581. ガルヴェストン
《ネタバレ》 肺癌を宣告され余命いくばくもないチンピラ、ロイ。酒が原因で身を持ち崩し、恋人や親しい友人も次々と離れ、気がつけば自分一人になっていた。追い打ちをかけるように、地元のマフィアのボスに嵌められた彼は殺人犯として警察に追われる羽目に。そんな人生八方塞がりのロイが偶然出会ったのは、押し入った家に監禁されていた19歳の少女ロッキーだった――。誰にも頼らずただ自分の身体を売って生活していた彼女と、人生のどん底に居る孤独なチンピラ。何処にも居場所のない二人は、警察やマフィアの手を逃れ、ただひたすら逃避行を続けてゆく。途中ロッキーの実家に寄って彼女の妹だという3歳の女の子を道連れにした彼らが辿り着いたのは、アメリカのどこにでもあるような平凡な田舎町ガルヴェストンだった……。社会の片隅で残酷な運命に翻弄される孤独な少女とチンピラ、絶望の果てに彼らはいったい何処に辿り着くのか?今を時めく人気女優エル・ファニングが、そんな荒んだ生活を送る娼婦役に体当たりで挑んだ本作、これがなかなか見応えのあるヒューマン・ドラマの佳品に仕上がっていたと思います。とにかくこの全編を覆う息苦しいまでの閉塞感は観ていて辛いばかりなのですが、エル・ファニング演じる娼婦の今にも壊れてしまいそうな儚げな魅力が唯一の救いとなっています。どうやら幼いころから親に虐待されて育ったロッキー、彼女が妹の前では健気に笑顔を見せるところなど、その切実な思いが痛いほど伝わってきて胸が締め付けられそうでした。そんな二人が海岸で楽しそうに海水浴をするところはこの重苦しい物語の中で、唯一希望が感じられる美しいシーン。でもその後、物語は一気に加速してゆきます。どん底を這いずり回るような彼らを襲う、更なる過酷な運命。死んだ方がいい人間が生き残り、未来があるはずの人間が辿ることになる悲劇。正直、見れば見るほど気が滅入ってしまいそうなのですが、それでも最後、20年もの月日が過ぎ去った後に明かされる真実には微かな希望が感じられ、哀切な余韻を残してくれます。赤いドレスを纏い楽しそうに踊るロッキーの笑顔が、いつまでも心から離れそうにありません。人生の深い哀感を感じさせる、なかなかの良品でありました。お勧めです。 [DVD(字幕)] 7点(2019-12-29 02:46:16) |
582. ワイルド・ストーム
《ネタバレ》 アメリカ西海岸に史上最大規模のハリケーンが襲来!!警察の主導で住民が次々と避難するなか、その危機に乗じて財務局に保管された6億ドルもの古い紙幣を強奪しようと企む者たちがいた。手薄になった警備の隙を突き、金庫がある建物を占領したプロの犯罪者集団。強固なセキュリティに手間取りながらも彼らは着実に計画を推し進めてゆくのだった――。一方、命からがら施設から逃れてきた女性警備員は偶然近くにいたハリケーンを研究する環境学者の協力のもと、なんとしても彼らの計画を阻止しようと立ち上がる。凄まじい暴風雨が吹き荒れる中、果たして彼らは無事に犯罪者たちの計画を阻止することは出来るのか?『ワイルド・スピード』や『トリプルX』でお馴染みのロブ・コーエン監督が迫力の映像でおくる、そんなクライム・アクション。まあ観る前からおおよその予想はついていましたが、かなりの大味作品でしたね、これ。何処かで見たようなストーリーと何処かで見たようなアクション・シーンのてんこ盛り。目新しい部分と言えば、ハリケーン襲来というディザスター・パニックものと現金強奪というクライム・アクションの融合ですかね。とはいえ、それもうまくいっているかと言われればそれほどでもなく、中盤からは脚本の粗も目立ち始め、クライマックスにいたってはもはや破綻していると言ってもいいくらいでした。主人公二人も恐ろしく魅力に乏しく、対する犯罪者集団もなかなかのアホっぷりで見ていて腹立ってくるくらい。最後のオチなんて投げっ放し感が酷くて、もはや見られたもんじゃありません。まあ映像的にはそこそこ迫力があったんで、ぎり5点ってとこですかね。 [DVD(字幕)] 5点(2019-12-29 01:30:25) |
583. アウトサイダーズ(2016)
《ネタバレ》 イギリス郊外で犯罪と貧困の中に暮らす親子三世代のぎりぎりの生活を描いたクライム・アクション。演技派俳優マイケル・ファスペンダーが二人の子供の将来のためにひりひりするような犯罪を繰り返す父親役を好演しております。トレーラーハウスで今も一緒に暮らす父親の方針で幼いころから学校にも行かせてもらえず、いまだに自分の名前すら書けない彼。でも自分の子供たちにはそんな負の連鎖を引き継がせたくないと必死にもがくさまが、リアルな貧困描写と迫力のカーアクションとともに描かれています。確かに訴えたいテーマも分かるし、俳優たちもなかなか頑張っていたし、肝心のアクションシーンもキレがあって良かったと思うのですが、いかんせん脚本がいまいち練られていない印象を受けてしまいました。最初から最後まで、主人公たちが同じところを堂々巡りしているだけで、一向に物語が進んでいかないのです。そのままお話は大して盛り上がることなくクライマックスを迎え、普通に主人公は捕まって終わり……。うーん、もう少しこの物語に深みを持たせてほしかった。貧困の負の連鎖にもがく家族の苦悩はけっこうリアルに描けていただけに、肝心のストーリーの方がどうにも物足りない作品でありました。 [DVD(字幕)] 5点(2019-12-27 00:13:25) |
