1. レッド・サン
《ネタバレ》 2025年最初の映画館鑑賞。大画面で小林哲子【ムウ帝国女王:海底軍艦(’63)】 を鑑賞する選択肢もあったけど、男の世界-マンダム-に憧れる者として、 今回はブロンソンの髭を堪能する事にしました。4Kリマスターでリバイバル。 この映画に関して言えるのはサムライがフォーマットという事もあるけど、 「世界のミフネに対してのリスペクト」が一番溢れ出ている海外作品として、 演者演出総じて客演ミフネを盛り立ててるところに好感あってこの点数。 それがフランス映画なのもまた良い。 再見時の感想としてはミフネ演じる黒田十兵衛、ドジっ子だった事。 ヒロインといい思いをするのは役得というのかなんなのか。 あと小悪党ブロンソンがちゃんと最後に約束を果たすお決まりパターン、 いいですねぇ。 侍ウェスタンじゃなくて、サムライ珍道中インウエストですな。 ツッコミどころ満載でご堪能ください。 [映画館(字幕)] 7点(2025-01-03 17:48:24) |
2. 嘆きのテレーズ
《ネタバレ》 「良い脚本(脚色)と脇役によってサスペンス映画はより良くなる」事を教えてくれるフランスサスペンス映画の古典。人間の業を深く描いた文豪ゾラの原作は上下2巻の長丁場なんだけど、不倫の恋から生じた犯罪計画の破綻というサスペンスに重点を置いた脚色(合わせて原作には出てこない水兵の存在)が上手い。またこの度何十年ぶりかの鑑賞だったんだけど、主演の男女二人以上に、脇を固める役者陣がビジュアル的要素も相まって演技が上手すぎ。特に「目が口ほどにものを言いまくり」な主人公の継母を演じたシルヴィ・アルコーヴェのインパクトが凄く心臓に悪すぎる。暴力行為を示さずとも観客に緊張感を味合わせる手法として、古典的かもしれないが今の映画も踏襲してゆくべき要素でありますよね。予定調和的因果応報なラストだけが玉に瑕なんでこの点数なんだけど好きな一本。機会が有ればまずは30分我慢して鑑賞くださいませ。 [ビデオ(字幕)] 8点(2024-05-26 15:58:22) |
3. 暗殺の森
《ネタバレ》 監督の伝えたい事を念頭におきつつ、台詞からではなく 「映像上の隠された比喩や引用から意図を想像する」 そんな映画の楽しみ方を伝えてくれたという点で印象的な1本。 原題「体制順応主義者」とは主人公マルチェロその人を指すだけでなく、 イタリアのファシズム政権を誕生させてしまった数多くのマルチェロ =社会に無関心・無責任な大衆への糾弾を伝えたかったのではないか。 年少期の出来事が影響したとはいえ信念の欠けた、未熟な生き方を 続けてきた男は(落語で言う「でも医者」ならぬ)「でもファシスト」。 反体制を主張する恩師の調査追跡によって感じたのは自身の生き方とは 真逆の、「人権を声高に主張し自由に生きている」人間の姿。 女性二人のタンゴ。平凡な生活を余儀なくされていた婚約者が 恩師の若い妻と踊るそのシーンは、女性としての真の生き方ってのか 心身の解放を教授してもらうというシーン、だと思ってる。 人間らしい生き方に触れたにも関わらず、全く動かない主人公。 恩師を暗殺する段になっても、その対応を同僚になじられる。 大勢の暗殺者によってナイフでめった刺しにされる恩師の様は 「無責任な大衆によって少数の良心は潰される」様を見ている様で 痛々しい。一度は気にかけた恩師の妻が惨殺されてゆく様子を ただ車窓から見ているだけ。無関心が悲劇を増大させる。 でそんな情景を映し出す映像美。巨匠ヴィットリオ・ストラーロ30才。 青・赤・白を多用した色彩は主人公のフランス旅行に結びつくだけで 無く、国旗:トリコロールにも関連付けられてるとは今回知った事実。 青:自由/白:博愛/赤は平等なんだけど、どちらかというと暴力に よる流血と合わせて、「血の色は同じなのに考えが異なる多様性」 を明示した隠喩と思っている。あと光と影の使い方。「カラヴァッジオ (イタリアバロック絵画の巨匠)を参考にした」との事だが、絶対これ エドワード・ヤン、影響受けてんだろ。「牯嶺街少年殺人事件(’91)」 ラスト、主人公夫婦にとってあのフランス旅行の喜びは一過性 でしかなかった事に愕然とさせられる。そしてファシスト政権の 崩壊と同時に目撃した出来事。何もかも失ってしまった主人公 はどう感じたか。「おまえら全員ファシストだ」 自分は無責任な傍観者になってないか? 映画館を後にする自分にも、その声は響いてるのだ。 長文失礼しました。 [映画館(字幕)] 9点(2023-11-06 20:52:08) |
4. 湖のランスロ
