81. 300 <スリーハンドレッド> ~帝国の進撃~
《ネタバレ》 テルモピュライの戦いの後日談だと思いきや、ほぼ同時進行していたアケメネス朝ペルシャのギリシャ侵攻がモチーフになっているんですね。今回はアテナイのテミストクレスがヒーローとなるわけですが、前作のレオニダス以上に筋肉バカぶりが凄まじい。史実に寄ればテミストクレスは戦略家というよりも権謀術数に長けた政治家と言うタイプで、後日にはアテナイから追放されてなんとアケメネス朝に亡命して晩節を汚した人物。ただひたすらにギリシャと自由を守らんと奮闘する姿は、あまりに歴史上の人物を聖人化していてドン引きします。製作者がなんと言い繕うとしても、この二作は文明の衝突をスプラッター系エンタメとしているに過ぎません。「ギリシャ文明ってそこまで神聖視して崇めるものなのか?」ていうのが、自分の率直な感想です。まるでエイリアンの様な描かれ方ですけど、アケメネス朝ペルシャだって高度なオリエント文明の一つだし、ギリシャの都市国家群だって、ギリシャ以外の土地をバルバロイと蔑み過酷な奴隷制度にあぐらをかいた挙句にポリス同士で殺し合いを繰り返して滅びちゃったじゃないですか。こういう欧米人の歴史感には、どうにもついてゆけないところがあります。 筋肉バカ・テミストクレスのお株を奪ってしまったのは、エヴァ・グリーン=アルテシミアの強烈なキャラであることは間違いないでしょう。あの視線の凄みには圧倒されます。キャラは盛っているんでしょうが、実際にサラミスで指揮をとったカリアのアルテシミア一世がモデルなんでしょうね。首を狩りまくるしテミストクレスとは乳出しでHしちゃう、もう唖然・呆然でございました。最後にはレオニダスの王妃=レナ・へディまで参戦して来て斬りまくるし、なんかいい所をこの二大猛女が持って行ってしまった感はあります。しかしこの海戦のシークエンスのスプラッター度はかなりのものでした。まあスパルタ船の参戦が雌雄を決したというのは、他のサラミス海戦の描写を含めてこれまたモリモリですけどね。 [CS・衛星(吹替)] 5点(2024-03-20 23:06:07) |
82. マシンガン・パニック
《ネタバレ》 スウェーデンの警察小説『マルティン・ベック』シリーズの一編を映画化、舞台はストックホルムからサンフランシスコに変更されて米国の物語に変更されている。70年代のサンフランシスコが舞台だが、当時の荒れた米国の世相が反映したストーリーで、事件のモチーフ自体はスウェーデンより米国に違和感なく置き換えることが出来てます。バス乱射事件で相棒を殺された刑事ウオルター・マッソーと新たにコンビを組むブルース・ダーンが捜査に取り組むのだが、彼ら二人を含む警察の空振り捜査を延々と見せられ事件の真相にさっぱり近づけないのが、もうイライラすることこの上なしです。現実の捜査も快刀乱麻に解決するはずがないのでまあリアルと言えなくもないが、中盤で起こる本筋とは無関係な銃乱射事件など、ムダとしか言いようのないシークエンスがある雑な脚本です。マッソーはパブリックイメージとは違う寡黙でハードボイルドなキャラですが、名優なだけにさほど違和感はなかったです。対するブルース・ダーンがハードボイルドを超したがさつな刑事で、二人が絡むシークエンスの三分の二ぐらいは口論していた感があり、これだけ噛み合わない刑事コンビはちょっと珍しいぐらいです。この映画の最大の難点は、観終わってみても犯人がなんで乗客皆殺しすることになったのかがさっぱり理解できないことで、そもそも犯人があの二人のうちどっちを(両方か?)狙っていたのかすら不明瞭な終わり方なのもイラつかせてくれます。やっぱ同時期のサンフランシスコ市警に在籍していたはずのダーティハリー=ハリー・キャラハンが出てこないと、事件はもつれるばかりです(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2024-03-17 22:24:53) |
83. ランナーランナー
