421. 今朝の秋<TVM>
《ネタバレ》 『ながらえば』よりもいいできだと思います。笠智衆と杉村春子が出ていることもあって、どことなく小津安二郎の映画を彷彿とさせるところがありました。小津作品が、堅牢だった日本の家族関係が緩やかになっていくさまを描いていたのに対し、本作はバラバラだった家族が、息子の病気をきっかけに再び集まるというプロット。ただしそれも一時的なもので、息子が亡くなればまたそれぞれ散っていく。とはいえ、以前とは違った関係になっているところが、余韻を残しました。この微妙なところがリアルでけっこう。各人物の心情も過不足なく描かれ、しみじみとした人間ドラマになっていました。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-12-27 22:14:22)(良:1票) |
422. 忠臣蔵(1958)
《ネタバレ》 何を隠そう、忠臣蔵ってちゃんと見たことがありませんでした。一度大河ドラマを見始めたのですが、途中でリタイア。その後もあまり興味が湧かず、今回初めてキチンと見た次第。 とりあえず本作に関しては、台詞回しが時代がかっていてよいです。そもそも時代劇なのにこう言うのも変ですが、最近では時代劇の台詞もわかりやすいように、平易な表現に流れやすいように思います。しかし本作では、キッチリとしたいかにもな時代劇の言葉遣い。映画よりもむしろ舞台の台詞回しに近いのではと思います。人物の所作にしてもそのようなところが感じられ、ある種の古きよき伝統を味わえました。 内容はまさに娯楽の王道で、勧善懲悪。善悪の役割がはっきりしていて、特に悪のボスである滝沢修の憎々しい吉良など、おみごとでした。善玉である赤穂の浪士側では、人情味のあるエピソードが多く、いかにも庶民(町民)が喜びそうな趣向でした。こちらのボスである大石も、大変できた人物であると描写されています。今忠臣蔵を作るとしたら、そこに何らかの「意味」が付け加えられることは不可避だと思います。なので、そうしたテーマ性のない単純な物語は、今となってはかえって貴重でしょう。 けっこうフィクションのエピソードが入っているであろうことは想像に難くありません。現実に起こった赤穂浪士の討ち入り事件(武士の物語)を、大衆娯楽である「忠臣蔵」(町人の物語)へと転換させたことがわかり、なかなか興味深かったです。 映画としては、先に書いたような古きよき伝統を大いに楽しみました。こうした味わいのある映画やドラマは、もはや製作できないかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-12-23 20:41:27) |
423. 幸福のスイッチ
《ネタバレ》 どことなくNHKの朝ドラを彷彿とさせるような話でした。田舎を舞台にした、ゆる~いホームドラマ。田舎だからか電気店のお客さんはお年寄りかおじさん・おばさんばっかり。いかにも手がかかりそうなお客さんに、ちゃんと手をかけているお父さんは好感が持てます。基本的に、主人公の怜が仕事をする・働くということを身をもって知るという流れなので(そこはすごく成功している)、やはり浮気騒動がうまく収まっていない感じ。とはいえ、娘のことを思いやるガンコ親父を好演したジュリーに拍手。やたらと機嫌の悪い樹里にも拍手(笑)。もっと活躍を見たい女優さんなのですが、いろいろと難しいのか……? 全体的に小道具の使い方がうまい。いろいろと出てくるのですが、多すぎて嫌味になるところまでは行っていないのも、なかなかのもの。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-12-19 22:18:32) |
424. 眠狂四郎 女地獄
《ネタバレ》 シリーズものって、あとにいくほどつまらなくなるというのが普通だと思うのですが、私が見た限りでは、このシリーズはあとの作品が面白い。本作も、お家騒動に巻き込まれて対立勢力に挟まれるというのは以前にもありましたが、「兄が父を殺そうとしている」という話とからめて、新鮮さを出しています。ライバルの田村高廣・伊藤雄之助ともに、持ち味を出しています。特に伊藤雄之助のとぼけた味わいはいいアクセントでした。狂四郎がこの2人を斬らないというのも異色の展開ですが、そこに持っていく筋道をキチンとたてているので、不満は感じません。 タイトルは、女の刺客が次々と襲ってくるからですね……。しかしよく考えると、高田美和の小夜姫も怖い。自分に都合の悪い2人を対立させ、最終的には狂四郎たち浪人に倒させているわけですから。そして自分の藩の侍が大勢斬り殺されたというのに、ほほえんで狂四郎に礼を言う。いや~、よく考えたら「悪い奴ほどよく眠る」ってヤツですか? そう考えると小夜姫が大悪人に思えてしまうというあたりも、傑作と考えるゆえんです。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2013-12-16 22:13:53) |