《ネタバレ》 過度な演出(プロの俳優を使用しない/ストーリーの盛り上がり)を排除し、 最小限の映像表現で世界中の映画ファンから注目されてきた監督ブレッソン。 私も好きな監督の一人として、この度初の劇場公開となる (特集という形での単回上映・ソフト化は過去に実施済)この機会に鑑賞。 ただ率直に言うと、彼の諸作品(例えば「バルタザールどこへ行く(’66)」「ラルジャン(’83)」) と同等のレベルを期待してしまうとちょっと肩透かし、って感じ。 私は彼の作品のテーマとして(キリスト教の教義における)「罪と罰」という点が 個人的に重要なのではないかな、と思っているのですが、遵守すべき「中世の騎士道精神」 という概念が日本人にはわかりづらいし、何より(「演じる」事を排除した結果とは思うが) 登場人物が甲冑を着ている事で表情が窺えない分、スクリーンの人物に感情移入しづらい。 そういった点で彼の作歴上、ある意味失敗作なのではないかな、と。 但この点数にしているのは映画館で鑑賞した分、甘くなってるのですが ①画面の使い方(特に足元を映し出したクロースアップの多用がインパクト有り) ⓶最大の功労ポイントは、「音」。 ブレッソン中級者向けの一本ですがどうぞこの機会に映画館で。 [映画館(字幕)] 7点(2022-03-24 18:09:50) |
5. 離愁(1973)
《ネタバレ》 第二次大戦初期ドイツ軍のフランス侵攻が激化する中、疎開の為汽車に乗り込んだフランス人の修理工とユダヤ人であるドイツ女性との一抹の恋。とにかくラストシーンの素晴らしさにつきる。列車での疎開そして別れから3年後、男はレジスタンスとして捕えられた女との共謀を疑われナチスの秘密警察に呼び出される。彼女を「知っている」と認めたら彼もまた死刑になるのは自明の理だ。秘密警察の係員(ポール・ル・ペルソン=隠れた名演)に知らない旨を伝えたはいいが係員は彼女を呼び出し対面させる事で揺さぶりをかけてきた...。でラストは皆様のご想像通りなのだが、知らぬ存ぜぬが出来なかった男の想いそして彼を守る為に必死に抑えていた感情が崩れ号泣する女、ジャン・ルイ・トランティニアンとロミー・シュナイダーの演技とその心情を表す効果音やカメラワークがベタだけどいいんだよなぁ。「旅愁」「旅情」「哀愁」同じようなタイトルの作品多いけど混同しないように。機会があればぜひ...にもかかわらずDVDはもちろん廃盤。おいおい~。(追記:2016年にTSUTAYAの「隠れた名盤発掘コーナー」シリーズで待望の復刻。機会があれば) [映画館(字幕)] 8点(2015-08-02 17:56:05) |
6. 8 1/2
《ネタバレ》 「観客をおいてきぼりにする様な」意味のわからない作風/映像表現を世界中に巻き起こした、という後世への影響から考えて「去年マリエンバートで(61年)」と並び仲間内ではあまり評判がよろしくないこの一本。そんな時私はいつも抗弁している「これこそ映画的な話でありとても面白い」と。1.現状の色々な重圧から潰されそうになっている自分+2.そんな自分が描いている妄想+3.作品で撮りあげたい映像、これらのコラージュ。そんな雑然とした風景がラスト主人公の述懐=人生って素晴らしい/登場人物たちが輪になって周り巡るあそこでひとつになる、それを見て感動で胸いっぱいになってしまう自分がいるのだ。あとは主演のマストロヤンニ。この作品が成り立っているのはひとえに彼の存在感があってこそであることは間違いない。 [映画館(字幕)] 9点(2013-04-02 02:50:22)(良:1票) |
7. イノセント
《ネタバレ》 この作品は監督ビスコンティ自身の人生の投影ではなかったか。原作では生き長らえる男を作品中「自殺」に追い込ませたのは滅び行く貴族社会=監督自身の人生の終止符、これは「遺言」ですよね。しかし嫉妬深い身勝手な男の虚無感といったらもう。ジャンニー二にとっての最高傑作であると同時に、ラウラ・アントネッリにとっても単なるポルノ映画女優ではない役者としての器の大きさ(役柄が「貞操な妻」なんて、ありえんだろ。だからこそジャンニーニとの情事のシーンはそのギャップに凄みすら感じる)を示した一本。 [映画館(字幕)] 9点(2010-09-11 17:48:51) |
8. 夏の嵐(1954)
《ネタバレ》 映画としては確かに未熟かもしれないが、この作品はやはり貴族の血を引くヴィスコンテイでなければできなかった題材ではなかったか。オペラ座の光景。ロバート・クラスカーの荘厳なカメラ。ブルックナーの第七番。伯爵夫人の恋の相手となるファーリー・グレンジャーもルックスを生き延びてゆく武器にしながら、そんな自分の卑劣な行動に心底嫌気がさしている駄目人間を演じて好演。そしてこの話の素晴らしさはそんな「だめんず」に心底惚れ込んでしまった伯爵夫人アリダ・ヴァリの情熱的な眼差し、そして最愛の恋人を密告し処刑場に送り込んでしまった際の最後の叫び。恋のもたらす盲目的な熱情をこんなにうまく表した映画は無いのでは、と思っている次第です。ちなみにこの映画の原題は『「Senso」=官能』ですからね。 [映画館(字幕)] 8点(2008-08-02 20:48:10) |
