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目隠シストさんの口コミ一覧[この方をお気に入り登録する

プロフィール
コメント数 2292
性別 男性
ホームページ https://twitter.com/BM5HL61cMElwKbP
年齢 52歳
自己紹介 お世話になっております。
只今『真・女神転生VV』攻略中のため新規投稿お休みしております。
2024.6.28
とりあえず1周目クリアしたのでぼちぼち投稿再開しています。
2024.7.19


※映画とは関係ない個人メモ
2024年12月31日までにBMI22を目指すぞ!!

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1.  ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ 《ネタバレ》 
ネタバレ含みます。ご注意ください。  「シリーズ最高傑作」なんて言葉を使うと逆に信憑性が疑われそうですが(失礼。他意はありません)率直に言って最高でした。『ベイビーわるきゅーれ』が「完成」した気がしました。二作目は「洗練されたけど逆に物足りなくもない」と感じましたが、本作には満足感しかありません。同じく二作目の感想から引用するなら、マジで170kmの豪速球なのに制球力抜群の投手に育った印象です。中でもアクションの進化と深化が止まりません。もともとジャッキー・チェンとUWFのハイブリッドでしたが、更に桃太郎侍と昭和のロボットアニメ最終回もトッピング。"リアリティなんてクソ喰らえ"(暴言失礼)なファンタジームーブは圧巻の一言で、アクション映画におけるエンターテイメントサイドの頂を極めたようにも感じられます。これは単に「格闘シーンの見栄え」を称賛しているのではありません。「気持ち」と「ドラマ」を乗せたアクションだからこそ心が揺さぶられたのです。プロレス的と言っても構いません。そういう意味で本作の殊勲賞は圧倒的な存在感を見せつけた池松壮亮で間違いなく、技能賞は伊澤彩織に、敢闘賞は髙石あかりに差し上げたい。とくに髙石は俳優として一皮も二皮も剥けたと思います。ベビわるファン(そんな略し方はしないですか?)は基本的に深川まひろに魅了されている気がしますが(もしかすると勘違い?)、本作の杉本ちひろに惚れないファンなんて居ないでしょう。コメディエンヌとしてもアクション俳優としても申し分なく、NHK朝ドラヒロイン抜擢も何ら不思議ではありません。これから髙石あかりという逸材が世間に見つかる訳です。胸熱ですな。 「勝利」「友情」「お仕事大変」が三本柱のエセ少年ジャンプのような本シリーズは、アクションだけでなく青春ドラマもコメディパートも素晴らしく、こと本作に至っては欠点らしい欠点が見当たらない「無敵映画」となりました。いや、1点だけ注文を。個人的な好みを言わせてもらうなら最終盤居酒屋での台詞が引っ掛かりました。「らしくない殺し屋」がコンセプトではありますが、二人に『深夜高速』みたいな台詞は言って欲しくなかったなあと。「ボロは着てても心は錦」ではありませんが「ケーキを頬張っても気概は殺し屋」であって欲しいと願います。重箱の隅を突くような言い掛かり、申し訳ありません。 それにしても前作の駆け出し殺し屋ブラザーズといい、本作の最強野良殺し屋といい、愛すべき良キャラクターが1作限りで退場とはなんと贅沢つくりでしょう。作品の性質上仕方ありませんが、本当に勿体無い話です。救いは前田敦子と沖縄マッチョが生き残ったことでしょうか。次回以降も必ず出演してくださいね。 シリーズ続編映画に本サイトの最高点を付けるのは『エイリアン2完全版』以来であり、中毒性は『キック・アス』にも負けません。『チョコレートファイター』で「一食抜いてでも観るべき映画」と書きましたが本作でも同じ事を言わせてください。これらは私の中で最上級の褒め言葉です。
[映画館(邦画)] 10点(2024-11-09 22:12:34)
2.  ルックバック 《ネタバレ》 
ネタバレ厳禁映画です。「評判良さそう、どんな感じかな」で本サイトを開いた方は速やかに閉じることを強くおすすめします(管理人様勝手なことを言ってすみません)。すぐに劇場でご覧ください。劇場公開が終了している場合は、DVDでもサブスクでも構いません。観てください。観終えてから再度ご訪問いただければ幸いです。  ※劇場鑑賞後すぐに勢いで「推敲なし」で投稿しましたが、文才皆無のため「何を言いたいのか分からない」状態でした。申し訳ございません。『嫌われ松子の一生』で懲りたはずなのに同じ過ちを犯すとは。面目ない限り。鑑賞後数日経ち、少し落ち着き思考も整理されてきたので改めて投稿し直します。  本作で激しく心を揺さぶられたポイントは3つです。ひとつ目は「努力が報われたこと」そしてふたつ目は「理解者を得たこと」。この二つは同時にやってきました。藤野と京本が初めて顔を合わせた場面。まさに盆と正月が一緒に来たとはこのこと。そっけない態度とは裏腹に藤野の心は狂喜乱舞しました。この時の「表現」は日本アニメ史上に残る名シーンであります。生涯忘れえぬ感動は、漫画連載が決まった時より、アニメ化が決定した時よりずっと大きなものだったでしょう。この「思い出」だけで生きていけるほどに。恥ずかしながらもらい泣きです。何故これほど感動的なのか。それはこの二つを得るのが至難の業だからです。一度も手にせぬまま人生を終える人も多いはず。残念ながら今の私もその一人であります。勿論この感動は京本にも当てはまりました。あるいは彼女の場合は藤野以上かもしれません。「人生の転機」となる出会い。固く閉じていた未来への扉が開いた瞬間でした。陳腐な表現ですが「魂の片割れを見つける」とはこういう事かもしれません。 3つ目に心揺さぶられたのは言わずもがな。京本を襲った悲劇です。私はかねてより「人が死ぬから悲しい物語」は嫌いでした。その思いは基本今でも変わりません。しかし年を重ねて少し心境が変化した気がします。それは「死」が決して「特別なもの」ではない事を知ったからです。今日と同じ明日が来る保証など誰にもありません。死は唐突に訪れるものであり、往々にして理不尽なもの。