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ザ・チャンバラさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 1274
性別 男性
年齢 43歳
自己紹介 嫁・子供・犬と都内に住んでいます。職業は公認会計士です。
ちょっと前までは仕事がヒマで、趣味に多くの時間を使えていたのですが、最近は景気が回復しているのか驚くほど仕事が増えており、映画を見られなくなってきています。
程々に稼いで程々に遊べる生活を愛する私にとっては過酷な日々となっていますが、そんな中でも細々とレビューを続けていきたいと思います。

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【製作年 : 1990年代 抽出】 >> 製作年レビュー統計
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1.  アンツ 《ネタバレ》 
製作から13年も経った今になってようやく鑑賞したのですが、「なぜこれをスルーしてきたんだ!」と後悔するほど心を奪われました。含蓄があり、笑わせ、そして燃える。私が映画に求めるもののほとんどが含まれた圧巻の80分でした(上映時間短っ!)。アリ社会を紹介する序盤、王女様との冒険とロマンスを描く中盤、将軍との戦いに雪崩れ込む終盤と3パートに分かれているのですが、どのパートも完璧な仕上がり。次々と舞台が移動するものの特に慌ただしさは感じさせず、すべてのパートが主人公Zの物語の構成要素として機能しているため映画全体には統一感があります。脚本の出来が恐ろしく良いのです。ハリウッドとは距離を置くウッディ・アレンによりにもよってアニメ映画の主人公役をオファーし(日本で言えば、田村正和にハゲヅラ被ってコントさせるぐらいのとんでもないキャスティング)、それを承諾させた脚本の力がこれです。サメとクマノミがお友達というふざけたディズニー映画とは一線を画す世界観。働きアリは仕事だけの人生に意義を求め、兵隊アリは隣国との間で死闘を繰り広げ、権力者はクーデターを画策する。戦場で出会った気の良い兵隊アリは世にも無残な死に方をし(小さいお友達が見れば確実にトラウマになります)、コメディリリーフと思われたアシナガバチは唐突に命を落とす。これは完全に大人向けの脚本です。アニメの枠を越えてしまったが為に一部では拒絶反応も起こっているようですが、映画としては非常に見ごたえがあります。。。世界一の映画監督スピルバーグをトップに迎え、「職業経営者から映画を取り戻す!」をスローガンに設立されたドリームワークス黎明期のラインナップは、それはそれは鼻息の荒いものでした。一般市民を巻き込みながらテロリストとアメリカ合衆国が死闘を繰り広げる「ピースメーカー」を皮切りに、スピルバーグのグログロ超大作「アミスタッド」「プライベート・ライアン」、子供を巻き込みながらオモチャが殺し合いをする「スモール・ソルジャーズ」、主要登場人物のほとんどが死ぬ「ディープ・インパクト」と、ネジのとんだ大作を連打します。そんな中で作られたのが本作なので、必然的に内容はダークでアダルトなものとなったようです。なお、本作の経験を経て娯楽性と毒のバランスをより洗練させたのが「シュレック」なのでした。
[DVD(字幕)] 10点(2011-01-21 22:43:49)(良:1票)
2.  遥かなる大地へ
かしこまったタイトルに騙されてはいけません。軽妙さと重厚さが絶妙なバランスで組み合わされた、実にフットワークのよい映画なのです。私が今まで見てきた中でもっとも清々しい映画でした。同じようなお話の「タイタニック」よりも5~6倍は面白かったです。とにかくトム・クルーズとニコール・キッドマンのカップルが実によく、2人の姿はいくらでも見ていたいほどです。好きなのにケンカばかりっていう2人の仲は本当にマンガなんですけど、マンガよりもきれいな2人がやるので違和感なしなのです。「トム、付き合っちゃいなよ」と、中学生感覚でお節介を焼きそうになったほどです。そしてあのラストも本当にマンガ。でも大好きです。私まですんごい幸せな気分になってしまいました。「THE END」の文字が出た後も、「2人とも、幸せに暮らすんだぞ」「仲良くケンカしろよ」などと、老婆心ながらいろいろとお節介を焼いてしまうのです。こんなにいい映画、しかも恐ろしく豪華な布陣であるにも関わらず、えらい冷遇ぶりなのがビックリです。「ダンス・ウィズ・ウルブス」だとか「許されざる者」だとか当時はリアル志向の西部劇がブームだったので、それに乗っかって宣伝を間違えたのでしょうか?ビデオやDVDのジャケットを見ても、えらい重厚な大河ロマンとして売られてるし。でもこれは、男性よりも女性が喜ぶ映画だと思うんですけど。
10点(2004-08-28 16:16:06)
3.  アサインメント
傑作です。私的にはジェームズ・ボンドよりもイーサン・ハントよりもトリプルXよりも上、サスペンス・アクションの最高作品です。2大オヤジのかっこよさは何?サスペンスに満ちた展開は何?そして特訓のクールさは何?ジェリー・ブラッカイマーの「9デイズ」はこれと同じ話ですけど、あまりの完成度の差にビックリ。ジョン・マクティアナンにとっての「ダイ・ハード」に匹敵する傑作です。
10点(2004-06-29 20:37:14)
4.  ダークシティ 《ネタバレ》 
