201. ちゃんと伝える
《ネタバレ》 父親と息子の関係を描いたヒューマンドラマ。園子温印とも言える血や残酷シーンは全くありません。また不用意にカメラを動かさず殆どフィックスで撮っているのも、ダイナミックなカメラの動きが持ち味の園監督らしくなく可也異色作に見えます。恐らくこれは一つの親子(エンドロール後に映画を実父に捧げているので園監督自身かも)を描いたドラマであるからこの様な落ち着いた画作りにしたのでしょう。 本作はタイトルの通り「伝えることの難しさ」がテーマ。厄介なことに身近な家族・恋人にこそ大切なことは伝え難い。また結婚についてとても真摯に厳しく評している作品でもあります。普段、強烈な映画を撮り、色々な人から「極端だ」「無茶苦茶だ」と言われる事の多い園監督の根底の真面目さが解る作品ではないでしょうか。 何とも素晴らしいのが、映画の中でガンを知らさせる人の描き方。二人出てきますが、どちらも告げられた直後は硬直し自失している様で一応話を聞いてもいる。妙な演技のリアルさに唸らされました。 [DVD(邦画)] 7点(2013-10-28 22:27:06)(良:1票) |
202. 気球クラブ、その後
《ネタバレ》 本作は恐らく意図的にキャラクターに多くを語らせず、ちょっとした役者の仕草やセリフのニュアンスで、心情を描写しているので、本作の私のレビューは"私が思った"ことです。場合によっては監督の意図をまるで理解できていない駄文かも知れない事をお許し下さい。 一つ言えるのは只の若者たちのモラトリアムを描いた青春映画では無いということです。気球バカ一代のような男、村上さんの周りには沢山気球クラブの仲間たちがいる。気球を飛ばした後は打ち上げをして、ある時は屋上にバルーンを広げて飲み会をして、笑い合って……、と全うな青春を謳歌している様に一見は思うのですが、どうもおかしい。 何度か挿入される二郎とみどりが気球クラブの部室(?)を訪れ、村上さんのゴヤの『巨人』の様な気球を飛ばすという夢を聞くシーン、彼らは「なんか、スゴイっすね」「こんなんが飛ぶなんてスゴイですねー!」と答えるが、どう聞いても村上さんの夢に同調しているようには思えない。飲み会シーンでの彼らはあんなにも楽しげなのに。 挙句に社会人になった彼らは、村上さんの死を知った後、追悼と称した飲み会を催し、最後には巨人の目玉になる筈だった気球を燃やそうとする。つまり彼らにとって気球とはモラトリアムの一部に過ぎない。いずれは社会に出る前に卒業していく通過点に過ぎないのだ。 それに対して村上さんは気球しかない男である。彼は「夢の無い人生なんてクソだ、そのクソにへばりついている奴はもっとクソだ」と言います。彼は空で美津子にプロポーズするが、彼女は「地上で渡してほしいな」と応じるが、それに彼は「気球日和で気持ちいいね!」とはぐらかして終わってしまう。美津子からすると、「地上に降りて(気球から降りて夢を捨てて)私を見て欲しい」という気持ちだったのだろうが、気球しか人生にない彼はその決断を選べなかった。この映画はそんな村上さんの生き方に関して明確に良い悪いの分別をしていない。しかし社会人になったクラブのメンバーたちが空に浮かぶ気球を羨ましげに眺めるカットは実に印象的です。やはり監督は何があっても夢を捨てられない人間を理想の存在として見ているのではないかと感じました。 [DVD(邦画)] 8点(2013-10-20 18:16:12)(良:1票) |
203. フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)
