81. 男はつらいよ 寅次郎恋やつれ
《ネタバレ》 マドンナは2回目の吉永小百合。 9作目の柴又慕情の続きということで。今回も恋愛という点では寅さん最初からアウトオブ眼中。焦点は吉永小百合演じる歌子の自立と父親(宮口精二)との和解である。そこに主に絡んでくるのは、寅さんではなく、今回はさくらと博である。この二人が本作品の立役者だろう。茶の間でのいわゆる「幸福談義」では博の言葉が光る。このころになると、博は監督である山田洋次の代弁者ともいえる存在で、今回のお題「幸福とはなにか?」を理屈っぽく答える博に山田洋次の思いが重なるのである。(その対極は理屈ではない寅さんなのだろうけど) 最後のとらやでの歌子と父親の和解のシーンは泣けた。シリーズで一番泣けるシーンだったかもしれない。あの宮口精二を泣かせるのだから、もうしょうがないね。 冒頭に、寅さんがタコ社長とさくらを連れ立ってお嫁さんにしたいという女性に会いに行き、超速で振られてしまうのだけど、その相手が宮沢保のお母さん(『金八先生パート1』)というのが少しツボだった。 松村達雄のおいちゃんはこの作品で最後。今回もなかなかいい味を出していて(パチンコ好きのちょっとやくざなおいちゃん)、ちょうどこなれてきたって感じだと思うのだけど、彼はおいちゃん以外の役でこの後も結構活躍することになるので、このあたりが潮時だったのかな。彼はおいちゃんをうまく演じていたけど、おいちゃんそのものにはならなかったのだな。 [DVD(邦画)] 10点(2012-04-28 23:21:54)(良:1票) |
82. 男はつらいよ 私の寅さん
《ネタバレ》 マドンナは岸恵子。 初期シリーズとしては、珍しく寅さんが冒頭にケンカ別れしてとらやを飛び出すこともなく、ずっと柴又に逗留する。その代わり、寅さん以外のとらや一家が九州に旅行、寅さんが留守番となる。九州旅行から帰ってきた家族を迎える寅さん。長旅から疲れて帰ってきた家族をいかに暖かく迎えるかを源公やタコ社長に言って聞かせながら、いつものようにシミュレートするうちに胸があつくなり、実際に帰ってきた一同の「うちが一番だ」との言葉に感涙しつつ、それを必死に見せまいとする。とてもいいシーンである。 岸恵子との絡みはとくに印象的なところもなかったかな。いつもながら前言撤回で手のひらをさっと返す寅さんのいい加減さは笑いを誘うけど、振り回されるさくらたちが気の毒だなぁと。。 [DVD(邦画)] 8点(2012-04-28 23:04:04) |
83. 男はつらいよ 寅次郎忘れな草
《ネタバレ》 マドンナは浅丘ルリ子。 彼女が演じるリリーの1作目。リリーは、寅さんが憧れるマドンナというよりも女版の寅さんとでも言うべき存在。だから寅さんは、彼女のことを自分の分身のように想う。これも寅さんの愛なのだ。 この頃のとらやは茶の間談義が楽しい。今回は「中流家庭とは?」「上流階級とは?」ということについて話題になり、いつものように博の少々理屈っぽい意見(これは山田監督の意見なのだが)でしめる形になるのだが、今回はさくらが寅さんのことを「お金で買えないものをたくさんもっている」(それを「愛」だと表現したのは少し唐突だったけど)といって褒める場面が印象に残った。近年流行りの「プライスレス」の奔りが寅さんのライフスタイルなのである。 まぁ、何だかんだ言って、寅さんのそういった生活を支えているのはさくらで、リリーへのフォローも、北海道の開拓農家(寅さんが2-3日働いてあまりの辛さに投げ出してしまう)へのフォローも、寅さんの金銭面も、心の拠り所も、全部さくらが支えているのがこの一篇で分かるのだ。 あと、ピアノ騒動は面白かったけど、ドタバタもパターン化してきたって感じ。 [DVD(邦画)] 9点(2012-04-28 23:04:01) |
84. 男はつらいよ 寅次郎夢枕