425. 眠狂四郎 無頼剣
《ネタバレ》 このシリーズ、三隅研次監督はすでに担当した経験があるというものの、脚本が伊藤大輔で音楽は伊福部昭、敵役が天知茂とけっこう豪華。そのためか、なかなか見ごたえがありました。三隅監督もいろいろ凝ったショットを撮っていて、映像的にも楽しめます。お話としては、序盤に回想や伝聞を多く使ってちょっともったいをつけたようなところがありますが、徐々に人物関係が明らかにされていくところは面白い。なんといっても、このストーリー展開が楽しめます。 本作の最大の欠点は、眠狂四郎シリーズだということでしょう(笑)。主人公は別に狂四郎でなくても問題ないですし、むしろ他の人物だった方が、より自然な話になったと思います。愛染が円月殺法を使うのも、無理やりシリーズと結びつけようとするだけで、実質的に意味はないし不自然。その愛染が最期に弥彦屋の娘がどうこうと言うのも、家を爆破して父親を殺しているのをこちらは知っているので、どっちらけもはなはだしい。うまくやれば傑作になったと思うのですが。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-12-06 22:55:02) |
426. ながらえば<TVM>
「感動名作系」としては普通でしょうか。よくできていると思います。笠智衆と宇野重吉の場面など、静かですが見ごたえあり。まあ最近では、この主人公のような男性はめっきり減ってしまったでしょうから、そういう意味ではややリアリティに欠けてしまうところがありました。 それにしても、寺尾聰は親父さんに似てきましたねぇ。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-11-29 20:21:18) |
427. 眠狂四郎 魔性剣
《ネタバレ》 エンタメ映画としては、こんなもんでしょう。お話もわかりやすいし。ご都合主義がすぎるとも思いますが、あまり気にするほどでもないかと思ってしまいます(笑)。とはいえ、若い娘に灯りも持たせず夜道を帰らせるのは、どうかと思いますが。監督が替わったためか、やたらと血しぶきが飛びまくるのも、娯楽作品的です。お話の方は、一応浪人の狂四郎VSお家大事の藩士という対立構図で、そこを突き詰めればまた違った作になったかと思いますが、あくまで味付け程度に抑えているのはかえってよかった。全体としてB級感が漂っているのですが、肩の凝らない娯楽作品としてはまずまず楽しめました。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2013-11-25 20:00:57) |
428. 決断の3時10分
《ネタバレ》 はじめは金のために引き受けたベンが、次第に違うものをよりどころとして行動するところがいい。その展開に持っていくため、口のうまいダンにあれこれ喋らせたり、家族やアレックスといった人物を配しているのもうまい。中盤会話が中心になったので、ちょっとダレた感はありましたが、最後のダンの「男気」など、うまい終わり方だったと思います。フランキー・レインはあいかわらずいい声してますね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-11-24 10:04:27) |
429. 暗くなるまでこの恋を
