281. レ・ミゼラブル(2019)
《ネタバレ》 モンフェルメイユ――。それはフランスの文豪ビクトル・ユゴーが著した、仏文学史に燦然と輝く名作「レ・ミゼラブル」の舞台となった街。この苦難と悲哀に満ちた小説の世界は今も変わらず、21世紀を迎えた現代も犯罪が多発する危険な街となっている。本作は、そんな貧困と暴力に満ちた街を舞台に、汚職にまみれた悪徳刑事と彼に指導を受けることになった新人刑事とのとある一日を描いたクライム・ドラマだ。何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのだが、これがなかなか見応えのある濃厚な犯罪劇の逸品に仕上がっていた。一言で表すといわばフランス版『トレーニング・デイ』といった趣きの作品なのだが、こちらはどこまでもリアルで生々しく貧困の現実を冷徹に見つめている。物語は、正義感に満ちた若い新人刑事がこの地区へと配属され、初出勤した日の朝から始まる。二人組のベテラン刑事の案内で新しく担当となる街を見て回る新人刑事。だが、そこで目にしたのは予想を遥かに上回る悲惨な現実だった。落書きやゴミにまみれた狭い公共団地で暮らす人々、絶えず勢力争いを繰り広げている犯罪組織や宗教団体、麻薬や暴力と隣り合わせでの生活を余儀なくされている子供たち……。対する警察もまた、自らの保身や利益のためにしか行動せず、社会正義の実現などこれっぽっちも考えていない。その不条理なしわ寄せは、いつの世も最後は社会的弱者へと向けられてゆく。まさに「あぁ無情…」としか言えなくなるような絶望的な現実が繰り広げられる。見ていて痛感させられるのは、この世界はユゴーが生きた200年前と大して変わらないのではないかということだ。そんな中でも最後まで正義を貫こうとする主人公に救われる。また、この監督のストーリーテリングの巧みさや深みのある人物造形などによって最後までぐいぐい引き込む手腕も注目に値する。最後に爆発する、子供たちの暴力の暴走は、そんな貧困の連鎖への圧倒的な怒りの発露なのだろう。この社会は何も変わらないのかもしれないが、それでも行動せざるを得ない子供たちには心動かされるものがあった。監督は、幼いころからこの地で生活していたとのことで、これは彼の実体験に基づく強烈なメッセージなのだろう。新たな才能の出現を素直に喜びたいと思う。 [DVD(字幕)] 7点(2021-09-15 04:00:48) |
282. 燃ゆる女の肖像
《ネタバレ》 18世紀、フランス。とある地方都市に住む裕福な貴族の元に招かれた、女性画家マリアンヌ。目的は、当家の結婚を控えた娘の肖像画を描くためだった。だが、長らく修道院生活を続けていたという娘のエロイーズは、親の決めた結婚に反発し、肖像画など描いてほしくないらしい。仕方なくマリアンヌは画家という身分を隠し、世話係と嘘をついて彼女を観察し、夜な夜な密かに絵筆をとることに。絵を描くために娘を見つめる画家と、真実を知らず見つめられることを意識してしまう娘――。嘘から始まった二人の危うい関係はやがて一線を越えてしまうのだった……。まだ同性愛者に根強い偏見が残る時代を背景に、女性同士という枠を越えて惹かれ合う貴族の娘と女性画家との秘めた愛を美しい映像で綴ったラブ・ストーリー。カンヌ映画祭で脚本賞を受賞したということで今回鑑賞してみました。確かに映像はとても詩的で繊細で大変良かったとは思うんですよ。紺碧の海に囲まれた雄大な大自然、中世の絵画を髣髴とさせる陰影に富んだ屋内の風景、その中で抗えない運命に翻弄される美しい二人の女性…。全体を通じて印象に残るシーンも多く、美術館で絵画鑑賞しているような気持ちで観ることが出来ました。ただ肝心のお話の方は正直微妙。禁断の愛に燃えるこの二人の女性が、確かに見た目は大変美しいんですけど、内面的な心理描写がかなり浅いので何とも感情移入しづらい。二人が一線を越えて思わずキスしてしまうという物語の肝となるシーンなんてあまりに唐突で、観客としてはちょっと置いてけぼり感が半端ないです。二人の次第に縮まってゆくこの距離感をもっと丁寧に描いてもらわないと。あと、お話の語り方というか編集の仕方が荒すぎませんか。場面が変わったら急に村人の祭りになっていて、自分は「いったいこれは何なんだ」と戸惑うしかありませんでした。物語の重要な鍵となる、オルフェの本の朗読もあまりに唐突に差し挟んでくるものだから非常に不自然で、伏線としても巧く効いていない。これで脚本賞など、カンヌも落ちたものだと思っちゃいましたわ。ただ前述したとおり、映像自体は非常に美しく気品に満ちたもので、長年抑圧されてきた性的マイノリティの悲痛な思いを汲み取ることには成功している。特に最後の振り返らずただ涙をこらえているエロイーズの表情には心動かされるものがありました。その点に於いては評価しましょう。6点。 [DVD(字幕)] 6点(2021-09-14 03:36:53) |
283. 七つの大罪クラブ 生贄になった少女たち
