1. オン・ザ・ロック
映画のレビューする前に、ちょっとだけ、男女に関するわたしの個人的な気持ちを書いておきます。 かつて「男が働き、女が支える」という時代が過ぎ去り、現代では男女ともに一人で生きる力を持っている。 では今の時代なぜ男女が一緒になるのだ?共に歩むのかと考えることが多くなっております。 愛とか恋は確かに出発点でしょう。でも、単なる経済的・役割的な依存関係ではなく、 互いの違いを認め合い、心と心が寄り添いながら支え会えるのか?そうではないことが周囲にたくさん起きています。 私自身、これまで二度の離婚という経験を経て、今は会社という共通の場で支え合えるパートナーシップを築けたことで、珍しいケースと言われ、 知人からも羨ましがられるのです。 しかもわたしもこれは努力というよりも奇跡かもしれないと出逢いに感謝しているのですね。 だから、そんな私にとって、『オン・ザ・ロック』について、男女のことに講釈垂れる資格などないわけです。はい。 でも、がからこそこの映画が大好きで泣きそうなのです。 男女と親子。人生のあらゆる局面—喜びや苦悩、そして孤独や連帯感—を思い起こさせる、深い意味を持った作品でした。 ソフィア・コッポラ監督が描くこの作品は、家族のあり方や現代の男女関係の新たな形を、ユーモアと温かな情感で表現しています。 ビル・マーレイ演じる父親フェリックスは、かつて『ロスト・イン・トランスレーション』で見せた物憂げな佇まいとは異なり、 奔放でありながらもどこか懐の深い魅力を放ちます。 彼の存在は、ただ笑いを誘うだけでなく、父と娘の複雑な関係性を通して、支え合いという普遍的なテーマを浮き彫りにしているのです。 映画は、かつての固定観念にとらわれず、男女がそれぞれ自立しながらも互いに補完し合う関係性―すなわち、経済的・精神的な両面での支え合い―を描いています。 ニューヨークの美しくもどこかノスタルジックな風景の中で、フェリックスと娘ローラが繰り広げる冒険は、単なる家族ドラマに留まらず、 「愛とは何か」「なぜ二人は一緒にいるのか」といった根源的な問いをも私たちに問いかけます。 マーレイパパのブチ切れたあり方は家族にとってわがまますぎるかもしれないけど、実は決して家族を無視したことではないことが理解できるかどうか。 これは男女、親子のコミュニケーションの陥りやすい罠を示した映画でもあるのでしょう。 この映画は、人生という旅路の中で時に立ち止まり、自らの生き方やパートナーシップを見つめ直す機会を与えてくれます。 個人的には、完璧ではないものの、日々の生活の中で互いに支え合う姿こそが真の愛であると確信させる作品です。 私にとって『オン・ザ・ロック』は、人と人のつながりこそ大切だ!なんて青臭くても素敵な言葉を感じさせる傑作であり、 そのメッセージが素敵でたまらないと思うのですね。 [インターネット(吹替)] 8点(2025-03-22 18:20:22) |
2. バハールの涙
戦争の残酷さとそこから立ち上がる人間の強さを、女性の視点で描いた異色の戦闘ドラマです。 かつて弁護士として平穏な生活を送っていたバハール。 しかし、ある日突然クルド人自治区の故郷がISの襲撃を受け、家族や大切なものを失ってしまいます。 息子は連れ去られ、男性が皆殺しにされ女性たちは無慈悲な扱いを受けます。 バハールは息子を救い出し、自らの尊厳を取り戻すため、 女性だけで構成された武装部隊「太陽の女たち」のリーダーとして戦場に身を投じるのです。 本作の大きな魅力は、「女性が戦士として戦う」という新しい視点にあります。 被害者であったはずのバハールが、悲しみと怒りを胸に戦士となり、戦い続ける姿に強い衝撃と共感を覚えます。 また、戦場での出来事を記録する片眼を失った戦場記者マチルドの視線を通して戦闘が描かれることで、 まるでその場に自分がいるかのような臨場感を味わえます。 それにより緊張感や人々が抱える深い悲しみ、そしてどこか儚くも美しい瞬間が浮かび上がってくるのです。 監督のエヴァ・ユッソンは、現実に起こったISによるクルド人自治区での惨劇に触発され、自ら現地に足を運んで取材を行いました。 そのため、映画には実際の出来事に根ざした説得力があります。 映像美にもこだわりが感じられ、戦闘シーンでのまるで表情を抽出したようなクローズアップによるダイナミックなカメラワークと緻密に計算された構図。