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しってるねこのちさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

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【製作国 : 日本 抽出】 >> 製作国別レビュー統計
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1.  幕末太陽傳 《ネタバレ》 
学生の頃に夜中なんとなくテレビを見ていたら本作がやっていました。 フランキー堺さんは名前が格好悪かったり、彼の四角い顔が生理的にダメだったのでかなり嫌いな俳優でした。 見終わった後にテレビの前で「ヤバい、これマジでヤバい…」と声を出して1人で呟いた事を覚えています。 映画好きになら解って貰えると信じて書きますと、とんでも無い作品を見終わった時に、リミッターを超えた満足度から来る高揚感で脳みそがゾワゾワして体全体が吹っ飛ばされそうになって叫びたくなるアノ感覚です。(私だけだったらかなり恥ずかしいです…) その頃からおっさんの様に落語と時代劇が大好きだった自分には、ど真ん中でした。 生理的に受け付けない役者さんの作品を見て180度見方が変わって最高評価になった人は私の中で3人いますが、フランキー堺さんはその中の1人です。 侍、女郎、客、使用人、楼主、居残り等のそれぞれの欲や思惑が乱れ舞う品川遊郭相模屋で、立川談志さんが言っていた様に人間の業を肯定しながら話は軽妙に進みます。 その中でも、堺さんがとんでもなくカッコ良いです。 台詞回しからは粋で破天荒な人間を感じ、所作は軽快で無駄は無くそれでいて不思議と品や優雅さの様なものが漂うシーンもあります。 相模屋の1・2階を動き回る姿はまさにバレエのプリンシパルです。 死に向き合いつつ抗い、全力かつ狡猾に生きているメメント・モリ佐平次は相模屋では無双です。 他の連中とでは素養と覚悟が違います。 堺さん自身もまた然りです。 左幸子さんや南田洋子さん等も好演していますが、堺さんと周りの役者さんとではレベルというか正直演じている次元が違う様に感じました。 バカみたいですが毎回見る度に、堺さんが前に見た時と違うことを言ったり、違う演技をするのではないかと本気で思ってしまう程、作中では活き活きと自由で自然に見えます。 ラストシーンは自分の意を汲んで貰えなかった川島監督が会社に対しての当て付けでわざと質を落したのではないかと思う程、テンポも編集もよく有りません。 加えて、作中にもカット割りや音声、編集の稚拙な所は有るのでマイナス3~4点になると思いますが余裕で10点です。 それらのマイナス要因は、この評価が揺らぐ様な事では有りません。
[DVD(邦画)] 10点(2015-05-02 22:32:23)(良:2票)
2.  用心棒 《ネタバレ》 
登場人物のキャラクターや話の設定はかなり自由ですし、脚本もギャンブル的な展開の所も有りますが良く出来ていると思います。 総じて面白くてカッコ良い娯楽映画に仕上がっています。  ハーフのチンピラ浪人が居たり、木槌を持った大男が居たり、マフラーを巻いてリボルバー拳銃を持ったヤクザが出てきたり、芸妓がみんな醜女で座敷に上がった彼女達がノリノリのラテンビートを奏でたり、話の舞台は周りから隔離された無法地帯のカオス的なシャッター通りと化した宿場町だったりと、問題だらけのチャンバラテーマパークのようです。 そんな所に行く先も名前も適当で、滅法強くて、お節介で、照れ屋で、天邪鬼で、情に厚くて、頭が切れて、物事に拘らなくて、ぶっきら棒で、掴み所のない浪人が来て、テーマパークのメインキャラクターになってしまいます。 この浪人を中心に、街は回り始めます。 正直この映画、この人で成り立っています。この人と言っても黒澤明の作った桑畑三十郎なのか、三船敏郎という人間なのかと聞かれると困ってしまいます。 本作で黒澤監督の描いたヒーロー像は他に例がない位にカッコ良くて魅力的です。 そんなキャラクターを、熨斗をつけて具現化出来るのは三船さん以外に思いつきません。 このコンビには毎回痺れます。 水を貰ったおじさんに嫌味を言われると困った顔をしたり、下衆な八州廻りを見て爺さんと笑い合ったり、女房を取られた悲観的な男を見て怒鳴ったり、でも結局助けてお金まで上げちゃったり、爺さんが捕まったと聞くと後先考えずに助けに行こうとしたりと、中二病を患っている様なハードボイルド映画の完全無欠の主人公ではなく、人間味に溢れている所に物凄く惹かれます。   また、ほぼ全編で効果的に使われているガチャガチャした音楽が世界観を重たすぎるものにせずに、調度良いテンポをつけ軽妙な作品にしています。  大満足の作品でしたが、ラストシーンの三十郎の後ろ姿も「金は全部やっちゃったし、途中で死ぬくらいボコボコにされたけど、タダ飯は食えたし、悪い奴は沢山切れたし、味方をしてくれた爺さんも救えて結構楽しかったなぁ。」と、私と同じくらい満足しているように見えました。
[DVD(邦画)] 10点(2015-04-25 18:18:14)
3.  七人の侍 《ネタバレ》 
 様々な映画の要素を真っ暗な部屋にある鍋の中にドバドバッと放り込み、ぐつぐつ長時間煮込んで電気を点けたら凄いのが出来ていました、という作品ではないと思います。  3人の凄腕の料理人がレシピを書き、その中の1人の天才が最高のシェフを集め、最高の厨房で最高の食材と最高の調理器具を使い、たっぷり時間を掛けて完成させた最高の大衆料理の様な作品だと思います。   時は戦国時代です。槍一本、己の武勲で素浪人から一国一城の主にも成れるようなジャパニーズサムライドリームの真っ只中で「ゴハン奢るから、野武士やっつけて」って言われても断られるのは当然です。ハイリスクウルトラローリターンです。 しかし、何時の世にも実利を選ばない奇異な人は居ます。20億円以上のオファーを蹴って4億円の年俸に応えるプロ野球のピッチャーのように…。    