1021. ジョン・カーペンターの要塞警察
《ネタバレ》 ベンべべ、ベンベン♪このベースを聞いてしまったら、もう“カーペンター・ワールドにようこそ”って感じでアドレナリンが噴き出します。良く『リオ・ブラボー』が引き合いに出されますけど、私にはそれプラスしてカーペンター版『ゾンビ』という感が強いです。でも良く考えると『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』はともかくとしてもロメロが『ゾンビ』を撮るより前なんですよ、本作は。カーペンターって人は、実はイメージされている以上に偉大な映画作家じゃないでしょうか。 それにしても、低予算は判りますけど脚本がけっこうヤバいですよ、この映画は。もうカーペンター親父は映画を撮るのに登場キャラに伏線を張ると言うことに全く無関心なんです。ちょっとマッチョな護送担当官や結核患者かというぐらい咳が止まらない囚人など、普通の監督ならこれを伏線として後半にある程度活躍させるものですが、もうあっさり序盤でフェイド・アウトですからね。娘を射殺されて錯乱状態になったのは判りますけど、その父親は警察署に逃げ込んでからはずっと毛布を被ったままでセリフもなし、観てる方もその存在さえ忘れてしまいました。襲ってくる連中も正体はイマイチ不明だし、何がしたくて警察署を襲撃してるのかも不明瞭な感じがします。けっこうカッコつけたセリフは良いんですけど、「なんで、ナポレオンという名前なんだ?」と聞かれて「後で教えてやる」と答える終盤のやり取り、けっきょくその答えは聞けず仕舞いで映画は終わってしまいます。ねえ、どうしてナポレオンなの?、もう気になって仕方ありません(笑)。 本作でいちばん残念なところは、ナポレオンというキャラが深掘りされてないことと、演じる俳優に全然迫力が無いことでしょう。これがご存知カート・ラッセルのスネーク・リプスケンに繋がるわけですけど、スネークはまた極端にコテコテのキャラなんです。この極端から極端にぶれるところがカーペンターらしいところでもあります。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-07-01 22:53:15) |
1022. 火線地帯
《ネタバレ》 脚本は石井輝男が書いていますけど監督はしてません。 “ライン・シリーズ”と言っても秘密売春組織がプロットになっていることと石井輝男が監督で三原葉子が出演していること以外に共通点はなく、そういう意味では純粋ないわゆる“ライン・シリーズ”とは言い難いところがあります。 ストーリーは100丁の拳銃の闇取引をめぐる陰謀に巻き込まれるチンピラ・コンビと謎の男天知茂を軸に展開します。今回の天知は軽妙なコメディ・ロールといった役柄で、この人はけっこう器用な役者だったんだなと感心します。ギャングのボスには何と田崎潤が起用されていて、その愛人はご存知三原葉子というわけです。彼女はいつものお約束の“X星人キャラ”、つまり悪の組織の一員だけど寝返って最後は命で償いをする、ってやつです。新東宝では悪の親玉には大友純(今回は敵対組織の親玉)の様ないかにもな俳優たちがキャスティングされるのが通例ですが、さすがに田崎潤だと風格がありますね。でも彼じゃあなんか立派すぎて見えてしまって、あまり悪辣な感じがしなかったですね。そうなんです、この映画については新東宝に独特な安っぽさや登場人物の奇妙さが消えていて、妙にふつうの映画っぽいんですよ。まあ同時期の日活の無国籍アクションに近いレベルまで倒産間際になってやっとたどり着いたかな、という感じですかね。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2016-06-28 22:47:33) |
1023. 黒線地帯
