21. 2/デュオ
演技は俳優一人の技術の問題のように思われがちだが、(一人芝居でもない限り)良い芝居が出来るかどうかは相手役にもかかっていて、役者同士がお互いに感情を動かし合うことで生っぽさが生まれるんだということを改めて感じさせられた。西島秀俊と柳愛里の距離感は設定の上なのだが、実際の恋人同士にしかみえず、また少しずつ変化していく関係性も、虚構っぽさがない。特に喧嘩のシーンの掛け合いは、痛々しいほどにダメカップルのもので、こちらの感情までかき乱された。もしもあのシーンに台本があったとしたら、いろんな意味で驚嘆ものである。この映画において監督がどういう演出を行ったのか、非常に興味深い。そして西島秀俊は元々エリートなのに、どうしてこう、ヒモとかイヤーな男がはまるんだろう。本作はストーリー自体に面白味があるとは思えないが、逆にストーリーをこねくりまわさずとも、人間を「リアル」に描くだけでありきたりな話が途端にドラマになるのだということが提示されている。ヒューマンドラマというジャンルにおいて特に、質の高い映画だと思う。とはいえ、個人的にマイナスだったのが各俳優のダイアローグシーン。監督は何を意図したのかわからないが、あの手法でかえってせっかくの「リアル」が胡散臭くなった気がした。 [DVD(邦画)] 8点(2010-09-23 00:28:53) |
22. 間宮兄弟
このとりとめのなさ、森田ワールド。2時間の尺で結局なんにも変わらない二人ですが、人間そう簡単に変わってはいかんのです。恋したり口説いたり、人並みの欲望はあるけどやっぱり二人でいるのが好きな二人。山下作品、それから「ジャージの二人」もだけど、自分はいい年をした、ちょっとダメな男が二人でいること(ホモという意味ではなく)のオフビートな空気が好きなんだとわかった。これは女二人だと多分「寂しいウチラ」の構図で、痛々しいとか自虐的な方向になるけど。とかく独特の味わいが楽しめる映画。 [DVD(邦画)] 7点(2010-08-19 12:44:16) |
23. おくりびと
《ネタバレ》 純粋にいい映画だ、とは思う。わけあり女の余貴美子、実は「おくりびと」だった笹野高史、社長、吉行和子、役としては死人だったが峰岸徹、そしてなんといっても主演のモックン(所作の一つ一つが美しい)、みんな、実にいい。そんななか、完成度を下げたのは妻・広末涼子だ。いや、広末涼子のせいではないのかもしれない。素人の私には、彼女の演技が悪かったのか、それとも脚本がまずかったのか判断ができない。ただ、いずれにせよ、妻がこの映画において大きなマイナス要素なのは間違いない。この映画の流れで、妻の心境の変化がなぜ起こったのか、どのように変化したのか、よく分からないのだ、あまりに唐突で。なんとなくは理解できる。だが、筋書きをなぞったうえの理解でしかない。物分りのいい貞淑な妻のはずなのに夫の仕事を知るやいなや豹変し、夫を「汚らわしい」とまで口走った彼女が、夫の仕事ぶりに感動してすぐに見直しました、ってあまりにも簡単すぎるではないか。広末演じる妻はこの映画において、「死」というものを異常に忌避する点で、多くの観客に一番近い(ある意味ではごく普通の)、存在のはずである。その妻を適当に心変わりさせてお茶を濁して、客から共感を得るというのは無理な話だろう。実際、私もそうぐっとは来なかった。妻との物語をそこまで見せる気がないのなら、もっと描くべきことはあっただろうし、見せたかったのなら全然足りなかった(尺の問題ではなく)。とはいえ、様々な人の死に様々な思いが交錯する、日本的な「死の風景」が美しく描かれていたこと、冒頭にも挙げた俳優陣の演技など、個人的に好きな部分も多い作品である。だからこそ、自分のなかのマイナス箇所がとても勿体無く感じる。 [DVD(邦画)] 6点(2010-07-16 21:03:46)(良:1票) |
