1. ロスト・バケーション
B級映画界の職人さんジャウマ・コレット=セラによる、平均点のB級映画でした。美女と鮫の攻防戦のみを90分未満の上映時間で一気に見せるという潔さ。ひとつひとつの見せ場の瞬発力は高く、危ないぞ危ないぞという煽りや、ギリギリで危険を回避する場面のスリルはなかなかのものです。いよいよ鮫が全体像を表すタイミングも素晴らしく、観客に対して最大限のインパクトを与えられるように見せ場が配置されています。 ただしB級監督の限界か、そもそもの設定のバカさ加減までは隠しきれていません。ストーカーの如くブレイク・ライブリーを付け狙い、数日にわたって浅瀬から離れようとしない鮫。魚がここまで明確な意図をもって行動するなんてことはさすがに不自然であり、数日ではなく数時間の攻防戦にするか、地元の人が寄り付かないビーチに入ったらそこは巨大鮫のテリトリーだった等の設定が欲しいところでした。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2017-01-16 00:03:21) |
2. ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
帝国による圧政の過酷さや戦いの凄惨さがこれでもかというほど描かれており、暗くて重くて暴力的な、まさに異色作として仕上がっています。そんな作風にも関わらず、ちゃんとスターウォーズになっていることは流石であり、お馴染みのアイテムの登場のさせ方、戦闘シーンの盛り上げ方はシリーズ随一。また、ジェダイが登場しない、一兵士目線の物語であるおかげでシリーズの世界観がより深まっており、正編の追補版としての機能もきちんと果たしています。 その攻めすぎな作風ゆえに一部で拒否反応が出るかもしれませんが、私は文句なしの傑作だと感じました。 【2018/6/30 追記】 新作『ハン・ソロ』公開にあたり、設定年代の近いEP4と本作を再度鑑賞してみました。劇場公開時のレビューでは本作にシリーズ中最高の10点をつけていたのですが、今回の鑑賞でもあらためて本作が最高傑作であるという思いを強めました。ドラマ性の高さや見せ場の緊張感など、どの要素をとってもシリーズ随一と言えるクォリティの高さであり、とにかく凄い映画だと思います。 なお、↑のレビューでは異色作と書いていたのですが、あらためて考えるとそもそもスターウォーズって師匠と弟子が反目したり、親子で剣を向け合ったりと暗い話が多く、本作もその伝統に乗っ取った作品であると言えます。ではなぜ、本作のみが従前のシリーズとここまで異なった評価を受けているのかと考えてみたのですが、反乱軍の抱える闇が克明に描かれたことと、ひとつ間違えれば死に至るという緊迫感が全編に漂っていたことがその原因ではないかと思います。 まず前者については、狂人にしか見えない革命戦士ソウ・ゲレラを登場させたり(彼の登場はルーカスのアイデアだったようです)、主人公の一人であるキャシアンが口封じのためなら殺人をも厭わない姿勢でいることから、反乱軍もクリーンな組織ではなく、ひいては戦いに完全な正義などなく、戦争の当事者になった以上は悪事にも手を染めねばならないという厳しい現実を観客に付きつけてきます。特に目を引いたのは、惑星イードゥーにてゲイレン暗殺指令を実行しようとしていたキャシアンをジンが責める場面でした。味方が自分にウソをついて父親を殺そうとしていたのだからジンが怒るのは当然なのですが、それに対して「完全に自分の自由意思のみで動ける人間ばかりではない。俺は6歳で反乱軍に出会い、命令とあらば選択の余地なく従うしかない人生を送ってきた」というキャシアンの反論にも戦争や軍隊の真理を突いたものがありました。 後者については、まず前半にて主人公たちが圧倒的に非力である様が描かれています。例えばストームトルーパーなんてシリーズを通したやられ役でしかなく、オビワンやルークは何十人ものトルーパーに囲まれようが焦り一つ見せなかったのですが、本作の登場人物達はトルーパーの監視の目を掻い潜りながら活動しています。並みの戦士にとってはストームトルーパー一人であっても脅威であること、ひいては本作にはどんな不利な状況でも跳ね除けるスーパーヒーローはいないということを観客に突きつけてくるのです。そして、そのことが敵地において死と隣り合わせのミッションを遂行しているという緊迫感を醸成しています。 そんな非力な人間たちがチームを組むが、チーム内での足並みが揃っていないばかりか、惑星イードゥーでは反乱軍本体との連携もうまくいかず、焦った友軍が最悪のタイミングで雪崩れ込んできて場が完全に壊されるという失態をも犯すのですが、それでも俺らがやらねばならないんだと有志のチームが立ち上がる様には圧倒的な高揚感がありました。同時に、チームの実力に対して目の前の壁はあまりに高く、最初から死にに行っているようにしか見えないことが、最後の戦いが陰惨に見える原因なのだろうと思います。例えばEP4のヤヴィンの戦いだって反乱軍が壊滅寸前にまで追い込まれており、状況的には本作以上に厳しかったのですが、デススターで常人離れした活躍を見せたルーク一行の存在のおかげで「まぁ何とかなるだろう」という安心感はありました。しかし本作にはそれがないのです。 スカリフでの戦闘は、まさに壮絶を極めます。そもそも反乱軍にとって形成が不利である上に、規格外の強さを誇るベイダー卿までが参戦してくるという絶望的な戦況なのですが、一人でこの戦況を覆すことはできなくても、命を懸けて一歩ずつ前へ進み、仲間にバトンを繋いでいくことくらいならできる。また、ローグワン(一匹狼)を名乗るこのチームの意思を汲み、宇宙空間からの支援をするために駆け付けてくれた味方の艦隊もいる。クライマックスはSFファンタジーを超越し、絶望と、その絶望に挑もうとする人間の美しさが同時に描かれた素晴らしい戦争映画と化しています。 [映画館(字幕)] 10点(2016-12-16 21:18:01)(良:2票) |
