1. 東京物語
《ネタバレ》 人間の汚さ、ずるさ、優しさを深く描き出した作品。淡々と進むが、ものすごい奥行きを持っていると感じた。そして、あまりに現実的で冷たさを感じるシーンと、優しくてあたたかなシーンの対比が鮮やか。最後の「日が長うなりまして」と笠智衆さんのいうシーン、空間の空き過ぎた部屋の構図が心にしみる。 10点(2004-02-22 10:54:51) |
2. アマデウス
《ネタバレ》 この話がまったくのフィクションということを考慮しても、文句なく素晴らしい作品。モーツァルト、サリエリ、神父の三人の対照がいっそう話を引き立てている。音楽を選ぶセンスも見事。レクイエム作曲のシーンはものすごい迫力。モーツァルト殺しの話を終えたときのサリエリの鼻笑い、そして「凡庸なるもののチャンピオン」という台詞が、哀しい。 10点(2004-02-22 10:45:56) |
3. 巴里の女性
《ネタバレ》 映像の雰囲気からして、他のチャップリン作品と違うのに驚いた。パーティの場面でさえ陰がある。映像の見事さは他の方が指摘されているので割愛するが、ナイフでえぐり出すような心理描写がすごい。ジャンが母親に「結婚しない」と言うのを立ち聞きしたマリーの後ろ姿にしびれた。台詞も色も、表情さえ見えなくてもこんな表現ができる、と言うのに衝撃を受けた。STING大好きさんの言われる通り、後期作品群への布石たる作品。それにしても、ここまでのものとは思わなかった。チャップリン最後の作品となった音楽も素晴らしい。 追記:劇場公開されたものを観た。レンタルのVHSの映像はかなりひどかったが、今回のものは映像がだいぶきれいになった。表情の演技が堪能できる。そして改めて思うのは、エドナ・パーヴィアンスをはじめとした俳優陣の名演。 10点(2003-11-23 15:32:57)(良:1票) |
4. HANA-BI
《ネタバレ》 邪魔なものを全て振り払って妻への愛に突き進む西刑事。妻子に逃げられ、感情のはけ口をひたすら絵に求め描き続ける堀部刑事。この二人の感情の流れが映像からばしばし伝わってくる、すごい映画。一方で愛する者(西夫妻の場合の子供、堀部刑事の場合の妻子)を失った悲しみが主調低音として流れる。そしてところどころに挿入される笑いの優しさ。驚くほど純粋な感情の映画。久石譲のメロディも、見事にマッチしている。エンディング曲はさながら二人へのレクイエムか。 10点(2003-11-05 19:03:05)(良:1票) |
5. チャップリンの黄金狂時代
《ネタバレ》 「靴食い」に「パンのダンス」と、見どころの多い映画だが、何と言ってもジョージアとの恋愛シーンがいい。酒場で写真を拾って必死で照れ隠しをしたり、いたずらのことは何も知らず、嬉しそうに小屋に入ってきたり。パーティ会場で歌われる「蛍の光」と、待ちぼうけを食らったチャーリーの対照も切ない。チャップリン作品の中では最も後味のいい作品の一つ。 10点(2003-11-05 18:44:16) |
6. モダン・タイムス
《ネタバレ》 この映画で初チャップリンという人は多いだろう。僕もそうだった。それからもう3回くらい見ているが、飽きる事がない。そして見事な先見の明。今ではロボットがとって代わっているとは言え、人間性の喪失は現代にもぴたりとあてはまる。ちりばめられた種々のコントも笑える。ラストシーン、「笑って」というジェスチャーをするチャーリー。サイレントっていい。そのシーンのBGM「スマイル」も、今さら言うまでもない名曲。 10点(2003-11-05 18:29:43)(良:1票) |
7. 永遠と一日
《ネタバレ》 純粋に、映像、台詞、音楽の美しさに心を打たれ、映画に登場する多くの孤独な人間の翳のある美しさを素敵だと感じた。バスに乗り込んできた孤独な求道者たちが、何より印象に残る。最後にさす一瞬の光が切ない。 10点(2003-06-22 13:31:29) |
8. U・ボート