24. アメリカン・クライム
エレン・ペイジの悲痛なる表情がいつまでも胸に焼き付いている。本作も「ボーイズ・ドント・クライ」「乙女の祈り」などのいつまでも記憶に残る不快映画の類だが、一番怖いのはこれらが実話という点だ。惨い。下手なホラーよりよっぽど怖い。こういったことが惨いとか怖いと思えるうちは自分も健康なんだと思うが、人間は慣れていく、麻痺していく生き物だから、自分だけは絶対にこんなことをしないと思っていても、壊れる瞬間があるのじゃないかという疑いがある。それも結構怖い。人間(自分も含め)不信になりそうだ。観たくなかったが、大切なことを知る、考えるため、或いは現時点での自分の感覚を試すという意味でも、観るべき映画だと思う。余談だが、エレン・ペイジは誰かに似ていると思っていたが、大路恵美に似ていることに気づいた。別作品では大竹しのぶに似ていると思ったし、要するに日本人的な顔なのだろう。目に馴染みやすい女優さんである。 [DVD(吹替)] 7点(2010-07-03 23:35:38) |
25. の・ようなもの
人の日常って何か可笑しい。落語家という面白さに近い職業の人間たちの話だから滑稽なのではなく、この映画では団地の奥様だの、おませな高校生だの、他の凡人たちもみんなくだらないことに腐心し、生き生きと生きている。つまり、スーツ着て満員電車に揺られてる普通のおじさんの人生も負けず劣らず、多分面白いのだ。要は心の持ちようであって。この映画をそんな風に、のほほんと楽しんで観ていられる自分の感性を大事にしたいと思わされた。疲れるとぎすぎすしてくるもので…。非日常に憧れる、病める大人たちに是非観てほしい映画。特筆すべき見所は、風俗女を演じる秋吉久美子。この映画の秋吉久美子っていい女感が半端じゃない。太っ腹で姉御で、去っていくのもどことなく寂しげながら、さっぱりしていて。たかるばかりの弱い女でいてはいけませんなあ…たかる相手もいないけど。 [DVD(字幕)] 8点(2010-07-03 22:58:58) |
26. 告白(2010)
原作を先に読んでいた者としての感想は、本作は最近の邦画やドラマにありがちな、いわゆる「原作レイプ」な作品ではないと断言できる。それどころか、原作の衝撃を独特の映像の質感(ところどころハネケっぽい)や音楽のチョイスでより鮮烈に魅せており、原作ファンは勿論、原作者の湊氏も大満足の仕上がりであるはず(興行成績的にもおそらくウハウハだろう…って下衆ですいません)。個人的には、「告白」という作品の内容は、あまり好きではない。青春モノであり、センセーショナルであり、人の心の暗部が垣間見え、主観と客観が丁寧に絡み合って真実が提示され展開していくストーリー、そして血が流れるという、私のツボ満載なはずなのに…。多分、浅いのだ。人の心というものを描いている割には結構説明的で。感情→行動のつぎはぎが雑。「馬鹿みたいに熱血な教師」とか、「マザコンの孤独な少年」とか、「親バカのバカ親」とか、登場するのがさらっとメモ書きしたみたいな、変人だがある意味ステレオタイプなキャラクター。人間らしさがなく、いかにも「キャラクター」で感情移入が難しいのだ。もっとも、一般人にはどう頑張っても共感できないような異端者なのだが。ストーリーの衝撃で大分カバーはされているが、人間ドラマとしてはいまいち。ただ、映画化したことで、文章では表現しきれていない微妙な部分が中島監督や俳優陣の解釈によって少し肉厚になった感はある。特に松たか子は好演している。冷徹さにも、隠し切れない母親の顔が滲むという演技は本当に素晴らしい。内容自体どうこうではなく、俳優の演技や監督の演出といった、技術的な面に高得点を差し上げたい。本当に、全体的に暗いストーリーにあえてポップな音楽を挿入したり、早回しなどの特殊効果を加えたりとユーモラスな演出をする中島監督のセンスは冴えている。嫌われ松子~も原作を先に読んでしまったので何となく観ていないが、この感じならちょっと観てみたい。 [映画館(邦画)] 8点(2010-07-03 22:23:38) |
