1. ワイルドバンチ
ここでは西部劇特有のヒロイズムどころか、善悪の区分けすら存在しない替わりに、ならず者達が生き延びる上で手繰り寄せられる暴力と死がある。特におびただしい人数でヤケクソ気味に行われるラストの銃撃戦(女、子ども、老人まで巻き込んだとんでもない代物!)は、オープニングで示唆的に挿入されるサソリに群がる蟻の大群を見た際と同様、不快感を感じざるを得ないが、執拗なまでに繰り返されるスローモーション及び所謂「血のバレエ」によるペキンパーならではの演出方法はハッとする程美しい。69年当時、映画における表現の極北とも言えるような本作を撮った、ということのみでも満点計上したいが・・・デートや子どもとの鑑賞には絶対に不向きでしょう。 10点(2001-12-11 12:42:16) |
2. 初恋のきた道
普段、恋愛映画にはあまり食指が動かない俺だけど、監督がチャン・イーモウだし、評判もすごく良いようだから、感動できるかも・・・と些か消極的に見始めたんだけど、終盤近くになったら号泣してて胸が張り裂けそうになるのを押さえるのに必死だった。それにしても、かくもシンプルな純愛ストーリーに感動してしまうとは・・・中国の広大な自然の美しさや、白黒とカラーを巧みに使い分けたイーモウ監督の手腕は無論のことだが、やはりチャン・ツィイーの可憐さに負うところも大でしょう。俺もこんな子が餃子持って道端で待ってくれるんならどんな田舎でも働きに行きます。 10点(2001-10-09 00:10:07) |
3. アパートの鍵貸します
これぞ我が生涯のベスト1!とまでは言い切れないものの、いかなる心理状態においてもベスト10には必ず入る本当に好きな作品だ。とにかく役者、演出、ストーリー、音楽、セットからちょっとした小物等々、すべてが完璧なまでの調和を見せており、どう控えめに言ってもワイルダーの最高傑作どころか、米映画史においても比類無きマイルストーンであり、本作を見る度に改めて「イヤー、映画って本当に総合芸術なんですねー」としみじみ思う。 10点(2001-10-08 02:38:56)(良:1票) |
4. 魔女の宅急便(1989)
本作を宮崎アニメの最高傑作に挙げる人があまりいないのは、彼の永遠のテーマであるエコロジー的な視点とメッセージ色が幾分希薄であるからか。でも個人的にはこれまで見た映画の中でも最も好きな作品の一つだし、宮崎駿が伝えたい何よりのメッセージが「エコロジー」なら、何より憧憬しているのが「少女の可憐さ」と「空を飛ぶこと」であり、本作ではその魅力がいつもより肩の力を抜いて、軽やかに描かれているせいか、ただキキが空を飛ぶシーンだけでも胸が一杯になってしまう。それと、本作は「甘い」のではなく、あくまで「優しい」のであり、観賞後、かくも優しさにつつまれる(まさに!)ような気になる作品を俺は他に知らない。と言うわけで、本作における既成曲(荒井時代のユーミンね)の使い方の素晴らしさは、2001年宇宙の旅におけるツアラトストラかく語りきのそれに勝るとも劣らないものだと思ってるんだけど、どうでしょう? 10点(2001-09-30 01:36:10)(良:1票) |
5. 千と千尋の神隠し
「自然と人間の共生」という宮崎駿の永遠テーマを苛烈なまでに綴ったもののけ姫における悲痛なメッセージ「生きろ」を引き継ぐかのような本作でのメッセージは「懸命に生きろ」。千尋は数ある宮崎作品の主人公の中でも(ルックスも含め)最も平凡な女の子であり、それゆえにその懸命さが胸に突き刺さる。ただ、そのメッセージ、美しい映像、想像力を駆使した世界観、そして、お馴染み久石譲の印象的な音楽に酔いしれつつも、提示される多くの謎と暗喩にはどこか混乱しつつ見終わった。が、その直後、近くに座っていた子供(小学校低学年くらい)が発した一言「あー面白かった!」には愕然とした。考えてみれば童話なり昔話なり、そこでは不条理だったり非合理的だったりするのがむしろ当たり前であり、そこに疑問を持つ前にかつての自分もすんなりと入れ込めたはずなのに。今まで何のために多くの映画を見続けてきたのか。いつのまにか自分の感受性において、大切な部分がすっかり抜け落ちてしまっていたのか、との思いが込み上げるとともに本作こそ多くの童話等以上に後世まで語り継がれるべき傑作である、と確信した瞬間だった。DVDが出たら即買って何度でも繰り返し見たい。なお、千尋の声役の柊瑠美はその素人っぽさが逆にすごく良かったと思う。 10点(2001-09-30 00:47:04) |