《ネタバレ》 スクールカーストの上位に位置する、いわゆるイケてる女子高生集団。彼女たち7人に、クラスメートたちは嫉妬と羨望を込めてこう呼び始めるのだった。「七つの大罪クラブ」――。暴食、傲慢、色欲、怠惰、強欲、嫉妬、憤怒。それぞれの個性を持った彼女たちは、常に様々なトラブルを巻き起こしていた。そんなある日、彼女たちの一人が行方不明となってしまう。いつも仲良しでずっと一緒にいるはずの彼女たちにいったい何があったのか。お互いに疑心悪鬼と不安が拡がる中、やがて第二の犠牲者が出てしまうのだった……。聖書に登場する原罪、いわゆる七つの大罪をモチーフにそれぞれに問題を抱えた7人の女子高生たちの犯した罪を描いた青春サスペンス。正直、さっぱり面白くなかったです、これ。とにかくストーリーの見せ方が恐ろしく稚拙。最後まで何が何だか全然分かんなかったんですけど!ヒット曲のPVみたいな映像が延々続くだけで、お話のほうは全く成立してないんじゃないでしょうか。そもそも七つの大罪を名付けられた女子高生という割には、誰も彼も皆おんなじでさっぱりキャラ立ちしてません。怠惰という割にはそんなナマケモノでもないし、傲慢という割にはそんなタカピーでもないし、色欲という割にはそんなビッチでもない。せめて暴食の子にはもっとぽっちゃりさんを使ってくださいよー。こんな分かりやすいキャラ設定を使っておきながら、ここまでキャラを立てられないって、え、この脚本書いた人ってアホなんじゃないですか。んで、最後までよー分からんままだらだらと終わっちゃいましたわ。映像と音楽にはほんのちょっぴりセンスを感じたので、+1点! [DVD(字幕)] 3点(2021-09-10 01:31:46) |
284. バクラウ 地図から消された村
《ネタバレ》 近代化や開発の波に取り残され、加速化する人口減少なども相まって、世界から今にも忘れ去られようとしている村、バクラウ。インターネット上の地図からもその存在を消され、警察や行政からも見捨てられたこの村にある日、正体不明の部外者が訪れる。通りすがりの旅行者を名乗る彼らだったが、その日から原因不明の危機が村を襲うようになるのだった。給水タンクに撃ち込まれる銃弾、村を監視するかのように空を飛ぶドローン、そしていつの間にか惨殺される村人たち……。いったいこの村に何が起こっているのか?だが、村の住民たちも黙ってはいない。何故なら彼らは誇り高き革命戦士の末裔だったからだ。隠し持っていた銃を手に取り、自らの村を守るため立ち上がる住民たち。彼らの命を懸けた戦いの幕がいま、切って落とされる――。南米の荒れ地に囲まれた小さな村を舞台に、武装した村民と謎の襲撃者たちの血で血を洗う抗争を濃密に描くバイオレンス・ドラマ。カンヌで審査員賞なるものを受賞したということで今回鑑賞してみたのですが、正直僕はさっぱり楽しめませんでした。これってストーリーの面白さで見せるというより、多くの謎をまず最初に提示してその真相が何なのかを延々引っ張るというスタイルだと思うんです。謎の因習に満ちた村、怪しげな雰囲気漂う住民たち、そして彼らを執拗に狙う謎の襲撃者集団……。まあ確かに、全編に横溢するこのミステリアスな雰囲気に最後まで引っ張られて見てたんですけど、残念ながら最後に明かされる真相があまりにも弱く、肩透かし感が半端ない。こちらの想像したオチを全く超えてこず、「結局それだけのことやったんかい!!」と僕は思わずずっこけそうになっちゃいましたわ。さすがにここまで引っ張っといて、肝心のオチがこれではねぇ。もっと観客の度肝を抜くような一捻りが欲しかった。作品全体に漂うこのひりひりとした空気に+1点。 [DVD(字幕)] 4点(2021-09-04 01:31:13) |
285. ロックダウン(2021)
《ネタバレ》 コロナ禍による都市封鎖――いわゆるロックダウン中のロンドンを舞台に、高級ダイヤを強奪しようと企む男女を終始軽快に描いたクライム・サスペンス。監督は、ハリウッドのエンタメ映画界を牽引するダグ・リーマン。主演には、人気女優アン・ハサウェイをはじめ、ベン・キングズレーやベン・スティラーといった新旧実力派俳優。新型コロナウィルス蔓延という未曽有の危機に直面し映画製作そのものがストップするなか、その危機を逆手にとって実際にロックダウン中のロンドンで撮影を決行したという本作、大変興味深く今回鑑賞してみました。なのですが、いや、これは正直アカンでしょ。倦怠期を迎えた同棲中のカップルがひたすら口喧嘩を繰り返し、そこにたまにズーム会議の映像が差し挟まれるだけというストーリーもへったくれもない展開が延々続き、もう退屈で退屈であくびが止まんなかったです。最後の方でダイヤ強奪ミッションがようやく開始されるわけですが、これもまたさっぱり面白くない。ロックダウン中の撮影ということでなかなか大変だったというのは分かるけど、さすがにこの出来なら中止した方が良かったんじゃないでしょうか。コロナ禍で撮影そのものが困難となり、ここ最近は公開される作品が明らかに減少している映画界。それでも頑張って良い映画を創ろうというスタッフたちの矜持には素直にエールを送りたいんですけどね。早くコロナが収まって、これまで通りお金と人材をアホほどかけて制作されたハリウッド超大作が普通に公開されることを願うばかりです。 [DVD(字幕)] 2点(2021-09-03 03:00:08) |
286. ストレイ・ドッグ(2018)