新東宝のいわゆるライン・シリーズの中では、『黄線地帯』ほどのインパクトはないけどそれでもかなりテンポも良くて一般受けしただろうなと思います。考えてみると、三原葉子は天知茂と組むといい味が出るんですよね。これは石井輝男の脚本の功績であるのは間違いないです。この映画でも、天知茂が演じるトップ屋の軽妙で歯切れの啖呵は、聞いていて実に愉しいです。でも所々で急に天知の喋りが畏まった説明セリフになるところがあり、そこら辺は石井だけじゃなくて宮川一郎も脚本に参加していたからなのでしょうか。中盤にあるバーのシークエンスでは、言葉が喋れないホステスやモロにオカマと判るホステスが出てくるという不思議な空間で、いかにも石井輝男ワールドといった感じがして面白かったです。またカメラにもけっこう力が入っていて、新東宝にしては珍しく陰影のはっきりした画で登場人物のアップを撮っていて、石井輝男という人はけっこう画作りに拘った面も有ったんだなと再認識させられました。 [CS・衛星(邦画)] 5点(2016-06-26 22:11:00) |
1024. コマンド戦略
《ネタバレ》 むかし良くTV放映されていたのでアレックス・ノースのメインテーマの旋律は頭に刻み込まれていますが、意外なことに未登録だったのでUPさせていただきました。 “悪魔の旅団”とドイツ軍から恐れられ(と言うのが定説ですけど、このニックネームは米軍がつけたものらしいです)戦後はグリーンベレーの創設の母体となった第一特殊任務部隊の活躍をネタにした戦争アクションです。内容的には史実とフィクションが半々と言うところですかね。この部隊は米軍とカナダ軍の合同部隊なんですが、米兵たちが軍刑務所から集めた犯罪者やあぶれ者で構成されていてまるで『特攻大作戦』みたいですけど、これはまるっきりウソです。対照的にカナダ軍兵士は品行方正で規律が厳しいことになってますが、これも見飽きたプロットです。この頃のハリウッドは、こういうゴロツキ部隊で戦争アクションを撮るのがひとつのパターンとなっていたみたいです。でも当時は元隊員がまだ健在だったはずで、彼らから抗議されたかもしれません。ちなみに『イングロリアル・バスターズ』のブラピはこの“悪魔の旅団”のショルダーバッジをつけていて、バスターズがドイツ兵の死体にカードを付けてゆくのも、嘘みたいな話ですけど“悪魔の旅団”が実際にやっていたことなんだそうです。 監督がアンドリュー・V・マクラグレンですから、前半はまるっきり西部劇みたいな感じです。ちゃんとお約束の酒場での大乱闘も用意されていまして、あまりのワン・パターンぶりにはもう苦笑いするしかありません。後半になってイタリアに舞台が移ってからはようやく大作戦争映画らしくなってきますが、偵察に行って戦車隊を含むドイツ軍を部隊ごと捕虜にしちゃうエピソードは、いくらなんでも話を盛り過ぎだろと突っ込みたくなります。クライマックスの断崖絶壁を登攀するところは撮影の苦労が偲ばれますが、肝心の戦闘シーンは見せかたが単調なので大掛かりなんだけど印象に残らないという残念なことになってしまいました。主演のウィリアム・ホールデンは可もなく不可もなくという演技ですけど、この役にはちょっと老け過ぎだったかなという感じでした。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2016-06-23 23:16:09) |
1025. ふたりの女(1989)
《ネタバレ》 観始めて、なんかヘンな感じがしたんです。この映画でソフィア・ローレンがオスカー主演女優賞をゲットしてるんですが、50年以上前にしてはやけに老けてるよな、って思ったんです。そして物語が進んできたところでまさに驚愕、ジャン・ポール・ベルモンドが出てくるはずなのに全然違う俳優がその役を演じているんです。何と本作は89年にリメイクされたTV映画なんでした、そりゃローレンがおばさんにしか見えないはずです、それにしてもカラーである時点で気付けよ、まったく(笑)。 実はオリジナルは子供のころにTV放映されたのを観てすっごいトラウマになるくらいの衝撃を受けたんです。