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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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1.  復讐するは我にあり 《ネタバレ》 
長尺を一気に見せる抜群の構成力と演出力はすさまじく、また名優たちによる質の高い演技の応酬戦には圧倒されました。 狂気を隠そうともせず欲しいものにはすぐに手を出す巌と、信仰や家庭といった守るべきものを防波堤として欲求を抑え込もうとしている鎮雄・加津子は対の存在として描かれています。また、男に振り回される幸薄い女という共通点を持ちつつも、巌が死刑になり、かよが病死してくれれば鎮雄は自分のものになるという打算を持って生きている加津子に対して、どこまでも運命に流されるだけの非力なハルも対の存在として描かれています。まさに四者四様であり、見る人の個性によって誰に感情移入するのかは違ってくるように思うのですが、私はハルの物語にもっとも心動かされました。 ハルは日陰者の人生を送っていますが、それは母親が殺人者になってしまったためであり、根本原因に彼女自身の落ち度はありませんでした。彼女の落ち度と言えば、不遇を振り払うだけのパワーもガッツもなかったことと、おそらくは他人からの冷たい仕打ちに遭い続けてきた人生なのに、それでも誰かを頼りにしようとしたことでしょうか。 本編登場時、ハルは住み込みで働いているボロ旅館のオーナーの言いなりになることで、そのうち旅館を譲ってもらえるのではないかということを期待していましたが、どう見てもオーナーにその気はなく、決して与える気のないニンジンを鼻先にぶら下げられているという状態でした。当のハルもオーナーの腹の内には薄々気付いてはいるものの、目の前の淡い期待にしがみつき厳しい現実を見ないふりしておく方が、現状打破のためのリスクと労力を負担するよりも楽であるという無意識の判断をしていたように見えました。巌が現れた後も同様です。巌が見せる夢に盲目的にしがみつき、後に巌が詐欺師であることが分かっても同じ夢を見続けようとし、そのことがハルと母親の死に繋がりました。 ハルは徹底的に非力で愚かな存在として描かれるのですが、こうした弱さは誰にでもあるものです。現実を直視し必要な対策を講じるということは精神と肉体を大変疲弊させます。だから多くの人は、現在の平穏が今後も続くものと漠然とした期待を抱き、目の前の問題を見ないふりしようとします。この要素には私自身にも多分にあるため、ハルの弱さには大変共感できました。 他方で、主人公・巌の物語には感覚的に理解しづらい部分がありました。巌とハルの母親の会話や、逮捕後の巌と鎮雄の会話にて明言されているのですが、巌は父・鎮雄を殺したいほど憎んでおり、その屈折した感情が一連の反社会的行為に結びついていたとの解釈になっています。両者の対立はそれほど重要な要素であるにも関わらず、その憎しみの根源というものがよく見えてこないのです。何か個別の事例がきっかけということではなく、根本的な人間性が合わない、生き様を1mmも肯定できないという対立なのだろうことは何となくわかるものの、鎮雄の何がそんなに気に入らなかったのかがよく分からないために、肝心の巌の物語の通りは悪くなっています。
[インターネット(邦画)] 7点(2018-07-04 18:46:37)
2.  ブラック・レイン
ちゃんと大阪でロケをしたことや、日本の芸能人を使ったことなど、プロダクション上はめんどくさいことをわざわざやって他のハリウッド映画とは異質のリアリティを築き上げた点は評価できます。こういう映画ってメインの役どころにはちゃんとした日本人俳優を使っていても、隅っこに日本人でも聞き取れない日本語を話す脇役がいることが多いのですが、本作については端役に至るまで日本の芸能人で固めているので好印象です。 ただし、面白い映画だったかと言われるとそうでもありません。リドリー・スコットが監督しているのにキレのある見せ場がないし、当時ありふれていたバディアクションのテンプレートに当てはめて作られた物語には大した面白みがありません(元は『ビバリーヒルズ・コップ2』として書かれた脚本が流用されているようです)。 異文化交流ものとしてもさほど深みがなく、せっかく日本を舞台にしているのだから、NYのはみだし刑事が役人的な日本の刑事に影響されて個からチームへと意識を変えていく話にでもすればいいのに、ニックはスタンドプレーやルール軽視といった姿勢を最後の最後まで崩さないので、基本設定があまり活かされていません。NYで横領していたという原罪をニックに負わせた意味って何だったんだろうかと思ってしまいました。
[インターネット(字幕)] 6点(2018-06-15 18:15:04)
3.  福福荘の福ちゃん
おっさん役に森三中・大島美幸をキャスティングした監督のセンスと、ほぼ違和感なくおっさんに見えた大島美幸のなりきり加減には恐れ入ったものの、全体としてはイマイチだと感じました。 これは相性の問題なのでしょうが、笑わせることを意図している場面で悉く笑えず、私にとっては奇抜なキャスティングという一発ネタしか心に残りませんでした。
[インターネット(邦画)] 5点(2017-10-31 18:37:39)
4.  ブレイクアウト(2011) 《ネタバレ》 
