341. 風の谷のナウシカ
名作の誉れ高い本作、既に語りつくされた感があり、いまさらレビューもないだろうという感じですが、これほど有名な作品なのに、実はアタマから最後までキッチリ見たのはこれが初めてなのです。感想としては『もののけ姫』と同じだな、ってとこですが、本作が先に世に出ているわけですから、この感想は一般的には逆ですね。両作品に共通して感じたのは、「自然=善」「文明・産業・科学=悪」という安直な対立軸を描くのに、その善代表が年若いヒロイン、悪代表が年増の女大将(しかも不具者もしくは不具者になる)、としているところです。同じようなコンセプトの映画を2本も作るなら、この対立軸の代表を逆転させてみたらどうでしょう? 悪代表が、一見、純真そうな年若い女の子であっても良いでしょう? どうも、宮崎氏は子ども(しかも少女)に歪んだ幻想を抱いているとしか思えません。また、大人の女性にはよほど痛い目に遭ったトラウマでもあるのでしょうか。今から20年前の公開時に、この映画がアニメとして評判になったのは、ある意味納得です。しかし、内容的には先見性があったと言えましょうが、その描き方は極めて偏狭で固定された視点に立ったものであり、ある意味古典的でさえあります。なので、私は、『もののけ姫』にしろ、本作にしろ、作者の抱えるダブルスタンダード、もっと言っちゃえば(おんな子ども差別を内蔵した)噴飯ものの自然崇拝&平和主義に、辟易とするのです。そして、そこに宮崎氏の自覚が恐らくないであろうことが窺えるのが、さらに嫌悪感を呼ぶのです。 [地上波(邦画)] 4点(2008-06-09 15:50:17)(良:3票) |
342. パンズ・ラビリンス
《ネタバレ》 好きです、こういうの。結構エグいシーンも多く、そういうのがちょっと苦手な私は、思わず目を閉じたり顔を背けたりしてしまったりもしたんですが、恐ろしさ、希望、優しさ、残酷さなどが渾然一体となって、独特の混沌とした雰囲気が全体を覆っています。まだ幼いオフェリアにとっては、内戦という世情の厳しさよりも、もっと狭い、自分の過酷な境遇(それは大人の勝手な理屈によって追いやられたもの)から逃れるべく、ユートピアの王女を夢見る様には胸が痛みます。オフェリアの母のような、精神的にも物理的にも自立していない母親像というのが、とにかく、私は大嫌いなのですが、そんな嫌悪感をかき消してくれたのがメルセデスの存在。彼女だけが、最後まで、オフェリアを親身になって守ってくれたのだから。ラストは、この辛過ぎる現実世界での死によって、オフェリアが永遠の安らぎを得たという意味で、ハッピーエンドなのでしょう。少なくとも、私はそう理解しました。だからこそ、見終わった後、とても切なくなるのです。 [DVD(字幕)] 8点(2008-06-06 14:46:06) |
343. 県庁の星
原作未読。この程度の映画に、こんなことに目くじらを立てるのも大人気ないと思うのだが、敢えて書いてしまいたい。食品卸業界の内情を知る者として、現在、このような在庫管理を、あの規模のスーパーにさせている卸は「ない」と断言できる。そもそも、(特に中堅以上規模の)小売というのは、消費者には平身低頭、卸・メーカーには尊大で、損の押し付けを当然のごとくしてくるのがこの世界ではジョーシキ。なので、在庫管理を卸にさせている、といっては聞こえが悪いが、卸の方がむしろ積極的に在庫管理から棚への陳列方法に至るまで提案しているのが現状。こんなスーパーを取引先に抱えてしまっては、卸にとっては自殺行為、なのである。というわけで、この映画のお話の設定は何時代なわけ? と言いたいのだが、見たところ、少なくとも2000年以降の日本のようなので、この段階で、このオハナシは決定的なリサーチ不足ということになり、見る人が見れば大前提が誤った「大シラケ話」なんだよね。フィクションってのは、当たり前だけど、デタラメと同義じゃぁないんだよ。大きなウソはアリだけれども、大きな間違いはダメである。大きなウソとは、ゾンビとかタイムマシンとかである。大きな間違いというのは、ちょっとその道の知識のある人間(決して専門家とまでは言わない)が見れば「あり得ない」ことである。調査・取材すれば明らかに「オカシイ」と分かることを、製作側が手間と努力を怠り「オカシイ」と分からないまま垂れ流していることである。