《ネタバレ》 17年前のとある事件がきっかけで心を病み、以来酒に溺れ荒んだ生活を送ってきた女性刑事エリン。ロサンゼルス市警内でもお荷物扱いされ、夫とも離婚、16歳の一人娘からも嫌われ、生きる希望も見失いかけた彼女はただ刹那的に日々を生きていた。そんな折、エリンの元に差出人不明の一通の封筒が届く。中に入っていたのは、紫色の塗料で染められた、一枚の薄汚れた紙幣だった。そしてそれは、17年前に封印したはずの忌まわしき記憶を彼女によみがえらせるのだった――。17年前、エリンはFBI捜査官であるパートナーのクリスとともに、とある犯罪組織内で潜入捜査任務にあたっていた。だが、そこで彼女は取り返しのつかない失敗を犯し、犯罪組織のボスであるサイラスを取り逃してしまったのだ。そしてその紙幣は、以来潜伏生活を続けていたサイラスが再び、現役復帰を果たしたことを宣言するものだった。17年前の忌まわしき記憶にけりをつけるため、エリンは執念の捜査を再開するのだが……。オスカー女優ニコール・キッドマンが、過去の記憶に苦しめられ酒浸りの生活を送る刑事役を熱演し、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされたクライム・サスペンス。全編に横溢する、このひりひりとした緊張感はなかなかのものでした。過去と現在を行き交いながら描かれるストーリーも全く先が読めず、最後まで飽きさせません。特に中盤辺りで突発的に開始される銀行強盗のくだりは、非常にサスペンスフルで見応え充分。大胆な老け顔メイクを披露したニコール・キッドマンもなかなかの熱演ぶりで、回想シーンの美しかった時との激しい落差がより、この女刑事の悲哀を浮き彫りにさせている。そして、クライマックスで明かされる主人公の衝撃の過去…。と、クライム・サスペンスとしては充分面白かったのですが、惜しいのは脚本に突っ込みどころが多い点。現代と過去の銀行強盗パートがさすがに都合よく行き過ぎる。ここまで大胆な行動を取った主人公をほっとく警察署は明らかに無能すぎだし、事故を起こした逃走車の近くにあるごみ箱を調べない鑑識も不自然。冒頭の殺人事件が実は…となるミスリードもイマイチ効果を発揮していない。と、そこらへんに不満は残るものの、総じて満足度は高い。なかなか密度の濃い犯罪劇の佳品でありました。 [DVD(字幕)] 7点(2021-08-21 02:07:33) |
287. ビバリウム
《ネタバレ》 そこは一度迷い込むと二度と出てこれない新興住宅地――。トマとジェムは、結婚を間近に控えた若いカップル。まだ収入も安定していないし子供も居ないが、それでもこれから幸せいっぱいの生活が待っているはずだった。将来を見越し、新居を購入しようと彼らは街の不動産屋へと足を運ぶことに。対応してくれた何処か風変わりな営業マンの案内で彼らは郊外の新興住宅地「ヨンダー」へとやってくる。そこは、同じような緑の家が何処までも立ち並ぶ生活感の一切感じられない謎めいた町だった。無事に内見を終え、すぐに帰ろうとするトマとジェムだったが、いつの間にか営業マンの姿が消えていた。不審に思いながらも自らの車で帰途に就いた二人。だが、いつまで経っても元の街並みへと抜け出すことが出来ず、気付いたら紹介された9番地の家へと舞い戻っていた。戸惑いながらもその9番地の家で夜を明かした二人に、更なる異常事態が襲う。なんと家の前に置かれた段ボールに、誰の子か分からない男の赤ん坊がいれられていたのだ。しかもそこには「無事にこの子を育て上げたら開放する」との謎のメッセージが。果たしてここは何処なのか?突然の不条理な事態に二人の精神は次第に崩壊してゆく……。カッコウが他の鳥の巣に自らの卵を産み育てさせるといういわゆる托卵という習性をモチーフに、突然異常な状況へと陥った若いカップルを描いたシュルレアリスム劇。そんな期待せずに今回鑑賞してみたのですが、いやいや、これがなかなかエッジの効いた演出の力が光る不条理劇の逸品に仕上がっておりました。とにかく映像のセンスが抜群に良い!どこまでも続く生活感を微塵も感じさせない緑色の住宅、マグリッドの絵を髣髴とさせる作り物感が半端ない雲、まったく美味しそうに見えない食事…。どれもが不気味で生理的嫌悪感がいい意味で凄いです。特に、二人が育てることになる男の子。言っちゃ悪いですけど、よくここまで可愛くない子供を見つけてきたもんですね。この子がずっと自分たちの物まねをしたり、思い通りにいかないことがあると金切り声をあげたり、意味の分からないテレビの映像に延々と見入っていたりともはや殺意を覚えるくらい可愛くない(笑)。極めつけは、途中でカエルやある種の鳥のように喉を膨らませて雄叫びをあげるシーン。こんなに気持ち悪い映像、久しぶりに見ましたわ。肝心の内容は典型的ないわゆる不条理劇なんですけど、そこに何処か乾いたユーモアがあるところはカフカよりも安部公房に近いのかな。後半、物語はまさにこの訳の分からなさをどんどんと加速させ、徐々に崩壊してゆきます。文字通りぐちゃぐちゃに空間が捻じれてしまった家の中での主人公と子供の追いかけっこなんてセンス抜群!いやー、面白かったですね、これ。まあ悪趣味全開ですけど(笑)。今から将来が楽しみな新たな才能に出会えたような気がします。 [DVD(字幕)] 8点(2021-08-21 01:31:14) |
288. カポネ
