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1.  侍タイムスリッパー 《ネタバレ》 
 全国上映展開されたすぐ後に地元で観に行ったのですが初回は「SOLD OUT」で視聴できず、後日再チャレンジしてやっと観られた感じです。観た日もほぼ席はいっぱいで盛況でした。   情報的にはSNSで話題になって、東京1館でしか上映されてなかったのが連日満席で全国展開が決まったというのは認識しており、観たいなと思ってました。「カメラを止めるな!」と比較されてインディーズ映画でも面白げな話なのかなあと思いつつ。   率直な感想としては、メチャメチャ面白かったです!   ハラハラする超カッコいい本格的な鬼気迫る殺陣に、タイムトラベルネタ的な笑いあり(劇場中が笑いに包まれてみんなで映画観て楽しんでるなあって感じが非常に良かったです)、ホロっと泣ける話もあり、あと、個人的にはそれだけで十分インディーズ映画として元が取れて大満足だったのですが、その先にさらなる驚愕の展開があるという予想を上回る出来で、インディーズどころか全映画の中でエンターテインメントかくあるべき、時代劇エンタメ最高! と快哉を叫びたくなるような素晴らしい作品でした。   映像的には、時代劇としてあまりにもクオリティが高く「これ本当にインディーズ映画なのか!?」と疑ってしまったのですが、インタビュー記事など見ると脚本を気に入った東映が全面的にサポートしてくれたみたいで(ただ予算節約のため舞台のオフ期に撮影されたとのことです)、映像的には本格的時代劇とまったく遜色ないレベルの作品となっておりました。   特に"殺陣"の部分が、主人公が斬られ役の殺陣師に入門する設定なのもあり、どこもかしこも殺気立った緊迫感のあるカッコいいものになっていて、あの抜刀して刀を鞘に納めて"チャキン!"てやるだけで、ああたまらん! と思ってしまうのですが、これが主人公は当然として、端役の隅々まで行きわたっててみんなカッコいい。主人公の当て馬的、チャラい二枚目俳優の心配無用ノ介すらも、漫画チックなコテコテな役をしてるのに刀の扱いはクソかっこいいという、もう大満足でした。   最近は時代劇というとほぼ地上波では放映されておらず、BSで往年の名作が再放送されるか、多少新しめの新作が出てくるものもあるのですが昔ながらのチャンバラ劇のようなものはあまりやられなくて(役者が殺陣を身に付けるのが難しいというのもあり)人情ものが主流だったりして、こういうバキバキのカッチョ良いチャンバラのある作品てすごい久しぶりだなあと思って……いや、NHK大河ドラマでは考証含めてしっかりやってますか。映画も何だかんだ毎年ちょっとずつは作られてきてますね(今年は"碁盤斬り"ですか)。   あと、時代物タイムスリップネタだと定番的なお笑いのネタについてですが、ケラケラ笑って楽しく見られたのですけど、同時にこういう純粋な、単純な感動の感覚ってすっかり忘れてしまっていたなあと思い起こさせられました。新興国の新しい映画作品とか見てもしばしば認識させられるんですけど、ごく単純な、人が死んだら悲しいとか、食べ物がおいしくて平和なのはなんて素晴らしいことなんだろうとか、親子の情愛は泣けるなあとか、妙に斜に構えてしまって、そういうシンプルな原点の感動を見失ってしまっているというか、そういうのはダサいとか感動ポルノとか言って叩き回ってるのはどうなんだろう、というのをしみじみ考えさせられた感じです。   あと、インタビュー記事で監督氏がヒロイン役の人に「めがねをしたら最強だから」と言ってて、めがねをした役としてヒロインの人は出演していたのですが(当人はあまり気に入ってないようでしたが)(同時にリアルでも助監督をしていたそうです)、これについてはめがね好きとしては監督に大賛成で、とても良かったです。あからさまに度のない伊達めがねなのと、めがねに慣れてない人にありがちなしばしば微妙にめがねのかけ具合がズレてるのを直していただけたら完璧なめがね女優になっていただけるかと、今後にとても期待を持たされる出演となっていました。   いいぞ(超ウザい)。   そんな感じで、時代劇愛の感じられる実に良い作品でした。  ちょうど真田広之の「SHOGUN 将軍」が同時期にエミー賞受賞とのことで、これからこういう時代ものの波は来るのでしょうか。   そんなところです。
[映画館(邦画)] 10点(2024-10-03 11:55:52)(良:1票)
2.  きみの色 《ネタバレ》 
 ネットでIMAX視聴が良いよ? という情報があったのでIMAX視聴しました。  映画の宣伝は劇場でよくされてて青春音楽もので良さげな雰囲気で観たいと思ってました。   端的な感想としてはとても良かったです。   青春ものとして私的に欲しいものはみんな詰まってた感じ。  あと事前情報として全く知らなかったですがテルミンが最高でした。   音楽で色が見えるというと「共感覚」というものが有名で音から色を想起するのかと思っていたら、人の印象が色に集約して感じ取れるみたいな話でちょっと違ってました。主人公から見て"きみ"は青に見えて、"ルイ"は緑に見える……というのは、あとあと振り返ると色の感覚が戦隊シリーズものの感覚かなあとか思った(笑)。   人と人の交流とか、音楽ものなので相手が作ってきた曲に自分の楽器で合わせてみる音楽的交流を、色と色が交錯し合う(混じり合うのではない)みたいな描き方をするのは、実にサイエンスSARUっぽい言葉を介さない映像による表現でアニメとして非常に良かったと思います。   と、同時に「音楽もの」なので言葉を介さない音による交流は「音」で勝負して描くべきではないかというジレンマもあって、好みの問題ですが、本作は映像寄りにしたのかなあと思いました。   あと音楽的リアルみたいなのは、主人公は元バレエをやってたのでその流れでピアノのレッスンも受けていた(しかしいまはやってない)というのは非常に良くある状況なので、ありかなあと思い、ライブでも1本指で済むごく簡単な演奏しかしてないのでまあ納得。ギターの彼女は、出てくる場面出てくる場面ひたすらギター練習してるし高頻度で集まって練習してた描写もあるのであれくらい弾けてもありえるかなあと思い(歌はそこまで技巧を使っておらず)、テルミンの彼は、テルミンなんてマイナーな楽器をわざわざ取り寄せてまでやろうっていう人間が気合が入ってないことなどありえないだろう、テルミンて最近は雑誌の付録で販売入手できるようにもなってるしテルミンが今風でなく古式ゆかしい伝統的な形状の本格的テルミンになってるのはまあ医者の家で金持ちなのだろう、で納得、……というわけでライブの演奏があまりに素晴らしいんですけど、彼らは本当にがんばってたので、これくらい弾けるのもアリだよな、と思いました。   最近の音楽を主題にした作品ではほぼなくなったと思うんですけど、ろくに練習もしてないのにライブシーンだけ演奏がすごい(作品の都合とは言え)とかあると、ちょっといかがなものかと思ってしまうので、本作ではそんなことはなくて良かったかなあと。   私は知らなかったのですが監督が「けいおん!」の監督さんだそうで、そういえば曲の感じが「けいおん!」ぽいなあとは思いました。   あと、映像作品って、どんなに身につまされる身近な表現をされても、あくまでスクリーンとかディスプレイの向こう側の話で現実の我々を侵食しては来ない印象がありますが、音楽とかSEって劇場で聞いてるリアルな我々の世界に入り込んできて、例えば本作が金曜ロードショー上映されると、あの美麗なテルミンの演奏が全国的お茶の間に入り込んでくるわけですよー! というのがあり、あれがメタクソかっちょ良くて素晴らしかったので、実にありがとうございますという感じでした。元々好きでしたが、テルミン良いよ、テルミン。   ストーリーとかキャラクターについては、華々しいわかりやすいドラマがあるわけではないのですが、それぞれがちょっとした鬱屈を抱えていて、明確に解決するとは限らないんだけど音楽の交流(色の交流)でそれが表現され受け止められることでちょっとだけ救われたりし、主人公たちにとって「いま自分たちに取ってやるべきこと、やりたいこと」が世間の枠組みとズレてて、まったく悪意ではないんだけど、切実にそうしなければならないからやると社会的に悪いことをしたことになってしまって、だけど、その青春期にはそういうことってあるよねえと受け止めてくれる世界のとても優しい描き方が観てて気持ち良かったです。   そんなところです。   あと、テルミンが最高にカッチョ良かったです(3回目)。