これが世の道理です。物語だから死を避けるのも不合理では。 藤野は当初京本を外に連れ出した自分を責めましたが、彼女に非が無いのは言うまでもありません。もちろん彼女も頭では理解しているでしょう。でも心が追い付かない。そんな彼女に見せた幻が「ifの未来」でした。藤野が漫画を諦め、空手に勤しんだ未来。京本を襲った悲劇を回避できた未来。もしかしたら本当に「別の未来」が存在するのかもしれません。それは誰にも分からないし、知る術もありません。「死期」と同じ。だから私たちに出来るのは、真摯に自分の生と向き合うことのみ。自分がやれること、やりたいこと、やるべきことをする。それだけ。京本もそうして生きてきたのです。 良き人との出会いは「幸運」であり、別れは悲しいですが「必然」です。断言できるのは「努力が報われ」「理解者を得た」人生が「この上なく素晴らしい」こと。これだけは、絶対に、間違いありません。
[映画館(邦画)] 10点(2024-07-15 13:01:06)(良:4票)
3.  さかなのこ 《ネタバレ》 
世に数多存在するサクセスストーリーは「目標を掲げ」「弛まず努力し」「挫けず諦めず」「成功を勝ち取る」が基本です。その点本作は全く当てはまりません。好きな事を続けていたら人気者になれた話。メッセージは極めてシンプルで「好きなことをしよう」です。これは「自分らしく生きることのススメ」でもありました。『そんな綺麗事言ったって結局は成功者の自慢話じゃん』にならないのが素晴らしい。そのためにわざわざ本人(原作者)を登場させ「さかなクンが世に出なかった場合」もフォローしています。彼は不幸せに見えますか?人生の勝ち負けとは「お金」でもなければ「社会的地位」でもありません。楽しく生きた者勝ち。そこに出自や性別、健常性といった属性は関係ないのでしょう。とはいえ「お金は無くていい」「社会に認められなくていい」「好きなことだけすればいい」ではありません。ミー坊はきちんと報酬を受け取っていますし、魚の絵が評価されたのもTVで人気が出たのも社会のニーズと合致したから。よく伊集院光氏が師匠・三遊亭円楽の言葉として『好きなことに社会性を持たせろ。そうしたら食っていける』を紹介しますが、まさに本事例のこと。ただ残念なことに皆が実践できる生き方ではありません。「運」の要素は少なからずあります。実際ミー坊はついていました。彼の成功は「子の好きを肯定し続けた母親」と「よき理解者の助力」があったればこそ。とくに母親については(嫌な言葉ですが)「親ガチャ」と呼ぶくらい完全に運任せです。「あの母親にしてミー坊あり」なのは間違いありません。たぶん我が子の生まれ持った性質上「出来ないことを出来るようにする」は多大な苦しみが伴い幸せを遠ざけてしまう。それなら「好きなこと、やりたいことを全力で応援する」へ教育方針の舵を振り切ろう。そう決断したのだと思います。これは生半可な覚悟ではありません。「普通」を捨てることだから。もしかしたら離婚原因の一端では。そうだとしたら夫とお兄ちゃんは大変お気の毒ですが「腹を括る」とはこういうこと。母親はミー坊の幸せだけを願ったのです。その強い思いこそ「愛」であり、尊くもありますが恐ろしくもあります。 実は本編冒頭の「男か女かはどっちでもいい」でズッコケました。あぁ~しらきかと。そんな事は物語を通じて伝えればよい話で、わざわざ最初に断るなんて野暮もいいところ。あまり期待できないと感じました。ところがどっこい。もうずっと可笑しくて。本当に全部楽しかったです。それでいて寂しくなったり、辛くなったり、嬉しくなったり、グッときたり。大いに揺さぶられました。脚本が良いのは勿論ですが、それ以上にキャスティングが神懸っておりました。何といっても主演ののんさんが素晴らしい。ミー坊役がフィットする男性俳優さんなら沢山思いつきますし、雰囲気重視なら「もう中学生」もイケそう。それなのに、あえて役と性別が異なる女性俳優を選ぶとは。『福福荘の福ちゃん』じゃあるまいし。ある意味博打だった気がしますが、ジャンボ宝くじ1等級の大当たりじゃないですか。あえて「男か女かは~」と宣言した監督の気持ちも理解できるというもの。もう「のんミー坊」にゾッコンでした。自分のナイフは魚臭くなるから嫌だとか、ししゃもの種類で店員に酔って絡むとか、ミー坊が映る全シーン全カットに釘付けでした。破格の愛らしさとでも申しましょうか、人間性の「旨味」に溢れていたと思います。のんさん(能年玲奈も含む)主演作品は『海月姫』と『この世界の片隅で』を鑑賞済みでしたが、これほど魅力的な役者さんとは気づきませんでした。面目ない。替えが効かないオンリーワンな俳優さんだと思います。脇を固める皆さんも最高でした。友情厚い狂犬、実は気のいい総長、シャツの網目が広すぎるカミソリ籾、トホホなバタフライナイファー(そんな言葉はない)、胡散臭い成金?歯医者、憂い多きモモコさんに顔が優勝娘ちゃん、もちろん強くて優しいお母さんも。例外は先生(ドランクドラゴン鈴木)くらいかな。うそうそ冗談です。もう全員大好きです。やはりコメディはキャラクターが命。これだけ素敵な人を揃えられたら文句の一つも出てきません。奇を衒ったようにも見えますが、王道の人間賛歌であり愛の映画でありました。年明け早々こんなに長文になってしまい申し訳ありません。いつもはこの半分くらいを目安に感想を纏めるよう心掛けていますが今回ばかりは無理でした。それだけ「語りたくなる映画」という事でお許しください。本編も2時間20分もあることですし。
[インターネット(邦画)] 10点(2024-01-01 00:00:00)(良:1票)
4.  映画大好きポンポさん 《ネタバレ》 