3. ロスト・ボディ(2012)
《ネタバレ》 確かに結末には驚かされましたよ。ただしサプライズのためのサプライズであり、心情的にはまったく理解不能で感心するよりも呆れてしまいました。 母親の仇に抱かれ続ける娘と、そのことを止めもしない父親。この時点でもうありえないでしょ。しかも彼女が動かさねばならないのはターゲットの心という不確実なものであり、彼女がどれだけ美人で、どれだけ色仕掛けを使っても、ターゲットが妻との別れを決意し、しかも殺害にまで思い至るという保証はどこにもないわけです。確信部分がほぼ運任せという粗い計画。こんなものに長い時間と娘の貞操を費した親父がバカにしか見えませんでした。事故にでも見せかけてさっさと殺せばいいだろと。 また、冒頭で悲劇とはまったく無関係な警備員に瀕死の重傷を負わせるので、仕掛け人の側にも正義はありません。この点でも冷めてしまいました。 [インターネット(字幕)] 4点(2016-10-20 21:29:19) |
4. 6才のボクが、大人になるまで。
《ネタバレ》 リンクレーターはビフォアシリーズでも時間経過をテーマとしていましたが、そちらは劇中の登場人物や役者と共に観客までが年齢を重ねるものであり、試みとしては不完全でした。そこで今回は、12年もの時間経過を一本の映画として見せるという前代未聞の試みに出ており、こんな企画を思いつき、かつ、成功にまで持って行った監督の労力には頭が下がります。 あるプロジェクトの参加メンバーを長期間に渡って維持することには、ただでさえ困難が伴いますが、さらにややこしいのは、本作が子供の成長物語であるということ。大人の俳優ならばある程度のコントロールも可能でしょうが、子役となれば話は別です。途中で保護者の気が変わる、その子自身が演技に対する興味を失う、思春期に入って露出を敬遠するようになる等、出演が途切れるリスクは山ほどありました。しかも、子供の人権が絡む問題であるため契約を盾に継続を強要することも難しく、恐ろしく不安定な条件下にあるプロジェクトだったと言えます。そこで監督は、母親が再婚を重ねるという設定を入れることで何度も舞台チェンジし、全期間に渡って出演が必要なメンバーを4名にまで絞り込んでいます。仮に主人公が同じ場所に定住していれば、友達やクラスメイトを演じる子役までを拘束する必要があっただけに、これは見事な逃げだったと思います。さらには、主人公の姉を監督の娘に演じさせることで、子役がバックれるリスクを最小限に抑えており、まさにリスクコントロールが随所に行き渡ったプロジェクトだったと言えます。ひとつの作品としてよりも、ひとつの仕事として尊敬しました。 かくして完成した作品ですが、時間経過の無情さが容赦なく焼き付けられています。序盤には若々しかったイーサン・ホークがおっさん化していく、6歳の時点では美少年だった主人公の容姿が無残にも崩れていく、そしてパトリシア・アークエットにどんどん貫禄が出ていく。僕たちのアラバマがガタイのいい白人おばさんになっていく様には、壮絶なものがありました。 内容の方は、まぁ普通です。酒乱でDV癖のある最初の再婚相手との生活には緊張感があって面白かったのですが、それ以降は何ということもない展開が続きます。普通の少年の成長物語なので突飛な展開を入れればおかしくなるし、そもそも面白い・面白くないを超越した領域にいる作品なので、これはこれとして受け入れるのみなのでしょう。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2015-09-08 16:03:36) |
5. ローン・サバイバー
《ネタバレ》 海兵隊のかっこよさ、勇敢さを称える一方で、対するタリバンは地元住民からも嫌われる絶対悪として描かれているという、今時珍しいほどのアメリカ万歳映画でした。アフガン紛争開始から10年以上経つにも関わらず、いまだにタリバンが勢力を維持できているという事実こそが、彼らにも地元民からの一定の支持があることの証明になっているわけですが、そんな理屈などハリウッドの人々には大した問題ではなかったようです。『猿の惑星/新世紀』のような含蓄に富んだ戦争映画が作られる一方で、本作のような脳筋映画が堂々と作り出されているという点に、ハリウッドの幅広さを感じました。。。 ただし、政治的にはマズイ姿勢であっても、アクション映画としてはあながち間違っていないという点が、本作の面白いところ。中立性に配慮した戦争映画というものはかなりの確率でつまらなくなるのですが、一方で勧善懲悪という単純な図式にまで落とし込まれた本作には、どストレートな興奮が宿っています。この物語を彩るビジュアルの迫力も素晴らしく、アレな監督として知られていたピーター・バーグが、本作ではとんでもない実力を披露しています。戦闘シーンの迫力、見せ場としての面白さ、「実際の戦争はこんな風だったんだろう」と観客に信じ込ませるだけの説得力、そのすべてにおいて満点に近い見せ場を作り出せており、近代戦を描いた映画としては、『ブラックホーク・ダウン』に比肩するほどの完成度だと言えます。。。 俳優陣は、ベン・フォスターとエミール・ハーシュがほぼ完璧に役柄にハマっていた一方で、テイラー・キッチュの空気ぶりと、ウォルバーグの浮きっぷりが気になりました。キッチュは部隊のリーダー役であり、戦闘の発端となる羊飼いの処遇についての決断を下したり、戦闘開始後には自己犠牲を買って出たりと、なかなか美味しいパートを担っているのですが、にも関わらず退場後には物凄い勢いでその存在を忘れてしまいます。ウォルバーグは、単純に歳食いすぎで違和感しかありませんでした。リーダー役かと思っていたら、まさかの平隊員役。俳優としてのキャリアが違いすぎるフォスターやハーシュとバカ話をしている様がとても不自然でした。あと、『ブラックホーク・ダウン』でもシールズ隊員をやっていたエリック・バナが、本作では作戦責任者役で出ており、「この人も出世したんだなぁ」としみじみしました。 [ブルーレイ(吹替)] 7点(2014-09-29 00:00:39) |
