121. 乙女座殺人事件
このズレ加減をちょっと面白いなーと思ってしまった私もやっぱりちょっとズレている。コロコロかわるテンション、どう見てもギャグにしか見えないアクションシーン、ミステリーとしてはあまりにもお粗末なプロット、なのにケビン・クラインがひたすらクセ者だったためにむやみに振り回されてしまいついつい最後まで観てしまった。基本的にスーザン・サランドンにハズレ無しと信じていたが、まあ長いキャリアの中にはこういうコトもあるだろう。だいたいこれだけの豪華キャストで、これほど話題にならないってことはナニか理由があるのである。世の中意外とうまくデキている。決してわざわざ観るほどの映画ではないが、ピントをはずしたヘンな映画が観たい気分の時にはほどほどに脱力できるだろう。やっぱりケビン・クラインって上手いと思います。NYを舞台にしたオフビート感覚ノライト・コメディと捉えれば・・・ちょっと苦しいか。でも嫌いじゃないです。あんまりお勧めはしません。 5点(2004-05-09 04:10:29) |
122. キル・ビル Vol.2
これ誉めちゃっていいのかなあ。レビューワーとしての良心は著しくとがめるんですけど、映画ファンのハートが「誉めて誉めて誉めちぎれ」と悪魔の声でささやき続けるんですよね。つい昨日、「コールドマウンテン」を「これは映画じゃない」とコキおろしたわけですが、じゃあ「キル・ビル Vol.2」は映画なのか、と。前半とつなぎ合わせて考えてもね、これってただのタランティーノの好きなものコラージュですよね。悪く言えばほとんど思いつきだけで出来ている。過去の作品にも十分あった傾向だけど、過激にエスカレートした結果、ストーリーもへったくれもない話になっちゃった。これが許されてしまうっていうこと自体が、タランティーノの実は最高の才能なんであって、普通こんなの絶対に許される物じゃない。言うなれば公開マスターベーションなわけですよ。実際、そういう映画ってけっこうあるし、たいていは誰からもハナもひっかけられない。ただしこの作品の場合は、あらゆるカットから監督の映画に対する熱い情熱がほとばしり過ぎてしまっているのが素人目にもあまりにもわかってしまうので、この狂おしいまでの愛情を誰も否定できないんだと思います。クライマックスだけあって前半のVol.1よりもはるかにテンポは良いし見やすいです。意見がハッキリ分かれた前作である程度客層が絞り込めた結果、劇場内は純粋なタランティーノファンだけで占められており大変雰囲気の良い鑑賞となりました。「Natural born killer.」とか、ビルの倒れるタイミングとかね、必要な場面でちゃんと笑いが取れてましたしね。この客層は本当に良かった。はっきり言って、タランティーノにある程度理解のある人以外は、見ても完全に無駄だと思います。これは彼の「好き!」だけに突っ走ってる映画だから、冷めた観客には通用しない。でも私は好きです。どこまでも、おつきあいしたいと思います。無茶苦茶で問答無用でセオリーもへったくれもないんだけど、これはタランティーノが本当に作りたかった映画。なんだかねえ、優等生みたいな人たちばっかり増えて、誰もがお利口になって行く中で、一人いつまでもガキ魂を失うことに決死の抵抗を続けている姿が泣かせてくれます。少なくとも、21世紀にはタランティーノがいる。これは大変な救いになっていると思います。 10点(2004-04-26 23:29:55)(良:4票) |
123. コールド マウンテン