戦火のイタリアで田舎に疎開した母娘がドイツ軍からは逃げおおせて逞しく生きてゆくけど、やっと連合軍に解放されたと思ったらアルジェリア兵にふたりともレイプされてしまう、というかなり悲惨なお話しでした。このリメイク版はストーリーはだいたい同じですが、レイプされた母娘がローマに帰りつき、戦後は幸せになるというハッピーエンドになっていて、ここは記憶では旧作とは決定的に違っているはずです。ストーリーテリングもいかにもTV映画らしい緩さで、名匠ヴィットリオ・デ・シーカが監督だったオリジナルの足元にも及ばない凡作です。 こうなると、オリジナルの『ふたりの女』を何とか再見してみたいものです。でも生きてるうちにその機会はめぐってくるでしょうか… [ビデオ(字幕)] 4点(2016-06-22 00:20:55) |
1026. アフター・アワーズ
『最後の誘惑』の製作が頓挫してスコセッシがへこんでいた時期に撮っただけあって、たしかにやさぐれ感が感じられます。それでもカメラワークやストーリーテリングにはいろいろ実験的な取り組みもあり、研究熱心なスコセッシらしさが感じられます。『キング・オブ・コメディ』がほとんどホラーだったので、本作では不条理でコメディを撮りたかったみたいですね。この頃のスコセッシにはまだコメディ映画では硬さがみられるんですけど、グリフィン・ダン以外の登場キャラたちはさすが“頭のおかしなキャラを撮らせたらスコセッシ”の定評通りでございました。ラストのオチも、これはスコセッシのアイデアではなかったそうですけど、けっこう愉しめました。 そう言えば、グリフィン・ダンがこの映画のだいぶ後で監督した短編を観たことがあるんですが、そのタッチは本作とそっくりでした。 [DVD(字幕)] 5点(2016-06-19 23:24:43) |
1027. 不思議惑星キン・ザ・ザ
《ネタバレ》 これが噂の“ク~”ですか、まさにカルト、脱力系SF映画の金字塔ですな。もう設定といい展開と言い“ゆる~い”の一言、でも行きあたりばったりと見せかけて、けっこう緻密な監督の演出意図が隠されているみたいです(いや、やっぱり気のせいかな)。 ロケ地の砂漠風景はまさに『マッドマックス』の世界そのものと言った感じで、冒頭から出ずっぱりの宇宙人(いちおう)二人組の薄汚さも『マッドマックス』です。このキン・ザ・ザ星雲人たち、劇中ずっと“ク~”で押し通すのかと思ったらすぐにロシア語を喋りだすし、まあ監督もあまり細かいことには拘らない人みたいです。この映画は社会主義体制への批判的な風刺なんだそうですけど、正直あまりピンとこなかったですね。唯一それらしかったところは、地下の都市(?)で群衆が監視されながら労働らしきことをさせられているシーンぐらいです。まあこんだけ緩くて脱力感に溢れていたら、ソ連の検閲官も映画の裏読みをする気力も失せてしまったんじゃないでしょうか。これがスターリン時代なら風刺云々よりも「社会主義リアリズムに反した頽廃映画」という罪状で監督はシベリア送りでしょう、崩壊間近のこの頃のソ連ではすっかりタガが緩んでたのが窺えます。 こんなグダグダを二時間以上見せられたらふつう頭にきますけど、不思議と許せちゃう麻薬性のある一篇です。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-18 01:07:37) |
1028. 超音ジェット機