もし20年前に公開していれば全米一位を獲っているような元・豪華メンバーによるB級映画ですが、借金問題であらゆる映画に出まくっているニコラス・ケイジはともかく、ニコール・キッドマンまでがミレニアムフィルムズの映画に出るようになった点にはかなり驚かされました。 二転三転どころか五転も六転もする展開はそこそこ楽しく、さらには上映時間が短かったこともあって、見たことを後悔させられるレベルの作品ではありませんでした。ただし、感情移入可能なキャラクターがいないためにスリルが半減したり、小さなどんでん返しが多すぎて「今言ってることも、どうせ後でひっくり返されちゃうんでしょ」という目ですべてを疑うようになって、かえって観客にサプライズが届きづらくなっていたりと、小手先だけで作られた映画だなぁと感じました。 「ケイジは事業に失敗して破産寸前だった→実際には多額のヘソクリを隠していた→ヘソクリと一緒に犯人を燃やすケイジ」という、結局主人公にとって金とは一体何だったのかがよく分からなかったり、序盤では「10分以上現場にいると警察に捕まるリスクが高まる」と言って分刻みの行動をとっていたのに、いつの間にかダラダラと居座るようになった犯人グループだったりと、登場人物達の性格が安定しない点はどうかと思いました。犯人グループの一人であるストリッパーに至っては、現場にあった高いドレスを着て上機嫌になり、プロジェクターでホームビデオを流しながらハッパを吸うという異常なくつろぎ方をしており、この人は一体何をしに来たのだろうかと脱力させられました。
[インターネット(吹替)] 5点(2017-10-05 22:10:15)
5.  不屈の男 アンブロークン
原作に不適切な表現があったことから反日映画とのレッテルを貼られて大変なバッシングに遭った不幸な作品ですが、作品内容は極めてフェアーなものだったと思います。本編は個人と個人のぶつかり合いに終始しており、決して日本を批判するものでもありません。さらには、日本に対する無差別爆撃の被害状況など通常のアメリカ映画が避けて通る描写にも果敢に挑んでおり、私生活でも平和活動に積極的なアンジェリーナ・ジョリーは作品にも一本筋を通しています。また日本人として面白かったのは、主人公の乗る爆撃機がゼロ戦に襲われる場面の恐怖心の演出であり、アメリカさんから見た戦争はこんな感じだったのかと興味深く感じました。 ただし、映画としては面白くありません。元から強いメンタルを持っていた主人公がただひたすら虐待に耐えるだけの内容であり、そこにドラマがないのです。主人公、主人公に暴力を振るう看守、凄惨な現場を眺める他の捕虜達、これら全当事者の誰にも何の変化もなく、これでは残酷描写を売りにしたゲテモノホラーと大差ありません。 この点については、アンジーの個人的な思想が作品にとってマイナスに働いたように感じます。アンジーはいわゆる進歩的な文化人であるため、アメリカ万歳映画にはしないという意図を持って本作を製作したと考えられます。それゆえに、主人公の持つ愛国心という重要なファクターが丸ごと落とされているために、話の通りが悪くなっているのです。主人公はなぜ暴力に屈服しなかったのか、日本当局からの懐柔案にも乗らなかったのか。それは愛国心ゆえのものだったのに、アンジーはあくまで個人のドラマとして本作を製作したために、暴力を振るう側も振るわれる側も何やってんだかよく分からない内容になっているのです。 また、歴史映画でありながらリアリティの造成にも失敗しています。前述した東京大空襲やゼロ戦の描写など、表面的な事実を描くことには一定の成果を挙げている一方で、本編においては実際に起こったことならではの生々しさというものがないのです。例えば、渡邊伍長が狂人の如く振る舞っている最中に、他の日本人看守達は一体何をしていたのか。虐待に参加するでもなく、上層部に告発するでもなく、無味無臭でそこに存在しているだけ。こうした細かい部分に演出の目が向いていないために、全体としてリアリティを感じられない話になっています。
[インターネット(字幕)] 5点(2017-01-09 13:36:13)
6.  ブーリン家の姉妹 《ネタバレ》 
「ヘンリー8世って離婚をバチカンに咎められ、逆ギレして英国教会を作った人ね」「ブーリン姉妹・・・誰?」という高校世界史レベルの知識で予習もなしに本作を鑑賞したのですが、それが正解でした。次に何が起こるのかサッパリわからないので終始ハラハラドキドキさせられ、ブーリン家の命運尽きたかと思われた後の、アンの娘は後のエリザベス女王でしたというオチにもびっくり仰天で、続いて『エリザベス』も見たくなりました。往々にして、歴史映画は史実を知らなければ楽しめない場合が多いのですが、本作は珍しくその逆のパターンをいっています。 上昇志向の強い長子が失敗し、無欲の次子がたまたま成功を掴むという兄弟・姉妹あるあるは興味深く感じました。人生とはそういうものです。また、失敗の経験から成功に対してより貪欲になり、目標達成のためには手段を選ばなくなったアン・ブーリンの性悪加減などはかなり怖く、彼女が本作のドラマ性やサスペンス性を高めていると同時に、カトリックからの離脱という英国史上屈指の大イベントの仕掛け人になったことへの説得力も与えており、歴史的事実と目の前のドラマをうまく融合させているものだと感心させられました。 演技派として認められようと必死だった頃のナタリー・ポートマンを姉役に、天性のカリスマ性で黙っていても巨匠との仕事が次々と舞い込んでいたスカーレット・ヨハンソンを妹役にあてたキャスティングも絶妙であり、この2人が作品を大いに盛り上げています。
[インターネット(字幕)] 7点(2016-12-05 15:28:22)(良:1票)
7.  フルートベール駅で 《ネタバレ》 