マイナス90点。怒りに手が震えるのを深呼吸で抑えながらこのレビューを書いている。私は映画を観てつまんなくても「カネ返せ」とは滅多に思わないというか、選んだ自分も悪いでしょ、と比較的穏やかに諦める方だけど、今度ばかりはおさまりません。だってこれは映画じゃないでしょ。朝のTV小説総集編でしょ。ニコール・キッドマンがデカいので、ジュード・ロウがちっとも素敵に見えません。ジュード・ロウが美しすぎて、ニコール・キッドマンがちっとも輝きません。美しさにかけては他の追随を許さないこの二人が、思いっきり共倒れてしまいました。フレームインが少なかったのがせめてもの救いですが。あらゆる点はともかく、この二人を美しく撮れなかった責任は重いです。最大の見せ場であるはずの山場のシーンで、二人のアップの醜かったことといったら、もう泣くに泣けません。フィリップ・シーモア・ホフマンにジョバンニ・リビシ、ナタリー・ポートマン、ただ話を長くするためだけに次々と登場するゲストキャラは豪華かつ大変魅力的です。だから何?戦争映画好きな私は冒頭の7、8分だけ楽しい思いをしましたが、「イングリッシュ・ペイシェント」の例を見るまでもなく戦争を題材に取ったわりには案の定全然関係ないところに帰着してしまいました。あまりのアホらしさについつい最後まで観てしまいましたが、正直二度と見たくないです。期待のレネー・ゼルヴィガーも「なんでこれがオスカー?」と首をかしげたくなるつまんない役。強いて言えば、今まで一度として演技が出来るとは思わなかったナタリー・ポートマンが非常にいい芝居をしていました。むしろ彼女に何かあげてもいいくらい。オスカー助演賞を撮る映画ってたいていハズレがないと思ってましたが(以下略)誰かアンソニー・ミンゲラに映画の撮り方教えてあげましょうよ。この人、映画見たことあるんでしょうか。ないでしょうね。「イングリッシュ・ペイシェント」とこれと、どっちか1本見れば十分です。どちらも見ないで一生済めば、ホントに幸せです。これは詐欺。 0点(2004-04-25 02:03:54)(良:2票) |
124. エデンより彼方に
なんと確信犯的なメロドラマなのであろうか。と思わず感動すらしてしまうほど、ものすごいメロ度に驚いてしまった。21世紀の今日、人類が火星を探索しようというこの時代に、ここまで徹底的にメロドラマをやろうと思った心意気が凄い。ヒロインのアップに覆いかぶさるむせかえるようなBGM、どこを切っても印象派な花とか庭とかレンガとかいった美しすぎるものの数々。もちろん一度ぐらいここまで徹底的に貴婦人なジュリアン・ムーアも見てみたいぞという密かな欲求は腹いっぱい満たされるのであるが、あいにく最近ちょっと骨のある作品に当たってしまっていた私にはいくらなんでも薄べったいぞ。だいたいこれ、男優がシドニー・ポワチエじゃなきゃ成立しないだろう。気持ちはわかるし、かつてたくさんあったこの手の映画は決して嫌いじゃないのだが、悲恋仕立てにするためにわざわざとってつけたような人種差別や解放されない時代のゲイとか女性とか、こういうものを描くんだったら美しさのオブラート以外にもっと価値ある手法はいくらでもあるだろう。オマージュとして、これがやってみたいんだぁ~という強烈な情熱は感じるんだけど、同じやるなら「デスペラード」ぐらいやらないと。笑いが取れるほどではないので残念ながら個人的にはこれはスルー。まあ、ジュリアン・ムーアは映画界の至宝であるという個人的な価値観から3点献上。たぶんもう見ないと思うけど。そういえばジュリアン・ムーアって昼メロ出身よね。現場は案外、げらげら笑いながらやってるんじゃないかという気がちょっぴりした。これってネタでしょ? 勝手ながら邦題マッチング評価と音楽評価は[笑]の10点です。 3点(2004-04-18 04:15:59)(良:2票) |
125. ブラッド・シンプル
これはいいですね。原点だからこそのシンプルさと、ストレートさがその後のコーエン兄弟の作風を端的に集約していると思います。たまたま運悪く、3つ重なってしまった偶然。夫の元を離れた妻は、愛人が夫を殺したと思い込み、愛人は彼女の仕業だと思い込む。たったこれだけのストーリーが、ちゃんとサスペンスになっていることに驚きます。整理されたシナリオ、個性豊かというにはクセの強すぎる登場人物たち、計算の行き届いた画面構成。夫が殺されるまでの成り行きを丁寧に描く前半と、勘違いからお互いに猜疑心をつのらせて行く後半のそれぞれが独自のサスペンスを持っていて、ほとんどスキらしいスキもないのは見事。斬新なように見えて、映画学校で基本中の基本として教えるセオリーを徹底的に踏襲し、手堅く真剣に作られた誠意溢れる作品だと思います。基本だって、やっぱり無視しちゃいけないのよ。教科書通りにきちんと作ったって、新しいものはできるのよ。という基本的すぎてもはや誰も振り向こうとしない根本的な2つの事実に、この作品はふと思いをよぎらせてくれます。傑作だと思います。 9点(2004-04-18 03:12:20) |
