1461. 4ヶ月、3週と2日
チャウシェスク政権末期のルーマニア、病んだ国家で青春を生きる女の子のある一日。ぱっと見、国情は全く豊かでなく、補修を一切してなさそうなビル、滞りがちな物資、停電の頻繁に起こる街。薄暗くて汚い小路。官僚的でサービス精神ゼロのホテル受付の態度に共産圏の香りをびしびし感じる。国がきちんと運営されていなくとも人はそれなりに結託して生き抜くもので、学生寮にまで闇市まがいの流通はあるしバスの切符すら見知らぬ人に融通する助け合いの精神があるのに驚いた。主人公オティリアもまた、その「助けなきゃ精神」によって友人に翻弄される。だけど彼女の助け合いポリシーが揺ぎ無いんだ。胎児を処理(!)までして危険な街路を帰ってきたオティリアをけろりと食事して待つ友人。そんな相手を特になじるでなく疲れを漂わせながらも大変な一日を淡々と終えるオティリアの横顔。理不尽で厄介なことに慣れた、独裁国家の国民そのものを象徴するよう。だけどこの人たちは打ちひしがれたままでない、その後の経緯を知ってるからこそ、とても興味深く観賞できた。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-11-01 01:46:18) |
1462. アバウト・ア・ボーイ
ちょっとこの母親ダメだよなあ。コニ・トレット演じるエキセントリックな母ちゃん。別に変人でもベジタリアンでもいいんだけど、子供の心にあんなに負担をかけるなんて。自分の重荷を子供に負わせるなんて。子供が傷ついていることに全く気付いちゃいないなんて。もお腹が立って腹が立って。こういう話ではヒューが不誠実でヤな奴と相場が決まってるんだが、今回ウィルなんて小物に感じるぜ。ヒュー・グラント、ふらふらと落ち着かない男を演らせたら世界一だけども今回は意外と繊細な心遣いも見せる。ギター伴奏しながら助っ人としてステージに現われた時なんか生まれて初めてヒューに惚れそうになったぞ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-10-28 00:46:51)(良:2票) |
1463. 第十七捕虜収容所
収容所が舞台だと、陰惨だったりキツかったら嫌だなあと身構えてしまう私ですが、ビリー・ワイルダーは捕虜いじめに精を出すといったことをしないので、お気楽なコメディーになっててひと安心。ラスト手前までほんと楽しかったのだけど、スパイの処遇には突如として戦争のダークサイドが顕れてびびった。なんかリンチみたいじゃん。キツイなあ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-10-27 23:58:22)(良:2票) |
1464. チェ 39歳 別れの手紙
第一部で観かたのコツをつかんだ(?)ので、第二部は単調さに動揺せずに済んだ。ゲバラがついに力尽きる終幕に感傷点を1点プラス。 二部でもゲバラの人物像については詳しく語られないのだけれども、部下が落伍しそうな奴に言うんだ。「彼はキューバにいたら車を二台以上持てる暮らしができる。なのにここにいる。病院を造るために、子供に教育を与えるために。」この言葉で充分なのかもしれない。デルトロの寡黙だけど信念の強い眼差し、その演技で伝わるものは充分あったし。 キューバと勝手が違って、賛同の動きが鈍いボリビア国民。下がる隊員の士気、資金力で圧倒する政府軍。過酷なゲリラ戦を今回も淡々と描く。実際、本当にこんな風に黙々としているのだろうな。ただただ信念を腹にくくって、孤独に地味にゲリラ活動は行われるのだろう。ついに捕えられ、命を散らすチェ・ゲバラ。その瞬間の場面にはソダーバーグの、ゲバラに対する敬意が感じられて鼻の奥がつん、となった。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-10-25 00:53:20) |
1465. 狼たちの午後
《ネタバレ》 アル・パチーノは本当に何をやらせてもちゃんと掴むなあと思う。髪形を変えるとか体重を増やす減らすとか頬に綿を詰めるとか、そういう外見変化に頼らずに見た目はアル・パチーノその人なまま、マフィアもチンピラも不良刑事etc・・も見事に演じ分ける。 今作ではこれまたコクのあるJ・カザールと駄目な銀行強盗犯役。なにしろ冒頭からライフルを構える手際の悪さぐだぐだで、一瞬コメディなのか?と思うがさにあらず。本人たちは実に必死で人生を賭けた大一番なのだった。しかし今ひとつ考えが足りなかったり行き当たりばったりで全く場をコントロールし切れない。一生懸命やっても上手くいかないこの釈然としない思い。人が皆抱くこの哀しさ、特にJ・カザールはもうそこにいるだけでダメ人生がにじみ出そうな佇まいでほんと他人事でなくどこか愛おしくもあり、ワタシもすでにストックホルム症候群に軽く罹患しているのを自覚する。 dog day、うだるような暑さ。タイトルそのままに暑さが、やり切れなさが画面から漂ってくる。当時のどん詰まった世相をも切り取った映像は重たくずっしり。名作。 [DVD(字幕)] 9点(2013-10-22 01:11:25)(良:1票) |