《ネタバレ》 私の中で"フランケンシュタイン"と言えばジェームズ・ホエール版でもなく、ケネス・ブラナー版でもなく、この本多猪四郎による『フランケンシュタイン対バラゴン』なのです。メアリー・シェリーの原作が持つ「生まれてしまったモノの悲しみ」に原爆、生物兵器、見世物としてのミュータント等の要素を絡めている脚本は実に見事。本作は謂わば感情移入しやすい"ゴジラ"と言えるのかもしれない。 円谷英二による特撮も冴えまくっていて、古さを感じないとはとても言えないが、特撮技術としては大変高水準な事には違いない。 そして何より敵役のバラゴンの造形がカッコ良いのだ。終盤のフランケンシュタインとの格闘にテンションが上がるのなんの。それだけに最後のタコだけは頂けない。観ていて思わずズッコケた。ラストのセリフを言わせたいがためにデッチ上げたとしか思えない。トンデモ展開。 [DVD(邦画)] 7点(2013-10-18 23:35:18) |
204. 紀子の食卓
《ネタバレ》 この映画が嫌いだ。逆光を使った小奇麗な風景、幸せそうに流れるオルゴール、登場人物たちのポエム、言い換えると独り言。それらは虚構の幸せを映す鏡なのだろう。私にはかったるかった。クシャミが出た。こんな「クシャミ」なんていらないのだ。『自殺サークル』の飛び降り自殺の場面もうんざりした。意図は解る、けど何度も映されるとウンザリだ。 でもとっても感動した。何故だかはハッキリと分からない。"家族の血"というモチーフに固執し続ける園子温監督の意識が一番強く感じられたからかも。始まりの家族はどこか変だ。イビツで嘘だ。だから紀子は逃げ出した。紀子は自殺サークルでレンタル家族になった。みんな自分の役割を演じるのだ。みんな幸せそうだ。とっても。でもこんなに幸せそうなのもやっぱり変だ。まるで判を押したような幸福な光景の気味の悪さ。家族は痛みを伴って存在するものなのだ。 「一からやり直そう――」徹三の言葉が心を打った。とっても平凡な言葉。クミコの母親も同じことを言っていた。でもその言葉の重みには数万光年もの差があるのだ。紀子は紀子として生きていく。ユカは真っ新な、白いキャンパスみたいに新たな家族を求めて生きていく。どっちが良いのかは分からない。分かるのは本当の家族であるには痛みを伴うということだけだ。クシャミが出た。この映画は大好きだけど、こんな文章は大嫌いだ。 [DVD(邦画)] 8点(2013-10-15 23:59:52)(良:1票) |
205. ミッション:8ミニッツ
《ネタバレ》 過去に起きた事故を何度も繰り返すという設定が面白く、次々とストーリーが展開していくので一気に観れます。最後に『恋はデジャ・ブ』と同じく、「その瞬間の隣人を精一杯愛することの大切さ」を説いており、それも感動的でした。佳作という言葉がピッタリくるSF作品です。 [DVD(字幕)] 7点(2013-10-15 22:47:20) |
206. ウォーム・ボディーズ
《ネタバレ》 一応はゾンビ物かと思いきや、そんなことは無い只の奥手男子の恋愛奮闘記でした。だって序盤から喋ってるんだもん。意思もあるし。やりたい事はバルコニーのシーンでも分かる通り『ロミオとジュリエット』。最後にゾンビ側と人間側を隔てる壁を破壊することで両者の和解を表現している訳でしょう。 もう少しアクションシーン・サスペンスシーンにも力を入れてくれれば見れた作品になったかも知れないと思います。例えばヒロインはゾンビ居住区から逃げた先でガイコツに襲われる。いきなりガイコツが現れ襲ってくるのだが、それまでにゾンビの居住区とガイコツの居住区に境界線があるのか、どのラインを超えると彼らのテリトリーで危険なのかという情報が一切ないので、単なる脚本の都合で現れたとしか思えない。それじゃあハラハラしません。 しかもガイコツだけあからさまなCGなのでバトルシーンも違和感マックス。それにヒロインに襲いかかっても矢鱈と喰うまでにタメるし。もっと問答無用に襲いかからないと、怖くない。 [映画館(字幕)] 5点(2013-10-15 20:50:21)(良:1票) |