大半の観衆は騙せても、騙しきれない人も必ずいるわけで、そういう存在を恐れない製作者というのは、私は製作者としてサイテーだと思うし、恥を知れ、と言いたい気分。まあ、別にこの作品に対しては、そこまで言う気すら起きないけどね。だって、ほかの部分も志の低さが露呈しているもの。だいたい、「野村、お前、最近変わったな」などとセリフで言っちまってどーする? ソレがこの映画のキモでしょーが。しかも、織田と柴咲の描き方はあまりにも類型的で展開が丸見え。おまけにダラダラ長い。でも、なんと言っても一番アホらしいのは、アホらしいと言いながら時間を割いて見てしまったこの私。 [地上波(邦画)] 2点(2008-06-02 16:42:02)(良:3票) |
344. 自虐の詩
《ネタバレ》 原作未読。阿部ちゃん、ほとんど喋らない。「西日が貧乏臭い、あー、ビンボクサ!」は笑えた。・・・が、この映画、物凄く薄っぺらい中身のない映画です。幸江が幸薄い女性なのはよく分かりました。イサオがヤクザ上がりのダメンズなのもよく分かりました。でもさ、そのイサオが、幸江の妊娠→流産危機で一気に改心! でハッピーエンドって、あんまりじゃない? そんなんで、ダメダメ男が改心してくれるなら、世の女性はみんな苦労しませんて。こういう、「妊娠」(にまつわる出来事)を話の解決手段に使うの、大ッ嫌いです。ハッキリ言わせてもらうけど、子どもが生まれた後の方が現実問題、物凄く大変なんだってば。子育て、お金かかるよー。親がヤクザ&風俗上がり、何故かバレて、後ろ指さされるよー。世間はそんなに寛容じゃないし、甘くない。それでもイサオが真っ当でいられるか? 怪しいねえ。所詮映画の上でのハッピーエンドなんだからいいじゃないの、と言う方々も多いでしょうが、私はやっぱり「妊娠」や「出産」にその光明を見出そうとする発想の貧困さと安易さを、敢えて批難しておきたい。他にも多々思うところはあるが、一番ツッコミ入れたかった点はここなので、これくらいにしておこう。 [DVD(邦画)] 3点(2008-05-28 14:18:33)(良:2票) |
345. ダーウィンの悪夢
この映画の批判サイトをいくつか見ました。「これはタンザニアという国を正確に伝えていない」「湖周辺に雇用を生み出したことは確かで、利点に一切触れていない」etc・・・。そりゃそうでしょう、これがタンザニアの全てだとは思いません。が、一側面であることも、確かでしょう。「スズキ」だと思って、あるいは「何かの白身魚」だと思って、恐らく自分も「ナイルパーチ」を胃袋に入れてたんだろうなー、と思うと、いささかショック。それにしても、タンザニアを含めアフリカは全般に「貧困」を根底にした問題を抱えている国が多いのだが、それがこの映画も含め、「ヨーロッパはじめ先進諸国に搾取され、わずかなおこぼれに喘ぐアフリカ諸国」という構図で語られがちだ。それは一事実なのだろうが、この慢性的な貧困は、先進諸国がハイエナのごとくタカった挙句の姿で「もう手のつけようがない」ものなのだろうか。・・・というようなことを、この映画を見ながらぼんやり考えた。それを真剣に考えるには、私はあまりにタンザニアに限らずアフリカに対し無知である、と気付いて、これから少しアフリカについて自分なりに学んでみようと思った。きっかけを与えてくれたという意味で、この映画を見た意味は大きかったのかも。 [DVD(字幕)] 6点(2008-05-22 14:23:26) |
346. 不都合な真実
これって、ゴア氏のプロモーションムービーか? と思いたくなる内容。温暖化について、もっともらしくゴア氏がレクチャーしているけれど、内容といえば、すでに聞いたことのあるものばかりで、新発見情報はナシ。このレクチャーがまた、恐ろしく退屈。データは説得性の裏づけになっているのだろうが、中には、グラフの軸に数値の入っていないイメージものもあったり・・・。途中から、なんというか、「オレの方がプレジデントにふさわしかったのにぃ」という怨念ムービーに見えてきた。身内の不幸話を織り交ぜたりする必要があるわけ? 環境問題を啓蒙したい気持ちも分かるし、このムービー自体に価値はあると思うのだけれど、なんかね、ある種「押し付けがましさ」とか「偽善」といった単語が脳裏をちらつくのだよね。これで、ノーベル賞なんだから、ゴア氏の目論見は想像以上の成果を上げた、なーんて思うのは、あまりに歪んでるかしら。 [DVD(字幕)] 3点(2008-05-19 15:35:24) |