《ネタバレ》 優秀な一流大学生が頭脳を活かしてギャンブルの世界で活躍するというプロットのお話しは以前に観たことがあるけど、この映画ではポーカーもネット・カジノも主人公の単なる背景にしか過ぎず、この手の映画に付き物のコン・ゲーム的なおもしろさは期待しない方が良いです。テンポが良いのはイイとしても、ベン・アフレックの運営するネット・カジノの詐欺手口がどういうものなのかがさっぱり判らないのはこの映画の大弱点です。ジャスティン・テインバーレイクが演じる主人公も切れ者という感じが全くないし、ベン・アフレックに仕える過程もまるで『ラスト・キング・オブ・スコットランド』のアミンに魅了されるジェームズ・マカヴォイみたいな感じ、だけど肝心のベン・アフレックにカリスマ性が皆無なので全体的に薄っぺらな印象になっちゃうんだよね。ぶっちゃければ、ベン・アフレックはミスキャストだったという結論になりますかな。まあ暇つぶしにはちょうど良い尺だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-03-14 22:18:47) |
84. ガンズ・アキンボ
《ネタバレ》 死体役や変な悪役など最近おかしなキャラを演じることが多いダニエル・ラドクリフ、今回は両手にハンドガンを縫い付けられたシザーハンズならぬピストル・ハンズとなってしまいました。“なんでこうなるの?”という無茶苦茶なプロットだが、スキズムなる殺し合いタイマン試合をリアルタイムでネット中継サイトに悪口投稿したら、タトゥーまみれの主催者を激怒させて拉致され人体改造されて試合に無理やり出場させられたというわけです。まあなんか無理くり納得させてくれそうな設定だけど、このスキズム自体が最近日本でも物議をかもしているブレイキングダウンを連想させてくれて、なんかリアル感があります。ラドクリフ君が両手の銃を指代わりにせざるを得ず四苦八苦するところは笑えるが、掌に銃が文字通り釘づけにしただけの雑な改造は観るからに痛そう。対戦相手のこれまたタトゥーだらけの女・ニックスと協力するようになるだろうなって想像つきますが、彼女があんな最期を迎えるとはちょっと予想外でした。平和主義者であるラドクリフ君は基本として逃げ回るだけですけど、ニックスの方は多人数の敵の中に飛び込んでいって全部血祭りにしてしまう、爽快感はあるけどリアリティ無さすぎじゃね?前半のコメディ調がだんだん薄れてゆきシリアスになっちゃうのは、スピード感も失速してしまい残念でした。ラストで「これはラドクリフ君の妄想でした」という夢オチじゃなかっただけマシかな。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-03-11 23:07:38) |
85. バイオレント・サタデー
《ネタバレ》 言わずと知れたペキンパーの遺作、でもとてもペキンパーが撮ったとは思えないメタメタな出来。大体からして邦題から酷い、原題は『オスターマンの週末』なのだがもろに『ブラック・サンデー』いじり倒したような発想、「週末なんだからサタデーで良くね?」という感じで決めたんだろうな。ペキンパー自身はこのロバート・ラドラムの原作小説および脚本を嫌っていたそうですが、死期の迫った体調ながらもスケジュールだけはしっかり守って完成させたらしいけど、プロデューサーによっていろいろといじられた様な感はあります。いちおうペキンパー印のスローモーション・カットは健在ですけど、どうでもいい様な使われ方で全くどうしちゃったんでしょうかね?マスメディアがビデオ時代になってきている時世を反映して、ジョン・ハートがビデオカメラを通じて作戦を遂行してゆく設定は面白い。何を考えているのか判らない不気味さもイイですね。でもこの映画最大の敗因はとにかくストーリーが判りにくいところで、脚本が整理できていないのかはたまた原作自体に問題があるのか、多分編集段階でカットしすぎたのかもしれませんね。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2024-03-08 22:20:13) |
86. 大菩薩峠 第二部