《ネタバレ》 50年代はハリウッドでも “空軍御用達”映画が頻繁に製作されていた時期ですけど、さすがデヴィッド・リーン、その手の映画の中でもたぶん本作がいちばん出来が良いんじゃないでしょうか。記録上初めて“音速の壁”を破ったのはもちろん『ライト・スタッフ』でお馴染みのチャック・イェーガーですが、英国だってやればできるんだぞ、と国威発揚したかったみたいです(もっとも劇中での音速突破は世界初であるという描き方はしてません)。鬼のように音速突破を追求する社長を演じているのが名優ラルフ・リチャードソン、さすがに英国人らしい重厚なキャラです。 やはりこの映画の見どころは“スピットファイアのバレエ”で始まる実物機がふんだんに見せてくれる飛行シーンでしょう。とくに黎明期の英国ジェット戦闘機の飛行は、マニアには垂涎ものです。最初に出てくるスーパーマリン・アタッカー(スピットファイアをジェット化した機だけど、面影は皆無)なんて、ジェット機のくせに尾輪式という珍しい代物。ヴァンパイア機で夫婦で飛行なんて実に優美なシークエンスも有りますが、イギリスからカイロまで無給油で飛んでくなんて不可能でこれはご愛敬。そして超音速を目指す新鋭機“プロメテウス”、これは当時の英国空軍の最先端機であるスーパーマリン・スイフトを使っています。この機は実際には戦闘機としては使い物にならなかった大失敗作だったと言うのはきついジョークです(でも速度記録を作ったのは史実です)。とは言え、この機が飛翔する姿は躍動感にあふれていて、性能はともかくカッコいい飛行機だったのは確かです。 円谷英二はこの映画を見て「航空映画を撮りたい!」という強い願望を抱いたそうです。これは『空の大怪獣ラドン』の撮影で実現し、ラドンと自衛隊機の空中戦シーンには本作の影響が感じられるところが確かにあります。 [DVD(字幕)] 7点(2016-06-16 23:30:42) |
1029. 戦後猟奇犯罪史
《ネタバレ》 かつて『テレビ三面記事ウィークエンダー』というその俗悪さで歴史に残っているバラエティ番組がありましたが、本作はまさに『ウィークエンダーThe Movie』と呼べる代物です。『ウィークエンダー』という番組は、簡単に言うと直近におこった事件を再現フィルムを交えてリポーターたちが面白可笑しく解説するという構成で、『新聞によりますと…』という冒頭の小早川正昭のナレーションが印象的でした。まだ『容疑者』とか『被告』なんて肩書がなく逮捕されればその瞬間からNHKニュースですら呼び捨てになる時代ですから、その事件レポートの俗悪さは今の若い人が観たら腰を抜かすほど強烈です。その俗悪リポーター(中には今では大臣経験のある現職女性議員にまで成り上がった人もいます)の中でも群を抜いて下品だったのが泉ピン子でした。 本作はこの『ウィークエンダー』の爆発的な人気に目をつけた東映・岡田社長の「これを映画にしろ!」のツルの一声で撮られることになったそうです。東映一の残酷職人である牧口雄二ですけど、泉ピン子を引っ張ってきてTV同様にリポーターをやらせろという社長命令には、さすがに最後まで抵抗したそうです。とりあげられている事件は①西口彰事件(『復讐するは我にあり』のモデルになった事件)②克美しげる事件③大久保清連続殺人事件、の三つです。再現ドラマと言っても犯行に至るまでの愛欲シーンの方に力が入っていて、ほとんどソフトポルノです。実はここにも監督に対する無茶ぶりの跡があり、②はなんと撮影2日前に発覚した事件が無理矢理おしこまれ徹夜で脚本が書かれたそうです。この事情は、劇中でも泉ピン子に突然電話がかかって来て「また大事件発生だ!」という小芝居をやってから②のレポートが始まるというセルフ・パロディ(観てる方には何のことやら判りませんけど)になっていて、笑わせてくれます。①や③は映画やTVドラマ化されていますけど、②の事件の映像化はいまだに本作だけという貴重(?)な価値があります。それにしてもまだ裁判も始まってないうちにこんな映画にしちゃうなんて、いくら人を殺めたとはいえ克美しげるも可哀想です。なぜか三つの事件のうち③だけで尺の三分の二を占めているのですが、川谷拓三の大久保清の怪演が強烈なのでいいんじゃないでしょうか。でもいくら死刑が執行された後とは言っても、大久保清が連続殺人を犯すまでの過程をコメディ仕立てで見せるとは、ちょっと酷過ぎです。 しかしこれが東大出の社長が慶應卒の監督に撮らせた映画だと思うと、なんか情けなくなります… [CS・衛星(邦画)] 3点(2016-06-13 20:44:20)(良:1票) |
