221. ジャックとジル
《ネタバレ》 映画に関するジンクスの一つとして「ゴールデンラズベリー賞を取った映画は、意外と面白い」というものがあるのですが、これもそんな一本。 とはいえ「傑作」と断言出来る程ではなく「意外と面白い」の範疇に止まってしまうのが寂しいですね。 下品なギャグが多いし「おたのしみ箱」やアル・パチーノ(本人役)といったキャラの言動が不自然に感じられるしで、もうちょっと脚本を煮詰めてから映画化した方が良かったんじゃないかなーと思ってしまうのも事実です。 でも、ちゃんと面白かった部分もあって、自分としては結構満足。 マッチョな男性陣が苦労して上げていたバーベルを、ジルが簡単に持ち上げちゃう件なんかは、ベタだけど微笑ましいギャグだったし、本物のジルを女装したジャックと勘違いして胸を触った男が、豪快に殴られちゃう場面なんかも良い。 養子の少年も良い味出していたし、ドン・キホーテに扮したパチーノが風車ならぬ天井のファンを怪物と勘違いして、戦いを挑むシーンも好きですね。 最後は家族愛に着地して、ハッピーエンドで終わってくれるし、後味も爽やか。 「そりゃあ好きだけど、離れている時はもっと好き」 「君を愛しているのは間違いないが、死の間際に気付く愛だ」 等々、心に残る台詞が散りばめられている辺りも良かったです。 それと、自分はクルーズ旅行の描写がお気に入りだったので、あそこをもっと尺を取ってやって欲しかったという想いもあるんですが……まぁ、コレは我が侭というものでしょうか。 欠点を論ったらいくらでもあるんだけど、なんとなく本作に関しては「好きな部分」をメインに語りたくなる。 憎みきれない、愛嬌のある映画でした。 [DVD(吹替)] 6点(2018-09-23 20:48:55)(良:1票) |
222. フィリップ、きみを愛してる!
《ネタバレ》 「愛」と「脱獄」を描いた映画として、非常に良く出来ていると思います。 始まって十分程で「言い忘れてたけど、俺はゲイ」と主人公が告白し、本作における「愛」とは「同性愛」であると分かるんですが、それでも戸惑いは最小限で、楽しく観賞出来ちゃうんですよね。 冒頭、自分を養子に出した母親との対面シーンだけでも「ジム・キャリーだからこその魅力」を堪能出来ましたし「可憐な乙女」としか形容しようのないフィリップ・モリスを演じ切ったユアン・マクレガーも、これまた素晴らしい。 この二人が主演だからこそ「男同士のカップル」という際どい役どころでも、自然に感情移入出来た気がします。 ・それまでの恋愛対象は髭を生やしたタイプだったのに、女性的なフィリップに主人公が一目惚れするのには戸惑う。 ・「叫び屋」を殴らせた件でフィリップが感激しちゃうのは、違和感あり。 ・ゲイの男性って、ゴルフを毛嫌いするのが普通なの? などなど、不可解さを感じる部分もありましたが、それらを差し引いても面白い作品でしたね。 フィリップと出会う前の恋人であるジミーが、死の床にて「僕は生涯の恋人と出会ったけど、君は未だ出会ってない」と語り、自分の死後に出会うパートナーを大切にして欲しいと訴える場面は、特に感動的。 作中にて「フィリップ、きみを愛してる」と告げるシーンが二回ある訳だけど、最初の場面は思い切りドラマティックに叫び「燃え上がる愛」を感じさせて、二回目の場面では「愛の終わり」を連想させるような、静かな雰囲気の中で呟かせるという対比も、凄く良かったです。 そんな「愛」に比べると「脱獄」の方は添え物というか「フィリップに愛を伝える為には、脱獄する必要がある」という程度の描かれ方なんですが、これがまた滅法面白いんですよね。 最後の大技と言うべき「エイズ詐欺」も良かったけれど、ハイテンポで描かれる「判事の書類を偽装して保釈させる」「刑務所内で働く医療スタッフに変装して逃げ出す」「セクシー(?)な職員に変装して逃げ出す」という三つの脱獄シーンも、同じくらいお気に入り。 本当に、あの手この手で刑務所を抜け出そうとする様が愉快で、痛快でさえありました。 「約束を守る」事に拘って、看守達に止められても最後まで音楽を流そうとする囚人仲間も良い味出していたし、食堂にて特別に豪華なメニューを食べる事になり、フィリップが喜んでいる場面なんかも印象的。 ラストシーンにて、愛しい彼を忘れられない主人公が、再び脱獄騒ぎを起こし、笑いながら走る姿で終わるというのも良かったです。 実際の「フィリップ・モリス」が主人公の弁護士役としてカメオ出演している為「決定的な嘘をつく訳にはいかない」という配慮もあってか、最終的にフィリップ側は主人公に愛想をつかしたとしか思えない作りになっているのは、悲しいけれど…… それもまた、本作の魅力の一つと言えそうなんですよね。 実話ネタだからこその、ハッピーエンドになりきれない切なさが、物語に上手く作用していたように思えます。 たとえ愛を否定されたとしても、それでも求めずにはいられない男の愚かさ、滑稽さを、空に浮かんだ不思議な雲が、優しく見守っている。 この映画に相応しい、惚けた魅力のある終わり方でした。 [DVD(吹替)] 8点(2018-09-14 10:09:36)(良:1票) |
223. マイラ
《ネタバレ》 手術前の「切ったら生えてこないぞ。髪の毛やツメとは違うんだ」という台詞が、非常に生々しい。 ラクエル・ウェルチが性転換者を演じるブラックなコメディ映画という事で、ある程度覚悟した上で観たはずなのですが、冒頭のこの台詞の衝撃だけで、もう参っちゃった気がしますね。 想像以上に同性愛色が強く、しかもウェルチとファラ・フォーセットによる美女同士の絡みはおざなりなのに、男優のお尻はやたらと性的に撮っていたりするもんだから、ちょっと付いていけなかったです。 特に後半の、女性となったマイラが男性であるラスティのお尻を犯す場面なんかは、たっぷり時間をかけて、しかも力を込めて描かれており、正直言ってドン引き。 如何にもアメリカらしいマッチョ的な価値観「男らしさを誇示する男」に対する批判とか何とか、そういった建前があるのは分かるんだけど(これ、監督さんも同性愛者で性欲を発散させただけなんじゃない?)としか思えなくて、興醒めしちゃいました。 その一方で、今観ても斬新な場面が数多く存在しており、そちらに対しては素直に感心。 公開当時は結構な批判を受けたそうですが、その理由としては「演出が斬新過ぎて理解しきれなかった」ないしは「才能に溺れた自己陶酔的な作りが鼻についた」という面もあったんじゃないかなぁ……と思えました。 特に、古典映画の一場面やら曲やらを切り貼りして、登場人物の心象風景を表すというアイディアは、凄く良かったですね。 例として挙げると「マイラが耳を塞ぎたくなるような言葉を掛けられる」→「モノクロ映画で、耳を塞ぐシーンの映像が挟まれる」といった感じで、視覚的にも分かり易いし、非常にテンポが良く、御洒落でもある。 性転換前のマイロンの姿だったのが、ドアを潜ると同時にマイラの姿に変わったりする演出なんかも、楽しかったです。 「アメリカ人は男も女もレイプされたがっている」といった過激な出張があるかと思えば「1935年から1945年の10年間、アメリカ映画にクズはありません」「あの頃が全盛期ね。音楽の衰退は悲しいわ。映画の衰退も悲しいけど」なんていう懐古主義的な発言があるのも興味深いですね。 主人公マイラは「古臭い男らしさ」を嫌っている訳だけど、その一方で「古臭い映画」は礼賛している訳であり、そんな矛盾した考えが「男なのに女でありたい」「男が好きなのに男らしさを否定したい」という主人公の性的欲求とも合致しているという形。 マイラは念願叶って女になっても、結局は不幸な結末を迎えてしまう訳で、そんな根本的な矛盾を抱え込んだキャラクターを丁寧に描いているな……と感じました。 性別の壁を越えて愛した女性から「もし、あなたが男だったらきっと恋をするわ」と言われてしまう展開も、とびきり皮肉が効いていて面白いし、マイラが机の上に立って、下着を脱ぎ捨て「女になった証の股間」を男共に見せ付ける場面なんかも、忘れ難い味がありましたね。 そんな終盤の展開は好みだっただけに、最後の最後で「結局全ては、マイロンが見た夢に過ぎなかった」という夢オチに着地するのが残念なのですが……まぁ、これに関しては「大して美男子でもないマイロンが、手術を受けたくらいでマイラみたいな美女になれる訳無いじゃん」って事で、仕方の無い結末だったんでしょうか。 そういった「現実的な夢オチ」の後だからこそ、理想の美女であるマイラと現実のマイロンとが仲良く一緒に踊るエンディングは、陽気な中にも物悲しさを秘めた、独特の味わいに仕上がったというプラス面もある訳で、本当に評価が難しいです。 色んな意味で衝撃的な作りであるのは間違い無いし、出演者もやたらと豪華で、伝説的なカルト映画となったのも納得。 「映画好き」というより「映画オタク」というタイプの人に合うんじゃないかなぁ……って、まるで自分は「映画オタク」ではないかのような感覚で考えてしまう、そんな一品でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2018-09-05 07:32:59) |