難航する侍集めをおざなりにせずに、時間を掛けて描くことにより、当時の世相や百姓が侍を雇うことが如何に無謀な事であるかを理解させてくれますし、それぞれの侍のキャラクターの説明や、彼等の個々の行動の説得力にも繋がります。 また、後半の怒涛の乱戦での決して大団円といかない結末に対する濃厚な前フリとも言える巧妙なプロットになっているとも思えますし、これらをサラッと描いていたら底の浅い作品になっていたと思います。   私にとって最高の作品のひとつですが、完璧なそれでは有りません。粗はあります。古さも感じます。しかし、それらを軽く凌駕する高揚感だったり、突き抜けたカッコ良さや、感情をジャイアントスイングされるようなダイナミックさがあります。   要因として特筆すべきは三船敏郎さんの演技力です(勿論、他にも沢山の要因は有りますが、書いていたらきりが無いので…)。 まさに水を得た魚のようにフレームの中を縦横無尽に動きまわり、台詞も何を言っているか聞き取れないほど吠えまくります。 また、彼が劇中で見せる豊かな表情や子供達を相手にしての演技などは、彼自身の人間的魅力とも感じさせられます。   しかし、彼がどんなに全力で演技をしても、決して画面からは窮屈さは感じません。三船敏郎さんの激情を伴った演技を、勢いそのままに映画に昇華させる黒澤監督の懐の深さは、孫悟空とお釈迦様の関係のように感じました。   本作のスタッフやキャストの方々へ、「七人の侍」を作って頂きありがとうございました。  
[DVD(邦画)] 10点(2015-04-12 12:35:53)
4.  鴛鴦歌合戦 《ネタバレ》 
80年近く前のモノクロ作品でタイトルが『鴛鴦歌合戦』…。 本サイトの平均点が高くなかったら完全にスルーしていた作品でした。(仮にそうしていたら、どれだけ損をしていたか) みんなのシネマレビューのみんなに感謝です。  時代劇をベースにして台詞は現代語。童謡のメロディーをスウィングジャズでアレンジして歌いまくっています。 まさに設定はやりたい放題で、登場人物たちも丁稚小僧がお店のお嬢様を貶してみたり、その町民のお嬢様が侍にインチキ大名と罵ってみたりと言いたい放題です。  特にお春は壷や日傘を叩き壊したり終始プリプリと怒っていますし、演じている市川春代さんは滑舌も良くなく、演技も歌も上手とは言えません(台詞回しも歌も声が張りすぎてしまって抑揚が感じられず一本調子になっています)が、彼女自身の愛らしいキャラクターを前面に出す事によってそれらを相殺する以上に粗略とも言える態度や仕草も魅力として映っています。 そんな彼女自身の魅力が作品自体の魅力に昇華されている面は、演出の妙とも言えると思います。  また、ディック・ミネさんの歌唱力の高さがミュージカルである本作を安定させていると共に彼が演じる峰沢丹波守の役所をヒールにしていない為に、いい意味で気を緩めて鑑賞できましたし、後味の良いコメディー作品になっていたと思います。 彼は歌手という事なので演技については触れない事にしておきます…。 他作品では中々見られない志村喬さんの超軽い演技の意外性を含めて、3人のヒロインや丹波守御一同など役者さん達を上手に使い切っている印象の作品でした。  オペレッタと言われている様に文字どおり小さな喜歌劇である本作は現代の造り込まれた映画に比べるとボリュームや内容で物足りなさを感じるかも知れませんが、ここまで気持ちの高揚を伴った満足感と幸福感を見終わった時に与えてくれる作品は最近のそれは疎か、時代を超えてみてもそれ程あるとは言えないと思います。 価値の有無は分かりませんが本作自体が私にとっての掘り出し物です。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2016-06-14 01:12:01)(良:2票)
5.  ホタル(2001) 《ネタバレ》 
山岡夫妻のしっとりとした関係を静かに見せていきながら、彼等を取り巻く太平洋戦争中の特攻という根の深い問題をバランス良く描いています。 反戦という一方的なイデオロギーではなくそれぞれが秘めている個人的な想いを言葉や行動によって静かに吐露させていますが、私には戦争そのものよりも彼等の死生観についての意味合いの方が強い印象がありました。 金山の遺族は朝鮮人が特攻で死ななければならなかった理由に拘る為に彼の死を受け入れられずに、藤枝は生と死両方(命を救ってくれた山岡と一緒に逝けなかった戦友)に負い目を感じながら昭和の終焉を迎えた時に恩人の山岡と決別し死んでいった戦友に再会する道を自ら選び、山岡はそれらの十字架を背負いながら生き続けます。 新聞記者の特攻として生き残った事が苦しみだったのかという問いに対して、山岡が生きるという事にそんな余裕はなく、生きている者も死んだ者も皆一生懸命前を向いて進んでいるだけだという答えは生死の差に意味が有るのではなく前を向いて進む事の大切さと同時に、金山や戦友への無念の思いを感じながら今日まで生きて来た事の辛さを安易に戦争に転嫁しない彼の強さを感じさせてくれます。 しかし、藤枝の自殺も戦友への呵責により生きる事から逃げたというような単純かつ軽率に語られるものでもないと思います。  ベテランの俳優さん達は全員安定していましたが、女優さんの演技が良い意味でも悪い意味でも特出していたと思います。 水橋さんの演技力は彼女の容姿と見事に反比例しています。 ことわざ辞典の「天は二物を与えず」の項目の参照例に彼女の名前が載っても良いくらいだと思いました。 対して奈良岡さんは重要かつ一人語りが多いという難しい役どころを大袈裟になる事なく完璧とも言える形で演じていた為に作品自体の説得力が数段上がったと思います。 また、田中裕子さんはほぼどんな役にも染まる事の出来る貴重な女優さんだと思いますし、彼女の表情で魅せる演技は本作でも活かされていました。 彼女の繊細かつ絶妙な表情の付け方は台詞以上に状況や心情を表現してくれます。 本作は彼女を始めとして配役がかなり良かったと思います。  回想シーンも差し込み方やタイミング等が良いために作品全体の抑えた雰囲気を壊す事なく自然な流れになっていたと思いますし、作品を通してシークエンス同士の繋ぎ方にそれ程無理がない為にストレスなく見る事が出来ました。  しかし、映像自体が粗末なものとなっていてVFXやSFXは論外ですし、画にも奥行きが感じられないカットが多数あり完全に興醒めしてしまいます。 字の下手な書道家の書き初めを見せられている様でした。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-07-17 17:55:19)