《ネタバレ》 マドンナは八千草薫。 彼女が演じるお千代さん。いいね。寅さんの幼馴染ということで、いつものように寅さんがマドンナにのぼせ上がる代わりにインテリ助教授(米倉斉加年)にその役回りをさせるという。お千代さんと寅さんは、結構相性がよかったのではないかな。珍しく寅さんがマドンナを振ってしまうというパターンでした。 [DVD(邦画)] 9点(2012-04-28 23:03:54) |
85. 男はつらいよ 柴又慕情
《ネタバレ》 マドンナは吉永小百合。 清楚で可憐。そして美しい。寅さんでなくても惚れちゃうね。その結婚相手がひげ面のデブ男というのには少しがっかり。それなら寅さんの方がいいのになぁと思うのだけど、最初から寅さんはアウトオブ眼中なのね。吉永小百合と宮口精二の親子はこれといった大きな軋轢もないまま最後に仲違いしてしまう。その辺りの経緯は少々物足りないが、その後の展開も含めて、続編となる『恋やつれ』に期待かなという感じ。 それにしても、この頃のハツラツとした寅さんは最高に面白いね。おいちゃんが本作から松村達雄に代わるが、寅さんとの絡みはなかなか派手で(多少暴力的なのだが)息の合ったところを見せている。 [DVD(邦画)] 9点(2012-04-28 23:03:50)(良:1票) |
86. 男はつらいよ 寅次郎恋歌
《ネタバレ》 マドンナは池内淳子。 これは傑作。泣けたなぁ。最後の縁側のシーン。池内淳子親子を思いやる寅さん。自分では彼女を幸せにできないと自ら身を引くところはこれまでと違う落ち着いた味わい。再登場の志村喬が最後に博夫婦に会いに行くところも良かった。志村喬の寅さんへの説教「りんどうの花」。これを受け売りにする寅さんの口上が笑わせる。 本作で初代おいちゃん森川信が最後の出演となるのだが、まさか本当に死んでしまうとは思っていなかったのだろう。作品のいろんなところでおいちゃんの死を暗示させるセリフが多かったような気がする。「ばかだね~」「俺しらねぇよ」「まくら、さくら」など、最高です。寅さんの「きっちゃてんでこーしー」ってのも笑ったなぁ。寅さんと森川信の最後のドタバタ騒動。さくらの「母さん」の歌も泣けた。 寅さんの人柄をあらわす旅一座との交流もあって、見せ場てんこ盛りの一作。 [DVD(邦画)] 10点(2012-04-28 22:56:23)(良:2票) |
87. 男はつらいよ 奮闘篇
《ネタバレ》 マドンナは榊原るみ。 彼女が演じる知恵おくれの薄幸の少女は、チャップリンの『街の灯』を思い起こさせる。特に寅さんが榊原るみを沼津駅で見送る場面は涙なしに観られない。寅さんの心情の暖かさを感じる。もちろん最後は振られてしまうので、『街の灯』とは全く違うラストなのだけど。。。 ドタバタ劇の「おなら騒動」も最高に笑えたなぁ。森川信のおいちゃんのとぼけた味わいも最高。この時期の寅さんにハズレなし。 [DVD(邦画)] 10点(2012-04-28 22:56:13) |
88. 男はつらいよ 純情篇
《ネタバレ》 マドンナは若尾文子。 あいかわらず綺麗かつ妖艶である。艶めかしすぎて、とらやに全くマッチしていないw この違和感は致し方ないかな。とらやではハチャメチャな寅さんも、地方に出向くとすごくいい人。人情に篤く、気配りの効いた人徳者となる。宮本信子が若い。森繁じいとの絡みをもっと見たかったな。 [DVD(邦画)] 8点(2012-04-28 22:56:07) |
89. 男はつらいよ 望郷篇
《ネタバレ》 マドンナは長山藍子。 彼女はテレビシリーズでさくらを演じていた。その彼氏が同じくテレビシリーズで博役だった井川比佐志。寅さんが井川のことを博に似てると何度も言うのだけど、そりゃそうだ。同じ山田作品『家族』『故郷』でも井川比佐志と前田吟は兄弟だったな。その時は井川が倍賞千恵子の旦那だったというところも錯綜していて面白い。 真面目になろうとする寅さんが語る「額に汗して、油にまみれて働く、、、」というのがさくらの寅さんに対する説教の受け売りだというのが笑える。 [DVD(邦画)] 9点(2012-04-28 22:56:00)(良:1票) |
