41. ミリオンダラー・ベイビー
《ネタバレ》 ヒラリー・スワンクという女性を知ったのは私のなかでは史上最強の鬱映画「ボーイズ・ドント・クライ」である。この映画で彼女が演じたのは(ネタバレになるので仔細は語れないが)、孤独を抱えながらも、強く美しく生きる女性の役であった。本作と「ボーイズ…」では役柄の印象は結構近い。彼女のような、野性的な美人という形容では物足りない、とかく凄味がある女優は、そうしたハードな役でこそ活きる。映画自体の出来に言及する以前に、彼女の仕事ぶりだけでもどちらも一見の価値はあるだろう。このままでは「ボーイズ…」のレビューと兼用になってしまうので、本作について。驚くほど単純明快に、素晴らしい作品だ。スポーツは観るもやるもてんで興味のない私だが、本作は何しろただのスポ根モノではない。ボクシングという飾りを纏った、実に深遠な人間ドラマなのである。マギーとフランキーの間にあるのは、親子のようにイノセントではあるが、親子のようにおんぶに抱っこではない、あくまで互いを尊敬しあう、男女としての愛である。ラストは賛否あるようだが、私は自然に思えた。人生はいつだって理不尽なもので、突然の不幸に見舞われることもあるが、そのなかで最良の選択をしていくしかない。愛は刹那であるがゆえ、永遠に美しい形で留めておきたかった二人の決断(正確には一人の意志と、その意志に従ったもう一人の判断)は、あくまで二人の関係においては正しかった。それでいいのではないか。ありきたりなシンデレラ・ストーリーも悪くはないが、不幸や悲壮のなかに一縷の望みや喜び、自分なりの救いを見出す人々の物語のほうが、ずっとリアリティがあるし、胸に響く。本作はあちこちで賞賛を浴びるイーストウッド監督の力量がよく分かる、重厚な映画である。 [DVD(字幕)] 8点(2010-02-26 21:07:17) |
42. ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習
下品さややり過ぎ感がこの作品の魅力なんだと力説されたとしても、やっぱり下品だし、やり過ぎ。ある国の文化(それも、全世界的には「メジャー」とされているような?)を他文化の視点から俯瞰してみたとき生じる可笑しさを描いているという点では、文化人類学の要素が詰まった作品だと思うが、何しろ絶対に教材としては使えないから意味がない。それならばとただ単にエンターテイメントとして観ようとすると、楽しませられるより、不快感が勝る。フェイクドキュメンタリーは個人的に好きだが、だからこそ(多分)素人さんたちのガチ困惑が辛かった。うん、発想はいいと思う。ただ何事もほどほどが一番。 [DVD(字幕)] 5点(2010-02-18 18:44:48) |
43. スリーサム
《ネタバレ》 やりたいならやりたいでいい。ただ、おまえらは本能のままの猿なんだから、感傷にも自己憐憫にも浸るなと言いたい。特に同じ女として、自分より美しく魅力的な(このあたりは私の主観?)女の子に対して、侮蔑的な振る舞いをするアレックスに嫌悪感を抱いた。いるんだよな、こういう女。そのコミュニティー内では女王なんだけど、傍から見るとただの勘違い女。それが薄々自分で分かっているから、殊に自分の地位を脅かしかねない闖入者にはやたら排他的な態度になる。男たちも負けず劣らずだらしない。何だかいろんな意味で感情逆撫で映画だけど、こういう、「自分たちだけドラマティック状態」を盲目的に楽しんでいる奴らって、大学というところには結構多い。ちょっと極端なテーマではあるが、この年頃の度を越した所謂「リア充」のイタさの描き方は純粋に上手いと思った。 [DVD(字幕)] 6点(2010-02-16 20:26:23) |
44. レザボア・ドッグス