映画の編集は人生の選択が如し。確かにその通りですが、普段私が意識するのは『選んだ方』ばかりです。『選ばなかった方』=切り捨てた可能性に目を向けることはしません。思うにそれは恐ろしいから。己が人生と向き合ってきた自信がないからとも言えます。その点、主人公は立派でした。自身の編集に腹を括っている。捨てたシーンに責任を負っている。それがきっとジーンが映画監督になれた所以でしょう。本当は誰もが自分の人生を決める監督であらねばならないはずなのに。でも意外とできない(できていない)のは、それでも生きられる恵まれた環境にいるからかもしれません。多分エリート銀行員アランの満たされぬ理由も同じです。 ポンポさんは、まるでドラえもんでした。夢を叶えるためのお膳立てをしてくれ道標も示してくれる。多分誰にだってポンポさんは居る(居た)のだと思います。親や先生、憧れのスターだったり、一冊の本だったり。それぞれのポンポさんの助けを借りて若者は我が道を選ぶ。いろんな意見があるでしょう。でも行き先を決めるのは私。行き方を決めるのも私。もちろん全責任は私です。やはり私は私の人生の監督に違いありません。 人生は短い。限りある時間をどう使うかが課題。まさに日々編集の真っ只中であります。人生が80分の映画なら、私の場合50分経過したところ。そろそろエンディングの予想がつく頃合いです。素材は万全、最善の結末を目指す編集で悩み中と言いたいところですが、現実は違います。撮り忘れた素材ばかり。今から撮り直しますか。でもそれが困難を極めるのは劇中でも例示されておりました。そう素材は撮れるときにちゃんと撮っておかないと駄目なのです。じゃなきゃ選びようも、悩みようもない。編集素材のことを人生では『経験』『資格』『技能』あるいは『思い出』と呼びます。我が手にある編集素材の貧弱さに震える50歳の冬。でも悲観することはありません。今だから撮れる、これからじゃないと撮れない画だって必ずあるのですから。今なお素材集めに四苦八苦する計画性のない私ですが、それでも諦めません。一応『監督』ですから。さあ己が作品の完成を目指しましょう。傑作でなくても、誰からも褒められなくても。 今年は年始に『かがみの孤城』へ10点献上したばかり。しかも同じアニメ作品。気分的には採点が辛くなるところですが、どうしても満点を回避する理由が見つかりませんでした。
[地上波(邦画)] 10点(2023-02-14 18:27:49)(良:1票)
5.  かがみの孤城 《ネタバレ》 
一泊二日の家族旅行。子どもたちも久々の映画館でウキウキ。でも中1二女と小4三女の意見が割れたため、私は二女と本作を、長女と三女が『すずめの戸締まり』を鑑賞しました。結論から言うと特大の当たりを引きました!私自身の予備知識は原恵一監督で結構評判は良さそう程度。二女は原作既読だったそうで、本作鑑賞を譲らなかったのだとか。でかした二女よ。 完璧な脚本と演出で、数年に一本あるかないかレベルの傑作だと思います。もし少しでも興味がおありなら、何としてでも劇場鑑賞なさってください。政治家の答弁やビジネスシーンなどで耳にする、やや冷たい印象のあった「善処する」がこれほど胸を打つとは。数々の傑作名作が踏襲してきた映画のお約束が破られる驚きの結末にエンドクレジットが滲んだことは二女には秘密ということで。 ちなみに『すずめの戸締まり』組も満足したようで何より。小4三女に本作は少し早い気もするので、今回の家族分散鑑賞は大正解でした。
[映画館(邦画)] 10点(2023-01-07 12:58:04)(良:1票)
6.  子供はわかってあげない 《ネタバレ》 
台詞のニュアンスや言い回しがもう絶妙。「もじくんだけど」「はい、拍手。なあ」「そんな言葉はないんだよ」「何でもじって書くの」とか。何気ない台詞がいちいち可笑しくて。水泳部員さんのしつこい顔芸や、突然のエセ東京ラブストーリーもたまりません。親子の間に流れるぎこちない空気が次第に緩んで行く様子がとても心地よく。この数日は実父にとってかけがえのない宝物になったでしょうし(でも本当は親父顔する権利なんて無いんですけど)、娘にしても予想外に楽しい時間を過ごせたよう。だからこそ今父に対して申し訳ないし、嘘をついたことを悔いて泣けるんですよね。素直で素敵な良い娘さんです。私の中の「こんな娘が欲しい」ランキングでは小林歌穂さんと並んで萌歌さんが堂々一位にランクインしました(注)もちろん現実の愛娘(三姉妹)は殿堂入りなので除きます。そして恋物語としても最高でした。キスなし、手さえ握らぬプラトニックラブ。砂浜とプールサイドに書くあの人の名前。正座して告白って昭和かよ。でもこんなお似合いな、心から祝福できるカップルってコナンとラナ以来では。美波ちゃんに負けず、もじ君もいい男なんです。「娘が連れてきて腹が立たない彼氏」ランキングがあれば、ダントツですよ。書道家って肩書もいい。論破王とか迷惑系ユーチューバーだったら一昨日来やがれってとこですが。彼は親父さんと酒を酌み交わす意味をちゃんと理解していました。「お酒は20歳になってから」は正論ですが、20歳まで待てないこともあるのです。将来の嫁父に自分の覚悟をみせる時。そんなタイミングが訪れたなら、法律を破っていい、いや破らなくてどうするって人生の教科書にも書いてあるはずです。でも本番は今父相手なのでお間違いなく。もう本当に全部全部愛おしい物語でした。多分に冗長で、無駄なシーンが多い気がしますが、それが私たちの人生。あらすじだけでは絶対に本作の魅力は伝わらない、ファスト映画殺し作品でもあります。 『子供は分かってあげない』。そう美波ちゃんは、まだ子どもだから、本当は大人の事情なんて分かってあげなくていいんだと思います。もっと我侭に、自分の感情を素直にぶつければいいのです。でも、それが出来ないのはやはり何処か無理をしているのでしょう。緊張すると笑ってしまうのも同じ理由。でももう美波ちゃんは大丈夫じゃないかな。あんな素敵なコテメイト(そんな言葉はない)が出来たのだから。 採点は10点以外考えられません。それ程までに本作の上白石萌歌さんの魅力は神がかり的でした。さすが教祖パパの継承者であります。
[CS・衛星(邦画)] 10点(2022-08-30 20:28:27)(良:1票)
7.  サマーフィルムにのって 《ネタバレ》 
