761. 放浪記(1962)
森光子が半世紀近くに渡って舞台で演じ続けていることでも有名な林芙美子の自伝的小説を成瀬巳喜男監督が高峰秀子主演で映画化した作品。成瀬・高峰コンビの映画の中でもけっこう有名な映画という認識を持って見たのだが、成瀬監督の演出は手堅く丁寧で、林芙美子という女の生き様を見事に描き出している。原作となった小説も舞台も見たことがないのだが、この林芙美子という女の男性遍歴を中心に描かれていて、その部分がなかなか見ごたえのあるものになっていて面白かった。とにかく芙美子と一緒になる男たちがみんなただの女たらしで徹底的に芙美子は男運がない。とくに宝田明などは見ていて本当にイライラするほどのわがままな男で、そんな男とはさっさと別れちまいなよと本気で思えるほど。でも、そんな主人公 芙美子の生き様に共感できるかと言われればそうとは言えない部分が多く、あまり感情移入も出来ないのだ。高峰秀子はそんな芙美子をわざと魅力的「でない」人物として演じていて、この間見た「二十四の瞳」(見た後、2週間たった今でも余韻が忘れられない。)の大石先生と本当に同じ人なのかと思うくらいの変貌ぶりでその役作りの凄さには驚くばかりで、役に完璧になりきっている。(今の役者でここまでやる人ってどれくらいいるだろうか。)でも、大石先生が強烈に印象に残っている分、なにか余計にこのキャラクターには感情移入出来ないし、少し違和感を感じてしまったのも事実。できる女優というのは十分に分かっているが、さすがに今回は見るタイミングを誤ったかも。映画としてもそれほど深いものは感じなかったし、傑作とも思わないが、ストーリー自体は思っていたより面白かったし、なかなか味のある映画にはなっていると思うので少し甘めだけど7点。加東大介が芙美子のことをいろいろ気にかける実直な男を演じているが、この人はやっぱり「黒の超特急」のような腹黒い悪役よりはこういう善良な役柄のほうが絶対似合ってる気がする。 [DVD(邦画)] 7点(2010-05-20 00:08:55) |
762. 大菩薩峠(1957)
内田吐夢監督、片岡千恵蔵主演による「大菩薩峠」三部作の一作目。何年か前に見た時は話についていきづらく、途中で屈折してしまったが、大映(市川雷蔵)や東宝(仲代達矢)で製作されたものを見ているなら、この東映版も見ておこうと思い、再挑戦。千恵蔵の机龍之介は、この頃の千恵蔵の年齢が50歳を超えていたこともあり、先の二人がそれぞれ20代、30代だったのに比べれば若さという点ではだいぶ劣っているが、狂気じみた独特の存在感とオーラがあり、不思議と違和感を感じない。映画としてはまだ三部作の最初だというのに展開がやたら早く同じく三部作だった大映版のほうがややゆったりとしてる印象ではある。しかし、大映版と東宝版を既に見ているのもあるのかも知れないが以前見た時のような退屈感はなく、むしろ本作は本作なりに見ごたえがありけっこう面白かった。のちに「宮本武蔵」五部作で内田監督と組むことになる錦之助が兵馬を演じているが、その初々しさも印象的。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2010-05-16 14:32:01) |
763. 人間の約束
当時はまだ痴呆症と呼ばれていた認知症をテーマにした吉田喜重監督による社会派ドラマ。新藤兼人監督が同じテーマで手がけた「午後の遺言状」は、重い中にも時折ユーモラスなシーンもあったと記憶しているが、この映画は最初から最後までひたすら重く、身内の一人が認知症になってしまったことで起こる家族の問題がとてもリアルに描かれていて、見ていてとてもつらくなってくる映画だった。病院で10円玉を欲しがり、つながるはずのない電話をかける認知症の患者である老婆の姿は見ていて痛々しいく、ボケてしまった妻(村瀬幸子)を介護する夫(三國連太郎)がトイレの鏡に向かって挨拶をするシーンなど認知症の症状に関してもものすごくリアルである。村瀬幸子が「早く死なせておくれよー。」