361. わたしは、ダニエル・ブレイク
ドキュメンタリーではないが、娯楽作品としても見れません。実は日常に溢れる、しかし多くの人が見て見ぬフリをしている社会の矛盾を見事に表現した作品だと思います。 ただ印象としては、「いたたまれなさ」だけが残りました。市井の人が助け合い、支え合う姿は感動的です。しかし国家の制度はそう簡単には改善しないでしょう。たしかに杓子定規かつ煩雑な感じでイライラさせられます。しだいに人としての尊厳まで奪われていくようで、なかなか辛いものがあります。しかし、逆に簡便で温情や融通がまかり通るようでも困る。それこそ不正受給や不公平の温床になりかねません。じゃあどうすればいいのか、という根本的な解が簡単には見つかりそうにないところが、もっとも大きな問題のような気がします。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-10-31 02:39:59)(良:1票) |
362. 007/ワールド・イズ・ノット・イナフ
よくもまあ次から次へと危機のシーンを繋げたものだと感心します。危機アイデアを一つ一つ付箋に書き、ホワイトボードか何かに貼り付けながら順番とか辻褄とかいろいろ議論したのかなと想像すると、ちょっと微笑ましい気分になります。実態は知りませんが。 それにしても、あれだけ毎度毎度銃弾の雨の中にいながら一発も当たらないってどうなのよと。もちろん当たったらシリーズ自体が終わるわけですが、出来すぎな気がしないでもありません。 タイトルのカッコよさに惹かれて見てみましたが、終盤に一言発するのみ。別に作品の世界観を表しているわけじゃなかったんですね。 [インターネット(字幕)] 5点(2021-10-28 01:54:17) |
363. ハミングバード・プロジェクト/0.001秒の男たち
主人公の彼、どこかで見た顔だと思ったら、「ソーシャルネットワーク」のザッカーバーグ役だったんですね。さすがに当時よりずいぶん老けたような。しかし苦渋の表情がよく似合います。 で本作、正直なところ、見ようという気になる人はなかなか少ないでしょうねぇ。「超高速取引」など一部の人しか興味ないし、結局自分の利益のためでしかないし、どう転んでも映像的には地味な結論にしかならないし。 しかし途中で挿入されるレモン農家の話とか、アーミッシュの話とか、そして憎まれ役の元女性上司とか、けっこう楽しませてもらいました。そしてけっして予定調和ではないオチにも驚き。ますます、映画にする必要があったのかと思わずにはいられません。 [インターネット(字幕)] 6点(2021-10-24 22:20:00) |
364. 密偵
《ネタバレ》 舞台設定上、日本が悪者に描かれるのは仕方のないところ。ただしそのへんは案外薄味で、基本的には朝鮮人どうしの追いかけっこと騙し合いの様相。特に列車内のシーンなど、けっこうハラハラドキドキを楽しめます。 しかし結局、主人公たちがやったことは爆弾テロに過ぎません。何の罪もない人を含めて大量の日本人が犠牲になっただけ。昨今のIS等によるテロと同様、社会に恐怖を与えることはできたとしても、それによって体制は1ミリも変わりません。むしろ変わったとしたら世も末です。義烈団の面々をやたら悲劇のヒーロー・ヒロインのように描いていましたが、その姿を見てかの国の人たちが溜飲を下げるとしたら、それはそれで恐ろしいかなと。 [インターネット(字幕)] 6点(2021-10-20 01:25:35) |
365. 御法度
《ネタバレ》 現実と幻想の中間のような雰囲気はいい感じ。殺伐とした時代が舞台でありながら、平和的な話として展開します。妖艶な松田龍平を取り巻く男たちの微妙な駆け引きやら腹の探り合いやら、けっこう楽しめました。 ただ当方は残念ながら衆道に関心がないため、今ひとつ没入できず。ストーリーも単純すぎて、いいのかこれでと。 だいたい伊武雅刀の存在理由がわからない。本筋にほとんど絡まなかったような。代わりにトミーズ雅が重要な役割で意外。もしかすると、途中でシナリオの変更でもあったんでしょうか。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2021-10-16 18:47:39) |
366. 羊たちの沈黙
超久しぶりに再見。前回の印象は牢の中、檻の中のレクターしか残っていなかったのですが、今回も同様。独特な〝マスク〟で覆われた風貌もさることながら、ひたすら特殊な性癖とずば抜けた頭脳で勝負するあたりが斬新。脳筋で勝負するスタローン等とは対照的な、ある種のヒーローだと思います。 そのダークな輝きが強すぎて、個人的にはジョディ・フォスターも肝心の猟奇犯も霞んでしまった感じ。さすが名作だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-10-08 00:40:14)(良:1票) |