224. そして誰もいなくなった(1945)
《ネタバレ》 原作者アガサ・クリスティ自ら手掛けた戯曲版に則り「最後に残った二人が結ばれて、島を去る」というハッピーエンドになっている本作品。 自分としては「全員が死亡するバッドエンド」な原作小説よりも、より好みな結末のはずなのですが……どうにも楽しみきれなかった気がします。 以下は、その理由について。 まず、原作の「そして誰もいなくなった」(1939年)は紛れも無い名作なのですが、実はセオドア・ロスコーによる「死の相続」(1935年)という先駆作があったりするんですよね。 ・外界と遮断された場所に集められた人々が、次々に殺されていく。 ・途中で死んだかと思われていた人物が、真犯人である。 という内容なのですが、実はそちらでも「主人公達は無事に生還し、カップル成立のハッピーエンド」を迎えていたりするんです。 つまり、原作小説の結末をハッピーエンドに改変した結果、元ネタの小説と同じような形になってしまった訳で、これには流石に(何だかなぁ……)と思っちゃいました。 「死の相続」と「そして誰もいなくなった」の最大の差異とは「容疑者全員が死んでしまうという衝撃」にあったのに、本作ではそれがオミットされているんですからね。 元ネタよりも一歩進んでみせた原作小説に対し、本作は更に一歩下がって元の位置に戻ってしまったかのようであり、非常に残念でした。 勿論、本作なりの良い点もあって、各所に散りばめられたユーモラスな場面なんかは、原作に無かったオリジナルの魅力だと思います。 「こんな話がある。二人の英国人が孤島で3年間暮らしたが、紹介者がいないため会話ができなかった」という小噺も好きだし、医者と判事とが「(医者なのに)薬を信じないのですか?」「(貴方は判事ですが)正義を信じます?」と語って、笑い合う場面なんかも好み。 室内にいる人物を鍵穴から覗き見するという、映画ならではの視覚的な面白さが盛り込まれている点も、良かったですね。 「探偵役かと思われた人物が、実は犯人」という意外性が、原作より強調されている辺りも、上手い演出だったかと。 総評としては「面白かったとは言えないけど、観ておいて良かったと思える一品」という感じに落ち着くでしょうか。 モノクロの世界観が心地良く、それだけでも「格調の高さ」「名作の香り」を感じさせてくれただけに、結末が期待外れであったのが、実に惜しいですね。 ハッピーエンドに失望しちゃったという、貴重な体験を味わえた一本として、記憶に残る事になりそうです。 [DVD(字幕)] 5点(2018-08-27 02:54:18) |
225. ROCK YOU! ロック・ユー!
《ネタバレ》 馬上槍試合にて、敵を倒すと同時に槍が砕け散るシーンの迫力が凄い。 もう、それだけでも(観て良かったなぁ……)と思えたくらいでしたね。 平民の主人公が貴族達を次々に倒していくというストーリーも、非常に分かり易くて、好印象。 普通の歴史物なら首を傾げたくなるような「リアリティの無い場面」があっても、本作に関してはあんまり気にならないって点も、大きな長所だと思います。 なんせ冒頭にて「中世の人々が、二十世紀のバンドであるクィーンの曲を合唱している」という奇抜なシーンを挟んでいるくらいですからね。 それによって「時代考証云々と五月蠅く言うようなタイプの映画じゃないよ」という作り手側のメッセージが伝わって来た為、リラックスして楽しむ事が出来ました。 特訓シーンも全然辛そうじゃなくて、仲間達と一緒に遊んでいるようにしか見えないくらい、明るく楽しそうに描いているというのも、この映画らしい特色。 如何にも「高嶺の花」といった感じのヒロインに、とことん嫌味で憎まれ役なライバルが出てくる辺りも、単純明快な魅力がありましたね。 後者に関しては、主人公のウィリアムが金髪の美男子であるのに対し、ライバルとなるアダマーは黒髪の優男ってルックスな辺りが(日本の作品とは逆だなぁ……)と思えたりもして、興味深かったです。 父子の再会シーンも感動的に仕上がっているし「We Will Rock You」を聴いたら「We Are the Champions」も聴きたくなったなと思っていたら、最後にしっかり後者を流してくれる辺りも、嬉しい限り。 どちらの歌詞も映画の内容と合っていましたし、素晴らしい主題歌の存在が、映画の面白さを何倍にも高めてくれていた気がします。 で、難点としては……そんなエンディング曲の後に挟まれる「オナラの大きさを競う勝負」にドン引きしちゃったと、その事が挙げられそう。 いくらなんでも下品過ぎると思うし、折角クィーンの曲で感動していたのに水を差される形になっており、非常に残念でした。 主人公の仲間が口にする「私の小説に登場させ、最低のクズとして描写してやる」って脅し文句は格好悪いとか、愛を証明する為に試合に負けるよう要求するヒロインには魅力を感じなかったとか、他にも細かい不満点は色々あったんだけど、それら全てを忘れさせるだけの威力が、クィーンの曲にあった訳ですからね。 折角「エンディング曲による感動」で映画本編の不満点を忘れさせてくれたのに、その後また「オマケ映像」で感動を台無しにしちゃうという、二重の上書き感があって、凄く勿体無い。 ちなみに、地上波放送版では上述のオマケ部分がカットされている代わりに、クィーンの曲もフルでは流れないという仕様みたいで、本当に痛し痒しですね。 せめて、もっと無難な内容のオマケであったならば「好きな映画」と言えそうだっただけに、惜しくなる一品でした。 [ブルーレイ(字幕)] 6点(2018-08-17 03:41:34)(良:1票) |
226. マーヴェリック
《ネタバレ》 ポーカーを題材にした映画は色々ありますが、その中でも本作が一番好きですね。 といっても、単純に「ポーカー映画」と評するのも躊躇われる程に色んな要素が盛り込まれており、それら全てが喧嘩せず綺麗に纏まっているんだから、これは凄い事だと思います。 最後の「実は親子だった」というオチも鮮やかに決まってるし、何より映画全体から「観客を騙そう」という意思よりも「観客を楽しませよう」という意思が伝わって来るんですよね。 自分は、この手の「どんでん返しオチ」に対しては拒否反応を抱く事もあるんですが、それって要するに「作り手が観客を楽しませる事よりも、観客を騙して悦に入る事を優先させている」と感じてしまうからこそ嫌な気分になる訳で、本作には、そういう気配が全く無いんです。 なんせメインとなる「ポーカーの勝負」に興味無い人でも楽しめるよう「銃撃戦」「暴走した馬車を止めようとするアクション場面」「ヒロインとのロマンス」などを、合間合間に盛り込んでるくらいですからね。 此度、久々に観賞してみて(こんなにポーカー以外の要素が多かったのか)と驚きましたし、多彩な魅力をバランス良く提示する監督の手腕には、改めて感服させられました。 メル・ギブソンも飄々とした主人公を魅力的に演じてるし「木曜日の夜に脚本を読み、金曜日の朝にOKの返事をした」というジョディ・フォスター演じるアナベルも、とびきりキュート。 原作ドラマで主人公ブレット・マーヴェリックを演じたジェームズ・ガーナーが「主人公の親父」役で登場するというファンサービスも、心憎いですね。 西部開拓時代の世界も雰囲気たっぷりに再現されており、音楽もそんな世界観を壊さぬようクラシカルな選曲がされている訳だから、もう画面を眺めているだけでも楽しくって……観賞中は、とても充実した時間を過ごす事が出来ました。 そんな中、あえて気になる箇所を挙げるとすれば「主人公のブレットが、弟のバートと名前を間違えられる理由」「ダニー・グローヴァー演じる銀行強盗の正体」の二つの謎が、作中で解き明かされていないという、その辺りが該当するでしょうか。 