《ネタバレ》 暗黒街の顔役として史上最も恐れられたギャングスター、アル・カポネ。だが、その晩年は長かった刑務所生活と梅毒による記憶障害、そして肉体的な衰えとで非常に寂しいものだった。本作は、そんな彼の知られざる最晩年を描いたもの。かつて残虐非道なギャングたちのボスとして恐れらたもの、今や下の世話も自分でできずおしめが手放せなくなるほど衰えた彼を演じるのは、人気俳優トム・ハーディ。という訳で今回鑑賞してみたのですが、正直微妙な出来でしたね、これ。ストーリーなんてほとんどあってなきが如し、ただひたすらボケ老人の妄想に付き合わされただけの二時間弱でした。こういうのって普通、全盛期のかっこいい主人公の姿を回想シーンで描くなりすれば、より衰えた現在の悲哀が浮き彫りになるものだけど、予算の都合か本作はずっと落ちぶれてしまった主人公の今を描くのみ。それもことあるごとに漏らしちゃったり、妄想から暴言を吐きまくったりでまったくもって不愉快というしかありません。クライマックスで主人公がいきなりマシンガンをぶっ放すのもやはり妄想で、「結局だからなんやねん!」と思わず突っ込んじゃいましたわ。ありきたりの伝記映画にはしたくなかったのか知れませんが、どうにも退屈と言わざるを得ない内容でありました。悪夢のような妄想シーンに若干センスを感じたのと、トム・ハーディの熱演に+1点。 [DVD(字幕)] 5点(2021-08-16 23:38:05) |
289. 博士と狂人
《ネタバレ》 制作に約70年もの月日を費やして完成された世界最高峰とも呼ばれる辞書「オックスフォード英語辞典」。その完成の裏には、博士号を持たない異端の言語学者と精神を病んでしまい妄想から人を殺めてしまったアメリカの元軍医という二人の存在があった。実話を基に、世界最大の辞書を編纂したそんな二人の天才の友情と交流を描いた歴史ドラマ。ベテラン俳優ショーン・ペンとメル・ギブソンがそんな博士と狂人を演じたということで今回鑑賞してみました。率直に言って、題材は凄く良かったとは思うんですよ、これ。世界でも有名な辞書完成の裏に隠された秘話、しかもそこには統合失調症を患った精神病患者の尽力があったなんてとても興味が惹かれるテーマじゃないですか。なのに、最後まで付き纏うこの微妙な空気感。きっと話を詰め込み過ぎたんじゃないですかね。いろんなエピソードが展開されるんですけど、どれもこれも踏み込みが非常に甘い。特に、狂人博士の方に殺された男の奥さん。この人が最初は当然、この夫を殺しながら病のせいで罪に問われず精神病院への処置入院で済んだ男へと物凄い憎悪を募らせるんです。でも、お金を貰って何度か優しくされると簡単に許しちゃう。いやいやそんな訳ないでしょ。もし事実がそうだとしても、そこに至る過程にもっと鋭く切り込んでもらわないと。これでは深みに欠けると言わざるを得ません。また、同じようにこの狂人とはぐれ者の言語学者との交流も一面的でなんとも浅い。題材は良かっただけに、もう少し脚本を練って欲しかった。イカれた孤高の天才を熱演したショーン・ペンの迫力に+1点! [DVD(字幕)] 5点(2021-08-09 06:00:44) |
290. ザ・ビースト(2019)
《ネタバレ》 彼の名は、フランク。世界を股にかけて希少動物や人気動物を捕えては動物園などに売り飛ばす猛獣ハンターだ。今回ブラジルの熱帯雨林へと赴いた彼は、思いがけない大物を捕えることに成功する。それは全身キレイな白い毛で覆われたホワイトジャガー。アメリカ本国へと持ち帰ってその筋のルートへと売り飛ばせば莫大な金が手に入るのは明らかだった。頑強な檻に閉じ込めたジャガーとともに意気揚々と巨大タンカーへと乗り込んだフランクだったが、そこで予想だにしない事態に見舞われるのだった――。精神に異常をきたした元米軍特殊部隊員で冷酷な殺人鬼であるラフラーをアメリカへと護送するために、連邦捜査官たちが乗り込んできたのだ。嫌な予感を感じながらもタンカーで大海原へと乗り出すフランク。彼のそんな懸念は見事的中し、ラフラーは見張りの隙を突いて易々と船内へと逃げ出すのだった。恐ろしいことにラフラーは、船内の檻に閉じ込められていた獰猛な猛獣たちまで開放してしまう。当然そこには狂暴なホワイトジャガーも含まれていた……。果たして彼らの運命は?巨大タンカーの密閉された船内で、逃げ出した凶悪犯のみならず猛獣たちにまで追い詰められる船員や捜査官、そして荒くれ者の猛獣ハンターたちのサバイバルを描いたパニック・アクション。毎度おなじみニコラス・ケイジ主演で送る、いかにもB級なそんな本作、あまり期待せずに今回鑑賞してみました。まあいつものニコラス・ケイジ印の低予算・低クオリティの内容でしたね、これ。とにかく演出のキレが悪い!逃げ出したレクター博士もどきのサイコな殺人犯とホワイトジャガーをはじめとする猛獣たちにダブルで襲われるというのが本作の売りなんでしょうけど、どちらもまあショボい。出っ歯の殺人犯なんてとても元凄腕の特殊部隊員に見えず小者感が半端ないし、ホワイトジャガーのCGも今どきびっくりするくらいの低クオリティ。こいつらが同時に襲って来たってスリルが倍増するどころか逆に相乗効果でよりショボくなっちゃってます。なので、最後まで全く盛り上がらないままダラダラと終わっちゃいました。ま、いつものニコケイブランドの映画って感じです。 [DVD(字幕)] 4点(2021-08-09 05:39:15) |
291. ソニック・ザ・ムービー