27. セブンス・コンチネント
《ネタバレ》 私はつくづくマゾだ。ハネケ監督の作品は観たくなる。鑑賞後の心のざわつき、何ともいえない不安感は観る前から確実に分かっているのに、観てしまう。そして案の定、それらにじわじわ苦しめられる。圧倒的ではない。緩やかに、穏やかに、真綿で首を絞められるというのはこんな感じか。本当に、凄い。往々にして、ある監督の一番有名な作品は、その監督のカラーが色濃く出ていないことが多いように思う。ハネケ作を全部観ていない私の感覚だが、「ファニーゲーム」のように、分かりやすく不快感を提示する映画は、監督らしくない気がする。この映画は、身も蓋もない表現をすれば単なる一家心中の話である。だが、それだけではない何かを観客は確実に受け取っている。どこにでもあるからこそ、分からなくもない。分からなくもないから、怖い。誰にでもある「日常」から、破滅が生まれるということだから。そして、このタイトル。破滅は希望なのか、始まりなのか。いや、そんな筈はない。だから、哀しい。虚しい。ハネケ監督の作品はなかなかお目にかからないが、機会があれば全部観たいと思う。でも、他の作品を観れば観るほど、多分、この「セブンス・コンチネント」こそが、ハネケ映画なんだ、という思いが強まっていくような気がする。 [DVD(字幕)] 8点(2010-06-15 10:41:04)(良:1票) |
28. 童貞放浪記
《ネタバレ》 私は山本浩司が好きである。私の敬愛する山下監督作品で童貞とモテ男という対極にあるキャラをどちらも演じた彼。平たく言って、リアルだった。はっきりいって不細工だが、不思議な色気のあるそんな彼。東大の院まで出ているのに、三十路で童貞という役はなるほど、彼にぴったりだ。超がつく非・モテの生態をかくも見事に演じ切るかという、感動を与えるほどにダサく、痛々しい演技を繰り広げた彼に何の非もない。問題は相手役の女性だ。神楽坂恵の外見は同性の私から見ても肉感的で素晴らしいが、原作が悪いのか脚本が悪いのか演技が下手なのか何なのか、この女性のキャラクターがびっくりするほど薄い。一つ一つの行動の裏側にある心情が、全く読めない。要は何か、ちょっといいなくらいに思っていたはずの主人公の年季の入った童貞ぶりを目の当たりにしてどん引きしたってことでいいのか?しかし、その感情の起伏はどこにあったのだろう。海外に追っかけて行きたいほどの想い人がいて、その彼以外の男といちゃついてみる感じが、インテリ女性らしいアクティブさなのか。で、ふと我に返る、と。んー、分からん。確かにこの作品は私小説が基になっているらしいので、当時の相手の女性の心理は原作者ですら掴んでいないのかもしれないが、そこはどうにかこじつけてでも作品として成立させてくれよと言いたい。たぶん主人公に気があって、処女を告白した同僚?の女性のほうがよっぽど心に残ったぞ、私は。まあ、放浪記というからにはあのラストは正解だろうが。山本浩司を使うなら、山下監督までとは言わんが、作品としてクオリティを上げていただきたい。やっつけ仕事を振るには勿体ない役者ですよ、彼は。 [DVD(邦画)] 5点(2010-06-14 00:20:16) |
29. アウトレイジ(2010)