恐らく「原作ドラマ版では、兄弟によるダブル主人公であった為、本作の主人公が兄のブレットとも弟のバートとも解釈出来る余地を与えておいた」「実は生きていたポークチョップ」が正解だとは思うんですが、出来れば明確な答えを示して欲しかったです。 それと「エンジェル達が入念に身体検査して金を奪わなかったのは不自然」「ディーラーがトランプの束を摩り替えるシーンが分かり易過ぎる」って辺りも、不満点と言えそうですね。 前者に関しては、マックス・A・コリンズの小説版ではキッチリ金を奪われるシーンがあっただけに、余計に「なんで?」と思えてしまうし、あれだけの大金を奪われずに済む展開なら、もうちょい理由付けが欲しい。 また「最後にマーヴェリックがスペードのエースを引けた理由」に関しても、小説版では「母親が病死する際にも、母の為にスペードのエースを引いてみせると予告したのに、引けなかった過去がある」というドラマ性「保安官が密かにスペードのエースに摩り替えておいた」という裏付けがあったのに比べると、本当に「魔法で引き当てた」としか思えない作りになっており、ちょっと物足りなさがありましたね。 小説版では、第二のヒロインとして「蛇使いのバアさん」が登場し、この「とうとうスペードのエースを引き当てる事が出来た場面」を大いに盛り上げていたりもするので、興味が有る方には、是非ご一読してもらいたいです。 映画と同じくらい面白くて、オススメですよ。 [DVD(吹替)] 8点(2018-08-16 22:36:38)(良:2票) |
227. セブンティーン・アゲイン
《ネタバレ》 バスケだけでなく、ダンスを披露するシーンまであるのは「ハイスクール・ミュージカル」ファンへのサービスなのでしょうか。 当時ザック・エフロンは既に二十歳を越えていた訳だけど、十七歳の主人公を爽やかに演じ切っており(やはり、この人は学園映画だと輝くなぁ……)と、しみじみ思えましたね。 本作のラストにおいて、主人公はバスケ部のコーチに就任していますが、ザック・エフロンがコーチ役を務める学園スポーツ物なんかも、何時かは観てみたいものです。 そんな与太話はさておき、映画本編はといえば「安心して楽しめる青春映画」そのものという感じ。 「もう一度、高校時代に戻って人生をやり直したい」という後ろ向きな願望を満たしてくれる内容なんだけど、しっかり前向きな結論に達して終わる為、後味も良いんですよね。 「これまでの自分が積み重ねてきた過去は、決して間違いじゃなかった。だから、やり直す必要なんて無い」という着地の仕方は、予定調和ではあるんだけど、やっぱり清々しくて気持ち良いです。 ・息子と友達になり、一緒にバスケ部に入って活躍する。 ・娘に惚れられ、近親相姦に陥りそうになる。 ・妻に愛を語ったら、熟女マニアと罵られてしまう。 といった具合に「家庭を持つ中年男が、十七歳に若返ったら……」というシチュエーションならではの面白い場面が、ちゃんと盛り込まれているのも嬉しいですね。 どれも目新しい展開という訳ではなく「こういう設定なら、当然こうなるだろう」と思えるような王道展開なのですが、そのベタさ加減が心地良い。 主人公の親友ネッドと、美人校長とのロマンスも良いアクセントになっており「主人公と妻は、どうせ復縁するだろうけど、こっちの恋が上手くいくかどうかは分からない……」という意味で、適度な意外性を与えてくれた気がします。 校長の台詞「孔雀ってるの?」という表現には笑っちゃったし、通信教育で習得したというエルフ語をキッカケに意気投合する流れも微笑ましくて、自分としては、もう大好きなカップルです。 ネッドに関しては、十七歳時点での小柄なオタク少年姿も可愛らしかったので、作中で大人の姿でばかり出ているのが、ちょっと勿体無いようにも思えましたね。 「一緒にカンニングしてバレた」「レイア姫をプロムに誘った」などの断片的なエピソードだけでも面白かったし、やり直す前の「一度目の高校生活」についても、もっと詳しく観てみたかったものです。 その他にも「主人公と選手交代した息子が試合で活躍して、勝つところまで描いて欲しかった」とか「娘の彼氏だったスタンと喧嘩したまま終わっているのが気になるので、和解するなり何なりして関係に決着を付けて欲しかった」とか、色々と不満点は見つかるんですが、それも「この映画の、ここが嫌」という欠点ではなく「ここは、もっとこうすれば良かったんじゃない?」という類の不満点に止まる辺り、自分好みの映画だったんでしょうね。 良い映画、好きな映画に対しては「これ一本で終わる映画ではなく、何十話も続くドラマであって欲しかった」と思う事があるんですが、どうやら本作もそれに該当する一本みたいです。 [DVD(字幕)] 8点(2018-07-30 08:36:59)(良:2票) |
228. プルーフ・オブ・ライフ
《ネタバレ》 誘拐を題材にした映画としては、かなり良く出来ていると思います。 ヒロインの旦那が拉致される場面は緊迫感があるし、人質が拘束されている粗末な小屋の描写なんかも良い。 最初の交渉人フェルナンデスが頼りない男であった分だけ、主人公のテリーが彼に代わって交渉する姿が、非常に頼もしく思えた辺りなんかも「上手いなぁ」と感心させられましたね。 終盤の武力突入による人質奪還シーンも迫力があり、そこは大いに満足です。 で、難点はというと……やっぱり「主人公とヒロインとが不倫する場面」って事になっちゃいますね、どうしても。 これに関しては、現実にラッセル・クロウとメグ・ライアンが不倫関係に陥ってしまったというスキャンダラスな側面もあり、映画の中だけの話として割り切って語るのは難しいのですが「映画単品で評価したとしても、この要素はいらない」という結論になる気がします。 そもそもヒロインの旦那が善人なので、不倫している二人に全く共感出来ないんですよね。 人質となり、過酷な状況の中でも、妻の写真を心の支えに生き延びようとする旦那の姿が描かれているのに、肝心の妻は他の男との許されぬロマンスを繰り広げているだなんて「ひでぇ話だ」と呆れちゃいます。 せめて関係を匂わせる程度で終わってくれたら良かったのに、ご丁寧にキスシーンまで挟んであるもんだから、決定的に幻滅。 試写会の段階ではキスどころか、もっとあからさまなベッドシーンまであったとの事ですが、それが本当なら「そりゃカットして正解だよ」という感想しか出て来ないです。 あるいは、命を懸けて人質を救出してみせた後「貸し借り無しだ」とヒロインに微笑んで見せるという「一度きりのキスの借りを返す為に、命を張った主人公」の恰好良さを描こうとしたのかも知れませんが、どうも受け入れ難いものがありましたね。 ラッセル・クロウも、メグ・ライアンも好きな俳優さんであるだけに、今作の二人が魅力的に思えなかった事が、非常に残念。 「父親に対し、敬語で話す息子」の存在が印象的で、最後は父子の和解で終わるのかなーって予想していたのに、それが外れちゃったのも寂しいですね。 ヒロインが流産していた過去が、単なるお涙頂戴のエピソードで終わっておらず、人質奪還の際の伏線になっている事には感心させられただけに、この「敬語で話す息子」の伏線も綺麗に回収して欲しかったなぁって、つい思っちゃいました。 酷な言い方をするなら「不倫するような男だから、息子も心を開かないんだよ」って事になっちゃいますし……やはり、どう考えても不倫の件は不要だったかと。 映画に道徳を求める方が変だし、どんなに不道徳でも面白ければそれで良いんですけど、本作みたいな描き方だと「主人公とヒロインが嫌な奴等に思えてくる」→「面白さが損なわれる」って形になっちゃう気がするんですよね。 傑作と呼べそうな部分も感じさせただけに、惜しい一品でした。 [DVD(吹替)] 6点(2018-07-24 19:48:01) |
229. 団塊ボーイズ