どこから見ても『時をかける少女』+『映像研には手を出すな』です。かの作品に対するオマージュを隠す気も無さそうです。また、映像研が商業アニメ製作のリアルを体現したシリアスな格闘技だとすれば、本作は真っ当な高校部活動の範疇であり「ものづくり」に対するガチさを物差しとするなら、さしずめ学生プロレスと言ったところでしょうか。だいぶヌルい。しかしプロレスにはプロレスの良さがあります。いいトコ取り、何でもあり。時かけの切なさ、映像研の産みの苦しみをブレンドした物語は注文どおりの面白さでしたし、クライマックスの破天荒ぶりには度肝を抜かれました。映像研の浅草氏なら(プロの映画監督なら)絶対にあんな展開は選びません。「ものづくり」のルールに反するから。しかしプロレスなら出来るのです。「何時だってやり直せる」が綺麗事ではなく現実に起きる奇跡を目の当たりにして涙が溢れました。未来人がタイムマシンでやってくるなら、ホウキくらい日本刀に変わるでしょう。どさくさに紛れて散々ディスってきたラブコメまで肯定してしまう力技もまさにプロレス的であります。消えて無くなるものに全力を尽くし、思いを繋げることで夢を託す。私たちが生きる意味は青春の中に詰まっています。 主演のハダシこと伊藤万理華さんが実に魅力的でした。少年っぽいというか、無垢なラランドサーヤというか、バカリズム的というか。まあめんこいこと。オタク魂が宿った一挙手一投足に釘付けで、ずっとニヤニヤしながら眺めてしまいました(特に曲がった口元がチャーミングで『キック・アス』のヒットガールや『女子―ズ』の桐谷さんのように美人が口を歪める様に個人的に弱いみたいです)。実写の浅草氏も彼女が適任なんじゃないかと。2代目水川あさみ?こと祷キララさんも『ファンファーレが鳴り響く』から更生したようで何より。もう一人の女監督(花鈴さん)も可愛かったなあ。そして忘れてならないのは影の主役・ダディボーイ役の板橋駿谷氏。熱演でした。実年齢30代半ばの老け顔高校生お見事でした。それにしてもブルーハワイとかビート板とか、ニックネームがもはやスパイ映画のコードネームのようです。
[DVD(邦画)] 10点(2022-04-30 11:04:14)(良:1票)
8.  JUNK HEAD 《ネタバレ》 
輪廻転生を描きながら、生きる意味を問う物語。と見せかけて、実は全然違うのかもしれません。監督の狙いは別にあるのかも。説明不足を自分勝手に脳内補完している可能性も否定できません。そういう意味では、映画の完成度は決して高くないと思います。無駄な描写が多いですし、ストーリーテーリングも上手くありません。必要以上にグロテスクですし、結末も尻切れトンボ。しかしながら、本作の訴えかける力はズバ抜けていました。画面の端々から謎の迫力が溢れていました。全ての芸術作品の使命は観客に何かを感じさせる事。その観点で本作は(私にとって)満点に違いなく、もう諸手を挙げて賞賛したいです。映画の出来の良し悪し等とは、また別次元の話。こういう映画こそ傑作と呼びたい。こんな気持ちになったのは、湯浅政明監督の『MIND GAME』、内田けんじ監督の『運命じゃない人』を観た時以来であります。
[インターネット(邦画)] 10点(2022-02-21 19:16:10)(良:1票)
9.  スモールフット 《ネタバレ》 
言及したいポイントは2点です。1点目は『CGアニメ技術』について。映像技術の進歩は目覚ましく、実写・アニメを問わず新作映画が公開される度に驚かされます。私は『ターミネーター2』の時点で「もうこれ以上はない」と思ったものですが、いまだCG技術は進化の歩みを止めません。実社会では本物と見分けがつかない『ディープフェイク』なる問題まで出る有様。そこで本作。実写と見紛うとは言いませんが、ところどころまるで『本物』なのです。例えばイエティの毛の質感は、ぬいぐるみのそれ。リアリティ度合は必要量を明らかに上回っており、謎の迫力を湛えています。『不気味の谷』の崖っぷちと言っても差し支えなく、これ以上リアリティを追求してしまうと、崖から落ちてしまう気がしました。これは称賛や批判というより単純な「驚き」です。 2点目は『タブーに触れた物語』のこと。こちらも心底驚きました。タブーとは絶対的な決まりごと。その是非を問うてはいけません。何かおかしいな。変だな。そんな風に思っても飲み込むのが常。圧倒的多数の支持を得ている概念に異を唱えることは、害こそあれ得は全くないからです。こんな事例、あちこちに転がっていますよね。損得勘定に敏感な大人はタブーを嫌います。それが生きる術です。しかし大人になる前の自分を振り返ってみると、もちろんそんな技術は身に付けていませんでした。だからこそ痛い目をみたワケで。大人イエティの正義に賛同すると同時に、子どもイエティの素直な欲求にも共感してしまい、どうにも胸がざわつきました。頭と心が連動しない感じ。しかも、子どもイエティの思いを大人イエティが受け止めるという驚愕の結末が待っていました。マジかと。タブーに触れただけでなく、取っ払っちゃうとは。これ、現実でも通用したりしないかな。今まで封じ込めてきた考えが頭をもたげてきて、大人の私は正直困るのです。だって、もう冒険する年齢は過ぎたはずだから。安全安心が一番に違いないのだから。恥ずかしながら、少し泣いてしまいました。これは称賛や批判というより純粋な「感動」です。
[インターネット(吹替)] 10点(2021-11-17 18:21:52)(良:1票)
10.  インセプション 《ネタバレ》 
長編映画にもかかわらず、2時間半があっという間。これも劇中の理論同様、時間の伸縮現象のひとつです。私もまた現実と夢の狭間を行き来したと考えます。優れた映画は機材など無くとも、ヴァーチャル・リアリティが体験できるのですね。非現実世界の構築は見事ですし、多重層で繰り広げられる時間差アクションは圧巻。見どころを挙げ出したらキリがありませんが、私が最も言及したいのはエンディングです。全ての出来事が一点に集約される象徴的な場面。『早く倒れろ!』何度も心の中で叫び、エンドクレジット開始と共に唸りました。「正しい終わり方」だから深い余韻に浸れたのだと思います。アイデア、脚本、美術、アクション、配役、そして人生の意味を問いかけるメッセージ性、どれも完璧で、注文をつける箇所が見当たりません。鑑賞後は頭の中で情報を整理しながら、自身の感情を反芻し、幾度となく楽しめるお得な映画でもあります。悔やまれるのは、この傑作を茶の間のTVで観てしまったこと。迂闊でした。映画館で鑑賞していたら感動2割増しだったでしょう。教訓。ノーラン作品は万難排して劇場へ足を運ぶべし。さて、最新作『テネット』で私はこの教訓を活かせるでしょうか?