《ネタバレ》 第二部が始まるとなぜか机竜之介は盲目になっている、これは前作のラストの爆破攻撃で傷を負った為らしい。相変わらずの超特急的なストーリーテリングだが、本作では盲人のくせに虚無僧姿で飄々と東海道を東へ向かう竜之介と追うお松・兵馬のロードムービーという展開です。この竜之介が盲人なのに随所で斬りまくるしラストでは槍技まで披露します。これはもう座頭市どころじゃない特殊能力ですが、座頭市みたいなリアル指向がないチャンバラなのでやっぱ怪物としか思えない。道中では後から後から女性がモーションかけてくるし、ここまで来ると眠狂四郎もシャッポを脱ぐでしょう(笑)。そしてさすがの竜之介も未亡人のお徳と捨ててきた我が子と同年齢の息子と接するうちにその山中の湯治所で静かに暮らそうかと達観するけど、槍を振るって血の臭いを嗅ぐと元の竜之介に戻ってしまう。竜之介はゆく先々で因果をまき散らせているようなものですけど、悪旗本=神尾主膳がなぜか竜之介の近くに引き寄せられてるような印象があります。この神尾主膳=山形勲の悪辣ぶりはなかなかのものです。 もう後から後から登場人物が増えるので筋を追うだけで必死になりますが、このカオスの様な物語、どういう結末を迎えるのでしょうか? [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-03-05 23:07:14) |
87. バタアシ金魚
《ネタバレ》 ヤングマガジン連載中に愛読していましたが、あのほとんどサイコパスみたいで超自己中なカオルが主人公の漫画が、まさかこんなに瑞々しい青春映画になろうとは初見の時はびっくりした次第でした。今となっては貴重な高岡早紀のスク水姿を拝めるし、高岡早紀はもちろんのこと筒井道隆と浅野忠信のデビュー作というのも貴重なところです。生徒の服装や髪形を見るとけっこう平凡で真面目な高校の生徒たちという感じだけど、ビールを飲むし煙草はふかすわ高校生同士でラブホから出てくるわで、まさに今はやりの“不適切にもほどがある!”って感じで、現代の邦画界隈では炎上必至ですな。でも自分も通っていたのはごく普通の高校だったけど、部活の合宿なんかでよくビールなんか飲んでたよな、そんなに目くじら立てなくていいんじゃないかな。当時17歳の高岡早紀の演技はまさに美少女登場!でした、途中で激太りするところで二役(というか三役だったらしい)という演出にはやっぱびっくりしたな。そしてラストのワンカット・ワンシーンで撮られたカオルとソノコのプール内での乱闘は、何度観ても心に刺さります。 この作品は、誰もが覚えのある思春期特有の男の子・女の子のカリカリした感情の表現が今観ても新鮮で、最近の邦画の監督たちにも見習ってほしいものです。監督の松岡錠司はその後ドラマでの活躍がメインになった気がするけど、本作はやはり彼の最高傑作だろうと思います。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-03-02 21:16:14) |
88. PARTY7
《ネタバレ》 得点分布を拝見しますと綺麗に0~10点にバラけていますねこの映画、強いて言えば5点以下が弱冠多いみたいですな。まあこういう評価になるのもムリ無いかなというのが、私の感想でございます。まるで下北沢あたりの小劇場の演劇を見せられているかの様な典型的なドタバタ劇、これは計算の上で書かれたと思いたい登場キャラたちが繰り広げるバカ丸出しの会話と掛け合い、こういうところも小劇場チックなんですよ。まあこの中でいちばんおバカなキャラかと言いますと、怪優・我修院達也と『アントム・オブ・パラダイス』のウインスローみたいな扮装の原田芳雄か、甲乙つけがたいところです。ストーリーをまともに追ってゆくと途中でほんとバカらしくなってくるので、ラストのカオスがツボかどうかに評価の分かれ目があるんじゃないかな。オープニング・アニメーションは観れば判るように『キル・ビル Vol.1』のアニメパートでそのタッチがそっくり再現されているし、石井克人を起用するぐらいだからタランティーノもこのおバカ映画を観ていたのかな、彼にはウケそうですね。まあ自分もこういうのは嫌いじゃないけど、5点以上はつけられないなあ… [CS・衛星(邦画)] 4点(2024-02-29 21:50:27) |
89. 地獄門