126. 未来は今
この映画のツボは「とてつもないバカバカしさ」、この一語に尽きます。どう考えても普通の人より数段抜けてる主人公が、大企業の郵便仕分け係から社長にまで出世するドス黒い笑いに満ちたお話。どこまでも悪役に徹したポール・ニューマンのいまだかつて類を見ない冷酷非道の悪役ぶりと、間抜けさゆえに人を疑うこともなく、蹴落とすことにも興味のないシンプル一筋のティム・ロビンス。強烈なしたたかさで特ダネ求めて突っ走るジェニファー・ジェイソン・リーの「コピー!」の声にシビれて下さい。何もかもが必要以上に大がかりで、やりすぎ。だからこそこのイヤな笑いがシニカルにアイロニカルに人の心の醜さを暴き出します。悪はどこまでも悪、善はどこまでも善、そして神様は意外と何でも知っている。バカバカしいまでにファンタジックで、どぎついほどにリアリスティックな、この矛盾と破綻に満ちたストーリー展開にノレた人なら、コーエン兄弟にどこまでもついて行くことができるでしょう。個人的にはコーエン兄弟のベスト作品と思っているのだが、非常に残念なことにティム・ロビンスとジェニファー・ジェイソン・リーの踊る「カルメン」がちょっぴり長く感じられるので涙を飲んで1点減点。でもおもしろいです。これはおすすめ。 10点(2004-04-18 03:01:36)(良:2票) |
127. ディボース・ショウ
《ネタバレ》 コーエン兄弟がセレブの離婚劇?しかもキャサリン・ゼタ・ジョーンズ主演?まさかの組み合わせが予想外にピタリとハマッた、コーエン兄弟初のメジャー作品(笑)これまで微妙に引きずって来た、これが持ち味とも言えるマイナーの影は一挙にナリを潜めたが、だからと言って決して薄っぺらなライト・コメディに走るでもなく、腹黒い笑いはもちろん健在。普通の二枚目に落ち着くことを断固拒否するジョージ・クルーニーのほどよい抜け具合と、したたかなのにどこか憎めない悪女をやらせたら目下ハリウッドに敵なしのキャサリン・ゼタ・ジョーンズの駆け引きが楽しい、大人のための洒落たハリウッド映画。「未来は今」であの「ブルーレターーーー!」に爆笑できた人ならきっとノレると思います。安っぽい仕掛けやありがちなサスペンスを一切排除し、人生の目的をまさに「リッチな暮らし」と定めたシンプルな悪女の憎み切れない可愛さ、対する敏腕弁護士の物質的に恵まれながらも成功した独身中年ならではの寂しさをさらけ出す率直さ、世の中どう考えたって男は女に勝ち目ないのよ、とさりげなく人類永遠の真理を突いたコーエン兄弟ならではの悟りの境地はさすがです。始めから終わりまで、終始一貫「楽しいなあ~」と気分良く見られる作品でした。「未来は今」を見てない方は、予習しておく方が良いでしょう。でもこの作品は「未来は今」を超えたと思います。 ジェフリー・ラッシュやビリー・ボブ・ソーントンなど脇役陣も楽しいけど、主役はあくまでもキャサリン・ゼタ・ジョーンズです。最高です。 10点(2004-04-18 02:52:29)(良:1票) |
128. アトランティック・シティ