オールタイム・ベスト格の映画なので、これは譲れません。って、評価低いですね。奇抜な世界観、怒涛の展開、超能力バトル、そして世界の創造と、これが100分足らずで起こったことかと思えるSF映画史上の奇跡。これって「マトリックス」が3部作かけてやった内容ですからね。 そして愛は記憶を超えうるのかという裏テーマもナイス。ジェニファー・コネリーは究極の奥さん女優であることは「ビューティフル・マインド」で世界が認めましたけど、この映画で私はずっと前から知ってましたよ。ルーファス・シーウェルが超能力でガラスを割り、ジェニファー・コネリーとキスするシーンは映画史上もっとも美しいシーンです。そしてキーファー・サザーランド演じるドクター・シュレイバーにも男泣き。この映画でもっとも感情移入してしまうのがドクター・シュレイバーです。人間でありながらストレンジャーに加担する彼は、冒頭での登場以来どう見ても狂気の科学者なのですが、実はストレンジャーから自分の記憶を消すことを強要された悲劇の男だったんです。支配の側で身の安全を図る現状と、一方で同胞を裏切っているというジレンマに悩む彼は、ラストで突然変異のマードックを救世主に変えます。そのほか、何もしないのにかっこいいウィリアム・ハートもナイス!考えてみれば、この映画ってのはマードック以外の誰が主役でも話が成立するし、そうすればそれぞれに印象の違う作品になりそうです。それほど構成がしっかりしているということ。ミステリーから幕をあけしだいにテンポをあげていき、世界の果てが露になるにつけ怒涛の展開に。そしてラスト、マードックはダークシティに光をもたらし、住民の記憶にだけ存在した海を作り上げます。そして神にさえなれた彼は、ただのひとりの男として再び妻との出会いから始めます。愛は記憶を超えたんです。そういえば、冒頭のナレーションは謎の半分をしゃべってるんで不要だとよく言われるけど(DVDの解説では、監督自身もあのシーンは無駄だと言っていました)、いま見返せば映画の雰囲気をよく伝えており、あながち悪いとも言えません。ちなみにDVDの吹き替えは出来がすごくいいので、ドラマがさらに盛り上がります。
10点(2004-06-12 10:33:58)(良:3票)
5.  パルプ・フィクション 《ネタバレ》 
リアルタイムでの衝撃に加えて後世に与えた影響も大きく、もはや語り尽くされた感もある本作を今更レビューすることはなかなか難しいのですが、私が感じた素直なところを書きます。 まず本作が型破りなのが、登場人物達が本筋とほぼ無関係な会話を延々と繰り広げており、話の流れが遅いどころか、流れが完全に止まっている時間すらあるということ。タランティーノはキャラクターを作った後にその人物が喋りそうなことを延々と書き連ねていったのかもしれませんが、本筋に対してキャラクターが従属するという通常の関係性を逆転させ、まずキャラクターありきで彼らを自由に動かし、本筋を二の次にしたという辺りが斬新でした。 だからと言ってキャラクター劇に終始しているわけではなく、一見すると無関係なエピソードを並べることで「これらがどんな終わり方をするのか」という強い関心を観客に抱かせつつ、時間軸の解体という荒業によってこれらをもっとも効果的な形で見せており、本筋は本筋で十分に凝った作りになっている点も見事なものでした。特に驚いたのは、主人公であるビンセント・ベガが上映時間の半ばでアッサリと死亡するということ。彼はトイレから出てきた不意を突かれ、見せ場もセリフもないまま死亡しますが、通常の映画では主人公がこんなタイミングでこんな死に方をすることなんてまずありえないので、観客もまた不意を突かれるわけです。しかも彼の死がその後の展開に何らの影響を与えることもないのですが、こんな話の動かし方はかつてなかったと思います。 また、これだけ高度なことをやりながらも、まったく肩ひじの張ったところのない雰囲気が独特な魅力に繋がっています。例えば前述したベガの末路などは、直前に方向転換したジュールスとの対比で如何様にも深い意義を与えることができたのですが、タランティーノはあえてそれをやっていません。一応考える素材はあるので、その死から意義を感じ取りたい観客には深く考える余地は与えられているものの、映画に教訓なんて求めないと思っている観客にはそこを素通りする自由も与えられている。こんなスタイルの作品には滅多にお目にかかれません。 最後に、キャスティング面にも楽曲選びにもセンスが感じられることが、本作が愛される大きな要素となっています。大スター・ブルース・ウィリスやオスカー俳優・クリストファー・ウォーケン、当時伸び盛りだったティム・ロスら当然主役に選ばれるべき人達を差し置いて、10年ほど表舞台から姿を消していたジョン・トラボルタを選んだという意表を突いたキャスティングや、これまた数十年ほど忘れ去られていたミザルーの曲調を作品のメインテーマに据えた点など、陳腐化してダサくなって一旦廃れたものを一周回ってかっこよく見せるというリメイクの技術が極めて洗練されているのです。【ひのと】さんもレビューしておられますが、この映画を作った人のセンスを自分も理解できるんだと言いたくなるような雰囲気が本作には確かにあって、その後のタランティーノ作品と比較しても本作が唯一無二の存在だと言えるのは、この部分が突出しているためだと言えます。 公開当時から斬新で、しかもその方向性の作品でいまだにこれを超えるものはないと言えるほどの完成度の異常さや、直接的・間接的に影響された作品が膨大な数に及ぶということを考慮しても、映画史上の最重要作の一本であることは間違いのない作品だと思います。
