遠になるが、それでも兄の存在が自分に負の影響を与え続けることを知り、ある日縁切りの通知を行う。兄はそれによって弟の本心を知り、突然考えを改め、それと同時に対被害者との関係も一応の解決を見る。要するに、「逆ギレ一発」によって全部が都合良く解決しているのである(他方、主人公家族に偏見・圧迫を加えていた周囲との関係はどうなったのか、といったあたりは何も描写されていない)。物語の解決として、何とも安直だと思う。それまでの受刑者との意思疎通の部分をほとんど全否定し、自分の本音だけを押しつければ事足りると言わんばかりの持って行き方は、あまりに一面的に過ぎるし、かつ雑である。 [DVD(邦画)] 2点(2007-08-26 13:28:45) |
1005. ワイルド・フラワーズ
《ネタバレ》 特に期待していなかったので、意外な内容の良さにびっくりしました。一番良かったのは、リング上のトレーニングや試合のシーンを、小細工をせずに素朴に正面から撮り切っていること。リングのバタンバタンという音、選手の息づかいや表情、肉体の衝突する音や質感、まわりの声援(罵声?)なんかも全部そのまんま伝わってきます。こういうところで真剣にやっているからこそ、台詞がイモ臭かろうが、中心2人以外のレスラー陣が途中からほとんど無視されていようが、クライマックスに至る過程が都合良すぎだろうが、それらを押しのけて作品として心に残るのです。最初と最後に出てくる主人公の母親の手紙と同様、製作者のプロレスに対する深い愛情を感じる作品です。懐かしの志生野温夫アナの登場にもびっくり。 [DVD(邦画)] 7点(2007-08-17 22:31:07) |
1006. 七人の侍
《ネタバレ》 一番強烈だったのは、五郎兵衛の「はは、ご冗談を」のシーン。間髪入れず、平然と「ご無礼」と返す勘兵衛。両者の腕の立ち具合が一瞬で表現されている。それに匹敵する場面がどれくらいあるのかと期待して見ていたが、結局なかった。菊千代のキャラがしつこすぎて浮いているのと、勝四郎が最後まで邪魔なだけなのと、死に場面がみんな似たような感じなのが難点。 [DVD(邦画)] 5点(2007-08-12 03:03:28) |
1007. 薄れゆく記憶のなかで
《ネタバレ》 最初の説明的なナレーションとわざとらしい高校生活描写に、これはハズレ作品決定かなと思っていたのです。途中では、字幕翻訳が必要じゃないかと思うくらい聞き取りづらい台詞回し(ほとんど全員)に苛々していたのです。しかーし、それまでの伏線をふんだんに使った上に容赦なく切なさの底に叩き込んでくれるラスト20分で、一気に印象が変わりました。加えて、相当下調べをしたであろう気合の入ったロケーション撮影と効果十分な音楽をあれだけ全編にかぶせられたら、低い点はつけられません。ううっ。 [DVD(邦画)] 7点(2007-08-08 01:49:53) |
1008. 魚影の群れ
《ネタバレ》 この美しいタイトルからして期待してたんですが・・・。まず、夏目雅子がまったく似合わない天真爛漫元気娘路線の演技を強要されているのにがっかり。あの娘は、ひっそりと、凜と、楚々とした役に設定してこそ、海の男たちも引き立つというものでしょう。また、3つのパートがほとんど相互に影響していないのも、よく分かりませんでした(十朱幸代の役はこの話の中でどういう意味があるんでしょうか)。どきっとしたのは、佐藤浩市の負傷をいったん認識していながら、まるっきりそれを忘れてマグロの釣り上げに集中する緒形拳のシーン。漁師の凄みと気合を大いに感じさせてくれましたし、ここだけは長回しが成功していました。 [DVD(邦画)] 5点(2007-07-29 03:20:32) |
1009. 彩り河
