41. 座頭市血笑旅
赤子を連れての座頭市の珍道中。この趣向が、シリーズのほかの作品にはない味を添えているね。三隅監督だと、細部まで目が行き届いた安定感が群を抜いている。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-07-01 22:10:32) |
42. 新・座頭市物語 折れた杖
《ネタバレ》 勝新太郎がアヴァンギャルドの気質を持った映像作家であることは聞いたことがあったし、実際勝プロで「燃えつきた地図」を勅使河原宏を使って撮らせたりしてるし。しかし、ここまですごい映像をとる人だとは、予想外だった。これに比べたら、89年のリメイク版なんて、足元にも及ばないぶっとんだ映像だ。 まず構図にびっくり。下から上から、至るところにカメラを据える。そしてアップをとにかく多用する。アップが逆に見ているほうの想像力をかき立てる。そしてひたすら殺伐とした世紀末的世界。(まるで「北斗の拳」だね。)痴呆の少女がチンピラどもにいたずらされたりなど、衝撃的なシーンも。 これはすごい。本当にすごい。自分で築き上げてきたシリーズを自らのプロデュースで自らの演出で壊してしまう、勝新太郎。頭が下がります。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-06-18 22:49:10) |
43. ヘンリー五世(1989)
丁寧に作って、しかも役者が一級品、それだけあれば特に小細工しなくても面白くなる――そんなシェイクスピア映画のお手本のような作品。何度か見ているけど、見れば見るほど発見がある。もともと愛国主義的な劇作品で、その意味では決して面白い原作ではないのだけど、それでもこれだけの映画になる。ひたすら感心してしまう。ブラナーは、残念ながら、シェイクスピア映画の作り手としては、デビュー作を超えていないね。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2007-06-17 15:07:32) |
44. 座頭市(2003)
《ネタバレ》 最初に見たのは、アイルランドの映画館でした。いや、こう書くとなんか自慢話みたいな感じがしますが、普通に観光旅行で時間潰しに立ち寄っただけの話です。館内は意外と閑散としていました。まあ、こんなものなんだろうな、って感じもしました。私を日本人と見るや、チャンバラが好きで黒澤が好きだとかいうスペインから来たという役者志望の男がいろいろ話し掛けてきて、ちょっとうざったかったです。で、何がいいたいのかっていうと、そのチャンバラ好きを自称する彼が、映画が始まると、やたらと悲鳴に近い叫び声をあげてたんですね。いや、その反応の素直さに、かえって感動しました。確かに、これは、今までのどんなチャンバラ映画とも異なるものでしょう。もっといえば、座頭市という名前すらふさわしいのかどうかとすら思います。勝新太郎が演じ続け、築き上げていったキャラクターとはあまりに違いすぎる。しかし、北野がこの映画でやっている、自分自身の本来の路線と娯楽性とで、どうやったらおりあいがつけられるのかという実験は、成功しているのは間違いないです。 [地上波(邦画)] 8点(2007-06-05 23:15:49) |
45. その男、凶暴につき
北野映画は、デビュー作から完成されていたのだと実感。とにかくすべてにおいて、すでに完成されていたのだな。後の作品は、すべてこの映画のヴァリエーションとすらいえるかもしれない。いや、もちろん、これは、誉め言葉。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-06-05 23:03:56) |
46. 眠狂四郎 無頼剣
《ネタバレ》 月だ。この映画のポイントは。最初は三日月の元での橋の上での殺陣。そして、すこし満月に近づいた、最後の屋根の上での天池茂との対決場面。月影の円月殺法。三隅研次の映像美にひたすら酔うのみだ。ああ、この快楽! [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-06-02 22:36:16) |
47. 42丁目のワーニャ
《ネタバレ》 チェーホフっていうのは難しい劇作家だと思う。全世界的に見て、シェイクスピアについで上演回数が多いくせに、滅多に成功した舞台に出会えない。でも、みんなチェーホフを上演したがる。そういう作家だ。思いをうちに抱えていながら、その思いを人に伝えることも出来ず、また、それゆえに、他の人の思いを理解することも出来ない。そういうディスコミュニケーションの世界。そりゃ、表現するのは難しいよ。 で、この映画は、チェーホフに正当に挑んで、成功している。アメリカ人なのに、いや、アメリカ人だからこそ、成功したのか。とにかく俳優たちがうまい。ホント、感心するほど、うまい。でも、特筆すべきは、ジュリアン・ムーアだと思う。エレーナという役どころに必要なのは、こういう美しさだ。存在するだけで人をひきつける。その説得力が大切なんだ。(モスクワでの初演ではチェーホフ夫人が演じたというが、これはかなり違うと思う。)その美しい彼女がひたすらわが身の不幸をかこつ。だからこそ絵になるのだ。 原作で言う第二幕の終幕、エレーナとソーニャの和解の場面の美しさよ。 そしてこの一級品の「舞台」を、「映画」としての一級品に仕上げた、ルイ・マルの生涯最後の力業に心からの敬意を評したい。 [ビデオ(字幕)] 8点(2007-06-02 22:24:29) |