《ネタバレ》 長谷川一夫が演じるのは、後に出家して僧侶文覚として平安後期および鎌倉初期に活躍した遠藤盛遠です。この盛遠がいくら田舎武士とはいえやってることがムチャクチャ、その行動は匈奴か鮮卑族かと思うぐらい、自分の思い込みで独身と誤解した同僚の妻である袈裟を無理くりに奪おうとして夫や親族までも皆殺しにしようとするヤバい奴です。これを美男スターの代表である長谷川一夫が演じるのはミスキャストのような気がしていましたが、その眼力と風格でこなしてしまったという感があります。そのストーカー侍に狙われるのが京マチ子、この人はケバい顔つきのヴァンプ的なキャラというイメージがありますが、やはり平安美人を演じさせたら右に出る者はいないと断言しちゃいます。『羅生門』を超える妖艶さ、まさに“グランプリ女優”の称号に恥じません。もちろんカラーでスクリーンに映しだされたのはこれが初、さぞや当時の観客は魅了されたことでしょう。大映としてもこれが初のカラー映画、その色彩の鮮やかさは現代の眼で観ても息を飲むほどで、「自分は産まれてからこのかた、こんな美しいものを見たことがない」とまでジャン・コクトーが激賞したというのも納得です。 この映画は同じ『門』でも『羅生門』と較べれば最近では映画ジャーナリズムでも取り上げられることが滅多にない感じですが、後にも先にもアカデミー賞で二部門受賞した日本映画は本作だけなんですよ。決して忘れられてはいけない重要作なんだと思います。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-02-26 22:49:03) |
90. ザ・フォッグ(1980)
《ネタバレ》 ジョン・カーペンターの初期ホラーとしては、本作がいちばんまとまっているんじゃないかと自分は思います。もくもくとまるで煙の様な海霧が町を襲ってきて中から亡霊が復讐に現れるなんて、もう王道の怪談噺なんですよ。すでに80年代になってスプラッター系のホラーが主流になりつつあるときに、グロさを抑えた演出で勝負しようとしたカーペンター親父の心意気を買ってあげようじゃないですか。と言いつつも、イマイチ脚本が判りにくいのと雑なところのも事実。亡霊たちはけっこう殺しまくってた印象があるけど実際は100年前に自分たちをハメた連中の子孫6人だけ、意外と節操がありますね(笑)。この映画ではヒロインと言っても良い様な三人の女性キャラ、ラジオのDJ=エイドリアン・バーボー、町長=ジャネット・リー、ヒッチハイカー=ジェイミー・リー・カーチスが結局なんの交差もなくただその晩に町にいただけという展開は失敗でしょう。少なくともジェイミー・リー・カーチスは必要ないキャラだったんじゃないかな、まあこれは元祖絶叫クイーンである母親ジャネット・リーを引っ張り出すための戦略だったのかもしれません。もっとも本作ではジェイミー・リー・カーチスは絶叫するシーンはなかったですけどね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-02-23 23:07:25) |
91. once ダブリンの街角で
《ネタバレ》 どっかで観た顔だなと思ったら、おお、“男”は『ザ・コミットメンツ』のギタリストだった人じゃないですか。この人は元来プロミュージシャンなんで音楽性が高いのは当たり前ですけど、本来はこの役はキリアン・マーフィが予定されていたそうです。実はキリアンももとはロックシンガーだったそうなので、この世界線もちょっと観てみたいです。“女”はチェコのアナ・ケンドリックスという感じの容姿ですが、この時はまだ18歳だったみたいです。でも夫と別居している子持ち主婦という設定にはぴったりで、やっぱちょっと老けてるんだよな。 低予算が丸判りのオール手持ちカメラとロケ撮影の映像には、まるでドキュメンタリーかノン・フィクションの様な雰囲気があります。この映画に登場するキャラは冒頭で“男”のチップをかっぱらおうとする若い男も含めて、男女を問わずイイ人ばかりなんです。“男”の創る曲はフラレ男の元カノへの愚痴とぼやきと未練たらたらの歌詞ですが、確かに曲はイイですね。対する“女”はモーションをかけてくる“男”を頑なに拒むし、最後は“男”はロンドンにいる元カノとよりを戻せそうし、“女”は夫をチェコから呼んで新生活を始めることになる結末。まあこの結末だけじゃ“男”がロンドンでアーティストとして成功するかどうかは未知数って感じだけど、ベタなサクセスストーリーじゃないところに好感が持てます。こういう何の進展もなかった男女の出会いって、自分も含めて経験したことがある人は多いんじゃないかな、人生ってそういうもんよ。因みにこの“男”と“女”を演じた二人は撮影後にほんとに恋人になって同棲したんだとか、もっとももうとっくに別れたみたいですけどね(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-02-20 22:51:54) |