1466. キラーカーズ/パリを食べた車
《ネタバレ》 ピーター・ウィアーのデビュー作らしい。監督、これキャリアにしといていいんですかね?内緒にしときましょうか、と気を利かしたくなるようなヘンテコ映画。何が変ってうまく説明し難いんだけど・・、まず舞台が街ぐるみで追いはぎやってる犯罪タウンなんだ。ここに偶然たどりついた主人公、彼によってこの街の非道が暴かれ、裁かれるのかな?と思ったら、さにあらず。この彼がけっこうなぼんくらで、悪徳市長に言いくるめられるのみ。観てるこちらの正義はどこにも預けられないの。でもって凶悪な暴走族が登場、街を破壊するクライマックスなんですがここもハリネズミみたいな改造車でどかーんと建物に体当たり。迫力もあまり無い。正直住民が逃げ惑う姿に違和感あり。主人公はといえば人ひとり圧殺して“運転できるようになった♪”と嬉々として街を去るのだった。こらーっ。おまけに音楽が、こんなに変で異様な展開なのにリゾート地でかかる系のBGMだった。なんか色々と、映画を観るうえで初体験なこと多かったです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2013-10-21 00:45:20) |
1467. 300 <スリーハンドレッド>
スクリーンで見る漫画。かさっとした画像加工が施されている映像で、1ショットが美術画みたいな。なんか初めて見たぞこういうの。ぱあーっと飛び散る血しぶきが蝶々になって飛んでいくよう。あんなに死者累々なのでリアルに描写されてもむごいわな。色っぽい女王様はラブシーンの為だけに出演みたい。頭あんまり良くないし。造形に凝ってるのはクセルクセス王。若さと美しさを全面に押し出した残虐の王。日サロ焼けした肌に無数のピアス、闇の帝王みたい。極端に作り物めいた感じがコミックテイストにあふれてて本作にぴったりでした。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-10-21 00:24:09) |
1468. 13デイズ
あくまでも視点はアメリカからのキューバ危機。事件そのものを第三者の目から検証しているわけではないのですな。私はどっちかというとソ連側の言い分が聞きたい。“気取った高慢ちきのアメリカに一泡ふかせてやろう”とカストロと結託した「共産主義から見るキューバ危機」の方が面白いと思うんだけど。ちょっと間抜けな予感もするし。もしも実現したならキューブリックに撮ってほしかったなあ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-10-21 00:05:17) |
1469. コールガール(1971)
70年代のニューヨークを舞台にした映画って共通してどことなくすすけたような、くすんだような色合いがある。この映画もくたびれ感が満載で退廃的な映像が魅力。ドナルド・サザーランドの泊まっている安宿、女と歩く夜の街、ドラッグの紫煙たゆたう怪しいクラブ。いつ少女娼婦のジョディ・フォスターが出てきても驚かない。犯人探しの謎解き部分のプロセスははっきり言ってつまんないんですが、行き詰まりをリアルに演じるJ・フォンダや地道に誠実道をゆくサザーランド、いかがわしさ炸裂のR・シャイダー等、演技達者のベテラン達が人生の一片を渋く魅せてくれます。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-10-18 01:02:33) |
1470. ブラックブック