584. ボイス・フロム・ザ・ダークネス
《ネタバレ》 イタリア郊外に建つ広い古城へと、住み込みで働くことになった看護婦ヴェレーナ。当主である没落貴族の一人息子ジェイコブが、半年前に母を亡くしてから一切話さなくなったので面倒を見て欲しいというのだ。誰にも心を開かず、父親はおろか誰とも会話しないジェイコブに最初は戸惑いながらも献身的に看護をするヴェレーナ。しばらくすると彼女はジェイコブの不穏な行動を目にするようになる。石造りの壁に耳をつけ、何も聞こえないはずの向こう側に何時間も耳を澄ませているのだった。どうやら病気で死んだ自分の母親の声が壁の向こうから聞こえてくると信じているらしい。調べてみると、この城の一画には一族の者が永遠の眠りに就く納骨堂があって、彼の母親もそこに納められていた――。自分の手には負えないとヴェレーナは城を去ろうとするのだが、依頼主である彼の父親はもう少しここに残って欲しいと懇願する。何故なら彼女が今はなき彼の妻に似ているからだという。閉ざされた空間で次第に惹かれ合ってゆく二人、すると更なる不可解な現象が家族を襲い始める…。閉ざされた城の中で暮らす心に深い傷を負った親子と、献身的に彼らをサポートする看護婦の不穏な関係を描いたゴシック・ミステリー。このいかにもなタイトルと設定、そしてパッケージ描かれたおどろおどろしいイラストに、「あー、きっとこれはごりごりのゴシック・ホラーなんだろうな」と観始めたのですが、実はこれって男女の関係性メインの恋愛ドラマよりの作品だったのですね。そうだとしてもなんだか心理描写が浅はかすぎて、とても見られたもんじゃありませんでした。哀しみのあまり口を利かなくなった少年も本当にただ黙ってるだけだし、妻を失い孤独に生きる彼の父親も子供を治したいのか新しい嫁が欲しいのかいったい何がしたいのかよく分かりません。挙句の果ては、特に心惹かれる展開もなかったのにいきなり彼と一線を越えちゃうヒロイン。え、まさかのヤリ〇ン設定?!(笑)。それに壁の中から聞こえてくる声という、中途半端にホラーっぽい描写をたまに入れ込んでくるのも鬱陶しくてしゃーなかったです。肝心の?エミリア・クラークのヌードもほんのちょっと出てくるだけで、しかもこれがなかなかのぽっちゃり具合でだいぶ残念!最後のオチにいたってはテキトー過ぎてもはや目も当てられません。うーん、何もかもが中途半端な凡作でありました。 [DVD(字幕)] 3点(2019-12-27 00:00:20) |
585. テリファイド
《ネタバレ》 理屈では説明できないような不穏な事件が相次ぐ、アルゼンチンのとある街の一画。排水溝から突然聞こえてくる謎の声、風呂場で不合理な死を遂げる主婦、そしてバスに轢かれて死んだはずの少年は次の日、無残な姿となってリビングに座っていた――。自分の手におえないと判断した担当刑事は、その手の超常現象を専門的に研究する科学者たちに調査を依頼する。やって来た彼らは、すぐにこの一画の家々に禍々しい何かがあることを直感するのだった。不審な事件が起こったそれぞれの家に泊まり込み、独自に調査を開始する科学者たちと刑事。やがて、彼らはこの世のものとは思えない凶悪な何かと対峙することになる……。アルゼンチンを舞台に、そんな理屈では説明できない現象に巻き込まれる人々の恐怖を独自のセンスで描いた新感覚ホラー。何の予備知識もなく、ギレルモ・デル・トロがハリウッドでリメイクすることが決定したということで今回鑑賞してみました。いやー、なかなかに禍々しい映画でしたね、これ。一軒の家から始まった呪い?が次々と周りに感染拡大していくという、いわばアルゼンチン版『呪怨』のようなお話なのですが、一つ一つのエピソードがいちいち人の神経を逆なでするいや~~~な感じのものばかりで、見れば見るほどじわじわと背筋に冷や汗が拡がってしまいました。特に、墓場から戻ってきてリビングにただただ座ってるだけのあの腐乱少年!気持ちは分かるけど、お願いですからもう大人しく帰ってくださいって感じでしたわ(笑)。なんか本家『呪怨』にも似たようなキャラが居てましたけど、こっちはこっちでやーーーな感じですね。他にも角度によって見える異形のじじいだとか、戸棚の中から血を吸う化け物だとか、目にガラスが突き刺さったじいさんだとか、けっこう濃いキャラ揃ってます。呪いの拡大はもはや阻止できないという後味の悪いオチもベタですけど、ホラーとしてはあり。南米独特の乾いた空気の中に日本的なじめっとした恐怖を融合させようというこの試みは、確かに新感覚と呼ぶべき新しいもの。デル・トロのリメイク版も今から楽しみな、なかなかの掘り出し物でありました。うん、7点! [DVD(字幕)] 7点(2019-12-26 23:26:52) |
586. フラットライナーズ(2017)