[インターネット(吹替)] 10点(2020-09-10 18:54:31)(良:2票)
11.  夜明け告げるルーのうた 《ネタバレ》 
巨大な御陰岩は、「既成概念」や「古い価値観」あるいは「主人公の内なる心の壁」の象徴と見て取れます。つまり御陰岩の崩壊という結末には“変化を恐れるな”というメッセージが込められていると考えます。カイ父も“結果を恐れるな”と。自ら人型に変態し、かつ他者に人魚化を促すルーは、変化のシンボルです。今回の一件を通じ、まさに人生の分岐点にあった主人公は勿論のこと、貝類採取の激減が見込まれる漁港の人々の生活、そしてルーを含めた人魚族の行く末も、否応も無く変化が訪れるでしょう。そう、変化には痛みが伴います。それでもなお、環境や状況に適応し、変化し続けなければ生きていけないのが人間です。というより、全ての生物に架せられた宿命。歩みを止めたものは消え去るのみです。都会で成功しかなった伊佐木先輩が、故郷で新しい夢を見つけたこと。老若男女で力を合わせて開けた水門。途切れ途切れ、ゆっくりでないと伝わらない屋外放送。そして人間と人魚族のチームプレー。己が人生に立ちはだかる“壁”を打ち破るためのヒントは、ふんだんに出されています。覚悟なく、安易に変化を望んだ『人魚ランド』なる目論見が失敗したことも見逃せません。チャレンジの先に未来があります。日本アニメーション界の巨匠であり、神とも言える宮崎駿監督の代表作のひとつ『崖の上のポニョ』に真正面から対抗した本作にも、先述のチャレンジ精神が隠されている気がしてなりません。躍動感と疾走感あふれるアクション、デフォルメと記号化で印象強化、そして豊かな想像力。観客の心を突き刺す湯浅政明スタイルは、宮崎監督とは違う新たな価値観を呈示しています。日本アニメーションの新たな“夜明けを告げる”本作の心意気に対し、私は『ポニョ』と同じ10点満点というかたちで応えたいと思います。
[DVD(邦画)] 10点(2019-01-15 18:55:44)
12.  愛しのアイリーン 《ネタバレ》 
原作は連載当時時々拝見。吉田監督の手に合うはずだと確信しておりましたが、想像以上!吉田恵輔節炸裂の、地獄絵巻エンターテイメントを堪能させていただきました。まあ、そのやり口のエグいことエグいこと。修羅場と泥沼のドミノ倒しの中で笑わされる屈辱が堪りません。背徳感?不謹慎感?心が痛いのに気持ち良いから不思議。自分はMだったのかと困惑するばかりです。もうね、お話は基本的に滅茶苦茶なんですよ。暴走と迷走だらけ。でも、行動原理は“幸せになりたい(幸せにしたい)“。誰もが望むこと。何の問題がありましょうか。それが地獄へ続く田舎道という恐ろしさ。どうにもなら無い現実から性欲で逃避。いや、性欲こそが人生。アイリーンの場合は“お金“と言い換えてもいいでしょう。自己嫌悪と自暴自棄で、もうどうにでもなれってか?そりゃどう転んでもハッピーエンドなんて無理ですやん。そこに愛は有るの?なんて問い掛けが、これほど陳腐に感じるドラマがあったでしょうか。勝手に決めろ、自分で考えろと、突き放されているようでヒリヒリします。私が思うに、アイリーンに対して何らかの激情が岩男にあったのは間違いないでしょう。人殺しのハードルはかくも高いです。己を見失って思いの丈を“アレに彫る“とか、端から見たら完全に狂ってます。一番近い言い方が“愛“なのかなあと思います。“執着“よりも濃い感情。幸せだったかどうかは別にしても、岩男に生まれた意味はあったんだと思いたいです。嫁不足、晩婚化、国際結婚、村社会、格差、偏見、人種差別に、おばさんのくるくるパーマ。ディープな社会問題山盛りで、是非の処理能力が追い付きません。心が乱れて、最早正常な判断が無理なんであります。こんな修羅場ショーにあっても、気持ちがどん底まで落ちないのは、吉田監督には人間に対する肯定が根っこの部分にあるからだと考えます。錯覚かもしれませんが。最後に言っておきたいのが、アイリーンちゃん(ナッツ・シトイさん)が素晴らしいってコト。本年度のオレデミー主演女優賞は彼女で決定です。あと木野花さんの怪演にも特大のグランプリを進呈いたします。もちろん安田顕さんも最高でした。河井青葉さんには殊勲賞を、古賀シュウさんには敢闘賞で如何でしょうか。なお、この映画が文化庁の助成を受けていることに軽い衝撃をうけています。日常生活で気軽に『お◯んこ』って言っても大丈夫な気がしてしまうのが重大な副作用。自分が怖くって仕方がないです。年頃の娘がいるんです。この責任どう取ってくれるんですか。
[映画館(邦画)] 10点(2018-09-24 06:36:35)(良:1票)
13.  カメラを止めるな! 《ネタバレ》 
良い噂は耳にしながらも、具体的な内容は知らず。ポスター情報等から単純に『ゾンビ映画』との認識で、劇場に足を運びました。これはですね、ほんと、映画館で観ないと駄目なヤツです。皆様、悪いことは言いません。騙されたと思って速やかに、劇場にお向かいください。多少遠くても観に行く価値アリです。くれぐれも、余計な情報は入れないでください。あと、どうか期待値のハードルはほどほどでお願いします。矛盾する言い方ですが、それが本作を最大限に楽しむコツです。以下ネタバレ含みます。ご注意ください。・・・   ・・・観始めて直ぐに気づくのは、カットを割っていないこと。はは~ん、これはワンカット長回しがスゴイってことで好評価だったんだな。でも、それって結局は努力賞の類いで、本質的な映画の評価はまた別物だよなと、“最初の”エンドロールを眺めておりました。ところが本番はこの後でした。ワンカットゾンビ映画(生放送ドラマ)が出来るまで。その裏で起こっていたこととは。コレがもう可笑しくて。