[映画館(邦画)] 9点(2024-09-05 11:07:34)
3.  劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:Re: 《ネタバレ》 
 信者的に必ず観るのですが、ようやく視聴。  上映前の注意喚起動画はぼっち&喜多ちゃんバージョンでした(公開当初は山田&虹夏だったらしく)。   今回は9-12話の4話のみの総集編で余裕があったため作品を補足するようなエピソードが多数追加されて非常に満足度の高い総集編になってたかと思います。   総集編というよりは別アレンジですね。   音楽のアルバムでも名曲って、同じアーティストの同じ曲の別アレンジばかり多数封入された特別なアルバムが出ることが時々ありますが、この「ぼっち・ざ・ろっく」という物語の、ぼっち&喜多ちゃん2主人公による別アレンジかなあと思いました(パラレルワールドみたいな、あるいは同じ世界だけど別視点から見た話みたいな)。   前作の「Re:」も、こちらはぼっち&虹夏の夢をかなえていく過程を描いた別アレンジの物語だったと思うんですが、「Re:Re:」はぼっちが日常に帰っていく、普通の人にとっての日常(幸せ)を獲得していく話かなあと。   音楽ものの話って、成功して注目されてメジャーになって社会的にも成功する話になりがちなのが、ある意味個人的に常に気に入らないのですが、なぜかというと初期のまだ誰にも注目されてなかった頃に、"お前の音楽は素晴らしい"って信じて応援してくれた身近な人たちを、メジャーな超人になってしまうがためにすべてかなぐり捨てていってしまって遠い人になってしまうのが何だかな、って思うわけですが、「ぼっち・ざ・ろっく!」が物語的に革新だったのは、人間関係的に限りなくマイナスだった主人公が、普通の人のごく普通の日常的幸福を得ることが、こんなにもドラマチックで素晴らしく、身近で応援してくれた人を捨てて別世界に行っちゃうんじゃなくて、まさに身近で応援してくれた人とより深い絆を築いて幸福な日常を獲得するのが、感動的である、っていうのを思い知らせてくれたところで(私が救われた)、そう思って観てたら劇場版エンド曲が、たぶん未来と思うんですけど、めちゃギターがうまくなった喜多ちゃんとぼっちちゃんのツインギターの、メチャメチャカッコいい曲で、うおおおおおおおお!!!!!! ってなった感じです。   良かった。  ※私は視聴時知らなかったのですが映画版のエンド曲もアジカンの「Re:Re:」のアレンジらしく。   で、エンドの辺のオリジナルの演出はいわゆる「行きて帰りし物語」の「(日常に)帰りし」に見事に着地するこの物語の、「帰りし」の演出としてあったかなあという事で私的には非常に納得して受け入れられた感じでした。   ほんとに好きな曲のアルバムって、終わってしまうのがあまりに名残惜しくて、何度も何度もヘビロテして何も聴いてなくても全曲の流れが頭の中で全部なぞって行けるようになるまで聴きまくるじゃん。それでも想像だけじゃ思い出せないかけらがいっぱいあるのに気づくから、また実音で何度も何度も聞きなおすじゃん。   そんな風に私は感じました。   あと、喜多ちゃんの中の人が、歌がうまくなりすぎちゃって加減してくださいみたいな演出がされたというインタビュー記事などがあったのですが、それでも非常に力の抜けた余裕ある歌いぶりに変貌しており、そこら辺も今回の劇場版に合わせて撮りなおしたんだなあと感動した次第です。   そんなところです。
[映画館(邦画)] 8点(2024-08-22 10:52:50)
4.  ルックバック 《ネタバレ》 
 観るかどうか迷ってたのですがネット上の評判が非常に良かったのとタイミングが合って視聴。  原作も最初のWeb版で読んで、当時非常に評判良くて、たしかに良作と思うけど自分はそこまでかなあって印象で詳細は忘れてました。   映像は素晴らしいクォリティで音楽も良くて、若干ノスタルジックな曲が感動を押しつけがましく押し付けてる感じがしてどうかとも思ったんですけど、要所要所のブラックなオチの4コマ漫画のキレがすさまじくて実にうまいなあと思いました。   例の事件に触発された描写については雑誌掲載時にその改変がネット上で紛糾してたのが映画では元の表現に戻ってて良かったと思うんですけど、本作はその事件に触発されたとはいえそこが主題ではないと思ってたので、個人的にはどっちでも良いかなという感じでした。   で、映画を観て思い出したのですが本作が良作ではあるけど個人的にはあんまり刺さらなかったのは、本作って「いじめっ子視点の贖罪物語」かなあって思ってしまったからで、映画を観てもその認識は変わりませんでした。最近だと、有名人が「昔はやんちゃなことをしてしまったことがある」的な違法スレスレな悪事を武勇伝みたいに語るのがメチャメチャ叩かれたりしていますが、やってることはそれと変わらんかと(あくまで私の個人的な印象ですが)。   重要なのは主人公が、ののせこそが絵の天才で一生かけてもその技量に追いつけないと思っていて、にもかかわらずののせが引きこもりで表に出られないのを利用して漫画の背景を手伝わせて、背景描いてるだけなのは大したことないと貶め、ののせが独り立ちして絵の勉強をしようとしたのを邪魔したということへの嫉妬心と罪悪感を、普通創作家コンビの話だと歳を取った後に、実は君こそが天才と思っていた悔しいから絶対言いたくなかったんだけど、とか告白するんですけど、本作では相手が亡くなってしまったので一生告白できなくなって、でも向こうにとっては自分こそが漫画の天才だと言ってずっと応援してくれてたので今も漫画描いてるみたいな話で、結局最後まで  「君こそが天才なんだ」  とか一言も言えずに終わるので、それが実にいじめっ子の贖罪話だなあって感じるわけです(誰しもなにがしか罪悪感のいくつかは抱えているものなのでそこが味わい深い所ではありますが話としては100点満点中80点には届くかもしれんけど決して100点にはならないよなあみたいな)。   そんなところでした。
[映画館(邦画)] 7点(2024-07-27 13:47:57)(良:1票)
5.  ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉 《ネタバレ》 