《ネタバレ》 どうしようもない人生。夫を妹に寝取られて、たった一人で人生の建て直しをはかる女と、かつての仲間の未亡人に召使としてアゴで使われる男。惨めさを絵に描いたような二人の人生が、カジノ・シティとして再生を図るアトランティック・シティで交錯する。ハートウォーミングに逃げず、ありきたりの幸運話にとどまらない、ルイ・マルならではの感性に彩られた醜く、悲しい男と女の欲望の物語。絵空事めいた救いはない。悲惨な人生が、これを境にほんの少し上向いて行くかもしれない期待感だけを残して、最後まで人生の賭けに勝とうとする人々の姿に人はほんの少しだけ安堵する。彼女は賭けに勝ったのか?彼女の勝ちは、失った物を本当に全て補うことができたのか?小銭を掴んで肩を寄せあう老人たちは、満ち足りた心でこの世を去ることができるのか?ルイ・マルの見たアメリカが、この一作に凝縮されている。「生きろ」というプリミティブなメッセージを、さりげなくしかしドラマティックに、見事に描き上げた名編である。 ルイ・マルは「プリティ・ベビー」に続いてスーザン・サランドンと仕事してますね。そういえばジャンヌ・モローの面影があると言えないこともない。 9点(2004-04-07 01:28:59) |
129. イン・ザ・カット
はっきり言って、メグ・ライアンは大根である。ただし彼女が大変魅力的な大根であったことは、彼女自身ばかりでなく誰にとっても不幸なことであった。大根だって調理法さえ間違えなければ立派な一品料理になり得るはずなのに、コメディ以外のどんな役にも不向きな彼女は、「実力派」として認められたいがためにそのキャリアのほとんどを無駄な努力に費やして来た。たとえば戦争映画、たとえばアクション映画。挙句の果てがこれである。こうなったらもう、これが遺作となってくれることをファンとして祈らざるを得ない。女性が何かをこんなに頑張りました、ということをわざわざ言う時代ではないと思うのだけれど、はっきり言ってこの作品にはその主張が溢れすぎている。残念ながらここにはエロはあるけどエロスはない。1文字の違いだが大違いである。同じ過ちを男性がやったら、少なくとも純然たるスケベ精神だけは残るのでまだしも救いがあるが、女性がエロを頑張り過ぎたらただの下品さしか残らない。エロ度については、メグ・ライアンにしてはやりすぎだけど世間一般の現代的標準から言えば全然手ぬるい。要するに中途半端な不潔さだけが、サスペンスはおろかまともなプロットすら存在しないシナリオにベタベタとコラージュされただけ。最後の最後までこだわりを見せた「ちょっとカッコいい」風のエンディングに賭けられた作り手の熱意が虚しい、前代未聞の最低最悪映画。はっきり言って盛りを過ぎたメグ・ライアンの裸は醜悪の一言。あんなに虚しい「ケ・セラ・セラ」は二度と聴きたくない。 1点(2004-04-07 01:12:33)(良:6票) |
130. ライアー
《ネタバレ》 いわゆるネタ物系の流れですがワザ有りのキャスティングで演技そのものが非常に楽しめる作り。ティム・ロスを軸に、クリス・ペン、マイケル・ルーカーという顔合わせが手堅いですよね。やはりティム・ロスは凄いの一言。この人は何でもお手のものといった器用さを持ちながら敢えて熱演系に走らない役選びのセンスに非常に信頼感があります。ここまで幅広く軽々とこなす役者さんもそうそういないと思うんですが、あまり濃い役に飛びついて行かないですよね。この作品ではさりげなく本領発揮といった感じです。イケてます。売春婦なのに妙に清潔感のあるレネー・ゼルヴィガーには個人的には少々食い足りないものを感じたのですが、この抑えた配役の中では案外この普通っぽさがいいのかも知れません。二転、三転といったトリック志向というよりはむしろ、あちこちに意表を突いた展開がこっそり忍ばせてあるという感じで、ところどころで「うひょーん」と驚きました。仕掛けに頼ったトリッキーな作品ではないと思います。どちらかと言えばティム・ロスの異常な感じを堪能し、人間の愚かさと悲哀を味わう作品なのではないでしょうか。絶妙な後味といい、いろんな意味でこなれた小品といった趣があって私はかなり好きです。オチについては、クリス・ペンがなんであのお金を返すことができたのか?って考えればわりと単純な話じゃないですか?一応サービスとしてついてるんだと思いますけど。 9点(2004-03-30 00:29:33) |
131. 天才マックスの世界