207. 地獄でなぜ悪い
《ネタバレ》 園子温監督は自伝の中で、如何に現在の日本映画界で「泣ける」「感動できる」映画が持て囃されていて、観客に「泣かせること」を至上命令とするような映画が溢れていることに憤りを顕にしていました。そして黒澤明や深作欣二など日本を代表する名匠の映画には、唯々泣ける映画は殆ど無く、自分はそういう映画を作りたいと熱い思いを吐露していました。 そして完成した映画が『地獄でなぜ悪い』です。いや、園監督は実質的デビュー作『自転車吐息』から基本的に常に同じ路線で突っ走っていると思います。「どうしたら観客にショックを与えられるか?」「自分が作りたい映画とはどういうものなのか?」、という問を追求されてきた監督です。しかも下手をすると単なる自慰行為とも呼べる映画になる所を、園監督は観客を満足させるサービスも忘れずふんだんに盛り込んで映画を作り上げる。これは別の芸術家の言葉ですが、芸術作品は畢竟「混沌(コンフュージョン)」と「秩序(オーダー)」のバランスが大事なのだ。園監督はそのバランスの取り方が実に上手いと思います。 本作も正にそういう作りで、クライマックスではヤクザ同士の殺し合いが只管に続き、血が其処此処にビュービュー飛び出て、首がポンポンすっ飛び、銃声がガンガン鳴り響き、怒号が飛び交う。これは観客に向けたサービスと取るべきでしょう。オープニングから『仁義なき戦い』のテーマが流れる通り、この映画は深作欣二監督のタッチに非常に近いと思います。迫力のある残虐描写と気の抜けたギャグが連続する。正に深作欣二の世界。観客は地獄の乱痴気騒ぎに身を委ねるのみです。そこに園監督の映画への熱い思い、一生に一本の映画を取れるなら命なんて要らない!いい暮らしをして平凡な映画を作り続ける位なら死んだ方がマシ。そんな話が展開していく。 ある種の観客や映画の作り手にとってはこれ程のサービスは無いでしょう。そのサービスを全く有難がらない方がいらっしゃるのも当然です。私には最高のサービスでした。 [映画館(邦画)] 9点(2013-10-11 22:04:14)(良:1票) |
208. そして父になる
《ネタバレ》 オープニングは私立小学校の面接から始まる。ある一家が面接を受け、可愛らしい子どもが行儀良く質問に答えている。面接後、父親である主人公が「キャンプになんて行ってないよな?」と聞くと、子どもは「塾でそう答えるって教えられたから……」。父親は「お受験塾もよく考えるよなぁ」と単に感心している。この映画はそんな嘘の家族像から始まる。 そんなオープニングとは対照的に、映画のラストで主人公は何もかもをさらけ出して我が子の前に立つ。やっと本音を伝え本当の家族となった父子を観て自然と涙が出てきた。結局映画の始まりと何ら家族構成は変わらなかったのに、これだけ感動させられると言うのは矢張り主人公の描き方が優れているからだろう。 この主人公の嫌な感じの描写がとにかく素晴らしい。単に嫌味なヤツ、最低野郎などではなく、ギュッと絞ると自然に滲み出る様なヤな感じなのだ。例えば、樹木希林演じる義母に「(同じく子どもを取り違えられた夫婦が)どんな人だった?」と聞かれ、主人公は一言「電気屋だった」と答える。相手の人となりを見ず、相手を社会的地位や経済力で判断する主人公の感じの悪さが上手く現れている。また『ガリレオ』シリーズと同じく完璧人間を演じる福山雅治が実に良くその役柄に合っている。 「本当に父親らしいとはどういう事なのか?」というありきたりなテーマで、結論も「しっかりと子ども触れ合い、真剣に愛する」というありきたりな物なのですが、監督の手腕の高さで一級の人間ドラマに昇華されている。名監督に題材の平凡さは関係無いという好例だと思います。 [映画館(邦画)] 8点(2013-10-10 23:04:18)(良:3票) |
