1. アイズ ワイド シャット
《ネタバレ》 プチ倦怠期の夫婦の浮気願望をベースに使いながら、一般人の住む「表社会」と超エリートのみからなる「秘密の裏社会」があることを暴露したキューブリック監督の遺作。明るい虹・クリスチアニティ(ツリーに象徴)で表現される「表社会」と暗くサタニズムに基づく「裏社会」の対比がストーリー内に豊富にちりばめられた暗喩で描かれます。「目を硬く閉じて(見なかったことにしろ)」という題名は秀逸。医師のビル・ハーフォードは患者で超富豪のジーグラーのパーティーに妻と招待され、そこでコンパニオンの若い女性達(奴隷階級)から「虹の向こう(裏社会)に行きましょう」と誘われる所から彼の非現実的な旅が始まります。旧友のナイチンゲールから秘密の儀式へ入る合い言葉を知り、裏社会の儀式に迷い込むのですが、そこは、仮面はつけているものの裸身の「奴隷階級」とマントを着た「支配階級」が別れて面妖な儀式や乱交が行われている壮絶な場所。結局ビルは身分がバレて放逐されますが、一般人を入れてしまった者の過ちは死であがなわれます。妻のアリスはパーティーでハンガリーの実業家に二階(虹の向こう)に誘われるのですが、「奴隷」としてか「支配階級」としてかが問題となります。これは後半に妻が話す夢「裸で乱交している周りを沢山の人が見ている」で奴隷階級の方であったことが明らかに。最後の娘のヘレナにクリスマスプレゼントを買いに行くデパートのシーンも小道具の暗喩が満載。遠景にジーグラーのパーティーに出席していた人達(支配階級)が見える所で、ビルが旅の途中で知らずに会っていた奴隷階級の娘達が部屋に飾ってあったぬいぐるみをヘレナは「欲しい」と言って駆け出してしまいます。子供から目を離してはいけない社会で大丈夫か、と思わせる中、妻アリスが「結局なんだかんだ言っても私たち(奴隷階級)はF○CKでもするしかないわね。」というラスト。秘密裏に制作しながら映画公開したものの、公開直後に急逝(映画と同様死亡は事件性なし)してしまったキューブリック監督にこの点で。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2018-12-21 18:11:07) |
2. 許されざる者(1992)
《ネタバレ》 許されざる者が誰なのかを最後まで考えさせる作品でした。出てくる人達は娼婦達も含めて全員何らかの罪を負って生きているように見えます。しかし監督としては主人公のマニーを最も許されざる者として描きたかったのでしょう。それは「普通に生きる」というだけでは駄目で、「罪に向き合って生きる」のでなければ贖罪にはならず、結局「本性は許されざる者でありつづける」という厳しい指摘のように思いました。苦しめられた主人公が最後にバンバンと悪をやっつけてカタルシスを得るのが従来のイーストウッド主演作のパターンですが、最後にバンバン殺して「自分が一番悪い奴です」という落とし方は見事というか、見る人を考えさせる作品にしています。晩年の彼の映画の作り方はけっこう好きです。 [DVD(字幕)] 7点(2013-09-18 21:42:04) |
3. セブン・イヤーズ・イン・チベット
《ネタバレ》 何か物足りない淡々とした映画だな、という印象です。映画としては、文明国を離れた非日常的な生活、しかもヒマラヤの絶景と密教的な異文化の中で過ごしたことを物語るだけで十分面白さはあるのかも知れません。しかし描きたい中心がチベット文化なのか、若き日のダライラマなのか、中国のチベット侵略なのかがはっきりしない所が長尺な映画の割に何か物足りなさを感じてしまう所以なのだと思います。若き日のダライラマを描いた時点で当然中共のチベット侵略が映画の焦点として描かれない訳にはいかないのですが、描き方が肩透かし的で、中共軍によるチベット人の虐殺もダライラマの夢に出てくるだけ、チャムドの戦いもちょっとした砲撃でチベット軍は雲散霧消、指導者ンガワン・ジクメの降伏勧告があっさり描かれているだけです。この中国のチベット侵略はハラーを交えた物語の一部として映画で描くには、実はあまりに複雑で長期に及んでいるから簡単には描けなかった、というのが監督の本音ではないかと思われます。49年の中共成立、50年のチベット攻略宣言、51年の17条協定の強要、56年からのチベット動乱58年ラサ暴動とダライラマ亡命など実際には10年以上かかってじわじわとチベットの独立(自律的政権の消失)が行われてきた訳ですし、中国も当初は香港的一国二制度を西蔵といわれる地域には認めていた経緯などもあって、監督としては「まあこんなもんだろう」という感覚でチベット侵略を描かざるを得なかったのだと推測します。チベット併合の是非はともかく描かれた中国としては「許せない」という気持ちも多少理解できます。ただ他にチベット問題を取り上げたメジャーな映画がない現状では十分この点数の価値ありと思います。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-01-30 14:16:34) |
4. シンドラーのリスト
話しが進んでゆくにつれて最後はどうなってしまうのか心配になりました。我々日本人が理解できず、欧米人が当然の知識として理解していることとして「何故ユダヤ人は迫害されたか」という問題があります。この映画では「迫害の事実あり」として「何故」は全く描かれていません。同じ言葉を話し、一緒に生活し、労働できるから「役に立つのだ」と言う理由でリストのユダヤ人達は助かるのですが、本当に共通の理念として「ユダヤ人抹殺すべし」があるのならばシンドラーが何を言おうが抹殺されていたはずです。入れ墨などでマークをしないと区別つかないユダヤ人を迫害する(嫌う)のは何故か、シンドラーが理由を付けて賄賂をくれれば「まあいいか」で済む迫害具合というのが欧米人には共通の理念としてあるけれども、日本人である私にはユダヤ人と分かれば即殺されるのではという感覚があるので始めに書いた感想になったのです。それでも実際に迫害されて生き延びた人たちにとっては過酷すぎる時代だったのでしょうし、だからこそ最後の献花の場面が生きてくるのでしょうが、あうんの分からない日本人の私には最後の場面は付けたしにしか思えず感情移入できませんでした。 [DVD(字幕)] 6点(2007-10-17 23:42:06) |