[インターネット(吹替)] 9点(2018-05-28 19:37:29)(良:1票)
6.  ブレーキ・ダウン 《ネタバレ》 
東宝東和によって意味不明な放題をつけられたり(ブレーキダウンって何?)、実は共通点の少ない『激突!』と無理やり関連付けられたり、ジョナサン・モストウが驚異の新人扱いされたりと(モストウは1989年に監督デビュー済)、日本公開時にはやや過剰な宣伝がなされていた本作ですが、肝心の中身は、小細工に走らず一気に見せる、竹を割ったようなサスペンスアクションとして仕上がっています。90分、本当にハラハラドキドキさせられました。。。 本作の構成は極めて秀逸で、『バルカン超特急』のようなミステリーものと見せかけておいて、実は『悪魔のいけにえ』の流れを汲むテキサスものの変種でしたという本編には嬉しくなりました。奥さんがいなくなるミステリー部分にしても、『フライトプラン』のようなおかしな引っ張り方はせず、設定のボロが出る前にさっさとネタバラシをして第2幕へ入ってしまうという思い切りの良さには感動しました。第2幕はノンストップのサスペンスアクションとなるのですが、上記の通り、根底にはテキサスものの精神が横たわっているため、通常のサスペンスアクションにはない不快感が作品のスパイスとなっています。また、犯人像もよく考えられています。この手のサスペンスアクションでは、どれほど不気味な人間にするかという方向性で犯人像が作られていくものですが、本作はそれとは正反対のベクトル、家庭を持ち、意外と良いパパだったりもするという設定を置くことで、その一方で部外者に対してはいくらでも凶暴になれるという残酷性をより強調することに成功しています。これを演じるJTウォルシュのねちっこい存在感も素晴らしく、私が心から死んで欲しいと思った悪役トップ5に名を連ねるほどの印象を残しています。。。 もうひとつ評価すべきは、カート・ラッセルの演技の幅の広さです。従来より多様な役柄を演じてきたラッセルですが、本作ではそんなラッセルの個性が作品に大きく貢献しています。序盤では、田舎者に絡まれても喧嘩になるのが怖くてヘラヘラと誤魔化すような男だった主人公が、徐々にバイオレンスに染まっていくという『わらの犬』的な役柄を見事モノにしています。後半では「普通の男がそこまでやれるか」とツッコミたくなるような過激なアクションもこなすわけですが、ラッセルが本来持つ個性によって、そこに大きな違和感を覚えないという点にキャスティングの妙があります。
[DVD(字幕)] 9点(2014-07-15 01:22:19)(良:2票)
7.  グッドフェローズ
LAの裕福な芸術一家に育ったコッポラがマフィアの世界を荘厳に描く「ゴッドファーザー」を撮ったのに対し、NYの貧民街で育ったスコセッシが「チンピラなどは唾棄すべき人種だ」という考えで本作を撮ったのは興味深い事実。本物のマフィアの姿を見て育ったスコセッシが監督を担当したことが、本作の最大の強みとなっています。。。 虚弱体質で気の小さかったスコセッシ少年にとって、街を仕切るマフィアは死ぬほど怖い存在だったようです。大人になり映画監督になったスコセッシは、子供の頃に自らが感じた恐怖を観客に追体験させます。ジョー・ペシ演じるトミーこそがその恐怖の象徴。悪気ない一言にしつこく絡んでくる、些細な出来事がきっかけで人を酷く痛めつける、ヤクザ特有の理不尽な恐怖が見事なまでにスクリーン上で再現され、観客は身を凍らせるのでした。このアプローチはスピルバーグに似ています。極度の怖がりだったスピルバーグは、その強い感受性をスクリーンに再現することで観客に恐怖の追体験をさせましたが、本作もヤクザの怖さを追体験させているのです。本作はマフィア社会の描き方が素晴らしい等と絶賛されていますが、正直言ってそんなものは二の次。この映画が他のヤクザ映画よりも抜きん出ているのは、一般人がヤクザを見た時に感じる恐怖心を完璧に再現できていることです。”多くの人はテレビで戦争を見るのだから、カメラ越しの戦場映像こそが最もリアルに感じるはずだ”という理屈で撮られた「プライベート・ライアン」と同じ話で、”一般人がヤクザを見た時にどんな感情を抱くのか”という点に徹底的にこだわっている点が素晴らしいのです。。。 さらに、技術面でも注目すべき点が多数あります。絶え間なく流され続ける音楽、あることないこと話しまくりまったく途切れない会話、テンポの良い編集など、タランティーノやポール・トーマス・アンダーソンらに明らかに影響を与えているのです。本作にてスコセッシは驚くべき手腕を披露しており、これが彼のベストワークだと思います。 
[DVD(吹替)] 9点(2012-06-07 01:22:19)(良:2票)
8.  マグノリア
一言で表現するには難しい(=観る者の咀嚼が必要となる)映画で、しかも3時間という長丁場。監督の演出スタイルが生理的に馴染むかどうかが大きいと思います。結局のところはポール・ハギスの「クラッシュ」と同じ話で、さまざなしがらみに苦しむ者たちの懺悔と救済。ある者にとっては許されざる罪を行った人物も、巡り巡って十字架を背負っているのだという「罪を憎んで人を憎まず」がテーマだと言えます。そうした因果を描くにはやはり群像劇がふさわしく、またそれぞれのエピソードを濃密に描く必要性を考えれば3時間という長丁場にも納得がいきます。どのエピソードも甲乙つけがたいほどよく出来ていたし、それぞれに身につまされるような人生の教訓が詰まっていました。撮影当時29歳だった監督が、ここまで成熟したドラマを作ってみせたことは驚異です。しかもただ説教をたれるだけでなく、遊びまで入れてくるというのがまた見事。