不自然だったシーンの謎解きやら、実は修羅場だった裏方事情やら、加速度的にオモシロさが増していきます。いやー久々に劇場で声を出して笑いました。これだけも充分に満足できる内容なのですが、まさか最後に泣かされるとは。安い、早い、出来はそこそこ。妥協しまくって仕事を手にしていた、B級映像作家の胸の内に秘められていた思い。そりゃ誰だって黒澤明みたいに、こだわって撮りたいですよ。でも、それが許されるのは、一部の実績ある監督のみ。大多数は、そうはいかないことは、映画製作に携わっていない私でも容易に想像がつきます。それが社会の仕組み。雇われ人の宿命です。自分と同じ道を志そうとする娘の姿は、父の目にどう映ったことでしょう。青臭かった、でも熱かった、かつての自分自身ではなかったでしょうか。困難な状況でも、ベストを尽くそうともがく監督と娘の姿に、胸が熱くなりました。肩車カメラはね、同じ娘を持つ私にしてみれば、もはや反則ですよ。ガチ泣きしました。猛暑で大きめのタオルを用意しておいて助かりました。この感動に繋がるのは、偏に劇中劇『ワンカット・オブ・ザ・デッド』の出来が良かったから。もちろん、ハプニングだらけで完成度は高くないんです。でもラストシーン、狂気を帯びた血塗れヒロインの美しさは、名作『キャリー』にも引けを取らないものだったと思います(すみません。キャリー観てませんでした)。ゾンビ映画であって、ゾンビ映画にあらず。『ラヂオの時間』『僕らのミライへ逆回転』にも通じる、仕事への誇り、映画と家族への愛に満ち溢れた映画でした。困ったことに「ポンッ」が耳から離れません。名作や、傑作というより、愛すべき映画。この映画を薦めてくださった先輩レビュワー様、そしてヤフーニュースで取り上げられていた指原莉乃さんに心から感謝いたします。(7月25日追記)ついに全国拡大ロードショーが決まったとの朗報が。各種メディアもこぞって取り上げ始めました。嬉しいことですが、反面ネタバレの危険も跳ね上がったわけで。痛し痒しとは、このことでしょうか。
[映画館(邦画)] 10点(2018-07-22 06:16:34)(良:5票)
14.  この世界の片隅に(2016) 《ネタバレ》 
例えば「2人分の芋ご飯」。語らずとも、伝わることはあえて触れない流儀が徹底されています。観客の考える力を信用している証拠。イチから十まで説明されたり、監督の主張を一方的にまくし立てられたりすると正直げんなりしますが、本作では監督と観客が同じ目線で共に在り、信頼関係を築けている感覚がありました。それゆえ、気構える必要がなく、水に砂糖が溶けるが如く(!)、心にお話がすっと入ってきた気がします。食事、兄妹の上下関係、家のお手伝い。天井の木目に手を伸ばした幼き日。日々の暮らしを丁寧に描いてくれたことも感情移入を助けました。すずの日常は、私たちのそれと同じだと素直に思えたのです。ですから「戦争」も決して昔話や特別な出来事ではなく、人生で起こりうる「災難」と捉えることができた気がします。言うなれば自然災害、事件、事故、病気と同じ。「反戦映画」でありながら説教臭さが微塵も感じられない理由はここにあると考えます(戦争の悲惨さに焦点を当て、観客を思考停止状態にして反戦を訴える手法とは真逆のアプローチです)。嬉しいコト、楽しいコト、辛いコト、どうにもならないコト、悔やまれるコト、死にたくなるコト、いろんな思いを抱えて、私たちは、この世界の片隅で生きている。いや、生かされている。愛し、愛されながら、命を減らしていくのです。こんな当たり前のこと(反戦も含めて)、上から目線で力説されても、素直に耳を傾けることなんでできません。だって生まれながらに(恥ずかしながら)あまのじゃくですから。でも、アニメで、あの画で、のんさんの声で、嫌みなく語られたら、心に響かないはずありません。人生がいとおしくなる映画でした。私は子供の頃、父から『十ニ人の怒れる男』を教えてもらい、世の中にこんな面白い映画があるのかと驚きました。そして父になった私は、3人の娘に本作を見せてあげたいと思います。この映画には、私が子供たちに伝えたい大切なことが詰まっているからです。
[映画館(邦画)] 10点(2017-01-10 18:27:55)(良:5票)
15.  インターステラー 《ネタバレ》 
(真っ当な映画批評は他の優秀なレビュワー様にお任せして、私はいつも通り“自分語りの感想”でお許し願います。)私は親子の絆を描いた映画、それも“父と息子”を扱ったもの(例:ビッグ・フィッシュなど)に殊更弱い傾向があります。おそらく、父親に対するコンプレックスが極めて強いからでしょう。映画の中の“息子=自分自身”でした。そんな私も父親業を始めて10年が経ちます。長女もマーフと同じ10歳になりました。そんな理由から主人公への感情移入は半端ではなく、刻々と失われていく時間に胸を痛め、涙しました。息子の立場から父親の心境へ。人は変わってゆくのです。何故クーパーは宇宙へ旅立ったのでしょうか。種の存続を図るため。いえ、我が子の未来を守るため。息をしているだけで満足しないのが人間です。生きることより、活きること。彼は子供たちへ“希望”を贈るために命を賭したと考えます。もちろん、其処には自身の能力に対する“自己顕示欲”が在った事も見逃せません。彼の本質は農業家ではなくパイロットだったのですから。主人公の行動原理を“家族への愛”とするならば、マン博士のそれは“自己愛”です。同じく“愛”。ただし、ひたすら己が生に執着するマン博士と、自身を活かすことを望む主人公とでは、同じ愛でも値打ちは違うでしょう。この世で何よりも重い「子供との約束」を捨て、アメリア博士を救ったクーパーの献身は、漆黒のブラックホールの中「事象の地平線」を超え、人類を救う鍵となる「量子データ」の獲得という奇跡を生みました。彼が辿り付いた先は、時空を超える“5次元”の世界。そう、アメリア博士の言葉を借りるなら“愛”そのもの。クーパーが5次元で、最愛の娘と繋がったのは必然に他なりません。何故なら5次元に時や空間といった隔たりの概念は存在しないのです。あらゆるものを犠牲にして主人公が手に入れたのは、老いさらばえた愛娘が子孫に囲まれながら看取られる“最期の瞬間”を目にする権利。「だってパパは必ず帰るって言った」たった一言で全てが報われました。嗚呼、なんと切なくも美しい、そして幸せな光景でしょう。涙が溢れて仕方がありません。インターステラーは「星の間」。マーフという星、そしてアメリアという星。繋ぐのはクーパー。星の旅人が新世界を紡ぎます。