戦闘シーンの静と動を美しく融合させています。 そのためか、戦場の混沌とした情景と、バハールの緊張が混じりあい、印象深い映像となっています。 女性が闘うということで勇敢な女性たちの姿を期待してしまうのですが、そんなものではなかった。 戦争がもたらす悲劇や、無力感を現実の戦争に立ち向かうことで彼女たちがどう変わって、そこで得るものはいったいなんなのか。 重い気持ちで知ることになります。 それこそが監督が訴えたかったものではないかと思うのです。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-03-22 03:31:08) |
3. メン・オブ・ウォー
島の豊富な鉱物資源を搾取したい企業から派遣された主人公が島民との交渉・衝突の中で次第に心境を変え、島民を守る決意を固めるというシナリオです。 ドルフ・ラングレンの肉体美とアクションシーンが目玉とされ、シリアスなドラマ性をアピールしています。 しかしながら、戦闘シーンはまるで遊び感覚のサバイバルゲームのような低レベルな印象を受けます。 緊迫感に欠けるため、シリアスなドラマとしての重みが半減し、観客はむしろ気が緩んでしまうという難点があります。 ドラマ部分で人との交流や心の葛藤を描こうとする試みはあるものの、戦闘シーンのインパクト不足が全体のバランスを崩してしまっています。 そのようなことが気になる方にはおすすめしません。 ドルフ・ラングレンのファンや、90年代のB級アクション映画特有の雰囲気を楽しみたい方や、コミカルな要素が混ざったアクションシーンや、独特の世界観に興味がある方。 重すぎないエンターテインメントとして、軽い気持ちで鑑賞を楽しみたいにはお勧めします。 [インターネット(字幕)] 4点(2025-03-22 01:35:03) |
4. アンチ・ライフ
未来の地球が謎のウイルスにより滅亡の危機に瀕し、選ばれた富裕層が新たな居住地「ニューアース」へ脱出するという壮大な設定のSFアクション作品です。 ブルース・ウィリスが“元軍人”クレイ役として登場しますが、主人公とは言えず、 実際の物語の中心は、船内で起こる連続殺人事件や正体不明の寄生生命体による脅威に立ち向かう乗組員たちに移ります。 脚本の矛盾や低予算ゆえに露呈するセットやCGの粗さが目立ち、大きな欠点が散見されます。 この映画の持つ粗削りな魅力や、突っ込みどころ満載の“アホさ”を逆に楽しむことができる人には、一種のカルト的魅力として受け入れられるでしょう。 完璧さを求めずに笑いながらストレス発散したい人にとっては、むしろ「こんなダメさも面白い」と感じるかもしれません。 昔ながらのB級SFアクションの原点を味わいたいという方にも、意外な楽しみがあるかもしれません。 緻密な科学考証や一貫したストーリー、そして高品質な映像やドラマ性を求める方には危険ですので近づかない方が良いでしょう。 [インターネット(字幕)] 3点(2025-03-22 01:07:24) |
5. 君たちはどう生きるか(2023)
家族みんなで気軽に楽しむエンターテインメント作品とはまるで異なる、宮崎駿監督が自らの創作人生を凝縮させたような“シュール”なアニメ映画です。 これまでの『トトロ』や『ナウシカ』のように語りやすいあらすじやわかりやすい構成を期待すると、きっと戸惑うことでしょう。 しかし、その不可解な雰囲気こそが本作の大きな魅力であり、“死生観”や“輪廻”をファンタジーとして描き込むことで、観客に深く考えさせる余白を与えているのです。 本作の舞台には、戦争や事件といった現実世界の痛ましい歴史がさまざまなメタファーとして散りばめられています。 それは単に大昔の出来事として語られるのではなく、生きるとはどういうことか、死と向き合うとは何かという普遍的な問いへとつながっていく仕掛けに思えます。 例えば、主人公が異世界へ誘われる場面も、一種の“死者の国”を思わせる描き方がなされるなど、生と死、そして再生が曖昧な境界のなかでぐるぐる回り続ける構造が印象的です。 だからこそ、この映画は一度観ただけではすべてを理解するのは難しいと感じました。作品内にちりばめられたヒントを手繰り寄せ、何度も考察を重ねる行為そのものを楽しめるともいえます。 