これはなかなか評価の難しい映画です。 声高に主義主張を叫ぶ映画ではないため表面上は中立を装っているものの、主人公が愛すべき家庭人として描かれ、「俺も真面目に働かなきゃ」と改心したまさにその日に射殺されたというドラマチックな内容としている点で、やはり表現にはバイアスがかかっていると思います。交通事故に遭った犬を抱きしめる場面とか、ハッパを海に捨てる場面とか、故人が一人で行ったはずの善行を一体誰が見てたんだよとツッコミを入れたくなりました。 そもそも主人公は前科持ちで出所後にも売人を続けており、社会との信頼関係を自ら破壊してきた人物なのです。そんな人物が公共交通機関で敵対グループと喧嘩をしたとなれば、警察官達が「相手は危険人物である」との予断を持って事に当たり、「新年で混み合う公共交通機関で一般市民に被害が出ないよう対処せねばならない。何かあれば即撃て」との姿勢でいたことにも、一定の合理性はあります。また、舞台となったフルートベール駅周辺は治安が悪く、その地では警察官達は緊張感を持って職務に当たっているという点も考慮に含めねばなりません。そうした警察官側の論理を扱っていない点でも、やはりアンフェアな内容だったと言わざるをえません。 ただし、さすがはライアン・クーグラー監督作品とだけあって映画としては抜群に面白く、その構成力には舌を巻きます。冒頭に射殺場面を持ってくることで「この人物は殺されます」という結末を観客に対して突き付け、当日の彼の些細な行動にも高いドラマ性と緊張感を与えています。主人公が非常に魅力的であることもドラマへの没入感を高めており、上記の通りの社会啓蒙的な側面を度外視すれば、これがとても良い映画となっているのです。
[インターネット(字幕)] 6点(2016-11-02 19:06:22)(良:1票)
8.  フローズン・グラウンド 《ネタバレ》 
映画界における”based on a true story”の範囲はかなり広く、もはや史実とはまるで別の話になっていてもお構いなし。本作もそんな一本であり、80年代のアラスカで発生した連続猟奇殺人事件をモデルとしながらも、事件経過は作品オリジナルです。史実では17歳の娼婦シンディが派出所に駆け込んで証言したことからロバート・ハンセンが捜査線上に浮かび、ハンセンは友人たちにアリバイ工作を依頼するも断られて逮捕に至ったのですが、作品ではシンディの証言が無視されたことから物語がスタートします。また、劇中のハンセンは友人にも恵まれ、警察にマークされて身動きのとれないハンセン本人に代わってシンディの口封じを実行してくれます。ここまでくると実話とは言えませんね。 作品は猟奇殺人の詳細を描くわけでも、捜査の過程を丁寧に描くわけでもなく、クライムサスペンスとしてはボヤっとした出来なので眠たくなってしまいます。一時はシンディと捜査官・ジャックの疑似的な親子関係に焦点が当たるものの、感動的な盛り上がりも明確なゴールもないまま両者のドラマは萎んでいくためこちらも不発。また、ジャックと奥さんとの間には旦那の職業を巡ってのわだかまりがある様子なのですが、こちらも気付けば終わっているためネタ振りのみとなっています。ラダ・ミッチェルという魅力的な女優さんを奥さん役に配置しながら有効活用できていないのだから、もったいない限りです。 さらに作品のテンションを下げているのは馬鹿な登場人物が何人かいることであり、馬鹿が馬鹿なことをしたせいで引き起こされた馬鹿馬鹿しい危機には手に汗握ることができません。シンディはハンセンに命を狙われており、しかも警察からは身を隠すための隠れ家を与えられているにも関わらず、ちょっと気に食わないことがあったからという理由でフラフラと売春街へ戻っていって案の定ハンセンに発見されてしまうのだから困ったものです。そんなハンセンを手伝う友人は、とっくにハンセンが逮捕され、おまけにシンディには捜査官がべったりくっついている状態であるにも関わらず、口封じ目的でシンディの命を狙い続けます。そこまでのリスクを冒してまでハンセンを守ってやる義理とは何なんだと思いますが、とにかく普通ではやらないような行動をとるため見ている側のテンションはダダ下がりです。 ニコラス・ケイジはいつも通りの困った表情で特に代わり映えしないのですが、これが結果的に捜査官役に必要な安定感に繋がっているのだから悪くありません。生理的嫌悪感を抱かせる猟奇殺人鬼になりきったジョン・キューザック、新境地開拓と言わんばかりに体を張ったヴァネッサ・ハジェンズ、ポン引き役50セントのハマり具合もよく、出演陣はなかなか見せてくれます。それだけに、内容の薄さが余計に際立つのですが。かつて『コン・エアー』で全米1位を獲ったコンビが、15年後には落ちぶれてこんな緩いB級映画に出るものかと寂しくなりました。
[インターネット(字幕)] 4点(2016-10-20 21:32:00)
9.  ブラック・スキャンダル 《ネタバレ》 