1030. 死霊の盆踊り
まあ環境ビデオだと思えば耐えられないことはない、と自分を納得させるしかないんです… [ビデオ(字幕)] 1点(2016-06-11 22:38:23) |
1031. プラーグの大学生(1913)
《ネタバレ》 本作は、世界初のドッペルゲンガー映画ということになるのでしょうか。金貨10万枚で自分の分身を悪魔に売り渡してしまった貧乏大学生の悲劇です。100年以上前のサイレント映画だと侮ってはいけません、技術的に暗いシーンが撮れなかった頃ですけど、ドイツ映画のお家芸になる表現主義の萌芽は確実に見て取れます。同じ俳優が同映像にふたりともきちんと撮られているのは今では誰も感心する様な事ではないですけど、当時の人はさぞや驚かされたことでしょうね。分身が勝手に行動し始めて主人公を苦しめるわけなんですが、悪魔や分身の目的がなんだか判らないと言うのもなんか不条理で気味が悪いです。難点と言うことになると、主人公のパウル・ヴェゲナーがあまりにごつくていかついところと、伯爵令嬢の容姿があまりに…なことでしょうね。セリフが無いサイレント時代ですから、見た目は大事ですよね(笑)。 このお話しは1930年代までほぼ10年ごとに三回も映像化されたそうで、その頃のドイツ人はドッペルゲンガーが大好きだったみたいです。逆に第二次大戦後はまったくリメイクされなくなったのはどうしてなんでしょうか。ワイマール共和国時代の不安定だったドイツ人の精神状態が反映されていたのかもしれません。 [ビデオ(字幕)] 7点(2016-06-08 22:37:21) |
1032. 愛のさざなみ
《ネタバレ》 『愛のさざなみ』、そういや昔そんな映画があったな、という記憶も有ります。でもネットで検索すると、出てくるのは島倉千代子の同名の歌ばかり。まさに忘れられた映画という感じですかね。で、実際に観てみますと、大したお話しではないうえに陳腐で観念的としか表現できない映画でした。 『明日に向かって撃て!』の翌年に撮られた作品ですから、キャサリン・ロスの魅力は満喫できます。相手役のジェイソン・ロバーズには、この人がキャサリン・ロスとラブ・ストーリーなんてあり得る?、という懸念は当然有りました。ロバーズはちょっと有名なホラー映画専門の俳優というキャラでしたが、けっこう味がある演技かなという感じです。でもなんでこの男がホラー俳優じゃなきゃいけないのかという必然性はまるでないのですけどね(笑)。でも、とにかく脚本が酷い。前半のロスとロバーズの質問に質問で返す会話の連続の陳腐さには閉口させられましたし、突然のFBIの登場や森の中での若者たちのレイプまがいの騒ぎなど、何が言いたかったのかさっぱり判りません。またキャサリン・ロスがなんで弁護士の旦那と離婚したがっているのかも、浮世離れした観念的なセリフでは観る方に全然伝わってきませんよ。劇中いかにも70年代と言う感じの歌を流して『ジョアンナ』風の映画に仕上げたかったみたいですけど、肝心の曲が陳腐なのでこれまた失敗。 恋愛ものアメリカン・ニューシネマは駄作だらけという法則がどうもあるみたいです。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2016-06-06 23:10:07) |
1033. 丘
《ネタバレ》 このスタッフとキャストを見てください。ショーン・コネリー以下バリバリの英国くせ者俳優を揃えた純粋な英国映画なんですけど、なぜか監督は若き日のシドニー・ルメットなんです。これは米国人が監督するとしたらジョゼフ・ロージーなんかがやりそうな題材だと思います、しかし傑作『未知への飛行』を撮った直後だけあってルメットの演出手腕は冴えわたっています。まったく劇中で音楽を使わないのは『未知への飛行』と共通していますし、とくに後半になってからの対話劇的な展開とその緊張感は『未知への飛行』ほどじゃないにしてもかなり来てます。 