《ネタバレ》 とにかくもう、オープニングにしびれた。タランティーノ作品は実はそんなに観ていない自分も、彼のファンが多いのには妙に納得させられたこの映画。シリアスながらも何となくおかしみのある会話やシチュエーションに、スタイリッシュな音楽、グロ。Mrホワイトの口癖で字幕に何度も出る「大殺りく」の文字、血がジャンジャン流れて人が死にまくっているのに、その言葉選びのセンスに思わず笑ってしまった。これはタランテーィノが悪趣味なのか、自分が悪趣味なのか(っていうか、普通に考えたら翻訳者が悪趣味か)。時間軸がぐちゃぐちゃだけどつぎはぎも上手でなんかもうお見事としか言えない。私はバイオレンス系の作品が正直苦手なので、この映画も食わず嫌いというか何となく避けてきたが、実際に観てみると、流血と暴力は飾りで、本質は人間ドラマというか群像劇的な部分なんだなと感じた。ハーヴェイ・カイテルとティム・ロスの友情?、Mrブロンドのサイコっぷりと意外な忠誠心、そしてやっぱり卑怯で小物なブシェミ、その他諸々。犯罪者だからって冷徹・理不尽一辺倒ではなく、筋を通すところは通すし、彼らにもそれぞれの個性や考え方がある(当たり前といえば当たり前だが)。演技以前に、俳優それぞれが役柄にマッチしているというキャスティングのセンスも凄いと思う。というわけで何もかも素晴らしい映画だが、自分としては人質の警官があまりに可哀相過ぎて満点にはできなかった。このへんはあくまで好みの問題なので…映画としては文句なしの大作。 [DVD(字幕)] 8点(2009-12-13 14:06:29)(良:2票) |
45. さよならみどりちゃん
《ネタバレ》 この映画の(映画に限らず小説でも漫画でもサブカル臭の漂う作品には結構ありがちなんだけど)、ルックスその他諸々、それなりに恵まれた人間の恵まれているなりの悩みやらセンチメンタルやらそういったものを描き出し、「わたしせつないの」(あえてひらがな)って言いたいだけのストーリーには正直虫唾が走る。愛されないなんてぶーぶー言う以前に、そもそも、文字通り水も滴るいい男・西島秀俊の、知性とだらしなさが漂う美しい顔に、あるいは程よく中年くささもある色っぽい身体に、一生のうちで一瞬たりとも触れることができない女が世の中の圧倒的多数だと思うぞ(そしてその圧倒的多数のうちの一人、男日照りが続くこの私には、主人公の感傷が最早不幸自慢に思える。哀)。一体どの層が共感するのか。っていうかこの映画に共感できる人とは仲良くなれそうもないな、自分は。いかにも遊び人なユタカに近づいて、案の定深みにはまって自暴自棄になり、自分を慕う男の子と軽く寝てみるとかいうヒロイズムも何か気持ち悪いし。でも、いるんだろうな、こういう人たちって。一握りのドラマッチックな人間は、こうやって何もかもがスタイリッシュな恋をするんだろうな。その挙句失恋したって何となく慰められて前向きに生きられるきっかけもたくさんあるんだろうな。そしてまたそれなりにいい相手と出会うんだろうな。それで恋愛中はウン○もしなけりゃ、オ○ラもしないんだろうな。…とまあ、一回どおり僻んでみて、結論としては好きな作品では絶対無い。だが、映画としてはなかなかのもんです。原作未読だが、この手のサブカル漫画の空気感みたいなものは描けているはずだし、ミニシアター系邦画特有の映像の透明感みたいなものも描けていると思う。あと特に評価できるのは、主人公に、昔から美人でちやほやされ続けているようなオーラの女優ではなく、「中学のときイケてない」女子だった感のある、どことなく垢抜けない星野真里を起用したことかな。 [DVD(邦画)] 7点(2009-12-10 22:09:27) |
46. コドモのコドモ
《ネタバレ》 幼い少女が出産するというストーリーの映像作品がここ数年で何作か世に出て、物議を醸した。でもよくよく考えたら、作品中でもばあちゃんが言ってたが、産むことができる身体だから赤ちゃんができるってことなんだし、自然の摂理に反しているわけではない。子どもが出産するというテーマの問題点は、私が思いつく限り2つある。1つは赤ちゃんを育てるということは経済力や躾の面で子どもには難しいということと、そしてもう1つは―こちらの方が大きいと思うが―妊娠や出産以前の過程で、そもそも子どもがセックスするというのがタブーであるということだろう。前に他のレビュアーさんが書いてらっしゃる、セックスの意味も分かっていない子どもがセックスするということが暴力であるという意見はもっともだ。ただ、この手の作品の意味は、無論、幼い子どものセックス礼賛ではない。