[CS・衛星(吹替)] 10点(2015-10-20 01:15:02)(良:2票)
16.  幕が上がる 《ネタバレ》 
原作3回読了。劇場鑑賞4回。幸運なことに貴重な舞台も観劇させていただきました。その上で、映画版『幕が上がる』について考えてみます。夏菜子の横顔が印象的な劇場ポスターのイメージカラーは青です。文字通り青春の“青”であり、澄み渡る空の“青”でもあります。いや、あえて国立競技場の空の色と言いましょうか。「私たちは、舞台の上でならどこまでも行ける」本作を代表するキャッチコピーは、希望に溢れた、堂々たる青春宣言。でも、それ以上に重要なのがその後に続く言葉でした。「でも、どこにも辿り付けない」漠然とした不安が、絶望としてかたちを成した時、さおりは自らの立ち位置を悟ったのだと思います。いつまでも子供ではいられない。そして道標は、吉岡先生は、もう居ない。希望と絶望、その狭間で彼女たちが出した答えに、本作が伝えたいメッセージがありました。だからこそ、今、この瞬間を大切にしよう。目の前の課題に全力で取り組もう。それが宇宙の果てまで続く、私たちが進む道。これは、ももクロの生き様にも重ね合わせる事が出来ます。紅白出場も、国立競技場ライブも、目標だったけれど通過点。彼女らが目指すのは果て無き“笑顔の天下”です。徹底してシンクロする富士ヶ丘高校演劇部の生徒たちと、アイドル・ももクロ。これがアイドル映画最大の強みと知りました。劇中のキャラと、実在するアイドルグループのイメージが共鳴し合い、物語に深みを与えます。『Chai Maxx ZERO』『行く春来る春』『Link Link』『走れ! -Z ver.-』そして主題歌『青春賦』。劇中使用されたももクロの楽曲には、その全てに思いが込められていました。アイドル映画というジャンルを正直ナメていた自分が恥ずかしいです。極めて高度なエンターテイメントで間違いありません。映画版の結末は原作ファンを裏切り、県大会上演直後に設定されています。読点(、)は打っても、句点(。)は打たない。それがももクロ。そしてアイドル映画の美しさです。でも物語としては消化不良でしょうか。いえいえ、ご心配なく。「勝てる気しかしない」「楽しみ過ぎる」彼女らの力強い言葉と自信に満ちた表情は、これまでの地道な稽古と積み重ねてきた努力の証明。コンクールの行く末を十分に物語っています。みなまで語らぬ、映画の流儀でしょう。優れた原作と脚本、そして演者の個性を熟知した監督の手腕が結集された至高のアイドル映画『幕が上がる』。この映画を観て涙が出るのは、私たちが経験してきた青春の真実が其処に在るからです。小さな思い込みや勘違いの結晶が、多分『夢』と呼ばれるもの。それを丹念に重ねていく過程が青春であり、かけがえのない人生に違いないと思うのです。初めは単なる友達の付添の、平凡な少女が“その気になって”舞台演出家を目指すなんて、嘘から出た実(まこと)もいいところ。でも、これこそが人生の醍醐味です。素晴らしき人生讃歌。なんて素敵な映画なのでしょう。この映画に携わった全ての人に、そしてももクロファン(モノノフ)という立場でこの映画に出会えた幸運に、心から感謝します。 2018年1月15日、有安杏果さんのももクロからの卒業が発表されました。ファンとしてはまだ、現実を受け止めきれませんが、今言えるのは「8年間お疲れ様でした」。“奇跡の5人”杏果さん、ももクロにいてくれて本当にありがとうございました。幸せな時間でした。
[映画館(邦画)] 10点(2015-02-28 23:16:38)
17.  天才マックスの世界 《ネタバレ》 
『ライフ・アクアティック』を鑑賞し、ウェス・アンダーソン監督と手が合うことは分かっていたのですが、本作の出来は想像以上でした。これはもう傑作認定で問題ないかと。正直、私の貧困な文章力で魅力を伝えるのは無駄な足掻きだと理解しています。兎に角観て、感じていただく他ない、不思議な味わいです。それでも強いて喩えてみるなら、淡々とした語り口調が『心電図』を連想させました。一定のリズムを刻む物語に突如訪れる不整脈の波。それも結構なビッグウェーブ。マックスVSハーマンの親友対決では、単なる嫌がらせから刑事事件・家庭崩壊まで一気に修羅場の階段を駆け上がります。このスペクタクル!しかし直様、元のリズムに落ち着くのです。まるで何事もなかったかのよう。彼らは決して激情を見せないばかりか、人間関係も瓦解しないのです。何コレ?こんなのアリ?狸か狐に化かされているかのような感覚が堪りません。『ライフ~』にも共通しますが、土台にあるのは、大いなる“人間賛歌”。登場人物が皆愛おしいです。全員を抱きしめたくなる。いや本音をいうと、抱きしめて、ビンタして、また抱きしめたい。ときに滑稽で、ときに醜悪で、そして美しいのが人間です。彼らを観ていると、ダメな自分も許してもらえるような気がするのです。音楽は間違いなく一級品。音楽が素敵な映画に悪い映画はありません。というワケで満点を回避する理由が見当たらないです。困ったことに。
