1. わが青春に悔なし
黒澤明の戦後第一作。戦前の京大滝川事件、スパイゾルゲ事件を背景に、原節子が教授令嬢役を熱演する。ストーリーは戦中の国威高揚映画の反対の、取って付けたような戦後民主主義のプロパガンダで、深みはない。全編原節子、原節子による原節子ファンのための映画といってもよく、小津作品とは違った、若く美しく激しく、汚れ役にも果敢に挑戦する原節子が可憐である。(友人の感化により、すっかり原節子ファンになってしまった。) 6点(2004-08-06 06:13:37) |
2. ワンダー・ボーイズ
神童(ワンダー・ボーイ)をめぐる、疲れた男たちの再生物語。LAコンフィデンシャルの監督と神童を演じるサイダーハウス・ルールのマグワイアに期待し、評判も良かったので観たが、全然期待はずれ。二日掛けて何とか最後まで見たが、退屈極まりなく、取って付けたようなハッピーエンドに何の説得力も感動もない。大体、小説家の世界を描いているのに、文学的雰囲気が丸でない。そして、若い二人はともかく、疲れ果てた男女三人に何の魅力も感じられない。シニカル・コメディというコンセプトが上滑りして、全く洗練されていないのである。やっぱり、マイケル・ダグラス主演の映画にろくな物はないなと、改めて思ったことである。 2点(2004-06-27 19:44:29) |
3. 晩春
NHKBSで解説していた塚本晋也によると、小津ファン、原節子ファンに麦秋派と晩春派といるらしいが、俺は文句なしに麦秋派。原節子のファザコンなど何の魅力もないし、彼女は屈託なく笑っているのが一番可愛いのである。懇々と諭す笠智衆の説教臭い姿も嫌いである。 大体、俺自身、ファザコンの娘など気持悪いし、さっさと嫁に行って精神的にも金銭的にも早く扶養義務から100%解放して自由にして欲しいと思うのみである。嫁さんは「冷たい」と言うが、娘は娘、俺は俺、全く別の人生だと思う。ただ、娘の話によると、友達の親など、娘にべたべたな父親が結構多いらしい。 7点(2004-03-20 10:41:59) |
4. 毎日が夏休み
日本映画の佳作といった所。今やっている朝ドラ再放送で気に入っている風吹ジュンが出ているというので、深夜のNHKBSを録画して見た。女子高生役の日菜子ちゃんが可愛いという評もあるが、私には朝ドラより更に若くて可愛いジュンちゃんがたまらなく良かった。もっと豪華予算でこの監督に映画を撮らせたいという人もいるが、全く同感である。 6点(2004-03-18 17:30:18) |
5. 秋日和
ラストシーンを見て、この映画の主役はやはり原節子なんだなあと思った。生真面目な司葉子も、おきゃんな岡田茉莉子も若くて綺麗で良いが、この歳だと、老けたとは言え原節子の落ち着いた美しさの方が、現実味があって惹かれる。中年の男では、ひいきの佐分利信がやはり一番で、彼なら節子さんもOKしたのではないかと思ったりした(ドラマの本筋とは関係ないですが)。 9点(2004-03-03 06:57:20)(良:1票) |
6. どら平太
黒澤明ら「四騎の会」の第1回作品として共同執筆された山本周五郎原作の痛快新時代劇というが、使い古された新鮮味のない人物像、事件設定は、何もかもが類型的で漫画チックで、深みも重みもない。過去の黒澤-三船の「椿三十郎」、喜八-仲代の「斬る」のような、見終わった後の痛快・爽快感が全くないのである。浅野ゆう子がミスキャスト云々以前の問題であり、役所広司の孤軍奮闘が虚しく見えかねないのが限りなく惜しい。 5点(2004-02-25 10:53:49) |
7. 東京物語
親と子、そして死という人間永遠のテーマが淡々と描かれ、実の子よりやさしい戦争未亡人、原節子の再出発を願う義父と義妹の表情を写して映画は終わる。何か、原節子がますます好きになって来た。小津作品には必ずと言っていい程、最初と最後に列車のシーンが出て来るが、この作品でもそれがいい味を出している。また、終盤、去年2回行ったしまなみ海道の起点、尾道の風景が随所に出て来て、とても懐かしかった。 10点(2004-02-01 14:47:31) |
8. お茶漬の味
全編を貫くユーモアとラストの情感が非常に良い。見始めてから何度も腹の底から笑った。木暮実千代は今まで歳がいったアネゴ姿しか見たことがなかったのが、こんなに若いとさすがにいい女だと惚れ惚れとして見た。また、笠智衆が主役の小津作品はもう一つ得手でないが、佐分利信はこんな男になりたいとあこがれる男性像で、それも良かった。 10点(2004-01-28 16:47:23) |
9. 浮草
《ネタバレ》 やくざな旅芝居一座の世界を描いた作品で、僕ら一般人?には共感が得にくい内容と思いながら観ていた。でも、まっとうに生きようとする若い二人と、ラストの、そんな世界には到底戻れない男女の再出発とも言えない、ジーンと来る再出発の姿を見て、小津さんの言いたいことがわかるような気がした。何故なら、見方によっては、まっとうな世界に戻れない男女とは、人生の折り返し点を遠に過ぎ、大きい人生の変革などもう出来ない、我々のような中年の姿であるかも知れないからである。そして、その二組の男女の行末を温かい眼で見守る杉村春子の視線が、そのまま小津監督のそれであるのだと思った。 8点(2004-01-28 16:28:03) |
10. 東京暮色
《ネタバレ》 一からやり直したいとウワ言を言いながら死んで行く若い娘、全てを忘れるために東京から北海道へ男と旅立つ母、そんな母を見送らない代わりに子供のために家庭に戻るもう一人の娘、そして、あとに一人残る父。家族がバラバラになる暗い映画という、観る前の評判とは裏腹に、離れても人間としての絆を失わず、それぞれに再出発をする人々を見守る小津さんの視線が温かい。余談であるが、こんなに若い山田五十鈴を見たのは初めてである。 8点(2004-01-28 16:15:29)(良:1票) |