209. ゆきゆきて、神軍
《ネタバレ》 アナーキストである山崎謙三を追ったドキュメンタリー。ぶっちゃけ山崎謙三その人は疑いようも無くアレな人である。"神軍"と大きく書かれている車を乗り回し、天意を受けていると思い込み、暴力を礼賛する。彼がまともであると主張する人は少ないでしょう。 しかしドキュメンタリーが事実を映すエンターテイメントとするならば、これほど観ていて面白い対象も中々無い。とにかく氏の行動が極端で次のアクションが読めないことがサスペンスとなっている。暴力をふるう前に画面が溜めのスローモーションとなるのも上手い演出だと思います。 またこれには人それぞれに許容できるラインがあると思いますが、個人的に"絶対に妥協はしない"氏の生き様には少し憧れを感じた。別に氏のように振る舞いたいという意味では無く、その姿勢や存在感に圧倒されたと言う意味で。『時計じかけのオレンジ』のアレックスや、『ダークナイト』のジョーカー、『ウォッチメン』のロールシャッハに魅力を感じてしまう感覚と同じ。 つまり彼は現実に存在しているにも関わらず、どこかフィクショナルな存在感を持つ稀有な人間であるのだと思います。またそういう人間が私たちの住む世界に実際にいると如何に困った存在であるかと言う事実も、この映画は克明に炙り出している。 [DVD(邦画)] 9点(2013-10-07 22:53:42) |
210. デーヴ
《ネタバレ》 脚本のゲイリー・ロスと監督のアイヴァン・ライトマン。両者ともに大変丁寧な映画の作り手ですので、その安定感はさすがの一言。逆に尖ったところが余り感じられないのがやや残念ですが、誰にでも進められる作品になっていると思います。 丁寧なコメディ演出にサラッと説教臭くならない程度に政治的メッセージを込める上品さがとても良い。ボディ・ガードを演じるヴィング・レイムスの「君のためなら死ねる」というセリフに全てが凝縮されている。理想の政治家をコミカルに描いた良作。 [DVD(字幕)] 7点(2013-10-05 13:58:06) |
211. ブルー 初めての空へ
《ネタバレ》 素晴らしいです。フルCGアニメとしては間違いなくアイデア・脚本・演出・挿入歌等に於いてPIXARにも匹敵するレベルの出来だと思いました。まず人間と動物の描写の仕方がとても丁寧です。この映画では人間界(リンダやチュリオ)、動物界(ブルーやジュエル)が混在して描かれます。こういうタイプの映画では過去には『レミーのおいしいレストラン』や『ボルト』などが挙げられると思います。そこで問題となってくるのが動物同士で話す際には擬人化されている動物達を人間が観たらどう映るかという点ですが、本作は殆ど違和感無くその二つの世界を共存させている。つまり人間っぽくもあり動物らしさも存分に残している。 またストーリーの語り口のスマートさも特筆すべき点かと思います。本作では鳥と人間と二つのカップルが描かれますが、短い子ども向け映画の上映時間にも関わらず展開に無理がなく納得いくものとなっている。またどちらの男もボンクラなので、個人的に恋愛に関しての「あるある!」感が最高に面白かったです。 それから声優陣のキャストが実に良い!ペットとして育てられたからこそ矢鱈と博識でペラペラ喋りまくるブルーにジェシー・アイゼンバーグを当ててるのもホントにうまいなあと。アン・ハサウェイは『レ・ミゼラブル』で証明されたとおりの歌唱力、ジェイミー・フォックスの色男っ振りも様になっていますね。ウィル・アイ・アムは本業がラッパーなので当たり前ですが素晴らしいパフォーマンスでした。 まあ残念な部分はリンダが故郷のミネソタの店をどうしたかが全く分からない点ですね。最後にリオに店を移転した描写などあればまだ納得しやすかったのかも知れません。それから密輸業者の男が最終的に特に裁かれる描写がないのも少し残念でした。鳥の方の悪役がバードストライクまでかましたんだから、人間側の悪役にもそれなりの罰が与えられないと……。 [DVD(字幕)] 8点(2013-09-28 15:58:34)(良:1票) |