元はバリー・レヴィンソンの企画だったものの降板し、代わりにメガホンをとったのがスコット・クーパー。この人はクリスチャン・ベール主演のクライムサスペンス『ファーナス/訣別の朝』を撮った監督さんなのですが、『ファーナス』は雰囲気こそ良かったものの、作品の要となるようなインパクトの強い見せ場や、2時間に渡って観客の関心を引き続ける強力なストーリーテリングを生み出せておらず、致命的な欠点はないものの、さして面白くもないという凡作に終わらせた実績を持ちます。この監督が、同じくクライムサスペンスである本作をどのように仕上げるのかについては不安が大きかったのですが、案の定、『ファーナス』と同じ傾向の作品となっています。各構成要素は悪くないのだが、2時間を引っ張るだけの強力なものがありません。 最大の問題は、監督が一体何を作品の主軸に置いているのかがよく分からないこと。ジョニデ演じるヤクザの成り上がり物語なのか、武闘派ヤクザの狂犬ぶりなのか、ヤクザとの癒着を暴かれそうになって背中に火が点いたFBI捜査官の転落劇なのか。元となった事件が10年以上に及んだだけに構成要素はパンパンであり、どのエピソードを落とすかという取捨選択が必要だったのですが、監督は乱雑にエピソードを詰め込んだ結果、個々のエピソードがぶつ切り状態で2時間を貫く大きな流れを生み出せていません。 そもそも、誰の視点で語られる物語なのかが不明確。FBIの事情聴取に応じる下っ端ヤクザが冒頭に登場するため、『グッドフェローズ』のレイ・リオッタのように彼がストーリーテラーになるのかと思いきや、冒頭を除くとこのヤクザは空気同然の存在感。その後、ジョニデの元右腕だった殺し屋が語り手として登場したり、ジョニデ自身の家族エピソードになったりと視点がめまぐるしく変動し、結局、感情移入の寄り代がないため物語に集中できないのです。せっかく豪華な出演者を揃えたのにこの出来は残念でした。スコット・クーパー、私の中の要注意監督の仲間入りをしました。
[ブルーレイ(吹替)] 4点(2016-08-10 00:42:35)(良:2票)
10.  ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]
劇場公開時に一度見たきりのまま、私の心には特に何も残らず忘却の彼方に去っていた本作ですが、2015年のリブート版が良くも悪くも異形の大作となっていたことから、本作の出来がどうだったかが気になって10年ぶりに再見しました。 2005年当時にアメコミ実写化作品の成功作と言えば『X-MEN』と『スパイダーマン』くらいのもので、『アイアンマン』も『ダークナイト』もまだなかった時代。そんな時代に製作された本作には小難しい主張やリアリティへの目配せなどほとんどなく、高い再現度でコミックを実写化するという方向性のみで製作されています。顔だけはヨアン・グリフィスのゴム人間がびにょーんと伸びる様などは相当に素っ頓狂なのですが、お話しの方もマンガレベルなので一連の描写にも特に違和感を覚えず、物語とヴィジュアルがうまく調和しているものだと感心させられました。当時、世界一セクシーな女性だったジェシカ・アルバのお色気ギャグなども見事にハマっており、マンガ映画として求められるレベルには十分に達しているのです。 ただし、何かひとつでも大人の鑑賞に足る要素があれば良かったのですが、そうしたものが皆無であることが作品のリミッターになっています。手の込んだ仮装大会レベルにとどまっているために100分という上映時間が無駄に長く感じられるし、鑑賞後に何も残るものがありません。
[DVD(吹替)] 5点(2016-08-08 20:07:44)
11.  ファンタスティック・フォー(2015)
世評とは裏腹になかなか楽しめてしまい、自分の感性はどこかおかしいのではないかと気になってしまいました。 アメコミ映画ブームで様々な特性を持つヒーローが実写化されている昨今ですが、ゴム人間、透明人間、人間たいまつ、岩石男という冗談にしかならないメンツがチームを組む『ファンタスティック・フォー』実写化企画の難しさは際立っています。この点、2005年版は思いっきりマンガ寄りのおちゃらけ路線に振り切ることで娯楽作品としての体裁を作り上げてまずまずの興行成績を残したものの、まったく深みのない物語で批評家やファンからの敬意を勝ち取る事は出来ず、たった一本の続編が製作されただけで自然消滅となりました。対して仕切り直しの本作は徹底して暗く、荒唐無稽なキャラクター達を可能な限り本物っぽく見せるというリアル路線に振り切っています。アメコミヒーローのクロスオーバー企画が続々と製作されている中で、フォックスとしてはすでにブランドを確立している『X-MEN』とファンタスティック・フォーのクロスオーバーをどうしても作りたいという思惑があり、シリアスな『X-MEN』の作風との統一感を出すために本作もこの路線をとったのだろうと推測されます。 前作『クロニクル』にて「もし高校生が超能力を身につけたら、きっとこんな風になるだろう」というドラマを作り上げたジョシュ・トランク監督の真価は、本作の前半部分で見られます。テクノロジーへの憧れを持つリード・リチャーズの幼少期からの物語を見せることで、物質転送装置という非現実的なアイテムを違和感なく登場させているのです。後にファンタスティック・フォーとなる面々が被験者第一号となるまでのくだりもうまく説明されているし、超能力を身に付けた後の各キャラクターのリアクションや、現実世界との接点の持たせ方もよく考えられています。ヴィジュアル面においては、超能力を身に付けた者達が変異する過程がなかなかおぞましく、またドゥームが暴れる場面では過剰なほどの血が飛び散り、残酷描写からも逃げていません。あのメチャクチャな設定のヒーロー達で深刻なドラマを作れという要求にはきちんと答えられているのです。監督は作品をフォックスに取り上げられ、元は140分あったとされる本編をズタズタにカットされたり(予告編にあった場面のほとんどが本編に無い)、監督以外の者(噂によるとプロデューサーのマシュー・ヴォーン)が撮った追加カットを勝手に挿入されたりといった大変な目に遭わされたのですが、それでも作家性の片鱗を残せているのはさすがだと思います。 