6. アポロ13
実話に基づいて、それに忠実に再現した作品。大げさな誇張も(たぶん)ない所が気に入った。限定された空間で解決策を次々と論理的に見つけていくところが、他のSF映画よりもSFしてて良い(なんか変な文章だな)。 10点(2001-09-17 12:58:18) |
7. 遠い空の向こうに
やっと見ることができましたが、これはやはり噂に違わぬ特大の傑作。それにしてもアメリカンドリーム物って一歩間違えればかなりベタな代物に成り下がってしまうのに、いったいこの胸すくような爽快感は何なのだろう。俳優も台詞も音楽も演出も特別なことをしているのではないのだが、すべてが必然に満ち、かつ純化された美しさだけが心に染み渡る。最後の方はマジにずっと泣いてたんだけど、それに追い打ちをかけるように実話ならではのその後の人生の語りが入り、あのシーンが8mmフィルムで・・・うーん参った。クリス・クーパーやローラ・ダーンも脇を見事に引き締めてます。 10点(2001-09-17 00:31:03) |
8. カリートの道
デ・パルマがスカーフェイス以来久々にコンビを組んだアル・パチーノはいつものようにやたらと怒鳴り散らすのでなく、幾分抑えたトーンながら主人公カリートを見事に演じている。また、口では「誰も信用しない」と言いつつ最後は人を信用してしまい、結局周囲の裏切りに翻弄され続け怒りが爆発しそうになりつつも自分の夢を叶えるため何とかポジティブに生きていこうとするカリートに対するデ・パルマの視線はいつもより幾分優しく感じられ、またそれゆえにラストシーンがあまりに美しくいつまでも心に残る。デ・パルマらしいカメラワークもタップリ堪能できる素晴らしい作品だと思う。 10点(2001-08-16 00:07:46)(良:1票) |
9. ブッチャー・ボーイ
本作を見て何か月経ったか分からないけど、その感動及び衝撃は未だまったく色あせません。あえて例えを持ち出すならキューブリックとサリンジャーの間にある少なくはない溝を見事に跳躍して見せた、とでも表現すれば良いのでしょうか?とにかく役者(特にフランシー役の少年はスゴイ)、演出(かくも陰惨な内容をどこかコミカルに仕上げる手腕はスゴイ)、音楽(ハワイアン風にアレンジされた三文オペラのテーマを挿入するセンスがスゴイ)、映像(アイルランド特有のどこか淀みながらも張り詰めた空気感と緑に彩られた風景の美しさがスゴイ)等々、映画を構成するものがかくも自分の感性にピタリと符合することも珍しく、ニール・ジョーダン監督の才能には改めて感嘆しました。本作は日本では劇場未公開なんだけど、その理由は当時少年による刺殺事件が多発していたからだそうで・・・でも、こんな時代だからこそ、なぜ少年が凶行に走るかということを考えさせてくれる本作がとても重要になってくるんじゃないのかな。なお、マリア様はシニード・オコナーが演じています。 10点(2001-07-31 00:01:17) |
10. ブルーベルベット
所謂日常や常識と言われるものに何とは無しに安住していた主人公がイザベラ・ロッセリーニが羽織るブルーのベルベットを一枚は剥がしてしまったゆえに、かつて体験したことも無いようなドス黒い裏世界に足を踏み入れることになってしまう・・・という話だが、(ワイルド・アット・ハートほどではないにしろ)ラストシーンが何とも場違いなくらい甘く感じてしまうのは、デビッド・リンチがそのアンダーグラウンドな世界をあまりに喜々として描いているからなのか。特にオカマのオッサンがロイ・オービソンを熱唱する様をみてデニス・ホッパーが涙を流しつつも口ずさむシーンなどこの世のものとは思えぬグロテスクさで!しかし、本作以降、アメリカ映画でも似たようなテーマを扱うような作品が数多く出てきており、歴史的にも重要な一作でしょう。 10点(2001-07-23 22:40:16) |
11. バリー・リンドン
アイルランドにおいては元来裕福な家系であったレドモンド・バリーの栄華と凋落を絢爛豪華に描いたあまりにも美しい逸品。2001年宇宙の旅、時計仕掛けのオレンジと謎と暗喩に満ちた未来世界を過激に提示したキューブリックが18世紀貴族の世界をかくも丹念に描ききったその才能に改めて驚嘆する。上映時間は3時間強あるが、アイルランドの緑の草原に赤を基調とした英国軍隊の行進、貴族社会の豪華な衣装やセット(ドラえもんさんのいうとおりワンシーン毎がまさに絵画のごとし)とその裏に蠢くドロドロとした愛憎、バリーが人生の岐路に差し掛かったときに行われる1対1の決闘シーンなど見所満載で飽きることはない。それと、やはり本作でも音楽の使い方が素晴らしい。余談だが本作を見た黒澤明はそのあまりの完璧さに衝撃をうけキューブリック本人に賞賛の手紙を書いたという。 10点(2001-07-15 23:49:59) |