347. シッコ
一応ドキュメンタリー映画なので、「ウソ」はないと思いますが、問題の「真相」をえぐっているかどうかは、ちょっとギモンです。確かに、アメリカの保険制度に大いなる問題があるのは分かりました。でも、外国の無償医療をただただ絶賛してしまっていいの? 無償医療が成立している背景は? 制度は? 問題点は?・・・などなど、取りこぼしが多過ぎて、ちょっと「告発映画」としてはキモが抜けている感じです。ただ、ちょうど日本でも「後期高齢者医療制度」が問題となっている時期でもあり、個人的には「国民皆保険」ってものを考える良い機会になりました。日本でも、病院による患者路上放置なんて実際起きていることだし、低所得の人が病院に行くのを躊躇しているのも実態として既にあるわけで。とにかく、この映画を見て痛烈に肝に銘じたことは「ピンピンコロリ」を実現できるように、普段から健康には気をつけて生きねばっ!ってことでした。それにしても、「ボウリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」に比べて、このレビュー数の少なさって・・・? この映画、先の2本にまして、より多くの人が見るべき映画のような気がしたんですけれど。そういえば、メディアでの取り上げ方も、あの2本より地味だったような。厚労省のヨコヤリでも入ったんでしょーか? あり得るよね。姥捨て保険、浸透させようとしてるんだもんね。 [DVD(字幕)] 6点(2008-05-16 15:21:58) |
348. 善き人のためのソナタ
《ネタバレ》 なんというか、終わった後に、ジーンと来ました。途中は、比較的淡々と展開するのですが、所々に緊迫するシーンが織り込まれています。中でも、エレベータ内でヴィースラーが男の子と会話するシーンは、かなりドキドキしてしまったのですが、「ボールの名前だよ」のセリフでホッとし、また、彼の心の変化がグッと胸に迫って来て、その後の彼の行動に、胸が苦しくなる思いでした。取調室で、クリスタと向き合う瞬間の緊張感も、手に汗握るものがありました。ヴィースラーの変化についての明確なきっかけになる描写はないけれど、彼が、盗聴を通して、迷い、変わっていったのは、演技から十分に伝わってきました。クリスタが案外あっさり秘密を暴露してしまうのには興醒めでもありましたが、反面「これはもしや・・・?」と思ったら、やはり衝撃的なシーンがその後に待っていました。閑職に追いやられたヴィースラーは、実はとても心穏やかだったのではないだろうか。満たされていたかどうかは分からないが、盗聴していた頃よりも、きっと心の平穏は感じて生きていたと思います。淡々と日々を生き、壁の崩壊を迎え、ある日、書店で自分へのメッセージが書かれた本に出会う。地味だけれど、感動的なラストシーンに、見ている方も救われます。邦題に違和感を感じたのですが、原題を見て、納得。邦題のつけかたって、難しいのですね。 [DVD(字幕)] 9点(2008-05-14 15:36:32)(良:1票) |
349. ルナシー
なんだかスゴイ映画を見てしまった、という感じ。シュヴァンクマイエルの絵本(?)にみられる世界は好きなのだが、この映画も彼の世界観全開であった。うーん、唸るしかない。決して美しい画面じゃないのに知らず知らず引き込まれて目が離せない。かなり陰惨な内容にもかかわらず、見終わった後に残る余韻も決して後味の悪いものでなく、むしろ爽快感さえ覚えるのは、なぜなんだろう・・・。好き嫌いがかなり分かれるのだろうが、私はかなり好きである。 [DVD(字幕)] 8点(2008-05-09 15:59:38) |
350. ルパン三世 カリオストロの城
宮崎駿さん江 少女=純真無垢ぢゃありません、ヒーロー=正義ぢゃありません。ルパンは毒を以って毒を制するのです。こんなの、ルパンぢゃない!! ルパンファンより [地上波(邦画)] 5点(2008-05-09 15:46:45)(良:1票) |
351. スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ
タイトルに『ジャンゴ』と入れている以上、見る者は、セルジオ・レオーネのじゃなく、セルジオ・コルブッチのマカロニ・ウエスタンを念頭に見るんじゃないのか、と思うのだが、これがものの見事に裏切られる。主たるモチーフは、レオーネでもコルブッチでもなく、クロサワなのね。紛らわしい。だったらタイトル変えてくれ。そのくせ、この監督はインタビューで「(佐藤浩市が)ジャンゴってからには、レオーネじゃなく、コルブッチなんだな、と聞いて来て、それで全て説明も要らなくなった。彼は全てをコルブッチの世界で作ってきてくれた」といった中身の発言をしており、笑止千万、お恥ずかしいのでやめてちょーだい、と言いたくなる。何がコルブッチだ。まあ、本人がそう思っているのだから、百歩譲ってそれはいいとしても、役者たちの英語のド下手ぶりといい、ギャグのセンスといい、このような元ネタ有りの映画を作るには、あまりに使用材料が悪すぎる。豪華キャストだと言われているけど、あの中で一体、何人の役者がこの映画の主旨を正確に理解し、納得した上で演技しているのだろうか? 今、自分のしている演技、発している台詞が、この映画の中でどんな意味を持つのか、どれだけ分かってやっているのか? 彼らは、たとえばクランクアップの後に、打ち上げなどで「いや~、良い映画に参加させてもらえて光栄です」とか「いや~、三池作品に出られてうれしいです」とか、言うんだろうか。あの、桃井かおりもそんなこと言うんだろうか。もし、彼らが本心でそんなことを述べていたとしたら、もう、日本の映画界は終焉だと思う。個人的には、監督の自慰映画につき合せられた俳優陣に同情したいのだが。いや、それ以前に、こんな企画、蹴れよ、と言いたい。しかし、木村佳乃。色気ねぇ~、踊りヘタ~。違う意味で同情したよ。 [DVD(字幕)] 1点(2008-04-30 15:02:12) |
352. 北京ヴァイオリン
《ネタバレ》 評価は分かれている様ですが、私はとても好きな一品。公開当時に、劇場で見た後、そのまま売店でサントラCDを買いました。優れた才能を持った、しかも思春期の男の子ゆえの独特の愛想のなさ、もうオチャメなほどに息子思いの父親は、良い父子コンビ。莉莉に見せる小春の表情がまた普段と対比されていて実に可愛い。特筆すべきは、無頼の感ある江先生。金満少年のレッスン中にカップを投げつけるシーン、猫たちが自由に闊歩する江先生の部屋での小春との小さなやりとりの数々も、いいんだよな~。ラストは感激。涙しながら父だけのために渾身の演奏を捧げる、これ以上の父への気持ちの表現はないでしょう。彼の実力ならば、コンクール参加のチャンスは今後もきっとあるはず。この監督の作品では、『覇王別姫』よりこちらの方が、私的には断然好き。後半は涙ナシでは見られません。何度でも見たくなる本当に素敵な映画。 [映画館(字幕)] 9点(2008-04-21 15:40:25) |
353. 乱れる
《ネタバレ》 この評価平均点の高さは何? とちょっとビビリましたが、よくよく拝読し、ちょっとというか、かなり納得いたしました。数名不明ですが、ほぼ100%、男性レビュアーによる評価でした。なるほど、なるほど。これって、男心をそこまでワシ掴みにする映画なんですねえ。まあ、男だ女だとガタガタ言うのは好きじゃないが、この評価の高さは、どう考えても「男の理想とする女像」を高峰秀子に見たから、としか思えませぬ。たった半年だけをともにした亡き夫を18年経てもなお慕い、なおかつ、亡き夫の弟の愛の告白(?)に女として身悶えしながらも、貞節を貫く。この一途さと身悶え、これぞ、男心を捉えて離さぬ幻の女像。確かに、時代背景から言えば、このような女性は珍しくなかったかもしれませんが、一方では、復員したらかつての自分の嫁さんが弟の嫁さんになっていた、といった類の話は枚挙に遑がなく・・・。こんなに美しい女性が、かくも強く清らかに生きたのは、まさに映画そのもの。現実世界の女どもは、大して美しくもないのに、計算高くしたたかで・・・、ってのに辟易した世の殿方がググッと来るのもムリからぬ話。で、女の私はどう感じたか。故郷への列車の中、義弟の寝顔を見て、涙を目に一杯ためるその美しさには感動しました。・・・が! 途中下車して温泉宿まで行って、「堪忍して!」はないでしょうよ、ネエさん。ハイ、風情も何もない、身も蓋もない感想を抱きました。それがこの映画のミソであることは重々承知の上です。集う男性レビュアーの皆々様、ぶち壊しレビュー、および平均点下げ評価点、申し訳ございません。 [DVD(邦画)] 6点(2008-04-15 14:29:50)(笑:1票) (良:1票) |