《ネタバレ》 もともと、主題のはっきりしない話ではあるのだが、全体を見通しても、やっぱり何が言いたいのかはよく分からない。主人公の背景はかなり適当だし(言葉で説明されているだけ)、いろいろな登場人物がいるわりには事件の発生経緯はありがちだし、二人が結びつく過程も不明確である。それと、平幹二朗と夏八木勲の配役は、どうみても逆であるべきだったと思うけどな・・・。真田広之の若々しさに4点、今ではすっかりいい人になってしまった石橋蓮司の毒々しい不気味さに1点。 [DVD(邦画)] 5点(2007-07-25 00:53:55) |
1010. 明日の記憶
《ネタバレ》 演出として目新しい部分は特にないながらも、それなりに堅実にまとまっていると思っていたのです。終盤の入り口くらいまでは。しかし、肝心のクライマックスの部分・・・何でそこでファンタジーに逃げる?現実の生活に立脚したアルツとの関わりの表現に挑戦したからこそ意味があったのではないの?あんな解決をされては、美しい静寂で大いに期待させたオープニングにもつながってきません。むしろ、退職した後に突然会社に行こうとする、ああいった場面とか、あと、妻に対する認識すら失った後の両者の生活上のやりとりとか、そういったところを見たいのです。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2007-07-10 00:53:47) |
1011. 天空の城ラピュタ
《ネタバレ》 実は最も印象的だったのは、初井言栄さんの充実した声優ぶり。そりゃ、舞台やテレビで海賊の女親分なんて役は絶対不可能だから、本当にこの役は楽しかったんだろうな。それが声の端々から伝わってきます。気のせいか、画面上のドーラの表情もほかの登場人物よりよく描けているように見えます。●そう思って見てみると、この作品の名シーンは、(1)とぼとぼ戻ってきたパズーが、海賊団の仲間に入るシークエンス。「私の若い頃にそっくりだよ」の一言。(2)見張りの2人の会話を盗み聞きして起こるドーラの変化。(3)ナイフと銃の交換のシーンでの、パズーとドーラの信頼関係。と、どれもドーラ絡みなのです。 [ブルーレイ(邦画)] 6点(2007-06-18 00:56:58) |
1012. カオス(2000)
《ネタバレ》 歌野晶午という人は駄作率の非常に低い作家なのだが、そんな中でこのつまらない原作を何でわざわざ選んで映画化するのか、その時点で製作者のセンスを疑ってしまうわけなのだが、そこでさらに、ポイントの場面を矮小化もしくはカットして、どうでもいい部分を延々と流してぐしゃぐしゃにしてしまっているのだから、もうどうしようもない(ところで、あの子供は何の意味があったの?)。大体、舞台裏(真相)の部分を途中からあんなにばらしてたら、サスペンスとして成立しないでしょうに。主人公2人も、人格や背景の表現などまったくなされてない単なる操り人形です。とにかくひどすぎ。 [DVD(邦画)] 1点(2007-04-27 00:12:00) |
1013. 千と千尋の神隠し
《ネタバレ》 最初に見たときは、適当なキャラが都合良くあれこれ騒いでいるだけとしか思わなかったが、再見したら、何と案外悪くなかった。一番良かったのは、解決手段が、銭婆のところに「とりあえず行く(しかも電車で)」「返す」「謝る」という超シンプル行動であるところ。それとやっぱり、あの水面を貫く線路の幻想性。 [ブルーレイ(邦画)] 5点(2007-02-03 23:47:27) |
1014. 火星のカノン
ストーリーが平坦なのはまだいいとしても、会話が全部ボソボソ喋りで非常に聞き取りづらかったのは苦痛でした。ほとんど動かない中距離カメラ(もちろん、演技者の表情や仕草など撮り切れていない)がもたらす貧乏くささも何とかしてほしかったです。 [地上波(邦画)] 4点(2007-01-27 02:45:15) |
1015. 羅生門(1950)
それぞれがもっと大きく異なる話をして、全体が覆るような逆転の連続を期待していたので、意外に大筋においては違いのない内容の語りの繰り返しに拍子抜けしました。ただし、余計な要素を極力削って端的にまとめた作り込みの手法は、現在でも参考になります。 [映画館(邦画)] 5点(2007-01-11 01:28:22) |