212. 運命のボタン
《ネタバレ》 うわぁ、面白くない。 題材自体はとても面白そうになる話。宇宙人がどうこうというある種トンデモな展開も、SFでは異星人が地球人の善性をテストするという話は定番でもある為許容範囲。実存主義的主題も個人的には好きです。 しっかし語り口がスマートではないので中盤からの詰まらなさはメガトン級。もっとホラー描写を前面に出して、観客を飽きさせず90分程度の長さにすればまだ良かったのかも知れません。深みのあるテーマも物語自体に観客が飽きてしまうと単なる作り手の自己満足、自慰行為でしかない。 [DVD(字幕)] 3点(2013-09-28 09:38:46) |
213. 仁義なき戦い 完結篇
《ネタバレ》 シリーズ5作目にして一応の完結作。最終作としての見ごたえはそれほど無く、どちらかと言うと追補版の様な印象。1~4作目までの様にストーリーを貫く軸が無く、天政会の世代交代とそれに伴う流血が延々と続く。広能も終盤まで登場しないので主人公不在で盛り上がりに欠ける感も否めない。但し終了した筈のシリーズを静かに締めくくる作品と考えれば消して悪い出来ではなく、これまでに数々の名演を見せてくれた菅原文太、小林旭、松方弘樹、伊吹吾郎、田中邦衛、北大路欣也、そして金子信雄に感謝しつつ最後まで楽しく観ることが出来ました。 [DVD(邦画)] 7点(2013-09-28 08:49:32) |
214. モネ・ゲーム
《ネタバレ》 アラン・リックマン、コリン・ファースらイギリスの実力派俳優が馬鹿げた振る舞いをしている様は楽しくなくはないのですが、面白さがそこまでに留まっているのは残念な限り。 それから作り手の考える人間描写がとにかく適当。テキサスだから牛追いして、トレーラーハウスに住んで、酒場で暴れて……って呆れる位プロトタイプなイメージですねー。キャメロン・ディアスのテキサス訛りも頑張って演じているのは分かりますが、大変不自然。しかもロンドンに舞台が変わってからはいつの間にか訛りも殆ど消えているし。日本人の描き方も本来なら噴飯ものですが、あれはシャバンダーをだまくらかす為の演技と思えばまあ許せるかな。 かなり面白かったのが序盤の20分で計画が全て上手くいった場合の展開を全て描いてしまうこと。そこからどんどんと計画と違った方向に話が進んでしまい、主人公が泣きそうになりながら彼方此方を駆けずり回るってのは上手いなあ。 [映画館(字幕)] 5点(2013-09-28 08:32:09) |
215. エリジウム
《ネタバレ》 ツッコミどころを挙げると色々とあるSFです。特に物語が後半に差し掛かると腑に落ちない点がどんどん出てくる。ドサクサとは言え何の障害もなくスパイダーがエリジウムに到着できたり、クルーガー一味が簡単にエリジウムでクーデターを起こしたり、肝心な時にドロイド達は姿を見せなかったり、主人公とクルーガーの最終決戦がショボかったりetc...。富裕層と貧困層の差、一方は永遠に近く生きれるが、他方はゴミのように死んでいく、という物語のテーマも、言いたいことは分かるのですが、分かり易すぎるように描くので少し白けてしまいました。矢張りうまい脚本とは、ある瞬間にハッとテーマが浮かび上がるものだと思います。 但し、ビジュアルだけは個人的には完璧でした。