367. 勝手にしやがれ
要するにヌーベルバーグというのは、「雑に撮りました」ってことですかね。配管むき出しやコンクリート打ちっぱなしの建物がかえってカッコいいみたいな。 ヒロインが魅力的だったのでずっと見続けましたが、ストーリーがどうのこうのより、撮影すること自体を楽しんでいる感じ。実験は実験室だけで完結してほしかったという気がしないでもありません。 そして何より、時代が違うとはいえ、チェーンスモーカーぶりがひどい。まるでこちらの周囲まで煙たくなりそう。もしかすると、それも実験の一部だったのかな。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2021-10-05 01:50:28) |
368. 007/カジノ・ロワイヤル(2006)
今さらながら、「007」シリーズをおそらく初めて見ました。さすが激しいですね。命がいくつあっても足りない感じ。しかし「Mission Impossible」とほとんど同じような気が。主役とテーマ音楽さえ変えれば、そのまま流用できそう。 面白かったのは前半、航空会社の株を大量に空売りした後で航空機にテロを仕掛けようとするあたり。たしかにひと昔前の銀行強盗とか誰かを騙したり脅したりしてカネを奪うより、もっとも最小限の犠牲で巨大な利益を得られるかもしれません。反資本主義とか富裕層に鉄槌を、といった大義名分も立つし。しかしテロに失敗すれば巨大な損失を被るわけで。またその損失をカジノで取り戻そうというのも、なかなか健全というか短絡というか。 ただ最終盤、敵だか味方だかが急にゴチャゴチャしてきて混乱します。エヴァ・グリーンはなかなか魅力的でしたが、あんな展開を用意しなくてもという気がしないでもありません。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-10-02 03:38:21) |
369. ほえる犬は噛まない
いくら犬禁止のマンションとはえ、わざわざ殺して回ることはなかろうというのが唯一にして最大の疑問。それを除けば、ユーモアあり、皮肉あり、若干のサスペンスとグロありでそこそこ楽しめました。 しかしこれ、韓国の人の感想は「あるある」なのか、それとも「そんなアホな」なのか、ぜひ知りたいところ。いずれにせよ外国人が見ると、韓国に対して悪いイメージしか持たないような気が。犬を食う文化もさることながら、部屋の様子とか食事風景とかやたら汚いし、人間関係も殺伐としているし、地獄の沙汰もカネ次第という感じだし。ヒロインを「掃き溜めに鶴」にしたかったのかもしれませんが、もう掃き溜め感が強すぎてヒロインが霞んでしまった気が。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2021-09-29 01:51:23) |
370. すばらしき映画音楽たち
さらりとメロディを聞くだけで、映像や世界観をパッとイメージできるのが映画音楽の魅力。あるいは見ていない映画でも音楽を聞いて「見てみたい」と思うこともあるし、たとえ陳腐なストーリーでもつい音楽に引っ張られて見てしまうこともあります。その意味では、間違いなく〝主役〟でしょう。 で、学者さんが出てきて潜在意識云々と説明するのも面白かった。たしかに単なる好みの問題ではなく、音楽と結びついた映像には人の意識を先導もしくは洗脳する力があるように思います。 そして何より、映画音楽界のビッグネームの話にはそれぞれ含蓄があります。どれほど「天才」とか「売れっ子」とか呼ばれている作曲家でも、けっしてサラサラっと曲が書けるわけではなく、多大なプレッシャーを感じながらいろいろチャレンジしているんだなということがよくわかります。日々の我が身の仕事ぶりを恥じ入るばかりです。 ただし構成上仕方がないのですが、テロップと字幕が同時に出る上にテンポが早いので、ついて行くのがなかなか大変でした。とても音楽に浸るどころではない感じ。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-09-26 23:44:05) |
371. フライト・クルー
《ネタバレ》 ロシア産のパニック映画とはどういうものか、というその1点だけの興味で見ました。 なかなか緊迫感があっていい感じ。高度1万メートルであんなアクロバティックなことが可能なのか、という根本的な疑問は残りますが、最後まで相応にドキドキさせてくれます。そしてパイロットの奥さんの「何かあったの?」というトボけたオチも新鮮でした。ハリウッド映画だと言われても遜色はないでしょう。 しかしそうであるがゆえに、少々不満が残ります。もう少しロシアらしさを見たかった。乗客の中に西側国家のスパイがいて毒殺されるとか、災害そのものを隠蔽しようとした当局に対し、乗客の記者が真実を伝えようとして銃殺されるとか、なぜか大統領が単身戦闘機に乗って救出に来るとか。 もっとも、乗客全員が助かったわけではなく、しかもその点についてほとんど言及されないあたりが、ロシアらしいといえばロシアらしいかな。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2021-09-23 03:10:54) |