 ウマ娘はゲームもTV版も観てなかったのですが、ネット上の評判が良かったのとちょうどタイミングが合ったので観てみた感じです。   だいぶ前に知人がTV版が流行った頃に「ウマ娘は良いぞ」と勧めてきたことがありました。実際の競馬の競走馬の歴史や設定を踏襲しており競馬が好きな人には熱いという話も聞いてました。個人的認識としてはウマ娘って擬人化してるけど馬なので、馬などの動物と人間というものは別物でどんなに親しく感じても究極的には相容れないものがあり、しかも日本における馬の扱いって馬視点で見ると結構、過酷で極端に偏った状況になっており、ウマ娘が外見が人間(的)なので、人間と思って考えるとものすごい極端な扱いをされた高級奴隷みたいなところもあって、私自身はとても平静に観られないだろうという事で避けてたところがあります。競馬を扱った話としては「風のシルフィード」という大昔の漫画が好きだったりしたこともありました。   日本の馬とは何かについて個人的趣味で色々調べたことがあるんですけど(なぜに)、まず日本では極めて特殊な歪んだ状況にあって、現代だとほぼ2種類しかいないと言われてます。競馬に出てくる(種ですらないごく限られた分類の)「サラブレット」と、北海道の「ばんえい種」です。ヨーロッパなど海外だっともっと多様な種がいるのですが。戦国時代頃に生息していたという在来馬は今ではほぼ絶滅していて戦国時代ドラマの合戦に出てくる馬は現存してないので全て間違っているとか、あるいは「風のシルフィード」を観てると、脚を怪我した馬はその血が引き継ぐに値するものであれば種馬として残る場合もあるけど、さもなければ生きて世話する労力も足りないので殺処分するしかない、というような殺伐としたイメージしかないです(超偏見)。あと近場の馬牧場の馬に乗りに行ったこともあります。メチャ高くて怖かったです。   ……という偏った前提知識がありつつ観たのですが、熱血闘争ものとしてメチャクチャレベルが高く熱かったです! 極限を追求するがゆえに常に怪我との背中合わせで、特にサラブレットは競走馬として極限まで特化された馬なので、勝利してもケガで去ってく者がいるし、ライバルがいていつか勝とうと思っても相手はリタイアして未来永劫勝つことはできないことはしばしばある。世間の評判でどんなに実績を積み重ねても、あの馬がもし引退せず走り続けてたら絶対に勝ってただろうと言われ続ける。しかし現実には例え評価は二番手であっても生き延びて走り続けられた幸運な者が現実の1番になる、みたいな極限の勝負の"あや"が描かれて非常に良かったです。バトルものとしては最高に熱く、良かったかな。   一方、「ウマ娘」ってそもそも何なの? というのが一部の面しか描かれないので、そもそもどうやって生まれてきたのかわからないし、この親しげに話してる間柄のウマ娘は血のつながった親子関係とかかもしれないし、そもそも現実には雌の馬って走らないのじゃないのか、にもかかわらず走ってるのは外見女性系ばかりなのは何なのかとか、怪我して走れなくなった馬ってリアルでは生きてないのじゃないかとか、映画中の「走るのが本能なんだ。走らずにはいられない」みたいなのが妙にリアルに馬的・動物的だったりして、すごい気持ち悪いっていうか得も言われぬ違和を覚えたのですが、あの最後になんでか知らないけど突然コンサートを始めるのは何なのだろう(話には聞いてたが)、過酷なレースで息も絶え絶えなのにそこまで酷使するのはいかがなものか、とか思ってしまいました。それまで競争してたりいがみ合ってたのは何だったのかて感じに何事もなかったかのように揃って歌い始めるし。イカれてます(笑)。   そして、エンド曲はあの伝聞で何度も何度も聞かされた「うまぴょい」で、これが世にいううまぴょいという奴か、正真正銘狂ってるなとしみじみ感じました(うまぴょい! うまぴょい!)   そんなところです。
[映画館(邦画)] 9点(2024-06-13 10:51:39)
6.  劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re: 《ネタバレ》 
 公開翌日視聴。   TVアニメ版は大ファンで円盤・動画等で20周以上は観ましたか。原作のコミックス版は個人的に正直音楽シーンも1枚絵だけでほとんど描かれないので音楽もの漫画としてどうなんだろうという微妙な評価だったのですが(最近の4,5巻の辺は割としっかり目に描かれてきてる気がしますか)、アニメでライブ部分が過剰にがっつり描かれて補完されて化けた印象の作品です。   劇場版は「総集編」というようにTVアニメ版8話までをメインストーリーを見せ場をきっちり押さえつつざっと一通り流しており、話の導入が「そこから入るのか」とちょっと意表をつかれたのですが最後までキッチリまとまって満足な内容でした。TV版を観てない人にも理解可能かは私自身はわからないのですが、映画版で初見だったらしい人が「めっちゃ良かった」と言ってたので未見の人でも一通りの話の流れがわかる作りにできてたかと思われます。   新規要素については新規映像は細かい部分であったらしいのですがどこかまでは私には正確にはわかりませんでした。オープニング曲とエンド曲が新曲でこれまた非常に良い曲でファンの人にもおすすめと思いました。あと路上ライブの演奏シーンがフルバージョンで一通り聴けるので、おお! って思ったかな。作品外ですけど映画館のマナー動画でぼっちざろっく版マナー動画が劇場版と合わせて公開してこれまた楽しいのでお勧めです。   上でも書きましたが、ライブ部分の音響が劇場環境だととにかく素晴らしく臨場感があるのと、個人的に家環境なんかだとロックバンドの演奏ってメロディラインはわかるけど裏方的なベースの低音が聞きづらく背景になってて良くわからないというのがありますが、劇場版ではがっつりカッチョええのがしっかり聴けるので非常に良かったです。個人的に人間的にはクズ扱いだけど音楽的には先導者であるリョウさん推しなので、リョウさんのかっちょええベースががっつり聞けるぜヤッハー! て感じでした(俺得)。   で、総集編なので色々端折られて、練習部分などはぼざろの名曲を流しつつTV版のカットをガーっと流してく感じの演出をしてて、この手法がハリウッド映画のアニメで出てきたときは手抜きだろうと思いつつ笑っちゃったんですが、音楽系作品で総集編で圧縮するには非常に良い手法だなあとしみじみ思ったりしました。   あとTV版はメインの成長物語だけでなく枝葉のくだらない演出でも笑わせるという日常系的な面白さもあるのですが、総集編だとさすがにそこはカットせざるを得ないという事でぼっちちゃんの恥ずかしいあれやこれやは綺麗にぼかされてるのでそれらも観たい方はTV版視聴されることをお勧めします。   ちなみにダムはありません(笑)。
[映画館(邦画)] 7点(2024-06-09 13:15:55)
7.  バジーノイズ 《ネタバレ》 
 原作ファンです(漫画)。   主演の川西拓実氏が男性アイドルグループ・JO1のメンバーっていうのは全然知らなかったのですが、人気あるのか結構観客は多かったです。しかもわりと若い人もいて驚いたのですが、SNSで感想を呟いたらプチバズるくらいの反応があってファンの人が多いんだなと思いました。   ちょっと前の作品(2018年~2020年くらい)なので、正直、なぜいまさら実写映画化されたのかと思いました。しかし、これ昔大好きだった音楽もの漫画の一つが実写映画化された奴じゃん、じゃあ、ぜひにも観に行かないと! と行った次第です。   あと作品の位置づけ的にも面白い状況になってると思ってて、近年、音楽もの漫画が映像化される事態が頻発していて、だいたいアニメなのですが、しかもそれぞれ作品のためにストーリーに合わせてわざわざ作曲したものが出ており、音楽は気合が入ってて素晴らしく、ストーリーもよくできているという、この2年くらい日本で未曽有の音楽もの作品の映像化がレベルが上がっててすごいって認識なのですが、その中で個人的に音楽もの漫画の中でもかなり出来が良くて好きな作品が、アニメとかではなく、実写でやるっていうのがどれくらいのレベルに達してるのか、期待半分、もし外れでも原作ファンとしては見とどけなければならない、という心持で臨みました。   原作の方も漫画の音楽表現として独特の様式をしていて、音楽漫画の音の表現って、演奏してるプレイヤーの動きを描くとか、サビの部分の曲イメージを大ゴマや見開きページにでかく描くとか、曲の歌詞をベタに描くとかいろいろありますが、「バジーノイズ」は音のイメージを抽象的な、シャボン玉みたいな多数の円と、のたうつ曲線とかで描く独特の方式をしていて、シャボン玉と曲線の入り乱れる中に、演奏者と、聴衆がすごい心地よさそうな音空間で体を揺らしてるっていう、これは「バジーノイズ」がパソコンで曲を打ち込む音源もシンセや自然音のサンプリング音源なども使って作る電子音楽的曲だからそういう表現が似合ってたというのがありました。   で、今回の実写の映像化で、その独特の新しい(原作公開時には斬新だった)音空間が、実写映画の中でいかに気持ちよく表現されるか? が原作ファン的な最大の関心事だったと言って過言でないでしょう。   