6.  近松物語 《ネタバレ》 
話は面白く映像は美しく役者は魅力的です。  主役の2人が登場人物達の波のように幾重にも重なった利己的な思惑に翻弄されながら話は進んでいきますが、お互いの愛を確認した所から利他的な行動を取っていた2人も徐々に自分達の幸せの為に周りが見えなくなりお互いを求め合うようになる話は、作中の時代と制作された時代の両方を考慮しているようで村社会から個人主義への変貌を表しているようにも見れます。 話自体も非常に良く出来ていますしストーリーの展開も俊逸です。 近松門左衛門の原作では2人はかなり強引な展開により助かってしまいますが脚色されている本作の流れから言えば、あのラストがベストだと思います。  茂兵衛とおさんが川を渡るシーンではフレームの右手前に朽木を配してそれを舐めるように2人が右奥から左手前に抜けていきます。 構図の良さは勿論ですが川を渡る2人とシルエットになっている山とそれより幾分明るい空の実像と、カメラアングルをローポジションにしている為にそれらをはっきりと映している水面とで上下でほぼシンメトリーとなっている画にわざとバランスを崩すように上記した朽木が配置されているカットは美し過ぎます。 2人が川を渡るだけでこんなにも美しい映像を堪能させて貰えるとは贅沢過ぎる作品です。 また、以三と助右衛門が障子と柱の後ろや前を見え隠れしながら行ったり来たりして密談している姿は、以三の腹黒さをまだ掴みきれていない助右衛門の不安な心境を表す十分な効果となっています。 そしてこの映像や構図の美しさを支えているのが的確なバランスで作られているライティングです。 ほぼ全てのシーンで違和感なく仕上げられている映像はこの照明に起因している所も大きいと思います。  南田さんの快活さと香川さんの品から色に変わっていく女性の演技はとても魅力的でした。 特に香川さんに関しては全編通して美しいの一言です。 長谷川さんの事はなんとなくは知っていましたが作品を見るのは初めてだと思います。 主役を貼れる人だとは物凄く良く分かりましたが職人さんには見えませんでした。 存在感が有り過ぎるのと演技としての所作が堂に入り過ぎている感じがしましたが、演出を少しだけ歌舞伎風にしているのでギリギリ作品には馴染めていたと思います。  ラストの馬上の2人の表情は見ている女中に台詞として説明させるのではなく、彼等の尺をもう少し長目にして表情を丁寧に撮る事によって2人の演技で語って欲しかったです。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-06-30 23:13:41)(良:1票)
7.  息子(1991) 《ネタバレ》 
年老いた照男や聾唖の征子は周りの人達から腫れ物のように扱われます。 一応福祉制度が確立されているこの国の社会では要介護老人や障害者は等級を付けられて区分されます。 制度運営の効率上、必要な事だと思います。 しかし、システム化が進む程、対象の人達も人格を持った一個人としてではなくシステムの一部として扱われがちになってしまいます。 本作はそのような社会へのアンチテーゼを訴えている様に感じました。 しかし、作中ではそんな社会に対する不満はタキさんや寺尾に怒鳴らせておいて、当事者たちの問題は身近な人間関係の中で展開されます。  田舎で一人暮らしをしている老いた父親を引き取ろうとする忠司の行いは立派ですが、長男の責任や世間への体裁以上の感情は感じられませんし、征子の周りの人達も彼女を気の毒な女性としか見ていません。 そのように扱われる彼等には、同じ目線で接してくる哲夫の存在は生きる喜びの本質を感じさせてくれているように思えたのではないでしょうか。 哲夫が照男に征子を紹介する時に「この人には俺が必要で、俺にはこの人が必要なんだ。」という台詞や、照男が哲夫に「お前いつまで俺に心配させるんだ。」という台詞で表されているように思います。 他人から頼りにされる事は自分の存在意義と、それだけで生き甲斐にも通じます。 そのような彼等を特別に清らかな存在とはせずに、頑固者の爺さんであったり、彼氏と別れる時に自分からキスをする積極的な面のある女性であったりと、監督も普通の人間と同じ目線で描いています。 また、この様なテーマを東京で苦労しながら暮らす息子の哲夫を通して極めて自然に溶け込ませ、且つ丁寧な情景描写として描く演出は、見ている側の感情に深く染み込んできます。 東京で頑張って自分の人生を切り開こうとしている息子に対して、不器用な父親が夜中にビールを煽って歌い出すプリミティブな感情表現は至極とも言えます。 特にこのシーンの黙々と歌う三国さんと、初めは少し驚きますが俯き加減で口元を緩める長瀬さんの表情と演技には引き込まれます。  ラストの出稼ぎから戻った時の家族が揃った回想シーンは、作中で一番色が鮮やかでありながら柔らかいトーンの画で描かれ、家に戻った一人ぼっちの照男の心境的対比となっているのと同時に、私には汲み取り切れないであろう彼の人生の重さや量の様なものを想像して感傷的になってしまいました。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-05-26 21:53:32)(良:1票)
8.  故郷(1972) 《ネタバレ》 