6. ロボコップ2
続編の製作を急ぐスタジオに対して、良いアイデアが出るまで続編は作りたくないと主張した前作の監督・脚本家達は全員切られ、代わって脚本家として雇われたのが、なんと『300 』や『シン・シティ』のフランク・ミラーでした。漫画家に映画の脚本を任せるとは凄い人選ですが、実際にミラーが書いてきた脚本は相当に素晴らしかったようで、前作の脚本家なしでも企画にはすぐにゴーサインが出ました。しかしいざ企画を進めてみると、ミラーの脚本はまったく映画向きではなかったようで、急遽、『ワイルド・バンチ』のウェイロン・グリーンが雇われて脚本の書き直しが行われました。ここで、本企画に致命的な問題が発生したように思います。前作は奇跡的に良く出来た脚本を、その意図を完全に理解できる監督が映像化したという見事な連携によって、歴史的な傑作となりました。一方本作では、前作の独特な作風を引き継ぎつつも、フランク・ミラーによって内容はさらに複雑化し、そしてそれを別の脚本家によって再び簡素化するという作業が行われたために、作品に「精神」なるものが宿らなかったのです。。。 完成した作品を見ると、バーホーベンの作風を露骨にマネしようとしている場面が目立つのですが、悪徳警官が処刑される場面や、ケインの開頭場面等、なぜこんなに悪趣味なものを見せるのだろうかと首を傾げてしまう場面も多々ありました。前作も悪趣味で残酷でしたが、きちんとその意図は理解できたし、必然性もあったと思います。一方、本作にはそれがなく、ただやりすぎているだけ。また、子供が麻薬組織のNo.2の座におり、しかも後に殺されるという究極のタブーにも果敢に挑んでいるものの、その試みが作品内容と連携していないために、ただただ不快感を与えるだけの結果に終わっています。本作は万事がこの調子で、刺激的な場面は多いものの、そこに意味が伴っていません。ミラーによる脚本にはそれがあったのでしょうが、グリーンによる脚色によって多くの意味が失われています。。。 本作で唯一誉められるものと言えば、フィル・ティペットによりクリエイトされたロボコップ2号の大暴走でしょうか。まだまだCGが使い物にならなかった時代、ロボコップ2号はパペットのコマ撮りにて作られたのですが、かなり複雑な動き方をする2号が20分間に渡って延々と暴れ回るクライマックスの凄まじさには度肝を抜かれました。 [DVD(字幕)] 4点(2014-03-14 01:42:13) |
7. ローン・レンジャー(2013)
『ワイルド・ワイルド・ウェスト』を筆頭に『カウボーイ&エイリアン』『ジョナ・ヘックス』と、西部劇をベースとしたファンタジーは死屍累々たる有様となっています。本作についても、2002年頃から何度もプロジェクトが持ち上がっては立ち消えになるを繰り返しており、まさにハリウッドの鬼門と化していた企画だったのですが、同じく不採算のジャンルとして知られていた海賊映画を一発当てたチームが、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の栄光よ再び!とばかりに挑んだものの、今度は法則には逆らえなかったようです。膨大な製作費や広告宣伝費を回収しきれず1億5,000万ドルもの赤字を計上し、ジェリー・ブラッカイマーは『クリムゾン・タイド』以来のディズニーとの契約を打ち切られるに至りました。。。 脚本は、リアリティとファンタジーの間を終始行ったり来たりして、まったく落ち着きません。オリジナル未見の私にとっては主人公の能力設定すらよくわからず、死から生還したただの男なのか、それとも何か特殊能力を持っているのかすら不明です。それは相棒・トントや愛馬・シルバーについても同様であり、基本設定を観客に伝えるという初歩の初歩ができていないという点は残念でした。また、騎兵隊によるネイティブアメリカンの虐殺や、肉親を殺された者による復讐など、物語は至ってシリアスでありながら、たまに笑わせようとしてくるので、この映画が観客に何を感じ取って欲しいのかを掴みかねました。法を遵守する主人公が私刑の世界へと足を踏み入れる展開についても、「それは倫理的にどうなのか?」と首を傾げざるをえない点が多々あって、総じて語り口に説得力が欠けていると感じました。。。 監督のヴァービンスキーは、『パイレーツ~』シリーズの冗長な演出にはウンザリさせられたものの、その後に撮った『ランゴ』がコンパクトにまとまった佳作だったため、本作についても『ランゴ』同様の手腕を期待したのですが、またしても脚本に引っ張られたダラダラ演出に逆戻りしています。特に中盤は拷問のような退屈さであり、「脚本に書いてあることをそのまま撮ってます」という酷い有様となっています。救いは、序盤とクライマックスのアクションが素晴らしすぎたことであり、ハンス・ズィマーの音楽に合わせた見せ場のテンションやかっこよさは、芸術的な域にまで達していました。点数は、この二つの見せ場に対してのものです。 [ブルーレイ(吹替)] 6点(2014-02-10 04:07:39) |