先のmalvinasさんの意見に著しく同意。これはハートフル・コメディに属する物であって、おバカとかスラップスティックとはほど遠い作品ですね。ただしそのへんの先入観を払って見れば、個人的にはかなり楽しめましたしこういうのけっこう好きです。細かいところではちゃんとコメディになっているのですが、ドタバタ系のとんでもおバカな作風をイメージするとちょっとコケると思います。ジェイソン・シュワルツマンも若手ながらなかなかいい味出していると思いますが、やっぱりこれはビル・マーレーの映画じゃないでしょうか。彼のちょっとアイロニカルなキャラがわかっていれば、うまくノレるんじゃないかなぁと思います。たまに「ぷぷっ」と笑うぐらいがちょうどいい、どちらかと言えば大人向けのコメディではないかと。売り方を大間違いしているコメディって多いですが、これじゃあ私なんかタイトルだけでパスですよね。おバカコメディにしたっていかにも語呂が悪いし、もうちょっとどうにかならなかったんでしょうか。困ったもんだ。 BGMセンスいいんで1点プラスしちゃいます。 8点(2004-03-30 00:05:51) |
132. 大脱走
たとえば「映画はスターである」という意見があり、「映画は娯楽である」という意見があり、あるいは「歴史の一部を後世に伝える」という意義があり、さらに「人々に夢や感動を与える」という価値がある。この作品ほどあらゆる点で広く一般大衆が「映画」というメディアに求める要求を満たす作品は多くはない。これが実話であるという信憑性に確固たる裏づけを与える魅力溢れる主人公達のみならず、悪の象徴として通り一遍に語られかねないナチス・ドイツの軍人達にもそれぞれの抱える苦悩や人間味を持たせ、数々の悲惨なエピソードをちりばめながらも物語はポジティブに、知恵をめぐらし目的を遂げることの素晴らしさを、そして勇気を、戦時下という特殊な状況にありながらも決して人としての心を失わない捕虜と看守たちそれぞれの崇高な魂を見事に描き切っている。互いに異なる目的を持ち、ある者は脱出に命を賭け、またある者は失敗が即北方戦線勤務を意味する、究極の利害関係を背景に、双方が持てる知恵の全てを注ぎ尽くした騙し合いの小気味良さ、個性溢れる演技陣の活き活きとした表情の豊かさ、かの有名なマックイーンVSマックイーンの壮大なオートレースシーン、緻密なシナリオとダイナミックな演出、無駄なカットが一つもないとまで絶賛される完璧な演出は、3時間に及ぶ長尺を一瞬の飽きも感じさせずタイトに、しかも様々なドラマの一つ一つをあくまでも丁寧に描き尽くしている。何度失敗してもボールとグローブを片手に飄々と独房に入る独房王マックイーン、17本目のトンネルに命を賭けるトンネル王ブロンソン、書類の偽造のために視力を犠牲にした盟友を最後まで見捨てずにかばおうとする調達屋ガーナー。彼らの卓越した存在感に、全編を通して語られた男達の美しい友情と任務遂行への狂おしいほどの情熱に、人々は今なお拍手を惜しまない。「これが映画だ」と心の底から自信を持って言うことのできる、数少ない作品の一つである。 10点(2004-03-29 23:51:25)(良:2票) |
133. ペイチェック 消された記憶
はっきり言って、ジョン・ウー、映画撮るの上手くなりましたね。ある意味彼独特のいい加減さというか、雑な作り方が全く気にならなくなったし、今回はむしろ非常に洗練された非常にマトモなハリウッド娯楽作品でした。ぶっ飛んでもぶっ飛んでも全然迫力なかった爆薬系のアクションシーンがちゃんと派手になってましたし、もともとの彼のファンからは相当ブーイング出そうな気がしましたけど。あいかわらず毒にも薬にもならないベン・アフレックですが、彼は決してバカじゃないので人脈作りに励んでいるのだと思います。(またはマット・デイモンの「ボーン・アイデンティティ」に対抗してるつもりなんでしょうか。)シノプシスも破綻してなかったし、ちゃんと謎解きの段取りもサスペンスフルになっている。途中、ひっくり返ったはずのユマ・サーマンが1箇所だけテレポーテーションで立ち上がってましたけど、ジョン・ウーでこのぐらいなら上出来かと思います。非常に安心して最後まで楽しむことのできる、いかにもハリウッド的な普通の作品ですが、私のような一般観客がハリウッド映画に期待するものは十分満たしていると思います。ポール・ジアマッティのアクションシーンとか、意外に扱いの大きかったジョー・モートンのFBI捜査官とか、脇役陣もなかなか美味しかったです。ひまつぶしにはぴったりの作品。「テキサス・チェンソー」とハシゴした私にとっては、まさに地獄にホトケ。 (ただし人間の記憶を物理的な装置で消し去るほどの技術があるなら、3Dモニターぐらいさっさと開発しろ。とかツッコミたくはなる。) 8点(2004-03-21 01:20:06) |