90. 新・男はつらいよ
《ネタバレ》 マドンナは栗原小巻。 本作は小林俊一監督作品である。山田洋次以外の監督作として初めて鑑賞。やっぱりいつもの寅さんと雰囲気が違う。寅さんの言葉使いがやくざっぽさに振れ過ぎているし、特に前半はドタバタ喜劇に過ぎている。マドンナ栗原小巻との恋愛模様もすごく淡泊だし、人情劇としても薄い。第一、さくらの出番が少なすぎる。寅さんを最後に引き留めるのはさくらじゃないとね。ただ、森川信のおいちゃんは喜劇にピッタリはまっていた。 [DVD(邦画)] 7点(2012-04-28 22:49:56) |
91. 男はつらいよ フーテンの寅
《ネタバレ》 マドンナは新珠三千代。 本作は森崎東監督作品である。シリーズで山田監督作品でない2作のうちのひとつ。寅さんに少し荒々しさがあり、山田流の人情ものとは違う色合いがあったかな。やっぱり寅さんは山田洋次監督作品でこそ一番魅力的。ルパン三世と同様でキャラクターが一緒でも製作者が違うと全然色合いが違ってくる。それでも芸者の香山美子の父親 花沢徳衛と絡むシーンは感動した。さくらの出番が少ないのも山田作品と違う点かな。 [DVD(邦画)] 7点(2012-04-28 22:49:52) |
92. 続・男はつらいよ
《ネタバレ》 マドンナは佐藤オリエ。 彼女で金八先生を思い浮かべるのは僕らの世代。寅さんの学生時代の先生、東野英治郎(黄門様)も味がある演技だった。茶の間騒動、マドンナに振られて終わるパターンも本作で確立したって感じ。元気いっぱいで喜怒哀楽の表情と動きが豊かな寅さんは見ていて清々しい。 [DVD(邦画)] 10点(2012-04-28 22:49:48) |
93. 男はつらいよ
《ネタバレ》 いやー、泣いた。笑った。楽しんだ。 車寅次郎の20年ぶりの葛飾柴又への帰郷から始まる寅さんシリーズ(映画)『男はつらいよ』第1作目。渥美清の寅さんが若い! 登場早々、祭に飛び入り参加して纏(まとい)を手に威勢よく踊りまくるのだけど、これがなかなかカッコいいのだ。テキ屋の売の口上も最高にキマっている。倍賞千恵子のさくらちゃんはとても可憐だし、前田吟の博も精悍だ。 寅さんと博の船上での張り合いはなかなか緊張感のあるシーン。会話がすれ違いつつ、何故か噛み合うという絶妙さが楽しく、寅さんの純情な男気と気風の良さがよく分かるシーンでもある。博は、職工ながら大学教授の父親を持つ理知的な人物で、尚且つ腕っぷしの強さを秘めているという、若き前田吟がなかなか役に合っている。(最後の涙も感動的だった) 寅さんのおせっかいが逆に功を奏して、さくらちゃんと博がめでたく結婚し、その結婚式に博の父親、志村喬が現れる。家を飛び出した博とは8年ぶりの再会、そして披露宴の最後に挨拶。志村喬の朴訥としたスピーチに寅さんと博同様に僕も号泣;; ここはシリーズ屈指の名シーンだろう。この披露宴で、御前様の笠智衆と博の父親役の志村喬が同じ画面の中にいるのです。それだけで感動的なのだなぁ。 ちなみにシリーズ初のマドンナは光本幸子。寅さんがメロメロになる御前様のお嬢様で、少し地味だけど、品があってよかったよ。 [DVD(邦画)] 10点(2012-04-28 22:49:42)(良:1票) |
94. 冷たい熱帯魚