48. DISTANCE/ディスタンス
このゆるさがたまらない。過去と現在の、一件ぶっきらぼうな混合の編集も、慣れればひたすら心地よい。長い。確かに。だけど、一度流れに乗ってしまうと、そんなに苦にならない。よかった。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-06-02 22:15:36) |
49. 恋のエチュード
《ネタバレ》 トリュフォーの中で一番好き。かつてそう思った。今見直して、やはり、これが一番いいとおもう。『突然炎のごとく』と似てる設定で、原作者が同じだからもちろんそうなってもいいんだけど、それにしてもなあ、って思ってみていると、ちゃんと映画の中でその理由が明らかにされる。ナルホドなって感じ。主人公は同性から見て共感できない。むしろ、姉妹のいたわりあい、旧習との葛藤、親との確執(ってほどではないけど)というような諸々の描写が、じわりじわりと染み透ってくる。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2007-05-27 09:06:37) |
50. マイ・プライベート・アイダホ
《ネタバレ》 いや、シェイクスピア原作だってことは知っていた。見始めて、最初、そう言われればそうだなあ、という感じだった。しかし、30分ほど経って…「あっ」と。これは、シェイクスピアの『ヘンリー四世』じゃなくて、それをもとにして作られた『オーソン・ウェルズのフォルスタッフ』をベースにしてる! シェイクスピアから選ばれたシーンやせりふが、全部このウェルズの映画に準じてるんだもの。全編ウェルズへのオマージュだ、これは! 何しろウェルズの方の原題に使われた「真夜中の鐘をよく聞いたものだった」ってせりふがしっかり使われてるのだもの。他にも、ロックスターを襲撃する場面のリバーやキアヌやボブの衣装とか、彼らのたむろしている宿(?)のおかみがウェルズのイーディス・エヴァンズにそっくりなしゃべり方をしたりとか、ネタには事欠かない。 若いころウェルズにはまっていた身としては、ホントは、それだけで嬉しくなってしまうところなんだけど、この映画は、それをベースにしっかりと、青春の痛みが描かれている。もちろん、そのことの方がこの作品で最大に評価されるべき点だ。これは強調しておこう。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-05-16 21:40:47) |
51. 次郎長三国志 第八部 海道一の暴れん坊
《ネタバレ》 いきなりネタバレ的にはじめますが、石松が死ぬのは、わかってるんです。有名な話ですから。でも、わかっていても、やっぱり石松、死なないでくれって思ってしまう。森繁バンザイ。私が見た限りでは、この石松の演技が一番好きだな。欲を言うと、最後に三五郎とまた絡んでほしかった。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-04-19 11:51:22)(良:1票) |
52. 次郎長三国志 第六部 旅がらす次郎長一家
《ネタバレ》 これは、ある意味、次郎長シリーズの最大の問題作だなあ。いや、もちろん、いい意味で。これまで、シリアスな筋とコメディータッチが同居している展開で、それが作品のリズムになっていたのだけど、この作品、ほとんど笑えないものなあ。兇状持ちとなった次郎長一家、病に倒れるお蝶姐さん、好きな酒も断ち、いつか清水に帰ることを夢見てひたすら耐える子分たち。暗い、暗すぎる! でも、いい! しかも、泣ける! [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-04-17 23:38:10) |
53. 次郎長三国志 第四部 勢揃い清水港
下の方々の気持ちもわかる。連続ドラマでもシリーズモノでもつなぎに徹している回というのはあるもんだ。でも…それにしちゃあ、おもしろいじゃあないの。タイトル通り、集まってきたねえ。 加東大介はどんな映画に出てきても加東大介だなあ、と実感。好きだなあ、この人。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-04-11 23:20:01) |
54. 次郎長三国志 第二部 次郎長初旅
全体的にコメディータッチ。ミュージカルっぽいところすらある。踊る次郎長一家。こう書くとインド映画みたい。でも最高。やっと石松登場だい! こいつは次が楽しみだ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-04-11 23:08:44) |
55. 次郎長三国志 第一部 次郎長売出す