《ネタバレ》 臨死体験をテーマにしたごりごりのホラー作品。ジョエル・シューマカーが監督し、人気若手俳優が多数主演したオリジナルは遥か昔に観たことがあり、その内容はほとんど覚えていないもののけっこう面白かった記憶があったのでリメイクとなる本作も今回鑑賞してみました。正直、これがまあ見るに堪えんレベルの酷い内容でした。しっちゃかめっちゃか過ぎる脚本に全く魅力に乏しい登場人物たち、後半になるにしたがってどんどんと面白くなくなるストーリーともはや誉めるところが見当たらない始末。主人公であるエレン・ペイジを途中で殺しちゃう意味が分からない。観るだけ時間の無駄の駄作と断言していいでしょう。 [DVD(字幕)] 3点(2019-12-21 20:38:12) |
587. リミット・オブ・アサシン
《ネタバレ》 世界中で暗躍する巨大な犯罪組織、レッド・マウンテン。長年、その組織でプロの暗殺者として働いてきたトラヴィスは、去年の不幸な出来事により今は一線をしりぞき義父とともに穏やかな生活を送っていた。そんな彼に再び組織のエージェントが接触してくる。警察に寝返り重要な証言をしようとしているかつての仲間を速やかに始末しろというのだ。高額の報酬に惹かれ依頼を引き受けた彼は、さっそくターゲットが滞在しているという南アフリカへと飛ぶのだった。だが、警護を担当する女性捜査官の返り討ちに遭い、トラヴィスはあえなく命を落としてしまう――。心臓を撃ち抜かれ完全に死んだと思われたトラヴィス。しかし、組織の最先端をゆく科学技術のおかげで彼はすぐに復活を遂げるのだった。戸惑う彼に、組織の人間は更なる驚愕の事実を告げる。蘇生は一時的なもので、明日になれば彼の命は再び失われてしまうらしい。タイムリミットは今から24時間。果たして彼は無事にこの危機を脱出し生き延びることは出来るのか?復活した凄腕の暗殺者のぎりぎりの逃避行を国際的なスケールで描くクライム・アクション。イーサン・ホーク主演で送るそんなB級感満載のエンタメ作品、頭空っぽにして楽しもうと今回鑑賞してみました。と、思ったのですが、さすがに突っ込みどころが多すぎて、自分はいまいちノレませんでしたね、これ。だいたい設定に無理があり過ぎ!!死んだはずの暗殺者が復活するというのはまあ許容できるのですが、何故組織は彼に24時間で死ぬという安全装置を組み込む必要があったのでしょう?腕に分かりやすくデジタル表記の残り時間を表示させるというのもサービス満点すぎちゃいまっか(笑)。対する彼も、何故わざわざ自分を殺そうとした女性捜査官を全力で守ろうとするのか意味不明。アクションもけっこう頑張っていたとは思うのですが、なんか全体的にキレが悪く、後半になるにしたがってどんどんとショボくなってしまうのが残念過ぎます。特にクライマックスのグダグダ具合は見ていて痛々しいレベル。なのより致命的なのは、この命のタイムリミットという設定がほとんど活かされていないところ。最後の続編作る気満々のオチにいたっては、あまりにテキトー過ぎて思わず苦笑しちゃいました。イーサン・ホーク&故ルトガー・ハウアーの渋さに+1点! [DVD(字幕)] 5点(2019-12-20 22:52:47) |
588. 0:34 レイジ 34 フン
《ネタバレ》 いつだって甘いロマンスに目がない今どき女性、ケイト。ハリウッドセレブが多数参加するパーティーへの招待状を貰うため、彼女はなんとしても今日中に友人の家へと行かなければならなかった。急いで近くの地下鉄の駅へとやってきた彼女は、終電間際のホームへと何とか滑り込む。時計を見たら、終電到着まであと8分。安心した彼女はそのままベンチに座り込むと、酒を片手にウトウトしてしまうのだった――。気付いた時にはホームに人の姿はなく、何処をどう捜しても職員すら居なくなっていた。そればかりか入り口は全て施錠され、外に出ることすらままならない。不安にさいなまれるケイト。そんな時、ホームへとやって来た一台の無人の地下鉄。藁にも縋る思いでケイトはその電車へと乗り込んでしまう。だが、彼女は知らなかった。その電車の行き先が、不条理な恐怖が待ち受ける悪夢のような世界だということを……。何処にでもいる平凡な女性が迷い込む、そんな恐怖の一夜を描いたサスペンス・スリラー。明らかに低予算作品、なおかつお話自体もよくあるシュチュエーション・スリラーながら、演出のキレがけっこう良くて僕はぼちぼち楽しめましたね、これ。何がいいって、やぱこの終電以降の地下鉄ホームという舞台設定。酔っ払って終電を逃してしまい何度もホームで途方に暮れた経験のある自分としては、この「始発までどうやって過ごそう……」という絶望感はすんごくよく分かります(笑)。その後も、どでかいドブネズミが大量発生したりとか、無機質な明かりに煌々と照らされた通路にいつの間にか血の跡がついていたりとか、死亡フラグ立ちまくりのジャンキーカップルのお約束の展開とか、ベタながらなかなか面白かったですよ。全体に漂うこの不条理感もけっこう好みだし、映像的にもいいセンスしてたんじゃないですかね。まあ、あのよく分からないモンスター出現以降は急速に失速しちゃいましたけど。それに最後のオチもちょっと投げっ放し過ぎますね。と、中身はほぼないですけど、全体的にはまあまあってとこでした。結論。お酒の飲み過ぎにはくれぐれも注意しましょう(笑)。 [DVD(字幕)] 6点(2019-12-19 22:48:50) |