《ネタバレ》 超高速ハリネズミ、ソニックの大冒険をCG満載で描いたアクション・アドベンチャー。基になったゲームは全くやったことはないんですけど、ジム・キャリーが出ているということで今回鑑賞してみました。まあこんなもんじゃろという感じの内容でしたね、これ。可もなく不可もなくの安定の定番エンタメ。面白いっちゃ面白いけど、心に残るものはあんまないです。ただ、主人公のソニックが猛スピードで大都会を駆け巡るシーンは爽快感抜群で、それを観るだけでも充分楽しめます。ま、ストーリーに関してはこの際どうでもいいんじゃないでしょーか。 [DVD(字幕)] 6点(2021-08-03 00:00:21) |
292. ゆれる
《ネタバレ》 新進気鋭の若手カメラマンとして東京で充実した日々を送る早川猛。彼の兄で、田舎で父が経営するガソリンスタンドを継いだ早川稔。才能に溢れ都会で洗練された生活を過ごし女にもモテる弟と、田舎で地味な生活を送り真面目で大人しく女にも縁がない兄。そんな対照的な早川兄弟は、ある日、実家で行われた法事で久しぶりの再会を果たす。子供のころからずっと仲の良かった二人は、長い月日など感じさせないほど自然に話せるようになるのだった。だが、そんな二人の関係は、ガソリンスタンドで働く幼馴染の女性川端智恵子を巡り、揺れ始める。易々と彼女の好意を手に入れる弟と、彼女に恋心を抱きながらもただ見つめることしか出来ない兄。危うい関係で繋がった三人は、かつての思い出の地である山の中の渓流へと出かけることに。そして、そこで事件が起きてしまう――。古いつり橋の上から智恵子が転落し呆気なく亡くなってしまったのだ。しかも、その場には兄の稔がいた。当初はバランスを崩した彼女が一人で転落した事故として扱われていたが、その後驚きの展開を見せるのだった。なんと兄の稔が自ら突き落としたと自白し、そのまま殺人容疑で逮捕されたのだ。果たしてそのつり橋の上で何があったのか?やがて始まった裁判で、仲の良かったはずの兄弟が抱えていた闇が明らかとなる……。一人の女性を巡り、徐々に崩れてゆくそんな兄と弟を終始淡々と見つめた法廷劇。この監督の映画は今回初めて観ましたが、これがなかなか見応えのあるヒューマン・ドラマの良品でありました。とにかく、この監督の心理描写のきめ細やかさには舌を巻く。価値観の全く違う対照的な兄弟のそれぞれの思いが次第にすれ違ってゆく過程などなんとも繊細で、この二人の揺れ動く微妙な関係性に最後まで目が離せませんでした。特に殺人容疑で捕まる兄の人物造形は非常にリアル。監督は女性ということですが、こんなにもモテない男の心理が分かるなんて凄いですね。ほんのちょい役の登場人物までちゃんと血の通った人間として感じさせるところなどもホント巧い。そして「ゆれる」というシンプルで印象的なタイトルが示す通り、彼らは皆、最後までずっと揺れ動く。あの時ああしていれば、この時こうしとけば…。きっと何処にも正解などないのだろうけれど、人間は誰しもその時々の決断によって人生が決まってしまう。その現実の切なさに翻弄される二人の兄弟には、観ていて心揺さぶられずにはいられない。二人を熱演したオダギリジョーも香川照之も非常に嵌まり役で素晴らしかった。三島由紀夫賞の候補にもなった、監督自身による原作本も今回購入済みなのでまた楽しみに読もうと思います。 [DVD(邦画)] 8点(2021-07-31 03:00:24) |
293. 散歩する侵略者
《ネタバレ》 それはある日突然、日常生活へと紛れ込んできた――。これから地球へと侵略を開始しようという宇宙人が現地を調査するために行動を開始したのだ。地球を支配する人類がいったい何を考えどのような生活を送っているのか、その概念を知るために日本へと遣わされた三人の宇宙人は、それぞれ選んだ人間の意識を乗っ取ることに成功する。どこにでも居るような平凡なサラリーマン、高校生の男女、彼らの身体を使い、宇宙人は人類が使う言葉とその概念を奪うために街へと繰り出す。恐ろしいことにその概念を奪われた人々は、それらの言葉や概念を理解できなくなってしまうのだった。「家族」「所有」「仕事」……。様々な言葉とその概念を奪われ、次々とおかしくなる人たち。社会が少しずつ混乱へと陥ってゆく中、宇宙人にガイドとして指名されたイラストレーターの妻や社会派ジャーナリストはそれぞれに行動を開始するが……。静かに行動を起こした宇宙人によって徐々に侵略されゆく人類をユーモラスに描いたSFドラマ。数々の賞に輝く監督の代表作と言うことで今回鑑賞してみたのですが、正直自分には何がいいのかさっぱり分かりませんでした。なんかそもそもの設定に無理があるような気がするんですけど、これ。だって言葉とその概念を知るために調査を開始したのなら、普通に考えて最初は会話も出来ないんじゃないでしょうか。例えば映画の最初の方で、宇宙人の一人である松田龍平が妻に「敬語は止めて」と言われるシーン。普通に「分かった。敬語は止める」って答えてましたけど、え、敬語の概念は知ってたってこと?それなのに家族や自分という言葉の概念は知らない。この違いの基準は何なのでしょう。それにSFなのに画が大変地味なのもいただけない。概念を奪うときの画も、指を頭にかざすだけってショボすぎじゃないですか。せめてここはCGでも使って、指が伸びて脳の中に入り込むような刺激的な映像が欲しかったところ。映画としてようやく盛り上がってきたクライマックスもなんかいまいちセンスを感じませんでした。あのジャーナリストが戦闘機に空爆されるシーンなんて、ほぼコントで正直寒かったですし。挙句最後の、「人類の愛の偉大さに気づいた宇宙人」というオチにいたっては思わず失笑しちゃいましたわ。この監督の映画は初めて観ましたが、という訳で自分には全く合いませんでした。 [DVD(字幕)] 4点(2021-07-27 02:03:16) |