始まりは、NHKの瀬戸内海紹介番組かと不安になるほど淡々としています。 アクシデント的なものは健次の怪我と、魚屋さんが風邪を引いた事ぐらいです。 合理化・効率化が至上命題の高度成長期に翻弄される家族の移り変わりをゆっくりと静かに描いています。  役者さんの自然な演技は勿論ですが、山田監督の目立たないが基本的映画手法の高度な技術や、派手ではないが適切な演出や脚本が際立った作品だと思います。 必要な画を撮り、適切なカット割りを的確なタイミングの編集で繋いでいる事で、作品を通して映像的なストレスが無いので物語に集中出来ます。 ほぼ台詞を排除した石舟でのウインチを使った夫婦の作業などは、危険な重労働だという事が臨場感と共に伝わってきますが、決して一人称にはならずに作品の世界観を踏襲してあくまで情景として写している表現は俊逸です。  魚屋さんが労働者と船長は全然違うと精一に説きます。「給料が違う。船長さんはずっと安い。労働が違う。船長さんはずっと辛い。でも、船長さんは船長さんだ。」という台詞は大袈裟に解釈すれば、高度に産業化された社会の恩恵を受ける事と、人間としての尊厳を比較した時の目指したい理想的回答の様に聞こえました。 また、精一は家族の暮らしの為に島から出る決断をしますが、いざ船に乗る時に娘の千秋は島に残るおじいちゃんから離れません。 おじいちゃんのいる島に残る事を幸せと感じる幼い千秋の純粋な行動は胸を打ちますが、島を出る決断も家族の幸せの為なので大人達は子供以上に辛いと思います。  予想外の展開などが無い分返って、時代の流れに抗えない人達が気の毒にさえ映ります。 作品に対しては結局、「家族を養って生きて行く為だから、仕方が無いよね…。」という結論しか出せない自分にやるせなくなってしまいます。 刻みネギしか乗ってない名代の素うどんのような作品だと感じました。 天麩羅などは乗って無く極めてシンプルですが、味は確かです。 完食して最後の一滴まで汁も啜りましたが、そんな結論しか出せない自分には、切な過ぎて「おかわり」とは言えません。
[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-04-26 02:52:39)
9.  アウトレイジ(2010) 《ネタバレ》 
理数系監督の作品といった印象です。 閉じられた空間の中に「暴力上等」を伴った複数の因子を配置して、それらの一部にストレス(軋轢)を与え、各因子の相対的な反応を見ているようです。 空間内の視点から見れば因子同士の行動の目的はストレス問題の解決ですが、空間の外から見れば、単なる自滅とも取れる連鎖的因子崩壊です。 因子自体が持っている暴力的な特性上、極めて自然な結果です。 そして地球に人間が蔓延っている様に、最後に残るのは「知性派の謀反上等」の因子です。 ヤクザ社会のエントロピーの法則と進化に於ける自然淘汰論とでも言った所でしょうか。   話自体は難しくはなく、テニスのラリーのようにヤクザの報復戦の応酬が淡々と進んでいきますが、映像表現の迫力や、配役、役者さんの演技などのお陰でかなり見入ってしまいました。  特に椎名桔平さんのヤバい感じや、小日向文世さんの下衆っぷりは見ていて気持ち良かったです。   派手な画を撮ろうとして興醒めなCG映像に成ってしまったり、劇的な展開を目指し整合性のない脚本に陥ってしまう作品が目立つ中で、一方的な襲撃で銃撃戦(撃ち合い)は殆ど無かった事や、エキストラを多用した広い画のカットなども無く、話も単純かつ自然な流れでまとまっているので、作品的に広がりが余り感じられませんでしたが、失敗する要素を極力カットして出来る事を丁寧に撮っている印象があり、映像、脚本に隙がなったのでストレス無く見る事が出来ました。 作品をきちんと一本にまとめ上げる北野武さんの監督としての力量を感じました。 
[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-04-15 17:45:50)
10.  キネマの天地 《ネタバレ》 
大方の出演者が上手な演技をしている中で、主人公の有森也実さんがそれ程でもない演技をしていたように思えます。(周りの達者な役者さんと比べるのは少々酷かもしれませんが…) しかし、それが劇中の彼女の役とシンクロして、有森さんと小春の両方を応援したくなり、作品に入り込める良い要因になりました。 山田監督が意図した所なのか、偶然の結果なのかは分かりません。 緒方監督(岸部一徳さん)はロジックで、小倉監督(すまけいさん)は直感で、喜八(渥美清さん)は慈愛で小春に演技指導します。 馬の後ろ足の様な役をやっていた喜八が、難しいシーンを彼女に教える時に、役者としての引き出しが貧しい為に、秘密にしていた自分と小春の母親との過去を話すことによって、小春の素性が分かってしまうシーンは、胸が熱くなりました。   島田が「映画とは見る人の人生を変えてしまうような力を持っている。」と、言っていましたがその通りだと思います。 物語を語る事が出来る映画、演劇、本などは、前頭葉が発達してしまった人間にとっては、他人の人生を経験したり、夢や希望を抱く事も容易にさせてくれます。 私にとって本作はそこまでのものでは無かったですが、程良い喜怒哀楽を散りばめた質の良い話は、喜劇としては十分でした。 因みに、思想家カール・マルクスにも勿論兄弟はいました。   直近に起こった喜八の死を知らずに真っ直ぐに前を向き歌う、凛とした小春のシーンは、とても印象的でした。 小春個人に、この先の日本の映画産業を重ね合わしているような制作サイドの鼓舞と願望にも写りました。 その様な映画業界への批判や願望は御社の会議室でやって下さい、というシーンは何箇所か有りましたが、それらも含めて作品として昇華されていたと思います。   作品では死を単純に悲観的なものではなく、自然の摂理と捉えているようにも感じられました。全体的に人間関係の妙を丁寧かつ軽妙に情景として見せつつも、浪花節全開にならない山田監督の演出は、好感が持て非常に楽しめました。  
[CS・衛星(邦画)] 9点(2015-04-14 18:29:36)
11.  日本侠客伝 花と龍 《ネタバレ》 