と叫ぶ姿も切なかったし、在宅介護となったそんな義母を介護する嫁(佐藤オリエ)にも感情移入できる部分があるので、もう見ていて本当につらいとしか言いようが無い。この映画は約四半世紀前に作られたものだが、今でもこういう状況はありえるのではないかと思わせてしまうところが怖かった。ラストは本当になんの救いもなく、そうするしか道はなかったのかと見ていて鬱な気分になってしまった。人にすすめようとは全く思わないし、好きな映画でもない。でも、社会派映画としてのメッセージ性は非常に強く、問題作であることは確かである。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2010-05-15 15:54:45) |
764. 風の視線
木下恵介監督の「日本の悲劇」、「女の園」、「二十四の瞳」などで助監督として参加し、木下監督が活動の場をテレビに移してからも木下監督を支えた川頭義郎監督による松本清張原作モノ。木下組出身の監督(ほかにも脚本は木下監督の妹の楠田芳子だし、音楽も木下忠司。)が松本清張とはちょっと不釣合いのような気がしたが、内容はサスペンスではなく4人の男女のドロドロした関係を描いていて、どちらかといえば「波の塔」に近い印象だ。出演者たちもいい芝居をしている(とくに新珠三千代はこういう役をやるといつもうまいなあと感じる。)のだが、面白いかと言われると正直微妙な感じで何か物足りない。ラストがドロドロした話のわりに救いのあるものになっているのはやはり木下監督の影響が大きいのだろうか。(でも、後味はそんなに良くなかったかな。)先日見たNHKドラマ「天城越え」でカメオ出演していた松本清張本人がこの映画でも冒頭と中盤に出演していて、ストーリーとはなんら関係のない役柄だが強く印象に残る。 [DVD(邦画)] 5点(2010-05-13 14:22:10) |
765. 子猫物語
《ネタバレ》 「協力監督 市川崑」というクレジットに釣られて見てしまったが、正直言って「南極物語」の大ヒットに気をよくしたフジテレビが2匹目のドジョウを狙った映画としか思えなかった。「南極物語」と違って俳優を一切出さずに動物だけ登場させて擬似ドキュメンタリーのように仕上げているが、ブースケがチャトランを助けに川へ飛び込むシーンとか明らかに誰から見ても作為的なシーンが多くてかなり気が滅入る。(出てる犬や猫が可哀想。)露木茂のナレーションも最初は気にならなかったが、だんだんうるさくなっていくように感じたし、時折入る谷川俊太郎が書いた詩、詩自体は深みがあって良かったが、この映画の中に入れることで何の効果があるのか意味不明。さらにそれを朗読するナレーションがアイドル時代の小泉今日子というのがあからさまに彼女のファン層を映画館に引き寄せようという意図が丸見え。市川監督らしいショットはところどころにあり、チャトランが崖から落ちるシーンもそうなのだろうが、そこだけは、やはり市川監督の映像テクニック云々以前に可哀想という言葉が先に出てしまう。当時、日本映画界では動物映画を作ればヒットするというのがあったようだが、まさに客さえ入れば、ヒットさえすればそれでいいと言わんばかりの製作者(フジテレビ)側の姿勢には驚くばかりだ。おそらく市川監督の名前が無ければ見なかったと思える映画だが、本当に見なきゃよかったと思えるような映画だった。 [CS・衛星(邦画)] 1点(2010-05-11 12:24:57)(良:1票) |
766. ウルトラマンゼアス2 超人大戦 光と影