8. ロード・トゥ・パーディション
二人の息子のうち可愛がっている方を殺され、気難しい方との逃避行を余儀なくされた父親の物語。基本的にはヤクザ映画なのですが、そこに普遍的な父と子の関係性を持ち込んだ脚本は非常によく練られています。本作を構成する二つの要素が、何の違和感もなく見事に融合しているのです。また、キャスト・スタッフともに一流のメンバーが顔を揃えているだけに、映画としての安定感も抜群。最初から最後まで充分に楽しめる作品に仕上がっています。。。 ただし、その安定感が時としてアダにもなっています。トム・ハンクスの演技は相変わらず素晴らしいものの、街のチンピラが怖気づくほどの武闘派ヤクザにはどうやっても見えません。本作の重要な要素のひとつとして、父親の二面性という点が挙げられます。世の父親は誰しもが、家庭では見せない戦う男としての顔を持っています。そんなたくましい男の姿を垣間見ることで息子は成長するわけですが、パブリック・イメージが固定され過ぎているハンクスでは、この二面性を表現しきれないのです。また、演出が上品すぎる点も気になりました。このテーマであれば、父親はあらゆる殺人スキルを行使して息子を守るという内容にすべきだったのですが、バイオレンスについてはかなり腰が引けています。バイオレンスの絶対量が不足している上に、様式美で誤魔化して本当に惨い部分は隠してしまうというヘタレぶり。身内に対する愛情の深さと、外敵に対する容赦のなさ。この二つを描いてこそ本作のテーマが引き立つはずなのに、後者がお留守になっているのでは不完全だと言わざるをえません。 [DVD(吹替)] 6点(2013-06-22 01:46:47) |
9. ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星
これは久々にえらいものを掴まされました。映画はいきなり始まっていきなり終わり、起承転結らしきものはありません。それどころか話らしい話もなく、辺境の国を旅する変わり者カップルと、彼らが現地で雇ったガイドが野山を歩く姿が延々と映し出されるのみ。ほとんどの場面が無言であり、たまに喋ったと思ったら本当にどうでもいい雑談ばかりで、あまりに実験的過ぎて呆気にとられます。作品の舞台が一体どこなのかということは終盤まで明かされないし、主人公達が一体何者であるかということも特に言及されません。ただ、そこで起こったことを切り取っただけの内容。映画がひたすらにリアリティを追求すれば、行き着くのはこの境地なのだろうという極北を体感することができます。おまけにこの映画、上映時間が妙に長い(113分)。90分程度でサクっと終わらせるのならともかく、わざわざ長めに作っている辺りが実にイヤらしいのです。もはやこれは監督と観客の根比べ、何も起こらない環境映像をどれだけ眺めていられるかという忍耐の勝負になってくるわけです。はっきり言います、この映画はまったく面白くありません。「面白さ」という尺度を意図的に放棄した企画なのだから、当然といえば当然なのですが。。。 救いは、演技や撮影、音響等のレベルが高いということです。優秀な技術スタッフの手腕によって中央アジアの大自然の美しさが見事に映し出されているし、俳優達のナチュラルな演技は風景の邪魔をしていません。環境映像と割り切ってしまえば、この映画は「あり」かもしれませんね。それにしても113分は長すぎですが。 [DVD(字幕)] 2点(2013-06-16 00:23:11) |
10. ロックアウト(2012)
《ネタバレ》 中学生が考えたようなお話を素直に映像化し続けているヨーロッパコープによる、相変わらずのB級アクションです。映画の内容はDVDジャケットから連想される通りであり、B級アクションへの理解のある方であれば程々に楽しむことができる内容だし、一方でこの手のジャンルを苦手とする方であれば、本作を見逃したところで何の損もしません。。。 宇宙の『ニューヨーク1997』、この一言で片付いてしまう内容なのですが、アクションについては10年以上に渡るノウハウを持っている製作会社だけあって、アイデアの貧困さを見せ場のクォリティで補うことに成功しています。個々の見せ場については手を抜いている様子がなく、極めて真面目に撮られているのです。さらには、強すぎず弱すぎずという主人公の戦力設定や、その主人公の戦力と拮抗するように組まれた敵組織の構成なども絶妙なもので、B級アクションとしては至極真っ当な仕上がりとなっています。また、宇宙ステーションのデザインやメカ描写等には意外と気合いが入っていて、なかなか目を楽しませてくれます。後半の大規模な空中戦やラストの大気圏突入などは、なかなかイケていましたよ。。。 問題は、評価されたいと思って監督や脚本家が欲を掻いてしまった部分が、ことごとく蛇足だったという点です。シンプルな人質奪還ものに徹していれば良かったものを、その戦いに意義や主人公の成長を加えようとしたために、中盤がもたつく原因となっています。さらには、CIAの陰謀というサブプロットが物語に混乱をもたらしており、これは完全に不要でした。「主人公が実は善人だった」というオチも興ざめであり、「毒を以て毒を制す」という内容の方がアクション映画としては正解だったように思います。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2013-04-01 02:04:43) |
11. ロボット