589. インサイド(2016)(レイチェル・ニコルズ主演)
《ネタバレ》 私が手伝ってあげるわ、あなたが赤ちゃんを産むのを――。不幸な事故により、聴力と最愛の夫を失ってしまった妊娠中の女性サラ。高性能の補聴器を頼りに、遺された一軒家で独り暮らす彼女にとって、何とか無事に育ってくれたお腹の赤ちゃんだけが希望の光だった。だが、辛い思い出が残るこの家を手放し新たな地で再起を図ろうとした矢先、その“女”がやってくる――。雨が降り続く人通りの少ない夜、サラは突然家に押し入ってきた見知らぬ女によって恐怖のどん底へと叩き落されてしまうことに。何とかバスルームへと逃げ込んだものの、頼みの綱である補聴器は壊れて役に立たなくなってしまう。しかも、サラは女によって出産を促す薬を投薬され今にも陣痛が始まりそうになっていた。果たしてこの女は何者なのか?女の真の目的とは?そして、サラは女の魔の手から抜け出し、無事に赤ちゃんを出産することが出来るのか?謎の女に追い詰められ、恐怖の一夜を過ごすことになった女性を描いた不条理系サスペンス・スリラー。明らかに低予算で撮られたであろう、そんなよくあるワンアイデア・ワンシュチュエーションのB級作品なのですが、これがまあ設定に無理がありまくりで僕は全く物語に入り込めませんでした。だいたい一軒家に自分一人しか居ないのに、家のポストに鍵を入れて寝るというこの妻の神経がおかしすぎます。百歩譲ってそういう詰めの甘い女性だったとしても、一度不審者が現れて警察まで呼んだのなら、さすがに鍵は回収しましょうよ。また、途中で何度も警察が現れるのですが、こいつら揃いも揃って無能すぎ!女一人に簡単に騙され、しかもわざわざ殺されるために一人になるというぼんくら具合。無線で助けを呼んだのに、警察の応援がいつまで経っても一向に駆けつけてこないというのもおかしすぎます。途中、主人公が間違って自分の親を殺してしまうというシーンも胸糞悪いだけで物語上何の意味もないですし。そして、最後は無事に赤ちゃんを産んでめでたしめでたし……。何?この取って付けたような薄っぺらいハッピー・エンド。うーん、正直観る価値はなかったですね。 [DVD(字幕)] 4点(2019-12-17 21:51:43)(良:1票) |
590. ロスト・マネー 偽りの報酬
《ネタバレ》 街の悪党の事務所から200万ドルが奪われた。周到に準備をし犯行に及んだのは、ハリーをリーダーとするプロの犯罪者集団。だが、彼らはその日、致命的なミスを犯し、警察に追われる羽目に。追い詰められた彼らは警察と激しい銃撃戦を行った挙句、奪った金もろとも炎上し全滅してしまうのだった。奪われた金は、実は街の悪党がこれから政治の表舞台へと繰り出すための重要な金だった――。なんとしても金を取り戻したい悪党たちが目を付けたのは、ハリーの遺された妻ヴェロニカ。哀しみに暮れるヴェロニカに、彼らは一カ月以内に奪われた金を全額返せと無茶な要求をしてくる。犯罪者の妻とは言え、それまで平凡に生きてきた彼女に当然払えるあてもない。藁にも縋る思いでヴェロニカが考えた方法。それは、夫のノートに遺された次の犯罪計画を自ら実行に移すこと。ヴェロニカは夫とともに死んだ犯罪者集団の遺された妻たちに連絡を取り、とある大物政治家の裏金を奪うという計画を推し進めていくのだったが……。へまを犯し虫けらのように死んでいった夫たちのケツを拭くために、遺された“寡婦たち”が無謀な犯罪へと挑む姿を描いたクライム・サスペンス。監督は前作『それでも夜は開ける』でアカデミー賞の栄誉に輝くスティーヴ・マックイーン。主演には、リーアム・ニーソンをはじめとする人気俳優が多数出演しております。このいかにもベタな邦題とリーアム兄貴を前面に押し出したパッケージとでいかにもB級感満載の本作なのですが、これがどうしてなかなか完成度の高い犯罪ドラマの逸品でした。この商業主義に走りまくった日本の配給会社の宣伝手法には猛省を促したいですね。だいたいリーアム・ニーソンなんて開始五分で速攻死んでしまうんですから。ドラマはその後、追い詰められた未亡人たちのひりひりするような犯罪計画を丁寧に描いていくのですが、この考え抜かれたであろう脚本は見事な出来映え。三人の遺された妻たちもそれぞれにキャラが立っており、彼女たちが八方塞がりの自らの人生を何とかして立て直そうともがくドラマは見応え充分でした。途中であっと驚く展開を見せるストーリーにも見事に騙されましたし。典型的な人種差別主義者である悪徳政治家親子を演じた、コリン・ファレル&ロバート・デュバルもいい仕事してます。二転三転するクライマックスにも素直にハラハラドキドキ。男の身勝手さにそれぞれの方法で決然と立ち向かおうとする彼女たちには最大限の賛辞を贈りたい。うん、充実した映画体験をさせていただきました。 [DVD(字幕)] 8点(2019-12-17 20:39:58) |
591. プーと大人になった僕