しかも原作では音楽家同士のコミュニケーションも描かれていて、音楽家同士のコミュニケーションって「アレコレ言葉で説明するより実際いっぺん一緒にやってみればわかる」っていう領域があり、漫画やアニメなら抽象図形で雰囲気を視覚的にわかりやすく見せたりできますけど、実写だとそういうのもないので、本当に音だけで心地よさを視聴者にわからせないといけない、それが本当にできるのか? ってのも注目ポイントと思ってました。   それで実際観た感想としては、めっちゃ鳥肌立った! すげえ! って感じで、あの清澄と陸が音合わせた時のゾワゾワ感が見事に表現されててマジで感動しました。素晴らしい映像化を実現してくれてありがとう! って思いました。   あと、配役も川西拓実氏はまさに清澄という感じで、純粋で孤独で儚い雰囲気で良かったし実際JO1でミュージシャンとして活躍してるので演奏場面のリアル感はすごく良かったし、桜田ひよりさんの岸本潮もまさに潮やあって感じで良かったです。   ストーリー内容については、全5巻の内容を2時間に圧縮するので単純化されたり端折ってたりはするけど、ちゃんと結末まで走り切ってくれるので満足できました。いくらか改変もあるけど、それも良し。   またこの作品は、ミュージシャンの話を描くんですけど、それだけでなく聞いてくれるファンのことも描いていて、それが特殊と思うんですが、ミュージシャンものって基本メジャーになって海外遠征とか行って遠くの人になってしまうと、最初の地元の地方で初めに良いねって言って応援してくれた人ってそこまでついてこれず置いてけぼりになってしまいがちなところがあると思うんですが、本作は、レーベルを介さなくてもDTMで個人で曲を作って売り出していける時代になって、最初のファンともごく身近な人として有名になっても関わっていけるという所に着地するのが好きで、そのファンとミュージシャンの関りも相似形に描いた改変になってて、あの陸の前のバンドのリーダーが、長く人生をやってる者の悲哀を感じさせつつ、しかしファンを大切にする心は忘れない結構いい人に変更されてるのが味があって実に良い改変だなあと思いました。   そんなところです。
[映画館(邦画)] 8点(2024-05-20 11:36:41)
8.  ゴジラ-1.0 《ネタバレ》 
 初日に観ました。   正直まったく期待しておらず観る気はなかったのですが、ネット上の感想が非常に良くタイミングも良かったので。  国内実写版ゴジラは「シン・ゴジラ」が大好きで6日間連続視聴とかしてました。もうあそこまでのものはできないだろうと思ってました。  本作に至るまでにアニメ版(TV版、劇場版)海外版もいくつか出ており海外版ゴジラはCG表現などド迫力で良かったですしアニメ版もTV版はSF的な非常に凝った仕掛けが面白く、楽しませてもらってた感じです。   で、今回は日本の実写映画でまさに王道を突っ切るゴジラもので、いやおうなく「シン・ゴジラ」と比較されるだろう状況でどこまで行けるだろうか? って認識でした。   結論としては、すごい良かった。   科学考証は微妙にゆるくツッコミどころがなくはないものの、創意工夫にあふれてワクワクする展開はとても楽しかった。  湿っぽい人間ドラマも、もともとゴジラ映画の初代からそうなので、個人的にはまあこれもアリと思い、いちおう価値観なり設定は、二次大戦の事情をあまり知らない人にもわかりやすくかみ砕かれ、かつ現代的価値観に刷新されたストーリーになってて、ハッピーエンドになるのもエンタメ娯楽映画だからなー、というので普通に受け止められました。というかめっちゃワクワク、ハラハラして、最後うまく行って良かったー! と気持ちよく終われる映画でした。   以下、個人的に特に気に入った点を書きます。  ・水中ゴジラ!  その手があったか! とのけぞりました。  ・ゴジラは核兵器の脅威の象徴的怪獣であることをきちんと描いている  海外ゴジラって「核兵器」の表現が生ぬるいと思うんですよね。  あの恐怖と絶望と根本的に受け入れ不可能な決定的断然がしっかり描かれてました。  ・就業状況がホワイトで、あるべき理想の組織論として素晴らしい  二次大戦の教訓として一番受け継ぐべき事項の一つとして、とにかく組織のリーダーが無謀で無計画で、無茶な命令ばかり出すので現場の人間が何万人も死んだ、しかもその責任をだれも取らない、という悲惨な状況があって、それは二度と繰り返すまい、って話があると思います。  「シン・ゴジラ」や本作では、理想のあるべき組織が描かれるのが良いと思うのですが「シン・ゴジラ」で唯一気に入らなかったのが、ブラック企業的ブラックな就業状況を「がんばってる」と礼賛する場面です。それは倫理観が壊れてるだろうと。  本作では、まずきちんと計画を立てます。絶対とは限らないが少なくとも成功する可能性のある計画を立てる。この時点でスゲエって思うんです。作中「生還する可能性があるんだよな? それなら戦中よりましだ」って笑う場面がありますが、わりとマジメに切迫した問題だったりして、たまりませんでした。  あと、絶対確実に生還できるか問われて「未知の挑戦なので、やってみないとわからない。可能な限り尽力し生還できる可能性はある」と説得する場面が、とにかく素晴らしいと思いました。新しい試みをする時って、当然やってみないとわからないことがある。数多のリスクや危険があるが、いっしょに協力してやってくれないだろうか、と正直に説明する。そして有志のみを募って計画を実行する。  問題組織では、無茶な計画を立て、担当にリスクなど何も説明せず、たまたまうまく行ったら上の手柄にし、うまく行かなかったら担当者の頑張り不足と現場の責任にし、上の問題が全く問われない状況がいっぱいあった。  それが本作では、上の人間は素直に窮状を包み隠さず公開し、それでもやってくれる有志を募る。現場の担当と上の指示者が一体のチームとなって、それぞれ「今やれることをやって」問題解決する。そういう姿勢が描かれて、全俺が泣いた感じです。素晴らしい、そう、そうですよって。  ・技術者が技術者としての矜持を見せる  オチの部分が伏線があからさま過ぎるとか、さんざん煽ってひっくり返すんかとか批判されてるようですが、個人的には、ちゃんとした技術者だったら必ずそうすると思うんですよ。自分の仕事に誇りをもった本物のプロフェッショナルであるならば。戦時中様々な事情でちゃんとした仕事ができず無念なことがいっぱいあったと思うんです。あの時こそ、今度こそ、ちゃんとした仕事ができるっていう悲願の時だったと思うんです。なので回想シーンで主人公以前の着陸してきた特攻隊員の思い出話のエピソードなどあると良かったと思うんですよね。……てところが足りないと思うものの、私自身が、そういう技術者的仕事をしてるのであそこは非常に共感した部分でした。   そんな感じで、非常に良いエンタメ作品で、邦画もやるなあ! って思いました。  以上です。
[映画館(邦画)] 8点(2023-11-07 15:20:20)(良:3票)
9.  君たちはどう生きるか(2023) 《ネタバレ》 