わからない部分を想像で埋め合わせてみたり、戦争にまつわる歴史背景や宮崎監督自身の人生観を重ね合わせてみたりと、 謎解きのような読み解き方もできますし、純粋に不思議なファンタジー世界として眺めるのも良いかと思います。 さらに興味深いのは、本作が“子ども向け”ではないとされながらも、少年が主人公であることです。 少年が受け継がなければならないもの、放棄しなければならないもの、その葛藤は観客一人ひとりの生き方に直結します。 宮崎監督自身の少年期や、盟友・高畑勲監督との想い出が投影されたともいわれるキャラクターたちは、固有のエピソード以上に“人はどう生きるべきか”という原点的な問いを浮かび上がらせるのです。 アカデミー賞でも評価された映像の美しさ緻密さは、子供にもインパクトのあえるファンタジーな画像をストーリーにこだわらずに心に残すことも可能ですので大人だけの映画でもないのです。 だからこそ私は、「わけがわからない」という理由でこの作品を遠ざけてしまうのはもったいないと思うのです。 宮崎駿監督が集大成としてアニメという表現を使い、あえて常識的なストーリー構成をこぼれ落ちるほど詰め込んだ結果、多層的な謎と象徴が生まれたのでしょう。 観客がそれぞれの答えを探す喜びを味わうための“余白”ともいえます。 ぜひ劇場や配信でこの作品と向き合い、自分なりの“答え”を探してみてください。 たとえ答えが出なくとも、その旅路こそが宮崎駿監督の問いかけに応える一歩ではないでしょうか。 私はファンとして、そしてひとりの観客として、この未知なる冒険をより多くの人に体験してほしいと心から願うのです。 [ブルーレイ(邦画)] 10点(2025-03-22 00:26:34) |
6. 死にゆく者への祈り
主人公は元IRAのテロリスト。 かつて自らが犯した罪に苦しみ続けている。 この物語は、彼がその罪をどう受け止め、贖おうとするのかを静かに描き出していく。 主人公の内面の葛藤が率直に表現されており、信仰とは何か、救いとはどのような形をとるのかという問いが深く心に響いてくる。 単なるドラマを超えて、宗教的・哲学的なテーマが繊細に扱われている点が、この映画の大きな魅力。 ミッキー・ロークの抑制の効いた存在感が素晴らしく彼の頂点ではないかと思う。 微妙な表情や仕草から、苦悩に満ちた複雑な感情が滲み出る。 ボブ・ホスキンス、アラン・ベイツ、サミ・デイヴィス、そして若きリーアム・ニーソンらもそれぞれの役に説得力を与え、この物語の世界観を支ええう。 ビル・コンティが手がける音楽は、主人公の心情や場面ごとの雰囲気を見事に引き立てていく。 映像美も控えめながらも効果的で、静けさと緊張感が画面全体に漂い、作品全体のトーンをさらに豊かにしている。 この映画は、決して派手なアクションやスリルを期待するタイプではなく、静かに展開される人間ドラマが、観終わった後にも心に深い余韻を残してくれる。 丁寧に作られたキャラクター描写や、繊細なテーマへのアプローチが、本作を単なる犯罪映画以上のものにしていると感じた。 原作も読んだが、先に読んでなくてよかったと思う。 映画を観たシーンが小説を見た時に挿絵のように甦りますます小説の中に入り込む自分を感じてしまった。 素晴らしいストーリーがこの世の社会の葛藤に中に飲み込まれていく人の運命の儚さを伝えてくれるのだ。 素敵だったミッキーロークの時代と共に忘れられない名作。 [ブルーレイ(字幕)] 9点(2025-03-21 18:27:24) |
7. こぼれる
『こぼれる』――その穏やかなタイトルからは想像できないほどの、鋭く張りつめた緊張感に満ちた30分間。 寝る前に映画見る時間はないが、何か短編でもないかなと思ったら思わぬ拾い物。 ネットで気軽にこのような佳作を観られるというのは本当にすてきな時代だ。 ある夜、結婚4年目を迎えた夫婦の家に、学生時代の友人が訪れる。ただの楽しい再会になるはずだった。 会話の一つ一つに張り巡らされた微妙な空気感、視線や笑顔の裏に隠された「何か」を感じながらも、観る側はその正体をつかめない。 次第に浮かび上がるのは、人間が持つ見えない悪意、静かに燃え上がる嫉妬心、そしてそれらがもたらす「恐怖」。 ホラーではないのに背筋がゾクッとする。派手な仕掛けはないのに心がざわつく。 この映画は決して「明快な答え」を与えてはくれない。しかし、その答えを探して何度でも振り返りたくなる、そんな不思議な引力を持った作品だ。 この「謎」が静かに零れ落ちる瞬間を目撃してしまう。 不思議な落下感とでもいう感覚を味わえる短編映画。 [インターネット(邦画)] 8点(2025-03-16 17:14:53) |