372. 県庁の星
《ネタバレ》 意外や意外、前半はけっこう面白かった。 しかし中盤以降、織田裕二が唐突に転落してからの復活物語は、ああやっぱりという感じ。まず柴咲コウのキャラが、いかにも日本のドラマや映画によく出てくる万能系で残念。機転が利いて、気配りができて、謙虚でありながら芯が強くて、いろいろお見通しという、こんなヤツいるかよパターン。その時点で興味は半減します。 それから終盤の織田裕二の演説はカッコよかったけれど、民間企業で学んだことが「仲間」だの「助け合い」だのというのがなんとも…。そういうことは学校の部活で学んでこいよと。最終的に仲間内でワッと盛り上がって肩を叩きあってしまうあたりも、やはり日本のドラマや映画によくあるパターンかなと。個人的には冷める一方です。 ただ最後の最後、酒井和歌子知事の〝緑のたぬき〟な感じのオチは意外。こういうのは好きです。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-09-22 01:58:09) |
373. 間違えられた男
妙にもったいぶった感じで始まりましたが、他のヒッチコック作品に比べてリアルなところがミソですかね。たまたま顔が似ているというだけで、いつの間にか犯人に仕立て上げられてく様はたしかに恐怖。しかし主人公の序盤の無抵抗ぶりにも驚き。自分だけの問題ならまだしも、家族のことを考えれば徹底的に弁明・反論して一刻も早くシロを証明しようとするはず。まあドラマ的には黙っていないと都合が悪いわけですが、ここだけ不自然でした。 オチもいささか肩透かし。そんな単純な話だったのかと。これは警察からごっそり賠償金を取れそうですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-09-20 01:49:33) |
374. アンダーグラウンド(1995)
冒頭のブラスバンドが奏でる音楽に猛烈な違和感。民族音楽がベースなのかどうかは知りませんが、騒々しい中に一抹の物悲しさもあって、とにかく聞き覚えのなさに驚き。これが文化的齟齬というものかもしれませんが、個人的にはずっと聞いていたいとか、もう一度聞いてみたいという類ではないですねぇ。 で、その違和感がストーリー全編にわたって持続します。荒唐無稽なコメディと戦争・内戦の史実が交錯するわけで、いったどんな感情で見ればいいのか、どこへ連れて行かれるのか不安な気分にさせられます。口当たりは甘いがズシンと重いセルビアワインでも飲んでいる感じ(実際の味は知りませんが)。そして結局、〝現世〟ではないラストシーンにはいろいろな意味が込められているようですが、今ひとつ掴むことができず。やはり違和感だけが残りました。 もっとも、この違和感は当然かなという気がします。1つの連邦国家が、1人の天才政治家の死とともに四散するばかりか殺し合うなどという状況は、私のような平和ボケにはとうてい理解できないので。わかったようなフリをするより、この世にはわからないことがあると謙虚になったほうが道を間違わないかなと。 ただ唯一、ツボだったのはドイツ人将校・将校役の「フランツ」。1本の作品で何回殺されるんだと。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-09-15 02:57:52) |
375. エクソシスト
今さらながら初見。いきなりイラクから始まるとは予想外。そこで発掘されたコインと、遠く離れたワシントンの住宅に突如現れた悪魔に何の関係があるのか今ひとつわからず。 しかし中盤以降、少しずつオドロオドロしさが増していく展開は、さずがホラー映画の傑作という感じ。途中、聖水はただの水道水だとか、あの悪魔は偽物だとかいう話もあって回収されないまま終わった気がするのですが、まあ雰囲気だけ楽しめれば十分です。 で結局、悪魔は何がしたかったんでしょうか。1人の少女をいじめたいだけだとしたらスケールが小さすぎるし、世界征服とか考えているとしたら明らかに方法論を間違えていますよね。 [インターネット(字幕)] 7点(2021-09-13 02:59:51) |
376. バットマン リターンズ