12. ダンサー・イン・ザ・ダーク
本作には相反する要素を持つものがいくつか並列されている。何のBGMにも彩られずザラついた白黒に近いハンディカムによる映像(セルマの日常)とカラフルで躍動感のあるミュージカルシーン(セルマの想像)、善良であるように見せかけつつ性根悪い警察官、閉塞しきったセルマの故郷と自由のシンボルであるアメリカ、そして何より童女と母性を併せ持つセルマ(ゆえにビヨーク以外のキャスティングは考えられない)の愛と周囲に渦巻く悪意。確かに最初は唐突にミュージカルシーンが始まって、何だこれは?と違和感を抱いたが、それは冒頭に述べたように敢えて相反するものを並列させることにより、セルマが無垢なままに生きるには自由のシンボルであったアメリカでさえも現実はあまりに苛烈であり、ゆえに無垢の象徴もである往年のミュージカルに逃避せざるを得ない状況と言うものを見事に表現してるのだと気づいた。問題のラストシーンも単にペシミスティックの一言で片付けることのできるものではなく、息子に対する愛を貫き通したセルマに対する深い慈愛が溢れているように感じたし、現実にはあり得ないえないような話なのにどうしようもなくリアルに心に響いてきた。それどころか、逆に映画が終ってしばらくはビヨークがセルマ以外の人格をもちこの世に存在することに違和感を抱いてしまったくらいで。監督のラース・フォントリア-自身「私の映画を見た人は必ず大好き派と大嫌い派に分かれる。今後もし万人に受けるような映画を撮ってしまったら逆にがっかりするだろう」との旨コメントしてたくらいだから、本掲示板で賛否両論あるのもいたしかたな、とも思う。だけど、例えば僕が一番好きなシーンはセルマが刑務所の中で通風孔に向かって1人歌うシーンなんだけど、演技と言うより何かが憑依してるのではないかと思うくらいの痛々しさで、本当に0点とかつける人は何も感じないのかな、と思ってしまう。 10点(2001-07-14 02:22:09) |
13. 未来世紀ブラジル
今まで見た映画のなかでも相当に印象に残っている作品。圧倒的なまでに巨大なビル群、偏執的なまでに出てくるチューブ、未来的でありながらどこか懐古的な小道具など随所に拘わりまくった美術、ジェフ&マリア・マルダーの「ブラジル」を使った選曲のセンス等々素晴らしさをあげたらきりが無いが、本作の肝は、たった一匹の虫で罪も無い人を何の疑いもなく殺してしまいうような狂った官僚が統治する管理社会の恐ろしさを強烈なブラックユーモアを交えつつ描ききったテリ-・ギリアムの手腕に尽きると思う。一度みた映画は繰り返し見ることのない俺だが、本作は10回近くは見た。そして見るたびに新たな発見があった。個人的には「時計仕掛けのオレンジ」すら凌いでいると思う。 10点(2001-07-03 00:26:21) |
14. パーフェクト・ワールド
号泣しました。後にも先にもかくも感動した映画はありません。最高の一言を献上したい。 10点(2001-06-20 23:11:07) |
15. イージー・ライダー
主人公がハーレーを駆って米大陸を横断する人物であるせいか、その魅力は地域及び期間限定のものであるかのような評もあるが、本作はあくまで偏見を持って生きることの容易さと自由に生きることの困難さをテーマに描いているのであり、そういうのって実に普遍的なことだと思う。それにしても、この頃のデニス・ホッパーって天然の才能が迸ってたんだね。激サイケなトリップシーンといいあまりに唐突なラストといい、あのゴダールでもここまでは出来んと思う。 10点(2001-05-30 23:46:18) |
16. 間違えられた男
ヒッチはスリラー、というのが世間一般の評価らしいが個人的には理解できないな。ヒッチの上手さって巻き込まれ型サスペンスにこそ、その本領が発揮されてると思うから。だからこの作品も当然最高にスキ。 10点(2001-05-27 01:20:16) |
17. スティング