登場人物はみな滑稽なのですが、それにより悲哀や人間臭さがよく出てくるという演出の絶妙さ。また編集の遊びも斬新で、あるエピソードが盛り上がってきたところでカットがぶつっと切れ、まったく違うエピソードに飛んでいってしまいます。話がおもしろくなってきた、その絶好調のところでいきなり切ってしまうだなんて!この監督、ぶっきらぼうに作っているようで、実は観客の心理を徹底的に計算しているのだと思います。せっかくおもしろくなってきたところで切るなんて怖いことができるのも、その計算に絶対の自信があるからなのでしょう。実際、このじらしによって特に前半は怒涛のおもしろさとなっており、また膨大な情報量を見る側に詰めこむことにも成功しているのです。一転してペースが落ち着く後半部分とのコントラストの役割も果たしており、まさに完璧な計算だったと言えます。そしてあのとんでもないクライマックス。バカバカしくもありますが、登場人物達のわだかまりを吹き飛ばす起爆剤という役割は立派に果たしており、突飛ではあっても作品の流れの中では非常に理にかなったオチだったと言えます。あの衝撃で皆吹っ切れ、清々しい朝を迎えていたではありませんか。前述した「クラッシュ」は終始シリアスで比較的テーマが伝わりやすいアプローチだったのに対し、本作はより高度な遊びをした結果一部の観客を切り捨てるという結果にはなっていますが、映画としての完成度は非常に高いと思います。
[DVD(吹替)] 9点(2007-03-27 23:27:08)(良:2票)
9.  レッド・オクトーバーを追え!
中国原潜の領海侵犯ニュースで思わず本作を思い出し、数年ぶりにLDを引っ張り出して見ましたが、やっぱおもしれぇッス!キャメロンと並んで次世代の大監督を担われてたジョン・マクティアナンが、そのもっともすごかった時期の手腕をいかんなく発揮し、ジャック・ライアンシリーズにおいては突出した作品に仕上がっています。後のシリーズが陥ったように見せ場を無理に盛り込むことはせず、あくまでストーリー展開を重視したのは大正解。話の本質にこだわるその姿勢からは、自分の映画に装飾などは必要ないというマクティアナンの自信すらうかがえます。そしてその自信はダテではなく、雑多な登場人物や複雑な展開をテキパキとまとめていき、それでいて見せ場では一気に盛り上げていくという、ある意味で神業的な演出を披露します。伏線の張り方や謎の回収のタイミングもやたらうまく、アクションとストーリーが渾然一体となったクライマックスのバトルにはドキドキさせられました。まぁ、ラミレス艦長の動機がよくわからんかったりしたのは問題ですけど。ライアン:「この件で責任を問われる者も出るだろうな」、ラミレス:「ま、小さな革命はヘルシーなことだ」って、あんた責任感なさすぎ。自分の起こした事件で潜水艦が1隻撃沈されたってのに。しかし、その欠点はショーン・コネリーの存在感が完全にカバーし、それでもなおカリスマ艦長であったわけですけど。さすがは傑作! あと、ラミレスはなぜ亡命を予告したのか問題ですが、ラミレスにとって最大の問題は亡命に関係ない一般乗務員をどう下船させるかでした。そこでラミレスは原子力事故をデッチあげたわけですけど、乗務員を極寒の大西洋に放置してアメリカに行くわけにはいきません。近くに彼らを回収する船がいる必要があったんです。つまり、乗務員を救うためには自分達をモニターさせなければならなかったんです。さらにレッドオクトーバーの機能があればどんな包囲網でも突破できる自信があったので、そこであえて騒ぎを大きくしたんだと解釈しました。
9点(2004-11-15 19:29:42)
10.  12モンキーズ 《ネタバレ》 
これはかなり惜しい映画です。未来描写がもっと杜撰なものであれば、この2倍はすごいことになったと思います。というのも中盤、コールは自分は未来人ではなく、医者の言う通り単なる精神障害者ではないかと疑うくだりがありますね。そんな、主題をも揺るがしかねない謎を観客も共有することができれば、もっと素晴らしいミステリー映画になったはずです。しかし残念ながら、観客はそのミステリーを共有することができません。願わくば冒頭の未来描写を丸々カットし、コールが拘束されるシーンから始まってくれればよかったんです。そうすれば、後にSF的な描写が登場しても、コールの幻覚という処理が可能になるんです。しかし冒頭に未来を持ってきてしまっては、SFという設定が大前提になってしまい、ミステリーがひとつ減ってしまうんですね。とはいえ、それでもこれは紛れもなく大満足の秀作ですけど。張り巡らされる伏線やいちいち意味ありげなセリフ、そしてクライマックスに向けてきっちりと収束していくお話。挙句に「12モンキーズ」自体がミスディレクションといううまさ。見事ですよ。それに話のテンポも悪くなく、その手際のおかげで言われるほど難しさは感じませんでした。そして、やっぱりブラッド・ピットがすごい。精神病院であることないことしゃべりまくりながらも、その言葉の中には思わぬ真理が隠されており、只ならぬ存在感を見せつけます。結局は単なるバカで終わる役柄なんですけど、彼の熱演がジェフリーという人物に「何かしでかすのでは?」というスゴ味を与えており、キーパーソンとしての存在感をいかんなく発揮するわけです。ま、この映画には余裕で9点を献上することができます。できれば、今後テレビ放映する時には冒頭の未来描写をカットしてくれれば完璧なんですけど。
9点(2004-11-13 02:09:07)(良:2票)
11.  エスケープ・フロム・L.A.