134. テキサス・チェーンソー
《ネタバレ》 ちょっとヤバ目ぐらいを期待して行ったせいか、まあまあ合格点というかこれでも十分恐ろしいと私は思うんですけど、比較の対象がどうしてもアレなわけで、異常な辛口になってしまうのはやむを得ないかと。で、その異常な辛口の部分を多少水増しして、冷静に普通に考えてどのぐらい?と聞かれたらやっぱり私としてはものすごく怖かったです。程度としては、脳に膨張感を感じる程度の怖さでした。具体的な敗因としては、本作の方がちゃんと出来すぎているというのが最大のポイント。呪われた家族がなんとなく人間としてのコミュニケーション能力を維持出来ちゃっていたり、彼らなりに筋道立った家族愛で結束していたり、確かにちょっとマトモじゃない感じはするんだけどこの作品的にはマトモすぎるでしょ。獲物を見つけてからの連携プレーとか妙に知的だったり、シナリオも意外というかこの映画にここまで期待しちゃいけないぐらいキチンとよく練れてますよね。こういうある種の倫理観とか、秩序めいたものが皆無な前作の問答無用な恐ろしさははっきり半減していると思います。作り手の緻密さがアダになった珍しい例だと思いますが、やはり前作で観られたトビー・フーパーの、本当に地獄にでも取材して来たんじゃないかと思うようなバカの一念みたいな破天荒さ、映画史上類を見ない突き抜け方といったものは、あれはやっぱり瞬発的なエネルギーの爆発だったからこそ出来たものであって、思考が働いてたら出来ない仕事。そういう前提条件を全て踏まえた上で、私のようにバカにしきってかかると劇場の椅子でドタバタひきつけ起こして周りの通っぽい兄ちゃん達から白い眼で見られる羽目になります。クドいようですが十分怖いです。好きでお金を払って観るんだから、このぐらいの怖さでいいじゃん、と正直私は思います。この年になって、寝られないほど怖いもの観てどうする。逃げ惑う主人公が逃げながら扉にカギ閉めるのを忘れなかったり、おとりのブタをロッカーに隠してレザーフェイスを出し抜いたりとやたら知的なわりには、肝心なところでわざわざ狭いところに逃げ込んだり、千載一遇のチャンスだった冷凍庫の扉を閉め忘れたりとツッコミどころは満載なのですが、さすがに劇場に足を運ぶことはもうないと思いますけどレンタルが出たら借りてみたりするかも知れません。重ねて言うけど、そのぐらいの怖さで十分です。 8点(2004-03-21 01:10:21)(良:2票) |
135. チョコレート(2001)
出来すぎた偶然と見るか、究極のリアリズムと捉えるか、いずれにしても現代のアメリカが心の底から飢えている癒しがこれなのだろう。不幸は振り重なるものだし、孤独な魂は惹かれ合うもの。「アフリクション」がダイレクトに攻め込み過ぎて今ひとつ余韻を残せなかったACの苦悩と再生への過程が、黒人としてのハリー・ベリーを抱え込んだことで物語に新しい世代に与えられた選択肢の広がりという奥行きと広がりを見せた。ここに描かれるのは二世代に跨る二組の父と息子、その支配の連鎖と一つの時代の終わりである。アメリカ社会最大のタブーと言われた異人種間セックスを扱った問題作「ジャングル・フィーバー」で脚光を浴びたハリー・ベリーがここではその当事者として登場しているのも興味深い。人種を超え、肉親のしがらみを断ち切って剥き出しの魂のみで生きて行くことを決意するビリー・ボブ・ソーントンの姿は、決して声高に叫ばれることのないこの物語の最大のテーマを余すことなく語っている。彼の孤独、彼の絶望、彼の惨めな人生は貧しい黒人の寡婦に跪き愛を乞わせる。