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見ていてガタガタと震えた。体がそういういう反応をしたということは、戦場の恐ろしさを肌で感じられたということだと思う。勿論、実際の戦場とはどのようなものなのかは行ってみなければ解りようもないと思うが、それでも観ている最中は、とにかく“死”を身近に感じて恐ろしかった。この様な経験は初めてだった。この映画には、戦闘シーンの素晴らしさ以上の何かがある。死の恐怖と生への執着を観ているものに感じさせる何かが。物陰から物陰へと移動する度に、撃たれるのではないかという恐怖。『プライベート・ライアン』や『スターリングラード』でもそういうシーンがあったと思うが、この映画ではそれら2作と違い主観的に見せることに成功しているためと、余計なドラマ描写がほとんどなく(僅かにあった余計なドラマ部分については後で言及)、ただ淡々と生きるか死ぬかという極限状態を、戦争映画でリアルと感じさせるのに最も大切なものを伴った上で見せているために、同じシーンでも感じる恐怖の度合いがまるで違った。自分の思う、戦争映画でリアルと感じさせるものは戦闘シーンではない。炸裂する砲弾や、四肢をもぎ取られた兵士、舞い上がる砂塵、それらを真に見せられたからといっても、決してトラウマにはならないからだ。そういうものをどれだけ忠実に「再現」しようとも、そこに兵士たちの抑圧された記憶を感じさせるものがなければ、到底トラウマになりうる筈がない。この映画にはその大切なものがあった。ただただ、兵士たちの「生きたい」という思いが伝わってきた。あのような状況下で兵士たちの頭にあるのは正義でも理想でもない。もっともっと単純で、生物の本質たるものなのだ。この映画に政治的意図は全くない。アメリカが正義で、ソマリアが悪だと言いたい訳ではないし、その逆でもない。死と隣り合わせになった時、何を感じるかということを通して、考えさせるための映画だと思う。よって、アメリカの軍事介入について細々とその背景を描く必要はない。確かに、リドリー・スコット監督は来日記者会見で「大国が内戦に介入すべきかどうか」をこの映画で投げかける大きな問題の一つとして挙げていたが、作品を観る限りでは政治どうこうではなく、地獄のような戦場に置かれた兵士たちの姿を通してそこに払われた犠牲というものを見せることで、違う意味で問いかけているように感じた。だからこそ、軍事介入に及んだ経緯をストーリーの前振りとして極僅かに冒頭部分に挿入しているだけなのだ。政治的見地から是非を問うことなど全く余計で、そんなものは本当に戦争を感じさせるのにはどうでもいいことだ。ただ、この映画でほとんどそういった描写がなかったのは良いのだが、残念だったのは余分と思えるドラマ描写がほんの少しだけあったこと。この部分を一切カットしてひたすらに戦闘シーンでつづり、「抑圧された記憶」を感じさせ続けてくれたら、これ以上ない戦争映画になったと思うと惜しい。どうもこの部分だけが浮いているというか、急に主観から客観に戻されてしまう。ソマリアの民兵の描写については、全く問題ないだろう。あの描き方で正しかったと思う。「ソマリアの民兵がエイリアンかゾンビにしか見えない」と批判している人がいるが、ではどのように描けば良いというのか。【sayzin】さんの仰る通り、この映画はあくまでもアメリカ兵の視点から描かれているもの。彼等にしてみればソマリア民兵にいつ命を奪われるかわからないわけだから、実際にエイリアンやゾンビのように見えたとしてもなんら不思議ではない。だからそのように描かれていたことは、むしろ戦場を疑似体験させる上で効果的だったと思うし、それを批判するのは的外れなのではないだろうか。戦況が分かり難いことや顔の区別がほとんどつかないことというのも、実際にカオスの中で人間がそういうことを把握できるかを考えると、これも同様に効果的だったと思う。それらの演出一つ一つが、主観で戦場シーンを感じさせた要因でもある。決して“他人事”ではない。少なくとも自分には、この映画は何よりもリアルな悪夢であった。
【T・O】さん 8点(2002-11-05 19:13:00)(良:1票)
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