明治末期の北九州で前半はゴンゾウという石炭流しの一人夫として、後半は若松で棒芯を経て組の小頭として健さんが大活躍します。 本作より5年前に公開された一作目の日本侠客伝では些か小頭としては少し線が細くて若すぎるきらいが有ったように思いましたが、この時期の健さんは何方の役どころも違和感なくピッタリとハマっています。 後半の任侠映画特有の展開や立ち回りなどは作品的に特出する所はそれ程無く進んで終焉を迎えますが、前半の話は健さんの若々しさと相俟ってかなり楽しめます。  ゴンゾウの仕事は喧嘩も兼ねているとの事で、荷役を巡りライバル業者相手に負けそうになると当然のように実力行使の手段に打って出る展開を見て、仮にも近代日本の話なのにこんなバカな解決法でいいのかと思ってしまいましたが、軽く調べてみると荒唐無稽でもない事に改めて驚かされてしまいました。  友達を頼って新天地に着き徐々に周りの信頼を勝ち得ていく玉井金五郎という若者を若さと渋さが調度良く混在している当時の健さんが見事に演じきっています。 そんな彼の魅力を感じさせて貰えるのが友達の新之助を傷めつけた相手のいるヤクザの親分達の酒宴に単身乗り込みに行くシーンです。 真っ直ぐな眼差しで相手を見据えて歯切れの良い台詞で啖呵を切る健さんは利他的で曲がった事が許せないが故に他人を惹きつける主人公が持っているキャラクターの説得力を増すと共に高倉健という人そのものを見せつけられた気がして高揚感と同時に爽快感を味あわせて貰いました。 また、このシーンではここでしか出ていない若山富三郎さんの淡々として大袈裟では有りませんが確かな存在感も堪能できます。 個人的には山本麟一さんが特に良かったですが、他の脇を固める役者さん達も地に足を付けた演技で安心して見る事が出来ますし、テンポは速くないのですが話が面白いのでリズム良く加えて心地も良く進んでいきます。 台詞などで説明せずに映像や情景で状況や心情を表しているのもその要因のひとつだと思います。 タバコの件や薬と一緒に菊の花を持って行くおマンの行動で見せる彼女の玉井への恋心が芽生える表現等は的を射た丁度良さが有り、見ていて演出の上手さを感じると共にとても気持ちが良かったです。 唯一、品と優しさを拭い切れない二谷英明さんが肉体労働者とヤクザの役というところに無理があった気がします。  本作を含めてこの様な義理人情全開の任侠映画を見たのはまだ3本目なのですが、それが持っている典型的な展開等は私の想定内に収まっていましたが、どの作品もドラマ部分の質の高い作りには正直驚かされてしまい嬉しい誤算でした。 当時、任侠映画の人気が高かったのは実はこの様なドラマとしての面白さにも起因しているのではないかと思える程楽しませて貰いました。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-08-10 22:52:52)
12.  学校Ⅱ 《ネタバレ》 
前作は田中邦衛さんが本作では吉岡秀隆さんが素晴らしい演技を見せてくれました。 「北の国から」の親子、恐るべしです。 がっかりするような演技をする役者さんが1人もいなかった為に作品に集中出来ましたし、映画としてその事が如何に大事かを改めて感じさせて貰いました。  竜先生が「与えるとか教えるとかではなく、自分達の仕事は子供達から学んだ事を返してやる事だ」いう趣旨の台詞を言っています。 一見すると謙虚で子供達の目線に立った言葉のように感じますが子供達に責任を負わせながら生産性のない内容の台詞になっているように感じました。 現実的には学校教育は理屈だけで何とかなるものではない事は理解しているつもりですが、持論を書かせて貰えればこれとは全く逆で「教える事によって子供達から何かを返して貰う」事が教師の仕事だと思います。 何かとは教えた事を覚えて(理解して)貰う事は勿論、学ぶ事への知識欲だったり、物事への探究心だったり、単純に教えて貰った事への感謝や嬉しさだったりと、それらの中でどれでもいいと思います。 ギブアンドテイクの最初のギブを教師からではなく子供達から求めていてはそれこそ高い給料を貰って楽をする行為だと思いますし、子供達の何倍もの歳や経験を重ねて来た人間が教える気概を放棄してしまったらそこは養護学校ではなく養護施設になってしまうと思います。 あくまで子供達から学ぶ事は教育現場での付加価値であり、それを教育理念としてしまうと教師達の教える事に対しての責任放棄にも見えてしまいます。 養護学校と一般的な学校とではやはり違いは有るのでしょうが、竜先生の彼等を特別扱いするなという言葉を受けるとそこにも落とし所は無いように思います。  批判的な事を書かせて貰いましたが本作には自分でもびっくりするくらい泣かされたのも事実です。 正直に言えば納得出来なかったのは上記した理屈ぐらいであとは堪能させて貰いました。  はじめの方で竜先生の財布を自分の机の上に置かれただけで潔癖症の女の子が滅茶苦茶嫌がっていたのに、卒業式の日の教室で彼女が竜先生に普通にリボン徽章を付けてあげている所などは山田監督のシレッとしたさり気ない演出の上手さを感じてしまいます。  音楽が全体的に感傷的になり過ぎずに情景をしっかりと支えている質の良い楽曲が多かった印象でしたし、スタッフロールの後ろで流れていた曲などはオカリナの包み込むような温もりのある音色が作品のイメージに非常に合っていたと思います。  また、高志や佑矢の笑顔が殆ど校外での出来事でしたので、校長の「学校の出来る事はしれてるんだよ」という台詞が何気に印象的でした。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2015-07-13 00:33:22)(良:1票)
13.  学校 《ネタバレ》 
山田監督の単語タイトルシリーズとも言えるもので、それらの作品はテーマに対してかなりストレートな内容になっています。 台詞や脚本も殆ど捻ったりせずにベタとも取れる言い回しや展開になっています。 その為に演じる役者さんの技量が低いと見ている側が恥ずかしくなってしまいます。 オムニバスのような各生徒達の回想シーンを絡ませた前半部で所々集中出来なかったのはそのような理由だと思います。 特に萩原さんの演技には困ってしまいました。 ミュージシャンが本業である大江千里さんのお医者さん役の方が安心して見ていられたのは何とも皮肉な事です。  後半のイノさんのエピソードになるとグッと作品に引き込まれます。 田中邦衛さんはやはり尋常では有りません。 本作での田中さんは何処という事ではなく全てのシーンで際立っていたと思います。 役柄にハマっていたという事も有りますが、作品を壊さずに自分を余すことなく主張できる数少ない役者さんだと思います。 