92. 大菩薩峠(1957)
《ネタバレ》 時代劇映画できってのダーク・ヒーロー机龍之介、オープニングでいきなり通りすがりの老人を何の躊躇もなく斬捨てる、もうサイコパス人斬り魔でしかない。演じるは“山の御大”こと片岡千恵蔵、机龍之介役としてはやはりこの内田吐夢版の千恵蔵がやっぱいちばん有名でしょう。このキャラの鬼畜ぶりは眠狂四郎でさえも正義の味方に思えるぐらいで、そのニヒルぶりもかなりのもんです。千恵蔵はこの時すでに齢五十を超えている半ば御老体で龍之介を演じるにはちょっと老け過ぎの感もありますが、その貫禄と威厳はさすがとしか言いようがないです。中里介山の原作は超長編のうえに彼の死で未完という問題作、映画化されると長編の尺で三部構成というパターンが主流ですが、それでもストーリー展開は超高速でダイジェスト感があるのは否めません。やっぱ完全映像化となると、アヴェル・ガンスの『ナポレオン』ぐらいの尺が必要でしょう。 第一部しかまだ観ていませんが、とにかく一つ一つのエピソードが短く次々に繰り出されるので、参考資料を片手に観ないと着いていけなくなります。その分どうしてもキャラたちの掘り下げが甘くなりがちで、とくに龍之介が単なるぐうたらにしか見えないところが残念でした。近藤勇や土方歳三なんかとつるみ出したんでどうやら新撰組に龍之介は参加したんだなと判りますが、どうして彼がその気になったのかはまったく描かれていないので?でした。あと『用心棒』以前の古い時代劇にはいわゆる斬撃音がないので、どうも迫力が感じられないのは私だけでしょうか? [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-02-17 22:31:36) |
93. ダイヤルMを廻せ!
《ネタバレ》 グレース・ケリーはヒッチコックが思い描いた理想の女優、女優としてだけなく女性としても良からぬ感情を持っていたとさえ噂された存在、もっとも彼女には一顧だにされなかったけどね(笑)。そんなミューズがヒッチコック映画に出演したのは54年から55年にかけてのたった三本しかないけど、本作ではヒッチが彼女に密かに抱いていた妄想(?)をさらけ出した感がありますね。そんな風に言いたくなるほど本作での彼女の所作は優雅でセクシー、シミューズ姿でスワンに絞殺されかけるシーンは官能的でさえある。女性を絞殺するというのはヒッチの拘りが最も感じられるプロットでその集大成が『フレンジー』となるわけですが、ほんとはグレース・ケリーの絞殺シーンを撮ってみたかったんじゃないかな、実はヒッチコックは変態だったんですよ。 舞台劇が基のストーリーだけにミニマムな登場人物で、ヒッチ映画でも屈指のスピードのストーリーテリングです。また英国が舞台だけに登場キャラがみな上品で優雅、男性陣のスーツ姿も決まってます。グレース・ケリーも優雅で気弱そうなキャラだけど、しっかり不倫はしているというところは官能的ですね。そしてまるで連立方程式のように組み立てられている殺人計画・その破綻・鍵を巡るトリック、この複雑なプロットをこのスピードで観せられたらご都合主義的なところも気にならなくなります。スワンは庭から窓を通って侵入したと警察に思わせるはずでしたが、仮に殺害が成功しても室内に足跡が残っていないことから侵入経路を怪しまれることになったはずで、計画が失敗したからこそレイ・ミランドがケリーに罪を被せることに方向転換したのは咄嗟の反応だったわけですね。いわばプランBですらなかったわけで、これこそご都合主義と言えるでしょう。当時の英国の住宅事情は知るべくもないけど、全然別の家の鍵の見分けがつかないってあるんでしょうかね? 不倫をネタに脅迫してきた男を殺したという容疑でマーゴは死刑判決が下されるわけですが、これは死刑制度がある日本の眼から見てもあまりに厳しい司法判断ですね。けっきょく彼女は執行前日に真相が解明して助かります。これはちょうどこの頃冤罪で死刑執行されたティモシー・エヴァンス事件が英国では大問題化していたので、この悲惨な現実からのガス抜きのような効果があったのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-02-14 22:46:44) |