《ネタバレ》 文字通り、恐ろしいものを観たという感じ。やっぱりバイオレンスは苦手だ、劇中5割は薄目状態だった(無論ストーリーがわかる程度には開けているが)。とかく非道で下劣。魂やら仁義やら、竹内力のVシネマみたいな、私が勝手に信じていたジャパニーズヤクザの美学みたいなものはこっぱ微塵である。ちなみに「全員悪人」というテーマだが、それでも共倒れせず、最終的には勝者と敗者が提示される。武道派より知能派が強いというのは結構分かりやすい構図で、生き残るメンバーに意外性はそんなになかった。そしても一つ残念なのは、そうそうたる俳優陣なのに、それぞれのキャラクターが役者さんのイメージを大きく外れていないこと。例えば、今や草食系なんていうありがたくない肩書きが定着しつつある加瀬亮のインテリヤクザもファンからすれば今更感あるし。腕のある役者さんを揃えてるぶん、配役はもうちょっと遊んで欲しかったかなと欲張ったコメントをしてみる。ところで、映画のジャンルとしてアクションやバイオレンスは殆ど観ない私だが、以前たまたま観た「レザボア・ドッグス」は屈指の名作だと思っている。本作も北野監督こだわりの暴力描写にはオリジナリティがあり(歯医者でグチャグチャの発想は純粋に驚いた)、逐一派手だが、「レザボア~」のグロいけどスタイリッシュというギリギリラインを狙った攻撃性のほうが個人的には好きだな。とにかく大画面でのイタイイタイ感じが私にはちょっと刺激が強すぎた。そんなバイオレンス・ビギナー(要するにただの怖がり)な私なりにこの映画の美点を挙げるとするなら、陰惨な暴力映画なのに、何か可笑しく、何かダサいことだ。悲劇と喜劇という一見相反する要素が同時に成り立つというのは何時でも人生の真理というわけではなく、チャップリン然り、やはり見せる側の才能なんだと思う。初日舞台挨拶のとき、北野監督は某納棺師を題材にした映画をネタにジョークを飛ばしていたが、人がごろごろ死ぬことさえ、即席で笑いにできるこの人は本当に凄い。やっぱり映画監督・北野武はお笑い界の奇才・ビートたけしでもあるわけで。彼が「世界のキタノ」と呼ばれ、愛される理由はこういうセンスにあるんだろうなとしみじみ思った。無論、穏やかな死の映画「おくりびと」のほうが私の肌には合いますが、ね。 [映画館(邦画)] 7点(2010-06-13 23:51:54) |
30. 女の子ものがたり
《ネタバレ》 少女版スタンドバイミーということで観てみた。なるほど、物を書く仕事に就いた人が昔の友情を振り返る→友人は死んでいる→ああいう友達はできないだろうという流れは全く同じ。友情が「不幸」という似た境遇の絆で結ばれているのも同じか?だったらスタンドバイミーでいいじゃない、と言いたいとこだけど、私はこっちのほうが好きだ。自分に女の子時代があったからというのもあるが、作中の女の子たちの、自分たちのわかりやすい不幸やわかりきった生き方を笑い飛ばす強さが何とも潔い、哀しいけれど。西原センセの作品というのにあまり馴染みはないのだが、底辺の暮らしを知っているというのは物書きにとって強味だと思った。脱却しようにも光を見出せず、主人公以外の二人のように生きてしまうしかない、圧倒的多数の女の子たちに色んな道を示すという意味で、彼女にはこれからも描き続けて欲しいものだ。ところで、某ドラマ以来、大後寿々花ちゃんは私の気になる女優さんであるが、彼女の凛とした雰囲気が成長過程で全く損なわれることなく、むしろより一層研ぎ澄まされていくことにいたく感動した。 [DVD(邦画)] 7点(2010-06-13 23:13:07) |
31. キング 罪の王
《ネタバレ》 ティーンエイジャーのヒロインがおばさんにしか見えないと思ったら、制作時女優さんが二十代後半って…そりゃ無理あるわ。老け顔の彼女を起用した意味がよく分からない。ガエルさんが童顔なので尚のこと違和感を覚えた。ストーリーとしては要するに父親に捨てられた青年の復讐物ってことなんだろうが、キャラクターに魅力が全くなく、共感できないので全てが唐突に感じる。ところでうちの近所のTSUTAYAではこれが伝記物コーナーにおいてあったのだけども、完全にタイトルだけで分類しちゃった感じかな。歴史を動かす、壮大なスペクタクルを期待した人は完全に肩透かしをくらうに違いない。誰が王様じゃ。 [DVD(字幕)] 5点(2010-04-26 23:08:11) |