なんていい映画なんでしょう。結構お金もかかってるのに、精神年齢のヤングな男子しか喜ばない映画作りに入魂してくれるんですよ。すっごくいい肉が手に入ったのに、結局カレーに使っちゃいましたって清々しさを感じます。何かにつけて愛だ感動だと入れようとする客寄せの潮流は完全無視、デートのやつは見に来るなという男子校チックな潔さもたまらんです。スネーク同様、無意味に世間を逆恨みしようぜ!同志達。あと、黒コートはネオよりもスネークが先!こちらの優良なかっこよさもリスペクトです。
9点(2004-06-10 08:30:55)(笑:2票) (良:4票)
12.  ゴースト/ニューヨークの幻 《ネタバレ》 
私がもっとも苦手としている「泣けるラブストーリー」として宣伝されていた上に、『ニューヨークの幻』という甘さ5割増しの邦題により敬遠してきた作品であり、これだけの大ヒット作ながら今の今まで見たことがなかったのですが、もうすぐAmazonプライムの無料配信が終わるということで「タダのうちに見ておくか」と鑑賞しました。 そしたらなんと良かったんですよ。決してラブストーリーに寄りすぎておらず、ドラマ・ミステリー・コメディがバランスよくブレンドされた作品であり、アイデアも豊富で非常によくできた作品だと思いました。早く言ってよぉって感じです。 オスカーを受賞した本作の脚本を書いたのはブルース・ジョエル・ルーベンであり、この人は人が死ぬ話ばかりを書く変わった脚本家なのですが、それだけこだわりを持っているジャンルだけあって本作には意表を突くようなアイデアがいくつもありました。幽霊って生身の人間よりも優位な存在として描かれることがほとんどなのですが、本作では声を伝えることも目の前のものを動かすこともできない非力な存在であるという逆転の発想で描かれています。かなり変わった切り口ではあるものの、幽霊という存在を突き詰めると本作の描写の方が理にかなっており、なかなかよく考えられているなぁと感心させられました。さらには、非力で為す術がなかった主人公が徐々に形勢を逆転させ、最終的には自らの死の黒幕を追い込む様には大変なカタルシスが宿っており、特異な設定と物語が見事に絡み合った上質な脚本となっています。 監督はジェリー・ザッカー。『フライング・ハイ』を監督したり『裸の銃を持つ男』シリーズの脚本を書いたりしてきた人物なのですが、これらの作品はすべての映画の中でももっともコテコテな部類に入るコメディであり、ドラマ要素や風刺要素が一切入ることなく、くだらない笑いを大量投下することで90分程度の上映時間を満たしているという作風に特徴がありました。そんな映画ばかり撮ってきた人物が突如として真面目な映画を手掛け、途中でふざけたりすることもなく安定的な演出力を披露していることにはかなりの意外性がありました。一応、ウーピー・ゴールドバーグが出てくるところだけは笑えるのですが、その笑いも従前の作品とは異質なタイプの笑いであり、そのキャリアで磨いてきたスキルをほとんど使わずに笑いを取りに行っているという監督の引き出しの多さには感心させられました。なお、本作の翌年に製作と脚本を担当した『裸の銃を持つ男PART2 1/2』では早速本作をパロディにしており、オリジナルとパロディの両方で儲けるという卒のなさには二重の意味で笑わされました。 主要登場人物4名の中でもっとも目立っているのはウーピー・ゴールドバーグであり、彼女のオスカー受賞は順当な評価だったと言えます。また、公開当時に全世界が惚れたデミ・ムーアの魅力は圧巻のレベルで、こんな彼女がいたら心配で成仏できないだろうなぁという作劇上の説得力にも繋がっています。そんなウーピーとデミが本作公開後にはハリウッドトップクラスのギャラを得るスターにランクアップした一方で男優陣は伸び悩んだという世評が示している通り、男優2名はパっとしません。そもそもパトリック・スウェイジの起用に監督は賛成しておらず、ハリウッドの名だたるスター達にことごとく出演オファーを断られた後にスウェイジに落ち着いたという経緯があるのですが、スウェイジは本作の顔を演じるには華に欠けたという印象です。また、憎まれ役を演じたトニー・ゴールドウィンには妙な小粒感がありました。監督はカール役にはビッグネームが欲しいと考えていたものの、こちらも意図した俳優を押さえられなかったための配役だったようです。
[インターネット(字幕)] 8点(2018-06-22 22:28:32)(良:1票)
13.  金融腐蝕列島[呪縛]
90年代後半は『新世紀エヴァンゲリオン』や『踊る大捜査線』など大人の仕事をリアリティとエンタメのバランスをとりながら見せるという作品が随分と流行っていましたが、その路線を徹底的に突き詰めたのが本作でした。 ヒーロー然とした登場人物はいないし、展開にも突飛な部分はなく、現実に発生した総会屋利益供与事件の裏側では本当にこういうドラマがあったのかもしれないというリアリティを誇っていますが、同時に映画全体はアクション映画並みのテンションの高さを維持しており、本来は面白みのない題材をこれだけ面白く仕上げた監督の手腕には感服しました。 また、日本映画にありがちなもっさりとした人間ドラマに突入することなく、企業の危機管理問題に終始して2時間をやりきってみせた姿勢も気持ちよかったです。 私自身がこの映画の世代の人間ではないので一部によく分からない用語があったりもしたのですが、細かい部分を理解していなくても全体の流れには付いてこられるよう、物語の基本構造は単純に作られています。深く理解したい人にも、軽く楽しみたい人にも応えられる構造となっているという点でも、本作の出来は驚異的であると感じました。