《ネタバレ》 これは原作も読んだのですが、アイリッシュ(ウールリッチ)が下り坂になる端緒の長編だったりします。どうもそれまでの犯罪小説ではなく、「犯罪がらみの恋愛小説(ストレート・ノベル)」を書こうと思ったようなのですが、みごとに失敗。主人公がヒロインをなぜそんなに愛するのか、よくわかりませんでした。 この映画も、その原作の欠点をそのまま持ってきてしまいました。とはいえ、原作よりは理解できるかな、という気はします(カトリーヌ・ドヌーヴだし)。しかし、あくまで彼女にこだわる主人公に共感できないので、見ていてツライ。まあ、ストーリーよりも雰囲気を楽しむ映画かもしれませんし、実際映像面では見るべきところもありましたが(だからおまけで+1点)、根本的にどこをどう楽しめばいいのか、さっぱりわからない作であります。恋愛映画が好きな人なら楽しめるんだろうか? [映画館(字幕)] 6点(2013-11-22 20:31:44) |
430. 眠狂四郎 炎情剣
《ネタバレ》 これまでに見た『殺法帖』や『勝負』に比べると、まだよかった。対立する2つの組織に関わる主人公というのは『用心棒』の影響かもしれませんが、本作での狂四郎はどちらにも積極的に与しないし、距離のとり方がいい。「あくまで俺は俺」というところが、ニヒルな剣士らしかった。冒頭助太刀する場面以外では情に流されすぎず、クールなところに魅力を感じました。本作のように「望まないのに争いに巻き込まれ、面倒なことはできるだけ避ける」という話の方が、妙に人のいい『勝負』などより楽しめます。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2013-11-16 18:04:29) |
431. 眠狂四郎 勝負
《ネタバレ》 シリーズを見るのは2作目ですが、どうも面白さがわかりません。加藤嘉とか女優陣はいいと思うのですが……。根本的に、眠狂四郎という人物に魅力を感じません。そのあたりが元ではなかろうかと推察します。かといってつまらないというわけでもないですが。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2013-11-11 20:06:23) |
432. 眠狂四郎 殺法帖
《ネタバレ》 眠狂四郎といえばニヒル(虚無的)というイメージがあります。最後の独白などそういう部分もありますが、どうも女に本気で惚れたような台詞を吐かれるとちょっと違うのでは……と思ってしまいます。お話の方は加賀藩と銭屋の対立に巻き込まれた形ですが、あくまで独自の立場を貫くところはハードボイルド的でいいのですが。しかし千佐が娘だったとかは、ちょっと都合よすぎという気もします。富三郎、もとい健三朗は存在感がありました。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2013-11-05 23:19:46) |
433. チャップリンのニューヨークの王様
《ネタバレ》 『殺人狂時代』と比べると、明確なコメディ映画となっています。文明批判はチャップリンの得意とするところですし。特にルパート君の演説がやたらとおかしい。マッカーシズムへの批判もいいですが、最後にはやや露骨に出てしまったのはちょっと残念。肝心のホースのギャグが面白くなく、むしろしつこく感じてしまいました。しかし全体としてはなかなかよかったです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-10-29 20:46:19) |
434. チャップリンの殺人狂時代
ブラック・ユーモアの作としてはそれほど笑えません。例外は釣りと結婚式の場面で、ここだけパントマイム風の笑いなので、全体の中で完全に浮いています。前半はやや退屈ですし、どうも時間をもてあましたのか? 最後までギクシャク感がつきまといますが、考えると、むしろそれが狙いなのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-10-28 22:27:50) |
435. カレンダー・ガールズ
話としては鉄板なのですが、イギリスらしいシニカルさがあって好き。おばさまたちのはじけっぷりが楽しい。パリーの「エルサレム」が婦人連合のテーマ曲になっているのも嬉しいです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-10-26 19:46:38) |
436. 憎いあンちくしょう