見終わった後、正直「うわっ」と思いました。いろいろな意味で。艦内の不潔さ、孤独感と相まって、こんなの絶対嫌だ、と。戦争の恐ろしさを知るには一番の映画です。ドキュメンタリー顔負けのカメラワークもお見事。あまりにかっこよく、悲哀に満ちた音楽も素晴らしい。こういうの観ると、ヨーロッパ映画ってただの娯楽じゃないな、と感じます。 10点(2003-04-04 16:56:11) |
9. ライムライト
今までで一番泣いた映画です。ラストシーン、舞台の上で踊っているクレア・ブルームがなんとも言えず切ないです。音楽は、映画音楽としては一級品。充分、クラシックのコンサートのプログラムなんかに入ってても、嫌らしくなりません。 チャップリンの自伝的な作品ですね。カルベロと一緒に、「チャーリー」も死んだような気がします。この後の作品は「チャールズ・スペンサー・チャップリン」が相応しい。 10点(2003-04-03 12:35:47) |
10. 街の灯(1931)
《ネタバレ》 もう、放浪者と花売りが出会うシーンだけで切なくなってしまう。このシーンのカメラの見事さにも驚く。冒頭の、スピーチ~像のお披露目シーン、それからボクシングのシーンは、チャップリンのコントの中でも一、二を争うおかしさ。そしてラスト近く、花を差し出す少女とためらいがちに手を差し伸べるチャーリー、あまりに離れてしまった二人を暗示するようで、悲しい。珠玉の笑いと見事な脚本が組合わさった、最高の映画。「10点」でも足りない、「★★!10点!★★」くらいの映画。 10点(2003-04-03 12:25:54)(良:2票) |
11. チャップリンの独裁者
《ネタバレ》 最後の演説が圧巻なのは今さら言うまでもないこと。痛烈な独裁者批判も見事。演説の中でくり返される下品な言葉(ドイツ語風な英語が所々聞こえる)、「フランスもフィンランドもロシアも俺のものだ」と言わんばかりの部分もある。ガ-ビッチに持ち上げられて本当に舞い上がってしまう有名な地球儀の踊り。品のない笑い。独裁者の幼稚な狂気を巧妙すぎるほどに描き出している。そして、ヒンケルと間違えられた床屋。彼は何もしていない、ただおどおどしているだけ。それで独裁者が勤まってしまうのだ。世界を我が手におさめんとする人間の卑小さが、ひたすら伝わってきた。 10点(2003-04-02 21:21:29) |
12. ドッグヴィル
《ネタバレ》 ラース・フォン・トリアー初体験だった。これは、すごい、濃い濃い。ただ、ナレーションが若干饒舌にすぎ、ぐるぐる動き回るカメラには最後まで違和感残った。このドッグヴィルは学校のクラスに似ているんじゃないだろうか。うわべだけ、気に入られようとして、お互い仲のいいように振る舞う。その関係にわずかな傲慢さ(犬の心というか)が入ると、友達は奴隷と使用人の関係にどんどん傾いていく。一人をのけ者にしてそれを排除しようとする。第9章で「雲がきれ、月の明かりが街を照らす……」のナレーションが入った場面があのセットを必然にする。最後の復讐、グレースは自分の中の犬の心が牙をむいた姿を直視する。「人間は力を持っただけの犬か?」そういう風なことが頭に浮かんだ。 余談。トムとグレースは一度は愛し合ったのだろう。しかしグレースがトムの心の中を見透かしたがために、トムの中の犬の心もまた牙をむいたのだと思う。 9点(2004-04-01 19:06:53)(良:1票) |
13. ツバル
《ネタバレ》 どの登場人物も、とても愛らしく、個性的。役者、と言うよりは、本当にキャラクターと言う感じ。全編通して意外なほどコミカルで、なかなか笑えるシーンも多い。映像も、万華鏡を覗いているようにくるくる色調が変わって面白かった。ただ、この作品が一筋縄で行かないのは、盲目のおじいさんの存在。グレゴールに種明かしをされて、笑いながらテープを回したり止めたりして、亡くなってしまう。あそこからエンディングに続く流れ、新しいスタートに向かうときの希望だけではない、何とも言えない不安な気持ちになる。船から上がる黒い煙、夕日にも見える最後のショット。それでも、アントンとエヴァは双眼鏡を二人で覗き、船の心臓部にはおじいさんの象徴インペリアルの機械。3月といういい時期に観られてよかった、若さの讃歌。 9点(2004-03-20 10:12:00) |