ただし、短い上映時間のほとんどは超能力を身につけるまでのドラマに費やされており、ドゥームとの決戦がやっつけで終わってしまうという点は残念でした。また、4人がそれぞれの能力を生かして強敵に挑むというチーム戦としての面白さも追求されておらず、見せ場については2005年版よりも劣っています。最終決戦の場所が無人の惑星というチョイスも悪く、ヒーローの活躍に必要不可欠なオーディエンス不在の舞台でラスボス戦をやっても盛り上がりません。そもそもファンタスティック・フォーはアメコミヒーローとしては珍しく素顔も本名も明らかにされている設定のヒーローであり、一般市民からの応援と尊敬が彼らの特徴のひとつだというのに、その一般市民が作品にまったく姿を現さないのではファンタスティック・フォーのドラマとして失格でしょう。 ま、肯定的に考えれば『X-MEN』の第一作や『バットマン・ビギンズ』だって見せ場の盛り上がらなさ加減はこんなもんだったし、本作については超能力を得る前のパートが作り込まれているので物語の基礎部分はしっかりとしており、続編を作ればちゃんとした娯楽大作になる可能性はあります。もし製作されればの話ですが。フォックスとの関係を見るに、ジョシュ・トランクの再登板は絶望的という様子ですが。
[ブルーレイ(吹替)] 7点(2016-08-08 20:06:54)
12.  ブルー・リベンジ (2013) 《ネタバレ》 
情念のぶつかり合いこそが復讐映画の醍醐味なのですが、本作にはそれがありません。冒頭20分にはほとんどセリフがなく、観客に対する状況説明もなし。虚ろな目をしたホームレスが人を殺すのですが、この時点で観客は誰が誰を殺したのかがよくわからないため、そこには何の感情も起こらないのです。その後の説明で、どうやらこのホームレスは親の仇を殺したということが分かるのですが、当のホームレス自身も復讐による高揚感や、人を殺したことへの後悔といったありがちな感情をほとんど表していないという点が、作品の異様さをより高めています。 本作のテーマは復讐の連鎖であり、対テロ戦争開始後のアメリカ映画ではさんざん扱われてきて若干陳腐化の傾向もあるテーマですが、本作ではかつてなかった切り口でこれが描かれています。主人公は両親を殺されたショックで精神をやられてホームレスとなっていたが、現在の淡々とした表情を見るに、親の仇に対する怒りも時間とともに薄れていたようです。しかし、事前にやると決めておいた復讐は一応果たしに行く、失うもののないホームレスだから刑務所に入れられることも怖くないし。主人公がやり場のない怒りや、どうしようもない使命感に突き動かされているのではなく、ただ何となく復讐に走るという点が異様だったし、そのドラマ性のなさにある種のリアリティを感じさせられました。 しかし、事は一筋縄にはいきません。復讐を果たした自分が服役して終わるだろうという見込みは外れ、加害者家族は警察に被害届を出すのではなく、主人公(と姉一家)に報復するという行動に出ます。ここに、被害者一家と加害者一家の血で血を洗う抗争が始まるのですが、ザ・ホワイトトラッシュといった感じのイカつい風体と重武装、しかも貧困層らしくやたら人数の多い加害者一家に対して、戦闘力ゼロに等しく不意討ちをかけるしか逆転の目のない主人公はモルドールに潜入したホビット同然の存在。この絶望的な戦力差が作品に大変な緊張感を与えており、特に姉宅襲撃場面では『ノーカントリー』を初めて見た時並みにハラハラさせられました。 その後、加害者一家側の事情も明らかにされ、序盤で主人公が殺した相手が実は親の仇ではなかったこと、両親殺害の犯人はすでに死んでいることが判明します。しかし、一度始まった復讐の連鎖は誰にも止められず、第一の当事者である親の世代が全員鬼籍に入っているにも関わらず、子の世代はもはや何の目的かもよくわからない殺し合いを延々と続けます。これを終わらせるには、どちらかの家族が全滅するしかない。アメリカの対テロ戦争やパレスチナ問題など、多くの国際問題に共通する論点を主要登場人物10名程度の小さなドラマに圧縮してみせた脚本の出来が素晴らしく、単なるバイオレンスの佳作に終わらせない含蓄ある作品となっています。 監督のジェレミー・ソールニアーは記事によっては驚異の新人扱いされているものの、実際には本作以前にも10年ほどのキャリアを持つ人物です。長い下積みに終わりが見えず本作を最後に引退しようと考えていたものの、その最終作がカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞を受賞して映画祭の目玉作品のひとつとなったことから、キャリアが一転しました。人生とは分からんものです。次回作の”GLEEN ROOM”も引き続き高評価を得ており、今後、大化けする可能性のある監督として要注目なのです。
[インターネット(字幕)] 8点(2016-06-23 18:13:38)(良:2票)
13.  ブリッジ・オブ・スパイ
視覚的な見せ場が売りの作品ではないものの、それでも時代の再現度は壮絶なレベルに達しているし、U2偵察機撃墜場面やベルリンの壁構築場面の迫力は凄まじく、スピルバーグはスペクタクルの巨匠であることを再認識させられました。 他方、肝心のお話しの方はイマイチでした。正義漢でもない主人公が、なぜ汚名を着せられてまでソ連のスパイの弁護を引き受けたのか。命の危険を冒してまで東ベルリンへと飛んだのか。その辺りが明確に描かれないため、掴みどころのないドラマとなっているのです。 また、法廷闘争や人質交換交渉においては、目的に対して何が問題になっているのか、そしてそれをどうクリアーするのかという形で論点が整理されていないため、そこにスリルやドラマを醸成しきれていません。主人公があっちからこっちへと動き回って、何人かの人と話しているうちに何となく問題が解決していくという流れであるため、感情的な引っ掛かりが少ないのです。この辺りは、もっと引き締まった作りにして欲しいところでした。