「ウルトラマンゼアス」の続編。今回も主演はとんねるずの当時のマネージャー・関口正晴だが、とんねるずの二人は今回はチョイ役となり、コメディータッチだった前作に対して本作は正統派ヒーローものというつくりになっている。前作に登場したベンゼン星人(鹿賀丈史)の妻(神田うの)が作ったロボット兵器ウルトラマンシャドーに敗れたゼアスが特訓の末パワーアップして再戦を挑むというストーリーで防衛隊(前作ではなぜか気がつかなかったがマイドというチームらしい。)の新隊長役に森次晃嗣を起用していたりして「ウルトラマンレオ」のような雰囲気になっていてやはりヒーローものとしては本作のほうが前作より出来が良い。前作同様に昭和のシリーズに出演していた俳優たちがところどころに登場するのだが、黒部進、森次晃嗣、団時朗の3人がそれぞれ自分の主演したシリーズに関するネタをやっているのが笑える。ただ、今回はとんねるずがいないからかどうかは分からないのだが、前作ではそれほど気にならなかった関口正晴の素人っぽさが少しきになった。今回の敵であるレディベンゼン星人を演じる神田うのが妙にはまっているが、本人のキャラクターそのまんまのような気もする。主人公が特訓をする道場の師範と副師範が角田信明とアンディ・フグなのだが高校の頃に友人の影響もあってK1をよく見ていた(と言ってもあまり詳しくはなかったけど。)ので、その頃に活躍していたファイターの一人だったアンディがとても懐かしく、この映画のわずか3年後に早世してしまったのは本当に惜しかったなあと改めて思った。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2010-05-08 02:58:33) |
767. ウルトラマンゼアス
《ネタバレ》 「ウルトラマン」の放送開始30周年を記念して作られた劇場オリジナル作品。監督に今年「矢島美容室」が公開されたばかりの中島信也(どうでもいいが、「下妻物語」が出た頃、その監督の中島哲也と混同してた。)、防衛隊の隊長と副隊長役にとんねるずを起用し、コメディタッチに仕上げている。主役のウルトラマンがヒーローとしても人間体でいる時も半人前という設定は新鮮で面白かったし、初代「ウルトラマン」で科学特捜隊を演じていた役者たち全員がチョイ役で出てるのもなんだかうれしかったりする。主役のウルトラマンゼアスに変身する防衛隊の準隊員を演じるのがとんねるずの当時のマネージャー・関口正晴(当然、俳優ではない。)というのがかなり冒険的(というか、このマネージャーはとんねるずのバラエティー番組に出演していたらしいので話題作りのためのキャスティングだったのかも。)だが、思ったほど演技は酷くなかった。(歯磨きをした後、その歯ブラシをかざして変身するのは笑ってしまった。)一方で敵であるベンゼン星人の人間体を演じる鹿賀丈史はノリノリで演じている感じが見ていて楽しそう。出光興産(「アポロマークの出光興産がお送りします。」という「題名のない音楽会」の提供読みフレーズが頭に浮かんでくる。)とのタイアップ色がやや強いような気がしないでもない映画であるが、まあいいか。ところで、直接一緒に出てるシーンはないものの、とんねるずと小林昭二がひとつの作品に出ていると「仮面ノリダー」が懐かしくなってしまう。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-05-07 02:40:15) |
768. 二十四の瞳(1954)
《ネタバレ》 木下恵介監督の代名詞的な映画で、日本映画としても名作の一本として数えられている本作。11年前に田中裕子主演のリメイク版を見た時に「いい話だけどなんか古臭くてイマイチだなあ。」と思ったこともあって、なかなか手が出なかったが、今回やっと見た。なんだろうなあ、リメイク版では特になんとも思わなかった小豆島の風景やそこに暮らしている人々の営みがとても叙情豊かに綴られ、もうそこで引き込まれてしまった。そして、高峰秀子演じる大石先生が自転車に乗って颯爽と登場するシーンも最初から何やら暗い表情だった田中裕子の大石先生とは違って明るくはきはきとしている。この冒頭部分でもはやリメイク版との差がはっきりとしている。リメイク版と比べるとゆったりとした流れではあるが、その分、大石先生と十二人の子供たちとの絆がより強調されていて、だからこそ後半の戦争に駆り出されていく男子五人を見送り、病気で臥せっているコトエを見舞う大石先生の姿に感情移入することが出来るし、後半の大石先生はことあるごとに泣いているが、こちらも思わず「何もしてあげられないけど、一緒に泣いてあげる。」