まあなんと濃密で疲れる140分であることか。監督の描く“人間そのもの”が生々しいったら。狡さも善良さも愛も嘘も、人間を構成するこれらのものを内側からひっくり返してはらわたまで引きずり出してみせる、この悪趣味なこと!ナチにもレジスタンスにも一般市民にも残虐な者、狡猾な者、良き心を持つ者、判断を誤る愚かな者がそれぞれ一定数存在していて、ナチ=悪、レジスタンス=正という安易な筋立てとは一線を画す。そしてそれこそがリアルな人間社会のような気もする。 「あ、良かった、うまくいった」と安堵したのも束の間、次の瞬間には梯子を外され急落下の繰り返し。すごくたくさん嫌な汗をかく。個人的にはロニーが好き。彼女だって必死に生きていたに違いない。けれどそれを表に出さず、身体を張ってしたたかに生き抜いた軽やかさに惹かれた。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-10-18 00:49:11) |
1471. 三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船
ここの点数は低いけど、私は93年度版のよりこっちのが好みです。画がキレイですし、枢機卿がお気に入りのクリストフ・ヴァルツだっていうのも大きいんだけども。他の人物たちもダメの典型王様もこれはこれで良いし、ロシュフォールの渋いかっこ良さ、見惚れます。ミラの悪女も美しい。4人の銃士の存在感はいまいちかな。ダルタニアンのロマンスがどうとかより、宮廷での王妃VS枢機卿の陰謀描写の方が見応えあったりします。飛行船がばーっと空を覆う場面は、映画館で観たかったなあ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-10-14 00:48:11) |
1472. 帰らざる河
《ネタバレ》 ううむ、古い。この映画の感性は時代の変遷とともにとっくに劣化しちゃってる。輝きを残すのはモンローの可愛らしさと雄大な自然のみ。ベタな展開に加えて人物の内面を掘り下げようとする気配もなし、ロバート・ミッチャムは“いつでも渋面”な一本調子の表情で何考えてんだかさっぱり。今観るとあまりにあまりな米原住民の描き方や、子供に銃を指南して殺人までさせるラストにはちょっと無理だなあ、ノレないなあと感じる。モンローを酒場からかっさらうのは、この時代これが正しいの?彼女の歌、拍手喝采だったじゃん。あ、ここからスターになるのかな彼女、と私は期待しちゃったよ。ダメですか。牧場で土まみれになって働くより芸能で生きる方が向いてると思うよ。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2013-10-14 00:32:20) |
1473. クリスタル殺人事件
《ネタバレ》 邦題がヘンなのと、エリザベス・テイラーが太ったオバサンでがっくりなのと、ミス・マープルがミスキャスト気味なのと、時折はさまるコメディーセンスがいまひとつなのでこの評価。秘書の女の人、なんで死んじゃう必要あったのかな。誰か教えて下さい。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2013-10-14 00:14:01) |
1474. ナチュラル・ボーン・キラーズ
良く分からなかった。DVD特典の「監督による解説」も見たけど、やっぱりよく分かんなかった。というか解説といっても、O・ストーンが滑らかに語るのはフィルムの種類だのやれ光源がどうだのといった技術的なことが多くて、肝心の殺人者二人の心理にはあまり触れてない。あのさ、O・ストーン自身がタランティーノの原案を咀嚼し切れてないんじゃないのかな。この映画はストーン曰く「私のこの二年間の幻滅だ」らしい。暴力が止まずそれを称賛すらする一部の社会、そんな90年代を指すらしい。タランティーノの世界は暴力を前面に展開しながら、核のところは暴力行為を超えた向こう側を描く。暴力の持つ凶悪性にパワー負けしない作家性が特徴なわけで、とすれば暴力社会に倦んでいたストーンが彼の脚本に強く魅かれたのは無理も無いのかなあと思う。でもやはりタランティーノの脚本は彼の感性で映像化しないと。結局のところは“暴力ビビリ”のストーンが変な手を加えて、挙句タランティーノが袂を分かってしまってこんな意味不明な作品に。出演者の熱演といい、熱心に割って割りまくるチカチカカットといい、なんかすごく残念な映画。タランティーノがメガホンをとってたら、どんなのになっていただろう。 [DVD(字幕)] 3点(2013-10-11 01:27:35) |
1475. 大統領の理髪師