[映画館(字幕)] 6点(2016-01-09 02:44:50)
14.  ブラックハット 《ネタバレ》 
マイケル・マンと言えば昔気質の職人的な犯罪者の描写を得意とする、というかその手のキャラクターしか扱えない監督であるにも関わらず、本作では遠隔操作での戦いが見せ場のハッカー映画を撮るという大冒険をしていますが、結果は「やべ、俺向いてねぇわ」という監督の脂汗が見えてきそうな映画になっています。 内容は支離滅裂。とはいえ元からこれだけおかしい企画が通ったとは思えず、そもそもはちゃんとした内容だったが、監督が素材を扱いきれなくなったことから突貫での書き換え作業が始まってメチャクチャになったのではないかと推測します。つっこみどころがあまりに多いため、以下に箇条書き。 ・囚人ハッカーに捜査協力を依頼するなら、レクター博士みたいに鉄格子の向こう側で作業させればいいのでは。なんでわざわざ現場に出すの。 ・FBIは、囚人ハッカーと中国から送り込まれた女プログラマーに国内捜査をほぼお任せ状態で、彼らに対してロクに監視も付けない ・NSAは、いま時うちの母親でも騙されないようなフィッシング詐欺に引っかかって極秘扱いのスーパーコンピューターを不正使用される ・香港にスリーマイル島と同じ型の原発がある。アメリカ人がイメージする原発は須らくあの形なんでしょうか。 ・中国政府は、原発事故の現場に外国人の囚人ハッカーを出入りさせて、状況を丁寧にレクチャー。原子炉の管制室に入って極秘情報がたっぷり詰まったサーバーを回収するという作業まで外国人にお任せする。 ・テロリストの行動が、そもそもの目的と一致していない。インドネシアの錫鉱山を水没させる計画の予行演習で中国の原発をメルトダウンさせようとか、どういう判断基準してるの。普通逆でしょ。 ・そもそも金儲けが目的なら全世界の証券取引所をハッキングし、目立たぬよう広く薄く稼げばいいのでは。アメリカ政府と中国政府を同時に怒らせるという、地球上で最大のリスクをとった理由が分からない(一応、敵ハッカーにはドでかい事件を起こして世界に存在をアピールしたいという個人目標があったようなのですが、そんなものに付き合ってリスクを冒すテロ集団なんていないでしょ)。 ・テロリスト、市街地で銃撃ちすぎ。対戦車ロケットランチャーまで持ち出すし、香港は無法地帯か。これではテロ捜査関係なく、地元警察に普通に逮捕されるでしょ。 ・米中双方の捜査官が全滅した後、なぜか犯罪捜査に関してはド素人の囚人ハッカーとプログラマーカップルが勝手に捜査を引き継ぐ。両国の捜査機関に駆け込んで事情を説明する方が早くて確実なのでは?捜査官が殺された以上、捜査機関も真剣に動くし。 ・お尋ね者の囚人ハッカーが、捜査機関からのバックアップもなしに簡単に入出国する ・戦闘については素人のはずの囚人ハッカーが異常に強い。銃を持った複数人のテロリスト相手にドライバー一本で勝利してしまうという、どこのジェイソン・ボーンですかという大活躍。 主人公が囚人であることと、ハッカーであることという企画の骨子部分が製作途中で邪魔になったのか、普通のFBI捜査官を主人公にしてしまった方がスッキリしたのではという仕上がりに落ち着いたことはマズかったと思います。また、米中が共同で捜査をするという設定をとった以上、相容れぬ立場にある者同士の確執や、捜査の壁等も織り込むべきだったと思うのですが、中国政府の製作協力を取り付けたいという事情でもあったのか、劇中の中国当局がとにかく物分りがよくて何にでも快く応じてくれるため、本来あるべき展開がスッポリと抜けてしまっています。これではアメリカ国内に舞台を限定しても、同様の作品ができてしまいます。 確かに『コラテラル』にだっておかしな点は多くありましたが、あの映画は男の寓話であり、設定の整合性やリアリティを多少犠牲にしてでも語りたいドラマがちゃんと見えたので、一本の映画として評価できました。しかし本作には、そういったものすらありません。一応はアメリカ人ハッカーと中国人プログラマーのロマンスが作品の要になっている様子なのですが、二人がどうやって惹かれあったのかが不明確で、いきなり関係がスタートするため、感情移入は難しいものになっています。結果、ちょっと長めの上映時間で、ありえない話を延々と見せられる。これはしんどかったですね。
[ブルーレイ(吹替)] 3点(2016-01-05 14:08:15)
15.  フォーカス(2015) 《ネタバレ》 
思いもよらぬオチを用意するだけでなく、直前までオチの存在に気付かせないこともドンデン系の映画には必要だと思いますが、その点で本作は完全に赤点。本編中に盛り込まれた仕掛けの数々は確かに凄くて、よくぞこれだけ考えたものだと感心したし、伏線の回収にも成功していて決して甘い作りの映画ではないのですが、冒頭から小細工の連続では観客側もすべてを疑ってかかるため、ドンデンをかまされても「ああ、そうですか」としか思えません。そもそも、これだけウソが横行し、「さっきのやりとり、実は○○でした」みたいなことを短時間のうちに何度も何度もやられてしまうと、映画を真面目に見ようという気が失せてしまいます。私の集中力が継続したのは前半のニューオーリンズパートまでで、後半のブエノスアイレスパートになると完全に飽きてしまいました。 