94. 赤毛
《ネタバレ》 製作当時はもう五社協定は雲散霧消しているわけですが、こうやって岩下志麻や乙羽信子が東宝映画で三船敏郎と共演しているのが観れるというのは珍しいことです。明治維新のときの赤報隊の史実をもとにしたオリジナル・ストーリーですが、穿った観方かもしれないけど70年安保闘争をカリカチュアしたような脚本であるような気がしてなりませんでした。官軍=佐藤栄作政権という図式で、宿場に突入してきた官軍が村人と対峙する絵面はまるで機動隊と衝突する学生デモ隊が彷彿されます。その村人たちも代官に反抗していたのは女郎屋の女たちと老師に扇動された若者だけで、半分以上の住民がこの騒動を眺めるだけの野次馬だったというのも意味深です。けっきょく赤報隊として官軍に利用されて果てる権三=三船敏郎なのですが、若者たちに詰め寄られて「理想と現実は違うものだ」と逃げを打つ老師=天本英世のセリフを聴くと、70年安保闘争後の無残な学生運動の成れの果てを予言していたようにすら感じます。 前半はとくに岡本喜八節が快調で、岡本映画常連の伊藤雄之助だけでなく三船敏郎までもがコミカルな演技を見せてくれます。権三が吃音気味というキャラ設定のおかげで、三船は普段は聴き取りにくいセリフ回しなんですが切れ切れに喋るおかげでいつもより耳に入りやすかったです。そして全編で効果的に使われるのが“ええじゃないか”節で、あの踊り狂う群衆の迫力は後年の珍作『ジャズ大名』の前振りみたいに感じました、もちろん今村昌平の『ええじゃないか』よりもずっと早いですね。コミカルな前半から打って変わって悲劇的な結末を迎えるわけですが、後半はちょっとテンポがもたつく感はありました。宿場に潜入していた幕府側の遊撃隊のエピソードは、ちょっと詰め込み過ぎた脚本のような感じでもたつきの原因だったと思います。とは言え個人的には珍しい三船敏郎のコメディ演技は堪能できたかなと思います。 [CS・衛星(邦画)] 8点(2024-02-11 22:09:40) |
95. いぬ
《ネタバレ》 決して複雑なお話しではないはずなのに、とくに前半は独特な語り口のせいで異様に判りにくい映画になっているんじゃないかな。冒頭でモーリス=セルジュ・レジアニがなんで故買屋を殺すのかとか、モーリスとシリアン=ベルモンドとの関係性とかが特にね。こういうところがフレンチ・ノワールらしいと言っちゃえばそれまでなんでがね。登場人物たちは犯罪組織の上層部というわけではなくローン・ウルフの集まりみたいな感じなのに、妙にきちんとした服装でとくにベルモンドのトレンチコートの着こなしなんか惚れ惚れさせてくれます。完全に“いぬ”はベルモンドだと思わせといての後半での急展開はちょっと都合よすぎるところもあるけど見事な脚本でした。ベルモンドにしても決してカッコよいだけでなく、けっこう躊躇なしに人を殺すダークヒーローなんです。それにしても60年代のベルモンドは、この作品も同様ですけど死ぬ間際の一言がカッコ良いんですよ、死ぬ寸前で女に電話して「フェビアンヌ、今夜は行けそうにもない」ですからね。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-02-08 21:58:13) |
96. ケロッグ博士