5. プライベート・ライアン
《ネタバレ》 私はスピルバーグが何故この映画を作ったか、何故このストーリーを採用したかが長い間理解できませんでした。スターウオーズもそうですがスピルバーグは観客が十分楽しめて嫌みを感じさせない間にアメリカ帝国の赤裸な一面を描く術に長けているように思います。直接祖国が侵略された訳でもないのに関係ない遠くの戦場にはせ参じて若者たちが次々と死んで行ったことは、顔も知らない二等兵一人を戦争から連れ戻すために大勢が命を懸ける「くそ任務」と同じことだったのではないか。始めとおわりに多くの家族と共に、つまり戦後のアメリカの繁栄を象徴するような幸せそうな家族に見守られて「私は恥ずかしくない人生を送ってきたか(大戦を機に帝国になったアメリカはこれでよかったか)」と白々としたアメリカ国旗とオーバーラップしながらミラー大尉に問い掛けるシーンは「くそ任務」で死んでいった先人達への監督なりのこの映画を作った思い入れのように感ます。上陸場面での戦場のリアリティは第二次大戦で虫けらのように死んでいった先人達のために絶対に必要だったのでしょう。 [DVD(字幕)] 7点(2007-08-17 19:27:09)(良:1票) |
6. ファースト・コンタクト/STAR TREK
《ネタバレ》 スタートレック特にTNGファンの私としては十分に楽しめた作品でした。確かに予備知識なしでは良く分からないと思いますが、作る側もそれを十分承知で作ったのでしょう。ボーグとQはTNGで最高のキャラクターと思いますが、その一方がこのような形で解決?してしまうのはやや残念かも。もっと理解と想像力を超えたような存在であり続けてほしかった。スタートレックシリーズは現代を暗喩する内容を多く含んでいて、異星人とのコンタクトの形を借りて違う分化への対応、対決や理解を物語る所が見どころなのですが、未来の社会背景についてそれとなく語るところも見逃せないところです。この映画でも「21世紀は資本主義社会で金儲けが労働の目的だったけど、未来社会は人々を良くすることが労働の目的で資本や金銭の概念はない」みたいなことをさらっと説明する所があって思わず身を乗り出してしまいました。資本主義も共産主義も行き詰まった感のする現在、ベーシックインカムに基づく新しい労働対価や世界共通の通貨に代わる経済概念なんて夢を考えさせてくれるのもスタトレの楽しみ方と思いました。 [DVD(字幕)] 7点(2007-06-20 22:12:17)(良:1票) |
7. ドク・ソルジャー 白い戦場
《ネタバレ》 あれれジョン○のようなストーリー展開だなあってこちらの方が10年早くできているから逆ですね。しかし原題ではチンプンカンプンだからといってドク・ソルジャーもパニックインホスピタルも題としては違う気がします。(しかしぴったりくる邦題は浮かびません)喜劇仕立てだけど内容は米国の医療事情を反映していてけっこう深刻、戦傷とちがっても前立腺手術は良いけど心臓はだめとか実際の在郷軍人病院の実情に即しているような。しかし最終的に院長が個人的に悪物になるのはおかしいし心臓手術が簡単にできてしまう設定もいまひとつなのでこの点。 [インターネット(字幕)] 4点(2007-01-31 23:16:28) |
8. フローレス
《ネタバレ》 「性同一化障害」「男色」「女装趣味」の違いを明確に説明できる人は少ないと思いますが、この映画はこのあたりが分かっているとより興味深く見れます。 男性を起点に考えると「性同一化障害」の人は自分の心は女性であると信じている男性で、男の服を着て男として振る舞うことが苦痛でなりません。女装をして女性として生活することが自然に感ずるのです。一方、男色、女装趣味は「心は男」で性の対象が男であったり、女装をすることに性的興奮を感ずるに過ぎません。従って性同一化障害の男性は表現形が男である「女性」ということになります。映画は頭の固い元警官、現在脳梗塞で半身麻痺のロバートデニーロ扮する初老の男とフィリップSホフマン扮する性同一化障害で性転換手術のために金を貯めている、ゲイバーでショーを指導する中年になりかかりのオカマの奇妙な「友情」を描いたもの、と一言で片づけられます。オカマと頭の硬い男の友情というだけではつまらない映画と言えますが、このフィリップシーモアホフマンの性同一化障害者ぶりがあまりに堂が入っていて監督は性同一化障害をかなり意識して映画を作り込んでいると思われます。男色の人たちに対して「この人たちとは考えが合わない」と言わせたり、自分の女装は少しも綺麗でないと分かっているのになぜ女性でいたいかといったことを懇々と語らせたりします。しかし映画内で小難しい説明を加えることもないし、この主人公ラステイの周りにいる「オカマ」達があまりに怪しげ(どの部類なのか見分けられない)のでやはり芸達者のロバートデニーロとの掛け合いの面白さだけで何となく過ぎてしまうように思えます。結果的に心の上での男女の愛情でなく友情として描こうとしているあたりの微妙さが私には面白く感じました。この映画はメッセージ性のある社会派映画ではありませんが、性の悩みを持つ人たちという視点でみるといろいろな事が描かれていると感心する映画です。 [DVD(字幕)] 7点(2006-12-27 18:10:31) |