 観ました。  環境はIMAXのほぼ最上級環境で。宮崎駿作品なら映像&音響の良い所で見とどけないといかんなと思い。   率直な感想としては、宮崎駿監督、まだまだやるなあ!(感嘆)て感じでした。   絵が最後まで息切れせずに割としっかりしてたのは、他の人に描いてもらってたんやねと知ったりしました。  本映画についてはだいぶ前に情報がちらっと出ていて「君たちはどう生きるか」の漫画版が出てちょっと評判になった後に実はそのタイトルで映画を作ろうとしている、という話が出て、そのあとその小説の映画版ではなくて作中の主人公が愛読してる本が『君たちはどう生きるか』だってだけ、という情報が出たりなんかしてたのを見ながら思い出しました。  『君たちはどう生きるか』と本映画の内容が合ってるかというとほぼ関係なくて、『君たちはどう生きるか』って卑屈と罪悪感と裏切りの話じゃん、てのに対して本映画だと主人公が初期の宮崎駿作品のようにとてもしっかり主人公主人公してて強い意志を持って行動していくので、なんかもう心根が全然違うわけで、まあ別物です。  まあ、終盤のあの人……が深読みすればそんなような心境の人と言えなくもなく、監督の心情に近い人でもあってそこで共感したのかとか思いましたが元の『君たちはどう生きるか』の主人公の人ってまったく偉い立場の権力を持った人でもないただの普通の人であるのに対して、あなたはもうすでに絶大な権力を持ってて、何を泣き言言ってるんだと言わざるを得ず、なので主人公が話の途中で『君たちはどう生きるか』を読んで泣く場面があるんですけど、いやいやいやあなたのそのキャラクターでその本の話にどう涙できるかさっぱりわからんわ、て感じでしたか。   で、元の話が現実の普通の人の話なので、現実を舞台にした展開になっていくかと思ってたら、どんどん異様な様相を見せていき、まさにジブリワールド、宮崎駿ワールド全開の破天荒な展開になっていって、そういや宮崎駿監督って、メルヘン・ファンタジーの鬼才でもあったよなあと思いだしたりしました。そっち方向は『思い出のマーニー』ですっかり米林宏昌監督に追い抜かれたと思ってたのですが、いやいやまだまだやるじゃんと。   でまあ不思議の国のアリスばりのナンセンスな展開をしていくので、途中が、ええ!? なんでそんな風に行くの? みたいな電波的なご都合主義っぽい展開が多いんですけど、宮崎駿監督作品って物語的要請とか映像的説得力の剛腕とテンポの良さで違和感なく話を進めてしまう感性の達人で、ナウシカと同時期にやってた『シュナの旅』でもまさにそうだったわと思いだした感じです。   本映画で個人的に好きになったのは、いままで自分の言い訳ばかりして体よく装うことに終始してて自分のことでいっぱいいっぱいで勝手な人だと思ってたのが、本作では新進の存在に対して暖かいまなざしで見られるようになったような表現があって、丸くなったなあってところです。   あと、主人公の母親が主人公を抱きしめて、あんた本当に良い子だねえ! しっかり生まなきゃ! とかいう場面はホロっと来てしまいますね。   そんなところです。
[映画館(邦画)] 7点(2023-08-30 15:10:09)
10.  リバー、流れないでよ 《ネタバレ》 
 ループ物のSF系映画には良作が多数ありますが、本作は劇場内で終始笑いの絶えない上映で、けらけら笑いながら観られました。とても楽しい映画で良かったです。   貴船を舞台にしてるので、だいたい場所の配置が行ったことあるのでわかってる中で、2分という時間制限があって、そこを場面を全く切らずに1ショットでずーっと回していく臨場感がありつつ、記憶は視聴者と同じく巻き戻らず連続してるので時間がループして大変なことになってるにもかかわらず「今ちょっと災害が起こってますが状況がわかるまで落ち着いて問題解消するまでお待ちください」みたいな、ループ物にあるまじき和やかさで、昔の辛口ショートショートにあるようなユーモアあふれるコミカルな展開でした。   話の主旨としてはタイムトラベルの仕掛けよりも、現実のせせこましい時間に追われる気の休まらないところから、ホッと一息ついて、時間の大切さとか、人と人とが触れ合うちょっとした時間の積み重ねが上で大切だみたいなところがにじみ出してきていて、ハッとするような、ほろっとするような部分もありつつ、最後の結末ではみんなの意思が一つに揃って、問題解決するっていう、実に気持ちいいさわやかな映画で素晴らしかったです。
[映画館(邦画)] 8点(2023-07-28 20:20:36)(良:3票)
11.  BLUE GIANT 《ネタバレ》 
 原作ファンです。IMAXで視聴しました。  元々ジャズはごく一部ちょろっと聞いて何が良いのかよくわかってなかったのが、原作漫画で、そうなのかと、ちょっとだけわかるようになったかもしれない口です。  だけど、mp3とかの配信音源を聞いてもやっぱりよくわからず、ライブで聴いて熱を感じるか、せめて映像化されて映像&演奏で見てみんと本当のところはわからないかなあと思ってました。   そんなわけで待望の映像化なわけですが、漫画では、すごい天才で音圧があり、音がデカくて説得力があるように描かれてるものの、実際の映像になった時に音楽的説得力を出せるのかどうか? が気になってたところでした。  公開前にPVが流れてたもののキレイではあるけどそんなすごい演奏にも聞こえなくてあんまりイケてないかもなあ、けど原作者が見て良いとか言ってるしなあどうなのか、と期待半分で観た感じです。    演奏は素晴らしかった! です。    IMAXで環境が良かったこともありますが素晴らしい演奏の数々で、いやまあそんな音を出されたらそりゃ認めるしかないわなあ、というところで、原作を見て一番気になってた演奏の音楽的説得力は見事に実現されてたかと。  なので、ライブ的な演奏を聞きに行くために観るというのはアリかと思いました。   で、原作からのエピソードの選択については、妥当かと思いました。  主人公が天才過ぎるので、一般人の目線で絡んでいく話であり、かつ音楽的に成功していく交差点的エピソードっていうとここしかないかな、という感じで。  その代わり、序盤の泥臭く努力して演奏できるようになってく話とか、そもそもジャズというものが今どきマイナーなので(とはいっても私からすれば、メジャー枠の中のマイナーな方、くらいの認識ですが)、だけど熱くて良いと思ったので演奏して広めていきたい、という衝動の部分が端折られてしまったのは残念なところではあったりしました。   あと、問題の演奏部分のCGについては、がんばってやろうとした形跡はあるけれども予算配分の都合と、きっと上層部はCGを使う所でコストカットできると勘違いされてるかと思われるのですが、その数年前の感覚で予算が削られて微妙な映像になってしまってたかと思います。   最近のCGなどを使用した演奏シーンの傑作としては、まず「シン・エヴァンゲリオン」のピアノシーンがあり、あるいはロトスコープを使用して変態的な歳月と原画枚数をかけて制作された「アニメ映画『音楽』」の激熱ライブシーンがあり、つい先日公開されて今も楽器業界なんかでブームのアニメ「ぼっち・ざ・ろっく」のモーションキャプチャーで演奏と動きをぴったり合わせてライブ感を出しつつ、うまくない演奏までしっかりやる……というように、CGを使った演奏シーンもここ1,2年で激烈にクオリティが上がってきており、本作もエンディングを見るとロトスコープを使用して実際の演奏の動きをキャプチャーして品質を上げようとした痕跡は見えて序盤のピアノのタッチも良い感じの場面が一部あったと思うのですが、途中以降そういうのもなくなり、またCGキャラをセルアニメ的キャラクターと違和感なく馴染ませる工程も省かれたため、CGが出るたび、何この異形の存在は? みたいな違和感が大変なことになってて、普通のアニメシーンや、音楽はとんでもなく素晴らしい出来なので、CG部分も今後改善されると良いんじゃないかとか思いました(今後とかあるのか?)。   そんなわけで、とにかく演奏は素晴らしいので、音響の良い劇場でぜひ視聴されるのがよろしかろうと思います。  やー、ジャズってかっちょいいわ。
[映画館(邦画)] 8点(2023-03-15 11:48:28)
12.  すずめの戸締まり 《ネタバレ》 