8. ナイト・スリーパーズ
過激な環境保護思想を持つ若者たちがダム爆破を計画し、その後の心理的葛藤を描いた作品。 監督のケリー・ライカートは、彼らの行動を通じて、環境保護運動の在り方やその影響を問いかける。 ディーナが劇中の環境保護映画の上映作品の監督との対話など、彼らをひとくくりで見てはならぬメッセージ性などが込められている。 前半の環境活動家の理念と思想と裏腹に後半、その結果として何を得られたのか。 いや何が残ったのか。静かに突きつけてくる。 また、監督は本作でノワール映画の要素を取り入れており、特に中盤から終盤にかけての光と影の使い方が効果的に用いられ、 登場人物たちの心理的な不安や疑心暗鬼を表現している。 原題の「Night Moves」は、彼らがダム爆破に使用するレジャーボートの船名であり、「夜遊び」という意味も含まれている。 これは、物事の大小を測り損ねたジョシュたちへの皮肉が込められているとされている。 環境保護活動家たちの行動とその後の心理的葛藤を描いた、静かなサスペンスドラマで、アクションやスリルを求める方には物足りないかもしれないが、 登場人物たちの内面や倫理的な問題を深く掘り下げ、社会の中に揺らぐ人間を描く良作と思う。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-03-16 16:23:21) |
9. シェフ! ~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~
フランス料理界を舞台にしたドタバタコメディ。 主人公のジャッキー・ボノ(ミカエル・ユーン)は、天才的な味覚を持つが、 個性が強すぎて職を転々としているシェフ。 一方、ジャン・レノ演じるベテランシェフのアレクサンドルは、スランプに陥りながらも三ツ星レストランを守ろうと奮闘する。 両者ともキャラクターが際立ちすぎており、時に騒々しく感じるかもしれない。 そしてジャン・レノの演技はややベタだが、 これも新喜劇のように割り切って楽しんぢゃえるかどうかで好き嫌いが分かれそう。 喜劇なんですから割り切らなきゃね。 フランス料理レストランのまさに舞台裏も楽しめる良作。 [インターネット(吹替)] 7点(2025-03-16 03:58:50) |
10. ビーキーパー
ジェイソン・ステイサムが元工作員として圧倒的な強さで復讐を果たす、爽快感あふれるリベンジアクション映画だ。 その強さったらこれまで以上でもはや芸術的と言えるほどか。 養蜂家として静かな日常を送る主人公が、恩人の老婦人を死に追いやった詐欺組織を徹底的に追い詰める姿は痛快そのもの。 一方で、その行動を追うFBI捜査官が、正義と法律の狭間で葛藤する視点も描かれ、単なるアクション映画を超えた深い余韻を残す。 物語はシンプル過ぎるほど善悪がはっきりし過ぎる感があるが 最後には正義とは何か、法律とは何かを問いかけるような切なさも漂い、不思議な物悲しさと共に胸に響く。 ステイサム映画の中でも、最も味わい深い一本だった。 [インターネット(吹替)] 7点(2025-03-16 03:36:02) |
11. パリの調香師 しあわせの香りを探して
パリの街並みを背景に、香りの持つ魔法のような力や、その奥深さを感じさせる映画だ。 香りは単なる嗅覚の刺激じゃなく、見る者の心をそっと撫でるような存在に昇華されてる。 映画全体に漂うパリのエレガンスは、どこか懐かしくも新鮮。 石畳の路地や歴史を感じさせる建物の間から、ふと香る花々やカフェのコーヒーの香りが、 まるで視覚と嗅覚がシンクロしてるかのよう。 映像の隅々にまでこだわりが感じられて、パリの情緒がじわじわと心にしみる。 調香師という職業の魅力は、単に美しい香水を生み出すだけじゃない。 街中に漂う様々な匂い―革製品の風合い、木々の温もり、さらには時には不快な地域一体の臭いまで―を、 一つのハーモニーに仕立て上げるその繊細な技術と情熱を浮き彫りにしてる。 匂いが持つ奥行きと、そこに込められた匠の魂を感じさせ、香りそのものが生きているみたいな印象を受ける。 そんな香りのマジックをモチーフに人間関係の香りのハーモニーが始まるのだ。 