第二次大戦中の北アフリカが舞台設定ですけど、きほんこの映画は戦争映画じゃなくて刑務所ものです。英国陸軍刑務所という特異な舞台がなかなか興味深いです。受刑者たちは民間とは違って懲役囚として作業するわけではなく、昼間はただひたすら体操したり行進したりとふつうの訓練と変わらない感じもします。きっとこれは、出所後はまた兵隊として再利用するからでしょうね。でもこの刑務所には人工の丘(というか砂丘みたいなものです)があって、懲罰として延々と丘の登り降りをやらされます。所内は古参の特務曹長が仕切っていて、将校である所長は街の娼家に入り浸りでたまにやってくるだけ。さすが民主国家の軍刑務所だけあって、日ごろ凄まじい虐待をしていても受刑者が死亡すれば大問題になるみたいで、そこは同時期の日本やドイツそしてソ連とはえらい違いです。もとは舞台劇の映像化らしいんですが、この受刑者たちや看守と所長の描かれ方は良く考えると階級社会である大英帝国のカリカチュアになっているような気がします。 演技陣ではやはり特筆すべきは特務曹長のハリー・アンドリュースです。受刑者たちが暴動を起こしかけたときに彼らをヒートダウンさせる特務曹長の気合いの入った演説は、憎たらしいキャラでは有るけど観る者を納得させる迫力に満ちていました。コネリーも007全盛期にこんな地味な映画に出演するとは、やはりこの人はただ者じゃ有りません。他の同房の受刑者たちもそれぞれキャラ分けがきっちりしており、中でもやはりくせ者ロイ・キニアが目立ってましたね。まっ平らな砂漠の中の刑務所ですが、クレーン撮影を縦横に駆使して見せるカメラは熟練の技を感じさせられましたし、人物のアップ映像の多用も明暗がくっきりしているので効果的です。 後味の悪い結末でしたが、さすがシドニー・ルメット、と言っておきたい佳作です。 [DVD(字幕)] 8点(2016-06-03 22:03:01) |
1034. 龍三と七人の子分たち
《ネタバレ》 どうも最近の北野武の映画は“やらされ感”が滲み出ていて、なんか観ていてしんどいんです。無理矢理『アウトレイジ・ビヨンド』を撮らされた腹いせなのか、徹底的にヤクザを茶化した映画にして「俺はもうヤクザ映画なんか撮らないよ」と宣言している様な感じです。どうせ後期高齢者ものをネタにするなら、イーストウッドの『スペース・カウボーイ』の様な開き直った爽やかさが欲しかったです。ギャグにしても、『みんな~やってるか!』ぐらいのバカバカしさに徹してくれたらいいのに、と思うけどいくらたけしでもあんな突き抜けた映画はもう撮れないでしょうね。 けっこう近藤正臣も頑張っていたけど、やはり藤竜也のはっちゃけぶりが観ていて愉しかったですね。たけしのヤクザものになると必ず出てくる定番の“指ネタ”もくだらなさとしつこさでは歴代最高だったかもしれません。そして中尾彬、『アウトレイジ・ビヨンド』に続いて殺されキャラでしたが、今回は死体になってからも大活躍(?)ということで、おいしいところを持って行ってしまいました。 そう言えば最近は北野映画にたけし軍団の面々が全然出てきませんが、どうしちゃったんでしょうか? [CS・衛星(邦画)] 4点(2016-05-30 21:34:33)(良:2票) |
1035. デッドガール
《ネタバレ》 プロットもストーリー展開もかなり鬼畜系なんですけど、撮り方自体はしっかりしていて妙にまともです。ありふれた高校生活に謎のゾンビ女が紛れ込んできて、登場人物たちの人生がくるってゆくと言う感じの雰囲気が良い感じです。ラストはまるで禁断の夢オチみたいな終わり方ですけど、後半になってけっこう騒ぎが大きくなってるのに第三者がまったく登場してこない不自然さも含めて、これはダークファンタジ-だと捉えれば有りでしょう。そう言えばどこかこの映画のタッチがガス・ヴァン・サントの『エレファント』に似ている様な気がしてならなかったんです。一か所だけでしたが夕焼けに染まる鰯雲だけを捉えた短いカットも有り、これは間違いなく『エレファント』に影響されてるな、と確信した次第です。あと主人公が自宅にいるシーンが幾つもあるのに、なぜか母親がまったく登場しないところもなんかヘンですし、良く考えると脚本には色々仕掛けがあった様な気がしてなりません(もっともそれが成功しているかは疑問ですが)。 [DVD(字幕)] 6点(2016-05-29 21:33:44) |