[インターネット(邦画)] 8点(2018-06-15 18:12:34)
14.  チェイシング・エイミー 《ネタバレ》 
本作は上映時間のちょうど真ん中辺りで綺麗に分断されており、前半と後半でほぼ別の映画になっています。 恋愛経験の少ないマンガオタクがガチ恋愛をしてしまった。しかも、相手はよりによってレズビアンという落としづらさMAXの相手。進展を諦めて友人関係に落ち着くべきか、それとも関係性の破壊を覚悟で一か八かの大勝負に出るべきかという主人公の葛藤は世の多くの男性が経験していることだし、ミューズ役・アリッサの丁度いいレベルの美人加減なども良く、前半部分は男のロマコメとして非常によくできていました。 後半は一点して重苦しい展開を迎えます。愛しのアリッサが地元では有名なヤリ○ンだったことが判明し、海よりも深く落ち込むホールデン。前半が恋愛映画だとすると、後半は恋愛を考察した映画になっています。恋人の過去が気になって仕方がなくて、言わなきゃいいことだとは分かってるのに、言わずにはいられなくなってしまう男の悲しい性が痛々しいほどリアルに描かれています。 また、ひと悶着あった後にホールデンが提示する「みんなで3Pしよう」という解決策。誰が聞いても論外なのですが、彼だけは真剣。でもこういうバカなところって、男にはありますよね。 さらにラスト。自作がアニメ化されるという大チャンスを棒に振り、友人兼ビジネスパートナーを失ってまで1年間悩み苦しんだ末に、元カノとの思い出をマンガにしたホールデン。その渾身作を持ってアリッサの前に姿を現し、未練たっぷりの顔で「感想を聞かせてほしい」と言うわけですが、その様は自作の歌を彼女に送る高校生ばりのダサさ全開で、結局男は何も進歩しないという終わり方をします。 一方アリッサはと言うと、1年ぶりに再会した元カレの前で一応瞳を潤ませてみせるものの、ホールデンが去り、入れ替わりで友人が戻ってくるとホールデンのマンガをポンと投げ捨て、すぐに現在の日常へと戻っていきます。恋愛する時の男は愚かで、一方女性は冷静。その現実をまざまざと見せつけられるラストでした。  『エターナル・サンシャイン』や『ブルーバレンタイン』など恋愛を考察した映画には傑作が多いのですが、例に漏れず本作も傑作だと感じました。 あと、本作が凄いと感じたのが、ホールデンはケヴィン・スミス自身を投影したキャラクターであるだけでなく、アリッサ役のジョーイ・ローレン・アダムスこそがスミスの元カノであるという事実です。自分がフラれた時の話を、自分をフッた元カノを使って映画化するというスミスのイカれ具合。また、恋愛の過程をマンガにして彼女に贈ったホールデンのみっともない姿は、元カノを忘れられなくてこんな映画までを作ったスミスの自己批評でもあったことへの驚き。そうしたバックストーリーまでを踏まえて作品を見ると、ひとりの男の生きざまとしても味が出てきます。
[インターネット(吹替)] 8点(2018-02-23 19:54:02)
15.  黙秘 《ネタバレ》 
これは秀逸なサスペンスドラマ。過去と現在の殺人事件が密接な関わり合いを持ち、それらの謎が薄皮を剥がすように明かされていくという観客の好奇心に訴える構成と、明かされた真相にはドラマ性が多分に含まれているというオチのつけ方、どちらも見事なものでした。 本作のキャラクターで私がもっとも興味を引かれたのはマッケイ警部でした。家族はなく、仕事にのみ生きがいを見出しており、10年以上前の未解決事件であっても決して忘れず執念の捜査を続ける刑事。彼は『ランボー』のティーズル保安官や『許されざる者』のリトル・ビル保安官と同種のキャラクターであり、容疑者視点の物語だから悪役となっているだけで、一般的には、むしろ正義の人として描写される人物です。ジョーの死を殺人と見た刑事としての勘は正しく、実娘に対する性的虐待という事件の重要なファクターを知らなかったのだから、彼があれくらい厳しくやってもおかしくはありません。 対するドロレス。彼女には男社会に対する根深い不信感があって(学資預金のトラブルを事前に挿入しておいた構成の妙)、マッチョの権化であるマッケイを自分と娘の協力者として取り込むことはできないと直感的に判断し、「旦那の件はただの事故死」と言って一歩も譲りません。法治国家の原則からすれば間違っているのはドロレスの方なのですが、彼女にあるのは「自分が捨石になってでも娘のための道を作る」という狂気に近い執念であり、それは善悪を超越したレベルにまで達しています。男社会と母性の対立こそが本作の山場ですが、それぞれを象徴するクリストファー・プラマーとキャシー・ベイツの熱演もあって、これが壮絶な見せ場となっています。 無自覚のうちにそんな争いの中心にいたセリーナは、親の心子知らずの極致をいく難役でしたが、JJリーの繊細な演技のおかげで、観客から憎まれないギリギリの範囲内に収まっています。都会でバリバリやってる若者が、教養のない田舎の親をバカにして、ロクに話も聞かない。ちょっと前の私も似たような状態にあったので、彼女の態度に対しては共感とイラ立ちの両方を覚えました。ウザい、ダサいと疎ましく思っていた母親が、実は自分を守るために人生をかけていたことに気付いた時の感動や、それを受けて、マッケイ刑事への反撃を開始する場面の爽快感など、深いドラマ性とある程度の娯楽性を両立させた演出バランスも優れていると感じました。