作品の魅力は、香りの世界で知り合った主人公たちの関係性。 調香師としての高い技術が道しるべとなり、 互いに影響し合いながら成長していく姿が、何気ない日常の中に潜む温かさを映し出してる。 香りが象徴するように、二人の個性や感性が混ざり合い、 新たな可能性を生み出すプロセスは、見る者に静かだけど力強い感動を与える。 映画を通して伝わるのは、忙しい現代人にも見落としがちなコミュニケーションを 香りの調合のように再認識させる力だ。 映画が終わった後、ふと立ち止まってみたくなるような、そんな不思議な余韻が残る。 香りに包まれたパリの物語、ぜひその世界に浸ってみてほしい。 [インターネット(字幕)] 8点(2025-03-10 02:33:59) |
12. シャッター アイランド
マーティン・スコセッシ監督が贈るサイコロジカル・スリラーで、見る者の心に深い余韻を残す不思議な作品。 物語は、連邦保安官テディ・ダニエルズが、失踪事件の捜査のために、孤立した島にある精神病院「アッシュクリーク」へと赴くところから始まる。 一見、普通の捜査ミステリーのように見えるのだが、次第に島の中で起こる不思議な出来事や、 テディ自身の心の中に潜む暗い秘密が次々と浮かび上がり、現実と幻の境界が曖昧になってくる。 その感覚は探偵小説の映画版という感じで物語はすすんでいく。 映画は、事件の捜査だけではなく、テディの過去や心の葛藤、そして精神状態を丹念に描く。 細かい伏線が随所に散りばめられており、 観る者も最初感じていた筋道から微妙に外れていき、主人公と同じく迷い出し引きずられていく。 これにより、観る者はまるで『メメント』を見たときのような、心に不思議な感覚と疑問を抱かされる体験がはじまる。 シーンごとにナゾがふかまっていくのだ。 レオナルド・ディカプリオが演じるテディは、強い使命感を持ちながらも、どこか影を背負った複雑な人物として描かれ、 彼の表情や小さな仕草には、調査が進むにつれて増していく内面の葛藤や苦悩がにじみ出てくる。 テディを取り巻く他の登場人物たちも、それぞれに謎めいた存在感を持っており、映画全体の雰囲気をより一層深くしていく。 単なる事件解決型のミステリーに留まらず、人間の内面や記憶、そして罪悪感といった普遍的なテーマに鋭く迫る。 ちなみに『Shutter Island』は、閉ざされた世界であることを表現し、 秘密や謎が隠されているという直接的な意味があるのは皆が感じるとこだが、 アナグラムで解くと 『Shutter Island』の文字を並べ替え「Truths and Lies(真実と嘘)」になるという説もある。 意味が深い題名だ。 これはネタバレはダメだね [インターネット(字幕)] 8点(2025-03-09 13:24:55) |
13. パリタクシー
人生の成功とか幸せって、豪華な旅や贅沢で垢抜けた生活、派手な成功じゃなく、 日常の中に隠れた本当の豊かさの中にこそ見つける物語だ。 豪華な体験ばかりが豊かな人生だなんて、俺は思わないね。 映画の中のタクシー運転手シャルルは、まさに「俺は負け組」だと感じてた奴だが、 終活に向かう92歳のマダムとの出会いで、ふとした寄り道から自分の内面に眠る価値に気づくんだ。 『ドライビング・ミス・デイジー』みたいに、運転手と高齢者の温かいやりとりはあるけど、 こっちはもっとグラウンドな現実味が強い。 ミス・デイジーは上品で優雅な旅路を描いてるが、シャルルの場合は、苦悩と挫折がリアルに映し出され、 その上で「寄り道」っていう小さな出会いが、人生の暗闇からほんの光をもたらす。 つまり、単なる慰め話じゃなく、自分の苦しみから解放されるための一歩なんだ。 タクシー運転手の視点というのは、社会の上層部から見た成功体験じゃなく、 どん底から這い上がるリアルな体験があってこその豊かさを感じさせる。 これって、ただの上から目線の成功ストーリーとは違うし、持たぬ者への単なる慰めでもない。 さらに、パリの街並みやシャンソン、ジャズの雰囲気が、ただの背景じゃなく、 登場人物の心情を反映する「記憶の舞台」として機能してるのが新鮮だ。 派手な演出よりも、日常の一瞬一瞬に込められたドラマが、俺たちに「本当の豊かさ」を問いかけてくる。 本当の人生の価値って常に身近なところにあるんだよ。 誰もが人生の成功者になれる資格を持っているよって俺たちにそっと教えてくれるのだ。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-03-09 07:33:03) |