《ネタバレ》 「Wild Hogs」という原題が恰好良過ぎるので、邦題もそのまま「ワイルド・ホッグス」にして欲しかったなぁ……なんて、つい思っちゃいますね。 かつて「バス男」が「ナポレオン・ダイナマイト」と改題し再販されたように、こちらも再販して欲しいものですが、流石に難しいでしょうか。 そんなタイトルに関するアレコレはさておいて、映画本編はといえば、実に心地良い「旅行映画」であり「青春映画」であり、自分としては、もう大満足。 ツーリング中の風景は美しいし、音楽も良い感じだし、何より「水場を見つけて、そこで泳ぐ」「テントを張って、皆で焚き火を囲む」などのお約束場面が、しっかり盛り込まれているんですよね。 こういった映画である以上「良いなぁ、自分もツーリングしたいなぁ」と感じさせる事は必要だと思いますし、それは間違いなく成功していたんじゃないかと。 主人公のウディは「破産」に「離婚」にと、様々な問題を抱えているのに、ラストにおいてもそれらの問題が一切解決していないというのも、本作の凄い部分ですよね。 それが決して投げっ放しにならず、劇中で語られた通り「たとえ仕事も家族も失っても、俺には仲間がいる」という前向きな結論に繋がっているんだから、お見事です。 聞くところによると続編の予定もあったそうで、諸々の問題については、その続編にて解決するつもりだったのかも知れませんが、これ一作でも充分綺麗に纏まっていた気がしますね。 この「仲間がいる」という結論は「仲間との絆さえあれば、どんな逆境でも乗り越えられる」というメッセージに繋がっているように思えて、本当に好きです。 一緒に水浴びしたハイウェイポリスをはじめ、同性愛ネタが多いのは鼻白むし「イージー・ライダー」を鑑賞済みじゃないとクライマックスで盛り上がれないんじゃないかと思える辺りは欠点なのでしょうが……それでもやっぱり好きなんですよね、この映画。 特に後者については、元ネタありきのパロディ展開なのを承知の上でも、観ていて熱くなるものがありました。 ピーター・フォンダって、恰好良い歳の取り方をしているなぁって、惚れ惚れしちゃいましたね。 腕時計を投げ捨てて旅に出る「イージー・ライダー」と重ね合わせる為、携帯電話を投げ捨ててから旅に出るシーンも面白かったし、それを踏まえての「時計を捨てろ」というラストの台詞も最高。 敵役となるデル・フェゴスのアジトを爆発炎上させちゃったのは「やり過ぎ」感があり、これじゃあ主人公達が悪者みたいでスッキリしないなと思っていたら、最後の最後で「以前より素敵な住処をプレゼント」というフォローが入っていたのも嬉しいですね。 その後、仲間達による乾杯シーンで終わるというのも、凄く気持ち良い〆方。 この「後味の良さ」は、偉大な先達である「イージー・ライダー」には備わっていなかった部分であり、本作が単なる模倣ではない、オリジナルの魅力を備えた品である事を証明している気がします。 「バイク好き限定」「中年男限定」などの枠に囚われず、女性や子供が観たとしても結構楽しめるんじゃないかな、と思えてくる。 とても愉快な、浪漫のある映画でした。 [DVD(吹替)] 8点(2018-07-23 05:17:06)(良:3票) |
230. ベガスの恋に勝つルール
《ネタバレ》 色んな意味で「夢を叶えてくれる映画」って感じですね。 ベガスで一攫千金、お金持ちになりたい。 美女(美男子)と一緒に暮らしてみたい。 そんな庶民の願望を疑似体験させてくれる、心地良い映画だったと思います。 スロットで大当たりする場面もテンポ良く、気持ち良く描いているし、自宅でのパーティーや社員旅行などのイベントの件も、とても楽し気で良かったです。 二人が同棲する事になる部屋も「ここに住んでみたい」と思わせるような魅力があって、好きなんですよね~ ヒロインは嫌がっていたけど、バーカウンターやピンボールの台があるなんて素敵じゃないかと思えるし「ドアを開けると、そこからベッドが飛び出す」ギミックなんかも好み。 「相手に浮気させようと互いにアレコレ画策する」「便座の上げ下げを巡って争う」「夫婦カウンセリングに向かう二人」などの夫婦喧嘩パートも、軽快なBGMに乗せて楽しく描かれており、良かったと思います。 テーマがテーマだけに、ここで攻防が陰湿になり過ぎて観ていて引いてしまう可能性や、主役二人が「嫌な奴」に思えてしまう可能性もありましたからね。 そこを暗くなり過ぎず、明るく能天気なテンションで描き切ってみせた事には、大いに拍手を送りたいところ。 「自分でサイコロを振る勇気すら無かったけど、とうとう起業を決意した主人公」「仕事に依存していたけど、仕事が好きという訳じゃなかったと気が付くヒロイン」などの真面目な部分を、ライトなノリを失わないまま、さりげなく描いているのも良かったですね。 お約束だけど「今回の騒動を通して、二人は大金よりも価値のあるものを手に入れる事が出来た」と感じさせるものがあって、凄く後味爽やか。 主人公の男友達と、ヒロインの女友達も魅力的であり、喧嘩してばかりだった二人が、最終的にはカップルみたいに仲良くなっちゃう結末も、ハッピーエンド感を高めてくれたように思えます。 その他にも「夫婦どちらも『レイダース』が好きだったと分かる」「結婚指輪を填めた薬指を、中指を立てるようにして旦那に見せ付ける妻」など、印象的なシーンが幾つもあって、本当に観ていて楽しい。 夕暮れを迎えた海辺での「結婚してくれませんか、もう一度」という二度目のプロポーズも素敵で(あぁ、良いなぁ……良い映画だなぁ)なんて、しみじみ感じちゃいました。 あまり評判は良くない(ゴールデンラズベリー賞にノミネートされてる)のを覚悟の上で観賞したのですが、意外や意外、本当に面白くて、楽しくて、吃驚させられましたね。 やはり世間の評判なんかに左右されず、自分の感性で判断しなきゃ駄目だな……と、そんな当たり前の事を再確認させてくれた、非常に価値ある一本でした。 [ブルーレイ(吹替)] 8点(2018-07-12 08:54:37)(良:2票) |
231. SAFE/セイフ
《ネタバレ》 「パソコンは何を記憶させても探り出されてしまう」という台詞が印象的。 ハッキングやら何やらを警戒する余り「大切な情報は、記憶力の良い人間に憶えさせておくのが一番安心」という時代錯誤な結論に行き着くのが、実に皮肉が効いていましたね。 そんな「記憶力の良い人間」が幼い少女というのは非常に漫画的だけど、あんまり美少女過ぎない子役を起用しているのが、適度なリアリティを生み出していたと思います。 ちょっと目が細過ぎて、典型的な「欧米人から見たアジア人」ってルックスの子なんですけど、笑うと愛嬌があって可愛らしいし、映画を観終わる頃にはかなり好きになっていました。 こういったストーリーの映画である以上、子供の事を「守ってあげたくなるような存在」として描くのは大切だと思うし、それは成功していたんじゃないかと。 それと、本作は彼女の養父となるチャンを演じるレジー・リーも、凄く良い味を出していましたね。 悪人だし、ボスの命令には逆らえないんだけど、養女のメイの事は彼なりに大切に思っているというバランスが、実に魅力的。 彼がメイに対し「きっといい父親になってみせる」と語り掛け、笑ってみせる場面は、本作の白眉であったように思えます。 不器用ながらも愛情を示して、彼女の為に少しでも「良い人間」になろうとした事が伝わって来て、好きな場面です。 それだけに、その後すぐ彼が殺されてしまう展開になるのがもう、残念で仕方ないんですが…… やはり、この辺りは「一度でも娘を殺そうとした奴が、本当の父親になんかなれる訳が無い」って事なんでしょうか。 「怖いものから、目を背けたりするな」という彼の教えを、メイが守ってみせて「彼とメイが過ごした時間は、無駄じゃなかった」という落としどころになっただけでも、良しとすべきなのかも。 その一方で、ジェイソン・ステイサム演じるルークに関しては「タフガイ」「アウトロー」の王道を行く主人公となっており、安心して観賞する事が出来ましたね。 浮浪者として生活しなければいけない悲壮感、靴を譲った相手すらも「ルークと関わったから」という理由で悪人達に殺されてしまうという「誰とも親しくなれない」という孤独感が、ひしひし伝わって来て(やっぱりステイサムって良い役者さんだなぁ……)と、惚れ惚れさせられました。 ただ、そんなルークがメイを必死に守ろうとする動機が弱いようにも思えて、そこはもっと説得力が欲しかったですね。 自殺を止めるキッカケになってくれた恩返しというなら「たまたま目が合ったお蔭で、思い止まれた」という展開ではなく、もっと積極的にメイが彼の命を救ってみせた展開にしても良かったんじゃないでしょうか。 あるいは、冒頭にて殺されたのが「ルークの妻」ではなく娘だったという事にして、娘と同じ年頃の子だから助けずにはいられなかったとか、そんな形にしても良かった気がします。 一番悪どい存在に思えた中国マフィアのハンおじさんが、結局大したダメージを受けず「尻尾を巻いて中国に帰る」くらいで終わっちゃう事。 そして、黒幕のアレックス刑事とルークとの素手のタイマンが始まるかというところで、メイが銃でアレックスを撃ち、決着を付けちゃう事なんかも、欠点と言えそうですね。 そこは、もっとスッキリする形で〆て欲しかったです。 観賞前に期待していた「ジェイソン・ステイサムの骨太なアクション」は充分に堪能出来たし、ルークとメイが「父娘」ではない「友達」になるハッピーエンドは良かったしで、決して嫌いな映画じゃないんですけどね。 気になる点も多くて「そこそこ満足」くらいの感じで観終わってしまった…… そんな一品でありました。 [DVD(字幕)] 6点(2018-07-04 11:02:09)(良:1票) |