[DVD(吹替)] 8点(2015-09-08 16:07:20)(良:1票)
16.  ターミネーター2/特別編
『ジェニシス』公開に便乗して本作アルティメット版ブルーレイがリリースされたため、久しぶりに鑑賞しました。劇場版は数え切れないほど見てきた一方で、特別編はゴールデン洋画劇場で観たきりなのですが、再度鑑賞してみての印象は、劇場版とほとんど変わりませんねってとこです。追加カットとしてはっきり認識できたのは、サラとジョンがT800のCPUを壊す壊さないでひと悶着したとこくらいで、あとはあってもなくてもいいカットばかりでした。このバージョンを見ると、作品の印象をほとんど変えずに17分も尺を詰めてみせた劇場版の編集が、いかに優れたものであったかが分かります。私としては、よりタイトな劇場版の方が好みです。 公開時、『T2』についてはVFXが凄いという評価ばかりでした。確かに、映像表現を変えたという点では映画史上のターニングポイントとなった作品ではあるのですが、CGによる表現が当たり前になった現在の目で見返すと、意外にもCGが多用されていないことに気付きます。例えばT1000のアクションシーン。T1000がダメージを受ける場面は昔ながらの弾着で表現し、ダメージを回復する場面にのみCGを使う。そして演出や編集の妙により、当該場面全体が最新の映像技術で作られたかのような印象を与えているわけです。この辺りの騙し方は、本当に見事なものだと思います。その他、T1000が他人に化ける場面では双子の役者を使ったり、右腕を失った後のT800の胴体がいきなり太くなったりと、冗談のようなローテクが炸裂しています。映画学校には通わず、ロジャー・コーマンの元で修行したキャメロンならではのフットワークの軽さが本作を支えており、凡百の金満ハリウッド大作とはまるで作りが違うのです。そして、当時のハイテクに依存しなかったからこそ、四半世紀経った今でも面白い作品であり続けているのです。 あらためて見て印象に残った場面はと考えると、狭い通路でジョンを挟んで、あっちからT800、こっちからT1000が迫ってくるとこだったりします。あの場面の緊張感はハンパなものではなかったし、続くアクションの熱さは相当なものでした。T800がジョンの弾除けになるとこはカッコよかったし、周りの壁にボコボコと穴をあけながらの揉み合いも凄かった。あの短いアクションで、人外のパワー表現が見事にできているのです。本作を面白くしているのは予算やCGではなく、そうした的確な描写の積み重ねなのだと思います。
[ブルーレイ(字幕)] 8点(2015-07-10 17:21:08)(良:1票)
17.  Uターン
面白さという点で言えば、オリバー・ストーン監督作品中でも一、二を争う出来だと思います。開始30分で主人公にとって最悪な状況が完成し、そこから先はひたすらに落ちていく。笑わせ、呆れさせ、適度にハラハラさせながら最悪のクライマックスへと突き進んでいき、その過程では観客をアっと驚かせる展開をいくつか仕込んでおく。スタンダップコメディアン・ジョン・リドリー(後に『スリー・キングス』や『それでも夜は明ける』を手掛ける)による脚本を買い取り、それをストーンがブラッシュアップしていったらしいのですが、気鋭の新人脚本家による若々しく刺激的な部分は残しつつも、自身の熟練した手腕でこれを丁寧にまとめあげる。当時流行していたタランティーノ風のグロい犯罪コメディ映画の一種なのですが、無数に作られた当該ジャンル作品群の中でも、あらゆる点で本作は突出していたように思います。。。 役者の使い方も面白いと感じました。男の中の男を演じてきたニック・ノルティに人として最悪のことをさせたり、瑞々しいアイドル女優だったクレア・デインズと、兄・リヴァーの清純なイメージに引きずられていた当時のホアキン・フェニックスに田舎のバカップルを演じさせたり、ジョン・ヴォイトに分かったような分からないようなことを喋らせたりと、豪華な俳優陣を他では見られない形で使い、かつ、それぞれを適役にしてしまっているのですから、このキャスティングセンスには恐れ入りました。また、ショーン・ペンのカメレオンぶりにも恐れ入るところであり、あらゆる点で見所が多い作品となっています。
[DVD(吹替)] 8点(2014-02-24 00:41:25)
18.  レザボア・ドッグス