37億円を投じて製作された、インド映画史上最大の超大作。インド映画はハリウッドの1/3以下の予算で作られると言われますから、本作はハリウッドで言えば1億ドルバジェットに相当する特大作品。全世界で投資を回収するハリウッド映画ならともかく、基本的には国内マーケットのみで帳尻を合わせねばならないインド映画にとって、本作は記録的大ヒット以外の結果では困るという勝負作だったというわけです。。。 そんな重圧の中で製作されたとは思えないほど、内容の方は肩の力が抜けまくっております。「細けぇことはいいんだよ」と言わんばかりに、リアリティとか論理的整合性といったものはことごとく無視。還暦過ぎた男性が歌って踊ってアクションを決めて、クライマックスでは数十人にまで増殖するという狂いまくった内容となっています。まさにラジニカーント尽くし。初老のラジニカーントが超美人の女子大生から惚れられているという設定も当然のこととして流されており、インド人にとってのラジニカーントとは、トム・クルーズとブラッド・ピットとジョニー・デップを合わせた程の絶対的なスターであることがよくわかりました。ここで強調したいのは、ラジニカーントがメリル・ストリープやトム・ベレンジャーと同い年だということです。。。 VFXの出来は凄まじいものがありました。ハリウッド大作と比較しても遜色ないほどのクォリティを誇っており、膨大な製作費をきちんと映像に反映できています。見せ場のアイデアも面白く、ハリウッドの猿真似ではなくオリジナリティで勝負している点で感心しました。等身大ロボットが密集して巨大な球体や大蛇、果ては巨大ロボットに変形する場面なんて、あまりの豪快さに圧倒されてしまいます。その一方で、常にダサさが付きまとっている辺りがなんともインド映画らしいところ。特に、主人公ロボットのエンドスケルトンのデザインは一体何ですか。桜金造みたいな間抜けな顔で、これはデザインで笑わせようとしているのか、はたまた、インド人にとってロボットの顔とはこんなイメージなのか、製作側の趣旨を掴みかねます。。。 全体としては、見応えのある映画だったと思います。ただし長い。177分のタミル語版ではなく139分のヒンディー語版で鑑賞しましたが、それでも長い。インド映画界では「映画は長いほど良い」とされているようですが、日本人の私にとってはなかなか厳しいものがありました。 [DVD(字幕)] 6点(2012-12-16 14:55:15) |
12. ロンドン・ブルバード -LAST BODYGUARD-
リドリー・スコットやマーティン・スコセッシといったハリウッドの巨匠達から愛される脚本家ウィリアム・モナハンの監督デビュー作ということで期待の大きかった本作なのですが、案の定、よくできたクライムサスペンスでした。ヤクザの世界から足を洗いたい主人公と、それを許してくれない闇社会というありがちな物語でありながら、キレの良いセリフ回し、印象に残る選曲、スコセッシ譲りの暴力描写によって水準を超える仕上がりとなっています。俳優陣の配置も絶妙で、ヤクザのボスをレイ・ウィンストンに演じさせて重量級の存在感を発揮させる一方で、デヴィッド・シューリスの飄々とした個性によって作品に独特の軽さを出しています。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの終了とともにめっきり見なくなったキーラ・ナイトレイが引退した元スター女優というセルフ・パロディのような役回りで出演しているのですが、「脱ぎの仕事も文句を言わずに引き受けていた」という自虐的なセリフで笑わせます。。。 問題に感じたのは、主人公が元スター女優のボディガードであるという設定が本筋とうまく絡んでいないという点。結末から振り返ってみて、主人公の恋の相手がセレブリティである必要性が感じられません。彼女に張り付いているパパラッチを利用した反撃作戦でもあれば面白くなっただけに、もうひと捻りが欲しかったところです。 [DVD(吹替)] 7点(2012-07-16 01:49:52)(良:1票) |
13. RONIN
《ネタバレ》 フランスの犯罪組織が謎のスーツケースを持っている。ロシアンマフィアとアイルランド系テロ組織がこれを欲しがっており、潤沢な資金を持つロシア側は金で買い取ろうとするが、アイルランド側は資金がないため、各国の元工作員を集めてこれを強奪しようとする。強奪作戦は成功するものの、忠誠心で結ばれぬ集団ゆえにメンバーのひとりが裏切り、単独でロシア側との取引をしようとする。残りのメンバー、そしてアイルランドの組織は、取引の前にスーツケースを取り戻そうとする。。。要約するとこれだけの話なのですが、3度目の鑑賞でようやく話を理解できました(笑)。本作は裏切りに次ぐ裏切りの物語である割に説明不足な点が多く、一度の鑑賞でストーリーを追うことはかなり難しくなっています。なのですが、この映画の特殊なところはそれが大して重要な問題ではないということ。なんせこれはストイックなプロの世界を味わう映画であり、物語など二の次でも構わないのです。一貫して男の世界を描いてきたフランケンハイマーによる本作は、理解することではなく感じることが大事。RONIN達は雇い主やスーツケースの中身すら知らないまま作戦に参加し、素性のわからないメンバーと共に体を張ることになりますが、彼らに求められるのも理解ではなく感じること。なんせ、作戦の全貌を理解するなと言われているのですから。ヤクザな世界を生き抜いてきた彼らは、隣にいる人間が信頼できるか否か、次にとろうとする行動で自分は生きて帰れるか否か、切り取られた瞬間を必死に感じ取ろうとします。