と劇中の大石先生の言葉をそのまま大石先生に返したくなるほど泣けた。劇中音楽を唱歌で統一したこともこの物語の感動をより深くしており、「仰げば尊し」や「浜辺の歌」など聴いているだけで涙が出てくる。一年生の時に浜辺で撮った写真も出てくるたびに切なくなり、ラストの同窓会のシーンで戦争で失明したソンキ(岡田磯吉=田村高廣)が写真を指で追いながら誰がどこに写っているかを挙げていくシーンでもうこの写真の中の二十四の瞳はもう全員揃わないんだと思うと泣けて泣けて仕方ない。戦争さえなければ、時代が違えば、この同窓会にはもちろん全員が出席でき、大石先生も夫や娘を亡くすことはなかったろうにと思うと凄く切ない。木下監督はここに戦争の儚さ、虚しさといったメッセージを込めているのがひしひしと伝わってきて、これが反戦映画と言われている理由もよく分かる。そしてまさにこの映画は普遍的なメッセージ性を持ったいつまでも語り継がれていくべき不朽の名作と呼ぶに相応しい映画だと思う。最後にもうちょっとだけ言わせてもらえれば、これを見てしまうと田中裕子版がいかにもつまらない映画のように思えてしまう。(好きな方、ごめんなさい。)大石先生は高峰秀子、高峰秀子、高峰秀子、誰がなんと言おうと高峰秀子以外に考えられない。 [DVD(邦画)] 10点(2010-05-06 15:05:41)(良:1票) |
769. カールじいさんの空飛ぶ家
《ネタバレ》 冒頭部の主人公と奥さんとの出会いの部分、特に結婚してからの夫婦生活をセリフなしのサイレントで処理しているのがうまく、思わず引き込まれ、この部分だけで感動してしまった。妻に先立たれた老人が妻の叶えられなかった夢を叶える物語の導入部としては最高だと思う。しかし、後半は夫婦二人が出会う前から憧れていた冒険家がなぜか悪人で、主人公がそれに立ち向かうという方向に行ってしまい、主人公も一度は憧れた冒険家と殺し合いをしているというのに全く葛藤というものが描かれてないので、ほとんど感情移入できず、ただの勧善懲悪アドベンチャーと化してしまい、前半と後半で違う映画を見ているかのような印象。別に悪役はこの冒険家でなくても良かったような気がする。(普通に考えてそういう設定にしてしまうと脚本が波状してしまう。)それにそもそもこの話に悪役が登場する必然性をあまり感じない。(別に悪役がいなくても物語としては成立するのではと思う。)後半で話が変な方向にいかなければ夫婦愛を描いたもっと深い作品になっていただろうと思うと非常に残念。結局この映画は主人公の妻との出会いから死別までを描いた導入部がすべてという感想になってしまう。さっきも書いたが、ここは本当に素晴らしかった。 [DVD(吹替)] 6点(2010-05-01 16:26:56)(良:1票) |
770. 笛吹川
木下恵介監督が「楢山節考」に続いて深沢七郎の原作を基に手がけた時代劇。戦国時代が舞台になると武将や剣豪を描いたものが多い印象だが、この映画では、ある農民の家族の歴史を通して戦国時代を描いている。母親が戦になど行くなというのに対して、息子たちは親方様のためにと戦場へ赴く。この映画はさっきも書いたとおりもちろん戦国時代が舞台なのだが、「親方様」を「天皇陛下」に置き換えれば第2次大戦を描いた反戦映画のように見えるし、木下監督は間違いなく戦国時代の時局にあの戦争の記憶をダブらせて撮っているのだろう。とにかく重い内容で、見終わった後の無常感ももの凄いのだが、木下監督の反戦メッセージがストレートに伝わってくる秀作で、演出的にも合戦シーンでずっと鳴り響く鈴の音の不気味さや、一家の家の前の橋を通る人馬のひづめの音ははなにかを暗示しているようだ。映像的にも実験的な白黒映像に部分的に色をつけるパートカラー(タイトル前の松竹マークのバックのお馴染みの富士山からもうそうなってる。)も効果的で、白黒画面にポツリと浮かぶ赤い炎などが美しく印象的。クライマックスの行列に我が子たちを説得に来た高峰秀子扮する母親が加わってしまうシーンはこの映画の中でいちばん木下監督のメッセージが込められているような気がした。それにしてもこの映画を見ると戦国時代の戦も近代の戦争も庶民の目からすればあまり変わらないのだなと感じられてちょっと恐ろしくなる。ちなみにこの映画は岩下志麻の実質的な映画デビュー作だが、とてもそれを目的にミーハーな軽い気分で見られる映画ではない。 [DVD(邦画)] 8点(2010-04-29 01:18:48) |