汲み取るべきは、「よかったね~」と笑い合っている周囲の理解ある仲間や家族という奇麗事ではなく、批判的な第三者というリアルの部分であると私は思う。また本作の、幸せそうな「今」だけ切り取り、あまり未来を感じさせないラストシーンはどこか名作映画「卒業」に似たものを感じる。これからもずっと幸せなんて約束はない。世の理みたいなものに背いて選んだ道は、間違いなく厳しい。それでも生まれてしまったものは仕方ない。たとえ産みたいという感情は一時的なものでも、結果は永遠についてまわる。ともかく子どもだろうが大人だろうが、命を作り出すという行為はいろんな意味でとーっても重い。そういうことを、不安も感動もひっくるめて、感じられればいいのではないか(そしてそれが似たテーマの「JUNO」よりは断然感じられる本作)。ただまあ個人的には、ハルナの大きなお腹にばあちゃん以外の大人がいつまでも気づかないというのが、子どもにしか見えない赤ちゃんの存在…的なファンタジー設定ゆえにかと思っていたから、本当に産んじゃうのには驚いた。「自分の子どものことは何でも分かる」と豪語する母親がずっと気づかないという設定はやっぱりどうしても無理がある。そこに何らかの意味を持たせたかったのは承知の上でも。 [DVD(邦画)] 7点(2009-12-07 21:35:46)(良:1票) |
47. ジャーマン+雨
野嵜好美といえば山下敦弘監督の秘蔵っ子という印象だ。それだけに(?)、よしこのような、憎たらしいがある意味魅力的な破天荒キャラがぴったりくる稀有な女優さんである。その彼女を主演に据えた横浜監督のセンスとガッツ、それだけでも私のなかでは結構高評価な本作だが、私が特に素晴らしいと思ったのは作中キャラクターである。登場人物に誰一人真っ当な人間がいないながらも、舞台が辺鄙な田舎町だから特に、こういう奴いそうだよね的な共感を呼ぶ。同じ変人系映画でも、ケラや三木聡作品のように「こんなやつおらへんやろ~」と思わずつっこんでしまうようなぶっ飛びタイプではなく、横浜監督が好むのは山下タッチのリアリズムである。愛を持って「ヒト」をよく見ている、そんなイメージ。それから、ストーリーについて。一見ポップだが、本質としては前のレビュアーさんがおっしゃるとおり、結構暗い。「ウルトラミラクル~」もそうだったので横浜監督の好みなのかもしれないが、積極的な前向きさはなく、どちらかというと諦念を抱き、どう開き直るかが主眼であるように思える。それで下手なメッセージ映画よりも、何だか逆に励まされるのは私だけではないと思う。映画の規模を考えたら限界があるとはいえ、人々にもっと観られていい映画。ただ、もう少し分かりやすくてもよかったんじゃないかと思う場面は多々あった。ドイツ人とよしこは性関係を持ったのかな?私は勝手にそう解釈しちゃったけど…。 [DVD(字幕)] 7点(2009-12-05 14:53:50) |
48. 美代子阿佐ヶ谷気分
《ネタバレ》 安部愼一という男は天才漫画家である。しかし私にとっては、彼が私の敬愛するミュージシャンの父親であることのほうが重要である。美代子夫人と安部氏の愛は壮絶である。壮絶であるがゆえに納得させられる。二人の愛が安部兄弟を生み出し、また、その愛の狂気が息子たちに影響を与え続け、その結果(残念ながら解散してしまったが)スパルタローカルズというバンドが作られ、また、素晴らしい音楽の数々がこの世に存在するということ。古臭くてボロボロな映像と、美代子演じる町田マリーの特別綺麗ではない裸体、「みんな夢の中」、それらが象徴する、阿佐ヶ谷という街で過ごした二人の男女の、人間らしく汚れていながらも美しい物語は、命を紡ぎ、確かに今に続いているのだ。スパルタローカルズの「水のようだ」が流れるなか、安部愼一本人が登場するエンドロールは本当に感無量である。無論、安部愼一もその息子たちも知らない人にとっては、この映画はわけもわからんし、退屈な、とんだ失敗作であるかもしれない。絶対に万人にはオススメできない。だが、今回ばかりは私情オンリーで評価させていただく。最高の映画です。 [映画館(邦画)] 8点(2009-12-01 22:46:43) |
49. 春の日のクマは好きですか?
