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このシナリオは、そうとう手間が掛かってるんじゃないか。さりげない言葉の採集に時間を掛け、それの構築にも時間を掛けていそう。それだけの成果が上がっている。大勢の中で言われた言葉へのこだわり・言い返せなかった文句が、二人になったときに不意にこぼれるのが、ザクッザクッと映画に刻みを入れて、表面では何も起こらない時間に確かな手触りを与えている。そのくすぶってる場所としての家族。「おばあちゃんちじゃないぞ、俺が建てた家だ」とか「それ(トウモロコシで気の利いたこと)を言ったのは兄貴じゃなくて俺」とか。その遅れて言い返せた言葉とは別に、“ちょっと間に合わなかった”言葉も山のようにあり、でもそこにこそ一回限りの家族の会話の味が、後悔が懐かしさに変質しつつ隠されている。あるいは墓参りの帰り、暗黙の了解のように二組の母子に自然に分かれ、どっちも他方の前では交わせない会話が紡がれる、そのスリル。不意に顔を覗かせる残酷さと怖さ。「隠れて聴く曲ぐらい誰にだってありますよ」と妻の夏川結衣にあんな含み笑い顔で言われた日には、夫たるもの気になって仕方がないでしょうなあ。こっちの「普通であること」と人の「普通でないこと」がときに重なりあい、するとその場の時間が急にボッテリと厚みを増す。「普通」を形作っているものの裏には、なんとたくさんの折れ曲がった思いが複雑に絡み合っていることか。最近の日本映画でこれだけ詰まってる時間を味わった作品はなかった。原田芳雄はおそらくまだかくしゃくとした老年を描くために起用されたのだろうが、かつての無頼を演じてたイメージが残ってて、たしかに夫婦の過去を思えば似合ってはいるのだが、現在の父としてはもう少し固いぐらいの実直さを出せる役者でもよかったかも知れない(「“すばる”は演歌じゃありませんよ」の語り口は絶品だったけど)。それとラストが付いたことで、見ているほうがその後を自由に想像する楽しみはなくなってしまった。でも傑作です。
【なんのかんの】さん [DVD(邦画)] 9点(2009-08-31 12:15:54)(良:2票)
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