少し大袈裟な所作と、大きく息を吸ってから口を窄めて喋る台詞とで独特のリズムを作って見せる演技は彼の風貌と相俟って唯一無二ですが、不思議と周りと協調できてしまいます。 単に自分の演技の事だけを考えて全面に出しているのではなく周りを見ながら微妙な所でバランスを取っているのだと思います。  オモニの焼肉屋での黒井先生とイノさんのやり取りはやるせない程切なくなってしまいました。 社会の中の大人として相手に常識的対応を求める黒井先生と、人として男としての感情を相手にぶつけるイノさん、それぞれの立場からすれば双方共それ程間違っていないと思います。 同情や哀れみを示しながら「同じ人間として」と言う無神経とも取れる黒井先生にイノさんが怒ってしまいますが彼の乱暴な行動によってイノさんがお店からつまみ出されてしまいます。 教養の有る者が教養の無い行動を取った者を無慈悲に社会から排除しているようにも映ります。 社会は教養の有る者によって作られていますし秩序を保つには当然の振る舞いですが、お店を出されるイノさんが黒井先生に言った最後の言葉は生きる事に不器用な者達の心の叫びにも聞こえました。  作中では幸福を理解する為に勉強すると言っていますが、勉強をする為の学校で逆に不幸になってしまう生徒がいる現状ではこの様な例外的な夜間中学校や他の受け皿の存在意義は大きいのではないかと感じました。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-07-10 20:20:39)
14.  トゥモロー・ワールド 《ネタバレ》 
ちゃんとした形があった物を2,3太刀入れてバッサリと切ったような作品。 ゲームを買って来てケースを開けたら説明書がB4の紙切れ1枚だけでプレイしながら覚えていくしかないような作品。 しかし、そのような見せ方がとても気持ちが良かったです。 余計な情報が無い分、返ってカフェの爆破テロからトゥモロー号に辿り着くまでの濃密な内容だけに集中出来ました。  ダビデ像、ゲルニカ、バターシーの豚、階段の下の倒れた乳母車(なんでこの時代に…)等の象徴的芸術作品の見せ方や音楽の使い方で作品自体はそれ程重厚ではないものだと認識出来ます。 『子供の生まれない世界』も映画のテーマではなく要素の1つとして見た方が良いかもしれません。 話の内容、映像の迫力、映像のギミック、個性的な登場人物等によってシーンごとに見せ所が目まぐるしく変わる為に見ている側を飽きさせない演出は見事です。  子供が出来なくなる為に種の存続が出来なくなり希望を失った人々が刹那的に生き退廃的な社会になるというロジックで作中のような世界になるという可能性は選択肢の1つとして有ると思います。 そう考えると世界の秩序を保っているのは警察でも軍隊でも思想家のイデオロギーでもなく、子供達ではないのかと言う事が出来るかもしれません。 ファロンがキーと子供を探して廃墟ビルの3階まで上がる途中には泣き叫ぶ住人や活動家と軍隊の激しい攻防の混沌とした中を進んでいくのに対して、保護した2人と降りて行く時には立場が違い殺し合っていたそれぞれの人達の間に争いが無くなり秩序が生まれ、しかも彼等は勿論の事ファロンとキーも理由を完全に理解し切っていないこの情況は人としての本能のなせる業(わざ)として説得力を感じさせてくれる映像になっていました。 しかし、ルークやシドのように自分達の思想や私欲の為に利用しようとするのも人間の業(ごう)として確実に存在するものとしてバランス良く描かれているのには好感が持てます。  作品は単純に逆境の中を母子が「トゥモロー号」まで辿り着いた事を描いているのであって彼等がヒューマンプロジェクトに救いを求めたことが正しかったのかは見ている側も彼等自身も判断出来ません。 いきなりブラックアウトして終わってしまうラストカットを見てもそこに手放しで受け入れられる希望を映し出していない事は明らかです。 しかし、邦題の「トゥモロー・ワールド」は明らかに船の名前とリンクさせて『明日』という言葉を強調させており勝手に希望を抱かせるようなミスリードをさせています。 配給会社の担当者が自分の勝手な解釈で、しかもセンスの欠片も無いような邦題をつける事は、素人の私が勝手に読まれているかどうかも分からない映画評をしているのとは重みが違う行為なので止めて貰いたいと思いました。
[CS・衛星(字幕)] 8点(2015-07-05 18:17:48)
15.  歩いても 歩いても 《ネタバレ》 
阿部寛さんの演技は最近では褒めるのが当たり前になって来ました。 信夫を演じた高橋和也さんが役どころも良く作中では光って見えます。 特筆すべきは、孫達を演じた子役と言ってしまったら失礼に値する3人の役者さんです。 作品を通して大人達が作っている淡々と安定した世界観を壊すことなく、それどころか作中での夏という季節にシンクロするように作品に瑞々しさを与えてくれています。 3人の演技は勿論ですが『そして父になる』での子供達も同様の印象だったので是枝監督の演出や撮影現場の雰囲気作りが卓越していると考えるのが自然だと思います。 百日紅の紅い花を手に取って遊んでいるシーンは本当に素晴らしかったです。  家族だから言えない事、言ってしまう事、家族なのに伝わらない事、伝わってしまう事、家族の中で比較してしまう者、比較される事を否定する者、比較の対象として受け入れて貰いたい者等を親族の死を絡め、何気ない伏線を自然に回収させながら絶妙の距離感や台詞と丁寧な脚本、映像で厳しさや優しさとして小さくすれ違いながら表現されています。  長男の墓に水を掛けながら語りかけるとし子を死んだ兎に手紙を書こうと言った友達を笑ったあつしがじっと見ていますが、何年後かの墓参りで良多も同じ事をしています。 あつしの中に良多がじわじわと入ってくるというシーンを基に考えると、そんなあつしにも彼等の行動を理解する日が来るのかもしれません。 また、助けられた男性を長男の仏前に呼ぶ本当の理由を吐露するとし子の後ろで低く一定に鳴る換気扇の機械音は彼女の消える事のない怨念のような不気味さを増幅させる効果となっています。  登場人物が画の中にわさわさと居ても各人が的確な演技を見せてくれています。 しかし自然ではあるものの演技や演出に無駄や隙がなさすぎるので作品全体が無機質になってしまう箇所もあり、話の抑揚がかなり抑えられて各シークエンスもそれぞれに完結してまっている所が多く、そこからの発展が少ない為に見ているこちら側が委ねられるような大きな流れのようなものを感じられません。 この様な演出は監督の狙いだと思いますし私自身も劇的な展開やあざとい心理描写等を本作からは望んではいませんし程度の問題だと思いますが、話の本筋というものが掴みづらいと単なるサイドストーリーの集合体で成り立っている俳優や雰囲気で見せる作品という印象になってしまいます。 そこに少し上手過ぎる演出の弊害のようなものを感じてしまいました。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-06-19 18:58:41)