294. CURED キュアード
《ネタバレ》 人間を狂暴化させる新型ウィルスが爆発的に蔓延し、大混乱へと陥ってしまったヨーロッパ。感染した者たちは見境なく人々を襲い、そしてその肉を喰らうという常軌を逸した行動へと走るようになるのだった。自らの親や子供、友人たちを容赦なく襲う感染者たち。世の中がそんな地獄絵図へと化す中、ここ、アイルランドも例外ではなく、社会は壊滅的な打撃を受けてしまう――。だが、人々はその後、治療法を開発し、感染者の七割以上が無事に回復するまでになっていた。残りの回復しない感染者をどうするのかという問題に直面するなか、回復した元感染者たちの社会復帰が開始される。ここでもう一つの問題が浮き彫りとなる。回復した元感染者たちは皆、狂暴化していたときの記憶を何一つ失ってはいなかったのだ。無事に日常生活へと戻ってきた元感染者であるセナンもまた、狂暴化していた時期の自らの記憶により、心に深い傷を負っていて……。パンデミック後の混乱した社会に生きる人々の苦悩を、とある一人の男の姿を通して描いたサバイバル・スリラー。という内容を聞いて、もっとエンタメ寄りの作品だと思って今回鑑賞してみたのですが、意外にもこれって社会派寄りのシリアスなドラマだったのですね。だとしたら、いまいち深みが足らないように僕は感じてしまいました。貧富の格差や移民問題、それによって拡がる社会の分断のメタファーとしてゾンビを扱うというアイデア自体は悪くないんです。異物を排除しようとする社会的多数派と暴力によって自らの主張を認めさせようとする社会的マイノリティ、そしていつまで経っても反社会性を失わない者どもを密かに抹殺しようという権力の暴走……。911から続くそんな深刻な社会状況をゾンビという分かりやすい要素で捉えようというのは非常に興味深い試みだったとは思うんですよ。更生したテロリストたちの社会復帰という問題もメタファーとしてよく効いている。ただ残念ながら彼らの思想的対立がいつまで経っても深まっていかず、ただ淡々と物語が進んでゆくので僕は正直中盤から退屈に感じてしまいました。エンタメ映画として観るには圧倒的に娯楽性に欠けるし、社会派映画として観るにはいかんせん深みに欠けるという、なんとも中途半端な作品でございました。 [DVD(字幕)] 5点(2021-07-23 05:06:49) |
295. ソング・トゥ・ソング
《ネタバレ》 アメリカの音楽業界に生きる4人の男女のそれぞれの愛の形を美しい映像の中に描き出すヒューマン・ドラマ。監督は、唯一無二の作風でハリウッドでも独自の地位を築き上げた、テレンス・マリック師匠。正直、僕はこの人の芸術と退屈の狭間をゆく「分かる人にだけ分かってもらえればいいんだよ」とでも言わんばかりの唯我独尊的作風が大嫌いで、毎回観るたびに「もうこいつの映画は二度と観まい!」と決意するんですけど、悔しいことに出演俳優だけはむちゃくちゃ豪華なんですよね。本作も、マイケル・ファスベンダーやライアン・ゴズリング、ルーニー・マーラやナタリー・ポートマン、さらにはケイト・ブランシェットやヴァル・キルマー、果ては昔懐かしのイギー・ポップまで出てるんですから、もうそりゃ観ないわけにはいかないですわ、悔しいですけど。それにこんな新旧実力派が揃えば新たな化学反応でも起きて、もしかしたら面白くなってるかも知れないですし。んで、結果は……、うん、いつものテレンス・マリック節でした(笑)。随所に挿入される意味があるのかないのかさっぱり分からない観念的で独り善がりなモノローグ、ただキレイでお洒落ってだけで全く心に残らない映像、ストーリーなんてあってなきが如しひたすら雰囲気ごり押しで最後までダラダラ続く退屈極まりない脚本…、これらの合わせ技が波状攻撃となり、観客の睡眠中枢へと容赦なく襲い掛かってきます。いやー、これを最後まで眠くならずに観れる人って凄いです。「もうこいつの映画は二度と観まい!」と今度こそ誓う僕なのですが、これでまた豪華なキャストが揃ってたらまた観ちゃうんだろうな……。ホントもう勘弁してください(笑)。 [DVD(字幕)] 3点(2021-07-20 02:00:50)(良:1票) |
296. ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を