1036. 2010年
《ネタバレ》 確かに皆さんがおっしゃる通り、SFエンタテイメントとしてはまあ上出来の部類に入るんじゃないでしょうか。でもこれが『2001年』の続編だと言う眼で観たら、まあちょっと許せないですね、自分としては。良く考えると本作はアーサー・C・クラークの書いた「2010: Odyssey Two」の映像化なわけなので、この子供騙しというかスピリチュアストの妄想の様な結末は、クラークの耄碌の産物ということなんでしょうか。この映画でいちばん許せなかったところは、前作でのHALの反乱を政府役人がインプットした秘密指令のせいだとしたことです。判り易いのはたしかですけど、これじゃモノリスとHALの神秘的な関係がどっかに飛んでっちゃってますよ。あと何度もボーマンを登場させたこと、これじゃまるっきり彼が天国にいて天使かなにかのような存在になったとしか思えません。個人的には『2001年』の終盤のシークエンスには、キューブリックは宗教的な意味合いを持たせたつもりは毛頭なかったと思っています。それがこんな俗っぽいキリスト教的なストーリー・テリングになっちゃったら、さぞやキューブリックもご立腹だったんじゃないでしょうか。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2016-05-25 22:25:47) |
1037. キングスマン
《ネタバレ》 いまもっともコメディ演技が光る英国俳優といえばコリン・ファースです、彼の計算されたポーカー・フェイスはヘタなコメディより絶対可笑しいと思います。監督があの人でR15のレーティングですからけっこう血なまぐさい画を見せられるかと思ったら、こりゃ『キック・アス』に較べれば可愛いもんじゃないでしょうか。冒頭の山荘での乱闘シークエンスがもっともスプラッター色が強いんですけど、あの人間縦割りは『斬る』や『子連れ狼』のパロディですし本家の方がはるかにグロいですよ。でも『威風堂々』の調べに乗せて繰り広げられる人頭花火大会にはやられました、思わず声を出して笑ってしまいました。“なるほどこういう手の人体破壊があったのか”と感心しましたが、これこそこの映画でマシュー・ボーンがやりたかったことかもしれません。実はわたくし、ラストでコリン・ファースがまた登場してくるものだとばかり思ってました。でもたぶん撮られるであろう続編にはちゃっかり復活したりしてね、でもそれじゃぁまるっきり『アウトレイジ・ビヨンド』ですね(笑)。 でもいちばんびっくりさせられたのは、あのスウェーデンいじりです。なんせ王女様がお尻見せてあんなことまでしちゃうんですからねえ。たしかに私らの世代には頭脳の片隅に「スウェーデンはフリーSEX(死語です)のエロい国」という潜在意識が刷り込まれていますが、マシュー・ボーンの頭の中も同じなのかな? [CS・衛星(字幕)] 7点(2016-05-23 22:51:59) |
1038. ロシアン・スナイパー