14. 天国と地獄
《ネタバレ》 ものすごいテンポの良さ。3時間近い長さをまったく感じさせない。グイグイ引き込まれて、本当に楽しめる。作品にみなぎる緊迫感、映像の持つ温度感も凄まじい。犯人の動機をもう少し細かく描いてほしい気もしたが、面会シーンに圧倒されてしまった。後味が悪い。しかし素晴らしい映画。 9点(2004-03-13 14:36:27) |
15. 犬の生活
《ネタバレ》 何と言っても絶品なのが二人袴。抱腹絶倒必至のおかしさ。犬とのコンビやホットドッグやとのやり取りなど、笑える場面が多い。軽い気持ちで観られる一本。 9点(2004-03-12 20:32:51) |
16. クレイマー、クレイマー
《ネタバレ》 法廷のシーンの殺伐とした感じが印象的だった。そしてエレベーター。閉まって、下がっていってしまえば追い掛けていくことなどできない、そういう非情さが夫婦のすれ違いや法というものにも共通すると思った。この映画、ハッピーエンドなのだろうか。ハッピーと言うにはあまりにも切ないエンドロールの曲。そして、父からも母からも愛されてはいるが、その狭間で引き裂かれそうになる子どもにとっては、どうしようもない悲劇のように思える。所々の長回しやラストの、沈んでいくようなフェードアウトも心に残った。 9点(2004-01-31 06:39:43) |
17. クラッシュ(2003)
《ネタバレ》 レース中事故に遭い、全身に大火傷を負ったレーサー太田哲也を追ったドキュメンタリー。凄まじい事故の後の壮絶なリハビリを経て……というと苦労話のようだが、主題はむしろ彼と家族との愛情に置かれる。入院中の彼のために録音した励ましのテープや、献身的な介護の様子は感動的。愛に支えられた強さ、そして最後はほのぼのして、良かった。ゆったりとしたテンポで進んでいくのもいい。 9点(2004-01-12 20:38:42) |
18. ソナチネ(1993)
《ネタバレ》 これを観て、監督のバイク事故は、少なからず自殺を意識していたのではないか、と思ってしまった。疲れて、淋しくて、それでも弱音を吐く事の出来ない弱い男が、沖縄で幼稚な楽しい時を過ごす。「あんまり死ぬのが怖くなるとな、死にたくなっちゃうんだよ」と言う台詞に監督の気持ちが集約されている。死ぬのが怖いと思える幸福な気持ちのまま死にたい、と。女を残して自殺、なんて男の一方的なエゴであるが、エゴのない愛など薄っぺらなものだろう。心の中の深い部分でぐるぐると渦巻く心理的葛藤を、美しい画で描き出した名作。 9点(2003-12-31 10:35:55) |
19. Dolls ドールズ(2002)
《ネタバレ》 はじめて観た北野映画だった。浄瑠璃の「冥土の飛脚」の筋をよく知らないために、それとのつながりが分からないのは残念だが、それを差し引いても素晴らしい。破滅していく愛を四季に乗せて、すっとさり気なく描いてみせた監督に脱帽。こういう「空気」を持った映画が少なくなる中で、貴重な映画。死の匂いは強烈だが、極めて象徴的だ(しかもさりげない)。それがいっそう悲しい。ラストは、わずかに救いを感じた。 9点(2003-12-31 10:16:29) |
20. ベルリン・天使の詩
《ネタバレ》 ヴィム・ヴェンダースの作品はこれが初めてだった。一見脈絡のない人々の営みの中に見えるささやかな幸せ。「幻」ではない「歴史」の中に生きている事の素晴らしさ。ドイツ語、フランス語、英語、ユダヤ人やトルコ人、いっしょくたになったベルリン。そこで小さいけれど、確かに自分のもとにある幸福を手に入れた天使。「どんな天使も知り得ないものを知っている」という台詞が最高。 9点(2003-12-23 11:29:52) |