《ネタバレ》 近年天に召されてしまったけど、エリザベス二世からサーの称号を授けられたアラン・パーカー、名匠というよりも鬼才と呼ばれるような評価の人だったが、こんなおバカ映画を撮っていたとはねえ。ありふれたB級コメディ的な安っぽさがなく予算もかけたしっかりとした撮り方は、いかにもサー・アランの仕事ですな。しかもお尻・オッパイ・浣腸と下ネタのオンパレード、貴方は中坊かよってツッコミをいれたくなります。でもこういう大真面目に撮られたおバカ映画は、私は大好物です。レクター博士とニクソン大統領を演じる合間にこんなバカバカしいキャラを嬉々として演じるアンソニー・ホプキンスも、懐が深いのか来る役は拒まずがポリシーの人なのか判断に苦しみますね。実際のケロッグ博士は90代まで生きて天寿を全うしてるのであんなに若死(?)していないし、コーンフレークのバチもんでひと山当てようとするジョン・キューザックが後にコカ・コーラの創業者になるなど、まあジョークとして大らかに笑い飛ばしましょう。まるでカルト教団の教祖のようなケロッグ博士だけど、煙草の害をあの時代に説くなどまともな面もあったみたい、でも下半身に関することはねえ… [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-02-05 23:09:33) |
97. テリファー
《ネタバレ》 久方ぶりに吹っ切れたスプラッター映画を観た気がします。これは免疫のある人でもピエロ恐怖症を患うことは間違いなし、劇中で一言も発しないピエロがただただ人を惨殺しまくるだけの映画ですからねえ。このピエロの造形がまた凄くて、とくに印象に残ったのが今まで観たことない鋭利な鷲鼻、これは演じたデヴィッド・ハワード・ソーントンの素顔を見ると特殊メイクだったことが判りましたけどね。彼は演じた感想としてこのピエロを“邪悪なMrビーン”だと評していますが、そんなこと聞くとMrビーンがサイコキラーになって殺しまくる映画を思わず想像してしまいました(笑)。その殺しの手口がまたエグくて最初に出てくる生首ジャック・オー・ランタンなんて可愛いもの、まさか古代中華で流行ったというのこぎり裂きまで映像で再現するなんて、こちとらの耐性を越えています。こういう拷問系スラッシャーはおフランスのお家芸と思ってましたが、完全に上を行っています。タラとドーンそしてタラの姉ヴィクトリアがメインの犠牲者ですけど、死亡フラグが立ちまくりのドーンはともかくとしてタラかヴィクトリアが反撃してピエロを倒すというのが普通のパターンなのに、見事に肩透かしを喰らわせてくれるバッド・エンドでした。まあピエロ自体がスピリチュアルな存在みたいですから、何をやってもムダだったというわけです。 不潔極まりない場所で延々と血まみれの映像を見せつけてくれるので普通の感覚では迷わず0点が妥当評価でしょうが、アート・ザ・クラウンという突き抜けたキャラには2点ぐらい献上しても良いかなと思う次第です。続編も製作され最近はPart3まで公開されているそうですが、果たして自分は観れるだけの耐性があるのかは自信がないです。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2024-02-02 21:39:36) |
98. 女は二度生まれる
《ネタバレ》 小えんはドドンパしか知らない芸無しのいわゆる枕芸者、つまり客に春を売る方が得意と言うわけ。やたらと靖国神社が映るので、たぶん神楽坂あたりの置屋の芸者なんでしょう。そんな小えんが芸者を辞めてバーのホステスから一級建築士の妾となり、その建築士と死別するまでの男性遍歴がメインストーリーです。とは言っても体を許した男たちとは短いエピソードの羅列みたいな構成で、一種の群像劇みたいな感じです。まあ昭和三十年代のお話しですから、この映画に出てくる登場人物たちの行動というか言動は、現代の観点からは顰蹙を買わざるを得ないでしょう。小えん=若尾文子からしてよく言えば自由奔放、何を考えているのか理解不能な感も無きにしも非ずです。そんな彼女に建築士の山村聰だけは彼なりの愛情を注ぎ小えんもそれに応えようと努力するのですが、だいたい愛人を囲って所帯を持たせて妻や娘を蔑ろにするってのは、ちょっとどうなんでしょうかね、まあこの頃は“男の甲斐性”という感じで決して悪行とはとられていなかったんだからしょうがないかも。山村聰にしては珍しく男の欲望に正直なキャラを演じていました。唯一小えんと純愛的な関係性を持っていた藤巻潤にしても、芸者に復帰した彼女を取引先の外人顧客に接待で上納しようとして、とにかくこの映画に出てくる男どもはどいつもこいつもろくでなし揃いですな。おっと映画館で知り合った若い工員=高見國一だけは例外だったかもしれませんね。あと不協和音が強調される妙に不安を煽るような音楽が、印象的でした。 と言うわけでちょっと変わったテイストの作品ですが、妙に後味が残るところがあります。ところで小えんはこの映画のどこで“二度生まれた”んでしょうかね、やはりラストなんでしょうかね? [CS・衛星(邦画)] 7点(2024-01-31 22:01:36) |