32. ソラニン
《ネタバレ》 一度ある作品を読んで以来、浅野いにおの作風がどうも私には合わないと思っていて、彼の作品全般を読まず嫌い。それでいて宮﨑あおいのファンでもアジカンのファンでもない自分が本作を鑑賞しようと思った理由は「ただ何となく」。しかし「何となく」で観た作品に、えらく泣かされてしまった。作り物めいた台詞や逼迫している割に生活感がないところなど、私の好まないサブカルタッチは大きなマイナスだが、何といっても宮﨑あおいである。女優として蒼井優と似たポジション、同い年ということもありたびたび比較される彼女だが、この作品に関しては蒼井優ではダメで、やはり宮﨑あおいというキャスティングがぴったりだったと思う。喫煙し、彼氏と同棲しているという生々しい状況にありながらも、あざといばかりにピュアで可愛らしいキャラクター。「百万円と苦虫女」の蒼井優と違って、多分性根が逞しいのだ。現実にいたら仲良くなれるかどうかは別として(私は苦虫女・鈴子とのほうが気が合うだろう)、宮﨑あおいの演じる芽衣子は非常に魅力的な女性である。ライブシーンもしっかり練習したであろうし、芽衣子としてもあおいとしてもしっかりやり切ったラストは説得力がある。愛する人と死に別れる映画は数多くあり、私はその殆どで泣けないと思うが、本作の場合、種田が死に向かった気持ちや、二人が抱えるどうしようもない閉塞感はまさに私も味わったことのあるもので、そういったこと全てひっくるめて、やたら夢見がちな自分のことのように悲しく、また僅かながらほっとする映画でもあった。個人的にはサンボマスターの方がなかなかいい味を出していると思った。 [映画館(邦画)] 8点(2010-04-21 22:29:22)(良:1票) |
33. 大いなる休暇
《ネタバレ》 「生活保護は人間の誇りを奪う」だったかな、昨今のどこまでも楽な方に堕ちていく日本人たちに捧げたい台詞が印象的だった。男たちが働き、女たちは家庭を守り、夜、愛が育まれる。単純明快な生活スタイルがもたらす穏やかさは、ありきたりなものかもしれないが、幸せと呼べるだろう。物質的には豊かでも、求めれば求めるほど飽き飽きするような私の(というよりは一般的な日本人の)生活を思えば、狭い町で狭い人間関係の中にいて、多くを望まず、そこに存在するものに価値を見出していくほうが、却って満たされるのかもしれない。展開は読めたが、思ったとおりでほっとした。ただ、良い人たちだらけなのに、医者が彼女に裏切られた時にみんなして喜んだのにはちょっと違和感を覚えた。人間らしいっちゃらしいけど。 [DVD(字幕)] 8点(2010-04-06 18:39:32)(良:1票) |
34. ミスティック・リバー
《ネタバレ》 何か観たことあるぞ、この感じ…と思ったら、「ゴーン・ベイビー・ゴーン」と同じ原作者なのか。どちらの映画にも胸糞悪い少年暴行の表現があり、さらにどちらも「選択」或いは「仮定(もしもあのときああだったら…)」がキーになった作品である。特に「選択」はこの映画の大きなテーマであると私は感じた。本作では見事にキャラクターたちが選択を誤り、結果、とても後味の悪いラストを迎える。ティム・ロビンス演じるデイヴの報われない人生を思うと、あまりに哀しい。三分の一のハズレを引いた彼と、助かった二人。振り分けられたのは単なる運としか言いようがない。その無慈悲さにはぞっとする。それが現実なんだと、分かっているから尚更だ。ちなみにデイヴがいつも人の車に乗りこみ、不幸な目に遭うというのは意図的なんだろうか。徹底的に救われない話だが、人間や人生というものの一つの真理を描いている傑作だ。作品全体を通して翳った画面と設定された年齢の割に老けた俳優二人(無論ケヴィン・ベーコン以外の二人)が見事にストーリーの陰惨さを増幅させている点も高評価である。 [DVD(字幕)] 8点(2010-04-04 21:01:37)(良:1票) |