念願の九部作にいよいよ挑戦! いや、これはいいや。等身大のヤクザ映画。そういうヤクザ映画ってあるもんだねえ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-04-11 22:49:46) |
56. 乱れ雲
《ネタバレ》 司葉子ショウだー! 小津映画のときには見られなかった可憐さだと思う。とにかく美しい。 物語は、確かに、メロメロなんだけど、やはり確かな演出と役者の演技で、最後まで引きつけられた。成瀬は遺作として、彼のキャリアをまったく傷つけることのない作品を残せたんだなあ。それは、本当にすごいことなんだと思う。(某巨匠K監督の晩年とか見てるとね。) あと、成瀬には珍しいカラーだけどつつましい色合いが結構好ましかった。(下の【放浪紳士チャーリーさん】の言からすると、フィルムが色あせているせいかもしれないけど。) 意外だったのは、あの武満徹が、こんなメロメロな音楽を書いていたこと。こういう音楽も書くんだね。 そういえば、この映画と同工異曲と言えば言えなくもないのが、ルビッチの『私の殺した男』(1932)。これは、もう、涙なくしては語れない、ルビッチの隠れた名作です! [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-20 22:43:17)(良:2票) |
57. 花とアリス〈劇場版〉
《ネタバレ》 他愛のない話なのに、というか、あまりにどうでもいい話なのに、どうしてここまで癒されてしまうのだろう。中年の親父がこの映画に感動してしまうって、かなりやばい気もする…でも、とにかく、主役二人の自然な演技は、見ていて気持ちいい。実は2度目の鑑賞なのだけど、一度目のときは、何が良いのかよくわからなかった。この違いは何? みなさん気づかれているとおり、徹底的に漫画ネタで世界が構築されている。一つ面白かったのが、高校の文化祭で演劇部が上演している劇『ジャングル大帝』が、『ライオン・キング』のパロディーだった点。ディズニーの『ライオン・キング』が公開されたとき、これは『ジャングル』のパクリだと、新聞の紙面をにぎわすほどの大騒ぎになったものだけど、ここでそれを逆手に取ったわけだね。これは笑えました。 [DVD(邦画)] 8点(2007-03-18 23:30:03) |
58. 歌行燈(1943)
芸と芸とのぶつかり合いの迫力。新派を支えた花柳章太郎と、同じく新派出身の山田五十鈴の素晴らしさ。花柳章太郎の端正な面持ちは、戦後同じ役を演じた市川雷蔵にも負けてない。彼は、同じ芸道もので溝口健二の『残菊物語』でもいい演技をしていた。戦後の衣笠貞之助版の方が20分くらい長くて、その分ドラマの展開もしっかり描き込まれているが、でもこの戦前の成瀬版も、負けず劣らず素晴らしい。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:26:21) |
59. 鶴八鶴次郎(1938)
《ネタバレ》 ある意味、ルノワールの『黄金の馬車』の対極にある映画だと思う。この映画の主人公は、相方が芸の世界に沈み込まないことが幸せだと思って自ら身をひいてしまう。『黄金の馬車』の主人公は、芸(演技)の世界の嘘に耐え切れず、現実の世界に真実を求めて芸の世界から遠ざかろうとするが、現実世界の中に自身の居場所を見出すことが出来ず、結局、虚構の中にいることが自分のアイデンティティーなんだと認識してその世界に戻っていってしまう。世界の美しさとしては、ルノワールの世界の方に軍配をあげてしまいたいのだけど、だけど現実生活に根ざしたリアルさという点では、成瀬の方だよね。でも、どうしても、あれだけの芸を持っていた鶴八が芸を捨ててしまうことが幸せには思えないのは、芸を極めることになんて縁のない世界に生きている者の見方なんだろうなあ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:24:10) |
60. 秋立ちぬ
タイトルから、「風立ちぬ」ふうの悲恋ものかな、などと勝手に想像してたけど、あけてびっくり。子供の世界の話とは。しかも珠玉のように美しい。こういう隠れた小品を発見すると本当に嬉しくなる。小津安二郎にも「おはよう」とか「生まれては見たけれど」みたいな子供映画の傑作があったけど、それとも違う味わい。下のレビュワーさんで、ネオレアリズモにたとえていた人がいたけれど、確かに、日本映画的な子供の描き方とはちょっと一線を画しているかも。描かれているのは明かにあの頃の日本なのだけど、手法は西洋的。というか題材的にはもう一歩のところでヌーヴェルヴァーグだし。ただ、1960年というと、もうヌーヴェルヴァーグが出てきてたから、当時は時代遅れと見られていたかも。でも、今の目で見ると、逆に新鮮だ。こういう丁寧な職人的な意匠を見ていると、「Always」の世界が作り事に見えてきてしまう(あれはあれでよかったけどね)。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2007-03-18 23:22:52) |