皆さん絶賛の嵐だが、僕も同感。ジョージ・ロイ・ヒルがレッドフォードと組んで悪いものができるわけ無いが、中でも本作は頭一つぬけてる。痛快という言葉がこれほど似合う映画は無いかも。 10点(2001-05-27 00:54:43) |
18. アメリ
主人公の髪型同様、「地下鉄のザジ」を髣髴させるポップでキュートな映像がオモチャ箱をひっくり返したように画面に横溢されているのみならず、心臓がバクバクしたり、体が溶けて無くなったり、と電波少年みたいなことをやってもその演出が単なるギミックに陥っていないのは、各登場人物の「好きなこと」及び「嫌いなこと」に象徴されるように鋭い人間観察力に裏打ちされたジュネの人間そのものに対する視線がいつものようにどこかグロテスクな意匠を纏うことないがゆえ、所謂「キャラが立っている」からであって。各登場人物は皆何かを喪失しているようだが、喪失したものを得ようとするとき、客観的に見れば大したことなくても、主観的には大いなる一歩を踏み出さねばならないわけで、アメリはその一歩にほんの少しだけ後押しする、世界はもっとシンプルだよ、と。かくいうアメリもこと自分の恋に関しては奥手でその一歩が踏み出せないんだけど、誰もが多少なりともこういう経験ってあるんだよね、とシミジミ思える類の映画・・・のみではない!ラストのアメリとニノの笑顔を見てたら胸の奥から熱いものが堰を切ったようにこみ上げて来てしょうがなかった。本作を見終えた後は、いつもと同じはずの町の風景が少し違って見え、いつになく友達の顔が見たくなり、若しあなたが恋をしているなら、その相手には必ずこう聞きたくなるだろう「あなたの好きのものは何?」と。それとこの監督、音楽というよりノイズも含めた音そのものに対するセンスと拘りが実に素晴らしく、例えばアメリがカットアップして作り直した手紙をマドが読むシーンにザッピング音をかぶせたりするところなどは白眉。 9点(2002-03-17 22:24:21)(良:1票) |
19. サンセット大通り
所謂サイレントの時代には本作のタイトルと対をなす「サンライズ」という傑作があり、執事のマックス役のシュトロハイムが監督し、映画のオールタイムベストには必ず顔を出す「グリード」があり、劇中、グロリア・スワンソンが道化て扮するチャップリンの一連の作品は言うまでもないが、スワンソン自身「チャップリンの役者」に出演してたりする。スワンソンが劇中語るように映画が最も輝いていたのはサイレントの時代であり、映画は音声というものを得た替わりに見る者に与える夢を失い、また、質そのものもノーマのキャリア同様、凋落(つまりサンセット)の一途をたどっているのだろうか・・・という危機感をワイルダー自身、本作製作当時に抱えていたことは想像に難くないが、映画を撮り続けることの必然を見出そうとし、得た答えが(誤解を承知で言えば)最早映画とともに心中するしかない、というものであるがゆえ逆説的に作品に永遠の生命を吹き込む、という何とも皮肉な離れ業をやってのけたことには只々敬服するしかない。つまり、本作のオープニング、死人のモノローグから始まるという当時としてはえらく斬新であった手法も「終わりから始まる」という永遠の時間軸の中を生き続ける、ということからその必然が理解できよう。すなわちエバーグリーン。 9点(2002-03-07 12:19:31)(良:1票) |
20. ギター弾きの恋
アレン監督としては「カイロの紫のバラ」以来のノスタルジックで可愛らしくもホロ苦いラブストーリー。悪かろうはずは無いが、これ見てる最中は「エメット・レイ」なる人物が実在したミュージシャンだと思っておりまして・・・後で、架空の人物だと知って気付く馬鹿な俺。でも数多くの「いかにも」なエピソードの想像力やアレン他、評論家がマジな顔で批評してる部分も含め、そうしたフェイクな感覚こそが本作の白眉だったんですね。すっかり騙されてしまったけど、そう言えばアレンは「カメレオンマン」撮った監督だった、ということ忘れてました。それにしても、ハッティ役のサマンサ・モートンは本作で初めて知ったけど、とても良いですね。ショーン・ペンもエゴイスティックでありながらどこか憎めない、という難しい役どころを見事に演じてるし、ギターの指運もほぼ完璧でしょう。なお、劇中度々語られる「ジャンゴ・ラインハルト」は実在の人物でありまして、本作の音楽聴いて気に入った人は、彼の代表的なアルバム「ジャンゴロジー」あたりを是非とも聴いて欲しいですね。 9点(2001-12-16 21:36:34) |