14. すばらしき世界
《ネタバレ》 原作『身分帳』既読。 映画は実話に基づく佐木隆三氏の小説『身分帳』を原案とするが、映画版は原作と比べて違った印象を受けた。 原作は事実に基づいた淡々とした記録風のルポルタージュで、再犯率5割という数字も客観的に提示されるだけだった。 一方、映画はその現実を舞台にしながらも、概ね問題点を強調するための脚色、演出が行われている。 映画は、再出発を支援できない社会を痛烈に描く。 三上は刑務所という閉ざされた世界から一歩外に出た瞬間から、冷たい壁にぶつかる。 映画では、無理解な社会との対峙が、激しい衝動と内に秘めた儚い希望と共に描かれる。 役所広司の迫真の演技が、そんな三上の複雑な内面を余すところなく表現し、胸が痛む。 原作では数字と事実、取材に基づく冷静な記録があるだけで「こんな現実がある」という事実認識を重視している。 しかし、映画では、三上という男が社会に受け入れられず、再出発すらも許されない現実を強く押し出してくる。 映画の中で描かれる「再犯率5割」という数字は、ただ統計として受け止めるのではなく、 背負う過去と罪から逃れられない現実の重さとして映画では訴えるのだ。 社会は、一度裏社会に足を踏み入れた者を、どこまで冷たく拒絶するのか。 これが社会の仕組みとしての状況なのだ。映画はそれを三上の運命を通して突きつけてくる。 原作の静かな記述も良かったが、映画の演出には心が辛くなる。 しかし、あの演出がなければ、数字の示す本当の恐ろしさを見過ごしてしまうことになるだろう。 映画は、残酷な現実を示し「罪を犯した人が変われるのか」という問いを投げかけ、 それが口先だけの人事戯言でいかに困難なことであるかを訴える。 現実社会をかなり知る立場の私としては、 全体的に物事を強調しすぎて現実から乖離しているところも多いと感じる。 しかし、普通の人たちから見ればいつものような毎日が、弱者から見ればイバラの道に感じることを現しているのだ。 だからこそ非現実的な演出としてメッセージ性を強めエンタメ性を持たせていることを理解するべきだ。 これを事実と違うなどという批判もあるようだがそれは見当違いだ。 現実がドラマより奇異なこともあるし、そもそもドラマは非現実のものを観るものである。 『すばらしき世界』は、 社会の冷酷さに直面する現実を痛感すると同時に、社会構造の脆弱性や葛藤を映し出す鏡のような作品。 もと犯罪者の方々の再出発の難しさ。それに対して社会がどれだけ無関心か、 あるいは拒絶しているかを改めて問い直さずにはいられない。 [インターネット(邦画)] 8点(2025-03-09 06:31:36)(良:1票) |
15. デリシュ!
食の革命が始まる瞬間を見逃すなって思わせる、1789年のフランス革命の年のおとぎばなし 宮廷の煌びやかな世界と、禁断の一皿に挑む料理人の熱い情熱がぶつかり合う。 画面に広がる鮮やかな映像と、時代を感じさせる厨房のドラマ。 ジャガイモ料理がただの料理じゃなく、旧体制に対する反抗の象徴なのか。 民衆の自由と正義を求める魂の声が料理となって映像美と共に堪能できる。そんな映画。 フランス料理が民衆に解放されたのがこの頃と言われるので そんな逸話のようなお話なのかもしれない。 軽く楽しむ感じでみてあげましょう。 [インターネット(字幕)] 7点(2025-03-09 02:37:40) |
16. 世界一キライなあなたに
『世界一キライなあなたに』は、ただの感涙ロマンスじゃない。 キュートな恋愛物語のようにみえるその裏には愛と自由の矛盾、介護の現実、などの社会問題と人生の葛藤という重いテーマ、 さらには経済的な格差や就職・失業の現実が、複雑に絡み合ったドラマだ。 なのに楽しく軽快に進む素敵な物語だ。 金持ちで障害者のウィルと健康だが低所得者のルー、全く正反対の境遇にいる二人が出会い、互いに影響を与え合う様は、 単なる甘い恋愛だけじゃなく、愛することが必ずしも無条件の自由をもたらさない現実を突きつける。 愛するがゆえに相手を守ろうとする気持ちと、同時に自由を与えたいという理想の間には、必ず制約が存在する。 健康な者同士なら問題にならないが、傷ついた心や体が絡むと、その矛盾は痛烈になる。 