16.  マイ・バック・ページ 《ネタバレ》 
話自体はまあまあ面白いのですが、作品の核となるテーマが掴みづらいので長尺で抑揚の余り無い本作は、話が展開していっても客観的にしか見られないので少々ダレ気味になってしまう箇所も有ります。  作品を俯瞰的に見ている観客には梅山も前園も『本物』でない事は簡単に看破できます。 目的は自己顕示で、思想は空っぽで、行動はノリです。 過激な思想家というより打算的な夢想家という感じに描かれています。 その時代を代表する様な連合赤軍の実録本等を読み彼等の内情を理解すると、革マル派等とうそぶいていた左翼を平均化した人間が、梅山という中身の無い無駄に言論武装したキャラクターの様に感じます。 東都出版の先輩記者達が梅山を『偽物』と見抜くのに対して、CCRの曲を一緒に歌う事で共通のアイデンティティを見出し、その程度で沢田が梅山にシンパシーを感じてしまう表現等は大人と子供の間にある壁や、沢田の幼さを上手く描いていると思います。 しかし、沢田も徐々に梅山の人間性に疑問を抱く様になり「君は誰なんだ」と問い詰めます。 結局、梅山にとって沢田は都合の良い道具でしか無く、騙され、利用され、裏切られ、それが原因で沢田の青春の1ページであったマスコミでの仕事も辞める羽目になれば、沢田の悔しさは計り知れないものだったと思います。  月日が流れて沢田は居酒屋のカウンターを挟んで偶然タモツと再開し、彼と過ごした日々を思い出しながら語り合い、そして気付いたのではないでしょうか。 潜入取材という利己的な目的で自分の素性を偽りタモツに近づき彼を利用して、罪悪感を感じつつも記事を書いた事を。 ウサギを真剣に売っているタモツの横で彼のしている事とその状況を笑いながら傍観していた事や、ウサギを死なせてしまった事をお金で解決しようとした事を。 結果こそ違うが自分がタモツに対してとっていた行動は、マスコミという世界と真剣に向き合っていた青春の1ページの中で、梅山という身勝手な人間が青臭い自分に対してとった侮辱にも値する行動と同じだったのではないか、という事を。 そして今までその事に気付かなかった自分の浅はかさを。 勿論そんな事を当時も今も知らないタモツが、キリストにあげたスーツを本当は沢田にあげようと思っていたと言われれば彼が泣いてしまうのは当然だと思います。 大人の男が泣く事の伏線をもう少しぼかして気付くか気付かないか、このシーンを見て思い出す程度に上手く張って貰えれば私も一緒に泣く事が出来たであろうし、泣きたかったので残念です。 重要なシーンへの伏線を明確にさせ過ぎると逆に冷めてしまいます。  私自身も今まで気付かぬままに、『青春』や『若さ』という未熟な思い込みの特権で、『我武者羅だったから』とか『周りが見えていなかったから』等の言い訳にもならない様な理由で、他人の世界を踏み荒らしたり、その人自身を傷つけたりして来たのではないかと、鋭く問い質される様なラストのシークエンスは泣き崩れる主人公に自分を重ねずにはいられませんでしたし、作品的にも瞬間的に引き締まったものにして切ない余韻を残しつつ上手に纏め上げられていると思います。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-06-12 19:06:38)
17.  網走番外地(1965) 《ネタバレ》 
冒頭の如何にも顔見せ的な受刑者が順番に言う一言コメントや、風呂に入る前の一発芸大会や台詞等に違和感を覚えるシーンは多少有りましたが、本作を見ながらタイガーマスクや巨人の星を子供の頃に見た時にも「昔のアニメは言葉遣いや見せ方がヘンテコだなぁ」と感じた事を思い出しました。 制作されたのが共に昭和40年代前半という事なので、私が感じた違和感とは演出的な問題ではなく時代的要因から来る古さなのでしょう。  脚本自体のプロットは上手く出来ています。 回想シーンが唐突に入る等の印象は有りますが全体的にテンポは良く、如何にも弱々しい年老いた阿久田が鬼寅だったという一連の展開は俊逸です。 作品が始まる前の解説で鬼寅の正体を自称映画好きという元アナウンサーがしれっとネタバレさせていたのには本当にガッカリしました。作中の登場人物を軽く凌駕する一番の極悪人です。  俳優達も受刑者を活き活きと演じています。 田中邦衛さんはやっぱり田中邦衛ですし、嵐寛寿郎さんの前述のシーンには重厚な迫力を感じます。 権田の不愉快で気味の悪い人間性は見ていて本当に不快でしたが、逆に南原さんの演技力の高さという事だと思います。  モノクロというのも予想外でしたが、雪と対象物のはっきりとした強めのコントラストが美しく、ジム・ジャームッシュ作品の様なすっきりとした映像になっています。(勿論、本作の方が早く作られています) また、迫力溢れるシーンでの映像はこの作品を質の高いものにしている特筆すべき要素だったと思います。 トロッコでの追跡劇や汽車で鎖を切る一連の編集やカメラワークはスピード感や臨場感が有りましたし、食い入る様に見てしまうシーンは他にも多々有りました。 真っ白な雪の中でお互いに鎖で繋がれた、ある意味自由の効かない橘と権田が殴りあうシーンに、無限に広がる大空の中を自由に飛んでいるカラスが争っている様なカットが何度も差し込まれますが、まるで争う事は状況が原因ではなく闘争本能という逃れられない生き物の性が原因であると言っている様で虚しさすら感じてしまいます。  ラストでは大怪我をした権田を病院に連れて行ってくれるなら何でもすると人間的な良心を示す橘の要求に監察官の妻木が了承し、それに加え脱獄犯の2人に対して銃すらも携帯せずに同伴する妻木の行動に嬉しさが込み上げて来る橘が病院に行く為に馬を走らせる姿で終わります。 恐らく家族以外から信用を得た事のない橘が初めて他人から信用して貰えたであろう人間の根源的な喜びを、高倉健さんが子供の様な表情で見せているこのラストシーンはとても印象深いものになっています。 古くても時代を感じさせない優れた作品は有りますが、本作は時代の古さを感じつつも優れた作品になっています。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-06-04 20:00:56)