ここに男のドラマが発生するのですが、フランケンハイマーは抜群の手腕でこれを描写します。冒頭、ミーティングへの参加者の顔を事前に確認し、さらに逃走経路を確保した上で集合場所へ現れるデ・ニーロの登場シーンから緊張感に溢れています。集められたメンバー達がお互いの素性を探り出そうとする場面の静かな緊張感もお見事。後半になるとレノとデ・ニーロの間に信頼関係が生まれるのですが、陳腐なセリフではなく両者のあうんの呼吸によってこれを描く辺りもわかってらっしゃる。作戦の舞台は必ず下見をする、敵の戦力がわからなければ偵察に行って力量を見極める。その姿勢を「臆病なのか?」とからかわれると、「ああ、生きて帰りたいからな」と切り返すやりとりはかっこよすぎます。むせ返るような男の世界でお腹いっぱいになりました。 [DVD(吹替)] 8点(2010-09-24 22:42:59)(良:1票) |
14. ロード・オブ・ウォー
《ネタバレ》 冒頭の、弾丸の一生から映画にのめり込みました。とってもヘンなイントロなんだけど、そのアイデアには面白みと遊びがあり、映像的にも斬新で目を引き、そして武器の流れを分かりやすく説明し、その果てには少年を殺害して悪い後味を残すという、本作を象徴する絶妙な掴みです。ニコラス・ケイジ扮するユーリーがのし上がる前半は出色の面白さで、入念なリサーチに基づくと思われる脱法行為の数々には「へ~」と唸ったし、彼が成功を重ねる様はサクセスストーリーとしてのカタルシスまでが存在しています。さらに彼の商材は武器、取引相手はゲリラや独裁者であるだけに、死の危険を身近に感じながらのビジネスという緊張感もエンターテイメント作品としての面白さをサポート。捻じれたユーモアも絶好調で、このままいけば空前の傑作になるのではという勢いでした。しかし、シリアスモードに入る後半になると映画のテンションは一気に落ちてしまいます。夫のビジネスの正体を知った家族がドン引きし、夫は家族のためにビジネスから足を洗おうとするという展開は月並みで、意外性溢れる前半と比較すると見劣りします。目の前で弟を殺され、両親からは勘当され、妻も子供も失うという展開も監督が意図するほど衝撃的ではなく、こんな商売してればこんくらいのリスクは付き物だろうなぁという印象しか持てませんでした。ただし、最後の最後になってこの映画は大ドンデン返しを仕掛けてきます。飄々と商売してきたユーリーもいよいよお終いかと思いきや、最大のパートナーが突如彼を救いに現れるのです。そのパートナーとはアメリカ合衆国。アメリカ合衆国こそが世界最大の武器輸出国であり、法律上・国際世論上取引が困難な国に対してはユーリーのような民間業者に取引をさせていたことが、ラストで明かされます。このドンデン返しには驚いたし、本作の核となる事実をもっとも衝撃的なタイミングで観客に提示した構成力には唸らされました。。。と、こんな作品なのでアメリカ資本からの出資はビタ一文受けられず、60億円もの製作費をすべて海外資本から掻き集めたそうです。それを可能にしたのがニコラス・ケイジという看板ですが、ジェリー・ブラッカイマー作品で知名度を売りつつ、本作のようなリスキーな企画に名前を貸す姿勢はもっと評価されても良いと思います。安全な作品ばかりに出演するそこいらの名優よりも、よっぽど立派な俳優です。 [DVD(吹替)] 7点(2010-08-14 01:57:31)(良:2票) |
15. ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク
カラーパープルで挫折を味わった後、スピルバーグは自身のキャリアを意識的にコントロールするようになりました。勝負作に挑む時には、自身の才能をもっとも活かせる娯楽作を抱き合わせて保険をかけるようになったのです。この方針に従い、シンドラーのリストにはジュラシック・パーク、ミュンヘンには宇宙戦争、そしてプライベート・ライアンには本作ロストワールドが抱き合わせで製作されました。特にプライベート・ライアンは同時期にアミスタッドもあって3本連続撮影という尋常ではないスケジュールで製作されているため、その中で最もお仕事感の強いロストワールドの品質が悪くなってしまったのも、当然と言えば当然の話です。ここまで登場人物に感情移入できない映画も珍しく、「恐竜が出てくればそれでいい」という製作陣の投げやりな姿勢が丸見えになっています。第一作当時、スピルバーグが「もっとも気に入っている」と言っていたマルコム博士がまるで別人になっているのが良い証拠。荒れた私生活を送る変人だったマルコム博士が、続編では子供と彼女に振り回される常識人になっていて、むしろ対照的だったグラント博士に近い人格となっています。好みのキャラが続編で別人格になっていて黙っている監督がどこにいるでしょうか。スピルバーグが脚本にほとんどダメを出さず、やっつけで撮影したことが伺えます。その他の登場人物はさらに酷く、ギャンギャン騒いで目障りなだけのジュリアン・ムーア、恐竜を檻から出して大勢の死人を出す直接の原因を作りながら、なお綺麗事を言うのをやめないヴィンス・ヴォーン、ただひたすら鬱陶しいマルコムの娘などは、まとめてT-REXに食われて欲しいと願うほどでした。あまりにムカつき過ぎて、こんなありえないキャラクターを出すには、何か伝えたいメッセージでもあったのではと裏の意味を考えてしまったほどです。目的が正しければ他人に迷惑かけてもかまわないと考えてる連中はロクなもんじゃない。「自分達が自然を守る」と考えるのは、「自然をコントロールできる」と思ってる連中と根は変わらないじゃないかと。恐竜をどうする、自然をどうすると上から目線で島を眺めず、このサバイバルは人と恐竜との殺し合いであるとの覚悟を決めているローランドが本作中唯一かっこよく描かれているのも、そんなスピなりの思想を反映しているような気もします。私の考えすぎのような気もします。 [レーザーディスク(字幕)] 2点(2009-12-30 14:26:33)(良:1票) |