《ネタバレ》 リュドミラ・パヴリチェンコといえば切手にまでなったソ連の超有名女性スナイパー、その彼女の戦争をフィクションを多々交えながら描いています。考えてみれば、戦場に女性を実戦兵士として送り込んだのはソ連だけ、それだけ独ソ戦のときはスターリンも切羽詰まっていたということでしょう。ドラマとしては戦場から離脱した後使節の一員として米国に送られ、その時のルーズベルト大統領夫人エレノアとの交流がカットバックされる構成になっています。語り口としてはまあオーソドックスで、戦場でも彼女の狙撃活動よりも上官との色恋や女性戦友との交流がメインという印象です。イーストウッドの『アメリカン・スナイパー』との大きな違いは彼女が狙撃という人を殺める行為に対して何の葛藤も持っていないことで、大義の前では意外と女性の方が疑問を持たないという傾向があるんじゃないでしょうか。旧ソ連の国策映画ほどじゃないにしろ、独ソ戦(ソ連の呼び方では『大祖国戦争』)に絡んでは戦争に疑問を挟むような映画の撮り方は、現在のロシアでもまだまだタブーなのかもしれません。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-05-21 22:01:09) |
1039. 殺人地帯USA
《ネタバレ》 原題の『アンダーワールドUSA』を『殺人地帯USA』とする邦題のつけ方、まるで新東宝ピクチャーみたいなセンスでいかにもB級ノワールっぽくていいですね。 チンピラ少年が組織の幹部に父親が殺されるところを目撃、その後順調に金庫破りを稼業とするワルに成長して刑務所にぶち込まれます。そこで父親殺しの犯人の一人と再会し、この男の病死間際に残りの三人の名前を告白させます。この元チンピラ少年役がクリフ・ロバートソンです。まだ若き日の出演ですが、さすがこの7年後にはオスカー男優になる人だけあってB級ノワールにはもったいない様な迫力ある演技を見せてくれます。ロバートソンは出所後に組織の一員として潜り込み、組織の中ボス的な存在の父親殺しの下手人三人と大ボスに復讐を果たしてゆきます。サミュエル・フラーの演出はタイトかつスピィーディーな物語展開なので、まあ退屈はしませんね。まだFBIもその存在を公に認めていなかった頃なので、この組織は明らかにマフィアなんですけどそんな文言は一言も使われません。証言封じのために証人の子供を轢き殺したりする生々しいシーンもあったり(ヘイズ・コード時代にしては珍しいことです)、公開当時はそれなりにショッキングだったんじゃないでしょうか。そしてラスト・シーンは撃たれたロバートソンが夜の路地を徘徊して息絶えるんですけど、ここはゴダールの『勝手にしやがれ』とそっくりだという指摘も一部にはあるそうです。ご存知のように『気狂いピエロ』に出演させちゃうほどフラーをリスペクトしてますから、ゴダールが真似したということは十分あり得る話です。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2016-05-18 20:58:11) |
1040. 顔役暁に死す
《ネタバレ》 この頃の岡本喜八は“暗黒街”シリーズと『独立愚連隊』二作で独自のスタイルを築き始めていたころです。その『暗黒街の顔役』から『顔役』だけスピン・オフした様な題名ですが、もちろん“暗黒街”シリーズとはなんの関係も有りません。 主役に加山雄三、脇に中谷一郎と中丸忠雄とくると、どうしても『独立愚連隊』二作を彷彿としてしまいます。じっさいそんな感じで、原作がハードボイルドの大藪春彦とは到底想像がつかない仕上がりです。まあそこは原作のハードボイルドを岡本喜八が自分風味に料理した一皿なんでしょうけど、加山雄三のあっけらかんとしたチャラ男ぶりは堪能できます。岡本作品に登場する加山はたいていこんな感じですが、これは演技が未熟な加山の為に岡本が考えた加山雄三のベストキャラなのかもしれません。映画のストーリー自体は『用心棒』の設定をそのまま現代に持ってきた様な地方都市のヤクザ抗争なんですが、どうもイマイチ岡本にしては弾け具合いが足りません。これはきっと脚本が関沢新一じゃないからなんでしょうね。 敵役には青大将になる前の田中邦衛がキャスティングされていますが、これが加山雄三と田中邦衛の初共演と言うことになるそうです。また平田昭彦も悪役ですけど、岡本作品では平田は悪役にまわることが良く有り、彼の本来の持ち味を上手く引き出しているなと思います。 [CS・衛星(邦画)] 4点(2016-05-16 21:36:49) |