本作には詐欺師とカモとの間でのウソと、詐欺師同士のウソのふたつがありますが、後者のウソはドンデンまで伏せておくべきでした。詐欺師同士の会話では真実を語っていると見せかけておいて、最後にこれをひっくり返す。こういうメリハリが必要だったと思います。 また、ロマンティックコメディとしてもイマイチ。せっかく詐欺師を主人公にしているのだから、いくら相手に思いを伝えても額面通りに受け取ってもらえないというすれ違いのドラマにすればいいものを、主人公二人はアッサリと恋に落ちてしまうため、これといった見せ場がないのです。一般人にとっては感情移入の難しい詐欺師カップルがくっついたり離れたりを何度か繰り返して、最終的に一緒になれてめでたしめでたしというお話では、何の面白みもありません。 最近パッとしないウィル・スミスは得意とする伊達男役に復帰し、22歳も年下でフェロモン全開のマーゴット・ロビーの隣に立っても見劣りしないほどの色気を漂わせているものの、映画の出来がこれでは、せっかくの彼の存在感と必然性がないのに執拗に強調される肉体美がムダになっています。
[ブルーレイ(吹替)] 4点(2016-01-04 15:48:24)(良:1票)
16.  ブラック・ラン<TVM>
『ショーシャンクの空に』のフランク・ダラボンが書いた脚本を、後に『イーグルアイズ』を撮るD・J・カルーソが監督したという、現在から振り返ると何とも豪華な布陣によるTV映画。 『ショーシャンクの空に』でオスカー作品賞にノミネートされ、『プライベート・ライアン』の脚本のリライトにも呼ばれるなど(冒頭のノルマンディー上陸はオリジナルにはなく、スピルバーグからの依頼によりダラボンが書き加えたもの)、当時すでにハリウッド有数の脚本家だったダラボンがなぜ低予算のTV映画に関わることとなったのかは分かりませんが、ロミオとジュリエットのような主人公とその恋人との関係や、警察から犯人だと勘違いされ、主人公が孤立無援の中で戦わざるをえなくなるというシチュエーションなど凝った設定が多く、そこいらのB級アクションとの差をまざまざと見せつけられました。さらには、多くの要素がひしめく作品でありながら大した混乱が起こっておらず、無駄な登場人物がいないためストーリーテリングは極めて滑らか。ダラボンがどれほどの熱量をもってこの企画にあたったのかは分かりませんが、うまい人に作らせれば、一度見で消費されるだけのTV映画でもそれなりのものができるんだなと感心させられました。 ただし、演出の方は安っぽさ全開でイマイチ見栄えがしません。当時流行っていたジョン・ウー風にしたかったのか、いちいちスローモーションになるアクションには古臭さを感じさせられるし、車を使った追っかけがメインの作品なのにスピード感の演出にも失敗しており、結果的にそこいらのB級アクション映画群に紛れてしまう程度の仕上がりに終わっています。せっかく脚本は良かったのだから、もうちょっと丁寧に撮って欲しいところでした。
[ビデオ(字幕)] 6点(2015-11-30 09:14:19)
17.  複製された男
どう見ても短編サイズ。日本でいえば『世にも奇妙な物語』のワンエピソードとしてやって丁度いいくらいの話を90分にも拡大しているので、中身はスッカスカです。確かにこの監督には才能があって、キナ臭い雰囲気作りには成功しているものの、ドラマチックなことが何も起こらない画面をひたすら眺めることは苦痛でした。また、初見時にはオチも理解できず、解説サイトを読んでようやく話を理解できたのですが、こんなもん、出された映画を見ただけで分かる奴なんていないでしょ。
[DVD(吹替)] 4点(2015-10-14 15:45:09)
18.  フォックスキャッチャー 《ネタバレ》 
憎まれ役たるジョン・デュポンが最高すぎます。そもそも根性がネジ曲がっている上に、自分は権力者だから何をやっても許されるという妙な自信もあって、やりたい放題が止まりません。デュポン本人に似せるためのガチガチの特殊メイクによりその顔は能面のように固まり、表情が読めなくなっていることもこの人物の恐ろしさの表現に貢献しており、莫大な富と権力を持つ異常者が何にキレるか分からないという緊張感が全編を貫いています。 よくよく考えてみれば、ジョン・デュポンは気の毒な人です。セレブパーティーでの立ち居振る舞いや、選手に向けての演説を見れば、決してバカではないことはわかります。普通の家に生まれついていれば程々に生きることもできたのでしょうが、彼は全米屈指の名門に生まれてしまった。最高でなければ許されない環境に生まれついてしまった凡人。上からはバカ扱いされ、下からは心にもないおべんちゃらばかり言われて50年も生きていれば、おかしくなっても不思議ではありません。 そんな中で出会ったのがマーク・シュルツでした。兄のデーブばかりが持て囃され、金メダル獲得という最高の結果を残しているにも関わらず金銭的にも人間的にも恵まれない境遇にいる孤独なアスリート。人間的な欠陥を抱えるジョンとマークは、出会うや否や、共依存の関係となります。ジョンによる破格のオファーは、「自分は能力と実績に見合った評価を受けていない」というマークの不満を解消するものだったし、そんなマークがスポーツ振興を掲げるジョンの主張に心酔したことは、ジョンの自己承認欲求を満たしました。もしかしたら、ジョンが心からの尊敬を受けたのは人生で初めてのことだったのかもしれません。 しかし、ダメ人間の二人では厳しい競技の世界で勝ち続けることができませんでした。スポーツファンの域を出ていないジョンは指導者になれなかったし、マークは自発的に物事を考えることができず、指導者不在でトレーニングが進みません。どうしようもなくなって呼ばれたのが兄・デーブですが、デーブはすぐにマークの支えとなり、ジョンとマークの依存関係は崩壊します。これがデーブ殺害のきっかけとなったようです。 問題は、映画としての面白みに欠けていたこと。存命中の関係者がいるため事実関係への配慮が随所に感じられ、映画としてのイベント作りが不足していました。雰囲気作りは良かっただけに、もう少し面白ければ。