《ネタバレ》 大人になり、一児の父となったクリストファー・ロビン。第二次大戦にも従軍し、復員後は一般企業に就職した彼も社会の様々な荒波に揉まれ、もはや夢見ることすら忘れてしまっていた。そんな折、所属部署に突如として持ち上がったリストラ計画。コスト削減を実現できなければ、数名の社員を削減しろという上司からの命令に彼は頭を悩ませていた。週末の娘たちとのバカンスもやむなく延期せざるを得ず、次第にギクシャクしていく家族。すると、100エーカーの森の奥深くから、彼の“古い友達”がやってくるのだった――。何もしないことを頑張る癒し系キャラクター、クマのプーさん。世界中から愛される、この元祖ゆるキャラとも呼ぶべきディズニーアニメの古典を最新の映像技術で実写化したという本作、監督がわりかし好きなマーク・フォースターということで今回鑑賞してみました。リアルな戦場描写やままならない理不尽な現実を容赦なく描く冒頭部分から、単なる子供向けではないことをアピールする本作のスタンスにはなかなか好感が持てましたね。そうして現れるクマのプーさんのぬいぐるみっぽい造形も、リアリティをぎりぎり損なわない愛くるしさで良かったと思います(若干怖いときもあったけど笑)。なによりこのクマのプーさんを主人公の子供のころのイマジナリー・フレンドのように描くストーリーがノスタルジックで大変いい。そう、生きるための生活にいつしかしんどさを覚えた時なんかに、ふと子供のころの無邪気で楽しかったときを思い出すようなこの感覚はすごく良く分かります。ノートの切れ端なんかに夢中で書いた、いま読むと拙いばかりの絵物語を懐かしく読み返してみたくなるときってたまにありますもんね。ただ、これは仕方ないとは言え、途中からこのクマのプーさんたちが普通に実在の存在として周りの人々と関わり始める展開になっちゃうところが僕的には残念でした。最後まで、このお父さんと娘にしか見えないイマジナリー・フレンドのように描いてくれた方が物語上しっくり来たと思うのですが。まあそうしちゃうと、このクマのプーさんという存在自体否定しちゃうことになっちゃうので、ディズニー的にもそれは無理ってものかな。うん、ぼちぼちってとこでした。余談だけど、はちみつでべとべとのクマプーを娘のベッドに寝かすのはどうかと思うぞ(笑)。 [DVD(字幕)] 6点(2019-12-15 01:28:33)(良:1票) |
592. バレット・ヘッド
《ネタバレ》 若造がへまをやらかし、誰も居ない寂れた廃工場へと命からがら逃げ込んだ三人の強盗たち。何とか大金の入った金庫だけは持ち出せたものの運び出すための車は事故で動かない。町には警察がうじゃうじゃ、連絡を取った仲間が助けに来てくれるのは日が暮れてからだ。三人は仕方なくこの工場で夜になるのを待つことに。だが、彼らはまだ知らなかった。その工場では夜な夜な違法な闘犬賭博が開催され、そこには殺処分される予定だったイカレタ殺人犬が居ることを――。突如として襲い掛かってきた血に飢えた闘犬と、三人のコソ泥たちの命を懸けた闘いが今、幕を開ける……。そんな明らかな低予算作品なのですが、エイドリアン・ブロディやジョン・マルコビッチ、アントニオ・バンデラスという渋めどころの役者陣共演に惹かれて今回鑑賞してみました。完全にタランティーノの出世作『レザボア・ドッグス』を意識して撮られたであろう本作、確かにこの殺伐とした空気感や主人公たちの哀愁漂うキャラクター設定などは良かったとは思うんですけど、なんだろう、この最後まで付きまとう、腑に落ちなさは。やはり、あれですね。いくら血に飢えた狂犬とはいえ、大の男が三人も居るんだから、頑張ったら何とかなるっしょというところですかね。ヤクチュウと老いぼれとひょろひょろというへっぽこ三人組だとはいえ、みんなで力を合わせたらあんな小さな犬っころぐらい何とか押さえつけられるだろうに。そこのところがどうにも説得力に欠けて、僕はいまいち物語に入り込めませんでした。随所に挿入されるそれぞれのキャラクターたちの犬にまつわるエピソードの見せ方や、何度も繰り返される犬目線の映像などはけっこう撮り方も凝っていて面白かったんですけどね。うーん、全体的にあと一歩足りない印象の作品でございました。 [DVD(字幕)] 5点(2019-12-12 00:47:50) |
593. ザ・アウトロー(2018)
《ネタバレ》 48分に1回、銀行強盗が発生するという大都市ロサンゼルス――。この危険な街を舞台に、破天荒な生き方で我が道を貫くアウトロー刑事と、常に冷静沈着な頭脳派犯罪者たちの息詰まるような攻防をスリリングに描いたクライム・アクション。犯罪者をどこまでも追い詰める刑事の腕は一級ながら、私生活は破綻している主人公を演じるのはまさに嵌まり役のジェラルド・バトラー。冒頭からいきなり始まる激しい銃撃戦に、「ああ、これはきっと頭空っぽにして観るべき、アクション重視のエンタメ映画なんだな」と思わせるものの、それも最初だけ。それ以降は、この正反対の二人の男の駆け引きがひりひりするような空気の中で描かれていて、これはこれで見応え充分でした。白昼堂々と決行される銀行強盗へと向け、徐々に双方の緊張感を煽ってゆく演出もお見事。