354. スミス都へ行く
《ネタバレ》 あまりにも類型的な登場人物たち、ヒーロー「だけ」が正しい、何のひねりもないラスト、と白ける要素てんこ盛りで、正直なところ、バカバカしいというか、ちょっと金かけて作ったスケールの大きい『水戸黄門』を見せられているようで、引きまくりでした。これって私があまりにも屈折している証拠かしら? 正義の押し売りも、ここまでやれば立派だけど、辟易。あと、素朴な疑問として、スミスは演説中、トイレはどーしたんだろうか? [DVD(吹替)] 4点(2008-04-07 16:03:21) |
355. ブラザー・サン シスター・ムーン
《ネタバレ》 『法王の銀行家』という、ヴァチカン史上最大のスキャンダルといわれた題材の映画のDVDと一緒に借りたのだが、まあ、対照的な代物でした。方や聖職者の欲にまみれた醜聞、方や何もかも捨て去った聖人伝。でも、もともと宗教そのものに懐疑的な人間にとって、この『ブラザー・サン シスター・ムーン』に共感・感動するのは難しい。『法王~』の方が、人間臭さ全開で、(難解だが)正面から見ていられる。一方この『ブラザー~』は斜めになってしまうのだ。なぜか。この映画に描かれているフランチェスコの回心してからの行動は、聖人そのものだが、まったくもって「鬱陶しい」のである。それもこれも、私自身の心の裏返しなんでしょう。それだけ、私の心はねじくれまくっているのでしょう。つまり、全く感動できなかった、ということです。ラストシーン、教皇がひざまずいた後、再び金ぴかの法衣を纏い、頭上に金ぴかの帽子(?)をいただいたのは何なの? 足への接吻は、パフォーマンスか? ・・・とか、そういうことはもうどうでもよい。ただ、映像の美しさには、ゼフィレッリらしいなぁ、と感心。ドノヴァンの歌も美しい。つまり、中身など考えて見るより、その美しさを堪能すればよいのだ、と分かりました。でも、また見ることは・・・、なさそうだな。 [DVD(字幕)] 4点(2008-03-31 16:34:17)(良:1票) |
356. それでもボクはやってない
なるほど、秀作だと思う。数多ある冤罪の中で、あえて「痴漢冤罪」を選んだ意図も理解できる。そして、日本の刑事裁判の問題点を浮き彫りにした点も良いと思う。が、しかし、この全体を通してのあまりにもワンサイドな恣意的な作りはいただけない。「冤罪」の不条理性を訴えたいのであれば、なおのこと、監督は細心の注意を払って中立の視点で描かねばならないはず。主人公が本当に「やってない」のかどうか、それは見ている者には分からない。「やってない」と猛烈に主張する主人公の視点で全てが描かれているので、見ている者は「やってないに違いない」と思い込まされているだけである。警察の怒鳴り散らしながらの取り調べの見せ方、被害女子中学生の法廷への登場のさせ方、裁判官の交代による後任裁判官の登場のさせ方、これら全て、見る者に先入観を与える描写であり、ならば、同じバランスで「もしかして主人公はやっているかも」と思わせる描写も必要ではないのか。決定的に欠落しているのは「裁く側の視点」。主人公がどの程度「疑わしく」あるいは「潔白」に見え、有罪あるいは無罪に値する点が主人公の言動のどこに見られるのかをもっと明確に描くべきである、と思う。ものごとを「やっていない」ことの証明は、アリバイが存在しない限り「やった」ことの証明よりはるかに難しいだけでなく、そもそも裁判とは人が人を裁くものである以上、そこにはほぼ間違いなく主観が入る余地があり、完璧なる公正さはありえない。である以上、「冤罪」は未来永劫なくならないだろう。せめて「痴漢冤罪」をなくすためなら、たった1~2両の「女性専用車両」でなく、ラッシュ時は全ての車両を「男性用」と「女性用」に完全分離すればよいことだと思う。映画公開前に、「痴漢冤罪をなくすにはどうすればよいと考えるか」という問いに、この監督は「通勤ラッシュをなくすしかない」という、あまりにも非現実的かつ陳腐な答えをしており、それだけでも、私は十分失望した。最後に、痴漢は「微罪」とされるが、強姦などの性犯罪と比較して、被害者の受ける精神的ダメージは軽いと客観的に断言できるものではない以上、もっと「痴漢被害」を深刻に受け止めるべきであり、その意味で、この映画中で、被害女子中学生をあたかも「加害者」のような描き方をしたことには、強く抗議したい。「痴漢被害」に遭った人々に対し、その点は、この監督は猛省すべきと考える。 [地上波(邦画)] 4点(2008-03-05 14:31:33)(良:2票) |