《ネタバレ》 まさにティム・バートンならでは。前作のジョーカーもよかったけれど、ペンギンも負けず劣らず魅力的。なんともダークで怪しい雰囲気ながら、アヒル型の乗り物とか、ミサイルを背負った武装ペンギン部隊とかでホッコリさせられます。これほど分裂した世界観は、他ではなかなか味わえません。捨てた親を探して云々というストーリー展開も、最期に川に流されるシーンも泣かせます。 それからクリストファー・ウォーケンもいい。最初のほうで地球温暖化を止めるために原発を建設するとか、実はそれは巨大な蓄電所だとかという話が出てきましたが、なかなか先見の明があるんじゃないでしょうか。悪役風のキャラでしたが、実業家として何が悪いのかわかりません。 対するキャット・ウーマンは、いろいろ活躍していましたが今ひとつ。それからバットマンに至っては、ほとんどゲスト出演の体。別にいてもいなくても、他の「○○マン」でもよかったような気がします。個人的には、ぜひ「ペンギン男リターンズ」を見てみたい。もう時間が経ちすぎてしまいましたが。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-09-10 02:23:00) |
377. 少林サッカー
笑えるかといえば微妙ですが、デタラメぶりをどれだけ楽しめるかが評価の分かれ目という感じ。ごくごくたまに見るのはいいけれど、似たような作品をまた見たいとは思わないですねぇ。 それよりちょっと気の毒だったのはヒロイン。3度ほど〝衣装替え〟をしていますが、まともな姿は1つもなし。これもジョークの一環でしょうか。 そう思っていたら、ちょうど昨今、この女優さんは中国当局から抹殺されつつあるとか。香港を含め、かの国はだんだん息苦しくなっているようで。こういう映画を見て「くだらねぇ」とか言っている時代が一番平和なのかもしれませんね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2021-09-09 02:00:28) |
378. 暗くなるまで待って
タイトルとヘップバーンのイメージから、ごくごく薄味のエロを含んだコメディかなと思っていました。こんな緊迫の傑作サスペンスだったと知って驚きです。 ほとんど密室劇で舞台が変わらないのに、次々と話を展開して退屈させないところがすごい。それに、冷蔵庫とか、洗濯機とか、ライトとか、タオルとか、電話とか、ブラインドとか、日常にありふれたものが非日常の犯罪や自己防衛の道具として使われることで、恐怖感がいっそう身近に感じられました。もうお見事としか言いようがありません。 ただし、盲目の女性を大の男3人で寄ってたかって騙し続けるという構図は、フィクションとはいえ気分のいいものではありません。要するにオレオレ詐欺に近いですよね。こんなことを言っては身もフタもありませんが。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2021-09-07 02:31:11) |
379. レッド・ドラゴン(2002)
《ネタバレ》 エドワード・ノートンが至極真っ当な役を演じていることに驚き。どちらかというと、小賢しい犯罪者とか、ネジが外れているエリートとかの役の印象が強いので。 それからレイフ・ファインズ演じるD。猟奇的なヤツであることはよくわかりましたが、いちいち鏡を割ったり目をくり抜いたり、木に何か彫ったり、手続きというか儀式というかがいろいろあって面倒くせえんだよという感じ。そのくせ、幼少期のトラウマだかなんだかはサラリと流されていてよくわかりません。個人的には、火だるまのフィリップ・シーモア・ホフマンのほうが強く印象に残っています。 結局、最終盤のごくありがちな攻防劇なども含め、スピンオフのB級映画という評価でよろしいんじゃないかと。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2021-09-06 02:54:27) |
380. 風立ちぬ(2013)
《ネタバレ》 ふだんアニメは滅多に見ないのですが、風とか雨とか影とかの細かい描写は熟練のワザにようなものを感じます。それから飛行機とタバコに強い思い入れがあることもわかりました。 しかし残念なのは、登場人物たちにまるで人間味がないこと。容姿も含めてキレイなところだけを切り取り、ひたすら品行方正で上っ面の会話をしている感じ。今どきSiriとかAlexaのようなAIのほうが、よほど味のある回答をしてくれるんじゃないでしょうか。 同時代ということで言えば、かの山本五十六は愛人との関係を部下に咎められたとき、「君たちが屁も糞もせず、女も抱かないなら話を聞こう」と一蹴したそうです。汚い例で恐縮ながら、主人公たちは屁や糞とは無縁の世界で生きている感じ。つまり人間ではなく、無機物でしかありません。 しかも、しばしば荒唐無稽な夢の世界に逃げ、奥さんもキレイな印象だけ残して去り、技術者としてがんばるほど戦争に協力することになるという主人公の苦悩や葛藤もまるで描かれていません。結局、この作品の製作者は何を伝えたかったんでしょう? 「タバコぐらい自由に吸わせろ」という現代への批判かな。 ただ、「ひこうき雲」は名曲ですね。 [地上波(邦画)] 4点(2021-09-04 19:55:18)(良:1票) |