延々と続く音楽談義に続き、中年のおっさん達がぞろぞろと歩く様を恐ろしい程かっこよく捉えたタイトルバック、そして、肝心の強盗場面はまるまる端折られ、本編の舞台にいきなりジャンプするという奇抜な構成。現在の目で見れば当たり前に感じられることも、製作当時においてはすべてが斬新でした。本作の軸となっているのは70年代風のクライムサスペンスなのですが、そこにスプラッタ映画並みの強烈なバイオレンスとユーモア溢れるセリフ回し、そしてセンスの良い音楽など多くの要素を絡めることで、独特の味わいを出しています。タランティーノは本作でとにかくいろんなことをやっているのですが、それら雑多な要素を闇鍋状態にすることなく、ひとつの作品としてまとめてみせたという点が、彼の天才たる所以です。。。 本作が公開された時期は、私が映画を意識しはじめた頃でした。そのため、本作に対する世間の反応もギリギリ覚えているのですが、公開当時、本作はその暴力性のみがクローズアップされていたという記憶があります。構成の奇抜さや、独特のセリフ回し、洗練された楽曲センス等が評価されるのは94年の『パルプ・フィクション』からであり、本作については、新人監督が低予算・ノースターで作り上げた物凄いバイオレンス映画という認識にとどまっていたと思います。実際、本作に賞を与えたのは世界中でゆうばり国際ファンタスティック映画祭のみであり(これを恩義と感じたタランティーノは、後に『キル・ビル』で夕張の名を冠したキャラクターを登場させています)、この時点でタランティーノの真の実力を認識できていた人はごく僅かでした。まさに、当時としては規格外の傑作だったというわけです。
[DVD(吹替)] 8点(2014-01-08 01:00:38)
19.  エドtv
前年公開の「トゥルーマン・ショー」の二番煎じとみなされて興業的にも批評的にも大失敗、ロン・ハワードの黒歴史と化している本作ですが、私は「トゥルーマン・ショー」よりも遥かに面白く鑑賞できました。本作では「トゥルーマン・ショー」に欠けていた点がほぼ完璧に補正されていて、メディア批判の映画としては超一級だと思います。。。 「トゥルーマン・ショー」の最大の欠点とは”「トゥルーマン・ショー」が面白い番組に見えない”という点でしたが、これに対し本作は①トゥルーマンを無理に拘束せずともテレビに出たがる人間はいくらでもいる、②視聴者が興味を持つのはハプニングとスキャンダル(清廉潔白なトゥルーマンのドラマなど面白くも何ともない)、この2点を徹底して深掘りすることで、「もしこんな番組をやっていれば、恐らく人気が出るだろう」という説得力を持たせることに成功しています。最初は「くだらない」と言っていた視聴者達が番組に対して徐々に関心を抱き始め、大人気番組へ成長していくという丁寧な描写はロン・ハワードならでは。次々と繰り出される"バラエティあるある"には笑わされるし、同時に考えさせられます。またエドが反撃に転じるクライマックスには適度なカタルシスがあり、脚本も演出も驚くほどしっかりしています。。。 三十路でフリーターのダメ人間だが、誰からも愛される可愛げを振りまくエド役にマシュー・マコノヒーは適任でしたが、このキャスティングも当時としてはかなりの意外性がありました。というのも、マコノヒーは弁護士(「評決のとき」「アミスタッド」)、神学者(「コンタクト」)等専らアカデミックな役柄を得意としており、ダメ人間を演じることは珍しかったからです。しかし本作は彼の個性を引き出すことに成功し、以後のマコノヒーは気の良いチャラ男を演じることが多くなりました。本作はキャスティング面でも成功を収めていたというわけです。
[DVD(吹替)] 8点(2012-06-25 01:18:06)(良:1票)
20.  白い刻印 《ネタバレ》 
精神崩壊寸前の人物を描かせると、ポール・シュレイダーは相変わらず良い仕事をします。ニック・ノルティ演じる主人公の姿がとにかく痛々しいこと。彼はみんなと、特に娘とは仲良くやりたい、尊敬される存在になりたいと願っています。しかし幼少期に父親から酷い虐待を受けたために人格が正しく形成されず、ちょっとズレた人、身近にいると面倒くさい人になってしまいました。冒頭に描かれる娘とのハロウィンでのエピソード、彼は久しぶりに会った娘を楽しませようと張り切っていたのに、無意識のうちにルーズな部分が出てしまって娘の機嫌を損ねてしまいます(「タクシードライバー」のデート場面とよく似ています)。この時の主人公は憐れなほどにいたたまれないし、一方で「変なことに付き合わされるのは迷惑」という娘の気持ちも理解できます。このふたりの間に漂う気まずい空気、これこそがポール・シュレイダーの真骨頂、他の監督ではなかなか出せない味です。そんな主人公はある事故の真相究明に乗り出すのですが、熱くなると我を忘れるという本来からの気質の上に、親権裁判、母親の死、自分を苦しめてきた父親との同居等々のストレスから正常な判断能力を失い、妄想に取り憑かれてしまいます。「みんな俺をバカだと思っているようだが、この事件さえ解決すれば俺は一躍街のヒーローとなり、すべての問題は片付く」。大統領候補暗殺にのめり込んだトラビスの如く、彼は妄想上の事件に向けて走り出してしまうのです。その出発点が「娘から尊敬されたい」という純粋な思いであり、父親からの虐待という不可抗力から人付き合いを苦手としてしまったという根本原因を踏まえると、本作の主人公が狂気に墜ちていく様はあまりに悲惨なものでした。本作は「タクシードライバー」をより普遍的にした物語であり、もっと評価されても良い作品だと思います。
[ビデオ(吹替)] 8点(2011-01-23 21:11:07)
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