特にクライマックス、連邦銀行の中枢部で展開される緊迫感に満ちたやり取りには普通に手に汗握っちゃいました。と、なかなか面白かったのですが、いかんせんストーリーがこのジャンルの名作『ヒート』とあまりにも似すぎているのが本作の評価の分かれるところ。法を守るべき情熱的な刑事が離婚寸前で愛する家族と破綻状態、反対に犯罪者の方が仲間とともに落ち着いた生活を送っているという設定もまんまだし、突発的に始まる白昼の銃撃戦もかなり影響受けちゃってます。オリジナルなのは最後に実は影の黒幕がいたみたいなとこですが、これもちょっと分かりづらくて僕はいまいち納得できませんでした。それに脚本の細部に「?」なところがあるのもマイナスポイント。普通に面白かったですけど、この作品ならではと言うオリジナリティがもう少し欲しかったですね。 [DVD(字幕)] 6点(2019-12-10 22:10:43) |
594. フューチャー・ワールド
《ネタバレ》 核戦争後の荒廃した近未来。秩序はことごとく破壊され、人々は剥き出しの本能のみを頼りに生きながらえていた。そんな絶望的な世界で、暴行と略奪を繰り返す“侵略者(レイダース)”の襲撃に怯えながらも、何とか平穏な暮らしを送っていたオアシスの民。だが、彼らは今、深い哀しみに暮れていた。長年、その秩序の象徴として崇められていたクイーンが重い伝染病を患い、死の淵に瀕していたからだ。「なんとしても母の命を救いたい」――。彼女の息子であるプリンスは、どんな病気でも治すという薬を求めて荒野へと旅立つことを決意する。わずかな銃弾が詰められた拳銃のみを手に、その薬があるというパラダイス・ビーチを目指して危険な荒野をゆくプリンス。そんな彼に、凶悪な〝侵略者(レイダース)〟の魔の手が迫っていた…。血と暴力に満ちた世界で、僅かな希望を求めて旅する一人の男と彼を付け狙う荒くれ者との攻防を描いたバイオレンス・アクション。まあ『マッドマックス』以来何度も何度も描かれてきた、よくあるディストピアSFなのですが、監督も務めたジェームズ・フランコやミラ・ジョヴォビッチ、懐かしのルーシー・リューも出ているということで今回鑑賞してみました。率直な感想を述べさせてもらうと何の捻りもない、凡庸な出来でしたね、これ。先に述べた豪華な役者陣は全て脇役、主人公はこのプリンスという若者なのですが、まぁーこいつがびっくりするくらい魅力に乏しいんです。情報収集に来た売春宿で、仲間の忠告も聞かずに可愛いおねーちゃんとベッドインしようとしてその仲間を殺されちゃうというドアホぶりで、その後もちょっと痛い目に遭わされるとすぐに故郷の場所を吐いちゃうというヘタレ具合。そこから成長するのかと思いきや、危機に陥るたびに敵を裏切った女ロボットに何度も助けてもらうという彼の他力本願ぶりには唖然としちゃいました。また、物語の鍵となるこの女ロボットの存在も正直よく分かりません。ようやく辿り着いた目的地(これもけっこうあっさり着いちゃって、え、もう着いたんかいとずっこけそうになっちゃいました笑)に君臨する、ミラ・ジョヴォビッチ演じる女ボスも意味不明。何故か薬を飲ませた男と戦わせて、勝ったらその腹割いて薬取ってもいいよってどーゆー趣味?!そしてその女ロボットを巡って急に仲間の女とレズ三角関係に発展しちゃうとこなんて、「はぁ、何その唐突な展開?」と頭ポカーン状態。どうしてこの凡作にハリウッドの有名どころが多数出演しているのか、もはやその存在自体が謎の作品でありました。男たちのパラダイス、ラブ・タウンでのおっぱい大安売りに+1点!! [DVD(字幕)] 4点(2019-12-08 23:15:13) |
595. ピッチブラック
《ネタバレ》 宇宙の片隅に浮かぶ小さな惑星。そこは三つの太陽が浮かび、常に灼熱の日差しが降り注ぐ死の惑星だった。だが、そこは22年ごとに一度、皆既日食によって漆黒の闇に包まれる夜が訪れる。そして、それは砂漠の砂の中に蠢く闇の生き物たちの解放の日でもあるのだった――。偶然にもその最悪の日に、流星群との衝突によって不時着を余儀なくされた一隻の宇宙船。地表に降り立った乗組員たちは、想定外の事態に途方に暮れるばかりだった。衝突の衝撃で死亡した船長の代わりに指揮を執る女性副操縦士に、様々な荷物を運ぶ古物商、異国の神を信じる異教徒、ならず者を捕らえて大金を稼ぐ賞金稼ぎ、そして彼に護送される途中の凶悪な殺人犯……。乗ってきた宇宙船が大破した今、果たして彼らは無事にこの死の惑星を脱出することが出来るのか?といういかにもなB級モンスター・SF・アクション。アイデアはなかなか秀逸だし、登場人物たちもそれぞれにキャラが立っているし、映像的にもけっこう凝った撮り方をしているしでまあ良いのだけど、なんだか全体的に惜しいんですよね、これ。演出の細かいところに「?」な部分が多すぎて、僕はいまいち楽しめませんでした。材料はすこぶる良いのに、巧く使いこなせていない感じ?三つの太陽が昇る惑星に22年に一度訪れる夜、すると大量に蠢きだすエイリアン、迎え撃つは夜でも目が効く無法者の殺人犯……と、いくらでも面白くなりそうな材料が揃っているのに、すごく勿体ない。アイデアや舞台設定は良かっただけに、残念! [DVD(字幕)] 5点(2019-12-08 03:13:29) |