232. ホリデイ
《ネタバレ》 休日にノンビリ過ごしながら観賞するには、最適の映画なんじゃないかと思います。 それというのも、これって「面白過ぎて目が離せない」とか「続きが気になって仕方無い」とか、そういうタイプの作品じゃないんですよね。 話の展開は王道に則っており、主役の男女四人も予定調和で結ばれて、ハッピーエンドを迎える事になる。 いきなり大きな音がして吃驚させられる事も無いし、劇中の音楽も穏やかで、心地良いものばかり。 だから観賞中、ウトウトして眠くなったら、そのまま寝ちゃったとしても問題無いような、独特の包容力があるんです。 つまりは「退屈な映画」って事じゃないか……とも言えそうなんですが、自分としては好きなんですよね、こういう映画って。 まず、ホーム・エクスチェンジを題材にする事によって「夢のような豪邸」「お伽噺のようなコテージ」の魅力を、両方味わえる形になっているのが上手い。 しかも、劇中のヒロイン達にとっても、その豪邸とコテージは「初めて訪れる場所」である為、新鮮な反応を示す彼女達と観客とが、同じ気分になって楽しむ事が出来るんです。 旅行映画のお約束「新鮮な場所での、新鮮な恋」も描かれているし、素敵な異性以外にも「偏屈だけど、チャーミングな老人」「とっても無邪気で、可愛い子供達」と出会えたりするんだから、もう言う事無し。 「今いる場所から抜け出して、生まれ変わってみたい」という願望を満たしてくれる、実に良質な作品だと思います。 主演の四人も全員好きな俳優さんだし「予告編」や「劇中曲」の使い方も上手い。 リンジー・ローハンとジェームズ・フランコが出演しているという「危険な罠」についても(予告編だけでなく、本編も観てみたいなぁ……)と思っちゃったくらいですね。 老脚本家のアーサーが自力で歩き、階段を登ってみせる場面にて「マイルズがアーサーの為に作った曲」が流れ出す演出も、凄く好み。 正直、アーサーという人物については考え方が懐古主義過ぎて、あまり共感出来ずにいたのですが、この場面の感動によって一気に好きになれた気がします。 「映画は私にとって、永遠の恋人なのです」というスピーチも、心に響くものがありました。 タクシーが「Uターン出来ない道」と言っていたのに、その後に家から車で出掛けたりする場面があるのは戸惑ったし(多分、反対側の道なら普通に車で移動出来るって事なんだと思われます)折角の可愛い子犬が途中から空気になっているという不満点もあるんですが、気になるのはそれくらい。 アイリスが元カレへのメールで「Dear」と書きかけてから消す場面。 グレアムが「ナプキンヘッド」に変身して、幼い娘達を笑顔にする場面。 マイルズがビデオ店にて、色んな映画音楽を紹介する場面。 そしてアマンダが子供時代のトラウマを克服し、涙を流す場面と、主役四人にそれぞれ印象的な場面がある点も良いですね。 劇中の台詞に倣い「ホリデイ」は自分にとって「恋人のような映画」だと、そう紹介したくなるような、素敵な一品でありました。 [ブルーレイ(吹替)] 9点(2018-06-22 05:35:41)(良:1票) |
233. 愛しのローズマリー
《ネタバレ》 ジャック・ブラックという俳優の魅力に気が付かされた、記念すべき一品。 元々はヒロインであるローズマリーことグウィネス・パルトロウ目当てで観賞したはずなのですが、終わってみれば主人公である彼の虜になっていた気がしますね。 それくらい衝撃的だったし、本当に良い役者さんだなと、しみじみ感じ入りました。 失礼ながら自分は「太った男優」を恰好良いと思った事が無かったもので、そんな自分の「太ってるのに、こんなに恰好良いんだ」という驚きが、劇中の「太っていても、ローズマリーはこんなに綺麗だ」という主人公の考えとに、上手くシンクロしてくれた気がしますね。 実際に観ている自分自身「外見に左右されない、内面の魅力」に気が付かされた訳だから、主人公の考えの変化にも自然に共感出来たし、そういう意味では非常に運が良かったというか、相性の良い映画だった気がします。 ・主人公が受けた暗示について「以前からの知り合いは従来通りの姿で見える」という部分が分かり難い。 ・ローズマリーと出会う前に色んな女性と絡む為、誰がヒロインなのかと混乱する。 ・美女は次々に登場する一方で、美男子は殆ど出て来ないので女性の観客にとっては物足りなさそう。 ・そもそも主人公の主観とはいえ「太ってる」「老けてる」などの特徴を「醜い」として劇中で扱ってるのは酷いんじゃない? 等々、欠点らしき部分はあるけど、それでも自分にとっては大好きな映画なんですよね。 音楽のセンスも好みだし、ファレリー兄弟の作にしては比較的上品な脚本なのも嬉しい。 ローズマリーの体重でボートが傾いている場面や、脱いだ下着が「パラシュート」サイズで驚く場面なんかも面白くて、コメディ映画としても、しっかり楽しむ事が出来ました。 そして何といっても「主人公が、火傷の女の子と再会する場面」が、本当に素晴らしい。 それまで見た目に囚われていた主人公が、彼女の真実の姿に大きなショックを受け、それでも相手を傷つけないようにと平静を装いつつ「元気かい? 美人ちゃん」と言って、優しく抱き締めてあげる。 その時の(俺は、どれだけ馬鹿な奴だったんだ)(こんな幼い子を見た目で判断して傷付けてしまうような、最低な奴だったのか)という「気付き」と「後悔」の演技とが実に見事で、ここが本作の白眉であったと思います。 それと、もう一つ。 ラストにてローズマリーに告白してみせた際の「鳩時計の真似」も、凄く素敵でしたね。 「本当に、それで後悔しない?」と不安そうに問い掛ける彼女に対し、お道化てみせるだけで、言葉では応えず、その後の優しい笑顔で「後悔なんてするはずないだろう」「だって、君を愛しているから」などといった、色んなメッセージを伝えてみせる。 凡百の台詞よりも遥かに雄弁な、その仕草と笑顔とを見せられた瞬間、この映画は傑作だと確信を抱く事が出来ました。 太っている女性が別人のように痩せた際「生まれ変わった」という表現を用いる事がありますが、本作のローズマリーは生まれ変わったりしません。 生まれ変わるのは、主人公のハルの方。 決して悪い奴じゃないんだけど、偏見に囚われてしまっていた彼が、心優しいヒロインのローズマリーと結ばれて、とびきり魅力的で恰好良い男へと、鮮やかに変身してみせる。 それが実に痛快で、皆が祝福してくれるハッピーエンドも心地良くて、観ているこっちまで幸せな気持ちになれるんだから、本当に良い映画だと思います。 「最初は勘違いから始まった恋が、真実の愛に帰結する」というラブコメの王道を、分かり易く表現してみせた、鮮やかな逸品でありました。 [DVD(吹替)] 9点(2018-06-19 22:22:02)(良:2票) |
234. ハリウッド的殺人事件
《ネタバレ》 映画好きなら誰しも「世間の評価は芳しくないけど、自分は好き」という映画を胸に抱えているものだと思いますが、本作が正にそんな一本。 副業で不動産を扱っているベテラン刑事に、俳優志望の若手刑事という二人によるバディムービーなのですが、彼らの年齢差が丁度親子くらいで、会話にも何処となく疑似親子めいた匂いが漂っているのとか、凄く好きなんですよね。 若手の方が「刑事を辞めて、本格的に俳優をやりたい」と将来についての展望を語ったり、初老のベテラン刑事の女性関係を心配してみせたりと、二人のやり取りが実に微笑ましい。 特に、若手刑事のコールデンを演じたジョシュ・ハートネットに関しては、本作が歴代でもベストアクトだったんじゃないかと思えるくらいですね。 「このまま刑事を続けていて良いのか」という作中の悩みが、現実世界の彼が当時抱いていたという「このまま俳優を続けていて良いのか」という悩みとも重なり合っているように思え、非常に説得力があったかと。 ラストにて「役者の才能は無いみたいで……刑事止まりかな」と、何処か照れくさそうに語る辺りなんかも、コールデンの「なんだかんだ言っても、刑事という職業が好き」という気持ち、そしてジョシュの「俳優という職業が好き」という気持ちが伝わってくるかのようで、凄く良い場面だと思います。 脚本担当の方も「実際に不動産の副業をしつつ刑事をやっていた」「その時の相棒は俳優志望だった」というキャリアの持ち主のようであり、そういった現実とのシンクロ具合が、本作に適度なリアリティを与えていた気がしますね。 破天荒な設定の、コメディ仕立てな刑事物なのに、地に足が付いている感じで安心して楽しめたのは、そういった裏付けがあったからこそなのかも知れません。 ハンバーガーのトッピングに、携帯電話の着メロといった小道具の使い方も上手いし、マジックミラー式の取調室のシーンなんかも、コミカルな魅力があって好きですね。 カーチェイスや銃撃戦に迫力が無いという、根本的な欠点もあるのは分かりますが、それさえも 「女の子用の自転車や、タクシーを使って追跡するのが面白い」 「俳優志望だからこその演技力を駆使し、相手を騙してから撃つのが痛快」 なんて具合に、好意的に捉えてしまうんだから、本当に自分と相性の良い映画なんだと思います。 115分で終わるのが勿体無くて、この二人を主役とした刑事ドラマを、何十話分でも観てみたくなるような……独特の魅力を備えた一品でありました。 [DVD(吹替)] 8点(2018-06-13 17:43:55) |