99. セーラー服と機関銃
《ネタバレ》 およそアイドル映画とは思えない撮り方の映画、まさに相米慎二らしいと言えるでしょう。薬師丸ひろ子の登場シーンではブリッジしているうえにセーラー服のリボンがかかって顔が見えないし、やたらに望遠レンズや魚眼レンズまで使って薬師丸の顔が小さくしか見えない、アイドル的な女優が主演していてこれほどアップが少ない映画ってのも珍しいんじゃないでしょうか。それまでの角川映画の配給先だった東宝と揉めて東映に変えたという事情もあって、角川春樹がほとんど口を出さなかったというのも大きかったのかも。ストーリー自体はかなり荒唐無稽なんだけど、思った以上にヤクザ映画的なシリアスな撮り方だったと思います。やはり当時を知るものとして思い出に残るのは、この映画が公開された時の薬師丸ひろ子フィーバーの凄さで、まさに社会現象でしたね。そして彼女が歌った主題歌の大ヒット、作者来生たかおのデモテープを聴いた角川春樹は「こんな曲はクソだ!」と言ったそうで、ほんとこの人はセンスがない(笑)。いまやアイドルソングとして80年代を代表する名曲と評価が定まっているのにねえ。有名な「カ・イ・カ・ン」のシーンも、改めて観ると官能的ですらあります。薬師丸ひろ子は御存じのように今や大女優ですが、私の中では青春真っ只中の彼女が映像に焼き付いている本作が一番です。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2024-01-28 23:26:21) |
100. M3GAN ミーガン
《ネタバレ》 人形ってよく考えると怖いですよね、とくにそれがリアルな造形であればあるほどね。そういう人形/人型ロボットはホラーではけっこうこすられた題材ではあるが、その中でも本作は新境地を拓いたかもしれません。 おもちゃの人形ホラーと言えばもちろん『チャイルド・プレイ』が有名だけど、チャッキーはあくまでただの人形おもちゃでそこに悪霊が憑りつくというある意味正統的なストーリー。対するミーガンは自己学習するAIを組み込んだ最新型ロボットというところがミソです。失敗作続きでクビが目前になったおもちゃメーカーの技術者が突然の閃きからこんな凄いものを開発しちゃうと言うのはちょっとご都合主義が過ぎるけど、メーガンのシステム自体は現実のテクノロジーを盛り込んだ“なんかほんとに造れそう”感があるところが良いです。記憶部分がクラウドに蓄積されるなんて“なるほど”と感心しました、なんせこれなら本体にメモリーシステムを装備しなくて済みますからね。前半がタルいという意見も見受けられますが、私はメーガンがケイディとの交流から母子感情を学習してゆく過程を丁寧に描いているので良かったと思います。ケイディの叔母のジェマはほぼ育児放棄しているような感じですから、ケイディがまるでスマホ依存症みたいに“ミーガン依存症”になってゆくのは納得できますね。後半になるとその賢くなりすぎたミーガンが完全に怪物化する展開は、もうチャッキー人形とターミネーターのパクりみたいになるのはちょっとありきたりかなと感じます、まあみんなこの展開を待っていたんでしょうがね。そこでバズったのが例のミーガンのタコ踊りダンス、確かにこれはインパクト絶大で、もっとダンスして欲しかったな。ラストの展開はまあ読めたけど、ブルースの登場は予想外でした。中盤でミーガンのデータに不正アクセスしていた社員、あっさり殺されちゃったけどこの外部流出されたデータがきっと続編のネタになるんだろうな。 確かにミーガンはおもちゃと考えると凄い製品だけど、商品化したらどう見ても一万ドルは下らないだろうな、そんな高価なおもちゃ誰が買うんでしょうかね?やっぱチャイナマネーかな(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-01-25 22:49:56) |