16. ロック・スター
《ネタバレ》 さほど話題になった映画でもなく、名高いスタッフが関わっているわけでもないので「多分つまんないんだろうな」と思っていたのですが、これがなかなか面白くて感心しました。やっぱり映画は見るまでわかりませんね。直球勝負のタイトルからも察しがつくように内容的には何のひねりもなく、スターを目指す音楽青年が成功をつかむものの、浮世離れしたスターの生活で大事なものを失い元の音楽好きに戻るという、似たような話ならいくらでもありそうなストレートなものです。最初から最後まで本当に思った通りに話が進んでいくのですが、手を抜いて作られているわけではないのでこの予定調和が快感にすらなります。ボンクラ青年が憧れのスターから直々に呼び出しを受け、最初のステージに立つまでの展開などは、ベタながら最高に盛り上がります。オーディションではガチガチに緊張してミスを連発、「もうダメか」と思わせながら、いざ歌唱力を披露すると聞いている全員の顔色が変わるという定番中の定番のようなシーンも、本作は見事なまでにバチっと決めてきます。こういう王道の話を作らせると、ハリウッドは本当に良い仕事をするものです。。。役者については、マーク・ウォルバーグのロン毛はやはり厳しいものがありましたが、さすがは元ミュージシャンだけあって音楽への過剰な愛に生きる姿には妙な説得力があったし、ステージ上のパフォーマンスも板についたものでした(てっきり本人が歌ってると思っていたので、このサイトで口パクであることを知った時には軽くショックでした)。ジェニファー・アニストンについても、撮影当時すでに30代のアニストンが音楽青年の彼女という役柄ですから最初はかなり厳しい印象だったのですが、見ているうちに違和感は消えていき、中盤以降はかなり良かったと思います。彼女はテレビ出身なので映画に出演するとどうしても華が足りないように感じるのですが、本作ではショービズの世界に相対する普通の世界の恋人という役柄だったので、華の足りない彼女にはうってつけでした(誉めてます)。テンポを大事にするためか、クリスと家族の関係や、他のロックメンバーとの絡みは相当削られているように思いましたが、そんな中で最初はイヤな業界人として登場しつつ、ラストにかけてクリスの心境に影響を与えるマネージャーのマッツは良い味を出しており、構成要素の取捨選択も的確です。 [DVD(字幕)] 8点(2009-10-12 20:46:06)(良:1票) |
17. ロックアップ(1989)
中古レーザーディスクが100円で叩き売りされてたので、思わず里親になってしまいました。『待ってたぜ!スタローン」とデカデカと書かれ、帯には名作「大脱走」よろしく数百人の囚人が脱獄しているイラスト(本筋とはまったく無関係)が入っているという素晴らしいデザインのジャケットにまずしびれてしまいました。さらにジャケットの裏には、刑務所めがけてイナヅマが走り大爆発が起こっているという景気のいいイラスト(本筋とはまったく無関係)もあるのですが、一方本編は目立ったアクションシーンもない実に地味な仕上がり。くちびるひん曲げて「ウォー!」と叫びながらマシンガンを乱射していた当時のスタさん作品の中では異色なほど質素な仕上がりで、スタファンだった私も小学校の時に一度見たきりでほとんど印象に残っていませんでした。同時期の「デッドフォール」は子供心に大好きだったんですけどね。でもあらためて見ると、当時なんでもありが許されていたスタさん作品において、本作はきちんと起承転結もあって映画として成立しているように思います。ま、あくまで80年代のスタ作品中ではという評価ではありますが、コブラやオーバー・ザ・トップなどを思えばちゃんと出来てるなと。刑務所仲間と友情を育んだり、刑務所長へのイライラが極みに達していくあたりなど、きちんと感情移入して見ることができました。ダイ・ハードや逃亡者(ハリソン・フォード版)なども手掛けたジェブ・スチュアートが脚本で加わっている功績でしょうが、スタさんならではの人間味が本作の泥臭さにはよく合ってると思います。インディ・ジョーンズやトップガンがとっくに公開されていた80年代末なのに演出や編集のセンスがやたら古いようにも思いましたが、それはそれで現在の鑑賞においては味としても感じられるし。筋肉に支配されていた80年代末には、こういうのも大作として上映されてカップルも見に来てたんだなぁと思うと、なかなか素敵な時代じゃないかと先輩方をうらやましく思います。デートでスタさんの映画を堂々と見に行けた時代があったなんて奇跡じゃないですか。スネークフライトをひとりで見に行っている自分を思うにつけ、自分は生まれる時代を間違えたなと思います。 [ビデオ(字幕)] 7点(2007-03-25 04:03:36)(笑:1票) |
18. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 - スペシャル・エクステンデッド・エディション -