[CS・衛星(字幕)] 10点(2014-06-15 18:29:08)(良:2票)
18.  ニュー・シネマ・パラダイス 《ネタバレ》 
アルフレードがトトに村から出ろと諭す場面の古びた碇。帰郷したトトを出迎える年老いた母に繋がる毛糸。これぞ映画ならではの語り方。胸が震えました。観客各々の“想い”と“思い”に照らし合わせ染み入るに相応しい、素晴らしい技量を備えている映画でした。美しき郷愁と懐古で泣かせる映画ではない点にも感心します。得たものもあれば、失ったものもある。後悔こそ人生のメインロード。それがこの映画の良心と考えます。最後に本作を鑑賞した全ての皆様(親御さん)へのお願い。子供から預かったお年玉は、子供が大人になったら返してあげましょう。大人だって約束を守るんだって事を、お父さんお母さん銀行の格付けはAAAだって事を、子供に教えてあげましょうよ。アルフレードのように。えっ、当たり前だって。失礼しました。
[ブルーレイ(字幕)] 10点(2014-01-01 00:00:00)(良:1票)
19.  自転車泥棒 《ネタバレ》 
心の中で何度主人公に“耐えろ!”“踏ん張れ!”と叫んだことでしょうか。魔が差すとは、まさしくこういう事を言うのでしょう。しかし、だからといって主人公を擁護する気にはなれません。彼自身が盗みを働いてしまったら、窃盗自体を肯定する事になってしまうのですから。辛い思いをした“自分自身”に申し訳が立たない。理不尽さの中にある因果応報と道理が、痛心地よい不思議な感覚でした。子供に見せられない事はしてはいけないのです。60年以上前に製作された所謂『名作映画』に、これほど心を掻き乱されるとは予想だにしませんでした。いや『名作映画』というカテゴリー自体が陳腐と感じてしまう程“良いものは良い”としか言いようがありません。素材と調理法はシンプルながら、随所に監督の技量を感じさせる奥深い一品でした。『素晴らしき哉、人生!』も勿論素晴らしいですが、本作と『ミスト』は反面教師として、全ての大人が親になる前に観て欲しい映画だと思います。粘り強さは最強の武器。迷ったとき、落ち込んだときには、子供の笑顔の中に答えがあるはずです。
[CS・衛星(字幕)] 10点(2013-07-13 22:20:02)(良:1票)
20.  鍵泥棒のメソッド
『WEEKEND BLUES』の感想にて、自分は『WEEKEND』と『運命じゃない人』が監督の頂点とならないように、と書きました(やっぱり偉そうですね。スミマセン)。その後、『アフタースクール』が制作された訳ですが、前述の作品には残念ながら及ばぬと感じました。内田監督なら“もっとやれるだろう”という思いがありました。それほど2作品が凄かったのです(『アフター』も十分な佳作なのですが)。果たして本作。前作から4年。期待半分、心配半分で鑑賞に望みましたが、この場にて声を大にして叫ばせていただきたいと思います。「こんな映画が観たかった!」。内田監督の代名詞とも呼べる巧みな脚本もさることながら、本作で特に素晴らしかったのが人物造形。俳優の持ちうるポテンシャル(演技力からパブリックイメージに至るまで)を存分に活かしキャラクターに命を吹き込んでいきます。その手腕のお見事なこと。今の広末をこれほど魅力的に撮れる監督が他にいるでしょうか。所作、言葉遣い、服装、その一つ一つに全て意味がありました。また『アフター』の感想と重複してしまいますが、画面から監督の人となりが伝わってくるのが内田映画の良いところ。根底にあるのは人間愛、人間に対する信頼。人間を丸ごと肯定しているから、皮肉に嫌味がありません。それが素直に笑える理由。この傑作コメディを映画館で観ないなんて選択はありません。極上のクスクス感と喜びの胸の痛みを多くの観客と分かち合ってください。観終えた瞬間から、車の盗難防止アラーム音が愛おしく聞こえるようになるでしょう(笑)。満点の採点で全く問題のない傑作ですが、内田監督には“これ以上”を目指していただきたいので、9点に止めておきます。次回作まで正座して(と言いたいところですが、自分にも生活がありますので、立ったり座ったり寝たりしながら)心して待ちますので、次回も極上の一品をお願いします。追伸。大事な事を言い忘れていました。『アフター』の感想にて、“魅力的な画作りを”との希望を述べましたが(またまた偉そうで申し訳ない)、本作では随所に観客の心を掴むイイ画がありました。中でも予告編でも使用されている“一人通天閣スペシャル”(@ダイナマイト関西)に、“2つのラストカット”(エンドクレジットが流れてもすぐに席を立たないで!!)。監督の主張が感じ取れる素晴らしい画でした。良い映画には必ず心に残るシーンがあります。(2020.2.27追記。韓国リメイク『LUCK‐KEY』鑑賞を機にオリジナルを再鑑賞。改めて本作の完成度の高さと“手数の多さ”に驚かされました。まるで内田監督から北斗百烈拳をくらったような。私の中のいい感じのツボめがけて全弾命中ですよ!無理矢理10点を回避していたのが申し訳ないので満点に訂正します。後発リメイクと比較する必要もないのですが、かの作品に無くて本作にあるもの。それが本編ラストカットに集約されています。ガバッツ。ガツッ!の部分。コメディとして最高の締めくくり。そしてこの“人間観”がたまらないんだよなあ。
[映画館(邦画)] 10点(2012-09-18 20:35:19)(良:1票)
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