《ネタバレ》 定年を迎えた初老の鉄道員がある日、電車の車体に引っ掛かっていたあるものを拾う。それはなんと、青いブラジャー。持ち主である素敵な女性はきっと今頃、困っているに違いない。なんとか返してやろうと思い立った彼は、小さな町の中で持ち主探しを開始する。欲求不満気味のマダムや茶目っ気たっぷりの素敵なお嬢さん、色んな人たちに聞いて回ってみるものの、いつまで経ってもその女性は見つからない。果たして彼はその青いブラジャーをちゃんと持ち主に返してあげることは出来るのか?小さな町の中で繰り広げられる、平凡なおじさんのそんなささやか冒険を全編セリフなしで描いたほのぼの系コメディ。まあやりたいことは分かるんですけど、僕はイマイチ嵌まらなかったですね、これ。90分あるこの映画で全編セリフなしにしちゃったのはやはり失敗だったんじゃないでしょうか。アニメとかなら観ていられるんでしょうけど、実写でましておっさんが主人公でこの手法はちょっとキツい。最初はこの『アメリ』っぽい独特の世界観に浸っていたんですけど、僕は途中から飽きてきて何度か寝落ちしそうになりましたわ。それに、こういうちょっぴりお下品な内容のコメディって、主人公が如何に気持ち悪くなるぎりぎり手前のラインで踏みとどまれるかがポイントとなると思うんですけど、本作の主人公はそのラインをぎりぎり越えちゃってるような。だって拾ったブラジャー片手に女性宅をひたすら廻るおじさんってやぱ気持ち悪いって(笑)。全体に漂うほのぼのした雰囲気とキレイな映像に+1点! [DVD(字幕)] 5点(2021-07-05 22:36:31) |
297. カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇
《ネタバレ》 都会の喧騒を逃れ、アメリカ郊外の田舎町へと越してきたガードナー家。納屋で飼っているアルパカが生きがいの父ネイサンに、神経質な母親やオカルトに嵌まっている長女、そして二人の息子たち。彼らは皆、それなりに幸せな日々を過ごしていた。だが、そんな家族の平凡な日常はある夜を境に一変する。紫の光を放つ謎の隕石が、自宅の裏庭へと墜ちてきたのだ。強烈な悪臭を放ち、禍々しい光を発するその隕石は恐らく宇宙の彼方からやって来たに違いなかった。当初はテレビの取材を受けたり、町の噂の的になり浮かれていたガードナー家だったが、やがて不可解な出来事が周りで多発するようになる。突然変異した紫色のカマキリ、無意識のうちに自らの指を切り落としてしまう母親、突如狂暴になるアルパカたち……。果たしてその隕石の正体とは?クトゥルフ神話で有名なアメリカの恐怖小説の巨人、H・P・ラブクラフトの小説をニコラス・ケイジ主演で映画化したというSFモダン・ホラー。この映画、率直に言って全く中身がありません。ストーリーなんてあってなきが如し、ただひたすらグロテスクなホラー描写満載で、ある一家族が徐々におかしくなっていくのが延々と続くだけ。その潔いまでの中身のなさは、観ていて逆に清々しく感じるくらいでした(笑)。その分、グロ描写にはけっこう気合が入ってます。ニンジンをとんとんと切っていた包丁でそのまま指を切り落としちゃうママに始まり、徐々に腕の皮膚がただれてきちゃうお父さん、全身の皮がめくれちゃったアルパカなどどれも生理に直接訴えてくるような嫌なものばかり。特に後半、幼い息子と同化しちゃうママなんて夢に出てきそうなほどエグかったです。もはやお家芸とも言える、ニコラス・ケイジのとち狂った演技もナイスな仕事ぶり。モンスターと化した自分の妻とキスしたときに、ニコケイの唇に糸引いてたシーンはさすがの僕でも「ひえぇぇ」と声が出ちゃいましたわ。うん、そういうものだと割り切っちゃえば、このやり過ぎなぐらいのグロ描写はなかなか良いんじゃないでしょうか。それに古き良きSFを髣髴とさせる紫色のエフェクトも個人的にツボでした。という訳で、僕はぼちぼち楽しめましたです、はい。まぁ完全なるB級ですけどね。あと全体的に長いかな。前半のかったるい部分を削って、もう少し短くしても良かったかもしれない。 [DVD(字幕)] 7点(2021-07-05 22:07:01)(良:1票) |
298. マー/サイコパスの狂気の地下室
《ネタバレ》 女手一つで自分を育ててくれた母親とともにとある地方都市へと越してきた女子高生、マギー。持ち前の明るい性格からすぐに友達もでき、転校から数日後にはクラスのイケてるグループからパーティへと誘われるまでになっていた。そんなある日、彼女は友達と飲む酒を手に入れるために町の酒屋の前で代わりに買ってくれる大人を探してたところ、とある年配の女性と知り合う。スー・アンと名乗るその黒人女性は、それどころか自宅の地下室を自由に使ってもいいと提案してくれるのだった。面倒臭い大人たちの目を避けるために、戸惑いながらもスー・アンの自宅へとやって来たマギーたち。広い地下室で自由に酒を飲み、今という時間を楽しむ彼女たちにスー・アンはこれからいつでもこの地下室を好きに使っていいとまで言ってくれるのだった。夢のようなそんな言葉を素直に受け入れ、友達も呼んで夜な夜なパーティーに浮かれるマギーたち。だが、マギーは知らなかった。彼女が、過去の辛い出来事を機に心を病んでしまったサイコパスであることを――。今どきのティーンエイジャーが、偶然知り合ったサイコパスな女によって恐怖のどん底へと叩き落とされる姿を描いたサイコ・サスペンス。実力派女優オクタヴィア・スペンサーが、そんな心を病んでしまった中年女性を演じているということで今回鑑賞してみました。率直に言って題材は良かったと思うんですよ、これ。何気に豪華な役者陣も、このありがちなストーリーに説得力を持たせることに貢献している。問題は、監督の演出力。雑と言うか稚拙と言うか、映画として面白くなりそうなポイントをことごとく外しているんです。頭空っぽな今どきティーンエイジャーの主人公たちが、最初は親切だと思っていた黒人のおばちゃんに地下室に閉じ込められて……なんて、エンタメホラーとして普通に面白くなりそうなのに、これがちっともそうならない。この監督って、これまでホラー映画というものを観たことがないんじゃないかって疑っちゃうくらいでした。物語の重要なポイントとなる、このサイコパス女性の過去を描く回想シーンの挿入の仕方も恐ろしく稚拙。彼女の足の悪い娘の存在なんて、居る意味あったのかってくらいでした。クライマックスでようやく、このサイコパスな女の暴走が始まるわけですが、これも見せ方があまりにテキトーでさっぱり怖くない。題材はシンプルで良かっただけに、もっとホラー映画を分かった監督に演出して欲しかったですね。 [DVD(字幕)] 4点(2021-07-02 18:00:35) |