嫌いではない。ペドゥナが可愛いし、全体的にポップで、ところどころ笑えて、さらっと楽しめる。ストーリーも何か健気で好ましい。ただ、(他の方も指摘されているみたいですが…)盛り上がり部分で突然鳴り響く大音量のバラードがなんかいちいち安っぽい。おいおい、月9じゃないんだからさ。韓国の作品というのはあまり馴染みがないのだけど、全体的にこうなのでしょうか?こういった作品そのものの価値を貶めかねない派手なBGMが、カウリスマキ作品よろしく、逆に笑うポイントだと捉えていいなら疑問もないけど、どうもそういう意図は感じられないし。素材はいいのに調味料間違えたような、言いようのないもどかしさ、歯痒さを感じる映画。ペドゥナのキュートさに救われています。本当、この人はいい女優だ。 [DVD(字幕)] 6点(2009-11-15 14:41:59) |
50. プライベートレッスン 青い体験
《ネタバレ》 エロとセンチメンタルの両立はなかなか難しいと思う。セックス映画にしたけりゃ自殺など重いエピソードは蛇足だし、青春期特有の繊細さや葛藤を描きたければ赤裸々なエロシーンは不要。どちらも追求した(であろう)結果、どちらも半端に終わっている。完全に二兎を追う者は~状態になってます。ぺドゥナの美しい肢体を拝めたことで多少評価が甘くなる鑑賞者も多いと思われるけど、だからこそペドゥナはもっと仕事を選んでよかったのでは…というお節介な感想を持った(この作品に関しては特にメインの男子二人が、私の好みからすると、なぜ女に不自由しないのか理解できないのも大きいかもしれないが)。製作者の言いたいこと、やりたかったことはわかるのだけど。皆さんがつっこんでいるタイトルについては言うまでもなし。 [DVD(字幕)] 5点(2009-11-15 14:28:12) |
51. ジョゼと虎と魚たち(2003)
《ネタバレ》 そんじょそこらのホラー映画やサスペンス映画に負けないくらい、私にとってはものすごく怖い話だった。彼氏がいなくなったからと「種を撒く」一見清純派美少女(という設定であるらしいことはわかるが…しかし、上野樹里は化けたなあ。ホントに)、その美少女を高みから揶揄するクールな女、軽く恋しちゃう大学生ノリの延長線で重くなるであろう恋に走り、案の定、その重みに逃げ出す男…本当にこの世は魑魅魍魎の住処だなあ。不気味なばあちゃんや凶暴な幼馴染み、変態おじちゃんのほうがよほど私には好ましく思えたが、こういった人々のほうが異端扱いされるのが世の常。普通の人間って怖い。悪意がないから余計怖い。ジョゼとツネオの恋についての感想は人それぞれなんだろうけど、心溶かすような恋が永遠でなく一瞬だと分かっているならば、知ってしまうより、いっそ何も知らないままで海の底の何もない暗闇に延々漂っているほうが幸せなんじゃないかと私なら思う。離れていくツネオの心を眺めているジョゼの、物分りよく諦めの境地に立っているふりをしながら、懸命に「そんなもんだよ」と自分に言い聞かせているであろう心情を思うと、哀しくて哀しくてどうしようもなかった。この映画を前向きとか希望とかいう風に語れる人はきっと大人なんだろう。思い出に生きることもまた幸せだろうなんて、今の私には到底思えない。ただ、これから先、恋をしたら、もう一度観たい映画ではある。いつかは私にもこの味が分かるようになるといいのだが…しかしそれにはあと数年はかかるだろう。なにしろこの強烈な恋愛への恐怖心はしばらく私を支配するだろうから。でも結局はそのくらい、素晴らしい映画だった。 [DVD(邦画)] 8点(2009-11-06 22:54:57)(良:1票) |
52. 母なる証明
《ネタバレ》 今までいくつか観てきたなかでいえば、ポン・ジュノ監督はどうもある種の反骨精神の持ち主らしく、教授や司法家など、世間的に地位の高い者や権力を持った者を大抵くそみそに描く。そのペンとカメラでの裁きっぷりは容赦ない(何かトラウマでもあるのだろうか?)。本作でも、杜撰な捜査をする警察や、弱い者いじめの強い人間たちが出てくる、出てくる。嫌らしい大人のオンパレード。そんな社会じゃ弱者は救われず、貧しい少女は身売りまがいのことをしなければならないし、愚者はあくまで利用される。だからこそ母は強くなり、弱者である息子のために奔走する羽目になるわけだが…。結局この作品で一番不幸だったのは、正直者のおじさんと、罪がないはずなのに少女の鼻血によって捕まった少年。二人に「母」はなく、救ってくれる者はなかった。当初は「可哀相」だったはずの母子は、他人を「可哀相」にして、自分たちは助かってしまう。庇い合える存在さえいてくれたら、人は何とかなるってことか。それにしても、本当の意味では救われない作品。ミステリーではあるけれど、謎解き的な要素より人間の光と影というか、そういった部分が面白かった。しかし、様々な伏線をきちっと収束させる手腕もお見事。貧しいはずなのに湯水の如く湧いて出るお金については目を瞑ろう。 [映画館(字幕)] 8点(2009-11-01 20:26:38)(良:2票) |