235. U.M.A レイク・プラシッド
《ネタバレ》 数あるワニ映画の中でも、最も好きな一本。 「面白い」ではなく「好き」なタイプの映画である為、感覚的なものを伝えるのは難しいのですが……とにかく定期的に観返したくなる魅力があるんですよね。 監督さんが「ガバリン」や「ハロウィンH20」「フォーエヴァー・ヤング」という、自分好みな品を色々手掛けている人なので、波長が合うのかも? 何気ない場面や、ちょっとした音楽にも(あぁ、良いなぁ……)と感じてしまうんだから、とことん自分とは相性の良い作品なのだと思われます。 典型的な「誤解を招く邦題」である事。 作中での牛の扱いが可哀想である事。 メインとなる登場人物達が皮肉屋揃いで「良い子ちゃん」とは掛け離れている事。 などなど、欠点と呼べそうな部分は幾らでもあるんですが、それより長所の方に注目したい気分になるんですよね。 雄大な自然を捉えた空撮画面が美しくて、それを眺めているだけでも楽しいし、川辺でキャンプして焚き火したりと「レジャー」「アウトドア」的な魅力を味わえる辺りも嬉しい。 一応、作中で死人も出ているんだから、シリアスな空気になっても良さそうなものなのに、どこか皆ノンビリしていて「楽しいワニ釣り」めいた雰囲気すら漂っている。 それは「緊迫感が無い」という短所でもあるんでしょうが、自分としては「そこが良いんだよ」って思えました。 巨大ワニが実は二匹いたというオチにして「殺さずに捕獲出来た達成感」「ミサイルで派手に吹っ飛ばした爽快感」を、それぞれ一匹ずつ味わえる形になっているのも良いですね。 (そりゃあ無事に捕まえられたら一番だけど……保安官が持ち込んだ小型ミサイルの伏線もあるし、どうせ殺すんでしょう?)と予想していただけに、適度な意外性を味わう事が出来ました。 そして何といっても、最初は喧嘩ばかりしていた主人公四人が、一連のワニ騒動を通して仲良くなっていく姿が微笑ましいんですよね。 それも、物凄く強固な友情が生まれるとかじゃなくて「病院に付き添う」「一緒に飲みに行く」程度に留めているのが、程好いバランス。 最後も「まだまだ赤ちゃんワニが沢山いた」というバッドエンドのはずなのに、妙に明るく〆ているのも良かったです。 ワニを飼ってるお婆ちゃんは、そりゃあ道義的に考えれば「悪」なんだろうけど、彼女にとってワニは「可愛い子供達」な訳だし、それが全て奪われずに済んだという、一種のハッピーエンドにも感じられました。 この後、続編映画が色々と作られて、最終的には「アナコンダ」とクロスオーバーした「アナコンダ vs. 殺人クロコダイル」なんて品まで生み出す事になる本作品。 シリーズ化されるのも納得な、確かな魅力を備えた一品でありました。 [DVD(吹替)] 7点(2018-06-08 09:37:39)(良:2票) |
236. サボテン・ブラザース
《ネタバレ》 「物語の中のヒーローが、本物のヒーローになる」映画の、元祖的存在ですね。 洋画では「ギャラクシー・クエスト」邦画では「ザ・マジックアワー」アニメにおいても「バグズ・ライフ」に「宇宙英雄記」と、様々な媒体で本作のプロットを拝借した作品が見つかる事に、その影響力の大きさが窺えます。 もしかしたら1986年以前にも似たような映画があったのかも知れませんが、自分は未だそんな映画に出会えていませんし(あえて言うなら「荒野の七人」?)やはり本作のオリジナリティはズバ抜けているんじゃないかと。 そんな訳で「映画史を語る上では外せない一本」「非常に斬新な、革命的作品」と、ひたすら絶賛したい気持ちもあるんですが…… 正直、中弛みしている部分もあって、完成度が高いとは言い難い映画なんですよね。 象徴的なのが「唄う樹」と「透明な剣士」の存在であり、彼らだけ妙にファンタジー度が高い点も併せて、凄く浮いちゃっている。 作り手側としてもそれを気にしたのか、直前に「馬や亀も唄ったり喋ったりするシーン」を挟み、自然に感じられるようにと配慮しているのは窺えるのですが、それが成功しているとは言い難いかと。 結局、悪党のアジトは飛行機が原因で判明するので「アジトの場所を知る為には、唄う樹がある場所に辿り着き、透明な剣士に教えてもらう必要がある」って流れ自体が不要になっており、本当に(何だったんだアレは……)って思えちゃうんですよね。 そんな肩透かし感も、本作を彩るギャグの一種、愛嬌の一つではあるんですが「この映画の、そこが嫌」と言われたら、全く反論出来ない部分でもあります。 実際、上述の作品群も本作のプロットを拝借する一方で、この「唄う樹」と「透明な剣士」については、殆どスルーしちゃっていますからね。 それでも、やっぱりこの映画は好きというか……本当に魅力的な部分が幾らでもあって、語り出すと止まらなくなっちゃうくらいなんです。 まず、劇中劇となる白黒映画が意図的に稚拙に作られており(柵に切れ目があるのが破壊される前から見えてしまっている、など)それによって後の「映画ではない、本当の戦い」に迫力が生まれている点が素晴らしい。 主人公達が、一頭の馬に三人で乗ったり、一つのベッドに三人で寝たりする場面なんかも「仲良過ぎだろっ!」とツッコまされて、楽しかったですね。 荒野を彷徨い、他の二人が乾いている中で、ダスティだけが浴びるように水を飲む場面も可笑しくって、ギャグとしてはここが一番好きな場面かも。 「唄う樹」と「透明な剣士」とは反対に、後続の作品で頻繁に真似されている「相手が本物の悪党と分かって、怯える主人公達」の場面も、極めて面白く描かれており(こりゃあ真似したくなるわ)と、大いに納得させられました。 また「本当のヒーローじゃなかった」とヒロイン達がショックを受ける一方で、同じように「映画は嘘だった」とショックを受けて、かつての憧れが恨みに変わった男を敵役に配している辺りも凄い。 「映画の中のヒーロー」が、人々に希望を与えるだけでなく、絶望を与える事もあるという、非常に考えさせられる一幕。 このジャンルの映画が成熟して、数十年後にようやく生まれそうな展開を、元祖的存在の本作で既にやってのけているんだから、もう驚嘆するばかりです。 主役三人組の中で、一番頼りないかと思われたネッドが「男になるか、逃げだすか」と言い出して、三人が本物のヒーローになるキッカケを作ったり、銃による決闘に勝利したりと、作中で最も活躍しているという意外性も心地良い。 ラッキーによる終盤の演説「人は皆、心にそれぞれのエル・アポを抱えている」も胸を打つものがあり、本作に普遍的な物語性を与えているように思えましたね。 そして何といっても「正義。それが我らの報酬だ!」と劇中の映画同様に叫び、お金の入った袋を村の人々に投げ返してから別れるラストシーンが……もう、本当に名場面としか言いようが無い。 ここ、最初からお金を受け取らないつもりだった訳じゃなく、数秒の沈黙を挟んで、考えて、見つめ合って、それから「映画のように恰好付けて」袋を投げ返すっていうのが、たまらなく好きなんですよね。 決して完璧なヒーローではなく(このままお金を受け取っても良いかも?)と一瞬迷うという、人間的な弱さを備えている主人公達。 そんな彼らが、心の弱さに打ち勝って、女性や子供達に「ヒーローとは、斯くあるべし」という姿を見せ付け、颯爽と去っていく。 本当に素晴らしい、傑作という言葉が似合う一品でありました。 [DVD(吹替)] 9点(2018-05-30 14:03:26)(良:3票) |