スペースコロニーと地球の貧富の差を描いたSFは古くはロバート・A・ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』(これは月ですが)から、富野喜幸の『機動戦士ガンダム』に繋がっていく、言わばSFのド定番。ニール・ブロンカンプはその定番を見事に映像化出来ていたと思います。未来のLAのスラムの風景は砂埃が舞い散りドキュメンタリックに汚く見せ、エリジウムの風景は正にユートピアと呼ぶにふさわしい滅菌されたような世界として写す。だからエリジウムでは殆どカメラはブレない。 そんな世界だからこそ地上にいる人々は自然と空に浮かぶエリジウムを見上げる。まるでバベルの塔を造り登ろうとした人間の様に。このビジュアルを観ただけで正直私は満足してしまいました。 また海外で成功してハリウッドで映画を撮る大抵の監督が、大作になると描写が甘くなったり、個性が弱くなってしまうのに対し、ニール・ブロンカンプはそんな気配が一切ない。銃撃によって粉々に砕け散るドロイド(言わば機械のゴア描写!)、巨大なスラムの空撮、その上空に浮かんでいる巨大物体、人体改造&破壊描写、等のブロンカンプ印はしっかりと入っている。できれば次回作はもう少し脚本をブラシュアップして作って欲しいものです。 [映画館(字幕)] 8点(2013-09-25 23:51:42) |
216. お嬢さん乾杯
《ネタバレ》 全うなロマコメでありつつも後半でしっかりと深刻な主人公の悩みを描くのには、ホントに木下監督は真面目な人なんだなと思えます。生まれの差を乗り越えて愛を達成させようとする主人公の姿はとにかく一直線、猪突猛進で観ていて気持ちがよかった。それだけにもう少し上映時間が伸びてでも脚本にひと捻りあっても良かった気もします。その辺りが同時期に活躍していたビリー・ワイルダーとのコメディ演出の差でしょうか。 [DVD(邦画)] 6点(2013-09-25 23:23:48) |
217. 男はつらいよ
《ネタバレ》 私は「釣りバカ」シリーズや「男はつらいよ」シリーズ等のプログラムピクチャー映画が苦手です。なぜなら評論家の赤坂憲雄が過去に述べているとおりこれらの映画は"棺桶映画"だから。お馴染みのアレを観たがっている観客にショックを与える映画は必要ないのである。観客にショックを与えることを禁じられた死んだも同然の映画たち……、何て悲しい存在だろう! しかし知り合いから「男はつらいよの一作目と○○作目はホントに面白いよ」と説得されて今回鑑賞。成程、確かに面白かったです。一作目はそもそもプログラムピクチャーとして作る気が(恐らく)無かったのでしょう、その後に同シリーズで量産される只管に湿っぽい少しイイ話というテイストとは異なっている。そもそもこの映画の寅さんはトコトン屑人間と言っていい。作品を重ねるごとにキャラクターが丸くなっていくというのは良くある話ですが、この一作目の寅さんのダメ人間振りは中々類を見ないレベルです。 「妹の縁談の場をぶち壊す」「他人の庭で小便を引っ掛ける」「他人を見た目で判断する」等々、その破天荒というには余りにも非常識なキャラクターがとにかく面白い。 逆に個人的に後半のさくらの縁談話になった途端に同シリーズ独特の湿っぽい人情噺が展開したのには少し残念でした。人生の悲哀なんてどうでも良く、最後までクズ野郎寅さんの下町に現れたゴジラのごとき大破壊を楽しみたかったというのが本音です。 それからどうでもいいことですが、さくらを育てたおいちゃんとおばちゃんに物凄く腹が立った。寅次郎が縁談をぶち壊した時には「人だ家柄だ」と言ってたくせに、中小企業の印刷屋の息子、諏訪の気持ちを下手に伝えた時には「おまえが何もせんなら二人は上手くいってたんだ!」とのたまう。縁談の前日に深酒して寅さんを無理矢理行かせた様な無責任男にだけは言って欲しくないセリフである。 [DVD(邦画)] 5点(2013-09-22 06:27:46) |