聖女レティシアは受け取り手のなくなった溢れ出る愛情を彼に与える機会を得、非現実的な絶望感の中で二人はそれぞれにとって必要としている「愛の代用品」を見つけるのである。黒人で初めてのオスカー主演女優賞に加え、ここまで激しいファックシーンでオスカーを手にしたのも彼女が初めてではないかと思われるが、ここはひとつ最後まで涙を流す素振りさえ許されなかったビリー・ボブ・ソーントンの抑えの演技に手放しの拍手を贈りたい。関係ないけどヒース・レジャーってグレン・クローズの息子じゃないかと本気で思うほど似てますね。ホントに何の関係もないんですか? 10点(2004-03-20 03:19:02)(良:1票) |
136. 知らなすぎた男
もちろんビル・マーレーが良いのはあったりまえなんだけど、この作品では特にピーター・ギャラガーの存在を思いっきり誉めてあげたいですね。この人って普通にハンサムボーイでも十分通用するルックスのはずなのに、敢えてダメ男系にものすごく真剣なところが素敵です。この作品でもビル・マーレーを露骨に邪魔にするエリート銀行員の弟役なんだけど、後半はステキに巻き込まれてロシアン・マフィアにボロボロにされています。そういうボロボロの一生懸命さが、決してコメディをナメない彼の一途な役者魂を感じさせてくれて泣かされます。私はこういう巻き込まれ型の不毛なコメディってものすごく好きなので、冒頭、イギリスの入国審査官を相手にマーレーがボケの大連発かますあたりから、後半のロシアン・ダンスまで非常に快調にげらげら笑い続けました。コメディ駄目な人は全然駄目でしょう。「シャイニング」のパロディシーンではちゃんと「Here's Johnny!」と言っているのに字幕は「お待たせ!」だったのでおそらく日本語字幕もあまり期待はできないでしょう。細かいところに映画ネタ山ほど詰まってます。ちゃんとパロディになってます。この映画を愛するためにはある程度ビル・マーレーへの愛情が要求されます。あるのはビル・マーレーの激しい空回りに次ぐ空回り、どこまでもツッコミようのない一人ボケ。それを支えるピーター・ギャラガーの共倒れぶり。のっけから最高にセンス良いフォービートの選曲、オープニングタイトルの素晴らしい出来栄え、真剣にコメディをやろうと思うこの姿勢が素晴らしいです。私はコメディが好き。 10点(2004-03-09 23:20:55)(良:1票) |
137. アダム・サンドラーは ビリー・マジソン/一日一善
決して人様にお勧めできないのが辛いところだけど、アダム・サンドラーに期待するものはそれなりに満たしている。小洒落たセンスやおバカな上品さを一切省いたベタベタのバカ主人公に、誰も気づいてないんだけどやっぱりちょっぴり良いところもあるみたいな、言うなればアダム・サンドラーワールドの真髄みたいな映画。何の驚きも感動もないが、妙に甘いハートフル系のノリにバカ丸出しの主人公、これって天才バカボンの世界なんですよね。私はこういう脱力系ってかなり好きな方なので素直に笑えたけど、よく言われているようにこの手の映画はやっぱり字幕の壁が厚いと思う。どうしても寒いダジャレ系の字幕になってしまうと思うので、それだけで興ざめでしょう。ものの5分しか登場しないスティーブ・ブシェミの「殺してやりたい奴リスト」にはひっくり返って笑ってしまった。こんなギャグに笑ってしまう自分を呪いたくなるほどのアホ映画だが、アダム・サンドラーにはこのバカバカしさを捨てずにこれからも精進してもらいたい。 7点(2004-03-05 00:46:36) |
138. ギャザリング