357. デビルスピーク
《ネタバレ》 トンデモ映画に出会いました。私的には久々のヒットです。巷で言われている通り、内容は「キャリー」オトコ版。ただ、「キャリー」よりエグくて、しかもかなり笑えます。製作者は多分大マジメに作っているだろうことが伺えるんだけど、それが却って可笑しさを増している。冒頭の首チョンパで予感はしたんだけれど、大当たり。特に、復讐シーンのクーパースミスの顔! 横から見るとおでこが丸く突出していて、職場にいる男性にそっくり(ゴメン、○○さん)。復讐シーンばかり何度も巻き戻して見ては、涙流して笑ったよ。BGMがまた大仰で良いんだよな。クリント・ハワードなんて名前、この映画で初めて知ったが、こんなにたくさんの作品に出ていたなんて(兄の七光り?)! これからこれらの作品に彼を探す楽しみが出来た。 [ビデオ(字幕)] 2点(2007-10-11 15:04:34) |
358. 山の郵便配達
山道を父と息子が黙々と進むのと同様に、淡々と進む話。会話の端々に親子の感情が絡み合う。父の仕事に対する真摯さに次第に息子が理解を深めていく様子は心が洗われる。父を負ぶって、息子が冷たい川を渡るシーンが象徴的。何より、この映画を秀逸なものにしているのは次男坊の存在。ラストシーンの次男坊の行動で、父子の世代交代がなされたことが、静かな感動とともに見る者に伝わってくる。好き嫌いが分かれる映画だろうが、私にとっては何度でも見たくなる素晴らしい映画。映画として撮る意味を感じられる作品です。TVドラマじゃ、あり得ませんから。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2007-10-09 11:06:39) |
359. かもめ食堂
この、ゆる~い雰囲気、キライじゃないです。お店の雰囲気、プールが素敵。足音、おにぎりに巻く海苔の音、揚げ物の油の音などが、静かな中に響き、耳に心地よい。まあ、お金払ってまで見る映画か? と考えると、そうでもない気もするが、時々、心が疲れたときなんかにポケ~ッと見るには最適な映画でしょう。一種のおとぎ話ですね、大人の。あんな生活、憧れる。たまに海外に行くと、ホントに日本での生活や価値観がせせこましくバカバカしくなって、“脱出願望”に駆られるのだが、帰国すると元の木阿弥で、日常や現実に見事に包まっていく自分がこれまた情けなくも愛おしい。あー、私って小さいなって。所詮、サチエさんみたいに脱出も出来ないのよね。この映画見て、再び“脱出願望”に駆られました。多分、一月後にはそんなこと忘れてますが・・・。 [地上波(邦画)] 6点(2007-10-09 10:40:53) |
360. ロレンツォのオイル/命の詩
“これは実話です”の一言でKO。たしかに、この“実話”により、その後救われた命を思えば感動的であり、この両親の凄まじいまでの執念は崇拝に値します。それを前提で言うけれど、これはあくまで“結果オーライ”。私が個人的にスーザン・サランドンという女優を好きでないことも影響しているでしょうが、玄人素人問わず治療に後ろ向きな人々や、意にそぐわぬ看病者に対し、激しい攻撃性を見せたり、“息子のためだけ”に相手の都合も無視して遥か異国の地から人を呼び寄せたりと、“命のオイル”に辿りつかなければ、これらの行為はただの“難病児を持つ親のエゴ”に終わったんじゃないのか? と言いたくなる行為が見られ、この親(特に母親)に対し諸手を挙げて「親の無償の愛万歳」という気にはなれないのでした。もちろん、こういう強引さがあればこそ起きた奇跡でしょう。そういう部分をあえて描くことでキレイごとに終始せず、医学的な検証もキッチリされている映画の作りには感心しました。でも、私の中で、「好きな映画=何度でも見たくなる映画」なので、そういう意味では、あまり好きでないことは確かです。むしろ、映画でなく、ドキュメンタリーとして見れば、もっと素直に心に響くものがあったんじゃないか、と思います。 [DVD(字幕)] 5点(2007-10-05 17:32:18)(良:1票) |