35. 世界中がアイ・ラヴ・ユー
実に軽快。突然人が歌い踊りだすという、ミュージカルという設定そのものの荒唐無稽さと、上流家庭の人々の暢気な生活ぶりを描いた、どことなく浮世離れしたストーリーが実にマッチしている。全体的に軽いが、随所に政治・社会的アイロニーやブラックユーモアが織り交ぜられる、良くも悪くもちょっと鼻につく感じはいかにもウディ・アレンらしい。この作品のキャラクターたちの、人生にあまり危機感のないお金持ちならではの緩い価値観は、私のような庶民からすれば羨ましい半分、少し滑稽であり可笑しかった。愛の形は様々だが、単純に「アイ・ラブ・ユー」と言える相手がいることの幸福を噛み締めたい、そんな後味の良さが魅力的な一作。 [DVD(字幕)] 7点(2010-03-28 13:18:51)(良:1票) |
36. ベティ・ブルー/インテグラル<完全版>
《ネタバレ》 誰にだって意味もなく恋人に当り散らしたい瞬間はあるし、泣き喚きたい時もある。怒りに任せて大暴れしたいこともある。それでも、人はどうにかして我慢する。周囲の人に、或いは大切な人に嫌われるかもしれない、拒絶されるかもしれないという理性が働くから。その点、ベティは違う。理性より本能が勝り、したいようにする。脇の下には黒々と毛を生やし、裸同然の格好で動き回る。見た目は成熟しているが、中身は少女というより全くの子ども。うっすらとあらすじは知っていたので、この奔放なベティに男が耐えられなくなるという悲恋物語を予想していたが、全く逆だった。男は繊細すぎるベティを深く愛し、そして自分もその狂気に添う。何て重厚な愛の物語だろう。自分を偽るほどに飾り立て、仮面を被って対峙したところで、深く愛しあえるとは限らないのだ。理性は時に邪魔であるかもしれないとふと思った。三時間という尺だが、無駄なシーンはない。全てが愛と激情の日々の描写。たとえこの身を滅ぼすとしても、一生に一度はこの陶酔を味わってみたいと思う。おそらく忘れられないであろう一作。 [DVD(字幕)] 8点(2010-03-23 19:30:32) |
37. ロルナの祈り
《ネタバレ》 ダルデンヌ兄弟の映画は何となく観るのだが、お恥ずかしい話、ストーリーやらキャラクターについては全体的にうろ覚えである。共通して社会のどちらかというと下層部に生きる人の話で、ネガティブな面が描かれているのだが、あまり押し付けがましさがなく淡々としているといった感じで、それぞれの作品の印象が似通っているからかもしれない。この作品についても、兄弟らしく、描かれる内容はダークながらも全体的に上品。インパクトといえば全て中盤のロルナの心境の変化に集約されるだろう。かなり疎ましく感じていた(と思われる)相手に対し、あそこでどうしてああなるのか、一瞬理解できなかったが、安っぽい表現をすれば好きと嫌いは紙一重、愛するのも憎むのもエネルギーがいることで、そのエネルギーのベクトルが変わるだけの話だと思えば、そういうものかなという気もする。ジャンルとしてはラブストーリーなんだろうが、だとすればひねくれているし、事実だけみると、かなりの悲恋話である。だがラストは絶望じゃなく、どちらかというと希望が見出せそうですらあるのは不思議だ。私はこういったところに兄弟の作り手としての温かみを感じる。とはいえやはり、私のなかでは他の作品同様、残念ながら埋没してしまいそうである。このでしゃばらない感じがむしろ、ダルデンヌ兄弟作品の味なのかもしれないが。 [DVD(字幕)] 7点(2010-03-18 01:21:33) |
38. ラースと、その彼女