明らかにここ数年のハリウッド系クラシカルホラーブームの一端に位置する作品であると思うが、(これを言ったらミもフタもないんだけど)こういう映画が好きな人は好き、嫌いな人は嫌いだろう。敢えて傾向としてまとめるとしたら、例の大オチをとっぱらった「シックス・センス」を「それでも楽しめる」と言い切れる人ならノレるだろう。舞台はイギリス、主演はクリスティナ・リッチ、なのにアメリカが舞台だった「スリーピー・ホロウ」の半分も重厚感が出なかったのは現代劇の限界か。個人的にガーデニングを趣味としているので、本筋にあまり関係のないイギリスの田園風景や古い邸宅を彩る本格的なイングリッシュガーデンを堪能することができ、比較的満足度は高い。私はとにかくクリスティナ・リッチが異常に好きなので、あまり細かいことが目に入らなかったと正直に言っておく。一応、地味ながらオチもあるんだけど、そういうことにはあまり期待しない方が楽しめるのではないかとだけ言っておく。雰囲気一発系としては、それなりにいい感じが出た。 8点(2004-03-01 21:56:47) |
139. ゴシカ
映画とは基本的に楽しむために作られているのであって、限界を超えた恐ろしさを追求した昨今のホラーにはよほどのマゾヒストでなければ楽しめないだろうという感想を持つ私にとっては、これは楽しめるギリギリのところを実に上手く突いて来たほどほど感が非常に嬉しい作品。最近のホラーに馴れた世代には手ぬるいと感じられるのかも知れないし、確かに正視できないほどの強烈さはない。あるのは由緒正しい極上のホラームーヴィー、ただし近未来的とさえ言える現代的なアメリカ建築としての精神病棟を持って来たところで不思議に今っぽさが出た。シャープな映像、ややSFチックな舞台設定が、シンメトリーを多用することによって絶妙のクラシック感覚を醸し出す、このバランスは古き良き時代のホラームーヴィーを研究し尽くしたもの。随所にちりばめられたお約束としてのヒッチコックへのオマージュも暑苦しいほどではなく、ファンならニヤリ、とさせられる品の良さ。全てにおいて非常にバランスが良く、総合点の高い作品であると思う。ハル・ベリーとペネロペ・クルズの競演はまさにせめぎあいの様を呈し、敢えてB級の仕立てにはなっているものの安っぽさは微塵も感じられない。一流のスタッフ、キャストが真剣に丁寧に作った、いわゆるB級ホラーとは完全に一線を画する作品。しかしそれにしてもペネロペ・クルズって英語上手くならないですね。はっきり言って、工藤夕貴の方がずっと上手いです。演技が出来ることは実感できたが、あれだけの演技センスがありながらあれだけ英語が上達しないのってある意味ひとつの才能だと思う。 9点(2004-02-29 02:08:40) |
140. ローズ
やはりこれはジャニス・ジョプリン本人とは切り離して、あくまでもその人物像にヒントを得た創作と捉えるのが筋だと思う。ジャニス本人と近しかった人々からより真実に近いジャニス像が語られ始めたのはもっとずっと後のことで、本作の作られた79年当時、ジャニスはまだ死後数年。ショックの癒えぬ関係者たち、利害関係のしがらみも消えやらぬ中、ベット・ミドラーという不世出の白人女性ヴォーカリストを主人公に話題性としてのジャニスを引き合いに出しつつ独立したロック映画を作ったと考えれば、この作品が一個の作品として非常に丁寧に作り込まれた質の高い音楽映画だということが見えて来る。もちろんジャニスは「When A Man Loves A Woman」をカバーなどしなかったし、舞台の上で倒れて死ぬこともなかった。だからこれはあくまでもファンタジー、でもこのために書かれた楽曲のクオリティの高さ、演じたベット・ミドラーの類稀なる存在感、既に当時から評価の高かったヴォーカリストとしての彼女の才能、これらを包括してなお、人々がロックスターに求める孤独と絶望の実生活を映画の中に投影することで人々のロックスター幻想を二重に描き切ったセンスは偉大。人々はロックスターに夢を求め、さらにその私生活には荒廃した無限の孤独を求める。その一方的な要求こそが「スター」ジャニス・ジョプリンを死にまで追いやったことを、まるであざ笑ってでもいるかのように。美化された孤独、美化された生涯、この映画をジャニスが観ることがあったらきっと手を叩いて笑っただろう。この映画を楽しみましょう。その瞬間、私たちは自分がジャニスに求めたものの愚かしさに気づくに違いないから。 9点(2004-02-26 23:13:52) |