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本作とはまったく趣が違うけど、デヴィッド・リンチって『ロスト・ハイウェイ』といい『マルホランド・ドライブ』といい、「道」を中心に据えている。それらの二作が難解と言われるのは、主人公が辛い人生から逃避して自らの記憶を書き換えているがために、現実と非現実の境界が不明瞭になっていくからだ。 しかし本作はまったくその正反対で、主人公の老人は今まで放置してきた家族の断裂を修正し、人生で失ってきたものを取り返すために行動する。『ロスト・ハイウェイ』や『マルホランド・ドライブ』で印象的だったのは、深夜の真っ暗なハイウェイをヘッドライトがかすかに切り開く映像だ。暗闇を探りながら疾走する真新しい自動車。だけどアルヴィンはたとえ時間をかけてでも、昼間の明るい青空の下を、着実に、穏やかに進んでいく。乗っているのは時速30kmのおんぼろトラクターだ。 最初はリンチが異色作を撮ったのだろうかと思っていたのだが、きっと根にある主題は同じだ。人生の不幸に、どうやって向き合うか。その答えは「最後まで自分でやり遂げたい」という老人の言葉に現れている。優しく時間をかけて傷を癒していく老人のやり方はじれったいように見えて、実はいちばん真っ当な方法なのだろう。
【no one】さん [DVD(字幕)] 7点(2005-12-10 08:04:16)(良:1票)
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