18.  昭和残侠伝 死んで貰います 《ネタバレ》 
この手の任侠映画をちゃんと丸々一本見たのは初めてでしたが、かなり良かったです。 役者さん達の着物の着こなしや台詞の日本語が自然で美しく、見ていて気持ちが良かったです。 任侠映画の必須項目である義理や人情をこれでもかというくらいに全編を通して表現されていますが、教訓としてではないので説教臭くなること無く見ることが出来ました。 女将さんが義理の息子と知りながら接していたことや、駒井から幾太郎を守るために秀治郎が叱責し、更に秀治郎を守るために重吉が飛んで来てぶん殴るシーン等は逆にストレート過ぎて妙な安心感と同時に心に響くものがありました。 駒井が勧進帳の富樫左衛門になる訳が無いのは解っていますが最後まで本当に嫌な奴でした。 諸角さん、良い意味で最悪です。 湿っぽい浪花節の中で長門さんのコメディリリーフ的なひょっとこの松は非常に効果的でした。 12年間位の話ですが急ぐ事無く調度良いテンポで、シンプルですが一つ一つの内容を丁寧に描いていたのでとても見易かったです。 秀治郎が幾太郎に初めて出会ったのも雨、刑期を終え再開したのも雨、警察に連行され離れ離れになるラストのシーンも雨、日本人には『雨』という情景だけで伝える事が出来るものがあると思いました。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-05-03 19:23:43)(良:1票)
19.  ザ・マジックアワー 《ネタバレ》 
過去の映画作品のパロディやオマージュをふんだんに挿入して誤魔化さなければ恥ずかしくて描けないような使い古された設定と展開ですが、そこまでこのプロットに拘っただけの事はあり大変面白かったです。 地に足が着かないで浮ついているが緩すぎない世界観が話の展開や登場人物のキャラクターを無理の無いものにして見易くしてくれていますし、この様に笑うために調度良い世界観を作品を通してキープして貰えるのはコメディ映画を見るに当っては非常に助かります。 監督の行き届いた演出に依る所が大きいと思います。   他のレビュアーの方同様、佐藤さんの絡んだシーンは非常に魅力的でした。 コメディパートでは、大根役者が下手に演じている事が面白いのではなく、演じる内容が面白くそれを村田のアクの強さで際立たせているといった感じで、見ていて大笑いしてしまいました。 騙されて演じているシーン、騙されていると気付かないで備後やギャング達と過ごしているシーン、騙されていたと気付いてからのシーンのそれぞれのシチュエーションに適した演技を大胆かつ微妙な加減で演じ分けているのは素晴らしかったです。 また、ゆべしの現場で屈辱を受け、雨が降る夜のセットのスタジオの扉を開け、現実の昼間の世界に出て行く後ろ姿が光の中に溶け込むシーンや、劇場で自分が写っているスクリーンを見て感極まってしまうシーンなどはとても印象的でした。 小日向さん演じるマネージャーがいつも村田の味方になっていたのも見ていて好感が持てました。   しかし、戸田恵子さんの役どころはいちいち面倒臭かったですし、高瀬と村田の会話はくどくて長過ぎるように感じました。 いっそ、「マジックアワー」というタイトルの拘りを捨て、その辺りのエピソードも変えてスッキリさせた方が良かったのではないかと思ってしまいました。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-04-27 00:22:27)
20.  沈まぬ太陽 《ネタバレ》 
 JAL…あっ、ごめんなさい。NALは動物園の動物の様でした。 獲物を狩る努力ではなく、国の役人という飼育員から補助金という餌を貰い、それを奪い合う事に力を注ぎ、余った餌は飼育員の私服のポケットに返すといった印象です。   組合長の恩地の運行安全の為に賞与を上げるという理屈も詭弁に聞こえました。賞与アップと運行安全は直接繋がらないと思います。 もし、本気で安全性向上を考えるのなら、賞与の差額分で整備員を増やしダブルチェック体制を取るとか、整備機材などの設備投資に廻した方が現実的だと思います。   市場からの売上げのみで運営している一般の会社から見れば、労使交渉も含めて、JAL…あっ、ごめんなさい。NALは、お気楽な会社ごっこです。   作品自体は原作未読という事もあり楽しめました。長尺な時間も気にならず、役者さんの演技や配役も良かったと思います。 宇津井健さんの演技は安定していましたし、憎しみを持って見てしまうほど三浦友和さんも仕上がっていたと思います。   恩地が息子と牛丼を食べているシーンや、娘婿の親と喧嘩して手を繋いで奥さんと戻るシーンは良かったですし、特に八木の転落していく過程の中で、組合運動で自分が輝いていた頃の写真を縋る様に見つめ、現実から逃避している姿は、私も八木と同様に、主人公の様に強い人間ではないので目が潤んでしまいました。初めて香川照之さんという役者さんが良いと感じました。   映像に奥行きが無くのっぺりとしたカットが多い印象でしたが、社会派ドラマとしてなら許容だと思います。 唯一CGが悪い意味で際立っていました。調子が悪かったのでしょうか。
[CS・衛星(邦画)] 8点(2015-04-13 15:49:34)
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