596. アメリカン・サイコ
《ネタバレ》 アメリカの金融街で充実した毎日を過ごすエリート・サラリーマンでありながら、その裏では心の奥底に暗い衝動を抱えた殺人鬼でもある男。彼の倒錯した狂気の日々を乾いたユーモアを交えて描いたサイコ・スリラー。なんだかんだでけっこう有名な本作を今さらながら鑑賞してみました。うーん、正直さっぱり面白くなかったんですけど!映像的にはときおり印象的なシーンがあるものの、肝心のストーリーの方がだらだらしててもう見られたもんじゃありません。肝心の殺人シーンも添え物程度にときおり出てくるだけで、それもストーリーにうまく絡んでこないですし。最後のオチにいたっては投げっ放しの酷い代物で、もはや怒りさえ感じてしまいました。本作がいまだに曲がりなりにもその名を残しているのは、きっとクリスチャン・ベールの選民意識丸出しのいけ好かないエリート・サラリーマン役が見事に嵌まっていたからでしょうね。そんな彼が血まみれ全裸でチェーンソー片手に女を追いかけまわすシーンは、良くも悪くも印象に残ります。でも、本作の価値はそこぐらいでしょう。この現代に、わざわざ時間を割いてまで観るべき価値は全くありません。 [DVD(字幕)] 4点(2019-12-07 23:05:44) |
597. ある女流作家の罪と罰
《ネタバレ》 彼女の名は、リー・イスラエル。かつて一冊だけベストセラーを出したものの、その後はずっと鳴かず飛ばずの落ちぶれた毎日を過ごしている伝記作家だ。生来の酒癖の悪さから友達は一人もおらず、長年連れ添った恋人にも捨てられ、唯一心を許せるのは年老いた飼い猫のみ。お洒落もせず髪の毛だっていつもぼさぼさ、おまけに酒が原因で唯一の収入源だった仕事も首、家賃は何か月も滞納、愛猫の治療費すらままならない。そんな酒浸りで八方塞がりの彼女が、生活のために犯した犯罪――。それは、有名人の遺した手紙を捏造してコレクターに売りつけること。著名作家やハリウッド俳優の署名を偽造し、文面も自ら考えた彼女の手紙は、その道のプロにさえ見抜けない精巧なものだった。偶然再会したゲイの元作家を相棒に、ただひたすら生活費を稼ぐ彼女。だが、当然のようにそんな生活が長く続くはずもなく、信憑性に疑問を抱いた蒐集家の通報から、とうとうFBIが動き始めて……。有名人の遺した手紙を捏造し有罪判決を受けた、“ある女流作家の罪と罰”を実話を基に描いたヒューマン・ドラマ。何の予備知識もなく今回鑑賞してみたのですが、いやはや、これがなかなかの掘り出し物でした。冒頭から、この冴えない太ったおばさんのどうしようもないダメ日常が描かれるのですが、これがまあ自業自得としか言いようがなく、そんな彼女とバーで意気投合するゲイのおっさんもこれまたどうしようもないダメ男。この二人が手を染めることになるのが、手紙の偽装。正直、ちんけな犯罪で騙す方にも騙される方にも別段同情心は湧いてきません。だけど、この二人のどうしようもないトホホな感じ、見ていてなんか癒されるんですよね~。「人間どんな状況に陥っても意外と生きていけるもん」という彼らの開き直りっぷりが小気味いいのかも知れません。主役を演じた、メリッサ・マッカーシー&リチャード・E・グラントもそんなダメダメ男女を伸び伸びと演じていて見ていて清々しいくらい。二人そろってアカデミー賞ノミネートも納得です。特に、M・マッカーシーのどこにでもいるおばちゃん然とした佇まいは味があって大変いい。当初はジュリアン・ムーアがキャスティングされてたみたいだけど、断然こっちの方が正解ですね。愛猫が亡くなったと知って哀しみに暮れる彼女の涙には、思わず貰い泣きしそうになっちゃいました。全編を彩るジャジーで落ち着いた音楽も雰囲気があって大変よろしい。人間、なにがあろうと気の持ちようでどうとでも生きていける――。そんな勇気が湧いてくる、人生の深い哀感に満ちた人間ドラマの佳品でありました。お薦めです。 [DVD(字幕)] 8点(2019-12-01 23:32:00)(良:1票) |
598. ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー
《ネタバレ》 ライ麦畑の永遠の反逆児、ホールデン・コールフィールド――。このアメリカ文学界に突如として現れ、今や怒れる若者の代表的アイコンとなった彼の物語『ライ麦畑でつかまえて』を著したのは、まだ無名の新人作家J・D・サリンジャーだった。本作は、そのサリンジャーの謎に満ちた半生にスリリングに迫った伝記映画だ。第二次大戦に従軍後、精神を病みながらも苦労して書き上げた、その名作誕生の裏にはいったいどんな秘密があったのか。また、発表するやいなや瞬く間にベストセラーとなり、富と名声を手に入れながらも、何故彼はアメリカの片田舎に引きこもり、自ら張り巡らせた壁の中でその生涯の大半を過ごしたのか。二十代のころに『ライ麦――』を読んで感銘を受け、以来何年にもわたりファンとなった自分としては大変興味深く今回鑑賞してみた。結果は……、正直期待外れというのが僕の率直な感想だ。