《ネタバレ》 胸糞悪い映画。であると同時に心に響くものがあった。 この映画の登場人物達は皆、其々に設定されたキャラクターの演者である。僕は劇中でんでん演じる村田の姿を観て、昔のお笑いスター誕生当時の彼のひとり芝居を思い出した。彼は村田という登場人物が「村田」というキャラクターを演じるように芝居をしてみせる。だから彼の演技は不自然な程に芝居がかっている。それは、前作『愛のむきだし』の安藤サクラに匹敵する怪演、黒沢あすか演じる愛子も同じである。そして主人公も。まるで自己暗示のように誰もが自らをキャラクターで縛り、演じてみせる。そして、彼らは死ぬ間際になってようやく本当の自分を晒そうとするのだが、そこで今度は、「内面の自分」というキャラクターを、弱さ<強さ>として自ら認識した「自分」というキャラクターをまたしても否応なく演じてしまう。いろんな意味でエグい映像であったが、本当にグロテスクだったのは、そういった人間の本質であり、村田が「内面のないやつはダメなんだ」と言って強がる、その自分の内面がマトリョーシカのようにどこまで行ってもキャラクターでしかない地獄のような空っぽさを曝け出したことであった。 そういう意味で胸糞悪く、心に残る映画であった。 [DVD(邦画)] 9点(2012-01-18 01:16:29) |
95. 人生万歳!
《ネタバレ》 原題を”Whatever Works”、つまり「何でもあり」と言う。主人公はウディ・アレンを少し精悍にしたような役者ラリー・デヴィッド。これまでのウディ主演の主人公よりも性格は悪い。彼は、ノーベル賞候補にもなった物理学の元教授で頭が良く、上流階級で、知識があって、理論に勝る為、常に人を見下している。故に孤独でもある。 そんな主人公が尺取虫ほどの脳みその(と主人公が呼ぶ)若くて可愛らしい家出娘に一方的に惚れられて、彼女と結婚する。音楽を含めた趣味や生活観が全く合わないながらも、その違いこそが2人の関係を支える、まさに共依存のような間柄となる。お互いを思う気持ちがうまい具合にすれ違うことで2人はうまくいく。だから、彼女が知恵を獲得することで、2人の関係性はバランスが崩れ、最終的に破局するのである。 しかし、映画はそこで終わらない。何故なら「何でもあり」だから。恋愛とはそういうものだ。だからどうした。ウディにとって、人生の中の恋愛という可能性はいつまでも死なない。人生万歳! すごく晴れやかで、筋が通った、いい映画! [DVD(字幕)] 10点(2012-01-18 00:52:49) |
96. ブルーバレンタイン
《ネタバレ》 厚生労働省が毎年発表している「人口動態統計の年間推計」によれば、2011年時点で、日本では3組の結婚に対して、1組の離婚が発生している。(ちなみに35年前までは10組の結婚に1組の離婚だった) この数値は10年前から変わっていないので、今さら驚くに値しない。離婚原因の1位は性格の不一致。所詮他人同士が一つ屋根の下で暮らすのだから、いろんな不一致はある。そんな不一致への不満が同居人としての気安さから我慢できないものとなり、衝突を生む。その繰り返しが2人の溝を深める。結婚の理想と現実、それは常にリアルなものとしてあるだろう。しかし、あるカップルで破局の原因となったことでも、あるカップルでは我慢できることもある。心理学的に言えば、「好き」は「嫌い」に容易に反転する。「好き」が「無関心」へとゆっくり移行すれば、家庭は平和になるのかもしれない。 『ブルーバレンタイン』が描くカップルの諍いは何を表現しているのだろう?お互いのプライドが共存の可能性を閉ざし、また学歴や職種の格差そのものが人生観/生活観の衝突を避けがたいものにする。恋愛のコツは相手を甘く見ること。そう言った女性作家もいたっけ。ある種の格差が共依存の関係を生み出し、まるで鋳型のようにぴったりとした相性となることもある。まぁそれはそれとして、僕は『ブルーバレンタイン』の描き出す夫婦の光景(ある意味で凡庸な出会いと諍いと別れのリアルな光景)にどのような意図があるのかがよく理解できなかったし、意図を超えた感動も覚えなかった。 旧来、ラブストーリーは、人々に恋愛という可能性を与え、家族を巡る物語(例えば小津映画)は、生活という類型を支えた。この映画のリアルが幻想や類型を否定してみせたとして、そのこころは? 一体何なのだろう? それもまた類型でしかない。 結局のところ、僕はこの作品に映画として心に響くものを感じることができなかった。 [DVD(字幕)] 7点(2012-01-18 00:51:53) |