 震災テーマの希望ある決着は非常に良かったです。良い。  伝奇ものっぽいおどろおどろしい感じも、こんなのも描けたんだーと、今後こっち方面で特化した作品を作られたら楽しそう! と思ったりなんかしました。   しかしいろいろ気になる点が多々あり、列挙しておきます。  -- ・主人公の成長物語として見ると物足りなかった  男性主人公だと、   自分のことは自分で助けるしかないと覚悟を決める  →力を得る  →自分の力によって助かる他者がいることを知る  →公的使命感に目覚める   とかいう展開になるのが女性主人公だと、   そもそも自分を救うのは自分と思ってない(力がなくて、得ようと思っても得られないとあきらめている)  →力を得る  →自分で自分のことを助けられるんだ   という感じで、男性主人公の成長物語のスタート地点に立っただけなんですけどと思ってしまって、重要ではあるけど、なんかな(主人公たちがヒロイックな力を持ってるので余計に)という感想。ゴールがそれならもっと地味な設定にした方が良くなかろうか。  -- ・今までの作品とは変わって恋愛をメインのテーマにしないのはわかるんだけど、突然「好きな人のために!」とか言いだして、中途半端で、それっぽい伏線とかエピソードも足しちゃってるので、どっちがやりたいのかよくわからんみたいな  -- ・草太が「死にたくない」とか言いだすのが全く解せない  そもそも自分の家系でやってる戸締りの使命のために自分の人生の何割かが消費されても構わないと受け入れて全国行脚までする覚悟が決まってるキャラが、そんなん言うか? と思ってしまい。(いきなり受け入れがたいのはわかるけどそのうち納得するキャラにしか見えない)  なんか、主人公が助ける目的成立のために無理やりそういう言動やら性格に捻じ曲げられてるようにしか見えなくて、新海誠作品て、自分の考えたかんどうてきなはなし成立のために登場人物や、場合によっては視聴者の感情移入する感情まで捻じ曲げようとしてくるところが、しばしば気持ち悪くなってくるのですが(失礼)。   -- ・昭和の懐かしいメロディ連打がなんだかなあ  前までのRADWINPS全開が好きだったので、賛否両論あるけど慣れもあるだろうし、期待してたのですが、なくて拍子抜けでした。  「懐かしがる人はこういうのが聞きたいんだろう?」的あざとさも鼻についてしまい。   -- ・ダイジンがかわいそう  社会正義のために特定個人を犠牲にすることはやめよう、というのが最近の方向性と思ってたのですが、非人間存在を犠牲に肩代わりにするってやってることが偽善で本質的に変わってなくて、非常に昔ながらの偽善的解決になってて、そうじゃない誰も犠牲にならない地平を期待してたのだがなあ。
[映画館(邦画)] 7点(2022-12-14 13:41:47)
13.  夏へのトンネル、さよならの出口 《ネタバレ》 
 ネットで評判が良くて久々劇場で観ました。  良かったです!   今年のみずみずしい青春もの系映画の一つと言っていいと思います。   個人的には、なんて言うんでしょう、夏へのトンネルって、要するに青春期の死のメタファーみたいなものと思って、いっしょに向こうに行こう、というのはいっしょに死のうってことだと思うんですけど、あの頃ってなんか恵まれて自信満々な人でもない限りは、自分はまだ何者でもなく、自分には価値はなく、幸せになる資格がなく、変に何者かにされ幸福になってしまうくらいならすべてが破壊され絶望の底に居た方がマシだ、みたいな感覚にとらわれることがあるんじゃないかと思うんですけど、そのかつての自分に主人公(男性)がすごい刺さる感じでした。むしろ、自分を捨ててでも得るべき明確で立派な理由が正当化されてある分、主人公の方がかつての何者でもなかった自分より幸せではないのか、とか思ってしまったり。   あと、主人公2人の関係があくまで対等なのがいいと思いました。   「こんなところに居たら家族が心配するよ」「自分には心配してくれる家族なんてないのよ」「それはとてもいいね」って共感するのが、見ててすごくいい。   2人とも重い過去を背負っていてその解決のために、トンネルの謎を解明しようとするのですがあくまで「共同戦線」であって、たまたま同じ目的のふたりがそこにいたので効率化のため協力し合うが、別に相手がいなかったら自力で何とかしていただけであって、おたがいあくまで自分の問題は自分で解決しようとしていて、人をあてにしてないところがいい。   で、2人の道は、トンネルとは何か? の解釈の差によってもう価値観の違いが歴然としていて一時的にここで協力関係になりはするけれども、将来枝分かれしていくであろうことは最初から暗示されていて、主人公(男)の方はすでにわかっていて、だからそれぞれ一人でやってけるので、枝分かれしてもあと腐れなく別れられる(本当か?)。   それで、最後のオチは割と王道的安直で、最近流行りの話なんでしょうが、別に世界を変えようとかそんな志はなく、ただ身近にあるものを大切にしようそれでいいんだ的オチに落ちるんですけど、それって、難しい問題があった場合に目をつぶって放置する「『逃げ』の解決」(そもそも、現状のままでいいっていうことは解決すらしてないってことだけど)になってしまう危険をはらんでいて、だからそういう話は「作中何となく納得させられてしまったけど、よくよく考えるとそれって何も解決してないひどい状況じゃない?」って終わった後に冷静に考えて我に返ることがあるのですが、本作は、2人はお互い精神的に成長したので、現状の現実は何も変わらず問題山積だけれども、きっと何とかやってけるだろうと期待できると思ったわけです。なので、別に「まだ」事実の問題が解決していないだけであって、未来は希望に満ちていると信じられる。   主人公(男)の方の成長の部分は個人的にすごく共感したのですが、あまりに重くて切実な問題があると周りが見えなくなっていて、目的さえ達成できればあとはどうでもいいと捨て鉢になっているというか、周りを見渡す余裕がないのでそれしか考えられなくなってると思うわけですよ。それが、なんとか目的を達成して失われたものを取り戻して、精神的安寧が得られたからこそそこで初めて、心に余裕をもって想像力を働かせられるようになり、その失われたものが本当に存在するのであれば、主人公(男)が普通に生きて身近なものを大切にしていくことを喜ぶであろうと、考えられるようになるわけです。   それで最後の決断を下す手がかりが「これまでの経験」で、視聴者が本作を見ることで主人公と共に体験してきたすべてのもろもろのことがその決断に対して、ああこれまで見て一緒に体験してきたのでそりゃそうするわと説得力をもって感じられる(非常にベタでストレートですが)。   そんな感じに、非常にうまい、パズルのピースをきっちりはめるみたいな絶妙の構成の作品と思いました。   あと、エンドの「期間」については、ギリギリそういうのもあり得るかなあという現実的な許容範囲におさまっており、そういうところも含めて非常にうまい作品と思いました。   そんなところです。
[映画館(邦画)] 8点(2022-10-09 11:51:57)
14.  犬王 《ネタバレ》 
 前提条件としてアニメ「平家物語」は観てました。あと同様の設定を描いた作品として「ワールド・イズ・ダンシング」という漫画を見てます。湯浅監督作品は好きでそれなりにちょこちょこ観ており「夜明け告げるルーの歌」で音楽表現とアニメの快楽的融合が好きなんだなあとは思ってました。マインドゲームもそうでしたね。   で、本作は音楽表現とアニメの動きの快楽をとことんやって見せびらかしたい作品だろうなと思っていて、やりすぎなくらいの過剰な表現(場面によっては長すぎるとか)をどこまでやってくれるかというのがあり、個人的にはそのためにアンバランスで歪であってもいいだろうという心持で観ていて、実際作品の大半は歌とダンスで埋め尽くされており、途方もない美しい表現もあり満足できました。   ただ、人間ドラマとしてみるとほとんど葛藤も描かれずすんなり行き過ぎてどうだろうという部分があり、そこは必ずしも本作の主旨じゃないので、まあ置いておくとしてちょっとこう登場人物に感情移入しがたいなあという部分ではあったのですが。   それよりも気になったのは主旨の部分です。私は本作の主旨は「ダンス(のアニメ表現)」「音楽(琵琶→ロック)」をいかに見せるかだと思うんですけれども。   ダンス部分について「猿楽→能」という展開があるところのものを現代的なダンスに置き換えるのは猿楽なり能の振り付けに対する思想的なものを踏まえた上での振り付けなんだろうか? というのは気になったところです(「ワールド・イズ・ダンシング」だとその辺の思索を深めているので)。