53. スカイ・クロラ The Sky Crawlers
《ネタバレ》 私が今ここに存在しているということ自体の苦しみ。「永遠」への恐怖。私は随分昔に気づいてしまった。私たち人間はみな、逃れることのできない仕組の中に生きていることを。私たちもまたキルドレである。終わりなく戦い続け、苦悶し続ける存在だ。ようやく忘れかけていたことをまた思い出させられた。観たくなかった。 [DVD(邦画)] 7点(2009-10-20 18:16:29)(笑:1票) |
54. ブラインドネス
《ネタバレ》 設定そのものには色々と筋の通らないところがあるのだが、突然わけのわからない極限状況におかれたとき人がどうなってしまうのかという心理的な面は上手く描けていると思う。右も左も分からない不安定な世界だからこそ、日頃は社会性という名の被服に隠された肉欲、性欲、支配欲が丸裸になり、(各々の共通認識では)全員が盲人という等しく不自由な状態にあっても、何らかの条件で自然にカーストができあがる。おぞましいシーンの連続で非常に不愉快だが、このようなテーマであるからにはそのあたりの描写は避けて通れまい。そんなもんは観てるこっちも覚悟の上だ。ただ、どれほど苛酷な思いを味わっても、恵みの雨に打たれたとき、視力が回復したとき、傍にいる仲間との友情を確かめ合ったとき、人は笑っていられる。乗り越えていけるのだ。この、人間の精神の強さや美しさが大事なところなのだと思う。また銃と視力という、集団内で圧倒的に強い武器を持った二人の運命が、己の欲のために使うか、他人を助けるために使うのかによって、明暗分かれたのも良かった。性悪説も性善説もなく、人は王になるべきか聖母になるべきか、その都度選択するのだろう。非常に訓示的であり、理屈っぽさも感じるところだが、純粋に心に残る作品だった。ただ欲をいえば、もう少し目の見えない演技を徹底してほしかったかな…一番重要な設定のはずなのに、時々完全に忘れていることがあった。 [DVD(字幕)] 7点(2009-10-18 14:16:05)(良:1票) |
55. 空気人形
《ネタバレ》 印象が「TOKYO!」の一編、ミシェル・ゴンドリー監督の「インテリア・デザイン」と酷似している。モノ化する人間とヒト化する物体。どちらも途方もなく寂しいファンタジーだ。私にとって東京という街は特別である。渇いていて、クールで、美しい街。積年憧れてはいるが、住んだところでおそらく永久に融合できないだろうと思っている。この映画は私の憧れる東京のイメージそのものだ。身体に満ちているものが空気だろうが血液だろうが関係なく、人は誰かに使われて、いらなくなれば捨てられる。その結論はあまりに寂しいが、そういうものだから生きていられるのだと思う。観たときの気分かもしれないが、顛末があまりにも現実に正直で、非常に感銘を受けた。そしてなにより、ぺ・ドゥナがこんなに綺麗だなんて知らなかった。 [映画館(邦画)] 9点(2009-10-08 19:29:13)(良:1票) |
56. ワンダフルライフ
是枝監督の作品は観る人を選ぶというよりは、観るときの気分を選ぶような気がする。この映画も、レンタル店で何度か手に取ろうとしてはやめた作品だったが(私には人の生き死にについて考えることをやたら忌避してしまう時期がある)、今の私にはすっと入ってきた。静謐さのなかにほのかな温かみが滲んでおり、製作者側に人間そのものへの愛がないと作れない作品だろうと感じた。また、大学時代に専攻していた学問がきっかけで、人の「語り」に興味がある私にとっては、アドリブっぽい自分語りのシーンも興味深かった。俳優陣も見事に味のある人揃いで、特にARATAの透明感のある文学的な風貌が印象深い(年をとってちょっと寂びれた今の彼のほうが個人的には好きだが)。人生は誰にとっても物語なんだな、そんなことをしみじみ感じた日曜の昼下がり。退屈だが、悪くない時間だった。 [地上波(邦画)] 7点(2009-10-05 00:06:40)(良:1票) |
57. プール(2009)