9. ゾンビ/ダリオ・アルジェント監修版
《ネタバレ》 初めて見た時はひたすら怖かった。二度目に見たときは妙に悲しかった。でこの前見たときは可笑しくて仕方がない(ヘリコプターは反則でしょ)、1本の映画にこんな多々な感情を覚えるのは珍しい。後の文化に凄いインパクトを与えたホラー映画の金字塔であるばかりか、映画そのものも消費文化へのアイロニー(物に囲まれ不自由のないはずなのに、「物を活用することのわからない」者達が蠢いている現実)を見せていて印象に残る。 [映画館(字幕)] 9点(2008-04-13 20:14:45) |
10. 太陽がいっぱい
《ネタバレ》 P・ハイスミスの原作のテーマが「自己の喪失」であるのでどちらかといえばリメイク版の「リプリー」の方が原作に近いしマット・デイモンの方が「才人トム・リプレイ」なのだろうと思う。だが作品を流れるそこはかとない哀愁(ニーノ・ロータのメロディ!)そして主演のドロンの名演によってこの作品はサスペンス映画のエバーグリーンとなった。はっきり言ってドロンは好きな俳優ではないのだがここではその「下種な」雰囲気が見事に「背伸びをした成り上がり感」をかもし出していて絶品。ここではヒロイン、マリー・ラフォレはおまけ。モーリス・ロネの方がよっぽど不思議な色気を出している。ヌーヴェル・バーグの若手監督達にさんざん虚仮にされたルネ・クレマンの怒りの一本! [映画館(字幕)] 9点(2008-01-27 21:26:36) |
11. 黄金の馬車
日本初公開の時にスクリーンで見てから何年かぶりに再見。一人の女性としての幸せを求めていたカミーラにとって「黄金の馬車」はそんな夢をかなえてくれた象徴だったのでしょう。だが夢は潰え、彼女は女優として舞台の幕下へと下がっていく。余韻の残る、素晴らしいラストシーンです。この映画もルノワールの「包み込むような」世界を堪能できる一本。 [映画館(字幕)] 9点(2008-01-27 19:54:02) |
12. 影の軍隊(1969)
《ネタバレ》 仏暗黒街映画の名匠、メルヴィルの名作。第二次大戦下の対独レジスタンスの日々を描いたこの作品、下の方も書かれているが戦争映画のスパイ物のような痛快な場面はまったくなく重く、暗い場面の連続。裏切り者を処分するのにガタブルな暗殺者。へこむレジスタンス。ただ戦火の中で生きていかねばならない彼らの行動にはちゃんとした筋があり、それを映し出す映像表現はやはりフランス映画、これが良いのだ。 [映画館(字幕)] 8点(2007-09-21 21:24:18) |
13. テオレマ
《ネタバレ》 人が「自己の存在感」を感じる要素、つまり地位や名誉、容姿や金銭の存在というのは地球上に存在する生物の価値観からすれば砂上の楼閣であり、ただ清らかな心=純粋な宗教心のみが人が人として存在できる最大の要素たるものなのだ、とパゾリーニは述べたかったのかなと感じたのですが如何なものでしょう。「コレクター」もそうですが透明感のある青年(しかも性的魅力に溢れた)を演じたテレンス・スタンプはまさにはまり役。レンタルビデオでみる機会が無かったこの映画を見る為だけに私は東京-名古屋間を移動する、というアホな事をしたものだが今ではDVDが発売中。世の中変わったなぁ。 [映画館(字幕)] 8点(2006-11-11 07:16:03) |
14. フェリーニの道化師<TVM>
《ネタバレ》 フェリーニの作品では小品だけど私にとっては愛着を感じるのはこれです。彼の幼年時代の思い出は私の感想では「道化師を見て笑った楽しさ」というよりも「笑われる道化師への哀愁」。「道化」師という職業は元々王室等で暇つぶしのネタにされるようなある意味「くだらない」職業であり、(その為矮小の体をもつ人達などが付く事が多かった)サーカスのピエロもそんな名残から人々からも見下されていた現実が多々あったという。哀しみを表に出さず自らを「道化」として笑いを生み出す職業、こんな寂しい話があるでしょうか。だけどこれはそういった人々へのフェリーニなりのエールなのでしょう。中世スペイン王宮でのお付画家として名を馳せたベラスケス、彼の絵画には道化をモチーフとした作品がありその中の人物はまっすぐな視線を鑑賞者に向けた「道化」という職業への誇りを表したかのような力強い作品が多いのですが、この映画はフェリーニにとっての「ベラスケスの絵画」。暗闇に消えてゆく道化師とそれにかぶるラストシーンの哀愁溢れるトランペット、「寂しさもあるがこれもまた素晴しい」応援歌のはずです。 [映画館(字幕)] 8点(2006-04-19 18:39:06) |