イギリスの田園風景やヨーロッパの美しいロケーションを背景に、感情を引き立てる音楽とともに、観る者の心を強く揺さぶる。 主演二人の演技も、単なる感情表現にとどまらず、登場人物それぞれの内面の葛藤や現実との闘いをリアルに伝えている。 暖かく明るく生きていく主人公たちの成長と共に乗り越え、最後に大きな難関。「愛とは何か」「生きるとはどういうことか」 という大きな問いかけに向かっていく。 素晴らしいストーリーの佳作である。 主演の女の子はどっかでみたと思ったら ゲーム・オブ・スローンズで竜の母親役、ターミネータージェニシスのサラ・コナー役のエミリア・クラーク。 性格の良い田舎娘の役柄でこんなに良い味を出す素敵な女優さんだった。これも嬉しい [インターネット(吹替)] 9点(2025-03-08 03:34:56) |
17. ウィッカーマン(1973)
『ウィッカーマン』は、1973年公開のイギリス製ホラー映画。 一度観たらその衝撃が忘れられない、まさにカルト映画だ。 公開当初は批評家や商業的に苦戦するも、1980年代以降カルト映画として再評価された作品。 結果、ガーディアン紙などがホラー映画のベストリストに選出するなど、後世に多大な影響を与える作品となった。 2019年の映画『ミッドサマー』は本作からの影響を受けており、類似したテーマや演出が見られるのはそのため。 物語は、孤島に住む集団が繰り広げる異教的な儀式と、厳格なキリスト教徒の警官が巻き込まれる展開。 島の閉ざされた空気感、古代の信仰と儀式の不気味さが際立っていて、当時の地域社会の独特なムードが色濃く表れてる。 いま観ると現代の洗練された娯楽と比べ、どうも時代遅れに感じるかもしれないので割り切りが必要。 エンタメとして楽しみたかったら2006、ニコラスケイジ版ウィッカーマンを見るべきだろう。 現代的な楽しさには欠けるものの、閉鎖された集団の異様な世界観と、そこに漂う神秘的な空気は評価できる。 ただし、二度目の鑑賞はほぼ無理というのが正直なところ。 だからネタバレ厳禁のレビュー記事が望ましい。 カルト文化の発掘のために鑑賞するなら7点だが 映画的な出来としては過去の映画に対しての尊重を込めて5点というところか。 [インターネット(字幕)] 5点(2025-03-07 23:21:18) |
18. メメント
リバイバル上映をスクリーンで鑑賞。 また観てしまった。笑 何度観ても面白い 主人公・レナード(ガイ・ピアース)は、ある出来事をきっかけに短期記憶を保持できなくなってしまう。 そのため、自分が知り得た情報をポラロイド写真やメモ、身体に刻んだタトゥーで記録し、手がかりを失わないように奔走する。 しかし、それが思ったとおりには記憶を埋めるわけでなく、逆に記憶の罠にもなっていく。 この映画最大の特徴は、時間の進み方を巧みに操作し、記憶の混乱を描く。 重要シーンがまるで一部の出来事が逆行しているように感じられ、 それが主人公と共に観ているものも巻き込み一体どちらが時間の混乱をおこしているのかと戸惑いはじめる。 主人公の混乱状態が観客の疑似体験と繋がり始め、作品世界に没入できる仕掛けになっている。 レナードは「自分の妻を殺した犯人を見つけ出す」という揺るぎない目的を持っている。 しかし、その糸口となるはずの「過去の記憶」が常にリセットされるため、 事件の全体像が曖昧なまま手探りで突き進んでいかざるを得ない。 まさに“謎解き”の感覚の迷路に観客と共に飛び込むことになる。 一度観ただけでは把握しきれない情報が散りばめられており、2回目・3回目の鑑賞で新たな発見がある点も大きな魅力。 また、「記憶」をテーマとしながら展開する物語には、 思わず自分自身の“記憶への信頼”や“真実のあり方”を考えたくなる要素が詰まっている。 ミステリーやサスペンスが好きで、先の読めない展開を求めている方や、一味違う謎解きを求める人にはおすすめ。 難しそうに思われるかもしれないが、観終われば「もう一度最初から見て、今度は違う視点で確かめたい!」 と思わせる不思議な魅力を秘めている。 [試写会(字幕)] 8点(2025-03-07 22:42:18) |
19. プライベート・ライアン