771. レッツゴー!若大将
約1年半ぶりぐらいにこのシリーズ見たけど、もうこの頃になるとさすがに加山雄三も田中邦衛も大学生を演じるには無理を感じる年齢になっているのが気になる。でも、久しぶりに見たせいか、レギュラーメンバーやシリーズのお約束ごとのようなものが懐かしい。しかし、今まで見たのがわりと初期の作品が中心だったせいか、若大将と田能久の面々との絡みが他の作品に比べて若干少ないように思うし、加山雄三のアイドル映画という側面もあるシリーズなので仕方がないとはいえ、若大将が歌うシーンが多く、それがストーリーとかかわりが全くないのでなにか浮いて見える。今回、澄子もそうだがゲストである香港で出会うレストランの令嬢もなにか性格が悪いように思えるのは気のせいか。いつもの回では若大将が勘当されていたように思うが、今回は青大将が勘当されるという展開の脚本はおそらくマンネリ回避のためなんだろうな。飯田蝶子演じる若大将のおばあちゃんが今回もいい味を出している。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2010-04-25 12:05:21) |
772. 永遠の人
《ネタバレ》 夫婦を描いた木下恵介監督の年代記ものといえば「喜びも悲しみも幾歳月」が思い浮かぶが、この映画は恋人がいながら別の男に無理矢理犯されて強引に結婚させられてしまった女がその後30年近くに渡って憎しみを抱きながら生きていくという物語で、時を経てそれが家や子供たちにまで及んでいくという重苦しい展開。夫婦の長年の絆を描いていた「喜びも悲しみも幾歳月」とは正反対にとてもドロドロした夫婦関係、人間関係をリアルに描いていて、「喜びも悲しみも幾歳月」と同じ監督の映画とは思えないほどであるが、こういうドロドロした人間ドラマを描かせてもうまさを感じさせているし、五部構成で各部の終わりに流れる日本語フラメンコの主題歌も実験的で、監督としての作風の幅の広さも感じることができる。主演の高峰秀子は夫を憎み続けながら恋人が忘れられないで苦しむ主人公 さだ子を熱演していて内に秘めた思いというものを見事に表現していて素晴らしい。木下監督の映画では高峰秀子と佐田啓二が夫婦を演じる作品が多いように思う(とはいえあまり見ていないのだが。)が、この映画では佐田啓二はさだ子の恋人 隆役で、反対に結婚した女(乙羽信子)を愛することが出来ずに別れてしまうという主人公さだ子とは対照的な生き方をする男を演じている。さだ子の夫を演じるのは仲代達矢で、女を襲って無理やり夫婦になるとかどことなく後に岡本喜八監督の「大菩薩峠」で演じることになる机龍之介のような狂気じみた印象を残している。息子役の一人が田村正和。木下監督の「女の園」でデビューした兄である田村高広に続いて、その弟の田村正和も木下作品である本作がデビュー作だそうだが、なかなかピュアに好演しており、この息子の悲しみもよく描かれていたと思う。ドロドロしたまま救いのない終わり方をするのではと思っていたが、ラストシーンは救いがあり、ドロドロしたままでは終わらせないという木下監督の人間に対する優しさのようなものが感じられる終わり方になっていてとても良かった。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-04-24 15:59:05)(良:1票) |
773. おろしや国酔夢譚