97. ラブ・アクチュアリー
《ネタバレ》 クリスマスが近づくと思いだす映画『ラブ・アクチュアリー』。素敵なロマンティック・コメディですね。 冒頭でヒュー・グラントがナレーションで呟く”Love actually is all around.”がタイトルとなっていますが、この場合のLoveは恋愛というよりも、広義の「愛」でしょう。確かにこの映画の群像劇では、いろんな形の「愛」が描かれます。英首相の身分を超えた恋愛であり、幼い恋愛であり、言葉を超えた恋愛であり、肉体を超えた恋愛であり、肉体の恋愛であり、親友の彼女への横恋慕であり、大人のちょっとした火遊びであり、家族愛であり、姉弟愛であり、男同士の友情であり、、、。最後の方もやっぱりLoveなんですよね。ある意味で恋愛という幻想を超えた現実的なLoveです。それもいろんな形としての。 恋への勇気を描いた映画という評価もあるけれど、どちらかと言えば、「愛」という言葉の広がりというか、その大きさと共にミニマルさを感じさせる映画に思えます。ビートルズの”All Need is Love”が挿入歌として有名ですが、僕にはラストに流れるビーチ・ボーイズの”God Only Knows”が心に響きます。「君」は、デブのマネージャーでもあり、幻想の君でもあるのです。その愛に支えられている自分を感じ、それを伝えたくなるのです。 ♪もし君が僕から去るなんて事が起きたら 人生はそれでも続くけど 信じてほしい この世は何の価値も示さない 生きる事に何の良さがあるんだい? 神のみぞ知る 君がいないと僕がどうなるか♪ The Beach Boys “God Only Knows” [DVD(字幕)] 8点(2011-12-18 23:30:34)(良:1票) |
98. バタフライ・エフェクト/劇場公開版
《ネタバレ》 この映画の最も秀逸な点は、ラストシーンにある。主人公は、彼女と出会わない世界をあえて選択し、その世界が彼女にとっての最も理想的な人生であることを確信する。彼にとっては、彼女を愛するが故の究極の選択である。数年後、彼は、都会の雑踏の中で彼女らしき人物とすれ違う。彼と彼女は、失われた記憶の中にお互いを認め、微かなときめきを覚える。ある種の既視感(デジャブ)が二人を捉える。 このラストシーンは、村上春樹の短編小説『4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて』(以下、『100%の女の子』)に似ている。 その後、彼と彼女は再びめぐり逢い、付き合い始めることになるのであろうか? 『100%の女の子』は、結局のところ二人がお互いを認識できずにすれ違い、行き過ぎる場面で終わる。『バタフライ・エフェクト』も同様であろうか。 僕の答えは、『100%の女の子』の二人がその後運命的に出逢う可能性があるのに対し、『バタフライ・エフェクト』の二人にはその可能性がない、である。その違いこそが「宿命」であり、「運命」の由来である。ときめきは失われた記憶から立ち上がり、事実として思い出された瞬間に押し止められてしまうのだ。 「失われた記憶」と「運命」と言えば、思い出す映画がありますよね。そう『エターナル・サンシャイン』! 記憶が失われて、二人は運命的に出会う。 「失われた記憶」こそが「運命」の由来。映画は、その出自を辿る物語。そう考えれば、彼と彼女が出会った時、二人の記憶をよぎる微かな瞬き(第一印象で「ビビビっ」とくるアレですな)、「第一印象で決めました」というのは、実に有意なのだ。失われた記憶の幻影(の可能性)故に二人は惹かれあうのだから。 運命とか宿命とかいう言葉は、科学的に説明不可能な概念である。もしそれが実際的な由来として現実的に有り得るのだとすれば、それは『エターナル・サンシャイン』や『バタフライ・エフェクト』のような物語として構築化され得るのではないだろうか。それが現実的であるかどうかは別にして、そういうアイディアは物語としてすごく有意だし、僕なんかは可能性に満ちた想像力を掻き立てられて、ちょっとドキドキして、そこはかとなく楽しい。 そう思いませんか? [DVD(字幕)] 8点(2011-11-27 22:21:28) |