237. ギャラクシー・クエスト
《ネタバレ》 「スタートレック」のパロディ作品なのですが、どちらかといえば「サボテン・ブラザース」の影響の方が色濃いようにも思えましたね。 「物語の中のヒーローが、本物のヒーローになる」という筋書きが全く同じであり、その枠組みを「西部劇」から「スタートレック」に置き換えただけ、という感じ。 である以上、既視感だらけで退屈な映画になりそうなものなのに……なんと吃驚。 これがまた、元ネタに優るとも劣らぬ傑作に仕上がっているのですよね。 自分の場合「サボテン・ブラザース」を観賞済みだったので、ある程度展開が読めてしまった部分があるのですが、そういった予備知識無しで観ていたら、本当に衝撃的な面白さだったんじゃないかと思います。 ストーリー展開が読めているのに、何故こんなに面白かったのかと考えてみたのですが、それに関しては「登場人物が魅力的である」という一点が大きかった気がしますね。 往年のSFテレビドラマ「ギャラクシー・クエスト」の栄光に縋って生きている、売れない俳優達。 互いに喧嘩したり、仕事に対する文句を言ったりはするんだけど「基本的には良い奴等」という線引きが絶妙であり、観客としても素直に彼らを応援出来るんです。 特に感心させられたのが、序盤にて主人公のジェイソンがファンに八つ当たりしてしまう場面。 ここって「主人公達は現状に不満を抱き、鬱屈としている」「そんな彼らが、この後ヒーローになる」という事を示す為、決して外せない場面だと思うんですが、一歩間違えば序盤の段階で「こいつは嫌な奴だ」と観客に悪印象を与えてしまう、非常に危うい場面でもあるんですよね。 でも、この映画ではヒロインのグエンが「ファンを相手に、あんなにカッとするなんて初めて」と驚く展開が用意されている。 それによって「主人公はファンサービスを大切にするような、優しい男である」「そんな彼が思わずファンに八つ当たりしてしまうほど、現状に対しては不満を抱いている」という二つの情報を、同時に観客に与える事に成功しているんだから、これは本当に上手かったと思います。 「ドラマでは直ぐに死ぬ端役だが、現実の世界では今度こそヒーローになろうともがいている男」を、ゲスト枠のような形で参戦させているのも良いですね。 主人公達が「ドラマのようにヒーローになる」という展開ならば、彼に関しては必然的に「ドラマと同じように死んでしまうのでは?」と思わされるし、その存在によって、適度な緊迫感が生まれてる。 女性型宇宙人とのロマンスを繰り広げる技術主任なんかも、程好いアクセントになっていたかと。 彼らに助けを求める宇宙人側の描写も、これまた良いんですよね。 「コスプレかと思ったら、本当に宇宙人だった」という序盤の展開だけでも面白いし、歩き方や笑い方がぎこちないという、わざとらしい「宇宙人っぽさ」の演出も素敵。 リーダー格のマセザーが、ジェイソンから「本当の俺達はヒーローなんかじゃない。全ては作り物だった」と告白されて、凄く切ない反応を返す場面も、忘れ難い味がありました。 「サリスの船から盗み出したテープ」「小さな猿のような生物」など、要所要所でハッとさせられる場面があり、コメディでありながら油断出来ない、シリアスな物語としての魅力が充分に備わっている点も、見逃せない。 そんな魅力がピークに達するのが「ドクター・ラザラスに憧れていた青年」の死亡シーンであり、彼を看取りながら「役者のアレクサンダー」が「ヒーローであるドクター・ラザラス」へと生まれ変わる流れは、本当に感動的だったと思います。 無名時代のジャスティン・ロングがオタク少年役で出てくるサプライズも嬉しかったし「いつも一秒で止まるのよね」などの台詞も、ユーモアがあって好み。 仲の悪かったジェイソンとアレクサンダーが、咄嗟の機転で一芝居打ってみせ、窮地を脱する辺りも面白かったですね。 無事に悪者を退治した後「ギャラクシー・クエスト、十八年振りのシリーズ復活!」「かつての端役が、今度はレギュラーに抜擢」「技術主任と女性宇宙人も、ラブラブなカップルに」といった映像が次々に流れるハッピーエンドも、非常に後味爽やか。 気になる点としては、切り札であるオメガ13の使用シーンにて(明らかに十三秒以上、時間が巻き戻ってない?)とツッコまされる事。 そして、上述のオタク少年も皆を救った功労者なのに、それが認められる場面が無かった事なんかが挙げられそうですが、精々そのくらいですね。 元ネタありきの内容でありながら「これは元ネタより面白いんじゃないか」と思わせてくれる。 非常に貴重な映画でありました。 [DVD(吹替)] 8点(2018-05-29 14:19:58)(良:4票) |
238. ファンボーイズ
《ネタバレ》 良くも悪くも、スター・ウォーズオタク目線の映画ですね。 劇中にて「ホバ・フェットの強さ」「ルークはレイア姫を好きだったか」について真剣に言い争っちゃう辺りなんて、実にそれっぽい。 元ネタを知っていればニヤリとするようなパロ台詞も盛り込まれてるし、何より「夢を追い続けるオタクではなく、現実的なサラリーマンの道を選んだ若者」を主人公に据えているのが上手かったと思います。 それによって、オタク気質ではない観客も物語に入り込み易くしているし、その一方で「俺はもう大人になったんだ」と達観するだけの主人公で終わらせず「かつて熱狂していた世界に、再び戻っていく」様を描いているから、オタク映画であるという大前提にも反していない。 自分は熱狂的なスター・ウォーズ好きという訳ではありませんが、大人になりきれないオタク人間である事は間違いないと思いますし、そんな立場から見ても「この主人公の設定は絶妙だな」と、大いに感心させられました。 とはいえ、そんな「オタク」の悪い部分も如実に表れているのがこの映画であり……ちょっと、観ていて辛かったですね。 「スタートレック」のファンを作中で貶したり、エピソードⅠにも文句を付けるような形で終わったりと、やたら攻撃的で排他的。 「ウィリアム・シャトナーを大物っぽく描いているからセーフ」「駄作と断定した訳じゃないからセーフ」という作り手側のフォローというか、最低限の配慮も感じられましたが、ちょっと受け入れ難いです。 そもそも、作り手から「エピソードⅣからⅥまでは好きだけど、エピソードⅠは嫌い」ってメッセージが窺えちゃうんだから、これって「スター・ウォーズ愛を描いた映画」としては致命的な欠点だと思うんですよね。 エピソードⅠのキャラであるジャー・ジャーやらダース・モールやらを「美人局の悪党」「意地の悪い警備員」に仮託させている辺りなんて、非常にやり切れない。 それに対し、ⅣからⅥまでのキャラはレイア姫やランドなどを「良い人達」「主人公の味方側」として出しているんだから、あからさま過ぎてゲンナリです。 主人公の父親に対するコンプレックスを、ダース・ベイダーの存在と重ね合わせておきながら、結局は対話する事無く終わった辺りも残念でしたね。 オタクらしく現実逃避して旅に出る様を描いておきながら、その現実と向き合って乗り越えなきゃいけないという辛い過程は省き、努力も無しに夢を叶えて漫画家になれたという結果だけ見せられても、カタルシスは得られません。 そんな欠点が明らかな作りであるだけに、劇中の「欠点も必要さ」という感動的な台詞も「スター・ウォーズ」を擁護する為の台詞ではなく「ファンボーイズ」に対する自己弁護のように聞こえちゃって、凄く格好悪かったです。 主人公が描いた漫画を「最悪」と酷評する読者に対し、主人公達が「お前はクソッタレだ」と徹底的に馬鹿にして溜飲を下げて終わるのも、これまた酷い。 他の映画やファンを馬鹿にするような作りであるくせに「俺達は他の作品を批判するが、俺達の作品を批判するのは許さない」と主張しているようにも思え、どうにも居心地が悪かったです。 そんなややこしいアレコレを考えず、純粋に青春映画として観れば綺麗に纏まっていたと思いますし、仲の良い友達連中で車に乗り込み、旅する楽しさなどは味わえただけに、非常に勿体無いですね。 ファルコンの模型を人質(?)に取る件や「右手をレイア姫と呼ぶ」件は笑っちゃったし、予想以上にスカイウォーカーランチの壁が低くて「侵入する為のフックって、別に要らなかったじゃん」とツッコまされる辺りも面白かったです。 何より、エピソードⅠ公開当日の「皆でワイワイ集まって、お祭り気分で騒ぐ」雰囲気は凄く心地良くて、そこの場面だけでも(観て良かったな……)と思えたくらい。 それだけに、余計なオチなどは付けず、あの楽しい盛り上がりのまま、亡き友に乾杯し、待ちに待った新作映画が上映される場面にて、ハッピーエンドを迎えて欲しかったところです。 作中にて「6デイズ/7ナイツ」(1998年)が失敗作じゃないかと揶揄されていましたが、自分としては、その「6デイズ/7ナイツ」に付けたのと同じ点数を、この映画に進呈したいと思います。 [DVD(字幕)] 5点(2018-05-15 16:01:23) |