《ネタバレ》 佐藤純弥監督が「敦煌」に続いて井上靖の歴史小説を映画化した作品。鎖国の時代に仲間とともにロシアに漂流した実在の男が、日本に帰国するまでの8年間を描いているのだが、確かに長い年月の物語を2時間ほどで駆け抜けるため、大河ドラマの総集編でも見ているかのような印象で深みは感じられないし、いきなり遭難シーンから始まっているせいか、主人公たちの望郷の念にイマイチ感情移入できないのが難なんだが、まあ、思ったよりは面白かったかな。冒頭の嵐のシーンとかちゃちさを感じさせるところも多いが、ロシアロケ部分はなかなか見ごたえがあり、そりで雪の中を行くシーンは見ているだけですごく寒そうというのが伝わってきてリアルだっだし、初めて映画のロケに使われたという宮殿も(ちょっと観光PRのような気がしないでもないが。)まさにこの時代のロシアの栄華が伝わってくる。しかし、仕方がないとはいえ、エカチェリーナ2世に謁見したその日に帰国を許されるのはちょっと急ぎすぎな気がする。ドラマとしても物足りなさが残り、最後もあれで終わりなのかよーという感じなのだが、そんな中で凍傷にかかり、片足を切断した西田敏行演じる庄蔵のエピソードは印象的だった。 [DVD(邦画)] 5点(2010-04-20 14:24:59) |
774. 新選組始末記
雷蔵演じる主人公が新撰組物では定番の近藤勇、土方歳三、沖田総司といったメジャーどころではなく、近藤の人間性に惹かれて新撰組に入った新人隊士というのが意外だが、どうも主人公よりも近藤を演じる若山富三郎や土方を演じる天知茂のほうが印象に残ってしまうし、藤村志保演じる主人公の恋人もほとんど話に絡んでなく、はっきり言っていないほうがよかったような気もしないでもない。三隅研次監督の雷蔵主演映画はかなり久しぶりに見たが、このコンビの映画としては全体的に平凡な印象で、それほど面白くもないし、完成度も高くないように思う。若山富三郎が近藤役というのもごつすぎてどう考えてもミスキャストにしか思えない。(既に指摘されている方もおられるが、どう見ても近藤勇というよりは西郷隆盛にしか見えない。)一方、土方を演じる天知茂はニヒルでカッコよくいかにも冷酷非常な感じがとてもよく出ていた。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2010-04-19 19:05:59) |
775. おくりびと
《ネタバレ》 去年のアカデミー賞で稲垣浩監督の「宮本武蔵」以来、約半世紀ぶりに日本映画として4回目の外国語映画賞を受賞したことで突如注目を集めた本作。タブー視されがちなテーマだが、ちょっと伊丹十三監督の映画にも通ずるようなところがあり、導入部をはじめコミカルなシーンも多く、それがこの映画のテーマの重さを和らげているので、そう硬くなることなくすんなりと入っていけるのが良い。本木雅弘は「ファンシイダンス」や「シコふんじゃった。」の頃とは違う味のある演技をしているのだが、最初にこのテーマで映画を作ろうと企画を自ら持ち込んだだけあってその演技からこの映画に対する思いというものも感じられ、特に素晴らしかった。NKエージェントの社長を演じる山崎努(彼の起用も伊丹監督の「お葬式」を意識しているんだろうなあ。)、事務員役の余貴美子の演技も素晴らしく、思わず、自分が死んでしまったらこういう人たちの手で棺に納めてもらいたいなあという思いに駆られる。ただ、既に何人かの人が言われているように妻役の広末涼子の「汚らわしい」というセリフだけはまあ気持ちは分からないでもないがやはりちょっとどうかと思う(このシーンが予告編に使われているのにビックリ。)し、演技も同じくアイドル出身の本木雅弘と比べるとまだアイドル臭が抜けていない感じでなぜこの役に彼女を選択してしまったのかが大いに疑問に感じる。また脚本に関しても家出した妻が帰ってきたその日に銭湯の女将さん(吉行和子、好演。)が急死するとかご都合主義と思える展開や余計なセリフがあるのが気になるのが少々残念ではあるが、それでも本作はそういう欠点と思われる部分を感じさせながらも、同じ滝田洋二郎監督の「壬生義士伝」ほどのくどさは感じられず、むしろアカデミー賞受賞という色眼鏡を捨てて見てもじゅうぶんに温かく感動的で、これぞ日本映画らしい日本映画の傑作だと思う。 [DVD(邦画)] 8点(2010-04-15 15:01:53) |