説明はないけど考えた振り付けになってるのかも知らんけど、私にはよくわかりませんでした。   音楽部分については、それまでにない新しい音楽として、現代的な「ロック」を当てはめてるのですが、当時の人にとっては当然新しい聞いたこともないような音楽であるという設定なのはイイとして、視聴者にとっても斬新に聞こえるべきかという点で、いまいちピンと来ませんでした。なんか「円熟のロック」みたいに聞こえてしまって、私個人としては新しみのない面白くない曲だなあと感じた感じ。そもそも琵琶を演奏する友魚にとってもロックは新しい発見の音楽であるはずで、発見のための物語があったはずだし、なぜそのような音楽表現になったかの思索なり論理があったはずなんだけどそこがわからなかった。あるいは既存のロックミュージックをベースにするにしても、ロックというジャンルが出来上がっていく黎明期の曲なりがベースになってるなら登場人物の立ち位置に近くなって、何らかのみずみずしさなり斬新さが出るはずだと思うんですが、全然そんな感じには聞こえず、要するに「円熟のロック」のように聞こえて、いやなんか曲が合ってないんじゃない? と思っちゃったんですよね。良い、面白い演奏ではあったけど。   湯浅監督作品って、最初の発想は斬新で面白いけど、いざそれをどう表現するかについて、わりと安直にわかりやすいネタに飛びついてしまう所があると思ってて、本作は安直でちょっと物足りないなあと思った次第です。   そんなところで。
[映画館(邦画)] 6点(2022-06-22 12:22:14)(良:1票)
15.  シン・ウルトラマン 《ネタバレ》 
 「きーたぞ、われらーの、ウルトラマーン」で育った世代としましては、まさに、我らのウルトラマンがいかにして我らのウルトラマンになったかをしっかり描いてくれた作品で、ますますウルトラマンを大好きになってしまいました。   とても良かったです。また観に行くかと思います。   ただ、倫理的にそれはいかがなものか的指摘がネット上でいろいろされてて、それは、まあ私もちょっとどうかと思わなくもなかったですが、人の愚かさを描く意味もあったかと思われてギリギリアウトな部分はいちおう避けてたかなというのと、TV版でなくて映画なので大人向けの異星人交流エンタメ的エロティシズムかなあ、と思う所もあり、私的には許容範囲だけどちょっとアウト気味か、ぐらいの感触でした。   倫理的にアウトについては、シンゴジラでも、徹夜で頑張るのを称揚する場面があって、今、教員や霞が関の就業状況で大問題になっている、ブラック企業的スタンスが私自身は非常に問題と思ってたのですが、結局アニメ/映画業界の人って、ちょっと世間のモラルから踏み外した感覚の人が割と良くいると想像されて(つい先日出た某監督のセクハラの問題もいまだ解決しておらず)、その辺の非人道的感覚が制御しきれず漏れ出てくる部分が毎作ちょっとずつあるかなあと。   シン・ゴジラ→ブラック企業体質  今回→セクハラの許容範囲  という感じに、相変わらず変わってねえなあ、という感想。   あと、ゼットンとの初戦が超すごくてゲラゲラ笑いながら観られたんですけど(いいぞ、もっとやれ!)、最終決戦のところが結局何がどうなったんかわかりづらくカタルシスも得難かったので(変身ポーズには超上がった!)、次回以降の視聴で確認してみたいところです。   パンフレット/設定資料もぜひ購入したいのですが、売り切れみたいな話もあって、どうなりますやら。   そんなところで。
[映画館(邦画)] 8点(2022-05-14 23:39:53)
16.  フラ・フラダンス 《ネタバレ》 
 東北の復興の現状を語り継いでいく作品の一つとして、阪神の震災だと当時の崩れた柱などの痕跡が博物館に残されて記憶として語り継がれているのと同様に、東北ではその痕跡の1つがスパリゾートなどに残ってるんだなあというのを知れたりして良かったです。   メインの話も、過去の記憶とどう向き合うかとか、「お仕事」ものとしてどういう精神で頑張ってやっていくかとか、良い話でした。   ただ、このフラダンス系の映画って、フラダンスの歴史とかに一切触れずに、「みんなを笑顔にする、素敵な踊り」というだけの表層的な扱いをされることが多く、最近よく取りざたされるポリティカル・コレクトネスに則ると、元のハワイ人(アメリカに吸収される前の)の歴史とか差別とか、日本の天皇家との交流とか、古典的儀式としてのフラダンスは日本には伝わってないとか、そういう話にも触れて欲しかったりするんですが、今後のこれ系映画で扱われることに期待ですかねえ?
[映画館(邦画)] 8点(2022-01-31 11:33:17)
17.  アイの歌声を聴かせて 《ネタバレ》 
 良かったです。   AIものロボットものの最新の研究成果を超絶前向きな青春エンタメに昇華した作品と言っていいかと思います。そして、土屋太鳳さんの歌の表現が声がのびやかでとてつもなく素晴らしい。声の表現も、ネット上でネタバレがちょっとされてましたが、人工声帯による発音がされてるということで、AI・ロボットなのに、歌うために呼吸の動作をするのが、こだわりすぎにもほどがある。   あと、この手の話でよくあるAI/ロボットには人間的な"意思"を持ち得るのか、という問いに対して、  「そんなのどうでもいい」  観る人の受け止め方によってそのようにも見えるし、まったくそうでないようにも見える表現にしてるのが非常に新しくて、この手の問いに対しては逆説的に、  「そもそも、人間が、自由な意思とか心のようなものが存在してると思ってるのはただの錯覚ではないか」  という話もあって、その辺も踏まえてて良かったです。   AIの深層学習については、ちょっと前にネット上のニュースやSNSの記事の情報などを大量に食わせまくったら、ものすごい毒舌を吐く邪悪な? AI(モデル)ができてしまったのでリセットされたみたいな話が流れてましたが、本作では「前向きで肯定的な指示」によって、こんな素敵なAI・ロボットができるのではないか、という夢物語をエンタメとして非常に肯定的に前向きに提示してるのが、いっそ潔く、気持ち良かったです。   というわけで、最後のオチをわかった上でまた頭から見直すとグッとくる作品でもあるということで、もう1回くらい観たい印象なのですが、地元の上映館ではロングランしてるものの早朝上映しかしてないので時間的に合わなくて観られなくて悲しい思いをしており、マイナー作品の扱いでよくある状況ではあるのですが、こういうロングランしたマイナーな良作を、一般の人が観やすい時間帯に上映できる上映枠を各映画館が設置して欲しいなあと、切望する感じです。   そんなところで。
[映画館(邦画)] 9点(2021-12-04 08:08:11)
18.  映画大好きポンポさん 《ネタバレ》 
 もともと原作が好きで、しかも本作の制作が「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」のスタッフということで楽しみに行きました(原作の内容は大分前だったので結構忘れてて、映画視聴後読み直しました)。   基本的に原作に準拠していて、90分ピッタリで終わるところまで原作へのリスペクトがある映画で、非常に良かったのですが、原作を読み直してみると実は原作の話は映画の中の前半部でほぼ終わっていて、後半がオリジナル展開という、サプライズというか原作より一歩踏み込んだ内容の作品になっており、  ・あの原作がどう映像化されるだろう?(ジーン監督の15秒CM編集の実物は、スピード感といい素晴らしかった) ・本映画で付け加えられた原作のさらにその先は?  という1本で2倍お得みたいな、楽しみの得られる作品となっておりました。   個人的には、  「これは、僕の物語だ!!!」  