[ブルーレイ(吹替)] 6点(2015-09-25 18:38:10)
19.  ブルーバレンタイン 《ネタバレ》 
子供とふざけていると「バカバカしいからやめて」、付き合っていた頃には喜んで聞いてくれていた冗談を言うと「うるさい」、ムードを出そうとすると「気持ち悪いから近寄らないで」、我が家で日夜繰り広げられている光景ですが、本作にはこれらに相当する場面がことごとく盛り込まれており、倦怠期に入った夫婦生活の実態が容赦なく描写されています。結婚を経験した人であれば世界中の誰もが「わかる、わかる」と頷ける内容となっており、個々の描写のリアリティで本作は他作品を圧倒しています。 同時に、ストーリーテリングの技の多さや、その洗練度でも本作は驚異的な水準に達しています。説明的なセリフはまったくないものの、小さなエピソードの積み重ねによって登場人物の背景や感情は完璧に伝わって来るし、何気なく眺めていたことの意味が後に明かされるという語り口は、映画全体に対する観客の関心を維持することに繋がっています。『エターナル・サンシャイン』や『(500)日のサマー』等、恋の始まりと終わりを同時に見せる映画は他にもあり、かつ、このジャンルは良作揃いだったりもしますが、映画としての完成度の高さでは、本作が最高ではないかと思います。 偶然の出会いから劇的な結婚まで「私たちは特別なカップル」と思っていた夫婦であっても、お互いへの熱を維持することは難しい。この二人は破局しますが、どちらが悪いわけでもないという点に男女関係の難しさがあります。冒頭、ある朝の一幕がすべてを物語っているのですが、この二人は生活のテンポがまるで噛み合っていません。物事が手順通りに進んでいかないとイライラするシンディに対して、子供の悪ふざけに付き合い、完全に立ち止まることもあるディーン。この差は人生観にも影響を与えていて、何かを成し遂げねばならないと常に目的意識を持つシンディに対して、家族と楽しく生きられることこそが重要であり、仕事なんて食べるための手段に過ぎないんだから一生懸命やる必要はないと考えるディーン。どちらも間違っていないからこそ問題は深刻で、直すべきものが見当たらない中で、時限爆弾のように破局が迫ってきます。そして一線を超えた後は、二人がともに引き返すことを願っても、もう戻れません。ディーンが勢いで結婚指輪を茂みに捨てるものの、すぐ間違いに気づいて指輪を探しに戻るが、もう見つからない。この場面が象徴的でした。
[DVD(字幕)] 8点(2015-08-29 00:09:20)(良:1票)
20.  ブッシュ 《ネタバレ》 
オリバー・ストーンは、政治的にはブッシュを毛嫌いする一方で、その出自には共通点が多く(同い年で、出身大学も同じ。強い父親の支配に苦しんだ経験も共通している)、ブッシュに対して同情的な視点で本作が作られている点は興味深かったです。『ニクソン』もそうでしたが、ストーンは嫌いなタイプの政治家を題材としながらも、その人となりをリサーチするうちに憐れみの感情を持つようです。 父親に決められたレールに乗っているうちは何もかもがうまくいかず、ブッシュの人生が好転したのは父の影響下から離れて自力で道を切り拓くようになって以降でした。実業家としての成功も自力であれば、政治家転身の際にも父親からの支援は受けられず(優秀な弟のジェブが優先された)、その人柄の良さと目的達成意欲の強さでコツコツと地盤を作って合衆国のトップにまで登りつめた苦労人であり、優秀すぎる父親を持ったことは彼にとって重荷でしかありませんでした。一方で内情を知らない第三者からは「親の七光り」だの「苦労知らずのボンボン」だのと言われ、そこを徹底的に攻撃されるという点が印象的でした。政治や外交について定見らしきものはなく、彼の政治活動は父親から認められようとする行為の延長だったようです。そこに、911が起こります。 戦争に係る意思決定は象徴的で、従軍経験のある父ブッシュは、湾岸戦争で米兵の犠牲が最小限で済んだことを幸いとし、イラク軍からの激しい抵抗が予想されるバグダッド侵攻を見送って早々に撤退する決定をしましたが、一方ベトナム戦争時代に兵役逃れをした子ブッシュは、どれほどの犠牲が出るのかも考えずに開戦の決定をします。父ブッシュとの繋がりが深いコリン・パウエルからは「911の弔い合戦なのに、なぜビン・ラディンではなくフセインと戦うのか」「フセイン政権を倒せばイラク国民に対する責任が生じるが、それを背負っていく覚悟はあるのか」と問われるが、それに対して明確に答えられない。イラク戦争で犠牲になった米兵やイラク人には気の毒ですが、ブッシュ個人の物語として見れば、イラク戦争も父親を越えようとするイベントのひとつだったのです。 ブッシュ本人は悪人ではない、むしろ近くにいれば友人になりたくなるような人物ではあるが、あの激動の時期の大統領としては最悪の人物だった。人生で常に望まれない場所に居る人物の悲喜劇として、本作は非常に見ごたえがありました。
[DVD(吹替)] 8点(2015-08-03 18:07:24)
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