韓国映画にて安定運行のソン・ガンホ、相変わらずいい顔してます。かの国の芸能界でこの朴訥顔で生き残るってだけで実力派だなと思わせます。あの害の無いとぼけた顔の床屋さんが右往左往してると、選挙時の不正操作場面すらどこかコミカルになっちゃう。独裁政権下で生きるってことはキツイ抑圧を意味するのですが、そこにソン・ガンホの顔を配置すると良い具合に毒抜きになりました。 温厚一辺倒だった彼が国に対して唯一激高するのが、息子が傷つけられて帰された場面。韓国の近代史にはとんと疎いのだけど、あの国の人たちはこんな思いを繰り返して民主主義へと向かうのかな、と興味深くもありました。そして仙人は実在したのですな。いや良かった良かった。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-10-11 01:07:37) |
1476. フレイルティー/妄執
ラストの怒涛のタネ明かし、これなかなか凄いです。中盤までの、「ああーこのイカレ親父を誰かなんとかしてくれよう~」という辟易感が一気に変換されました。伏線がやたら早くに張られていたんだと気づくのもまた楽しい。子供の辛さに我慢して付き合って最後までご覧ください。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-10-11 00:41:21) |
1477. アルゴ
《ネタバレ》 脱出劇としては良く出来ていると思う。モンタージュが子供らの手で仕上がってゆくにつれてどきどき、バザールで絡まれてひやひや。搭乗寸前の空港では間一髪の連続。観てる私の貧乏ゆすりが止まらない。はるか遠い国で拘束されている人質救出のために恐るべき緻密さで映画作戦をたてるCIAの徹底ぶりも見所。・・でも、なんか私この映画にもろ手を挙げて快哉を叫べないんですよね。背景は複雑ですから娯楽映画に政治的意見を挟むのは適切じゃないと分かってはいるんですが。でも冒頭からしてせっせとパーレビの悪口だけど、いやいやお前が言うの?アメリカよ。と思ってしまうし、あの6人だって果たして英雄なのかともやもやする。大使館内に残った人たちよりかなり良い待遇を受け、他国の世話になり、先に脱出を果たす。イラン領空を抜けた機内で屈託無く喜んでいたけど、大使館の人質が報復を受ける危険も増したんじゃないか。誰も心配しないの?誰が英雄か、ってそれはもちろんカナダ大使に他ならないと思うんだけど。扱い軽いなーっ。等々、楽しめたんだけど瑣末な事が気になってぶつくさ文句言ってしまった。 [DVD(字幕)] 7点(2013-10-07 00:52:19)(良:1票) |
1478. 戦火の馬
やっぱり上手いなあ、感動のさせ方が。技巧的ではあると思うけど、この手練れ感はさすが巨匠。ジョーイをめぐる様々な人々のドラマを、細切れではあるけれど目一杯きちんと描きこんで消化不良にさせない。馬が相手だと、イギリス人もドイツ人もフランス人も分けなく愛を持って接する描写が多く、そのたびにああ、ありがとう、とほっとする。馬にあれだけの演技をされては、飼い主とめぐり合う場面すら「どんだけ驚異的な確率だ」と茶々を入れる気も失せる。馬すごいな。これは特撮なのかしら。馬同士の友情にぐっとくるなんて初めてだ。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2013-10-04 00:44:17) |
1479. 真実の瞬間(1991)
アメリカ映画が時折見せる、反省と自戒のこもった作品。自国の黒歴史をきちんと残しておこうというその姿勢、やはり思想の自由が保全された国として米国はチャンピオンだろうな。過去にはその自由が怪しくなった時代があったぞという、一個人としてはどうにも戦いようの無い怖い話。勝ち目が無くとも、個人の内なる尊厳を守るべく生きがいを引き換えに闘うデニーロの姿は眩しかった。生命すら失った文化人も多数いたと聞くと、どうしても一人の映画監督が頭をよぎる。今はいろんな意見があるようだけど、彼のしたことをもっと後の歴史はどう評するのだろう。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-10-02 00:32:48) |
1480. 恐怖のメロディ
《ネタバレ》 ストーカー成分満載の女ってこんなに以前から存在したんだなあ。こわいこわい。さすがのイーストウッドも防戦一方。突如“屈託無く”当然のように現れて人の生活に進入してくる前半の厄介さは今でも通じる迫真の恐怖。背筋も凍ります。警察が介入してくるくだりからは、彼女“法的に”犯罪者になってしまうので、怖さがかえって半減してしまったけど。あとやたらと長く青臭いラブシーンは勘弁。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-10-02 00:09:54) |