今後、これ以上の映画が登場するのかと不安になるほどの出来です。通常の映画2本分の長さでありながらダレる間がなく、見終わった後の達成感もひっくるめて見ている側も旅に参加したような気分になれます。「ナルニア国物語」の完成度と比較すればわかりますが、予算がかかっている、技術レベルが高いなどの理由だけでこれほどのものは到底作れるわけがなく、ピーター・ジャクソンという監督の采配あっての完成度です。ひとつひとつのシーン、ひとりひとりのキャラクターを監督が愛情をもってきめ細かに描いている密度があるからこそ、これほど上映時間が長くても見る者の目を離させることなく、自然と集中して見られたのだと思います。セリフのあるキャラクターの心情をじっくり伝えるだけでなく、軍勢をなすオークやトロルの一体一体までに個体差があり、彼らが痛がったり怖がったりする様子までさりげなくも几帳面に描かれているという仕事の細かさはまさに驚異的。このおかげで合戦の連続のこの第3部もただド派手で大味な作品にならずに済んだのだと思います。ストップモーションのキャラクターに個性を与えたハリーハウゼンの仕事をCGの時代にやったのが本作の功績のひとつでしょう。またこの映画の大きな功績だと思うのが、文章のイマジネーションに実写が負けていた部分を相当革新させたことです。例えばトロルやオリファントが軍勢を蹴散らし、ドラゴンが空から襲ってくる様子。文章においては表現されてきたこれらの光景も映像としては実写どころかアニメですら再現されておらず、作り手のイマジネーションが文章に至っていなかったひとつの例だと言えますが、ピーター・ジャクソンという人物は今までできなかったこの映像を十分に説得力ある形で見せてしまっています。また箱庭のような狭っ苦しい印象しか残らなかった実写ファンタジーの世界観を映画史上はじめて覆し、どこまでも広がるような世界を再現、エルフの高貴さや指輪の邪悪さという実在しないものまで十分な説得力をもって表現しているのは驚くべきことです。これがなければフロドの旅の過酷さやゴンドールが挑む戦いの絶望は伝わらず、困難に挑む登場人物たちの苦悩やそれに打ち勝つ勇気という指輪物語のテーマの表現はできなかったでしょう。そんなわけで、世界でピーター・ジャクソンでなければ作れなかった、これ以上の完成度は考えられない映画史上の金字塔と言えます。 [DVD(吹替)] 10点(2006-11-12 21:46:38)(良:2票) |
19. ローレライ
なよなよの戦争映画ですね。登場人物の感性や価値観は概ね現代のものであって、まさに極限状態だった戦争末期の潜水艦乗りらしい硬派なところが感じられませんし、ローレライシステムがまんま綾並レイだってってのも脱力。人命が奪われると少女がショックを受けるというきれいごとのために、敵を撃破するというアクション本来の醍醐味が大きく奪われているのが痛い限りです。クライマックスの海戦では、敵を殺さないようにわざわざ信管を抜いて魚雷を発射するというあんまりなことまで。あそこは大艦隊と生きるか死ぬかの大戦争をやって、敵艦をボンボン沈めて盛り上がるところでしょうに。より幅広い客層に訴えるため、恐らく意識的に男臭さを排除したのでしょうが、その結果、真剣に映画を見ている層を納得させる出来は放棄しているかのようです。 以上のようにダメなとこいっぱいで普段の私なら絶対認めたくないタイプの映画なんですけど、しかししかし、なぜかすんなり楽しめたので不思議でした。映画ってのは理屈ではなく個人的な感性を刺激するものなんだなぁとあらためて思いましたね。こんなことがあるから映画は自分の目で見続けなきゃいけないんだなと。アラは山ほどあるものの、確かに演出には一本筋の通ったものを感じました。さすがは腐ってもオタクというか、戦闘シーンでの視点やカット割は実に的を射ていて燃えましたとも。絵にしか見えないVFXはさて置いても、何を映すかという根本的なビジュアルセンスには良いものを感じました。ドラマパートに入ると話のテンポが突然落ちてつまらなくなるものの、その退屈さを切り裂くように突如メインテーマが高鳴って怒涛のアクションに突入するという話の切り替え方も良かったです。静と動のうまい組み合わせですね。このカタルシスのためにあえてつまらないドラマを間に挿入したのかと思えたほどでした。そんなわけで、樋口監督に只ならぬ可能性を感じた映画でした。 [DVD(字幕)] 7点(2006-03-25 15:23:41) |
20. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
この映画をWASP思想に絡めて批判する意見をたまに聞きますけど、それは的外れもいいところです。「指輪物語」は英国にも新たな伝説をってことで、ヨーロッパのさまざまな民間伝承や英雄物語を研究して作られた物語なので、その映画版が白人中心になるのは当たり前。桃太郎や一寸法師に日本人以外が出てこないからって、それが民族主義になりますか?魔法使いや英雄に有色人種がいないのがそんなに不満ですか?私の場合、有色人種が大活躍する「ロード・オブ・ザ・リング」を想像する方がゾっとします。黒人や黄色人種が出てきた時点で、雰囲気も情感も吹っ飛びますからね。そしてオークやウルク・ハイなどの異形の者たちが有色人種の象徴だとする考え方も、それはそれで不自然です。善の対極に悪がいるのが物語の基本だし、その悪がなぜ有色人種につながるのか?その根拠がわかりません。オークが仏教徒だったり、ウルク・ハイが漢字の読み書きができるなら、私も有色人種だと認めますけど。白人による差別という被害者意識ありきで妄想が飛躍してるように思います。これは娯楽作なんですから、もっとピュアに楽しみましょう。ちなみに私は9点をつけていますが、残りの1点は年末のSEEのためにとっておきます。本格的なレビューもSEEで行うつもりです。 9点(2004-09-10 04:24:28)(良:6票) |