99. ステキな金縛り ONCE IN A BLUE MOON
《ネタバレ》 笑いのツボという点では、今回の作品はあまりハマらなかった。 なんというか、ギャグが大雑把で大振りすぎて、空回りも多かったように思う。(映画の中でも「笑えない」ってセリフがあったけど、こっちがそれを言いたい気分だったよ) タクシー運転手の生瀬勝久や裁判長の小林隆のキャラは少しツボだったけどね。あれは笑えた。 この作品を観ている最中にイライラしたのは、有り得ない設定を納得させてしまうような展開の面白さが全くなかったということ。幽霊を法廷の証言台に立たせて、裁判を行うという設定を強引に進めていくのだけど、展開にリアリティがない、、、のは当然として、妙味がなくひねりも効いていない。最後に死んだ被害者を法廷に呼ぶという展開は唐突すぎるし、そこにストーリーテリングとしての驚きがない。そもそも、三谷幸喜にストーリーテリングの面白みは期待できないのだろうか。それは前作『マジック・アワー』でも同じだった。ディテールは面白くて結構笑えたのだけど。 コメディ映画としてみれば、彼の作品の中では、やはり『ラヂオの時間』が秀逸だったなぁ。この作品にはかなり笑わせてもらった。細やかな笑いの連続。意外性。ちょっとしたハラハラドキドキ。畳み掛けるような展開。それをコメディ映画と言うならば、完璧な内容だ。 笑えるコメディ映画としては確かに作りが大雑把でくだらなさが目に余る、、が、本作はこれまでの三谷作品の中で最も感動的だったとも言える。実のところ、ラストシーンで僕は泣きっぱなしだった。(40歳を過ぎて涙腺がかなりゆるくなったのも事実だけど) これまでの彼の映画でこんなに泣ける作品はなかった。もしかしたら、この路線が彼の目指すところなのかな。そういう映画としてみれば、僕はこの作品にそれほど文句もないのである。その路線に見事にハマってしまったのだから。。。うるうる [映画館(邦画)] 8点(2011-11-27 22:19:49) |
100. 川の底からこんにちは
主人公の「頑張る」という言葉が妙に切実に響いたのは、「頑張る」とか「頑張ろう」という言葉自体が最近世間で使われなくなったからかもしれない。一億総うつ社会。敢えて「頑張らない」ことや競争しないことが今や美徳となっているから。みんな「ナンバーワンにならなくてもいい、元々特別なオンリーワン」なのだから。 また、他人に「頑張れ」と言わないこと。それは「頑張れ」という言葉の無責任さや無神経さを自覚してのことだというが、裏を返せば、他人の気持ちに深く踏み込めない、責任を持てない関係性そのものの希薄さを表している。 僕自身は、年がら年中、「頑張る」と言い続けているような気がする。そう言って自分を鼓舞しないとやっていけないので、それは「しょうがない」のだ。とにかく頑張って、家族や会社を守る。人は社会で(ちっぽけでも何でも)責任ある立場を得ると、無根拠でも何でも頑張らないとやっていけないのです。とにかく明日も頑張るので、今日は寝る。それは決めたことだから。それはもうしょうがないから。 満島ひかりは相変わらずうまいなぁと思うのだけど、今回の主人公はちょっと共感しづらい点がところどころにあり。そういう違和感も彼女の魅力なのだけどね。 [DVD(邦画)] 8点(2011-10-10 10:12:12)(良:2票) |