299. 野性の呼び声
《ネタバレ》 ゴールドラッシュに沸く19世紀アメリカを舞台に、一人息子を亡くし失意の中に生きていた老人と悪徳業者にさらわれ流転の身となってなってしまった大型犬との友情を描いた冒険ドラマ。主演を務めるのは、大御所俳優ハリソン・フォード。まず特筆すべきなのは、やはり主役となる大型犬を最新のCG技術を駆使して生き生きと描いているところでしょう。鼻の濡れた感じだとか微妙に汚れた毛並みなどもはや本物としか思えません。犬が水から上がってきたときの全身の毛の濡れた質感なんてあまりにもリアル。そんな犬たちが雄大な大自然を背景に躍動的に駆けまわる姿は癒し効果抜群でした。ただ、それに対してお話の方は正直微妙。飼い犬としてのほほんと生きていた主人公バックが突然、弱肉強食の大自然の中に放り出され、様々な出会いと経験を経るうちに逞しく成長してゆくというが本作のおおまかなストーリー。率直に言ってこれがさっぱり面白くない。主人公のバックが大した苦労もないままに困難を易々と乗り越えてゆくものだから、最後まで説得力というものが皆無なのです。それに、郵便物を運ぶためにそり犬となって雪山を駆け抜ける前半部分と老人とともに金脈を求めて山の中へと分け入ってゆく後半部分が全く繋がっておらず、一編の物語としては散漫というしかありません。映像技術的は文句なしに素晴らしかっただけに、もっと脚本を練って欲しかったですね。 [DVD(字幕)] 5点(2021-06-26 02:19:33) |
300. ラビング・パブロ
《ネタバレ》 1980年代、世界最大規模の麻薬密売組織「メデジン・カルテル」を一代にして築き上げた、コロンビアの伝説の麻薬王パブロ・エスコバル。一時は世界に流通するコカインのほぼ8割を牛耳り、自らに歯向かうものや裏切り者を容赦なく血祭りにあげ、さらには政府に対して公然と反旗を翻した、衝撃的な彼の生涯を彼の愛人であったニュースキャスターの目線から描いた犯罪ドラマ。そんな実在した麻薬王を貫禄たっぷりに演じるのは名優ハビエル・バルデムで、語り部となる彼の愛人を演じるのは人気女優ペネロペ・クルス。実生活でも夫婦であるこの二人の豪華共演ということで今回鑑賞してみました。監督は、前作『ロープ/戦場の生命線』でリアルで乾いた戦場描写の中にときおり人生のやるせなさをほろ苦いユーモアを交えて描き、鮮烈な印象を残してくれたフェルナンド・レオン・デ・アラノア。観終わった直後の率直な感想を述べさせてもらうと、いやー、とにかく衝撃的な内容でございました。このパブロ・エスコバルという人、もう無茶苦茶です。敵対する人間を容赦なく殺しまくり、その生涯で殺害に関わったのはなんと少なくとも300人!麻薬で荒稼ぎしたその金でスラム街に貧しい人々のための住宅を建設し、その功績を最大限活かしてなんと政治家にまでなってしまうのです。当然、それはアメリカや政府の反発を招き、翌年に失脚させられてしまうと今度は私設軍隊を使って公然と政府に宣戦布告。これを機に、コロンビアは実質的な内戦状態に突入。アメリカの介入や敵対組織の攻勢により追い詰められると、自ら投降。でも、彼はその圧倒的な財力を活かし、今度は自らの力で刑務所を建設します。でもそこは刑務所とは名ばかりの豪華な家具家電付きのほぼ別荘。酒や女をはべらかし、夜毎どんちゃん騒ぎ&乱交パーティー。あまつさえ彼はそこで裏切った仲間を二人、生きたままチェーンソーで切り刻むという冷酷非道ぶり。さすがに世論の反発を抑えられなくなった政府はエスコバルを普通の刑務所へと移送しようとするものの、彼はその足で悠々と脱獄……。さすがにこんな無茶苦茶な事実があるわけないと、映画を観終わって僕はすぐさまウィキペディアで調べてみたんですが、……なんとほぼ全て事実でした(笑)。そんな彼の波乱万丈の生涯を過不足なく二時間の映画に纏め上げたこの監督の手腕は素晴らしいと思います。とにかく最後まで緊張感が途切れず、クライマックスなんて思わず食い入るように見入っちゃってました。見た目こそ温厚そうなメタボおやじながら、冷酷無比なケダモノの心を持つ麻薬王を鬼気迫るように演じたバルデムも良かったですが、彼の愛人である金とひかりものに目がない性悪女を見事に演じたペネロペ・クルスもまさに嵌まり役でした。偉業を成し遂げた世界の偉人の立身出世物語を真逆にひっくり返したような逆偉人伝、成功するためにはやはり持って生まれたカリスマ性と類稀なる行動力が必要だということを改めて教えてくれました。まあ良くも悪くもですけど(笑)。 [DVD(字幕)] 9点(2021-06-25 04:01:29) |