《ネタバレ》 リバイバル上映で改めて映画館で鑑賞した。15歳の娘から誘われて観に行こうと言われた時は驚いた。 これを見ようという娘も大したものだと思った。最初のシーンは覚悟して観なさい。と伝えて一緒に鑑賞。 改めて大画面でこの映画を鑑賞できるのはとても嬉しい。 オマハ・ビーチの地獄のような上陸シーンは、その凄惨さとリアリティによって圧倒される。戦争の狂気を真正面から描き出した。 その後の救出任務をめぐる物語も、戦場における道徳、犠牲、そして生きることの意味を問うものだった。 しかしながら、個人的にどうしても引っかかる部分がある。それは、トム・ハンクス演じるミラー大尉の運命についてだ。 ここまで強運続きで生き抜いた彼が、まるで脚本の都合のように「やっぱり死ぬべき運命だった」とばかりに最期を迎える。 「Earn this(これに見合う生き方をしろ)」とライアンに語るシーンは感動的だが、 どうしても「ここで彼を死なせるために、脚本が無理に運命を決めたのでは?」と感じてしまうのだ。 とはいえ、作品や物語の中で「キャラクターの生死」を描き、それをドラマやテーマの演出に活用することは、 古今東西・ジャンルを問わず極めて一般的な手法ではある。 スピルバーグほどの監督が理解してないわけではない これは受け止めるしかないのかなとも思う。 ライアン二等兵の存在感の薄さも気になってしまう。 ライアンは題名になってはいるものの、主人公というわけではない。 とはいえ、彼の葛藤や内面がもう少し掘り下げられていたら、物語全体のテーマにより重みが増したかもしれない。 そして、本作は戦争を美化していないと言われるが、ラストのライアンの墓参りのシーンや、星条旗を掲げる映像には 「米国に特化して感傷的すぎる」と感じる部分もあった。 戦争の悲惨さをここまでリアルに描いた映画だからこそ、観客の国籍によっては違和感が残るのではないかと思う。 これをもって本作の評価を下げるつもりはない。むしろ、それを超えるほどの魅力がこの映画にはある。 まず、戦場描写のリアルさは間違いなく映画史に残るものだ。 オマハ・ビーチのシーンは、まさに「戦場に放り込まれた」かのような感覚を味わわせる。戦争を経験していない私だが、 これほどまでにリアルな戦争の恐怖を感じた映画はない。 また、キャスティングも素晴らしい。トム・ハンクスはもちろん、部下たちのキャラクターもそれぞれ魅力的で、 特にバリー・ペッパー演じる狙撃兵ジャクソンの存在感は圧倒的だった。彼の「戦場における信仰」の表現は興味深く、 死の中で神に祈る姿が印象に残った。 この映画は間違いなく傑作だ。 戦争映画の歴史を変え、映画技術を新たな段階へ押し上げた作品であり、映像のリアリティ、俳優陣の演技、 戦争の道徳的ジレンマの描写など、あらゆる点で卓越している。 この映画が「戦争映画の金字塔」であることに変わりはない。 もし、まだこの映画を観ていない人がいるなら、ぜひ観てほしい。 戦争を知らない世代こそ、本作を通じて歴史の重みを感じるべきだと思う。 [映画館(字幕)] 9点(2025-03-07 13:58:10) |
20. キング・アーサー(2017)
古の英雄譚に新たな息吹を吹き込もうとするかのようなダイナミックで華麗な映像美の裏に、編集の乱れと物語の浅薄さが浮かび上がっていた。 そこにはビジュアルの饗宴とその罠に陥った作り手の姿が感じられるのだ。 戦場の壮絶な光景、息を呑むほどのダイナミズムは現代の技術が創り出す芸術作品と言いたくなるほど美しく感じる。 しかし、あまりに派手な演出により、重要な物語の軸が曖昧になってしまった。 映像美に心を奪われ、ときどき物語の核心を見失ってしまう。 それは映像がすごいからでなく混沌とした物語の展開だからなのだ。 英雄譚という題材にしては、ストーリーは如何にも散漫で、次々と場面が飛んでいく。 主人公アーサーが己の宿命に向き合う大切な場面も唐突に描かれ、深い感動を呼び起こすことはなかった。伏線が薄く物語の軸が掴みづらく、 せっかくの主演のカリスマ性も、身の置き場を見失ったかのように感じることがあった 映像技術の進歩は目覚ましいが、やはり物語の核心、キャラクターの内面や人間ドラマこそがこのような中世伝説的物語には大切で、 作品に深みを持たせることには成功してるとは言い難い。 主演俳優の魅力。 素敵な映像に作り手自身が心奪われず、映画本来の魅力である「物語の力」を再認識してほしいと願ってプラス1点 [インターネット(吹替)] 6点(2025-03-07 05:39:05) |