239. 6デイズ/7ナイツ
《ネタバレ》 映画「ファンボーイズ」(2008年)にて本作が「失敗作」ではないかと揶揄するような場面があったのを思い出し「そんなに酷い出来だったかな?」と考えて、此度再観賞。 結論からいうと、確かに「傑作」とは言い難い内容でしたが、自分としては好きなタイプの映画でしたね。 お気楽な無人島ロマンス映画として、しっかり楽しめるように作ってあるし、娯楽作として一定の基準は満たしているんじゃないかな、と感じました。 「エボリューション」(2001年)や「ドラフト・デイ」(2014年)を手掛けたアイヴァン・ライトマン監督だし、元々この監督の作風が好みに合ってるんだと思います。 「この島から多分ずっと出られない」と言っていたはずの主人公が、その後「無線用の信号機のスイッチを切れば、修理班が島にやって来るはず」と言い出すのは一貫性に欠けるとか、敵役となる海賊が間抜け過ぎて(せめて服をロープ代わりにして手を縛るとかしろよ。そんなんじゃ逃げられて当然だろ)と呆れちゃうとか、脚本にはツッコミどころが多いけど、何となく笑って許せちゃう。 無人島の雄大な自然を捉えた上空からのカットとか、崖から飛び降りるシーンでのスローモーション演出だとか、そういう細かい部分がしっかりしているからこそ「脚本の粗を気にせず、何も考えずに観ている分には楽しい」って気分になれる訳で、そこは素直に凄いと思います。 五十歳を越えているだろう主人公と、若々しい金髪美女のロマンスって時点で、結構トンデモない内容のはずなのに、男側をハリソン・フォードが演じる事によって(まぁ、これなら有り得るかも……)と思わせてくれる辺りも嬉しいですね。 男にとって都合の良い、妄想を具現化したような映画だからこそ、最低限の説得力は欲しくなる訳ですし、その点でもこの映画は合格だったように思えます。 でも、上述の通り「傑作」とは言い難いのも確かであって……やっぱり欠点も多いんですよね、この映画。 そもそも「妻を親友に奪われた」って過去がある主人公なのに、最終的には「婚約済みであるヒロインを主人公が奪う」って展開になる訳だから、実は凄く後味が悪い話なんです。 「主人公とヒロインだけでなく、婚約者も浮気していた」「お互いに浮気していたから無罪」みたいな展開になるのも、ちょっと都合が良過ぎるかと。 アン・ヘッシュ演じるヒロインが「乳首の形が透けて見える恰好」だったり「胸の谷間が丸見えな恰好」だったりと、あまりにも扇情的なファッションな点も、観ていて気恥ずかしいものがありましたね。 好みの女優さんだし、サービスシーンがある事自体は喜ばしいのですが、あからさま過ぎて面食らうという形。 (どうせ胸をアピールするなら、もうちょっと控えめな形にしてくれた方が嬉しいなぁ……)なんて、つい思っちゃいました。 水場も簡単に見つかるし、壊れた飛行機も簡単に直せちゃうしで、漂流難易度が低過ぎるのも気になるし「タヒチに運ぶ貨物」がサバイバル生活にて役立つかなと思ったら、そうでもなかった辺りも残念。 特に後者に関しては「キャスト・アウェイ」(2000年)において「一見すると役に立たないような貨物を、何とか利用して生き延びてみせる」様が見事であった為に、どうしても比べたくなっちゃいます。 調味料以外にも明確に「貨物が無人島生活に役立った」と思える描写があれば「この映画はキャスト・アウェイの元ネタになっているのでは?」なんて推論も書けたでしょうし、実に惜しい。 最後はお約束通り「文明社会に帰って来た二人が、無事に結ばれる」ハッピーエンドだし、エンディング曲も好みだったしで、ある程度の満足感は得られるんですが「本当にそれで良いのか?」ってツッコみたくなる部分が多過ぎるんですよね。 良かった部分と、悪かった部分とで、差し引きゼロみたいな形になるんだから、つくづく勿体無い。 「恋愛の69%はレストランで終わる」「砂糖にくるんだ嘘」など、印象深い台詞もありましたし、好きか嫌いかと問われたら好きな映画になるんだけど、高得点を付けるのは憚れる…… もどかしい一品でありました。 [DVD(字幕)] 5点(2018-05-11 14:15:17)(良:2票) |
240. クリスティーン
《ネタバレ》 「意思を持った車と人間との交流を描いた映画」といえば、ハートウォーミングな内容が多いものですが、本作はホラー物。 しかも車が女性であるという点が、今観ても画期的ですね。 「冴えない駄目男だった主人公が、悪女と出会う事によって逞しく生まれ変わるも、結局は悲劇的な結末を迎えてしまう映画」として捉えても、充分に楽しめる内容になっています。 主演のキース・ゴードンも、これまた良い味を出しており、冒頭の「水溜りをパシャパシャ踏みつけながら母親から弁当を受け取る姿」だけでも(なんか……頼りない感じだなぁ)と思わせてくれるんだから凄い。 クリスティーンと出会った後の「カッコいい不良」的な風貌も見事に決まっており、周りから「アイツは変わっちまった」という扱いを受けてしまう事について、確かな説得力を生み出していたと思います。 ただ、そんな彼の存在感が、この映画の欠点にも繋がっていて…… 観客としては、彼が演じるアーニーこそが主人公と信じて疑わなかったのに「主人公の親友で、良い奴」枠かと思われたデニスの方こそが真の主人公だったと明かされるという、ちょっと歪な構成になっているんですよね。 確かに画面に登場するのはデニスの方が先だし、ヒロインであるリーに最初にアプローチをかけたのもデニスなのは分かるんですが、やはり観客としては出番が多く、家族の描写なども多いアーニーの方に感情移入してしまいます。 だからアーニーの死後、デニス達とクリスティーンの戦いをクライマックスに持ってこられても、ちょっとノリ切れないし、最後も「アーニーを助けられなかった……」という彼らの後悔の念と共に終わる為、後味も悪い。 せめて、もっとデニスの比重を増やすなり何なりして「ダブル主人公制の映画である」と、序盤から感じさせて欲しかったところです。 その他、気になる点としては「メーターがカウントダウンのように下がっている描写の意味が分からなかった(クリスティーンの寿命を示してる?)」とか「冒頭では優しい母親にしか思えなかったのに、実は支配的な性格の母親で息子のアーニーは長年迷惑していたという展開になるのに違和感がある」とか、その辺りが挙げられるでしょうか。 とはいえ、長所も数多く備えている映画であり、視覚的、聴覚的な意味でも、様々な楽しさを与えてくれましたね。 車体の色が、さながら女性の口紅のようなクリスティーンの姿を見ているだけでも惚れ惚れさせられるし、BGMには(やっぱりカーペンターの音楽は良いなぁ……)と実感させられるしで、それだけでも満足度は高め。 親に買ってもらった車ではなく「自分でアルバイトして貯めた金で買った車」という設定なのも絶妙でしたね。 アーニーがクリスティーンに愛着やら独占欲やらを抱く気持ちも、良く分かるというものです。 建物に挟まれた、車の幅とピッタリサイズの道をクリスティーンに追い掛けられている場面なんかは「どうやっても逃げられない」感が伝わってきたし、炎を纏って追いかけてくるクリスティーンの姿なんかも、迫力があって好き。 単なる「悪女」「恐ろしい車」で片付けずに「ロックが好き」「人間の彼女にヤキモチを妬いてしまう」など、クリスティーンを(可愛いやつだな)と感じさせる部分がある事も、大いに評価したいです。 最後は、お約束の「まだ怪物は死んでいない」シーンで終わるんですが、そんな風にクリスティーンの魅力も描いているからこそ、完全なバッドエンドとは思えない形になっている訳ですからね。 彼女の視点で考えれば、愛するアーニーを奪われた復讐をまだ諦めていないという、歪んだ「希望」を感じさせる結末にもなっていると思います。 観賞後は「人でも車でも、やっぱり女ってのは怖いもんだなぁ……」なんて、笑って呟きたくなるような、面白い映画でした。 [地上波(吹替)] 6点(2018-05-02 07:17:31)(良:2票) |