とジーン監督が言うところがすごい好きで、これは原作にはなくて、監督の孤独な「編集」作業をより深くえぐっていった結果、エンターテインメントとして人に刺さる独自性のある普遍的表現って何? といったところで、結局作り手のエゴに帰ってくるっていう、映画を観る前に「ブルーピリオド」という漫画の最新刊を読んだんですが、あれで、ごく私的な視点なり感慨でも公の場に作品として表現されると、ごく私的な視点だからこそ広く共感されるというか、そういう作品表現もアリだ、という話をしていて、この映画の編集でも無数のカットの組み合わせの迷宮の中で、どんなエンタメ表現の道筋を見出せるかというところで、ジーン監督のごく私的な「これは、僕の物語だ!!!」にたどり着くのが、良いなあと思った次第です。   この映画では、一般人の、主人公の昔の同級生の友人がオリジナルキャラクターとして登場して、最終的に撮影資金の援助をしてくれて、一昔前のハリウッド映画的な問題の展開(個人の問題→身近な人の間の問題→社会的な問題)をしていって、原作には希薄だった広く社会的な視点を付け加えたのが、わりとうまくできてて良かったし、編集みたいな、結局創作って一人でやるしかない、孤独で大変な作業であるところに、出来上がってくる作品を楽しみに待ってる応援してくれる人たちがいる、という視点を付け加えてくれたのが、とても優しくて良い作品だと思いました。   そんなところです。   あと、原作は、毎巻毎巻「これが最終巻です」宣言しつつ続編が出てるんですけど、今3巻まで行っていて、またスピンオフも出ていてどれも面白いので、映画を気に入った方はぜひ読んでみられるとよろしいかと思われます(おすすめ)。映画の内容は、監督氏が2巻以降の内容を知ってたかどうかわかりませんが、結果的に2巻の内容と同じような境地に踏み込んでいるなあと思ったりなんかしました。   あと、本作って、結局苦労した結果、どんな作品ができたの? を漫画だと1枚絵でバーンと見せるところを、動く映像でどう見せるか? がオチになると思うんですが、途中で断片的に見せてはくれるもののオチの絵は出てこない(強いて言うなら原作準拠の真ん中ですべて出てしまった)ので、そこがちょっと物足りなく感じられんくもないとは思いました。
[映画館(邦画)] 8点(2021-08-12 18:16:11)(良:1票)
19.  宮本から君へ 《ネタバレ》 
 原作をリアルタイムで読んでました。   個人的に、自分の読んだ漫画の中の最高傑作のひとつと思ってたので、生半可な役者の生半可な演出ではというてい納得できないだろうと、ファンとして、とりあえずなんか映画化されたので記念で観ておこうというくらい(あきらめ)の心持ちで視聴した感じでした。   池松壮亮演じる宮本は、バカで明るいだけが取り柄の陽キャなので、池松壮亮氏のしょぼくれた外見でいや全然キャラ違うし、まあ最近人気の役者さんを起用しただけでまあ実写化されるとイメージ違う役者になっちゃってキャラが違うなんてよくあるので、まあしょうがないかなあと思ってました。  靖子さんなんて、当時の女傑なので、一瞬たりとも一言たりとも女々しい言葉とか振る舞いを見せたら、ああもうこれは原作の靖子さんじゃない。だいたいヒロインらしい女性ばかり演じてきた蒼井優氏がまともに靖子さんを演じられるのだろうか、全く期待できんなあ、と思いながら視聴しました。   観ました。   宮本は確かに宮本だった。  靖子さんは確かに靖子さんだった。   原作は1990年~1994年に講談社『モーニング』誌で連載された作品です。男女雇用機会均等法が改正され、採用・昇進・教育訓練等での差別が禁止規定になったのが、ようやく1997年。まだ当時の仕事現場では女性差別されるのはごく当たり前の状況で、まだまだ女性が家庭にいるのが普通と思われており、物語の世界の中でさえ、女性がひどい目にあわされ、それを守って救う男性像は素晴らしいヒロイックな男性像だ、と思われてた頃です。   そんなさなかに、女性を助ける男性が素晴らしいとかいう世界などクソくらえだ、勝手に助けた気になっていい気になってる男はしね、と、当時の価値観にNOを叩きつけたのが、靖子さんというキャラクターで、蒼井優氏が女性らしい女性なんてものを演じたら、まったく許せんだろうと思ってたのですが、そうではなかった。ちゃんと靖子さんは靖子さんだった。   宮本も、宮本というのはどこまでもバカで、バカ過ぎて必死過ぎるからこそ、この悲惨な物語が、ギャグとして昇華される。池松壮亮演じる宮本のバカさ加減に、私は観てて爆笑してしまったのですが、こんな話がギャグに見えるのは、当時のあの主要キャラから見ると地獄のように見える、あの絶望的な世界の中にありながら、それでもすべてのしがらみを吹き飛ばし、何とかうまく生き抜いてやっていけるだろうと、キャラクター達を信じられて最後はハッピーエンドになるだろうと信じられるから、ギャグとして笑えるというか、とにかく最高に笑わせてもらえて、とてもよかったです。   で、とにかく主演二人の演技がすさまじくて、当年の日本アカデミーにぜひ推されるべき作品と思ってたのですが、ピエール瀧氏の不祥事で公開自粛されたのと、某アカデミーで、選考作は1日2回以上上映されないと候補作として選出すらされないとかいう謎ルールのせいで、まったく選ばれることはなかったという不遇の作品ですが、原作が好きだった人には、たしかにこの映画は、あの原作の作品と自信持って言える作品だ、と、自信を持って言える映画と思います。   そんなところです。   あと、エンディング曲も超絶暑苦しくて、まさに作品世界を体現した名曲なので、エンディング曲までしっかり聴いていただけると幸いです。   そんなところです。
[映画館(邦画)] 10点(2021-06-11 00:16:02)
20.  JUNK HEAD 《ネタバレ》 
 すごい!   ストップモーションアニメというと、海外ではすごいのが出てて、日本はあまりなく、最近やっと「PUI PUIモルカー」で総時間33分くらいのものが出て、日本でも少ないけどあるんだなあと思ったところに、この壮大な、遠大な世界の作品が出てきて、全俺がどよめいた! みたいな感じでした。   とにかく背景のセットが混沌として奥深く果てが見えないくらいのスケール感があって、これは元々監督の方が芸大の創作でそういうのを作られてたのが生かされたということで、終盤には宗教的な深みまで垣間見えるようになって、とにかく素晴らしかった。   キャラクターも、どれもこれもグロテスクで、血も飛び散ったりしておぞましいものばかりですが、それぞれが息づいていて、ユーモラスな部分もあって終わりごろには愛着がわいてきさえする、最後に対決する敵すら「貴様、あの傷! あの時のあいつか!!!」という、人格的なものがあるものに対する敬意みたいなものが生まれて、すごかった。あと、いちおう人間は新しいテクノロジーで永遠に近い寿命が得られるようになったということで、そういう話もちらっと出てくるのも面白かったです。   パンフレットでは、最初のクラウドファンディングは失敗してしまった、ということらしくて、今後は、これが評価されて、終わってないので(全3部作らしい?)、潤沢な資金支援を得て、ぜひとも最後まで完結して欲しい。また、クラウドファンディングなどで支援の募集などあれば、ぜひぜひよろこんで支援したい! と思いました。     あとまあ、以下は盛大ネタバレですが、個人的には、本作は銃夢リスペクトがすごいと思って、ストップモーションアニメ版:銃夢じゃん! と思って、あの遠大な鉄骨やらなんやらのゴミゴミごちゃごちゃ入り混じった汚い世界は、まさに俺たちのクズ鉄町だし、天から人間である主人公が頭部だけで落ちてくるのはまさに銃夢の冒頭だし、異形の化け物の描写もまさに銃夢(というよりはギーガー的か)だし、最後の山場の、あの機械の身体だからこそできるあのアクションは、まさに銃夢だし、あの銃夢的な未来のSF的世界を描く魅惑的作品として、ずっと続きを待ちたい所存です。   そんなところです。
[映画館(字幕)] 9点(2021-05-22 20:09:38)(良:2票)
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