理由は、描かれるエピソードがそれまで知られていた事実をただ再現したものでしかなく、新しい発見が一切なかったことがまず一点。物語構成のバランスが悪く、特に第二次大戦の描写や恋人の裏切りなどがかなりあっさりしすぎているところがもう一点。そして本作の最大の欠点は、そうして再現されたエピソードがただ時系列順に羅列されただけで物語としての芯が通っていないところだ。僕が考えるに、優れた伝記映画にはその人の人生とはいったいなんであったのかを観客に深く訴えかけるようなテーマが厳然としてあるものだが、本作にはどうにもそれが足りない。苦労した習作時代や地獄のような日々を過ごした第二次大戦への従軍経験が如何にして、未だ若者にもカリスマ的な人気を誇る名作家誕生に繋がったのか、ここらへんの説得力が弱いように感じてしまった。いくら事実を基にしていても、創作である以上はちゃんと優れた物語であるべきだ。サリンジャーがその後、全ての関係性を絶ち、世捨て人のような生活を続けてきたという最も人々の興味を掻き立てる部分をナレーションで簡単に説明して終わりというのも如何なものか。すべてが表面的で浅く、サリンジャーという人物に対する掘り下げが全くなされていない。サリンジャー本人が生きてこの作品を観たら、そのあまりの薄さにきっと怒り狂うんじゃないかとさえ思ってしまった。サリンジャーの長年の愛読者としては残念というほかない。 [DVD(字幕)] 4点(2019-11-19 23:35:44) |
599. 天国でまた会おう
《ネタバレ》 第一次大戦終結後のフランス。戦場で顔に重傷を負い声を失った青年と、恋人と生活を失ったしがない中年男。絶望のどん底に生きていた彼らは、ある日、国を相手にした巧妙な詐欺を思いつく。それは戦争終結を記念した、各地のモニュメント建設を巡る公金奪取計画――。身寄りのない孤児の女の子を相棒に、彼らは戦争中にとある因縁を抱えた実業家を標的にして着実に計画を実行していくのだったが……。主人公二人のトホホな感じ、戦争により顔の下半分を失った青年が常に被っているマスクのシュールな造形、そしてマジック・リアリズム的手法を駆使した摩訶不思議な世界観に、「なんだか僕の大好きなジャン・ピエール・ジュネっぽい!」とけっこう期待して今回鑑賞してみました。うーん、確かにこの不思議な世界観は僕の好みにばっちり合ったのですが、いかんせんストーリーの見せ方がいまいちな印象でした。全体的に凄く分かりづらいんですよ、これ。例えば、あの悪役の実業家が主人公の死体を偽装するくだり。後々思い返してみれば、あの自分の後見役の爺さんの跡取りをとっとと死んだことにしたいという思惑だったと分かるのですが、ここら辺の見せ方が凄く下手。また、主人公たちの手伝いをする女の子も凄く魅力的なのに、その登場シーンがあまりにもそっけなさ過ぎていまいち印象に残りにくい。全体的な演出が終始こんな感じで、なんだか非常に勿体ないように思ってしまいました。この摩訶不思議な世界観はけっこう好みだっただけに残念です。 [DVD(字幕)] 5点(2019-11-18 22:12:29) |
600. ハンターキラー 潜航せよ
《ネタバレ》 ロシア国内で突如としてクーデターが勃発!異変を察知したアメリカ政府は第三次世界大戦の危機を阻止するため、陸軍特殊部隊及び偶然近くに停泊していた原子力潜水艦アーカンソーに秘密指令を下す。それは、反乱軍によって監禁されたロシア大統領を生きたまま救出することだった――。おおよそ不可能とも思われるそんな困難な任務に赴くことになった攻撃型原潜、その名もハンターキラー。彼らのロシア近海への決死の侵入をスリル満点の展開で魅せるポリティカル・アクション。前評判通り、なかなか面白いじゃないですか、これ。まあ、ベタっちゃあベタですけど緻密に考えられたであろう脚本はけっこうな完成度。ロシア近海に潜む原子力潜水艦と、かの国の基地に潜り込んだ特殊部隊員、そしてアメリカ本国で指揮を執る制服組との息詰まるようなやり取りはリアリティがあって見応え充分でした。潜水艦でのお約束の展開もちゃんとツボを押さえられていて(あの音を出せない状況で危うくスパナを落としそうになるとこなんて心臓に悪すぎ!!)、終始ハラハラドキドキ。ジェラルド・バトラー演じるアメリカ人艦長と、本来は敵同士であるはずのロシア人艦長とのただお互い船乗りとしてのプライドから結ばれる友情なんて熱い熱い。陸上で孤立無援の戦いを強いられる特殊部隊たちのドラマもそれに負けず劣らずよく出来ており、ともすれば一本調子になりそうなストーリーにいい緩急を与えています。クライマックス、ロシアの猛攻撃を受けながら決死の脱出を図るハンターキラー内での緊迫感に満ちた攻防もかなりの迫力。損傷した艦内にどんどんと海水が入り込んでくるシーンは、こういう映画で何度も見ているとはいえやはり息が詰まりそうになりますね。いやー、何度生まれ変わっても潜水艦乗りにだけは絶対なりたくない(笑)。最後の展開が若干ご都合主義に流れすぎな感もありますが、エンタメ映画として僕は充分楽しませていただきました。うん、7点! [DVD(字幕)] 7点(2019-11-14 23:08:04) |