776. 風が強く吹いている
《ネタバレ》 箱根駅伝を目指すある陸上部を描いた青春映画。個人的には箱根駅伝になんの興味もないのだが、それでも駅伝シーンは実際の駅伝に参加して撮ったんじゃねーのというくらいに臨場感があり、見ごたえも充分。しかし、実際の駅伝だとちょっとありえないだろうと思う部分や、最後の小出恵介がゴールするシーンはちょっとやりすぎな感じがした。それに箱根駅伝を目指すという部分に焦点があたりすぎてて、主人公二人の背景などイマイチ人間ドラマに深みが感じられなかったのが残念。ここらへんをもうちょっとなんとかしてほしかったが、まあ全体的に爽やかな青春映画という感じで見終わった後の後味もいいので、見て損をしたような気にはならないし、細かいことを気にしなければまあまあそこそこ楽しめる映画だと思う。ところで、「ウルトラマンメビウス」で怪獣マニアの隊員役を演じていた内野謙太がこの映画ではクイズマニアの部員役というのが妙に笑える。 [DVD(邦画)] 5点(2010-04-13 17:45:29) |
777. 警察日記
《ネタバレ》 田舎の警察署を舞台にした人情もの。とにかく登場する警官みんなが情に厚く、演じる森繁久弥や三國連太郎といった面々の演技も実に温かみがあって素晴らしい。彼らを狂言回しに事件を起こした人々の人間模様を描いているのだが、その事件というのが殺人事件や誘拐事件といった凶悪事件ではなく、捨て子や万引きといったこの時代ならどれもが貧しさから来るようなものばかりで、戦後10年で日本がまだまだ貧しい時代だったのだなと痛感させられる。また、東野英治郎が演じた戦争で子供を亡くし、おかしくなってしまった老人などにもリアリティーが感じられる。森繁久弥演じる吉井巡査が面倒を見る捨て子の姉弟のエピソードが特に泣ける。二人に対しての吉井巡査の温かい眼差しも感動的なのだが、姉を演じた子役時代の二木てるみがなんといっても素晴らしく、弟に会いたいばかりに一人で会いに出かけていくシーンや、名乗り出た母親の乗ったジープを見つめる表情などなんとも切なく悲しげで、本当にうまく、思わず泣かされた。久松静児監督の映画を見るのはまだこれが2本目だと思うが、人間の持っている心の温かさというものを見事に描き出した正に名作だと思う。あと、書き忘れていたが、署長を演じる三島雅夫のユーモラスな演技は、普段腹黒い悪役や嫌味たらしい役のイメージが強いだけにすごく新鮮に感じられた。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-04-11 14:47:47)(良:1票) |
778. 宮本武蔵完結篇 決闘巌流島
《ネタバレ》 稲垣浩監督の東宝「宮本武蔵」三部作の最後。だけど、今回も武蔵の成長物語というよりは、武蔵、お通、朱美の三角関係のメロドラマに焦点があてられていて、もうかなりのドロドロの展開。今回も内田吐夢監督の東映五部作や加藤泰監督の松竹版とはかなり違い、又八やお杉が登場していなかったり、中盤に「七人の侍」のような村を襲う野武士の一団が登場したりとこれはこれで面白いのだが、やはり東映版のようなオーソドックスなほうが好きだな。三船の武蔵は最後まで来ても何かしっくり来ず、ミスマッチのようにしか思えないのだが、対する鶴田浩二の小次郎はしっかりとはまっていてはっきり言って三船よりもカッコよかった。稲垣監督は佐々木小次郎が好きだったときいたことがあるが、巌流島の決闘シーンで「小次郎敗れたり」というセリフを武蔵に言わせなかったり、決着がつき、武蔵が島を後にした直後に小次郎の遺体の画を入れ、小次郎の無常感を表現していたりして、稲垣監督の小次郎への思い入れが強いことがうかがい知れる。また、決闘シーン自体も朝焼けを背にしてという設定のため、登りゆく朝日とも相まって非常に美しい決闘シーンとなっていて、この部分は今まで見たどの巌流島の決闘シーンよりも印象的だった。 [DVD(邦画)] 6点(2010-04-08 12:14:00) |