要するにダッチワイフの話という点で本作は「空気人形」と似ている。しかし、心を持った空気人形が、「心なんか持ったら面倒だ」と言われるのに対し、本作は心がないはずのビアンカが、さも心を持っているかのように周囲から生かされているという話で、全く正反対である。不思議なことに、人形が動き出すという設定上、ファンタジー要素は前者のほうが強いはずなのに、本作のほうがよりファンタジックである。多分、現実ならば、この映画の登場人物たちのようにラースを温かく見守る人は皆無で、どちらかといえば、大多数の人間がラースを気味悪がるはずだと思うから。そういう意味では、「空気人形」の登場人物たちのドライさが私にとっては現実的で、ラースの周囲の温かい人たちは何だか出来すぎた感じがした。だが、虚構ゆえに、と切り捨てたくない気持ちがあるのも確かだ。「ビアンカの存在は我々の勇気を試した」という神父の台詞があったが、そのまま私自身にも投げかけられたような気がしている。 [DVD(字幕)] 7点(2010-03-08 20:19:05) |
39. せかいのおわり
《ネタバレ》 同性としてよくわかるんだが、女にはどこかこういう狡さがあるんだよな、たぶん。好きな男の腕の中で違う男の夢を見るって言うし。最後、二人がくっついていたら陳腐なラブストーリーなんだけど、献身的な彼の愛を主人公がやっぱりかわしちゃう、それでも何だか幸せそうという、悲劇でも喜劇でもないふわっとした感じが非常に現実的。自分を愛する男という保険をかけて、幸せを求めて男から男へと渡り歩くハルコは地味に嫌な女だと思うけど、そんな彼女に一心不乱に片思いの渋川清彦(役名失念)までもがその関係性を心地良く受け入れているんだから世話ないよっていう感じである。ちなみに一見意味がなさそうなバイの店長の存在は、主人公二人にみられる男的な恋愛観(好きだから付き合いたい、好きな人だけを求める)、女的な恋愛観(好きだから逃げたい、他を求める)の中間的概念(好きだけどどうにもできない、好きだからこそ表面的には他を求める)の持ち主として描かれているのかなと思う。なかなかいい味出してますわ。 [DVD(邦画)] 8点(2010-03-06 22:15:38) |
40. おとうと(2009)
アンパンが喋るとか未来からネコ型ロボットがやってくるとかいった国民的アニメの設定に「そんなバカな」とつっこむ人は誰もいない。単にフィクションというのとは違う意味合いで、この世に起こりえない「非現実」の話だからだ。この映画も同様に、山田洋次の世界という、現代日本に似た異世界の、全くの非現実の話だと思うことにしてみると違和感なく観れる。時代錯誤という単純な話では済まされないほど独特すぎるキャラクターたちの言い回しや行動は、現代の日本では絶対にお目にかかれないだろうが、それでも深い味わいがある。いかにも人情物らしく、脇役たちが生き生きしているのも良い。特にレオ&笹野ペア。二人のいかにも下町の人間らしい陽気さ・お節介さが微笑ましい。ただやはり、蒼井優や加瀬亮など良い意味で「普通さ」が売りの若手の役者陣は、観ていてこそばゆいくらい演じにくそうではあった。でもまあ、それもご愛嬌だ(逆に吉永さんはマッチしている。ご本人が浮世離れしているからだろう)。最後に鶴瓶について。「ディア・ドクター」も良かったが、今回も素晴らしい。彼はおそらく監督に愛されるのだろう。(多分)本人の人柄がそのまま生きた役を貰って、ありのままで楽しく演じている。だから観ている者も楽しくなる。ストーリーはありきたりだし、オチも何となく分かっていたが、それでも最後はホロリとくる。山田洋次の愛する、寅さん的なステレオタイプな人情の世界は、やはり日本映画には必要だと痛感した。自分で言っててなんだが、これが現代日本の話として観られないことがちょっと哀しい気もする。 [映画館(邦画)] 7点(2010-02-28 23:48:04)(良:1票) |