《ネタバレ》 これはキツイわー。一応純愛とかテーマらしいのですが、裕次郎が怒鳴り、ルリ子がわめき、シッチャカメッチャカ。こんな2人がくっつこうが離れようが、もうどうでもいいです。全然魅力が感じられない。監督はヌーベル・バーグの影響を受けているのか、手持ちのカメラを使ったりしていますが、なんか格好をつけただけ感があって、演出も特にいいとは思えません。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2013-10-21 19:46:43) |
437. アメリ
《ネタバレ》 登場人物はまあ魅力的なのですが、お話が絶望的に面白くない。とくに最初の20分くらいは苦痛ですらありました。後半少々持ち直しましたが。アメリがニノにアルバムを返す段取りなど、回りくどすぎてとてもついて行けません。アップの多用とかナレーションもうるさくてむしろ邪魔。あまりこういう表現は使いたくないのですが、「お花畑な映画」という印象。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2013-10-20 10:35:43) |
438. 風速40米
《ネタバレ》 色々な要素が入っている割に、テンポが遅いというか、本題に入るまでが長く感じます。一応会社買収とそれにからんだ親子の話がメインだと思いますが、あまりにも単純すぎるのであれこれ加えているような印象。その結果まとまりがないように思えました。北原三枝や渡辺美佐子が下着姿になったりと、変にお色気シーンを入れているのもチグハグ。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2013-10-12 20:41:04) |
439. 慕情(1955)
《ネタバレ》 主題歌は音楽の教科書にも載っていて有名でしたが、映画の方はロマンスという以外あまりよく知りませんでした。まあラブストーリーとしてはこんなものでしょう。実話が元というのは初耳でした。 それよりも興味深かったのは、共産党の扱い。中国からは香港に逃れてくる人がたくさんいるし、スーインの妹は共産党に狙われないよう外国人と親しくなる。マークは朝鮮戦争の取材に行って亡くなり、はっきりとはしていませんが、北軍の攻撃が原因でしょう。つまり本作での社会主義・共産党というのは完全な悪役で、ほぼ全否定されています。ハリウッドでマッカーシズムが猛威を振るったのは1950年代前半のようですが、それと関係があるのでしょうか。もっとも、本作が公開された前年の1954年12月2日にマッカーシーは失脚することになり、反共産主義の映画としては時機を逸したと言えるかもしれません。 本作が主題歌以外あまり話題にならないのは、ラブストーリーとしてありきたりなだけでなく、政治的な問題もあるのではないかと思えました。 あと、中国難民の女の子に歌を歌わせたら、「フレール・ジャック」だったのには驚きました(しかも中国語の詞)。 [映画館(字幕)] 7点(2013-10-06 22:29:15) |
440. 2001年宇宙の旅
《ネタバレ》 最初にリバイバルで見たときは、宇宙ステーション内の背景が白い場面で字幕がほとんど読めず、イライラしました。あまりよくわからなかったのは、それも一因ではないかと思います。のちにテレビで放送されたときは、吹き替えなので台詞がわからないということもなく、おぼろげながらおおよその見当はついたようです。今回久しぶりに見直してとりあえず気づいたのは、『サイボーグ009』の天使編や、『新世紀エヴァンゲリオン』の人類補完計画の元ネタでした、ってことでしょうか(笑) おそらくこういう映画に点数をつけるとすれば、満点か零点かの二択でしょうが、個人的には特に思い入れがないのでマイナス1点しておきます。それに傑作かと問われると、さてどうでしょうとなりますし。大いに示唆に富む作品ではあるでしょう。 あと、欧米産の作品として、やはりキリスト教との関連は見逃せないでしょう。そもそも猿人が登場するところで創世記を否定していますし。リヒャルト・シュトラウスの『ツァラトストラはかく語りき』が使われているのも、単なる効果ではなく、ニーチェの書物を題材にしたということがポイントだと思います。とはいえ、欧米人の宗教観は実感できないので、そのあたりは単なる想像になりますが……。まあ、こちらの想像力を大いに刺激する映画でもあるので、それはそれでよしとしましょうか。 NHKでの放送を録画してあるので、改めてそちらでも楽しみたいと思います。 [映画館(字幕)] 9点(2013-10-02 20:00:42) |