779. 天城越え(1978)<TVM>
《ネタバレ》 のちに松竹で映画化もされた松本清張の原作をNHKがドラマ化した作品。映画も傑作だったが、このドラマ版もなかなか面白かった。演出はNHKのディレクターだった頃の和田勉なのだが、登場人物の心理描写や、風景描写がかなりしっかりとしていて臨場感たっぷりで見ごたえがあり、テレビで見せるタレントとしてのコミカルな雰囲気からは想像もつかないような素晴らしい仕事ぶりに感服。役者陣も寡黙な佐藤慶、少年を演じた子役時代の鶴見辰吾(この翌年が「3年B組金八先生」で、その次の年が「翔んだカップル」か。)、この二人のバランス感覚も絶妙で、とくに鶴見辰吾は、嫉妬が殺意に変わる少年という難役を好演していてとても印象深い。映画で大塚ハナを演じた田中裕子が素晴らしかっただけに本作の大谷直子の大塚ハナはどうなのかと思っていたが、さすがに田中裕子ほどのインパクトは感じなかったものの、それでも大谷直子もなかなか良いと思う。ラストで事件を目撃する遍路の役で松本清張自身が出ているのがちょっと驚き。ほかにもいくつかの作品でのカメオ出演があるようだ。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2010-04-06 14:35:14) |
780. 冷飯とおさんとちゃん
《ネタバレ》 田坂具隆監督が「ちいさこべ」に続いて山本周五郎の原作を錦之助主演で映画化したもので、なんと今回は短編小説3篇をオムニバス形式で映画化し、その三人の主人公を錦之助が演じるという異色作。錦之助は今井正監督の「武士道残酷物語」でも主人公七人を見事に演じ分けていたが、やはりこの映画でもそれぞれキャラクターの違う三人を見事に演じ分けていて素晴らしく、また、田坂監督の演出も三話とも違うカラーが出ていてさすがにうまいと感じる。最初の「冷飯」。冒頭の主人公がくず屋(浜村純)とぶつかるシーンからどこかユーモアがあり、全体的に明るい雰囲気の話で、後味がよく、この話がいちばん楽しめた。中でも三男を演じる小沢昭一はやはりしゃべっているだけで笑いを誘う。それに母親役の木暮実千代も印象的だ。次の「おさん」は「冷飯」と比べると暗い感じがどうしてもしてしまうし、主人公に感情移入しづらいという点もある。現在と過去を交錯させて主人公の一人語りでストーリーを進行させるという構成もちょっと複雑なのだが、この話がこの三話の中で完成度が最も高いように感じた。この話で主人公の妻を演じるのが三田佳子。イメージ的にあまり好きではない女優だが、この話の彼女は素晴らしく、中でもラスト死んだ後に幽霊となって主人公の前に現れ、主人公と語り合う中で自らの心情を語るシーンが感動的だった。最後の「ちゃん」は、タイトルだけだとなんか「子連れ狼」を連想してしまいそうだが、いかにも山本周五郎原作らしい家族の話で、ありがちなんだけど泣ける。ここでは既に書かれている方もおられるが、森光子。この人も苦手なのだが、ラストの主人公とのやりとりはなかなか良かった。話は少しシリアスだが、三木のり平演じる泥棒の仕草などは見ていて笑える。そしてなにより家族の温かさがよく描かれていて見た後とても幸福な気持ちになれるのがいい。個人的にはさっき書いたように「冷飯」がいちばん楽しめたが、それでも三話ともとても丁寧に作られている佳作だと思う。余談だけどこの映画の公開と同時期に東宝で黒澤明監督の「赤ひげ」が公開されているんだけど、偶然かも知れないがこの映画でも「赤ひげ」と同じ佐藤勝が音楽を担当しているのが面白い。それにしても映画のタイトルが律儀でシンプルだなあ。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2010-04-05 16:18:59)《更新》 |