1016. 天国までの百マイル
《ネタバレ》 時任三郎が内気な駄目息子を好演していました。導入から中盤までの展開もそれなりに無駄なし・ムラなしの描写で好感を持ちました。で、かなり期待がふくらんだのですが・・・着地が完全な失敗なのです。手術後の主人公の心理表現、そこからの動きというのをほとんど全部省略しているのは「逃げ」としか思えないし、あんな締め方では、主役は時任じゃなく大竹しのぶになってしまいます。何のために見ている側が主人公と一緒に鴨川までついていったのか分かりません。一応、中盤までを評価して点は甘め。あと、本筋とは関係ありませんが、小野寺殿下があんな悪役を自然にやっちゃってるのは、ちょっとショック・・・。 [DVD(邦画)] 5点(2007-01-05 00:16:49) |
1017. 日本の黒い夏 冤罪
事実経過の概要はある程度多くの人が知っている対象であるわけですから、きっと綿密な取材と検証を経た濃密な再現と解釈が提示されるのだろうと期待していたら、いきなり冒頭の高校生の語りでずっこけました。この作品を見る人の視点がこの高校生であることは誰でも分かる当然の前提であって、何でそんなことをわざわざ作中に盛り込まないといけないのかなあ・・・。現に、寺尾聰や石橋蓮司がどれだけ頑張っても、現在の取材シーンがずかずか入り込んでくることによって、作品の緊張感は容赦なくぶったぎられますし、当時の生の状況など伝わりようがありません。まあ、好意的に考えると、全部を再現にしてしまうと、映画表現としてのデフォルメは避けようがないとの判断で、あえて「確実に事実と確定できる部分」に絞ったのかもしれませんが。もっとも、こういったことを映像記録として残すことは重要ですし、志や目的意識の高さは評価すべきと思いますので、この点数。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2007-01-04 17:48:04)(良:1票) |
1018. ジョゼと虎と魚たち(2003)
《ネタバレ》 人物描写がかなり演出側の趣味に走っている感じで、もうちょっとで自己満足作品に陥りそうなのが、ぎりぎり踏みとどまっているという不思議な作品。何かいろいろからんで来そうな老婆を中盤であっさり消し去る手際と、感傷を排したラストのぴたりとした着地の感触が良い。 [DVD(邦画)] 6点(2006-12-31 23:54:25) |
1019. 北の零年
日本の映画界がいかに吉永小百合を都合良く使い倒し、そして彼女に依存し、しかも本人もその甘えを許してしまったかということの象徴的な作品。吉永小百合は当時59歳です。本当はもっと役者としての「老け方」を考えるべき立場だったはずなのですが、周囲がそれを許さなかったのでしょう。渡辺謙とはもちろん夫婦には見えませんし、まして大後寿々花とは、祖母と孫にしか見えません。●音楽がセンスゼロなのも皆様が書かれているとおりですが、それ以前にこのテーマ曲自体が、ルパン三世のテーマに聞こえるのが気になって仕方ありませんでした。 [DVD(邦画)] 2点(2006-12-26 00:50:36) |
1020. ラスト サムライ
《ネタバレ》 何かもう、あっちこっちがインチキっぽくて胡散臭いんだけど、なぜか不快感がないという不思議な作品。勘違いはいろいろあるとしても、一貫してすみずみまで真剣に対象に取り組む姿勢が共感を生むのだろう。とりわけ、とにかくサムライを格好良く撮ることに命を賭け、そのためにはエキストラの動員も美術や衣装の手配も撮影や照明の手間暇も存分に投入する覚悟が、我々の心を打つのである。なおかつ、この作品の最大の功績は、福本清三を60歳にしてハリウッドデビューさせ、しかも一番いい役を与えたこと。しかも、役名が「寡黙なサムライ」で、「最後の一言」以外台詞が一切なしだなんて、何とよく分かっていらっしゃる。これだけで、制作者は日本文化に対して真摯であると断言できる。 [DVD(字幕)] 7点(2006-12-11 01:49:02) |