《ネタバレ》 ミニシアター系邦画にありがちな、消化不良なままぶつっと切れる感じのエンディング。もたいさんは死んでしまうのか、さよと青年の間に特別な感情は生まれないのか、小林聡美はタイにとどまるのか、少年の行く末はどうなるのか…台詞は少なく、登場人物たちのバックグラウンドはいまいちよくわからないまま、勿論先のこともほぼわからないまま映画終了。もう少し処理のしようもあっただろうにと思わなくもない。しかし、付け足しの如く説明的な結末だったらそれはそれで違和感が残っただろう。この映画は、映画そのものが「旅」なんだと思う。きれいだとか美味しいとかめいっぱい感じ、刹那の幸せや感動を味わい、あとは思い出が残るだけ。変わろうとか変えようとか、そんな意気込みを持って旅することも勿論あるにはあるのかもしれないが、タイという国にはこの映画のようなとりとめのない旅がぴったりなんだろう。はっきりと形に残るわけでもないが、さよの旅はさよ自身、それから 彼女が係わった人々それぞれの心に何らかの後味を残す。そしてみんな、それぞれの場所で生きていく。それだけでいいと思う。けちをつけるところはいくらでもあるが、帰国して振り返れば、なんとも素敵な「旅」だった。 [映画館(邦画)] 7点(2009-09-30 19:04:11) |
58. ステラ
《ネタバレ》 下品な女に、鼻につく吹き替え。観始めた瞬間、これは個人的にいけ好かない作品だろうなと感じたものの、途中で止めるのもなんだし…と、半ば「もったいない」の精神で鑑賞し続けたわけだが、中盤以降~終盤、終始涙が止まらなくて、作品の素晴らしさに正直驚かされた。初めはステラに不快感を覚え、こんな品のない女にひっかって…と医者の卵に同情を寄せていたのに、いつの間にか印象が逆転していたのも凄い。結末は報われないが、それはあくまで観ている者の感想であり、ステラは娘が幸せになったことを心から喜んでいるため、結局はハッピーエンドである(それまでステラがどう生き、また、その後どう生きていくのかはちょっと考えたくもないが…)。たまたま母子家庭に育った自分には、母と娘特有の冗談を言って笑い合うようなシーンに殊更共感したこともあり、ちょっと忘れられない一作になりそうな予感。ちなみに、他のレビュアーさんには不評な、本作のやたらシーンが飛ぶ構成は、個人的にはテンポが良くて好きだ。 [地上波(吹替)] 8点(2009-09-27 12:45:43) |
59. マーティ
《ネタバレ》 恋をして舞い上がり多弁になるかと思えば、些細なことで急に冷めることもある。身近で起こる、誰かのありふれた恋愛模様をつぶさに観察したら、本作のような光景が多々見られるはず。そういう意味では物凄くリアルで、それが狙いならば大成功。しかし、なんだかなあ…純粋に心温まるとは思えず、どちらかというと私にはとても皮肉っぽい作品に思えた。ひとたび恋愛→結婚→家族という風な、人生のオーソドックスな軌道に乗るか、それが見えてくるかすると、人は結局同じ台詞を吐いてしまうもんなんですよ、というような作者の意図が見えたから。ところで、気になったのは、マーティの相手役の女性のブス設定。今までどなたもレビューにてツッコまれていないし…もしかしてどこからどう見ても美人に見えた私の美意識はズレてるんだろうか。困った困った。 [地上波(字幕)] 6点(2009-09-15 17:59:35) |
60. 俺たちに明日はないッス
タナダ監督の映画は基本的に外れなしだと思っている。今回も面白かった。しかし敢えて辛めの点数なのは、ずばり中途半端だからです。本作の主題歌を手がけている銀杏BOYSのような、ガキっぽい、それでいて男臭い(イカ臭い?)世界観をがっつり撮りたかったんだろうなという監督の意図は汲める。しかし、やはり女性監督。出来上がった男臭さはどこか寓話的というか、リアルを謳ったどフィクションという感じ(私が女だからうそ臭く思えるのかもしれないけど)。男子のキャラ作りが女子に比べて浅いからかな…。なんだか焦点が定まらず非常にふわっとした印象を受けた。タナダ監督の凄さを知っているだけに惜しいと思ってしまう。女中心のストーリーだと本当にばっちり決まるのに。以前から、彼女の好きな方向性は山下敦弘であったりTheピーズであったりという、しみったれ・汚い路線なんだと思うが、本人の感性がまだまだ繊細で綺麗すぎる気がする。あと一歩という感じで非常に歯痒いけれど、これからもっともっと汚れていただきたいです。ちなみに注目(?)の二世二人より、地味に嫌な女の巨乳ちゃん役の水崎綾女が個人的にはツボだった。 [DVD(邦画)] 5点(2009-09-12 17:34:55) |