218. 晩春
《ネタバレ》 私は初め原節子演じる中々結婚しようとしない娘が主役の映画だと思っていました。実際にそうでもあって、終盤まで笠智衆演じる父親は腹の底が見えない。基本的に周りの人の言葉に「そうだなあ、そうするか」と延々と肯定し、娘と能を鑑賞した時も娘の気持ちに(表面上は)気付けなかったりする。 しかしこの印象が最後の姪っ子との会話で180°変わってしまう。何もかも娘の事を理解した上でのあの行動だったのだと。その後のリンゴの皮を一人で向いている時の茫とした表情は観ていて居た堪れなくなりました。嫁に行く娘を思う父親像というのは結婚を描いた映画ではド定番の一つですが、これほど見事に複雑な父親の心理を描いた作品を私は知らない。 [DVD(邦画)] 7点(2013-09-18 23:27:55) |
219. ウルヴァリン:SAMURAI
《ネタバレ》 ひどい映画です、疑いようも無く。とてもシナリオは上等な物とは言えませんし、肝心のアクションにも何らオリジナリティは無い。折角の日本を代表するアクションスター、真田広之も無駄遣いしちゃって。前作に引き続きウルヴァリン単体の映画には碌な作品がないなと思ってしまう出来です。エンドロール後にイアン・マッケランとパトリック・スチュワートが出てきて「え~、またあの二人のシリーズに戻んの?(『ファースト・ジェネレーション』の出来がシリーズ最高だったので)」というガッカリ感。 でも、面白かったんです。もう勘違い日本の描写の面白さだけで数多の不満は吹き飛びました。葬式に当たり前の様に銃を持ってる警備員がいる時点で笑うしかないです。日本は銃社会じゃないよ! ヤクザとウルヴァリンが新幹線上で乱闘なんて普通に考えてギャグでしょ。しかもこのヤクザは名も無き只の「ヤクザA」。ジャパニーズ・マフィアすげえ!因みに上野駅から東海道新幹線は出ません。 矢鱈とクルクル飛んで全然忍べてない忍者軍団もイイですねー。わらわらいた割には最終決戦にはどっか行ってるし。肝心な時に気配を消してどうするんだ。 ヴァイパーも要らない子だったなぁ。お色気要因かと思いきや、只のキス魔なだけで、しまいにゃ脱皮してハゲ頭……って誰がそんなもん見たいと思ってるんだよ!しかし心の中で大爆笑でした。 点数的にはアレですが、嫌いじゃないですよ。 [映画館(字幕)] 3点(2013-09-17 22:53:45) |
220. 劇場版 ATARU‐THE FIRST LOVE & THE LAST KILL‐
《ネタバレ》 ドラマ版は未見です。辻褄が合わない脚本と、浅薄な演出、笑いを取るための出演者の変顔&ダジャレ、画面に合わないCG、何度も繰り返されるスローモーション&無音、等々……私が嫌いな映画の要素が悉く入っていて、遣りきれない気分でした。 それなら単に出来の悪い映画だなで終わるのですが、許せなかったのは主人公アタルの描き方です。犯人のマドカはアタルに「汚い大人にバツを与えよう」とアタルを誘いますが、これは彼ら知能に障がいがある人を純粋で天使のような者と扱っていることに他なりません。それはアタルが容疑者と断定された時に舞子が「アタル君は犯罪なんて犯しません!」と言っていることでも明らかです。つまり彼ら知的障がい者を一人前の人間としてこの映画は扱っていない。非常に差別的なシナリオだったと思います。倫理的に許容しかねます。同じように知能が健常者に比べ低い人を天使として扱った作品としては『フォレスト・ガンプ』がありますが、それに通じる不快なモノがありました。 [映画館(邦画)] 1点(2013-09-16 09:20:17)(良:3票) |